2962 日本 機 械 学 会 論 文 集(C編) 73巻735号(2007-11) 論 文No.07-0333
ロー ラ 式 ピ ッチ ン グ マ シ ン の 投 球 精 度 に 関 す る研 究*
(ボール縫 い目 とロー ラの検 討)
酒 井 忍*1, 尾 田 十 八*2 河 田 憲 吾*3, 北 河 勇 一 郎*4Study
on Throw
Accuracy
for Baseball
Pitching
Machine
with
Roller
(Study of Seam of Ball and Roller)
Shinobu SAKAI*5, Juhachi
ODA,
Kengo KAWATA
and Yuichiro KITAGAWA
*5
Department of Human and Mechanical Systems Engineering, Kanazawa University , Kakuma-machi, Kanazawa-shi, Ishikawa, 920-1192 Japan
The most common commercial pitching machines for baseball are the "roller" type and the "arm" type . Pitches such as the fastball, curveball and screwball are easily achieved by the pitching machine with three rollers which were developed by the authors. In this study, the moving behavior and contact stress state of the ball pitched with the three rollers type pitching machine is analyzed using dynamic finite element analysis software (ANSYS/LS-DYNA) . The effect of a seam of a baseball to the throw accuracy is analyzed numerically. In the analysis , the finite element models of a detailed baseball with a seam and a pitching machine with three rollers are used. Additionally, the initial velocity and the spin rate of the pitched ball are filmed using a high-speed videograph, and those pictures are compared with the finite element analysis. From the analytical results, it is understood that the coefficient of friction between the baseball and the rollers is not affected . Additionally, it is obvious that the ball's velocity and spin rate are relatively unaffected by the seam orientation, while the throw's horizontal and vertical angles are notably affected by the relative angular velocity of the rollers and the orientation of the seam .
Key Words : Baseball, Finite Element Method, Pitching Machine , Motion Control, Experimental Mechanics, Simulation 1. 緒 言 現在,野 球 用 ピ ッチ ング マ シ ン と して は アー ム 式 と ロー ラ式 が 市 販 され て い る.ア ー ム 式 は,速 度 を可変 で き るが,カ ー ブ な どの変 化球 を投 げる ことは 難 し く, 二 つ の回 転 ロー ラを持 つ二 ロー ラ式 で は,変 化 球 も投 球可 能 で ある が,瞬 時 にそ れ を 変更 す る こと は難 しい. また,い ず れ の タ イ プ も任 意 のボ ー ル を希 望 す る コー ス に投 げ分 け る こと は極 め て 困難 で ある(1),(2).そこで, 著者 らは三 つ の ロー ラ を用 いた 三 ロー ラ式 ピ ッチ ン グ マ シ ン を発 案 し,各 ロー ラ の制 御 法 にニ ュ ー ラル ネ ッ トワー ク(NN)を 用 い る こ とで,任 意 の速 度 や 変化 球 の ボー ル を打者 が希 望 す る コー ス に投 球 可能 な ピッチ ング マ シ ン を研究 開発 して き た(2). しか しな が ら,開 発 した マ シ ンを実 用 化 す る た め に は コス トを始 め と した い くつ か の 間題 が ある.特 に重 要 な こ と と して,打 者 にデ ッ トボー ル(死 球)を 絶 対 に投 げな い 高 い投 球 精 度 を有 す る こ とで あ る.他 方, プ ロ野 球 な どで使 用 され る硬 式 ボー ル には,特 有 の縫 い 目が 付 い て い る.ボ ー ル と ロー ラの 摩 擦 力 を用 いて 投 球 す る ロー ラ式 ピ ッチ ン グ マ シ ンで は,同 じ投 球 条 件 下 で も ロー ラ と接触 す る縫 い 目の 位 置 や 向 き によ っ て ボ ー ル の 回転 や投 射 角 度 が微 妙 に変 化 し,そ の結 果, 投 球 精 度 が悪 化 す る ことが 一 般 に言 わ れ て い る.著 者 らが 行 っ た試 験 的 な投 球 実 験 にお い て も 同様 の 結果 が 得 られ て い る(3). そ こで,本 研 究 で は三 ロー ラ式 ピ ッチ ン グマ シ ンの 投 球 精度 向上 を 目的 と し,ボ ー ル縫 い 目 の影 響 や ロー ラ材質 な ど の検 討 を行 った.具 体 的 に は,開 発 した ピ ッチ ン グマ シ ンお よび 縫 い 目付 き ボ ール の有 限 要 素 モ デ ル を作 成 し,投 球 シ ミュ レー シ ョン解 析 を行 い,ボ * 原 稿 受 付 2007年4月9日. *1 正 員,金 沢 大 学 工 学 部(〓920-1192金 沢 市 角 間 町). *2 正 員,フ ェ ロ ー,金 沢 大 学 工 学 部. *3 准 員,(株)PFU(〓929-1192か ほ く市 宇 野 気 ヌ98-2). *4 学生 員,金 沢 大学大 学院 自然科 学研究 科. E-mail : [email protected]
2963 ー ル の 速度 や 自転 回 転 数(ス ピン)な どの 動 的挙 動 を 明 らか にす る.ま た,ロ ー ラの材 質 や ロー ラ間 隔 を変 え た モ デル を作 成 し解 析 を試 み る.こ れ らの 結果 か ら, ボ ー ル の縫 い 目が 投球 精 度 に及 ぼす影 響 を検 討 す る. 2. 三 ロー ラ式 ピッチ ング マ シ ン 開発 した 三 ロー ラ式 ピ ッチ ング マ シ ン を図1に 示 す. ボー ル は投 射位 置周 りに120。 間 隔 で 設置 され た 三 つ の ゴム 製 ロー ラ と の摩 擦 力 を利用 して投 球 され る.各 ロー ラ には そ れぞ れ モ ー タ が 設 置 さ れて お り,マ シ ン 下 部 に は ロー ラ部 の 縦 投 射 角 θ,横 投射 角 φ を可 変 で き る機 構 を付 加 して あ る.ま た,こ れ らは す べ て コ ン トロー ラを介 して パ ー ソナ ル コ ン ピュー タ に接 続 さ れ,一 括 制御 され る.三 ロー ラ式 を採 用 す る ことで, 広 い速度 範 囲で 多 様 な 変化 球 の ボー ル を瞬 時 に任 意 の コー ス に投 球 で き る.ま た,各 ロー ラの 制御 方 法 に は 学 習機 能 を有 す るNNを 用 い,ロ ー ラ回 転 数や 投 射 角 な どの各 種 パ ラ メー タ を決 定 して い る(2). 3. 投球 シ ミ ュ レー シ ョ ン 3・1 三 ロー ラ とボ ー ル の有 限 要 素 モ デル 図1 に示 す ピッチ ン グマ シ ンの モデ ル 化 にあ た り,マ シ ン 全体 を モデ ル 化 す る こ とは非 常 に大規 模 かつ 計 算 コス トが高 い.本 研 究 で は,投 球 精 度 評 価 が 目的 で ある た め,ボ ー ル お よ び ボ ール と接 触 す る ロー ラ部 が 重 要 で あ る ことか らそ れ らを解 析 対 象 と した. 三 つ の ロー ラ部 お よ び ボー ル の 有 限 要 素モ デ ル を 図 2に 示 す.ロ ー ラ部 は外径 φ320mm,厚 さ20mmの ウ レタ ン ゴム 製 の タイ ヤ部 と外 径 φ280mmの ア ル ミニ ウ ム製 フ ラ ンジ で構 成 され て いる.他 方,ボ ー ル は プ ロ野 球 用 の硬 式 ボー ル(外 径 φ72mm)を モ デル 化 した. この ボー ル モ デル に は,硬 式 ボー ル 同 様,幅8mm高 さ1mmの 縫 い 目 も付 けて詳 細 な モ デ ル を作 成 した. な お,本 解 析 モ デル で は,ア ル ミ製 フ ラ ン ジ部 は他 の 材 料 に比 較 して剛 性 が 非 常 に高 く変形 が微 小 と考 え剛 体 と仮 定 した. 一 方,ボ ー ル は ロ ー ラ と接 触 し,摩 擦 力 を 受 け る.し か も そ れ は 短 時 間 の 動 的 現 象 で あ る た め, そ の 動 的 特 性 を 考 慮 した 粘 弾 性 特 性 が 重 要 で あ る. そ こで,図3に 示 す よ う なMaxwellモ デ ル と,も う 一 つ の バ ネ 要 素 を並 列 に し た 三 要 素 の 粘 弾 性 モ デ ル を用 い て,応 力 緩 和 現 象 を 表 わ す.こ の モ デ ル に お い て,せ ん 断 弾 性 係 数G(t)と 時 間tの 関 係 は次 式 で 示 さ れ る(4).
(1)
こ こ に,G∞ は 時 間 が 経 過 し た 長 期 せ ん 断 弾 性 係 数,(70は 負 荷 初 期 の 短 期 せ ん 断 弾 性 係 数,β は 指 数 減 衰 定 数 で あ る.な お,式(1)に お け る各 材 料 定 数 は,ボ ー ル の 静 的 実 験,動 的 衝 突 実 験 お よ び そ れ らに 対 応 し た 有 限 要 素 解 析 を 行 う こ と に よ っ て 決 定 した(5).Fig.1 Three rollers type pitching machine
Fig.2 Finite element models of baseball and three
rubber rollers (15 104 elements)
2964 ロー ラ式 ピ ッ チ ン グ マ シ ンの 投 球 精 度 に関 す る研 究 解 析 モ デ ル の 要 素 タ イ プ は,ボ ー ル の縫 い 目部 分 も 含 めす べ て ソ リ ッ ド要 素 を用 いて お り,ポ ー ル の 要 素 数 は4352(縫 い 目:512),ロ ー ラ部 は10752,モ デ ル 全 体 の総 要 素 数 は15104で あ る.解 析 モ デ ル の材 料 特 性 を表1に 示 す.な お,縫 い 目の材 料 定 数 に つ いて は ボ ー ル本 体 と同 じ材 料 定 数 を 与 えて い る. 3・2 解 析 条 件 本 ピ ッチ ン グマ シン のボ ー ル 投 入 条 件 は並 進 速 度1.0m/s,ス ピ ン数28.6rad/sで あ るの で,こ れ を ボー ル の 初 期 条 件 と し,各 ロー ラ回 転 数 を 種 々 変化 させ て 解 析 を行 っ た.ロ ー ラ回転 数 の一 例 を 表2に 示 す.こ れ らの ロー ラ回転 数 は変 化球 を模 擬 し て お り,ケ ー ス1が 無 回 転,ケ ー ス2が ス トレー ト, ケー ス3が カ ー ブ をそ れぞ れ 表 わ して いる.な お,各 ロー ラ回転 数 の 和 が 等 し くな るよ うに考 慮 した.ま た, 本 解析 で は,ボ ー ル とゴ ム ロー ラ の摩 擦 を伴 う接 触 変 形 が 考 え られ るた め,摩 擦 係 数μを03,0.5お よ び0.8 に設 定 して 解 析 を行 った. さて,ボ ー ル の 回 転 方 向 の条 件 と して は,一 般 にボ ー ル ー 回転 当た り縫 い 目が 二 回現 れ るニ シー ム と四 回 現 れ る 四 シー ム が あ る.こ の た め,こ の よ うな 条 件(縫 い 目姿 勢)を 変 えた 解 析 も行 い,縫 い 目の影 響 を比 較 検 討 した.な お,解 析 には,汎 用 動 的 有 限要 素 解 析 ソ フ トANSYS/LS-DYNAVersion9.0を 用 いた. 3・3 解 析結 果 お よび 考 察 解 析 結果 の一 例 と し て,ニ シー ム投 球 時 にお け るX-Y断 面 のボ ー ルお よび ロー ラの ミー ゼ ス 応 力 分布 を 図4に 示す.な お,(a)は ケー ス1(無 回転)を,(b)は ケ ー ス2(ス トレー ト) をそ れ ぞ れ示 す.同 様 に,X-Y方 向せ ん 断応 力分 布 を 図5(a),(b)に そ れ ぞ れ 示 す.こ れ よ り,ミ ー ゼ ス応 力 は,応 力 分布 が や や 異 な る もの のそ の値 は両 者 と もほ ぼ等 しい ことが わ か る.一 方,X-Y方 向 の せ ん断 応 力 は,無 回転 よ りもス トレー トの方 が ボ ー ル お よび ロー ラ と もにそ の絶 対 値 は大 き くな って いる.こ れ は,ス トレー トの場 合,N1ロ ー ラ の回転 数 が他 の ロー ラ よ り も速 い た め,接 触 面 近 傍 の せ ん 断応 力値 が高 くな るか らで あ る と考 え られ る. 次 に,摩 擦 係 数 μを変 化 させ た ときの ケー ス2お よ び ケー ス2の す べ て の ロー ラ回転 数 を1.67倍 に した と き のボ ー ル 中心 のX方 向速 度 の 時 刻歴 変 化 を図6に 示 す.こ れ よ り,い ず れ の 条 件 で も ボー ル が ロー ラ と接 触 し始 め る と急 激 に速 度 が 上 昇 し,リ リー ス(ボ ー ル が ロー ラか ら離 れ る瞬 間)の 直 前 に ピー クを生 ず る. 一 方,リ リー ス後 は一 定 の ス ピー ドでボ ー ル が投 球 さ れ て い る こ とが わ か る.ま た,こ の と きの投 球 に要 す る時 間 は,μの値 に よ って 異 な る もの の10ms程 度 の短 い時 間 で あ る.
(a) Case 1 (No-spin ball)
(b) Case 2 (Fast ball)
(a) Case 1 (No-spin ball)
(b) Case 2 (Fast ball)
Table 1 Material properties of rubber tire and baseball
Table 2 Analytical conditions
Fig. 4 Mises stress distribution in X-Y cross section
Fig. 5 Shear stress distribution of X-Y direction
Fig.6 Time history of linear velocity of X-direction for pitched fast ball
2965 本 解 析 よ り,ロ ー ラ 回転 数 が 同 じな らば,接 触 時 間 が や や 異 な る もの の ほ ぼ同 様 な 速度 一時 間 曲 線 を描 き, 投 球後 の ボ ール 速 度 はす べ て 等 しい結 果 とな っ た.こ れ は,ボ ール が ロー ラ と接 触 し始 め る す べ り状 態 で は, μの大 小 で そ の接 触 時 間 は変 化 す るが,ボ ール に最 大 変 形(ロ ー ラが ボ ー ル を挟持)が 起 こ る瞬 間 は,図4, 5の よ う にボ ー ル と ロー ラの接 触 状 態 は ほ ぼ 全域 で 固 着 状態 とな っ て お り,投 球 後 のボ ー ル 速 度 は,μ の 値 に よ って あ ま り影 響 さ れ な い も の と考 え られ る.こ の こ とか ら以 降 の投 球 シ ミ ュ レー シ ョ ン解 析 で は摩擦 係 数 μ=0.5と して 投 球 精 度 評 価 を行 った. 図7は,ニ シー ム,ケ ー ス2(ス トレー ト)の とき の本 解 析 に よ る投 球 後 の ボ ー ル の 飛 翔挙 動 を示 す.こ れ よ り,ボ ー ル は反 時 計 回 転,い わ ゆ るバ ック ス ピン しな が ら飛 翔 して い く様 子 が よ くわか る. 3・4 投 球 実 験 と解 析結 果 の比 較 図1の ピ ッチ ング マ シ ン を用 いて 表2に 示 す 条 件 で投 球 実 験 を行 っ た.こ の とき の様 子 を高 速 度 ビデ オ カ メ ラ(nak製: fx-k3)を 用 い て1ms間 隔 で 撮影 した.そ の 画 像 の一 例 と して,ニ シー ム,ケ ー ス2の とき,ボ ー ル の飛 翔 の 様 子 を 図8に 示 す.こ れ よ り,同 条 件 の 解析 結 果 で あ る 図7と 比 較 す る と,両 者 の投 球 速 度7や ス ピ ン6な どの動 的 挙 動 はほ ぼ 一致 して い る こ とが わ か る. 図9は,ニ シー ム の実 験 結果 と二,四 シー ム の解析 結果 の投 球 速 度7を 各 ケー ス(球 種)ご とに比 較 した もので あ る.各 球 種 とも実 験 値 と解 析値 は よ く一 致 し てお り,そ の速 度は い ず れ も24∼25m/sと ほ ぼ一 定値 にな って い る こ とが わか る.こ れ は,い ずれ の 解析 条 件 も三 ロー ラの 回転 数 の 和(N1+N2+N3)は 一 定 で,ボ ール の速 度 は 回転 数 の和 に よ って 決 ま る ことか ら当然 の こ と と も言 え る(2). 実 験 結 果 と解 析 結 果 のボ ー ル の ス ピン数(自 転 回転 数)を 比 較 した も の を図10に 示 す.図 よ り,縫 い 目姿 勢 に あ ま り関係 な く,い ず れ の 球 種 にお いて も実験 値 と解 析 値 は ほ ぼ一 致 して い る こ とがわ か る. 図11は,ボ ー ル 投 球後 の縦 投 射 角 θ(X-Y平 面,y 方 向 が+)を 各球 種 ご と に比 較 した もの で あ る.ニ シ ー ム の 実 験値 と解 析 値 を比 較 す る と,ほ ぼ等 しい値 と な って い る こ とが わ か る.他 方,ニ シー ム と四 シー ム の 解析 値 を 比較 す る と球 種 が 無 回転 や ス トレー トで は 大 き く異 な る こ とが わ か る.こ れ は,縫 い 目姿 勢 つ ま り縫 い 目 の位 置 によ っ て,投 射 角 が 変 化 す る こ と を表 わ してお り,こ れ が 縫 い 目 に よ る投 球 時 の コ ン トロー ル精 度 低 下 の 大 き な 要 因で あ る と考 え られ る. 以 上,投 球 シ ミュ レー シ ョ ン を行 っ た結 果,投 球 実 験 と ほ ぼ同 様 の 結果 を得 る こ とが で き た.こ れ よ り,
Fig.7 Behavior of the ball using finite element analytical
results in Case 2 (Fast ball, V= 25.1 m/s)
Fig.8 Behavior of the ball using high-speed videography
in Case 2 (Fast ball, V = 24.2 m/s)
Fig.9 Comparison of ball's velocity by experimental and analytical values
Fig.10 Comparison of ball's spin rate by experimental and analytical values
Fig.11 Comparison of vertical angle 0 of pitched ball by experimental and analytical values
2966 ロー ラ式 ピ ッ チ ン グ マ シ ンの 投 球 精 度 に関 す る研 究 作 成 した 解 析 モ デ ル は,十 分 妥 当 な もの で あ る と考 え られ る. 4. ロー ラ の接 触 条 件変 更 モデ ル の解 析 本 章 で は,ボ ー ル の縫 い 目 に影 響 され に く い ロー ラ の接 触 条 件 等 を検 討 す る. 4・1 ロー ラ材 料 変 更 モデ ル の 解 析 と考 察 まず, 現 状 使 用 して い る マ シ ンの ゴ ム ロー ラ材 料 を あ る程度 柔 らか く,あ る い は硬 くす る こ とは 比較 的容 易 で あ る. そ こで,ロ ー ラ材 料 の ヤ ン グ率Eを1/5倍,5倍 に し た モデ ル を作 成 した.つ ま りEを20,100,500MPa と して,同 様 の解 析 を行 っ た.な お,解 析 条 件 は 表2 に示 す ロー ラの 回転 数 と し,縫 い 目姿 勢 をニ シー ム お よび 四 シー ム として 解析 を実 行 した.ま た,比 較 の た め,縫 い 目の な い(シ ー ム無)ボ ー ル も同 様 に解 析 を 行 った. 解 析結 果 の一 例 と して,ニ シー ム,ス トレー ト投 球 時 の ボ ール 速 度 の 時刻 歴 を図12に 示 す.こ れ よ り,い ず れ の解 析 条 件 にお い て も 同様 の 速 度 一時 間 曲線 を描 きヤ ング 率Eに は あ ま り関係 が な く,投 球後 の速 度 は E=20MPaで はや や速 い もの の25m/sと ほ ぼ 一定 値 で あ っ た.な お,こ こで は示 して い な い が,四 シー ム お よ び シー ム無 の モ デ ル で も全 く同様 な結 果 で あ った. 次 に,ス トレー ト投 球 時 にお け る縦 投 射 角 θお よ び 横 投 射 角 φ(X-Z平 面,Z方 向 が+)を 図13,14に そ れ ぞ れ示 す.こ れ よ り,θ は各縫 い 目姿 勢 に よ って ほ ぼ 決 ま り,Eの 違 い によ っ てそ の 値 は あ ま り変 わ らな い こ とが わ か る.他 方,φ も θ同様,シ ー ム無 お よ び ニ シ ーム で はEに は あ ま り依 存 しな い が,四 シー ム で は Eが 高 く,つ ま りロー ラが硬 くな る と φ は増 加 傾 向 に あ る.こ れ は,四 シー ム の縫 い 目方 向 に関 係 が あ る と 考 え られ る.つ ま り,四 シー ム で は 図15(a)の よ う に Y-Z平 面 か らみ る と,N2,N3の 両 ロー ラ に対 し縫 い 目 が 非 対 称 に位 置 す る た め横 方 向 分 力 が発 生 す る.ま た, ロー ラが硬 くな る ほ ど接 触 域 が 小 さ くな る た め,縫 い 目の 有 無 に よ る接 触 力 の差 が 顕 著 にな る と予 測 され る. な お,横 投 射 角 φ は,実 際 の野 球 にお け る打者 の死 球 と密 接 に 関係 して お り,こ れ を極 力 小 さ くす る こ とが ピ ッチ ン グ マ シ ンの性 能 と して 非 常 に重 要 で あ る. これ らの解 析 結果 か らロー ラ材質 を柔 らか くす る と, ニ シー ム で は θ方 向 の 値 は あ ま り変 わ ら な い もの の 縫 い 目無 との差 が やや 小 さ くな る 傾 向 が あ り,ま た 四 シー ム で は φ方 向 は大 き く減 少 す る こ とが わ か っ た. 4・2 ロー ラ間 隔 変更 モ デル の解 析 と考 察 ボ ー ル を挟 持 して 投 球 す る ロー ラ式 ピ ッチ ン グで は,ロ ー ラ間 隔 は重 要 な 因子 で あ る.そ こで,図15(b)の よ う に実 際 の マ シ ンの ロー ラ間 隔(半 径R=25.1mm)を 基 本 モデ ル(R.251)と し,Rを2mm小 さ く した モ デ ル (R-231)お よ び2mm大 き く した モ デル(R.271)を そ れぞ れ 作 成 し,解 析 を行 った.な お,同 図中 の ボ ー ル 下端 の点Aを 応 力解 析 点 と し,解 析 条 件 は表2に 示 す 条 件 と した. 解 析 結 果 の 一例 と して,ニ シー ム,ス トレー トの 投
(a) Ball and three rollers
(b) Close-up view
Fig.12 Time history of velocity of ball in Case 2
Fig.13 Comparison of vertical angle for pitched ball
Fig.14 Comparison of horizontal angle for pitched ball
球 時 の ボー ル 速 度 お よび 点Aの 最 小 主 応 力(最 大 圧 縮 応 力)の 時 刻歴 を図16,17に そ れ ぞ れ 示 す.両 図 か ら, ロ ー ラ 間 隔 が接 近 す る と接 触 力は 増 加 し,逆 に離 れ る と接 触 力 は減 少 す る.し か し,投 球 後 の 速度 は約25m/s で あ り,ほ と ん ど変化 しな い こ とが わ か る.こ れ は, 同 じ投 球 速 度 を得 るに は,接 触 力 や せ ん 断 力 が小 さ い 方 が ボ ール の摩 擦 や磨 耗 損 傷 の観 点 か ら有利 で あ り, この点 か らRは 大 き い方 が よい と考 え られ る. 本 解 析 で の縦 投 射角 θ と横 投射 角 φの結 果 を 図18, 1gに そ れぞ れ 示 す.こ れ よ り,Rが 小 さ い と縫 い 目の 有無 や 姿 勢 に よ って 両投 射 角 と もそ の差 は大 き く異 な っ て い る.一 方,Rが 大 き くな る と縫 い 目姿 勢 に よ ら ず両 投 射角 とも減 少 す る傾 向 に あ り,特 に,ニ シー ム で は θ が,ま た四 シー ム で は φ が 大 き く減 少 して い る こ とが わ か る. 5. 結 言 本 研 究 で は,縫 い 目付 き野 球 ボ ー ル の 有 限要 素 モデ ル を作 成 し,著 者 らが す で に 開発 して い る 三 ロー ラ式 ピ ッチ ング マ シ ン の投球 シ ミ ュ レー シ ョン解 析 を行 い, 縫 い 目の影 響 につ いて 考察 を した.ま た,縫 い 目 の影 響 を 受 け に くい ロー ラ材 料 等 の検 討 を行 っ た.得 られ た結 果 は以 下 の とお りで あ る. (1) 野球 ボ ール の 縫 い 目 は,投 球 速度 や ス ピン に影 響 を 与 え な いが,投 射 角 は大 き く変化 し,縫 い 目の 姿 勢 に よ っ て もそ の 値 は 異 な る. (2) 柔 らか い材 料 で ロ ー ラ間 隔 を広 げた ロー ラは, 縫 い 目 の影 響 を受 け に くい ロバ ス トな ロー ラ とな る. 以 上 よ り,ロ ー ラの材 質 と間 隔 を変 更 す る こ とに よ っ て 縫 い 目姿 勢 に よ らず 横 投 射 角 φ が大 き く減 少 す る こと は,ボ ー ル縫 い 目が 要 因 で起 こる打 者 へ の死 球 リス クが 大 幅 に低減 さ れ,マ シ ン投球 性 能 が 大 き く向 上 す る と考 え られ る.
文
献
(1) Mish, S.P. and Hubbard, M., Design of a Full
Degree-of-freedom Baseball Pitching Machine,
Journal of Sports Engineering, Vol.4, No.3 (2001),
pp.123-133.
(2) Oda, J., Sakai, S., Yonemura, S., Kawata, K.,
Horikawa, S. and Yamamoto, H., Development
Research of Pitching Machine Controlling Variable
Ball using Neural Network, Transactions of the
Japan Society of Mechanical Engineers, Series C,
Vol.71, No.702 (2005), pp. 201-206.
(3) Sakai, S., Oda, J. and Kitagawa, Y., An Effect of a
Baseball having Seam under Roller type Pitching
Machine, Proceedings of the Joint Symposium on
Sports
Engineering
and
Human
Dynamics
Conference, No.06-35 (2006-11), pp. 120-124.
(4)
Nicholls, R.L., Miller, K. and Elliott, B.C.,
Modeling Deformation Behavior of the Baseball,
Journal of Applied Biomechanics, Vol.21, No.1
(2004), pp. 9-15.
(5) Oda, J., Sakai, S., Yonemura, S. and Kawata, K.,
Research of Impact Force of the Baseball and its
Damage Effect to Living Body, Proceedings of the
42th Hokuriku-Shinetsu Branch Regular Meeting of
the Japan
Society of Mechanical Engineers,
No.047-1 (2005-3), pp. 205-206.
Fig.16 Time history of velocity of pitched ball in Case 2
Fig.17 Time history of minimum principal stress at point A in Case 2
Fig.18 Relation of vertical angle Į and radius R