第2講
- エネルギーバンドとブリルアンゾーン -
1 はじめに 前回は一様なポテンシャル中を運動する電子の振る舞 いをポテンシャル 0(V(r)=0)の下でシュレーディン ガー波動方程式を解くことによって明らかにした。そ の結果、電子の波動関数は 平面波( )
A
exp(
i
)
r
kr
で記述され、そのエネルギーは 2 22
kk
m
、状態密度は
3 2 1 2 2 22
2
V
m
D
で与えられ、体積Vの中にN 個の電子があるとき、 フェルミ・エネルギー、 2 3 2 23
2
FN
m
V
を持つ 軌道まで占有される。有限温度では、フェルミレベル 近傍の電子が熱励起し、フェルミ・ディラック分布則、
1
( )
exp
1
f
kT
に従って分布すること を学んだ。実際の固体中では、電子は図 2- 1 に示すよ うに、イオンの正電荷が作る周期ポテンシャル中にあ り、その影響を取り入れる必要がある。本号と次号で 結晶の対称性に応じた周期ポテンシャル中を運動する 電子の性質を明らかにする。 図 2- 1 金属結晶中で電子が感じるポテンシャル エネルギーの概念図。結晶中を運動する電子は、正 の電荷を帯びたイオン殻に引きつけられる。電子の 波動性により結晶の周期(原子間距離 a)の整数分 の1 の半波長を持った電子のみが強い影響を受ける。 2 周期ポテンシャルの影響 1 ◯ 力学モデルによる類推 図 2-2 に示すような波状の表面を持つ基台の上を 色々な波長を持った波板を滑らせるモデルを考える。 図 2- 2 周期ポテンシャルを受けて運動する波の力学 的モデル。 波板の波長が台の波長に比べて十分長いとき(b)、 十分短い場合(e)は容易に台上を滑らすことが出来る。 両者の波長が一致すると波板が台にはまりこみ(トラ ップされ)動けなくなる。この時、力学的に安定な位 置は(c)、準安定な位置は(d)である。また、波長がわず かにずれている場合、波板が変形し台にはまりこむこ とが予想される。ただし、後に示すように、電子波の 場合、波動関数の波長が周期ポテンシャルの2 倍の時 に強い影響を受ける。これは、この場合物理的に意味 があるのは波動関数そのものでなく、波動関数の2乗 である確率振幅であり、その周期は、波動関数の波長 の2 分の1であるからである。 (sin
21 cos 2
2
に留意) ◯ Bragg の回折条件による考察 材料科学を学ぶ者にとって、X 線や電子線の回折は おなじみの現象であろう。結晶中を運動する電子は電 子線回折と同じように結晶の周期ポテンシャルの影響 を受ける。今、図2-3 に示すように、x方向に進行す る1 次元平面波、
k( )
x
exp
ikx
が周期aで並ん だ反射面に垂直(θ=π/2)に入射する場合を考える。 θ=π/2 の入射波に対し、Bragg 条件2 sin
a
を満たすのは 2a=λ、従って、波数 k=2π/λ=π /a のとき強い反射が生じる。すなわち、反対方向(- x 方向)に進行する波
k( )
x
exp
ikx
が生じ、これが入射波と干渉し定在波が生じる。合成された定 在波の波動関数は、
( )
exp
exp
' sin
A
i x a
i x a
A
x a
(2-1a) または、
( )
exp
exp
' cos
A
i x a
i x a
A
x a
(2-1b) で表せる。この現象は、電子波の半波長がポテンシャ ルの周期に一致したとき、電子の運動がポテンシャル にトラップされたためと解釈される。それに対し、波 長がポテンシャルの周期と異なるときは電子はポテン シャルの影響をほとんど受けない。 図 2- 3 結晶中を進行する電子波。ブラッグ 条件を満たすと全反射される。 ◯ エネルギー ギャップ 電子の密度は
( )
r
*( ) ( )
r
r
[ψ*:ψの複素 共役関数]で与えられるので、平面波( )
x
exp(
ikx
)
で
( )
x
exp(
ikx
) exp(
ikx
)
1
すなわち一様に分布する。それに対し、実関数である 定 在 波 sin(kx), cos(kx) の 密 度 は そ れ ぞ れ 、 2 2
sin (
kx
), cos (
kx
)
、従って、電子密度すなわち負の 電荷密度が空間的に振動する。電荷密度の振動の波長 が正電荷による結晶のポテンシャルの周期に一致した とき強くトラップされる。(力学モデル図2-2 (c) の状 態)すなわち、+イオン位置で最大密度をとる ψ(+) がエネルギー最小の安定状態となり、もう一つ の関数 ψ(-)が準安定状態(力学モデル図 2-2 (d) に 相当)。従って、同じ波数 k=π/a の状態に対し2つ のエネルギーが対応し、電子のエネルギーはその中間 値は取り得ない。すなわち、エネルギーギャップが生 じ る 。 図 2-5 に そ の 様 子 を 示 す 。 こ こ で 、a
k
a
の領域を(第 1)ブリルアン・ゾ ーンと呼ぶ 図 2- 4V(x):+イオンが周期aで並んだ 1 次元結 晶中で電子が感じるポテンシャル。電子密度波の 波長が結晶の周期に一致するとき定在波が生じ、 最大振幅の位置が+イオンの位置に来るとき[ψ (+)2 :図中の実線、力学モデルの(c)に対応]進行 波[振幅一定、図の2 点鎖線]よりポテンシャル エネルギーが低くなる。また、最大振幅の位置が +イオンの中間に来るとき[ψ(-)2:図中の点線、 力学モデルの(d)に対応]進行波よりポテンシャ ルエネルギーが高くなる。このようにして、運動 エネルギーと合わせた電子のエネルギー(エネル ギー分散曲線)は下図のように波動関数 の波長 が λ=2a、波数が k=±π/a のときエネルギ ーギャップが生じる。 図 2- 5 (a) 自由電子(進行波)のエネルギーと 波数の関係(エネルギー分散曲線)。(b) 周期aで 配列した+イオン中の電子の分散曲線。波数k=± π/a のとき電子波はブラッグ条件を満たし定在 波となる。その結果、エネルギーギャップが生じ る。 3 周期ポテンシャルの影響 2 量子力学(摂動法) による解 前節では、色々なモデルで周期ポテンシャルの影響 とバンドギャップ生成のメカニズムを直感的に理解す ることを試みたが、あくまでアナロジーの範囲であり、 正確に理解するには量子力学に拠らねばならない。し かし、シュレーディンガー方程式が解析的に解けるの は、水素様原子(V(r)=-Ze2/r)、調和振動体(V(x)=k x2)、自由電子(V(x,y,z)=0)などごく限られたポテンシ ャルについてのみであり、一般のポテンシャルについ ては近似法により解かねばならない。近似法として代 表的な方法は (1) 摂動法 (2) 変分法 がある。摂動法 は一般的な方法で物理現象の解明に有力な手段である。 変分法は、分子軌道法、バンド計算など、エネルギー準位や波動関数の具体的な計算に使われる。ここでは、 摂動法によりバンドギャップの出現の機構を明らかに する。 ◯ 摂動法 摂動法は古典力学では、惑星の運動に対する他の惑 星からの引力による完全楕円軌道からのずれを計算す る方法で、正確に解ける系の運動に対し、微少な力(ポ テンシャルエネルギー)が働いたときの影響を見積も る方法である。量子力学においても重要な近似法であ り、ここでは、これからの議論に必要な、必要最小限 の公式を述べておく。式の導出法など詳しいことは量 子力学のテキストに委ねることにする。 今、正確に解けるハミルトニアンを
0 とし、その 解を 0 n
、固有エネルギーを 0 nE
とする。すなわち、 0 0 0 0
n
E
n
n
(2- 1) このとき、 0 n
は完全直交系をなし、任意の関数 Ψ(r) が 0 n
の1 次結合で表せる。すなわち、 0 * 0 0 ' ' 0,
( )
( )
n n n n n n ndr
r
a
r
(2- 2) ここで、
n n' はデルタ関数とよび、n’= n のときの み 1、n’≠n では 0 と定義される関数である。 外乱によるポテンシャルを λV’(λは微少なパラメ ター)とすると、全ハミルトニアンは
0'
と書ける。ここで、
'
V
'
を摂動ハミルトニア ンとよぶ。 例えば、1 次元調和振動子に対し x3 に比例する非 調和項が存在する場合、 2 2 2 0 2 31
,
2
2
'
,
d
kx
m dx
x k
(2- 3) と書ける。 摂動により、n番目のエネルギー準位 E0n、波動関 数 ψ0 n は以下のように変化する。ただし、n番目の 準位に縮退は無いとする。(縮退があるときは別に扱う 必要がある。) (2- 4) (2-5) ここで、m
' n
をブラ・ケット表示とよび、数学 的にはエルミット行列の性質を持ち、角運動量などの より一般的な量子論の展開につかわれるが、ここでは 0 0'
m* ( )
'( )
n( )
m
n
r
r
r dr
と、摂動演算子を波動関数ではさみ積分したものとし て定義される。 (2.4)の右辺第 2 項を 1 次摂動エネル ギーとよび、元の状態(波動関数 ψ0n)に対する
'
の平均値とみなせる。 (2-5)の右辺第 2 項は摂動によ る波動関数の変形を表し、n以外の状態(波動関数) が混ざることによって生じる。つまり、摂動により、 異なった状態に一時的に遷移し、波動関数が歪むわけ である。このとき、遷移確率に相当するm
'
n
が 大きいほど、また、エネルギー差が小さいほど強く混 ざる。また、 (2-4)式の右辺第 3 項は 2 次摂動エネル ギーとよび、変形した波動関数に対する
'
の補正値 とみなせる。 ◯ 自由電子に対する周期ポテンシャルの摂動効果 ここでは、無摂動系として、周期的境界条件 [ψ(x+L)=ψ(x)]での 1 次元自由電子を考える。 すなわち、V0(x) = 0 として, 2 0 0 0 2( )
exp(
),
2
kx
A
ikx
E
n kk
m
ここで、k
2
n
L
規格化定数 A は / 2 / 2 0 0 2 / 2*
/ 21
L L k k L
dx
LA dx
を満たす値、 すなわち、A=L-1/2 である。以下の計算では Lは十 分大きいとし、積分範囲は明示しない。 ここで、周期ポテンシャル V’(x) を表現するため、 数学(フーリエ級数)の復習をしておく。 数学の復習:フーリエ級数(
)
( )
f x
a
f x
なる周期関数は 0 1 1 2 2 ( ) nsin ncos n n n n f x a x b b x a a
(2- 6) と展開できる。指数関数で表すと、 (2-7) と展開できる。ここで、2
2
:
,
0, 1, 2,
nG
n
g n g
n
a
a
2 0 0 0'
'
n n m n m nm
n
E
E
n
n
E
E
( ) exp 2
/
exp
n n n n n f x c i nx a c iG x
0 0 0 0'
n n m m n m nm
n
r
E
E
結晶のポテンシャル
V x
'( )
は格子間隔 aの周期を持 つので、 (2-8) と展開できる。 簡単のため、v
n は、 12
,
12 /
G
g
a
G
g
a
のときのみ 値v
1
v
1U
を も つ と す る 。 こ れ は 、
0'( )
cos 2
V x
V
x a
とすることに等しい。ここ で、U あるいはV0 は微少な値とする。 従って、摂動ハミルトニアン
'
は
'( )
exp 2
exp
2
exp(
)
exp(
)
r
U
ix a
ix a
U
igx
igx
(2-9) (2- 10) 公式:A
2 exp
i k
'
k x dx
k k'
より、 (2-10) はk
'
k
g
のときのみ値 U を持つ。従っ て、1次摂動エネルギーはk
'
k
0
なのでエネ ルギー変化には寄与せず、2次摂動まで取り入れる必 要がある。そこで、この場合について (2-4)式を適応 すると、 (2-11) が得られる。k が第1ブリルアン・ゾーンの内側にあ る場合 (図 2-6 のk1)は一般に、 0 0 0 0,
k k g k k g
なので2次摂動効果によりエ ネルギーは低下する。すなわち、より高いエネルギー 状態を混ぜることにより、波動関数が変形しポテンシ ャルエネルギー、ひいては全エネルギーが低下すると 言ってもいいだろう。冒頭に示した力学モデルに立ち 戻ると、波板の波長が台の波長に近づくと、波板が変 形し台にはまりこみ、変形のための弾性エネルギーの 損を凌駕してポテンシャルエネルギーが低下すること に対応する。逆に、第1ブリルアンゾーンの直上で第 2ブリルアンゾーン内にある、k3 (図 2-6k3) の場合 0 0 k k g
となり、エネルギーは上昇する。なお、こ の場合、 3 3 k g k
なので、(2-11) 式の第 2 項は分 母が大きく、あまり寄与しない。従って、
k0
k g0 を 境として、すなわち、k
2
k
g
2
k
2
a
2 、k
g a
a
で、エネルギーの飛びが予想され る。 ただし、この近傍では、解が発散し、この近似は 使えなくなる。k
a
の場合、つまり、ブリルア ン・ゾーン境界でのエネルギーを求めるには、縮退の ある場合の摂動論を適応する必要があり、ここではと りあえずエネルギーギャップが生じる原因を説明する ことにとどめておきギャップの大きさには立ち入らな いことにする。 図 2- 6 (2-11)式第3項によるエネルギーの変化をも たらす波数。矢印で結ばれた状態がエネルギー変化をも たらす。k>0 の場合、 (2-11)式第 2 項は 0 0 k g k
より第3 項にと比べて無視できる。 ◯ ブロッホの定理 次に、波動関数が周期ポテンシャルの影響でどのよ うに変形するかを調べる。摂動による波動関数の変形 は (2-5) 式で与えられる。(以下では (2-5) 式の指標 n,m は波数k, k’を採り、n は周期関数の展開の指数 に使うので注意) 摂動ポテンシャルとして、(2-8)を とれば、k’=k+Gn のときのみk
'
'
k
≠0 である。
0 0
'(
n)
k kC k
G
k'
' k
と置けば、
0 0( )
exp(
)
(
) exp (
)
( ) exp
exp(
)
k n n n n n nx
C
ikx
C k
G
i k
G x
c k
iG x
ikx
(2-12) と書ける。ここで、c
0
C
0A
,
c k
n( )
C k
G
n
とする。 (2-7) より、{ }内は周期 a の周期関数であり、 これを、u x
k( )
u x
k(
a
)
u x
k( )
とすると、
2 2 2'
exp(
' )
'( ) exp(
)
exp
'
exp (
'
)
k'
k
A
ik x
x
ikx dx
A U
i k
k
g x dx
A U
i k
k
g x dx
2
'( )
nexp(
n),
n nV x
v
iG x
G
n
a
2 2 0 0 0 0 0 k k k g k k g kU
U
( (2-13) と書ける。規格化定数は
u x
k( )
に含めるものとする。 このように、周期ポテンシャル中の電子の波動関数は、 周期関数 uk(x) と平面進行波 exp(ikx) の積で表せる。 これを、ブロッホの定理といい、この関数をブロッホ 関数とよぶ。3次元でも同様に
( )
u
( ) exp
i
kr
kr
kr
(2- 14) となる。ここで、k,r は波数および空間ベクトル、 uk(r) は結晶と同じ周期性を持つ関数である。
k( )
x
の実数部を図に示すと、図2-7 のように表せ、平面進 行波 exp(ikx) が周期関数 uk(x) で変調されたものと してイメージできる。uk(x) は原子の波動関数を反映 した関数と考えてよい。 図 2- 7 ブロッホ関数の実数部。平面波が原子波 動関数で変調されているとみなせる。ただし、虚 数部を入れて電子密度
( )
x
2 をとると各原 子位置で同じ振幅u
k2( )
x
をもつ。 4 ブリルアン・ゾーン (Brillouin Zone) [ 略して B.Z. ] 図 2- 8 1 次元モデルのバンド構造 前節で計算したV0cos(2πx/a) という簡単な周期ポ テンシャルでなく (2-8) で表せる一般の周期ポテン シャルの場合、エネルギーギャップは
,
1,
2,
k
a n
n
のところで生 じる。従って、1 次元モデルではエネルギー分散曲線 ε(k) は 図 2-8 に示すようにエネルギーギャップ(禁 止帯)で隔てられた領域に分割される。すなわち、エ ネルギーバンドを形成する。各の領域に対し、第 1、 第2・・・ブルリアン・ゾーン(B.Z.)、第 1、第 2 ・・・ エネルギー・バンドが定義される。 ◯ エネルギー帯の色々な表現:還元ゾーン、反復ゾー ン ブロッホ関数の性質を考慮すると、第 2 (第 3 以 上 も )B.Z. に あ る 波 数 k2 の 状 態 2( )
kx
は 1 22
k
k
a
の第1B.Z.内にあるブロッホ関数と みなせる。少し煩雑であるが以下にその数学的証明を 示しておく。 ブロッホの定理より、
2( )
2( ) exp
kx
u
kx
ikx
。 2( )
ku
x
は周期aの周期関数なので、
2( )
(
2) exp
,
2
k n n n nu
x
c k
iG x G
n a
とフーリエ展開できる。故に、 ここで、G
'
n
2 (
n
1)
a
と置いた。 すなわち、 2( )
ku
x
で変調された波数 k2 のブロッホ 波は、 1( )
ku
x
で変調された波数 k1 のブロッホ波と 見なすことが出来る。同様に、第3、第 4・・・第n B.Z. 内の波数 knのブロッホ波も、k
2
k
12
n
*
a
と 置くことにより、第1 B.Z. 内の波数 k1 のブロッホ 波として表すことが出来る。ここで、n
*
n
2
[n: 偶数のとき]、n
*
(
n
1) 2
[n:奇数のとき]と する。 このように、バンド構造は図2-9 に示すように第 1 B.Z. 内だけで表すことが多い。これを還元ゾーン表示 という。
2 1 1 2 2 2 1 2 1 2 1 1 ( ) ( ) exp exp( ) exp exp 2 exp
( ) exp 2 exp ( ) exp ' exp ( ) exp ( ) k n n n n n n n n n n n n k k x c k iG x ik x c k iG x i a x ik x c k i G a x ik x c k iG x ik x u x ik x x
( )
( ) exp
kx
u x
kikx
図 2- 9 1 次元還元ゾーン 例:第2 B.Z. 内の自由電子
2 1 2 1 1 1( )
exp
exp
2
exp
2
2
cos
sin
exp
( ) exp
k kx
A
ik x
A
i
a x
ik x
A
x
i
x
ik x
a
a
u
x
ik x
◯ 電子の加速と反復ゾーン 図 2- 10 1 次元格子のエネルギー・バンドの色々な表 現。(a) 拡張ゾーン形式、(b)還元ゾーン形式、(c) 反復 ゾーン形式 還元ゾーンとは逆に第1 B.Z. の分散曲線を図 2-10 に示すように第2、第 3 B.Z. に繰り返し表現すること がある。これは、電子が電場や磁場により加速された ときの運動をk空間上で記述するときに便利である。 これを反復ゾーンと呼ぶ。図2-10 に 1 次元格子のエ ネルギーバンドの表現法をまとめて示しておく。 5 逆格子とブラッグの条件 1 次元格子で学んだように、エネルギーギャップが 生じるのはブリルアン・ゾーン境界であり、ブラッグ 散乱が生じるところである。そのため、2 次元、3 次 元の電子状態を知るには、ブラッグ散乱の条件を与え る逆格子の概念を理解しておく必要がある。ここでは、 以後の議論に必要な逆格子の性質とエバルト球による 回折条件を簡単に説明しておく。 ◯ 立方晶系の生滅則 よく知られているように、立方晶系のブラッグ反射 の条件はミラー指数{hkl}に対し、 単純立方晶:全ての{hkl} bcc:{110},{200},{211},・・・・[h+k+l が偶数] fcc:{111},{200},{220},・・・・[全ての h,k,l が奇 数または偶数] であった。これらの指数を単位ベクトルの長さを 1/a として、座標点 {±h,±k,±l}に格子点を置くと図 2-11 に示すような空間格子を作る。 図 2- 11 立方晶格子についてブラッグ反射が生 じるミラー指数を座標点としてプロットした図。 単位ベクトルの長さを 1/a とすると逆格子に等 しい。 このとき、実空間格子とブラッグ散乱を生じるミラー 指数が作る格子との間には以下の対応がある。 単純立方格子 → 単純立方格子 体心立方格子 → 面心立方格子 面心立方格子 → 体心立方格子 こ の よ う に し て 作 ら れ る 格 子 を 逆 格 子(Reciprocal Lattice)という。(ただし、このように定義できるのは ブラべー格子点に1 種類の原子が置かれた単純結晶の 場合のみである。一般の場合は以下の数学的定義によ る) ◯ 逆格子の一般的な定義 空間格子の基本並進ベクトルを a, b, c としたとき、 対応する逆格子の基本並進ベクトルは (2- 15) で 定 義 さ れ る 。 な お 、 こ の 2 π 倍 、 す な わ ち 、2
*,
2
*,
2
*
A
a
B
b
C
c
を逆格子基本並 進ベクトルと定義すると、波数ベクトル空間(k空間) でのベクトルと見なせ、便利なことが多い。このテキ
*
, *
, *
b c
c a
a b
a
b
c
a b c
a b c
a b c
ストでもブリルアン・ゾーンと関連する所からこちら の定義を使う。 ◯ 逆格子の性質 (1) 逆格子基本並進ベクトル(a*,b*,c*)と空間格 子基本並進ベクトル (a,b,c) の関係 (2- 16) 本来、これらの関係式が逆格子基本並進ベクトルの定 義 で あ る が 、(2-15)で定義された
a
*,
b
*,
c
*
が (2-16) を満足することは容易に示すことが出来る。 (2) 原点から逆格子点(h,k,l)へのベクトル(逆格 子ベクトル)*
h
*
k
*
l
*
r
a
b
c
は空間格子の (h k l ) 面に垂直である。 図 2- 12 (hkl)面と法線 証 明 (図 2-12 参照) ミラー指数の定義より、ベクトルh
k
a
b
は(h k l)面 に含まれる。このベクトルと逆格子ベクトルr* との 内積をとると、
* (
)
*
*
*
*
*
1 1
0
hkl
h
k
l
h
k
h
k
a
b
a
b
r
a
b
c
a a
b b
となり、互いに直交する。この関係はベクトル,
k
l
l
h
b
c
c
a
との間にも成り立ちこれらの ベクトルを含む面、すなわち(h k l ) 面とr* は垂直 であることが分かる。 (3) ベクトル r* の長さ|r*|の逆数は空間格子の (h k l)面の間隔に等しい。 証 明 原点より(h k l ) 面に降ろした垂線(r* に平行)の 長さ dhkl は図2-12 より、*
(
*
*
*)
1
cos
*
*
*
hklc
h
k
l
d
l
l
l
c r
c
a
b
c
r
r
r
(2- 17) ◯ 立方晶系、六方晶系の逆格子 (1) 単純立方晶 基本並進ベクトル:
,
,
a
a
a
a
x
b
y
c
z
a:格子定数、
x
,
y
,
z
:直交座標の単位ベクトル。
3 2 2 2,
,
,
a
a
a
a
a b c
a b
z b c
x
c a
y
(2-15) 式より、*
, *
, *
a
a
a
x
y
z
a
b
c
となり、逆格子も格子定数 1/a の単純立方晶である。 (2) bcc 基本並進ベクトル
,
,
2
2
2
a
a
a
a
x
y
z
b
x
y
z
c
x
y
z
(2- 18)
2 21
1
1
4
2
1
1 1
a
a
x
y
z
b c
x
y
(2- 19)
2
32
2
2
a
a
a
a b c
x
y
z
x
y
(2- 1)
1
*
a
b c
a
x
y
a b c
(2- 21)*
*
= *
= 1,
*
= *
= *
= *
= *
= *
= 0
a
a
b
b
c
c
a
b
a
c
b
a
b
c
c
a
c
b
同様に、
*
1
, *
1
a
a
b
y
z
c
x
z
(2- 22) これは、 格子定数 2/a の fcc 格子の基本並進ベクト ルに等しい。 (3) fcc 基本並進ベクトル:
,
,
2
2
2
a
a
a
a
x
y
b
y
z
c
z
x
(2-13) 逆格子基本並進ベクトル(証明は略):
1
1
*
, *
,
1
*
a
a
a
a
x
y
z
b
x
y
z
c
x
y
z
(2- 24) これは、 格子定数 2/a のbcc 格子の基本並進ベク トルに等しい。 (4) 六方晶系 図 2- 13 六方晶系の基本単位格子と逆格子 基本並進ベクトル:
3
1
3
1
,
,
2
a
2
a
2
a
2
a
c
a
x
y b
x
y c
z
逆格子基本並進ベクトル:
1
1
*
3
, *
3
,
3
3
1
*
a
a
c
a
x
y b
x
y
c
z
すなわち、逆格子も六方晶系を作る。 ◯ 逆格子空間と波数(k )空間 以下逆格子として先に求めた値を2π倍したもの、 従 っ て 、 逆 格 子 基 本 並 進 ベ ク ト ル と し て 、2
*,
2
*,
2
*
A
a
B
b
C
c
を採用する。 逆格子の作る空間を逆格子空間と呼び、その中の任意 のベクトル k は方向k k
、波長
2
k
すな わち波数ベクトル k の平面波に対応する。すなわち、 k に垂直な面は実空間の波面に対応し、その面間隔は、2
k
である。 逆に、逆格子点G
2
r
*
h
A
k
B
l
C
は 波数ベクトルの作る空間(k空間)内の特殊な点(こ れに対応する波面には実際の原子面が存在する)とみ なせる。このことから、ブラック条件を逆格子ベクト ルと波数ベクトル間の幾何学的関係として表すことが 出来る。 ◯ エバルト球とブラッグ条件 図 2- 14 逆格子とエバルト球 θは (h k l ) 面と 入射波のなす角。すなわち実空間での入射角に相当す る。 図2-14 に示すように、入射 X 線(または電子線) の波数ベクトルk(=AO
)をその先端が逆格子空間 の原点(O)に来るように描く。そして、起点(A)を中 心として半径 |k|の円(3次元の場合は球)を描く。 この円(球面)が逆格子点 G(B)と交わればその逆 格子点に対応する (h k l) 面でブラッグ反射が起こる。そして、k’(AB
) の方向が反射波の方向である。この球(円)をエバル ト球と呼び結晶の回折条件を調べるのに便利である。 証 明2
OA
hkld
G
2
OA
AB
'
k
k
図 2-14 よ り 、k
sin
G
2
従 っ て 、2
d
hklsin
となりブラッグ条件と一致する。 ベクトルで書くと、 (2-15)AO
OB
AB
k
G
k
'
あるいは、
2 2 2 2' ,
'
k
G
k
k
k
より、 (2- 26) (2-25)または (2-26) が逆格子ベクトルと波数ベクト ルで表したブラッグの条件になる。 6 2次元、3次元空間でのブリルアン・ゾーン 1次元モデルで示したように結晶中の電子はブラッ グ条件を満たす波数ベクトルでエネルギーギャップが 生じる。従って、2次元、3次元ではブラッグ条件'
k
G
k
を満たすk が作る面でエネルギーギャ ップが生じる。これは、エバルト球による回折条件を 考えると、図2-15 に示すようにk空間(≡ 逆格子空 間)の原点と逆格子点を結ぶ線の垂直2等分線(3 次 元の場合は面)となる。これらの直線(面)で囲まれ た領域をブリルアン・ゾーン(B.Z.)と呼ぶ。原点に 近い方から、第1、第2、・・・、第nブリルアンゾー ンと名付ける。 図 2- 15 k空間の原点 (O) と逆格子点 (G) を結ぶ 直線の垂直2等分線(面)上にある波数ベクトルは常に ブラッグ条件を満たす。 G を逆格子ベクトルとすれば ここで、対称性から –G も逆格子ベクトルであることに 留意せよ。 ◯ 2次元正方格子の第n ブリルアン・ゾーン 図2-16 2 次元ブリルアンゾーン。●は逆格子点 図 2-16 に2次元正方格子のブリルアン・ゾーンを 示す。原点から B.Z. 境界を(n-1)回切る領域を 第nブリルアン・ゾーンという。第n B.Z. に属す領 域の断片を適当に逆格子ベクトル分移動するとパズル の断片をはめ込むようにきっちりと第1B.Z.を満たす。 ◯ 立方晶系のブリルアン・ゾーン 図2-17 にbccの第1ブリルアン・ゾーンを示す。 bccの逆格子は fccであるが、この場合、逆格 子の原点を体心にとってある。従って第1近接逆格子 点は各辺の中心にある。第1ブリルアン・ゾーンの境 界はこれら第1近接逆格子点の垂直2等分面からなり 正12 面体である。 図 2- 16 bcc の第1ブリルアン・ゾーン 図2-18 にfccの第1ブリルアン・ゾーンを示す。 逆格子の原点は体心にとる。従って第1近接逆格子点 はコーナーサイトである。第1ブリルアン・ゾーンの 境界面は[111]方向についてはこのコーナーサイト の逆格子点への垂直2等分面であるが、[100]方向へ は第2近接逆格子点への垂直2等分面である。 図 2- 17 fccの第1ブリルアン・ゾーン ◯ hcpのブリルアン・ゾーンとジョーンズゾーン 六方晶の第1、第2 B.Z. を図 2-19 (a),(b) に示す。 hcp構造では(002)面に原子面が存在するので(001) ブラッグ反射は消滅する。従って、逆格子(001)の垂直 22
kG
G
0
2 等分面、すなわち第 1 B.Z. の上下面ではエネルギー ギャップは生じない。初めてエネルギーギャップが生 じる面は六方晶系の第1 B.Z.の側面[(c)の A 面]と第 2 B.Z.を合わせた(c)のようなゾーンを作る。これを 特にジョーンズゾーンと呼ぶ。 図 2- 18 (a) 六方晶系の第1ブリルアン・ゾ ーン、(b) 第 2 ブリルアン・ゾーン。稠密六方晶 (hcp)ではブラべー格子の(002)面[ 1 2