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Management Journal

ブーズ・アンド・カンパニー マネジメント・ジャーナル 巻頭言

ケイパビリティを再考しこれからの成長戦略を考える

岸田 雅裕

ケイパビリティに基づく戦略構築

シュミート・バナージ、ポール・レインワンド、チェザレ・メイナルディ [岸田 雅裕・監訳]

成長戦略に必要なケイパビリティとは

今村 俊介

コングロマリット型企業におけるポートフォリオの再評価

今村 俊介

企業買収

(M&A)

における成功と失敗の分かれ目

佐藤 龍太郎

長期的成長のためのケイパビリティ強化

関根 正之

特集

選択

成長

∼戦略的

レベルのケイパビリティの

再考∼

2 0 1 0 W i n t e r : v o l .

12

この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった 2014年3月31日以前に発行されたものです。詳細はwww.strategyand.pwc.com.で ご確認ください。

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v o l .

12

巻頭言

ケイパビリティを

再考

3

これからの

成長戦略

える

岸田 雅裕

ケイパビリティに

づく

戦略構築

4 シュミート・バナージ、ポール・レインワンド、チェザレ・メイナルディ [岸田 雅裕・監訳]

成長戦略

必要

なケイパビリティとは

8 今村 俊介

コングロマリット

型企業

における

12

ポートフォリオの

再評価

今村 俊介

企業買収(M&A)

における

16

成功

失敗

かれ

佐藤 龍太郎

長期的成長

のためのケイパビリティ

強化

21 関根 正之

利益

っても

支出

維持:

24

グローバル

イノベーション

1000

バリー・ヤルゼルスキ、ケビン・デホフ [富永 和利・監訳]

インタラクティブ

マーケティング

戦略

31

第四回 新時代

のマーケティングと

組織・人材

特集

選択と成長

∼戦略的レベルのケイパビリティの再考∼

2 0 1 0

W I N T E R

C o n t e n t s

Booz & Company

Management

Journal

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巻頭言

ケイパビリティを

再考

これからの

成長戦略

える

岸田

雅裕

 現 在、多くの日本 企 業は、リーマンショック後 の底 が見 え な い 状 況 を 脱し、次 の 成 長 を 考 えるステ ージ に 来 て い る。 しかし、これまでグローバ ルに事 業を展 開し、市場を席 巻し てきた かに見 え た日本 企 業 が 勝 ちパターン を 見 失 い、成 長 する新 興 国 の 中産 階 級で 他 国 の 企 業 に劣 後する一方、成 熟 した国内市場において残存 者利益獲得競争に勝ち抜き圧倒 的な強者となる企業も、ファーストリテイリングなどごく一部 を除いて現れていない。  ブーズ・ア ンド・カンパ ニーで はケイパ ビリティに 基 づく 戦略構築=ケイパビリティ・ドリブン・ストラテジー(CDS)と いうコンセプトを 発 表し、ハーバード・ビジネス・レビュー誌 でも好評を得た。ここでいうケイパビリティとは、企業成長の 原動力となるような組 織的能力のことを指しており、事業を 売ったり買ったりすることで成長を目指す欧米企業に対する 提言として書かれたものである。このCDSを日本企業におい て考える場合、その意味合いは大きく異なる。グローバ ルに 競 争を繰り広げる中、なぜ、米国や欧 州企業においてCDSが 唱 えら れて い るか を 理 解しつ つ、多くの日本 企 業 に 有 効 な CDSの 適 用を 考えてみたいというのが 本 特 集である。日本 企業では、シナジーを言い訳に事業の選択を先送りする傾向 が強いが、正しく自社のケイパビリティを認識した事業ポート フォリオ を 構 築 する こ と が 、更 な る 企 業 成 長 の た め に 必 要 で あ る 。  本特集の一本目の記事である「ケイパビリティに基づく戦略 構築」はシュミート・バナージ他による英 文 記 事 の 抄訳であ る。この稿は主に欧米 企業の問題 点を念 頭におき、一貫した 「勝利のための一連の」ケイパビリティに基づいて事業ポート フォリオを展開することを提言している。  二本目の「成長戦略に必要なケイパビリティとは」において は、日本企 業 がCDSを 考えるため の出発 点として、ケイパビ リティの定 義を説 明している。ケイパビリティを用いた事 業 ポートフォリオの定性的評価を理 解することで、なぜ、ケイパ ビリティの 整合 性が企業 業 績と高い 相関があるのかが 理 解 できる。  続く「コングロマリット 型 企 業におけるポートフォリオの 再評価」では、日本の総合電機メーカーを題材としてCDSの 活用余 地を 述べている。事 業 の 選 択と集 中が進まない原 因 の一つは、そもそも事 業ポートフォリオ管 理に関する議論が 未 熟 な 点 に あ るということ が、CDSの 視 点 か ら 問 題 提 起 できる。  「企 業 買収(M&A)における成 功と失 敗の 分かれ目」では、 国内のM&A事例を題材に「自社ケイパビリティ活用型」と「他 社ケイパビリティ確保型」の買収を比較し、後者になぜ困難が 付きまとうのかを明らかにしている。  最後の「長 期的成長のためのケイパビリティ強化」では、日 本企業が短 期のケイパビリティ強化を重視するあまり、長 期 に成功を収めるためのケイパビリティの捉え方に欠けている のではないかと指摘している。  日本を拠 点に活動するコンサルタントである我々は、日本 企 業が 再び成長 へ の 道 筋を確 かにし、10年後にも各産 業で グ ローバ ル にインパクトを与える企 業 に な れるよう支 援 を 行っている。グローバル競争における「勝ち組」に残るために は長期的成長のためのケイパビリティ強化に取り組むことが 鍵を握っているのではないだろうか。 岸田雅裕(きしだ まさひろ) ([email protected]) ブーズ・アンド・カンパニー東 京オフィスの ヴァイス・プレジデント。15年以上にわたり、 知 の 編 集 作 業 を 通じて 戦 略 最 適 解 を 得 る プロジェクトと、クライアント内部における 実 行の主体性確 立を支 援するプロジェクト をリードしている。 この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった 2014年3月31日以前に発行されたものです。詳細はwww.strategyand.pwc.com.で ご確認ください。

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戦略としてのケイパビリティ  多くの読者は、「ケイパビリティ」という言葉を聞くと、従業 員のスキルセット、または研 究 開 発 やサプライチェーン 管 理 といった企業の一部門が行う業務の質のような、無形資産の ことを考えるであろう。しかし、われわれはこの用語をもっと 限 定的な形で用いる。すなわちケイパビリティとは、それぞれ の 会 社 が 競 争を 勝 ち 抜くため に 持 って い な け れ ば なら な い、決定的な強みである。  そして、ケイパビリティとは資産(技術、資本、設備、財産権、 またはブランド名など)に依拠しない。これにはいくつか理由 が あ る。第1に、産 業 が 成 熟するにつれて資 産 は 往 々にして 「参加料」になることである。第2に、アウトソーシングの時代 にあっては、資産規模の重要性は低下している。第3に、特許、 ブランド、土地、設備、機械類といった資産は、その性質上、多 様なポートフォリオ全 体にわたって活用するのがケイパビリ ティよりも難しい場合が多い。最後に、時間が経つにつれて資 産価値は減耗する。  これに対して、ケイパビリティは失 効することがなく、資 産 創造のエンジンになる。自社が所有する既存の油田(資産)に 依 存 する石油 会 社の戦 略と、新 規 油 田の 発 見 および 開 発 能 力の拡大を目指す戦略の違いを考えてみればわかる。  読者が企業のリーダーなら、おそらく最近はコストのことで 頭を悩ませる時間が多いであろう。劇的なコスト削減は、企業 の戦略全体を改善し、再構築するチャンスとなる。もちろん、闇 雲に経費を節減したり、戦略的視点を欠いたりすれば、企業の 競争力を大きく損なうおそれもある。だが、優先事項と将来の 可能性を見据えて行うならば、コスト削減はまさしく企業が必 要とする変革の触媒になりうる。  残念ながら、多くの企業で行われている経費削減は、それと は程遠い。ブーズ・アンド・カンパニーが大手企業を対象に行っ た調査を見ると(図表1参照)、企業はすべての部門に均等に痛 みを分担させたり、高コスト分野を最初に標的にしたりしてい る。また、長期的な企業のポジションや見通しへの影響を十分 に検討することなく短期的な節減効果を追求している。企業 がこのような画一的な方法でコスト削減を行えば、長 期的に はその企業は弱体化し、やがてはもっと過酷なコスト削減を 要する事態に陥るであろう。  コストの考え方として正しいのは、最も必要性の高い「ケイ パビリティ」を厳しく見極め、最 重 要 顧客へ の 到 達という点 で明らかに有利なものにのみ投資することである。このアプ ローチでは、新しい 考え方 で「ケイパビリティ」を捉 えること になる。

著者:

シュミート・バナージ、ポール・レインワンド、チェザレ・メイナルディ

監訳:

岸田

雅裕

ケイパビリティ

基づく

戦略構築

長期的視野で業績回復への道を開くために、

自社のケイパビリティを戦略的に把握することから始めるべきである ̶

この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった 2014年3月31日以前に発行されたものです。詳細はwww.strategyand.pwc.com.で ご確認ください。

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 グー グル の ケイパビリティには、同 社 の 検 索 エ ンジ ン の 維 持 改 良 の みならず、消 費 者を引きつけるウェブ・ベースの アプリケーションに関する不 断 の イノベーションと、そこで 得られた消費 者 集団を広告収 入に変 換する能 力が含まれて いる。このケイパビリティがあってこそ、グーグルは新サービ スを開発しそれを無 料で提 供することにより、同社のオンラ イン広告の価値を高めることができる。  同様にノキアは、プロトタイプ作成のスピードと顧客志向 のデザイン 力、そしてグローバ ルなマーチャンダイズ 力にお けるその独特なケイパビリティで知られるが、これらがあれば こそ、使い勝手とコストの両面で常に競合他社より一歩先を 行く競争に勝つことができる。  キャタピラー、トヨタ、HSBC、プ ロクター&ギャン ブル、 ネスレ、ジョンソン&ジョンソン 等 々そ の ケイパビリティで 知られる会 社はすべて、商品ライン、部 門および所在 地の 枠 を越えた一連の持続的投 資を通じて市場における優位性を 獲得している。  同一セクターの企業は市場で勝利するためには同一のケイ パビリティを必 要とするように思われるかもしれないが、そ ういう事例は少ない。アップルとデルはいずれもコンピュー ター市場で 競 合するが、両 社の ケイパビリティ群はまったく 異 なる。アップル の成 功は、商品とサービ スに関する不 断 の シュミート・バナージ ([email protected]) ブーズ・アンド・カンパニーのCEO。ヨー ロ ッパ 地 域 の マ ネ ー ジ ン グ・ディレ ク ター を 経 て現 職。世 界 各 地 で 官 民 両 部 門のクライアントに対してコンサルティ ング活動を行っている。 ポール・レインワンド ([email protected]) ブーズ・アンド・カンパ ニー のヴァイス・ プ レ ジ デ ント。グロ ーバ ル・コン シュー マー、メディア、および小売業を専門とす る。マー ケティング、イノベーションおよ び 顧 客 管 理 の 分 野 に お けるケイパビリ ティ体系の構築を支える。 チェザレ・メイナルディ ([email protected]) ブーズ・アンド・カンパ ニー北 米 地 域 の マネージング・ディレクター。クリーブラ ンドを拠 点にフォーチュン・グローバ ル 500企 業 の 大 規 模 な 事 業 転 換 を支 援し ている。 岸田雅裕(きしだまさひろ) ([email protected]) ブーズ・アンド・カンパニー東京オフィス のヴァイス・プレ ジ デ ント。15年 以 上 に わたり、知の編集作業を通じて戦略最適 解 を 得 るプ ロジェクトと、クライアント 内 部における実 行 の主体 性 確 立を支 援 するプロジェクトをリードしている。 レイオフ 全社一律のコスト削減 運転資本の積極的な管理 サプライヤー契約の見直し 裁量支出の削減 価格調整 商品ポートフォリオの最適化 管理階層の削減 新規事業および資産の取得 商品開発への投資 給与の凍結および報酬の変更 販売奨励金の見直し オフショア/アウトソース ニアショア/インソース マーケティング努力の強化 0 20 40 60 80 100 高い 短期的取り組み 長期的取り組み 低い 平均的な優先度

出所 : Shumeet Banerji, Paul Leinwand, Cesare R. Mainardi, Cut Costs, Grow Stronger: A Strategic Approach to What to Cut and What to Keep (Harvard Business Press, 2009)

図表

1

:コスト削減および収益拡大の優先順位

コスト削減圧力が高まる中で、大半の企業は誤った方法でコスト削減の取り組みを続けている。経営陣は短期的なコスト削減策を優先し、 長期的なイニシアチブにはあまり関心を示しておらず、全社一律のコスト削減やレイオフといった、ありきたりの景気下降期防衛策に甘んじてきた。

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企業の方向性と乖離 企業の方向性と一致 ケイパビリティを さらに有効活用―または売却 売却または 現金を得るために管理 業績を改善して売却 「勝利する権利」の 確立・創造 ケイパビリティを利用して 規模を拡大 基準を 上回る 基準を 下回る 財務実績 戦略的重要性 および ケイパビリティ の共通性 成長および拡大 5% 10% 15% 20% 25% 30% 20 0 40 60 80 100 EBITマージン 共通性スコア 円の大きさは 収益の規模を示す コカコーラ ハーシーズ リグレー キンバリー・クラーク ハインツ サラ・リー クロロックス ペプシコ ユニリーバ クラフト ゼネラル・ミルズ コナグラ キャンベル ネスレ P&G ケロッグ 図表

2

:ポートフォリオ決定のための指針マトリックス 過去のポートフォリオ管理の考え方はおおむね財務的尺度に基づいており、これに市場シェアを組み合わせたものが多かった。 しかし、ポートフォリオの決定は、財務実績の最も高い事業単位を守ることよりも、共通性を高めることを目的に行うべきである。 図表

3

:ある産業におけるケイパビリティの共通性の価値 大手消費財企業についてのわれわれの研究では、少数の重要ケイパビリティにポートフォリオを集中させている企業のほうが、 ケイパビリティのポートフォリオの共通性が低い会社に比べて(EBITマージンで見た場合)高い財務実績を示すことが判明した。

出所 : Shumeet Banerji, Paul Leinwand, Cesare R. Mainardi, Cut Costs, Grow Stronger: A Strategic Approach to What to Cut and What to Keep (Harvard Business Press, 2009)

出所 : Shumeet Banerji, Paul Leinwand, Cesare R. Mainardi, Cut Costs, Grow Stronger: A Strategic Approach to What to Cut and What to Keep (Harvard Business Press, 2009)

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本稿は、シュミート・バナージ、ポール・レイ ン ワンド、チェザ レ・メイナル ディの 共 著 『Cut Costs, Grow Stronger: A Strategic Approach to What to Cut and What to Keep』(Harvard Business Press, 2009) を も と に 編 集。原 著 は www.strategy-business.com/ccgs_bookにて入手可能。 リティの共通性に応じてそのポテンシャルを判断する。  大 成 功をおさめている企業 の大半 の 経営 者は既にこれと 同じことを実施している。例えばP&Gは、化粧品、洗剤類およ び紙おむつといった一見互いに無関係な消費財セグメントで 競 合 に参 加し、多 数 の 異 な るブ ランド を 成 功 さ せ て い る。 これら のブランドは すべ て、消 費 者イン サイト、ブレークス ル ー型イノベーション、および マーチャンダイズ 力の 分 野に おけるP&Gの非常に優れたケイパビリティを活用しているの である。  P&Gのみならずどこの企業においても、戦略担当者の仕事 はケイパビリティの 共 通 性を確保する、つまり、一貫した「勝 利のための一連の」ケイパビリティを有するメリットを生かし た事業ポートフォリオを組むことである(図表2参照)。  長年、ケイパビリティの共通性は企業業績と密接な相関関 係があることが示されてきた。一例として、ブーズ・アンド・カ ンパニーは多様な消費 財企業の共通性を追 跡した(図表3参 照)。それによると、自社のポートフォリオを少 数の重 要ケイ パビリティに集中させている企業のほうが、ポートフォリオの 共 通 性 が 低 い 会 社 に 比 べ、支 払 利 息 お よ び 税 引 き 前 利 益 (EBIT)マージンが 高いことが 判 明した。自動 車や 電 気 通 信 といった他の産業でも同様 の相関関係が見られた。これは、 経営陣の最も重要な役割の一つがどのケイパビリティに投資 するかの選定であることを示している。  困難な時期に本質的ではない部分を手放すことで、企業の 目的がより明確になり、順調な時期に利用できる重要なケイ パビリティを育てることができる。ケイパビリティに基づく正 確 な自己 定 義 は、日々のすべての 経営上の 決 定 ̶ 投 資や ポートフォリオの決 定 ̶ が、自社の戦 略と合 致 することを 担保するのである。 Reprint Number: 09501 イノベーション、および人とテクノロジーとの 関 わり方につ いての深い理 解の賜 物である。これに対してデルの成 功は、 迅 速 な 納 品、低 価 格カスタマイズ、そして質の高い顧客サー ビ ス に よ る も の で あ る。同 じ こ と は、自 動 車 メ ー カ ー の BMWとレクサス(トヨタ)についても言える。市 場は同一だ が攻略ポイントが異なるのだ。  これらの 例から明らかなのは、必 要なケイパビリティを 決 定するのは単なる市場の力学ではなく、それぞれの企業がそ の市場でどのような役割を演じることを選ぶかにかかってい るということである。  コストの議 論においてこの点は重 要である。なぜ なら、企 業が 競 合 他社の 持つケイパビリティをリソースと結びつけ、 往々にして必要もないのにそれを欲しがるからである。競 合 他社のケイパビリティと同じものばかり求めていても、決して 本物の勝利を手にする権利を生み出し、あるいは維持すること はできないし、コストを増大させてしまうだけである。 ケイパビリティ体系  このように、コストを削 減しつつ 体質 強 化を図るには、市 場の力学のみならず、自社がその市場でどのような役を演じ るつもりであるかを理解することが必要である。  株 式 市場 のアナリストは、ポートフォリオの 強さを財務面 で 測るのが 普 通である。ある会 社 が 高い 業 績を挙げ ている 一 連 のビジネス ユ ニットを 持 つ 場 合、アナリストは「ポート フォリオが強い」と言うだろう。業績の低い事業があれば、ア ナリストはそ の 事 業に「要修正」または「撤 退」というラベル を付けるだろう。しかし、ポートフォリオについてのこのよう な見方は不完全である。  われわれの 考える強 力なポートフォリオは、これとは異な る。われわれは、各事業を財務実績のみで計るのではなく、そ もそもこれらの事業が同一ポートフォリオの中にある理由を 問い、それらの事 業をまとめて管 理するのに必要なケイパビ

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ティは言葉としての認知は広まったが、まだ企業の戦略検討に 十分組み込まれるには至っていないように見える。  企業には様々な能力があるが、その全てがケイパビリティと いうわけではない。競争戦略の議論の対象となるケイパビリ ティの定義として、下記の3つの点を念頭に置いて考える必要 がある。  第一に、ケイパビリティは「能力」であり、「設備や人 員」では ないということ。  元 来、事業活動は「設備や人 員」(アセット)とそれらが持つ 「能力」(ケイパビリティ)とが一体となって行われるものであ る。しかし、両者は同一のものではない。ケイパビリティを議論 する場合、我々は設備や人 員ではなく、その上に存 在する「能 力」に注目する。もし、ケイパビリティが設備や人員と独立して 存在し得るのであれば、アウトソースの活用により財務体質を 軽くするという方向に考えていく。  アウトソーシングは過去20年で産業として大きく拡大して きた。デジタル 製 品 分 野 では 製 造 受 託 企 業(EMS)へ のアウ トソースが“定石”になっており、世界最 大のEMSである鴻海 精 密工 業(Foxconn)の 売 上は6兆 円を 超 える規 模に達して いる。従 来 から下請けへ の 製 造 外注は存 在したが、それがよ り大 規模に、システマテックになってきているのが近 年の特 徴 だ。アウトソースの対 象 分 野 も製 造 だけでなく、事務 処 理 やIT、さらにはR&Dの 一 部にまで拡 大している。この背景に あるのは、アセットとケイパビリティを分ける考え方だ。  勿論、ケイパビリティがアセットと密接に結びつき、不可分 ケイパビリティの定義  ビジネスにおいてケイパビリティ(Capability)という言葉 は「企業が持つ組織的な能力」という意味であり、具体的には コスト管理能力や品質管理能力、開発スピードなどオペレー ションの柱となる要素を指すことが多い。経営戦略の実現性 に影響する要因であり、競争優位性の源泉となるものである。 自社のケイパビリティを理解し、それに磨きをかければ戦略の 実行能力が向上するし、自社のケイパビリティを最大限に活か せる戦略を選択すれば、競合他社との競争の上で優位性を発 揮できる。  ケイパビリティはもともと能力や素質、才能という意味であ る。スポーツの世界で、パワーに優れた選手や技巧派の選手と いうのがある。自らの強みを知り、それに磨きをかけることは 重要だし、それによってプレイスタイルも変わってくる。パワー 派にはそれを活かす戦略があり、技巧派はまた異なる戦略が ある。本人の能力を抜きにして戦略を論じることはできない。 企業戦略においても同様で、企業という組織が持つ能力・素質 (=ケイパビリティ)をよく理解し、それを最大限に活かす戦略 の組立てを考える必要がある。これが、本号にて説明するケイ パビリティ・ドリブン・ストラテジー(CDS)の考え方である。  ケイパビリティという言葉が日本で紹介されたのは1990年 代前半であり、15年余りを経た今では経営戦略の分野ではよ く見かける言葉となった。しかし、その意味合いが正確に理解 されているとは言い難く、それが故にケイパビリティの議論は 抽象的で漠然としたものになりがちである。結果、ケイパビリ

著者:

今村

俊介

成長戦略

に必要な

ケイパビリティ

とは

この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった 2014年3月31日以前に発行されたものです。詳細はwww.strategyand.pwc.com.で ご確認ください。

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のものになっている場合もある。しかし、これを注意深く分析 し、業務プロセスをうまく設計すれば両者を分離できるかも しれない。そうすれば、重たい資産を外出しできる、と考える のが世界 の 趨 勢である。両者が一 体であることを尊び、より 密接に連 携させていこうという考え方を前 提にしていては、 ケイパビリティの議 論 が 似て非 なるものになってしまう。最 終 的にアウトソースを活用するかはさておき、まずは両 者を 分けて議論することが重要である。  第 二に、ケイパビリティは市場 のニーズに合 致したもので あるということ。  当然ながら、ケイパビリティの議論の目的は競 争戦略であ り、競 争 優位につながるものがケイパビリティの議論の対 象 となる。能 力がいかに高くても、それが 市場で求められてい ない のであれば 競 争 優 位に寄 与しない。つまり、ケイパビリ ティは、市 場 のニーズや 業 界 のKFS(成 功 要 因)に合 致して いることが必要である。  ここで注意しなければならないのは、市場は変化するという ことだ。過去の市場ニーズやKFSが今後も継続するとは限ら ない。例えば、コンシューマエレクトロニクス業 界では、過去 は技 術 力が 重 要だったが、今では技 術が 市場 の 要求 水準を 上回り、競争のポイントが価格に移っている分野が多数存 在 する。この 状 況 で は、いくら 技 術 に 磨 きを か け て も そ れ が 競争優位につながらない。  どんな会社においてもこのような間違いは起こり得るし、 事業部門が事業計画を立てる場合には、自らの組織 維持・拡 大が暗黙の前提になっているが故に、このような間違いを生 むバイアスが働くことに留意する必要がある。事 業を推 進す る熱意と戦略的判断は別物である。必ず客観的視点をもとに 市場 のニーズを見極め、それに基づ いてケイパビリティの議 論をすすめていくことが重要である。  第三に、ケイパビリティは競 合他社との競 争に大きく影 響 するものであるということ。  競 争戦略を考えるにあたっては、市場のニーズへの合 致の 他にもう一つ、競 争 優 位性を考えることが必要である。ある 能力が絶対値としていくら高くても、他社が皆同様の水準の 能力を持っているのであれば差はつかない。我々が注目すべ きは、他社との差につながるケイパビリティなのである。  他社にはない強みであり、それが競争優位につながるケイ パビリティは勿論のこと、他社に劣後しないために磨き続け なければならないケイパビリティも存 在する。例えば規格品 の製造では、規格以上の製品を作れる技術力を持っていても 競争優位につながらないが、規格品をつくるための技術力の 維持は必須となる。デジタル製品分野では、標準規格が一定 期間ごとに世代更新することが多いので、規格品製 造といえ ども技 術へ の 継 続投 資が必要 不可欠となる。これもまた、ケ イパビリティとして注目しておかなければならない。  また、当該分野の競 合他社が皆持っているようなケイパビ リティでも、他分野への展開を考える場合には大きな武器と なるケースもある。例えば、国 内では 各 社とも技 術 的に成 熟 しており競争上の差がつかないといった業 界でも、海外進出 した際には他 国のプレイヤーに対して技 術 的な優 位性を 発 揮できることが過去よく見られた。競争優位はあくまでも比 較優位の議論なので、何と比較するかによって議論の組立て が 変わってくる。ただ、いずれにしても、ある比 較 対 象に対す る優 位性を実現できるのがケイパビリティであり、この 視 点 を忘れないことが重要である。  先に挙げた製造受託企業の例を見るまでもなく、グローバ ル競争の中ではケイパビリティを活かした事業展開が必須と なりつつある。重要なのは、欧米企業だけでなく、台湾や中国 など「後 発」だったはず の 企 業が既にこういった概 念を実 質 的に取り入れた展開を始めていることである。悠 長に構えて いる暇はない。今後のグローバル競争に向けて、日系企業は 改めてケイパビリティの 概 念を理 解し、それを事 業戦 略検 討 に組み入れていくことを考える必要がある。 今村俊介(いまむらしゅんすけ) ([email protected]) ブーズ・アンド・カンパニー東京オフィス のプリンシパ ル。情 報 通 信、メディア、電 子 機 器 な どの 業 界 を 中 心 に、全 社 戦 略 構 築 お よび そ の 実 行 支 援、事 業 再 生 支 援 など、8年以 上にわたり多様 なコン サ ルティングプロジェクトを手掛ける。

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の将来性などの定性要因を加味しにくい点や、事業間のシナ ジーを反映しにくい点などの問題があった。通常、これらの要 素を補足的な議論として加えることでバランスをとっている が、定型的な検討手法が存在しないために議論が十分噛み合 わない例もしばしば見られる。  本号でご紹介している手法は、CDSの 考え方に基づく、事 業ポートフォリオの定性的評価手法である。具体的には下記の ステップにより検討を進めていく。 ①事業を適切な単位に分類する 求められるケイパビリティが異なる事業を分ける。事業部 門は同一でも、求められるケイパビリティが異なる事業が あればそれらを別の事業として分ける ②各事業に関わるKFSを分析する 各事業の対象市場について、市場のニーズを踏まえてKFS を抽出する。過去の実績や事業部門の「思い」にとらわれる ことなく、現在の市場環境について客観的な分析を行う ③各事業における、当社のケイパビリティを抽出する 市場 のKFSと競 合他社へ の 優位性の2つの 観 点を踏まえ て、当 社 の ケイパビリティを抽 出する。自社 の ケイパビリ ケイパビリティに基づく 事業ポートフォリオ評価の考え方  大きな会社では複数の事業を営んでいる場合がほとんどだ が、ケイパビリティは市場や競争環境によって定義されるもの であるため、それぞ れの 事 業ごとに定 義されることとなる。 従って、A、B、Cの3つの事業を行っている会社の場合は、A事 業、B事業、C事業それぞれのケイパビリティが存在する。各事 業のケイパビリティがばらばらでもその事業運営自体に支障 はないが、それらの共通性が高ければ会社全体の競争力がよ り強くなり得る。ケイパビリティを高める投資が集中でき、よ り効率的に競争力を強化できるからだ。  事 業ポートフォリオの 観 点で事 業 の取 捨 選 択を考えた場 合、ケイパビリティが共通する事業を手元に残し、共通性の低 い事業から撤退・売却していくと、事業ポートフォリオ全体を 強化していくことができる。これがケイパビリティ・ドリブン・ ストラテジー(CDS)に基づく事業ポートフォリオ管理の考え 方である。  事業評価の手法としてはEVAなどの定量分析手法が有名だ が、過去の実績をベースとした定量評価であり、競争力や事業 出所 : ブーズ・アンド・カンパニー 図表

1

:ケイパビリティを用いた事業ポートフォリオの定性的評価 ケイパビリティ 1 ケイパビリティ 2 ケイパビリティ 3 ケイパビリティ 4 ケイパビリティ 5 ケイパビリティ 6 ケイパビリティ 7 ケイパビリティ 8 ケイパビリティ 9 ケイパビリティ 10 ケイパビリティの重要性… 高 1a 事業部 1 A社 事業部 2 事業部 1 B社 1b 2a 2b 1a 1b 1c 1d A社は2つの事業部門で 行っている事業のケイパ ビリティの 共 通 性 が 高 く、全 体としてより強 い 競争力を発揮できる B社は事 業 部 門は1つに まとまっているものの事 業部内の 個 別事 業のケ イパ ビリティの 共 通 性 が低く、全体として強い 競争力を実現しにくい 低

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市場 のKFSと競 合他社へ の 優位性の2つの 観 点を踏まえ て、当 社 の ケイパビリティを抽 出する。自社 の ケイパビリ ティ評価は事業部門の自己申告だけでなく、かならず客観 的な根拠を以って評価する ④各事業の評価を並べた一覧表を作成する 別々の事業で同様のケイパビリティが挙がっている場合に は、同一 のものとしてまとめる。そして、事 業×ケイパビリ ティのマトリクス表を作成して、各事業のケイパビリティ評 価を記入していく ⑤事 業ポートフォリオ 全 体としての評 価と今 後 の方 針を議 論する ケイパビリティの共通性を見て、自社の事業ポートフォリオ 全体としての強さを評価する(図表1参照)。また、定量評価 も勘案しながら、自社の事業ポートフォリオをより強くする ためにどう事業を組み替えていくべきかも議論する  この 手 法 は、言 い方 をかえると「シ ナジー の見 える化」で ある。  これまでシナジーというと、やや感覚的な議論になること が多かった。企業間の提携や経営統合で大きなシナジーを期 待しな がら、実 際 にやってみ るとごく限 定 的 な 効 果しかな かったという例は枚 挙にいとまが ない。また他の 業 界でも、 不 採 算 の 事 業 部 門 につ いて、技 術 面、開 発 面 な ど で の シ ナ ジーを理由に撤 退が先送りになるというのはよく聞く話だ。 図 表1のB社 のような 状 態 でも、わず かなシ ナジーを 理 由に 1dの事 業が温存される。シナジーと一言で言っても、どの程 度の範囲や強さなのか、あるいは、何故それが実現されるの か、といった 点が曖昧になりがちなのでしっかりとした議 論 にならないのである。  本手法は、事 業の定性評価から初めて、事 業間のシナジー を明確な論 拠の下で視 覚化できる。個別事 業の定性評価は、 市場や競合に関する客観的分析に基づくケイパビリティ評価 であり、事業部門の主観的判断に基づく恣意的な議論に陥る 可能性も少ない。また、議論を一貫した合理的ステップに従っ て構築できるため、関係者間での共有がしやすく、また、検証 も容易となる。  事業の定量評価と組み合わせることにより、合理的で納得 性の高い 経営判 断を行うことが できるようになることが 期 待できる。 日本企業での活用にあたっての留意点  本手法はブーズ・アンド・カンパニーのグローバルチームに より考案され、欧米のクライアントに提 供して実績をあげつ つある手法である。日本企業にとっても参 考にすべき点は多 いが、導入にあたっては欧米と日本との議論の前提の相違に 留意しておく必要がある。  1点目は、事 業 の 選 択と集 中 の度 合 いである。欧 米 企 業は 事 業の選 択と集中を積極的に行っており、むしろ、事 業 の切 り離しを行いすぎてケイパビリティを損なうこともある。本手 法はこういった 過ちを防ぐために提 案されている側 面があ る。一方、日本企業の場合は、シナジーなどを言い訳に事業の 選択を先送りする事例が多く、むしろ、この手法の導入により 議論を先送りせず決着できるかという点がポイントとなる。  2点目は、ケイパビリティに関する誤 解の存 在である。先に 述べたとおり、日本企業は能力を資産(設備や人材)に置き換 えて議 論する傾向があり、これがケイパビリティの誤 解につ ながっている。このような誤 解が生まれる原因はいろいろ考 えられるが、重要なことは「ケイパビリティ」が今まで 十 分議 論されておらず、会社の経営陣・幹部 社 員ともこの種の抽象 度の高い議論に不慣れな場合が多いということだ。従って導 入に当たっては、抽象的議論のトレーニングの側面も合わせ て考えていく必要がある。  3点目は、事 業 運営スタイルの違いである。欧米はトップダ ウンで戦略提示する経営手法が好まれるが、日本では現場主 導 のボトムアップ で経営を行うことが多い。どちらが良いス タイルかはさておき、日本の場合は制度 上、事 業部門の言い 分がそのまま経営戦 略に反 映されてしまう傾向があるのは 事実である。従って、本検討においては、「客観的評価」の導入 をより強く意識して行っていく必要がある。  いくつかの留意点はあるものの、この手法の有効性は明ら かで あ る。日 本 企 業 各 社 の 方々にも 是 非、今 後 の 経 営 戦 略 検討にあたっての参考にして戴ければと思う。

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らダイナミックに事業転換を図ったのとは対照的である。  何 故、事 業 の 選 択と 集 中 が 進 ま な い の か。経 営 者 のリー ダーシップの問題や、事業転換の実行面での困難さも一つの 要因だが、そもそも事 業ポートフォリオ管 理に関わる議論が しっかり進められていないという問題もあるように見える。 具体的には次の4点である。 1)議論の対象となる事業の単位が適切でないこと  総合電機は多様な事業を営んでおり、この全てを経営の場 で 個 別に議 論 するの は 現 実 的 では な い。そこで 何らか のグ ルーピングをして議論することになるが、総合電機の組織体 系は製品分野の類似性や過去の経緯をもって行われており、 事 業モデルや市場 性に沿った分 類になっていない。また、存 続させたい赤字 事 業を黒字部門の中に入れて赤字を見えな くするといった例もあり、さらに実 態 がわかりにくいものと なっている。実績数値はあがってくるが、それが適切な事業単 位での集計になっていなければ正しい現状把握は難しい。 2)競争力の評価が主観的に行われていること  事業計画は基本的に部門積み上げの形となっており、内容 の検 証が十 分されることがない。例えばSiemensでは、200 人 規模 の 社内シンクタンクがあって市場 分析や競 合 分析を 行っているが、国内電機の経営企画部門はそれほどの陣容は なく、個 別 事 業 の 競 争力や 今 後 の戦 略を事 業 部 門とは別の コングロマリット企業における課題と

CDS

の活用余地  国内には多様な事業を営むコングロマリット企業がいくつ もあるが、総合電機はそのうちの一つの典型的なパターンで ある。国内の総合電機業界は80年代まではグローバルでの市 場シェアも高く収 益 力もあったが、90年代 以降シェアは低下 傾向を辿り、利益率も低迷を続けてきた。金融 危 機 の 影 響を 受 け た09/3期 は 東 芝、ソニー、シャープ、NECが 営 業赤 字に 転落し、日立も上場企業最大の最終赤字を計上した。  総合電機の凋落にはいくつかの要因があるが、その一つが 広すぎる事業展開であることは幾度となく指 摘されてきた。 電 化 製 品 の 黎 明 期 には 技 術 や人材 の 集 約 の 観 点 から 総 合 展 開 の 意 味 は あった が、市 場が成 熟して 対 象 範 囲 が大きく 広 がった 現 在 では、総 合展 開 はむしろ 非 効 率 だと 思わ れる からだ。  しかしながら、事業の選択と集中は遅々として進まない。日 立は2000年代前半に、全事業の2割を入れ替える計画を打ち 出したが、結果的に入れ替えたのは1割にとどまり、それも同 じ事業分野の事業を売り買いしていたため、全体としての事 業ポートフォリオはほとんど 変わらずに終わった。他 社も多 かれ少なかれ似たような状況にあり、IR資料を暦年で並べて 見ても事 業 構成に大きな変化は見られない場合が多い。GE やSiemensなどのグローバル大手がM&Aなども活用しなが

著者:

今村

俊介

コングロマリット

型企業

における

ポートフォリオ

再評価

この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった 2014年3月31日以前に発行されたものです。詳細はwww.strategyand.pwc.com.で ご確認ください。

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視点で検証できていない場合が多い。この結果、競争力評価 に事 業部門の主観によるバイアスが入りやすくなり、客観的 視点に基づく経営判断が妨げられる要因となる。 3)シナジーの定義が曖昧であること  総合電機のようなコングロマリットでは、ある事業を撤退・ 売 却しようとしても他事 業とのシナジーを理由に結 論 が 先 送りされることも少なくない。そもそも総合家電の事 業はい ずれも広義 の電 機 分 野なので技 術 面・営 業 面で関 連 のある 事例は探せば必ず出てくる。問題は、シナジーの有無ではなく、 そのメリットが 複 雑 性のコストを上回るかという点である。 しかし、メリット・コスト双方に関わる適切な評価尺度がない ため議論の焦点がぼやけてしまう。 4)事業全体を通した討議が行い難いこと  コングロマリット型企業では事業部門の数が多いため、個 別事業の実績や事業計画をとりまとめるだけでも多大な作業 になる。定量的な数値分析は様々な分析手法も存在しており 自動化できる部分もあるが、定性的議論を取り込むための方 法論は各社各様であり、どうしても工数と時間がかかってしま う。結果的に、取りまとめの「作業」に忙殺されてしまい、肝心 の検討の時間が十分とれず、議論が未消化に終わることが多 い。一方 で、経営判 断は都度 行っていかなければ ならないた め、結果的に、コンセンサスの取り易い結論で決着させてしま う傾向が強くなる。  今回紹介しているケイパビリティ・ドリブン・ストラテジー (CDS)による事 業ポートフォリオ管 理の枠 組みは、このよう な問題を解決するための方法論になり得る。 1)事 業単位については求められるケイパビリティが同様 か 否かという観点で再定義を行う 2)それぞ れの 事 業における自社のケイパビリティ評価につ いては事業部の主観だけでなく、市場分析・競合分析に基 づく客観的視点も入れて評価を行う 3)シナジーの議論については、ケイパビリティの共通性という 明確な基準を以って効果と複雑性のコストを議論できる 4)最終的には事業ポートフォリオは事業×ケイパビリティの マトリクスの形で視覚化されるが、この縦軸・横軸それぞ れについては個 別議 論で 十 分討 議されているため、枠 組 みに関わる納得性も担保できる。また、全ては企業全体と しての 競 争力につながる議 論で一貫されているため、議 論の迷走を防ぐことができる  勿論、この手法は経営判断を自動的に導き出すようなもの ではない。個別の経営判断はある指標を持って機械的に行う ようなものではなく、会社の経営陣自身により十分議論され るべきものだ。しかし、総合 電 機 のように多様な事 業を 包む コングロマリットでは、一貫性がありかつ網羅的な経営討議 を行うこと自体が 難しいものとなる。この 手法は、その 経営 議論を助ける道標を提供する。これにより、従来もやもやとし ていた定性議論が可視化され、経営会議の議論がより深く、 納得性の高いものとなる。これがCDS導入で期待できる効果 である。 ケーススタディ  概 念的な話だけではわかりにくいので、日立とソニーを例 にしてCDSの視点からの問題提起をしてみたい。  日立製作所は、金融危機に端を発する世界同時不況の影響 により、09/3期に国内上場企業 最 大の最終赤字を計上した。 株主総会が終わった後の7月に、同社は社会イノベーション事 業を軸に再建を図る旨の方針を発表し、日立情報システムズ、 日立ソフトウェアなど上場子会社5社を完全子会社化した。さ らに12月には公募増資で資本増強を図り、現在に至っている。  日立が目指す社会イノベーション事業というのは、日立自身 の定義であり、事業ビジョンと呼ぶべきものである。一般には 「社会イノベーション業界」なるものは存在しない。日立グルー プの事業のほとんどを含む広い概念なので、既存の事業展開 との矛盾はないが、それが戦略的に意味があるかについては 疑問が残る。そもそも電力や都市開発と産業システムは対象 今村俊介(いまむら しゅんすけ) ([email protected]) ブーズ・アンド・カンパニー東京オフィス のプリンシパ ル。情 報 通 信、メディア、電 子 機 器 な どの 業 界 を 中 心 に、全 社 戦 略 構 築 お よび そ の 実 行 支 援、事 業 再 生 支 援 など、8年以 上にわたり多様 なコン サ ルティングプロジェクトを手掛ける。

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ことを目指している。例えば、11月に行われたソニーの会社説 明会では、ハード・ソフト・サービスのシナジーの一例として、 「PlayStation3+SCEの ゲームソフト+ソニー の 液 晶TV」の 組み合わせによる新しいエンターテイメント体験が紹介され ている。  これは確かに素晴らしいことだが、CDSの観点から考える とあまり効果的な事業展開とは言えない。TV機器とゲーム機 器とソフトはケイパビリティ的に異なる事業であり、結果とし て素 晴らしいハー モニーを 奏 でることはあるかもしれない が、それを実現するためには相当な経営資源の投入が必要だ からである。それに、きれいな画面でゲームを楽しみたいので あれば、シャープのテレビでも良いような気もする。そもそも ユーザー 側の立場からすれば、全ての 機 器とサービスを同一 ブランドにしたいという欲求はあまりないのである。  ソフトとハードとの融 合的価値を訴求するという点では、 Appleも 同 様 だ が、こ ち ら は か な り 展 開 方 法 が 異 な る。

AppleはPC(Mac)か ら ポ ー タ ブ ル オ ー ディ オ(iPod)、ス マートフォン(iPhone)と事業を展開してきたが、基本的には 本体の軸足はハードにある。iTMSで楽曲やiPhoneアプリを 販売しているが、自らレコード会社を持ったりソフト開発をし たりすることはなく、あくまでもソフト流通の場を作っている に過ぎ ない。ハードについても製 造はEMSにアウトソースし ており、個別部品も汎用品を多用している。つまり、Apple本 社が行っているのはユーザーに提供するサービスの全体設計 とハード組 込 みソフト(ユーザーインターフェース)の 作り込 みだけである。ソニーと比 較 するとケイパビリティ活用の 効 率は大きく異なる。 顧客が全く異なるし、公共インフラ分野にしてもITと機械設備 ではケイパビリティが共通だとは考え難い。投資ファンドの投 資先選定基準としてなら意味があるかもしれないが、事業会 社としての展開を考えた場合、「社会イノベーション」なるドメ イン定義は広すぎて機能しにくいと言わざるを得ない。  日立全体を見た場合、高い収益を上げているのはITシステ ム部門であり、公共・金融システム構築に強みがあることから 収益の安定性も期待できる。昨年上場子会社5社を完全子会 社化したが、これをIT系3社に絞り、さらに未上場のものも含 めたグループ内のIT関連会社の吸収を優先した方が良かった かもしれない。社会基盤関連のITシステム構築を軸足として 本体に取り込み、その他の事業は外に出して事業投資先とし て抱えるような構造にする。関係会社の再編は多大な労力を 伴うので、その他事業は投資先と割り切って再編には着手せ ず、コアとするIT事業関連の会社群の取り込みと融合とに全 精力を注ぐ。CDSの 観 点から考えると、このような方向性が 日立の再建を最も確実にする道であるように見える。  ソニーは09/3期決算で営業赤字に転落した後、活発に事業 構造転換を進めてきた。グループでの共同購買を推進し、北米 のTV生 産 工場をEMS最 大手 のFoxconnに売 却するなど、事 業構造の改善を進め、第1、第2四半期は当初見込みを上回る 業績で推移している。  ソニーの場合、対象とする顧客は一般コンシューマであり、 その面では日立と比較してターゲットは明確である。そしてソ ニーは個人向けを軸に製品からソフト、サービスへと幅広く事 業を展開し、全体としてユーザーに革新的な経 験を提 供する 出所 : 日立製作所 IR資料 出所 : ソニー IR資料 融合等による 差別化 1.1 日立が進める社会イノベーション事業 安定的な高収益構造の確立 ■ グループ総合力による環境価値創造 ■ 高信頼性社会基盤・関連サービスのグローバルな展開 ■ 情報技術を駆使したより安全・安心な社会基盤の創造 優位技術の開発・適用 ビジネスモデル革新 融 合 差別化 電力システム 環境・産業・健康 システム 都市開発・ 交通システム 情報・通信システム 社会イノベーション事業を差別化する 材料・キーデバイス・サービス等 人財力 モノづくり・品質力・ コスト革新力 高度IT基盤 営業力 研究開発力 強い事業群 グループ経営基盤

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  革 新 的 な ユー ザ ーエ ク スペリエ ン スを 提 供 する と い う ソニーのコンセプトは魅 力的だし、ソニーにそのような構想 力があることも事実だろう。しかし、CDSの観点から見ると、 今の事業展開は効率が悪いと言わざるを得ない。外部の力を 積 極 的に活 用し、自社はキ ーとなる製 品(パーソナル デバイ ス)に集中する。製 造 面については既に着手されている通り EMS活用を積極的に進める。自社のケイパビリティについて は、特 定の 技 術ではなく、もっとメタ的なもの、つまり、ユー ザーに提 供 するサービ スの 構 想 力 や、他 社を 巻 き 込む 場づ くりなどに昇華させていく。これによって、今 の産 業 構 造 の 中 でソニー の 理 念を具 現 化し、市 場にお いて 高 いプレ ゼ ン スと収 益を実現することが可能になるのではないか。

CDS

導入にあたっての留意点  最後に多様な事 業を営むコングロマリット型 企業がCDS を導入する場合に留意すべき点を整理しておきたい。  事業ポートフォリオの検討は会社の根幹に関わる重要課題 であり、また、結 論について各事 業 部門をはじめとした関 係 者がしっかり腹 落 ちすることが必 要である。従って、CDS導 入にあたっては経営陣や経営企画部門だけでなく、各事業部 門長を含む事業側の主要メンバーをしっかり巻き込んでいく こと が 重 要 で あ る。一方、社 内 だ け の 検 討 で は 十 分カ バー できない可能性がある課題もあり、こういった点については 適宜、外部の力を使うことによって客観的かつ効率的にCDS 導入を推進することができる。 ①検討過程における複雑性のマネジメント  検討においては、まず全ての個別事業の中身を分析して、事 業区分の妥当性を検証しなければならない。また、個別のケイ パビリティ検討においても、各部門からの見解を集約し、それ を検証しつつ、外部調査も行い、結果を一覧性のある形で視覚 化する必要がある。これには複雑かつ膨大な作業が必要とな り、自社の経営企画部門で行うには負担が大きい。ここで外部 を活用すれば少なくとも作業リソースの補充になるし、また、 この ような 複 雑 な 作 業 の 管 理 に 長 け た コ ン サル ティング ファームに 委 託すると、作 業 効 率 を 大 幅 に 改 善 することが できる。 ②客観性の担保  検討の中でも特にケイパビリティの評価においては、事業部 門の主観的分析だけでなく、市場や競合に対する客観的分析 が求められる。社内の経営企画部門などが調査を行うことも できるが、多様な事業それぞれの調査を同時並行的に行うに は相応のスキルが必要になるし、また、結果的に適切な分析が できたとしても、社内政治力学上、それが正しく受け止められ ないこともある。外部の第三者による市場調査・競 合調査を 活用することで、調査分析の実行力と、結果に対する納得性を 担保できる。 ③ ファシリテーション機能  事業ポートフォリオの議論は、経営陣のみならず、事業部長 クラスも交えて議論することが重要であり、結論について各部 門長がしっかりと腹落ちすることも必要である。この納得性を 担保するためには議論を尽くすことが重要だが、会社によって は部門横断・階層縦断的な議論の経験が少なく、議論がうまく 進まない場合も多い。戦略を理解し、また、ファシリテーション の技術にも長けた外部の専門家を活用することにより、議論 の活性化や、社内での討議に関わる共通言語の形成、最終結 論についての腹落ちが実現できる。  総合 電 機に代 表されるようなコングロマリット 型 企 業 の 事業構造は複雑であり、それを取り巻く事業環境も年々変化 していく。従って、一回の議論で正解が得られると考えるのは 間違いである。徹 底的に議 論し、その 過程を見える化した上 で、毎年見直しをかけて軌 道修正を行っていくことが重要で あ る。コングロマリット 型 企 業にとってのCDSは、そ のよう な検討を後押しするフレームワークなのである。

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ご存知の方も多いはず。これらは全てゼンショーが展開するブ ランドだ。両社は2000年以降、互いに競い合うように数多く の買収を続けてきたが、そのパフォーマンスは明暗が分かれ たと言っていいだろう。(図表1参照)  吉野家がM&Aを積 極 展 開するようになったのは、2000年 の持ち帰り寿司チェーンの京樽の買収から。一時はBSE問題 の 影 響を受けてM&Aの動きが 後 退したが、本 業 の業 績回復 に伴い08年あたりまでは再び積極的なM&Aを展開した。しか し、これまでに手がけた買収の多くは、うまく言っているとは 言いがたい。京樽は当初計画よりも前倒しで再建が完了した ため、一時はM&Aの成功事例と目された。ところが、その後実 行した上海エクスプレス、ラーメン一番本部などは、十分な業 績回復ができなかった。上海エクスプレス、わのか(京樽傘下 の和食業態)、ハミータコーポレーション(回転寿司)からは既 に撤退し、ラーメン一番本部も累計20億円の赤字計上を行い 撤退が決定した。「はなまる」も利益が伸びず、08年2月期にの れ ん減 損 損 失15億 円を計上、ステーキ「どん」も09年3月∼5 月期に最終赤字(2億円)に陥っているという状況である。  一方のゼンショーのM&A展開は、2000年に実 施したココ ス ジャパ ン の 買 収 か ら 始 まる。以 来、約8年 間 で15件 も の M&Aを手がけ、04年 度には吉 野 家の 売 上 高 を抜き 去った。 売上規模の拡大スピードもさることながら、同社のM&Aで圧 巻なのは、買収した 企 業 のコストダウン効果 だ。調 達 改善と オペレーション改 善により、食 材コストと販管 費を削 減し、 ココスとビッグボーイの 経常 利 益 率を買収後 の1年間で3∼ 4%改 善さ せ た。買収 後 に 撤 退した の はカッパクリエイトと ケイパビリティは買うべきか?  この度の金融危機で一時休止しているが、日本の流通・小売 セクターでは、つい2∼3年前まで異 業 種や異 業 態間のM&A がブームであった。縮小が続く国内市場において成長するに は、事 業の多角化や新業態開発が不可欠であり、自社事 業に は ない 新たなケイパビリティを、買収によって獲 得しようと いう動 きで あった。百貨 店 のブランド 訴 求 力 の 取り込 み を 狙った セ ブ ンイレブ ン に よるミレニアムとの 事 業 統 合 や、 洗 練されたトレンド発 信力の獲 得を狙ったファーストリテイ リングによるセオリーの買収、中食業態とフランチャイズ運営 ノウハウの獲得を狙ったすかいらーくによる小僧寿しの買収 などは、その典 型的な例だろう。しかし、これらのケイパビリ ティ獲 得 型M&Aの 多くが、当 初 期 待したほどの 効 果を 生み 出せていない。M&Aの成 功確率は30%程 度しかないと言わ れているが、その中でもケイパビリティ獲得型M&Aは成功する のが 難しい。M&Aにおける成 功と失 敗の 分かれ目は何なの か。外食業界におけるM&A事例を通じて考えてみたい。 対照的な「吉野家」と「ゼンショー」による

M&A

 市場の縮小が続く外食業界では、2000年以降、事業の多角 化を狙ったM&Aが活発 化した。特に積極的だったのが、吉野 家とゼンショーの2社である。ゼンショーという社名には馴染 みが薄いかも知れないが、牛丼のすき家やなか卯、ファミリー レストランのココス、サンデーサン、華屋与兵衛などと言えば、

著者:

佐藤

龍太郎

企業買収

(M&A)

における

成功と失敗の

分かれ目

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ウェンディーズ。いずれの事業も黒字であったが、今後大きな 成 長 が 見 込 め な い と い う 判 断 で 撤 退 と なった 。買 収 先 が グループ 業績の足を引っ張ったために撤 退した訳ではない。 同 社 のM& Aは吉 野 家との比 較にお いて成 功 確 率が 高 いと いえるであろう。 『自社ケイパビリティ活用型』か、 『他社ケイパビリティ獲得型』か  両社のM&Aパフォーマンスの違いは一 体どこから生まれ たのか比較してみたい(図表2参照)。まず両社ではM&Aを実 行する目的が根本的に異なる。吉野家の狙いは牛丼事業への 依存度を下げるための事業領域の拡 大にある。これに対して ゼンショーの狙いは、マス・マーチャンダイジングの実現によ る品質とコスト競 争力の向上だ。目的が異なるため、M&Aの 方向性が変わってくる。吉野家は事業領域の拡大が目的だか ら、自社にない業態や運営ノウハウを買収によって獲得すると いう方針になる。一方のゼンショーは、品質とコスト競争力の 強化が目的だから、規模の経済効果の追求と川上統合を狙う という方針になる。M&Aの判断基準も対照的だ。吉野家の安 部社長はM&Aの対象について、「高級業態や、はやりものはや らない、大 衆 向けのビジネスかどうかが 基 準だ」と語ってい る。吉野家にとっては、買収先の事業形態が大きな判断基準の ようだ。ゼンショーの買収の判断基準は明確ではないが、買収 後に撤 退した2つ の 事例から類 推してみよう。同 社 がウェン ディーズから撤退したのは、日本マクドナルドが強いハンバー ガー業 界では大きな成長が見込めなくなったからである。ま た、カッパクリエイトから撤退したのは、スシローの買収が頓 挫して、回転寿司セグメントでは大きなシェア向上が見込めな くなった か らで あ る。そこ か ら 判 断 する と、ゼ ンショー の 佐藤龍太郎(さとう りゅうたろう) ([email protected]) ブーズ・アンド・カンパニー東京オフィス のプリンシパ ル。小売、サービス、消費 財 等 の 分 野を中心に多様 な 案件を手 掛け る。特に、事 業 再生に関 する 豊 富 なプ ロ ジェクト経 験を有し、企業 変 革を実現す るチェンジ・マネジメントの手法に精通。 図表

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:吉野家とゼンショーの連結業績と主な買収案件 出所 : 各社IR資料より 00年: 京樽買収(持ち帰り寿司) (京樽傘下のわのか(和食)からは撤退) 撤退 01年: 上海エクスプレス(中華宅配) 09年撤退 03年: ハミータコーポレーション(回転寿司) 03年撤退 石焼ビビンバ(ファーストフード) 06年: はなまる買収(ファーストフード) 07年: ラーメン一番本部買収(ファーストフード) 09年撤退 牛繁ドリームシステム買収(焼肉) 08年: どん買収(ファミリーレストラン) 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 3,000 2,000 1,000 0 12 10 8 6 4 2 0 -2 売上高 (億円) 営業利益率 (%) 営業利益率(右目盛) 売上高(左目盛) 吉野家 00年: ココスジャパン買収(ファミリーレストラン) 01年: ぎゅあん買収(焼肉) 02年: ビッグボーイジャパン買収(ファミリーレストラン) 日本ウェンディーズ買収(ファーストフード) 09年撤退 大和フーヅ買収(食品メーカー) 05年: なか卯買収(牛丼) 06年: カタリーナ・レストラン・グループ買収(米国) 07年: サンデーサン買収(ファミリーレストラン) スシロー/カッパへの資本参加 提携解消 08年: 華屋与兵衛買収(ファミリーレストラン) 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 3,000 2,000 1,000 0 12 10 8 6 4 2 0 -2 売上高 (億円) 営業利益率 (%) ゼンショー

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削減といった、オペレーション改善がゼンショーの強みだ。こ の強みのおかげで、一見共通性のない数多くの業態を有して も、収 益 を 改 善 さ せること が で きる。同 社 はコスト・コント ロール能力というケイパビリティを、買収した企業に一貫して 活用した。これが同社のM&Aの成 功要因である。繰り返しに なるが、ゼンショーのM&Aは、単に統 合型であったから成 功 した訳ではない。同社は結果的に、吉野家と同程 度の事業領 域 に 進 出 する こ と に 成 功 して い る(2009年 末 現 在、ゼ ン ショー、吉野家共に5つの事業領域に展開。ゼンショー:牛丼、 レストラン、ファーストフード、焼肉、宅配/吉野家:牛丼、テイ クアウト、ファーストフード、レストラン、焼肉)。ゼンショーは 買収先がどんな事業領域にあっても、一貫して自社のコスト・ コントロール能力を活用して買収 先の改善活動を行った。こ のためコンスタントに買収先の業績改善を実現することがで き、結果的に事業領域の拡大にも成功した訳だ。  一方の 吉 野 家 だ が、こちらは買収の 際、ど ん なケイパビリ ティを活用しようとしたのか明確に見えてこない。買収先のテ コ入れ策にも一貫性がない。はなまるうどんに対しては、店舗 管 理マニュアルの展開を試みたり、ラーメン一 番に対しては 屋号の変更や価格帯の見直しを行ったりと改善の方針がマチ マチだ。吉野家には会社更生法の適用後に再生を果たした過 去がある。そのこともあってか、破綻 企業の救済型M&Aを数 多く実行している。自社のケイパビリティを企業再生能力と捉 えたのかもしれない。しかしそれは、様々な事業領域の買収先 M&Aにおける最大の関心事は、個別の買収先の業績やセグメ ントの成長性ではない。おそらく、同一セグメント内で最終的 に勝ち 組になれるかどうかという点にありそうだ。おそらく 買収の際 の判断基 準も同様の点を重視しているものと推 測 できる。  以上のような違いから、結果として実行されたM&Aの形態 も対照的になってくる。吉野家はうどんやラーメン、ステーキ な ど、単 品 型 の 業 態 を 中 心 に、自 社 には な い 新し い 業 態 を 次々 に 買 収して いく、「多角 化 型」のM&A展 開 で あ る。ゼ ン ショーは、牛 丼、ファミリーレストラン、ファーストフードとい う、柱となる事 業領域内での 企業 買収と、食 品メーカー へ の 川上進出を狙う、「統合型(水平統合、垂直統合)」のM&A展開 である。このように言うと、「多角化型M&A」の成 功確率が低 くて、「統合型M&A」の方が成功確率が高いという話になって しまいそうだが、話はそう単純ではない。吉野家とゼンショー のM&Aパフォーマンスの差を分けた要因は2つあると考えて いる。一つは、両社がM&Aに活用したケイパビリティの捉え方 であり、もう一つが、M&Aにおけるケイパビリティの活用スタ ンスである。  ゼンショーと吉野 家が、買収において活用したケイパビリ ティについて比較してみたい。ゼンショーのケイパビリティは、 店舗単位での緻密なコスト・コントロール能力である。店舗人 員の食器の下げ方などに踏みこんだ、地道な動作改善による 生産性向上や、店員のしつけによる水道光熱費や廃棄ロスの 図表

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M&A

アプローチの違い 出所 : ブーズ・アンド・カンパニー分析 吉野家 目的 方向性 判断基準 形態 ケイパビリ ティ の捉え方 活用する自社 ケイパビリティ 活用の スタンス ゼンショー 事業領域の拡大 ないものを買う 大衆向けビジネスか? (買収先の事業形態) 多角化型 企業再生能力? (本来はロイヤルカスタマー構築能力) 買収先 ⇒ 自社 『他社ケイパビリティ獲得型』 品質とコスト競争力の向上 あるものが強くなるものを買う 勝ち組になれそうか? (セグメント内のシェア) 統合型 コスト・コントロール能力 自社 ⇒ 買収先 『自社ケイパビリティ活用型』

図表 1  : コスト削減および収益拡大の優先順位
図表 1  :  GE における事業領域とケイパビリティの推移 蒸気タービン オーブン レンジなど 家電製品 無線送信機白熱電球と発電機 真空管 資産担保融資消費者向け 商品 / サービス商用 ジェットエンジン航空宇宙産業と誘導装置 医療画像診断消費者信用消費者金融軍用ジェットエンジンレーダーと超音波探知機放射性画像X線装置ガスタービン技術の応用技術の応用技術の応用及び市場の活用技術の応用及び市場の活用市場の活用市場の活用機能の専門性市場の活用技術の活用市場の活用技術の応用技術の応用技術の応用技術の応用技術

参照

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