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施設は 現場で働けるコミュニケーション能力を備えているものとして迎えた候補者たちの日本語能力の低さに困惑し にわか日本語教育が各施設で始まった 施設としても日本語教師を雇う経済的余裕のある施設は少なく 施設内の人員で当座しのぎの教育 ( とも言えない例も多かった ) が横行した 受け入れ施設によって

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Academic year: 2021

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介護の日本語教育のための介護用語の平易化を目指して

遠藤 織枝 元文教大学 要旨 EPA(経済連携協定)の仕組みに基づいて来日している、看護師・介護福祉士候補者 に対する日本語教育が、従来の日本語教育の枠を大きく広げるきっかけになった。候補者 の前に立ちはだかる日本語の壁に対して、日本語教育学会がなし得たことと、まだまだ高 い壁をいかに低くするかの模索を報告する。 【キーワード】EPA(経済連携協定)、介護福祉士候補者、介護福祉士国家試験、 難解な専門用語、介護用語の平易化 1 EPA による看護師・介護福祉士候補者とは 2008 年以降、日本政府は経済連携協定(EPA)によって、インドネシア・フイィピンか らの看護師・介護福祉士候補者を受けいれ始めた。2014 年 6 月にはベトナムからの第 1 期 生が来日した。看護師と介護福祉士とでは、研修内容・在日期間・国家試験受験の機会な ど大きく異なるので、本稿では介護福祉士候補者(以下「候補者」と略す)に限って扱う ことにする。2008 年以降来日した候補者の数は下表のとおりである。 [入国した介護福祉士候補者数 (平成 26 年 10 月 1 日現在)] インドネシア フィリピン ベトナム  計 754 667 117 1538    (国際厚生事業団2014 年 11 月 20 日作成資料をもとに遠藤作成) 候補者たちは、まず半年ないし1年間の日本語教育を受けた後、現場で研修を受けなが ら介護の専門技術と知識を身につけ、4 年後には国家試験を受験する。合格者は日本で介 護職として就労できる。不合格の場合は、候補者が一定の成績をとり、受け入れ施設がさ らに教育すると意思表示すれば、1年間延長して、2 度目の受験の機会が与えられる。こ うした仕組みのもと、すでに第6 期生までが来日し、各施設で研修を受け、介護福祉士と して就労している。 2 日本語教育学会の取り組み この制度がスタートして、まず問題になったのが日本語の壁であった。協定を結んだ日 本政府としても、候補者たちにどのくらいの期間、どの程度レベルの日本語教育を施せば、 候補者たちが、介護現場でじゅうぶんに働くことができ、また介護の専門知識を習得し国 家試験に合格することができるのか、というガイドラインは全く示せないままにスタート した。 当然ながら候補者たちは、不十分な日本語能力で現場で働くことに戸惑い、受け入れた

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施設は、現場で働けるコミュニケーション能力を備えているものとして迎えた候補者たち の日本語能力の低さに困惑し、にわか日本語教育が各施設で始まった。施設としても日本 語教師を雇う経済的余裕のある施設は少なく、施設内の人員で当座しのぎの教育(とも言 えない例も多かった)が横行した。受け入れ施設によっては、全く日本語教育を施さず、 自助努力に委ねるケースも出てきた。これは、施設で研修を行う過程に日本語教育を義務 付けない制度的な欠陥の露呈でもあった。 2009 年 5 月、前年に来日した 1 期生が日本語教育を終えて各地の施設に配属され、その 日本語の壁の問題が顕在化してきたころ、日本語教育学会は「看護・介護の日本語教育ワ ーキンググループ」(以下「WG」)を発足させた。遅ればせながら、学会として何ができ るか、何をしなければならないかの模索が始まった。 大別して、①受け入れ施設への異文化理解の支援、日本語教師向けの介護現場を知るた めの講習会などの方面と、②過去の介護福祉士国家試験を分析して、試験の問題点を整理 し改善について提言する、のふたつの面で研究実践を行った。本稿では、後者の実践結果 と、今後の課題について報告する。 WG としては、国家試験の研究分析の結果判明した以下の点を、問題作成の責任官庁で ある厚労省へ申し入れ、改善を求めた。すなわち、従来の国家試験は、設問形式が多様で 複雑すぎる、問題に使われている文章・語彙・表記が難解すぎる、日本語読解に多くの時 間を必要とする外国人の受験者には試験時間を長くする必要がある、常用漢字表の表内字 だけに振られるルビは造語法に合っていない、などの点である。同時に国家試験問題作成 の課程に、わかりやすい日本語にするための日本語点検のプロセスを加えることを要求し てきた。 数回の厚労省訪問を経て、WG の提案する改善点がほぼ厚労省の日本語見直し策に取り 入れられることになり、2013 年の第 25 回国家試験からそれらが実施された。日本語点検 についても、2013 年 1 月の国家試験の問題作成から、日本語教育の側からの目が入ること になった。さまざまな国家試験が行われているが、それらの問題の日本語について、日本 語教育関係者が点検を行うというプロセスを組み込んでいる試験はなく、画期的な試みの 断行であった。 介護福祉士の国家試験の問題作成に日本語教育関係者が参加することになった、2013 年 の第25 回国家試験以降、問題文が読みやすくなった、専門の問題は難しいが、設問文は易 しくなったとの声が聞かれ、実際に受験した候補者たちの合格率も、それ以前に比べて約 10%上昇した。WG の活動の具体的な成果のひとつであった。 しかしながら、国家試験に使われる日本語については、文化的背景の知識を求める問題 や専門用語による選択肢の出題などとの関連で、まだまだ難解なものが多い。結局専門用 語の難解さに行き着く。以下介護用語の難解な部分について考察する。 3 介護用語の難しさ 介護用語の実態を把握するためには、介護現場の用語、介護教育に使われるテキスト、 介護福祉士国家試験、の3つの面から調査する必要がある。介護現場の用語については、 介護記録・介護日誌・介護計画書などに基づいて、調査を行い、国家試験については、過 去の問題に基づいて調査分析を行っているが、本稿ではテキストの調査によってわかって きた問題点を報告する。調査対象のテキストは以下の3 出版社の介護福祉士養成シリーズ

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全巻である。 『新・介護福祉士養成講座』(中央法規出版社14 巻 2009、~2012、以下「C」と略記)、 『介護福祉士養成テキスト』(建帛社 17 巻 2009、以下「K」と略記)、 『介護福祉士養成テキストブック』(ミネルヴァ書房 13 巻 2009~2013 、以下「M」と 略記) これらのテキストの中から介護用語として難解なもの、また重要なものを抜き出して、 表記面、類似の語彙の扱い、訳語の扱い、難解な語の使用法などの面から整理した。その 結果を、1) 表記の不統一、2) 類似語の不統一、3) 訳語の未整理、4) 外来語と訳語の選択 の問題、5) 難解な漢語の扱い、の 5 つの項目として報告する。(  )内は掲載されているテ キストの出版社名を省略した記号である。 3.1 表記の不統一 a とろみ (C/K/M)/トロミ (C/M) ヒヤリ・ハット (K/M)/ヒヤリハット (C/K/M) ヒヤリはっと (M)/ひやりハット (C) b 刻み食 (C/K/M)/きざみ食 (C/M) 掻痒感 (C/M)/そう痒感 (C) a は、同じことを表すのに、平仮名表記とカタカナ表記が混在している例である。「とろ み/トロミ」では、「C」「K」は両方の表記をしており、同じ出版社のテキストの中でも統 一されていないことがわかる。また「ヒヤリ・ハット」と「ヒヤリハット」は、「・」の有 無の面で統一されていない例である。bは、同じ用語が平仮名と漢字とで表記される例で ある。文字種の不統一は学習者にとって無用の混乱と負担をかけることになる。 3.2 類似語の扱い ① 心理状況(C/K/M)/心理的状況(C/K/M)」 身体疲労(C/M)/身体的疲労(C) 脳血管障害(C/K/M)/脳血管性障害(C/M) ④ 廃用症候群(C/K/M)/廃用性症候群(C/K/M) ⑤ メタボリックシンドローム(C/K/M)/メタボリック症候群(C/K/M) ①と②は接尾辞「的」の、③と④は接尾辞「性」の有無によって、同じことが 複数の語で示される例である。⑤は同じ症状の名称が外来語と漢語の2 種類の語で示され る例である。同じ物事を複数の語で示すのは、好ましいことではない。 3.3 訳語の未整理 介護の現場や介護教育のテキストには外来語が多く使われている。その外来語は訳語と して使われる場合と、カタカナ語として使われる場合がある。そのため、ひとつの原語が 複数の語として示される結果になる。ここではその例として「terminal care」のテキストで の扱いをみてみる。文末に記した(K11-p177)などの数字は、「K」のテキストの第 11 巻177 ページからの引用の意である。 死を目前にし、[……]人生の終末を迎える時期を終末期と呼んでいる。[……]この 期間に行われる医療やケアを終末期医療あるいは終末期ケア(ターミナルケア; terminal care)と呼んでいる。    (K11-p177) ⑦ 最近では,病院ではなく,在宅や特別養護老人ホームのような生活施設で終末期介

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護を希望する場合が多くなっている。(M4-p26) terminal care」の語が、⑥では、「終末期医療」「終末期ケア」「ターミナルケア」の 3 語 紹介され、さらに⑦では「終末期介護」の語も示されている。外国ぜんから新しい概念が 導入されると、すぐには訳語も定着しないかもしれないが、導入後ある時間を経たら統一 の方向に進めるべきであろう。             3.4 訳語と外来語 前項の「ターミナルケア」の場合と共通するが、新しい概念が導入されて、その語が訳 語として使われる場合と、カタカナ語として使われる場合とがある。明治初期に日本が新 しい文明を盛んに導入していた時期は、それぞれ漢語の訳語を与えて使われることが一般 的であった。しかし、近年は、英語の映画の題名に代表されるように、訳名ではなくカタ カナ語として導入されることが多くなっている。介護の用語も例外ではなく、「アドボカシ ー」「ソーシャルインクルージョン」「ナショナルミニマム」など原語をカタカナ語にした ままの用語がテキストの中に多く見出される。これらの語は前後にその概念の説明が加え られているが、用語としてはカタカナ語だけである。 一方で、以下のように訳語と併記される場合がある。 ⑧ 日常生活の中にもリスクマネジメント(危機管理)を要するような状況が多く発生 する。(M-8-p106) バーンアウト症候群(燃え尽き症候群) (K6-p181) こうした扱いは、結局は2 語を習得しなければならなくなることで、学習者にとって望ま しいことではない。原語も示して原語の知識も与えようというのであるなら、原語のスペ ルを示すべきであろう。外国人学習者にとっては、カタカナの表記では原語の発音が正し く表記されないため却って混乱を招くことになる。 3.5 難解な語の扱い 介護の記録や、テキストには普通の人にはわからない極めて難解な用語が使われている。 主に医療に関する用語で、それらは、介護の世界が専門分野として新しく確立する過程で 医学⇒看護学⇒介護学 の経過をたどってきた結果取り入れられたものである。それらの語がテキストで使われる 場合、そのままでは難しいと判断して( )内に言い換えの語が示されることが多い。そ うした扱いの例として「円背」「流涎」の2 語を挙げる。 脊 柱せきちゅうが前屈することで円えんぱい背 (猫背)になったり,腰が湾 曲わんきょくしたり膝が伸びにくく なったりする人もいます。(C11-p82) ⑪ 前かがみや中腰姿勢の多い仕事に長年従事していた人は,どうしても脊柱が前屈し, 猫背になりやすくなります。(C11-p82)  ⑩では専門用語の「円背」を使い、その言い換え語として( )内に「猫背」を加えて いる。つまり、「円背」と「猫背」は全く同義語ということである。⑪では同じ症状を「猫 背」の語のみで示している。⑪で、一般の人に理解できる語で表現の意図が達せられてい ることが示されている以上、⑩のような扱いは不要と言える。

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特に食事のときは咳や 流りゅう涎ぜん(よだれ)が多くなり、食事にかかる時聞が長くなってい た。 (K11-189) 摂食・嚥下障害の症状として、流涎(口からよだれが垂れる)、咀嚼ができない,嚥 下開始が困難である[……]がみられる。 (C14-143 ルビなし) 麻痺がある人では,よだれや食べこぼしが多くなる。

(C14-13)

まず「流涎」の語義であるが、『岩波国語辞典第7版新版』

 では、

りゅうぜん【流“涎】よだれを流すこと。垂涎。 と記述している。「流涎」は「よだれ」ではなく、「よだれを流すこと」なのである。「よだ れ」の語義としては、 よだれ【涎】口から無意識に流れ垂れるつばき。 とされている。となると、⑫は、「流涎=よだれ」ではないから適切な記述とは言えない。 ⑬は、「流涎」の語釈が( )に示されたものとして正しいが、そうした注釈をしなければ 通じないような難解な語の使用には疑問がある。⑭のように「よだれ」だけで十分意図が 伝わる例もあるのだから、「流涎」のような難解な語を使う必要はないと思われるのである。 4 まとめ EPA の制度によって、看護師・介護福祉士候補者が来日してはじめて、日本語教育関係 者は介護・看護の日本語教育の重要さに気づき、その対策に取り組んだ。まさに泥縄であ った。そうした中で一定の成果をあげた部分もあるが、まだまだ問題は多い。外国人看護・ 介護従事者にとって、利用者・患者への言葉かけをはじめとして、さまざまな職種の人た ちとの連携が求められる看護・介護現場でのコミュニケーション能力の習得、看護・介護 記録の書記能力の習得など、すべて日本語の能力が求められる。さらに、日本語能力のい かんによって、キャリアアップも左右されるという厳しい現実にも当面している。 看護・介護人材の不足を外国人に求めようとしている日本社会の現状から見て、こうし た外国人への日本語支援がますます必要になっている。新しい分野の日本語教育として、 模索しながら、しかも時期を失することなく対応できるための研究と実践が求められてい る。 <参考文献> 遠藤織枝(2012a)「介護現場のことばのわかりにくさ―外国人介護従事者にとってのこと ばの問題」『介護福祉学』vol.19-1 pp.94-100 日本介護福祉学会 遠藤織枝(2012b)「介護現場のことば」『ことば』33 号 pp.102-120 現代日本語研究会 遠藤織枝(2013a)「介護のことばの平易化のために」『ことば』34 号 pp73-87 現代日本語 研究会 遠藤織枝・三枝令子(2013)「介護福祉士国家試験の平易化のために-第 23 回、24 回試験 の分析」『人文・自然研究』第7 号 pp.21-41 一橋大学 大学教育研究開発センター 遠藤織枝(2014)「介護用語の平易化のために」『語彙・辞書研究会第 45 回研究発表会』語 彙・辞書研究会pp.17-24 開原成允(2010)「医学用語の現状と課題」『日本語学』12 月号 vol29-15 明治書院 pp14-24

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香川靖雄(1997)「医学の専門用語の問題点」『日本語学』2 月号 vol16-2 明治書院 pp.50-59 三枝令子(2012)「介護福祉士国家試験の日本語」『介護福祉学』vol.19-1 pp.26-32 日本 介護福祉学会 三枝令子(2014)「介護福祉士国家試験平易化の検証ー第 25 回試験の分析」『人文・自然研 究』第8 号 pp.171-189 一橋大学 大学教育研究開発センター 澤井直(2012)「第 10 章医学教育における医学用語―用語の浸透と統一を中心に―」坂井 建雄編『医学教育史』東北大学出版会pp.323-344 参照辞典 『岩波国語辞典 第 7 版新版』岩波書店 2011  『南山堂医学大辞典第19 版』南山堂 2011  『看護大事典第2 版』 医学書院 2010                      

参照

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