(3)日本食品に対するニーズ
①変化する中国の食文化
中国庶民の伝統的な食事は地域によって多少異なるが、朝食は屋台で饅頭、豆乳、揚げ パンなどを購入、昼食は職場の食堂で中華料理、夕食は自宅で中華料理というものである。 また、主食は、南部では米飯食、北部は饅頭、餃子、パン食などが多い。 また、味付けが地域によって大きく異なる。一般的に、北部では濃い味、塩辛い味、南 部では甘い味、薄い味、内陸部では辛い味付けが好まれる。代表的な中国料理である北京 料理、上海料理、四川料理、広東料理は、このような地域によって異なる嗜好を反映した ものである。 このように、伝統的な食生活を中心にしながらも、近年の急激な都市化の影響などを受 けて、沿海地域の大都市などでは、食生活に大きな変化が生じつつある。 図表Ⅱ-1-6 代表的な中国料理 北京料理 上海料理 四川料理 広東料理 地 域 黄河以北:山東、山西、 東北、モンゴル、等 揚子江下流、江南地 域 内陸部(四川、湖南、等) 広東地方 特 徴 小麦粉を中心とし、味が 濃い 魚 介 類な ど 豊 富な 食材、味が濃い 香辛料を多用した激辛 豊富な食材、洗練さ れた調理方法 代 表 メニュー 宮廷料理、北京ダック、 餃 子 、 し ゃ ぶ し ゃ ぶ 、 シューマイ 上海蟹、蒸し鶏、ナ マ コ 煮 込 み 、 乞 食 鶏、トンポーロー 、小 籠包、焼き小籠包 重慶火鍋、牛肉唐辛子煮込 み 、 エ ビ チリ ソ ー ス炒 め、 マ ー ボ ー 豆 腐 、 ホ イ コ ー ロー、魚唐辛子煮込み ツバメの巣、アワビ、 フカヒレ、飲茶、仔豚 丸焼き、仏跳墻 (資料)昭文社「新個人旅行・中国」などを基に日本総研が作成 一般的に中国人は中華料理に誇りを持っており、外国料理の受け入れに積極的でないと 言われる。しかしながら、北京、上海など、特に、東部の大都市では、個人所得の上昇、 外資小売店の進出、外国レストランの浸透などを背景に、食の欧風化が急速に進んでいる。 朝食にパンとコーヒーを中心とした西洋風の食事を摂り、昼食は街のファーストフード店 で済ませ、夕食だけは伝統的な中華料理といった形が増えている。 中国には伝統的に外食の習慣が強くあるため、外資による外食産業の進出が中国の消費 者から幅広く受け入れられ、その結果、中国の大都市には、マクドナルド(中国名:麦当 労)、ケンタッキーフライドチキン(同:肯徳基)といった世界的に有名なファーストフー ド店の他、最近では、スターバックスといったコーヒーショップや日系コンビニも増えて いる。 日本食に対するブ―ムもあり、大都市だけでなく、地方都市にも日本食レストランが現 れている。この中には、本格的な日本料理店もあるが、日本食もどきのレストランも混在 している。また、日式(にっしき)ファーストフードなどと呼ばれる牛丼、コンビニ弁当、 コンビニおでんといった食品も市場で受け入れられている。一方、狂牛病、鳥インフルエンザ、健康志向などの影響もあり、前述したように、中国 でも肉類に替わって水産物の消費が増えてきている。中国は、伝統的に豚、家禽などの肉 食が中心であり、魚食も川魚がほとんどで、海水魚を食べる習慣はあまりなかった。しか し、最近では海の魚(生もの)を食べる習慣が徐々に広まり、中華料理にも刺身が取り入 れられたりしている。
②高まる日本食ニーズ
a.消費者志向
近年、中国の都市部において、日本食ブームが起こっている。日本レストランや日本食 材店が増え、日本人だけでなく外国人にとっても日本食あるいは日本レストランでの食事 が日常的なものとなりつつある。ちなみに、中国では、日本食レストランで見られる日本 式メニュー、調理方法、接客方法、店舗デザインなどは日式と呼ばれ、一般的なレストラ ンより高級なレストランとして評価されている。また、すしや刺し身などを中心に、中国 人の間でこれまで習慣になかった生魚の生食が徐々に広がっている。さらに、日本食が浸 透するのに伴って、日本酒、焼酎、日本茶などの需要も拡大している。 海外において、日本食は「ヘルシー」、「美しい」、「安全・安心」、「高級・高品質」とし て高い評価を得ている。先進国で「過栄養」、「栄養バランスの乱れ」に起因するいわゆる 生活習慣病が拡大していることや、米国を始め欧州や中国、南米で健康に対する意識が高 まっていることなどを背景に、長寿国としての日本の食に注目が集まっている。また、外 国人旅行客の増加や日本企業の海外進出などを契機として、海外では日本食を提供する事 業者が増加していることも理由として挙げられる1。 特に、中国で日本食に対するニーズが増えている理由としては、①日系企業の大量進出 に伴って日本レストランや日本食に触れる機会が増えたこと、②中国人消費者の間で、食 の安全に対する意識の高まりから安全・安心のイメージが強い日本食への注目が高まった こと、③海外旅行などで日本食を経験した人が本物の日本食を求めたこと、④所得の向上 によって食の嗜好が多様化し高級志向の日本食の需要が拡大したこと、⑤日本食品製造業 者などが積極的に販売促進活動を行ったこと、などが挙げられる。 食材としての日本産農林水産物の需要も拡大し、アワビ(三陸産)、フカヒレ(宮城県産)、 いちご(青森県産)、さくらんぼ(山形県産)、有機食品などが日本から中国へ輸出されて いる。特に、りんごやなしは価格が高いにもかかわらず、味が良い、安全・安心であるな どの理由から、富裕層を中心に売れている。また、中国では、春節(旧正月)や国慶節(中 秋節)などの贈答に食品を利用する習慣があり、高級贈答品として日本産農林水産物の人 気が出ている。 1 農林水産省・第1 回海外日本食レストラン認証会議「資料 3:海外における日本食レストランの現状に ついて」(2006 年 11 月)b.日本食レストラン
都市別に見ると、日本レストランが最も多いのは上海である。2000 年代に入ってから日 本人や現地中国人を狙ったレストランが急増し、2006 年夏には 400~500 店舗前後となっ た。北京の日本レストランも増えており、2006 年夏時点で 400~500 店舗あると言われる。 これら日本食レストランの内、特に、大衆店は日本人の経営によるところは少なく、日本 に滞在した経験を持つ中国人が経営するところが増えている。また、日本資本によるチェ ーン展開としては、たこ焼き(ホットランドが運営する「築地銀だこ」)、餃子(王将フー ドサービス)、牛丼(吉野屋ディー・アンド・シー)などがある。 日本食レストランで提供されるメニューの幅は、すし、刺し身、懐石料理、そば・うどん、 すき焼き・牛丼、天ぷら、焼肉、ラーメン、カレー、お好み焼きなど多岐にわたる。 また、主要客層は、日本人及び中高所得層に属する若い中国人がほとんどである。中国 人顧客の来店頻度は少ないが、徐々に現地中国人に浸透しつつある2。c.日本食に対するイメージ
日本食は、価格が高い高級品とのイメージが依然として強いものの、近年は、安全で、 品質が高く、味が良いとの評価が高まっている。 中国人は、食の安全に対して相応のコストを支払う意識があり、日本食は高価であるも のの、所得の高い階層の人だけでなく幅広い層に支持されるようになってきた。その結果、 日本人や外国人だけでなく、地場中国人にとっても、日本食あるいは日本レストランでの 食事は日常的なものとなりつつある。また、学生など若者の間で、日本の文化や流行に憧 れを持つ人が多く、日本文化の一つとして日本食や日本食品を捉えることも多い。 もっとも、日本レストランや日本食材店は都市部に集中しており、内陸部には少ない。 また、日本食レストランは、高級店と大衆店に二極化していると言われる。高級店では、 日本人の板前やシェフが日本からの輸入食材を利用して調理し、価格が非常に高く、日本 人駐在員や富裕層の中国人が利用しても、一般庶民が利用することは稀である。③グループインタビューの結果から見た日本食のニーズ
中国人消費者の日本食に対するニーズをより明確にするとの目的で、本調査の一環とし て、2007 年 12 月、日本に長期滞在している中国人(主として研究者)に対するインタビ ュー調査を実施した。また、インタビューは、地域別の特徴を浮き彫りにすることを狙っ て、対象者を出身地別に、華東(上海)、華北、内陸(重慶、湖南)、華南の4 地域にグル ーピングして実施した。面接者のプロフィールは、下図表のとおりである。 2 ほくとう戦略会議「北東リポート:中国・上海における日本料理店の実態(2005 年 11 月)図表Ⅱ-1-7 面接者のプロフィール 地 域 プロフィール 華東(上海) ①28 歳女性 上海出身 日本滞在期間約 5 年 ②21 歳男性 上海出身 日本滞在期間約 3 カ月 ③33 歳男性 上海出身 華北 ①28 歳男性 遼寧省大連市出身 日本滞在期間 5 年 6 カ月 ②24 歳男性 北京市出身 日本滞在期間 1 年 ③23 歳男性 北京市出身 日本滞在期間 2 カ月 ④24 歳女性 遼寧省瀋陽市出身 日本滞在期間1年 2 カ月 内陸(重慶、湖南) ①34 歳女性 重慶市出身 日本滞在期間 5 年 2 カ月 ②31 歳女性 湖南省長洲市出身 日本滞在期間 7 年 2 カ月 ③36 歳男性 重慶市出身 日本滞在期間 28 年 ④23 歳男性 湖北省武漢市出身 日本滞在期間1年 3 カ月 華南 ①19 歳女性 広東省広州市出身 日本滞在期間 1 年 8 ヶ月 ②28 歳女性 広東省出身 日本滞在期間 9 カ月 ③30 歳女性 1997 年~99 年広東省滞在(出身は内モンゴル) 日本滞在 期間約 6 年 3 ヶ月 (資料)グループインタビュー調査(2007 年 12 月 18 日)
a.日本産の対象品目を食べた経験と感想(味の評価)
本調査の対象品目について、日本産と中国産を比較し、その結果を下図表に取りまとめ た。サンプル数が少ないため、統計上の制約があるものの、全般的に日本食品の評価は高 かった。 果実の中では、日本産りんごの評価が非常に高かった。他には、なし、メロン、いちご などについて、日本産の評価が高い。特に、いちごは、中国産のものについて残留農薬を 懸念する意見があり、安全・安心の側面からも日本産品が評価された。一方、みかんにつ いては、日本産は酸味が強く、酸味の少ない中国産をより高く評価する意見が多かった。 牛肉については、中国の牛肉は肉質が固いとのことで、和牛の柔らかさと美味しさが高 く評価された。また、日本における牛肉の調理方法が優れており、日本で食べる牛肉は低 級品でも美味しいとの意見があった。 乾麺については、日本製品の品質の高さが評価された。例えば、中国麺はスープの中で 崩れてくる(スープが濁ってくる)ことがあるが、日本製品はしっかりしているとの意見 である。一方、日本の即席ラーメンの味付けは辛さが少なすぎるとの意見もあった。 魚介類は、日本産の鮮度と味のよさが高く評価された。面接者の大半は、日本で初めて 刺し身などの「生もの」を経験し、日本食そのものの美味しさも認識したとのことであっ た。ただし、フグについては食べる機会が少ないこともあり、全般的に評価が低かった。図表Ⅱ-1-8 日本産の対象品目を食べた経験と感想 品 目 総 括 果実全般 ・日本の価格の高いりんごは美味しいと評価された。 ・日本のみかんは酸味が強いと評価された。 ながいも ・ながいもは華南で健康に良いと受け止められている意外には、あまり知られていない。 牛肉 ・和牛は価格が高いが美味しいと評価された。 ・日本食の牛肉の調理法は、和牛のよさを引き出す調理法と認識されている。 ・吉野家の牛丼が美味しいという評価があるように、日本食での牛肉調理法も評価された。 米 ・日本米は、冷めても再加熱しても美味しいと評価された。 ・また、おかゆにすると美味しいとの意見もあった。 ・華南では長粒米志向が強い。短期間に日本米が浸透することは困難と評価された。 乾麺 ・内陸部出身の人の間で日本の麺類の評価が高かった。 ・乾麺は、日本産を明確に差別化できないのではないかとの意見があった。 魚介類 ・フグは高級日本食であるにもかかわらず、特に美味しいとは感じないとの意見があった。 ・一般的に日本産の魚介類は鮮度が良くて美味しいという評価であった。 (資料)グループインタビュー調査(2007 年 12 月 18 日)
b.今後、中国で売れそうな日本産品
インタビュー調査を通じて明らかにされた、中国で売れそうな日本産品は、前述の味の 評価の結果と似通ったものであった。 果実の中では、りんご、なし、もも、いちご、ぶどう(巨峰)、メロンなどの市場性が高 いと評価された。米、海水魚(刺し身)、牛肉なども高い評価であった。これらの他には、 調味料が、味が良く使用が簡単なことに高い評価を得た。 日本食品は、価格的に中国食品と競争することが困難であり、明確な差別化と優位性を 持たねば、中国市場への進出は成功しないと言える。本インタビューを通じて、中国人消 費者から日本食品全般についての品質や安全性が非常に高く評価され、ここに今後の日本 食品の差別化のポイントがあると考えられる。図表Ⅱ-1-9 今後、中国で売れそうな日本産品 地域(注) 回 答 華東 ・寿司、焼きそば、焼肉は市場性が高い。 ・健康ブームで低カロリーのものに人気がある。 ・いちご、巨峰は売れると思う。メロンは日本の品種の中国産もあるが、味が安定していな いため、安定した品質の日本産は差別化できる。 華北 ・日本産品は一般的に価格が高いので、外食など業務用が良い。 ・すぐにでも売れるのは、牛肉と米である。 ・果実の中では、甘さ、色回り、大きさが揃っているいちごの可能性が高い。 ・魚は、食べ方をきちんと説明する必要があるが、市場性は高い。 内陸 ・味醂、醤油、ダシなどの調味料は美味しく、市場性がある。 ・日本米は味が良いので、価格さえ下がれば競争力は高い。 ・果実はりんご、なし、もも、メロン(網)などの市場性が高い。 ・刺し身など、海水魚の生食に可能性がある。 華南 ・ポン酢、焼肉のたれ、サラダドレッシング等の調味料は市場性がある。 ・食の欧米化を背景に、食パン、ドーナッツ類の需要が大きい。 総括 ・牛肉、米、果実は、味で差別化が可能であり、中国市場での可能性は大きい。 ・調味料は、中国に競合品が少なく、市場性が高い。 (資料)グループインタビュー調査(2007 年 12 月 18 日) (注)面接者の出身地域。