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早産児を出産した母親が母乳育児を通して親役割獲得に向かう過程

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Academic year: 2021

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日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 26, No. 2, 242-255, 2012

*1三重県立看護大学(Mie Prefectural College of Nursing)

2011年10月27日受付 2012年10月9日採用

資  料

早産児を出産した母親が母乳育児を通して

親役割獲得に向かう過程

Process of maternal role achievement through breastfeeding

among mothers who have given birth to a premature baby

田 中 利 枝(Rie TANAKA)

永 見 桂 子(Keiko NAGAMI)

* 抄  録 目 的  早産児を出産した母親が,母乳育児の体験を通して,親役割獲得に向かう過程を明らかにし,母親が 児との関係性を育み,母親役割を獲得していけるような母乳育児支援の方向性を考察する。 対象と方法  研究デザインは質的記述的研究とし,在胎週数23週∼28週の早産児を出産し,母乳育児中の母親7名 に,母乳育児を通した体験や思い等に関する半構成的面接法を実施した。得られたデータは質的帰納的 に分析した。 結 果  母親は〈早産という喪失体験に伴う複雑な心理状態〉で〈妊娠期の長期安静に伴う産後の体力回復の遅 れ〉もある中,出産直後からの〈母乳育児開始に向けた助産師の支援〉を受けて〈早産したからこそ生じ た母乳へのこだわり〉により,搾乳を開始していた。直接母乳ができるようになるまでの搾乳の過程で は〈母乳育児継続を支えた看護者や家族の存在〉により〈児のためにできる搾乳の継続〉と〈搾乳を通し た役割の模索〉を繰り返していた。直接母乳ができるようになると〈直接母乳により劇的に湧き出てき た母親としての実感〉を自覚していた。またこれらの過程で〈早産により中断された育児イメージの修 正〉が繰り返されていた。児の退院前には,母親が〈現実感とともに高まる児への愛情〉を感じ,母乳育 児を通して〈母親としての自己効力感の高まり〉が生じる一方〈育児イメージの広がりとともに生じる予 期的不安〉を抱えていた。 結 論  早産児を出産した母親の母乳育児を通した親役割獲得を促進するためには,母親の母乳育児への動機 付けや意味付けを支援する看護の重要性が示唆された。 キーワード:早産児,母親,母乳育児,親役割獲得,質的記述的研究

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Abstract Purpose

To identify the process by which mothers who have given birth to a premature baby acquire a maternal role through the experience of breastfeeding, and to consider directions for breastfeeding support that facilitates the de-velopment of a relationship between the mother and premature baby and the mothers' role achievement.

Methods

The research design was a qualitative descriptive study. Seven mothers who had given birth to a premature baby at 23-28 weeks gestation and were currently breastfeeding participated in semi-structured interviews focused on their experiences and thoughts regarding breastfeeding. Data were analyzed using a qualitative inductive ap-proach.

Results

In the 'complex psychological situation of experiencing loss through premature birth', and while dealing with 'delays in recovering strength after the birth due to prolonged enforced rest during pregnancy', mothers received 'support from midwives to start breastfeeding' from immediately after the birth, and started expressing milk with 'the conviction to breastfeed precisely because the baby was premature'. In the process of expressing until it be-came possible to breastfeed directly, participants repeated 'continuing expressing they could do for their baby' and 'seeking a role by expressing' with 'the existence of support from family and nurses as they kept on expressing'. When mothers could start breastfeeding directly, they were conscious of 'a dramatic surge of sense of really be-ing a mother through breastfeedbe-ing'. In this process, 'revision of the image of childcare that had been interrupted through premature birth' occurred recurrently. Before the baby's discharge from hospital, mothers felt 'heightened love for the baby with a sense of reality'. While they achieved 'enhanced self-efficacy as the mother' through breast-feeding, they also experienced 'anxiety about the future as they could imagine caring for their baby extensively'. Conclusion

The present findings demonstrate the importance of nursing that supports mothers' motivation to breastfeed and emphasizes the meaningfulness of breastfeeding in maternal role achievement through the experience of breastfeeding among mothers who have given birth to a premature baby.

Keywords: premature baby, mother, breastfeeding, maternal role achievement, qualitative descriptive study

Ⅰ.は じ め に

 近年周産期医療の進歩により,早産児の多くが救命 され,超低出生体重児として出生した児が順調に成 長し,退院していくことも珍しいことではない。一 方,現在社会的に問題となっている両親の子どもへの 虐待のリスクが高い対象として,低出生体重児で出生 した子どもがあげられる。このような社会的背景の 中,周産期医療におけるケアの質の向上,それぞれ の対象に合わせた個別性の高いケアが求められている。 早産児を出産した母親は,イメージした妊娠・出産・ 育児とは異なり,思いもよらない妊娠の中断からショ ック,子どもの死や障害への予期的悲嘆,児に対す る罪悪感,悲しみ,自責の念を体験する(福島・今泉 ・畑山他,1990)。長期間の母子分離状態となること から,母親が子どもへの愛情を育み,子どもを理解し, 母親として成長していくことは容易なことではない (Klaus & Kennell, 1982/1985; Klaus, Kennell & Klaus,

1995/2001)。  Mercer(1985)は,母親が自分の役割に適応し,母 親としてのアイデンティティを確立していけるように, 自分自身がイメージしていた役割に母親であるふるま いを統合する過程を母親役割獲得過程とし,正常な母 子に関する母親役割獲得過程の段階を明らかにしてい る。しかし,早産児を出産した母親に関しては,新し い母親役割への心理的・社会的調整を開始する段階の 中断を述べるのみでその後の経過については明らかに されていない。  早産児を出産した母親に対して,NICUではできる だけ早い時期から母乳育児支援,タッチング,カンガ ルーケア等,母子関係形成,親役割獲得の促進が図ら れている。特に母乳育児は,出産直後より児の発達を 待つことなく開始され,児の成長に応じて長期間にわ たり継続され,未熟な子どもの成長や健康に大きく貢 献する母親にしかできない役割である。母親としての アイデンティティは,母親としての行動に能力や自信 を感じたりすることに関連する(Mercer, 2004)ことか らも,多くの母親にとって母乳育児の成功は親役割の 一部であり,母乳育児の体験と親役割獲得には大きな 関連性がある(Riordan & Wambach, 2009)。NICUに

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までの母乳育児を通して,一番印象に残っている状況 や場面について」,「母乳育児の中で,赤ちゃんに対す る思い,自分自身についての認識に何か変化はあった か。それは,いつ頃,どんな変化だったか」等,母親 の妊娠中から児が退院を迎えるまでの母乳育児を通し た母親の体験や認識,思いとし,語りの内容は研究参 加者の了解を得てICレコーダーに録音した。母親か ら語られた内容をより深く理解する一助として,児の 退院時期まで数回母子の面会場面に付き添った。面会 場面の付き添いでは,面会場面の周囲の環境,看護者 の母子への関わり,母親の表情や反応,発言内容,同 伴者の母親への働きかけ等についてフィールドノート に記述し,母親の体験の想起を促す一助とした。研究 参加者の妊娠・分娩・産褥経過および児の出生後の状 態,その後の経過についてカルテからも経時的に情報 を得た。 5.分析方法:半構成的面接法で得られた録音データ を逐語録に起こし,母乳育児を通した母親としての体 験や認識,思いに関する意味内容をコード化し,サブ カテゴリーを抽出した。研究参加者から語られた内容 の意味付けを行うため,母子の面会時に観察された内 容も参考にした。各研究参加者から得られたサブカテ ゴリーの同質性と異質性に基づいてカテゴリーを抽出 し,全体分析を行った。得られたコアカテゴリーを用 いて,早産児を出産した母親が母乳育児を通して親役 割獲得に向かう過程を明らかにした。データの分析結 果の真実性・信憑性を確保するため,母性看護学の専 門家からスーパーバイズを受けた。 6.用語の定義 1 ) 母乳育児:生まれた児に母乳を与える,直接母乳 だけでなく,母乳を与えるために搾乳をすることや 児に母乳を届けるという行為も含むものとした。 2 ) 親役割獲得:母親が,母親としての実感を持ち, 子どもの母親としての役割を果たせていると実感で きるようになることとした。 7.倫理的配慮:A県総合周産期母子医療センター倫 理委員会審査判定(受付番号:08-7)および三重県立看 護大学研究倫理審査会(通知書番号:092502)の承認 を受けて実施した。早産児を出産した母親という特別 な配慮を要する研究参加者であることから,研究協力 施設の医師および新生児集中ケア認定看護師と連携し おける母乳育児支援は,母親が子どもの母親としての 実感を持ち,母親としての役割を獲得していくために 重要な位置づけにあると考えられる。早産児を出産し た母親は,児の生命に確証を得る前から母乳育児を開 始しており,児の身体的機能が不安定な時期に,児の 死に対する予期的悲嘆を抱えながら,母乳を児に届け ることを通じて児との関係を形成していこうとしてい る(藤本,1990)。その過程で,児のために母乳の必要 性が強調されるあまり,母親が母乳育児に対する思 いを十分に表出できず,自責の念から義務のように搾 乳を継続し精神的に追い込まれているとの指摘もある (高橋・井上・永澤,2006;和田・小林,2008)。一方, NICUにおいて母乳育児支援に関わる看護者は,母乳 分泌に関する知識や搾乳への早期介入の必要性を理解 していても,母親に対する心理的配慮から,早期介入 を逸している(横尾・宇藤・木下他,2008)。これまで のNICUにおける母乳育児支援に関しては,実態調査 やケア技術に関する量的研究が多く,母乳育児の主体 である母親の,母親としての体験や認識,思いを明ら かにした研究は見られない。  よって本研究では,早産児を出産した母親が,母乳 育児の体験を通して,親役割獲得に向かう過程を明ら かにし,母親が児との関係性を育み,母親役割を獲得 していけるような母乳育児支援の方向性を考察する。

Ⅱ.研 究 方 法

1.研究デザイン:質的記述的研究 2.研究参加者:在胎週数23週∼28週の早産児を出 産し,産後の経過が順調で母乳育児を開始しており, 研究参加に同意の得られた母親とした。研究協力施設 はA県総合周産期母子医療センターに指定されている。 3.調査期間:2010年3月∼10月 4.調査方法:医師から退院について説明がなされた, 退院指導をすすめている,退院前検査の予定が入った, 退院前の母子同室の予定が決まった等,研究協力施設 の新生児集中ケア認定看護師からの情報を得て,退院 前のインタビュー時期を決定した。自作のインタビ ューガイドを用いて,NICUの面談室で30∼40分程度 の半構成的面接法を実施した。面接内容は「これまで の母乳育児を振り返ってどのような気持ちか」,「これ

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ながら研究を遂行し,研究参加者の自由意思を尊重し, 匿名性の保持を厳守するよう十分に配慮した。

Ⅲ.結   果

1.研究参加者の属性  研究参加者の属性は表1に示す通りで,Cさんを除 き初産婦であり,全例妊娠28週までに早産に至った 母親である。いずれも生後2日目までに母乳栄養を開 始している。 2.早産児を出産した母親が母乳育児を通して親役割 獲得に向かう過程を構成するコアカテゴリー  全体分析の結果,43のカテゴリーが得られた。そこ から母乳育児を通して親役割獲得に向かう過程に関す る12のコアカテゴリーが抽出され,それらは母乳育 児を通した親役割獲得,母乳育児に並行する親役割獲 得,母乳育児を通した親役割獲得に影響する要因の3 種類に分類された。全体分析におけるサブカテゴリー, カテゴリー,コアカテゴリーは表2に示す。  以下に各コアカテゴリーについて,それらを構成す 表1 研究参加者の属性 年齢 産科歴 妊娠・分娩経過 児の出生状況 直接母乳開始 児の入院期間 面接時期 A 34歳 初産婦 切迫早産 経膣分娩 27週 860g Ap4/6点 生後64日目 約2か月半 産後85日目 B 25歳 初産婦 切迫早産 帝王切開術双胎妊娠で1児IUFD 25週 838g Ap2/4点 生後92日目 約4か月 産後122日目 C 28歳 経産婦 切迫早産 帝王切開術 25週 670g Ap2/5点 生後88日目 約3か月半 産後103日目 D 34歳 初産婦 不妊治療 HELLP症候群帝王切開術 28週 576g Ap2/5点 生後72日目 約3か月 産後93日目 E 30歳 初産婦 不妊治療 HELLP症候群帝王切開術 26週 579g Ap2/4点 生後86日目 約3か月半 産後101日目 F 37歳 初産婦 双胎妊娠で1児IUFDPIH 帝王切開術 28週 862g Ap1/3点 生後68日目 約3か月 産後79日目 G 28歳 初産婦 切迫早産 帝王切開術 28週 1055g Ap5/6点 生後59日目 約3か月 産後84日目 表2 全体分析におけるカテゴリー表 分類 コアカテゴリー カテゴリー サブカテゴリー 母乳育児を 通した 親役割獲得 早産したからこそ生じた 母乳へのこだわり 1.早産児を出産したからこ そ生じた児を生かすための 母乳へのこだわり B.壊れそうに未熟な児を生かすには母乳を出すしかないという決意と搾 乳への努力 B.児の消化機能の不安定さも母乳だからこそ乗り越えられると自分を励 まし継続した搾乳 B.人工栄養には果たせない母乳だからこそ児を生かせるという信念と搾 乳へのこだわり C.母乳がないと生きられない児のための搾乳継続への努力 D.児に飲んでもらうことを気遣って行った厳重な搾乳時の清潔維持 E.小さく産んでしまった児に母乳を与えられたことで生じた安堵感と児 の好転への期待 G.児を早く産んでしまったからこそ母親として母乳で育ててあげたいと いうこだわり G.術後に麻酔で朦朧とする中、搾乳を児に届けてあげられたことの意味 付けから生じた母親としての搾乳継続への意欲 搾乳を通した役割の模索 2.搾乳だけでは得られない 母親として児に何かをして あげられているという実感 A.経管栄養により生じる自分の母乳をあげているという実感のなさ D.直接母乳だからこそ得られる児に母乳をあげているという実感 E.搾乳では得られない児に母乳をあげているという実感 F.搾乳では得られない母乳で児を育てているという実感 F.搾乳では得られない児に母乳をあげているという実感 3.児に直接母乳をすることを  思って継続した苦痛な搾乳 D.児に直接母乳をすることだけを思ってひたすら継続した搾乳G.児におっぱいを吸ってもらえず搾乳をすることの苦痛と寂しさ 4.母乳分泌状況が児の欲求 を満たせなくなることへの プレッシャーや焦り A.母乳不足感により、児の欲求を満たせなくなることへの焦り E.母乳分泌低下により生じた児とのつながりが断たれるかもしれない不 安と母乳分泌維持への努力 G.家族からの自分への気遣いが感じられるほどに生じる母乳を出さなき ゃいけないプレッシャー G.搾乳で母乳分泌量が目に見えるからこそ生じる児に必要な哺乳量を満 たせるかというプレッシャー 5.面会や育児準備など児のこ とを中心とした日常生活 A.妊娠中にできなかった育児準備と児のことを中心にした生活D.児のことが気になって、児と面会することが中心の毎日 6.小さく生まれた児ならで はの哺乳行動への戸惑い C.上子とは違う小さく生まれた児ならではの哺乳行動E.経口哺乳中に呼吸状態が乱れる児に哺乳をさせることへの困難さと戸惑い

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母乳育児を 通した 親役割獲得 児のためにできる 搾乳の継続 7.他児の母親の母乳分泌維 持への強い関心と模倣 A.他児の母親の母乳分泌維持への強い関心と模倣 8.児のために母親として唯 一してあげられる搾乳の実 践 D.児のために自分ができる搾乳を一生懸命するしかないという決意と実践 F.児のために唯一自分ができる搾乳への頑張り G.母親として唯一児にしてあげられる母乳育児への努力 9.母乳分泌維持のための搾 乳継続の苦労と努力 A.母乳分泌維持のための児との面会に合わせた母乳外来受診への努力 C.上子の育児をしながらの搾乳継続が思い通りにいかないことへの葛藤 C.上子の育児では体験しなかった搾乳への試行錯誤 D.搾乳継続への努力と日常生活における拘束感 F.おっぱいが詰まることへの格闘と解決策の模索 10.夫婦で協力しながら児の ための搾乳を中心とした生 活 B.四六時中、夫婦で児のことばかり考えていた、搾乳を中心とした生活 E.夫婦で協力しながら、児のために搾乳を最優先にしていた生活 G.父親の育児参加に配慮した人工栄養というとらえ方 11.順調な母乳育児のための 食生活へのこだわりと配慮 A.自己の欲求を適度に満たしつつ母乳育児のために継続している食生活への配慮 C.乳房トラブルを回避して児のために良質な母乳を出すための食生活へ のこだわりと工夫 F.児のために良質な母乳を出すための手間暇かけた食生活への工夫と努力 直接母乳により劇的に 湧き出てきた 母親としての実感 12.搾乳の大変さと児に吸啜 してもらえる直接母乳の有 り難さ C.搾乳の大変さを一気に払拭する直接母乳の有り難さ D.児に搾母乳を与えることの大変さと直接母乳へのこだわり F.おっぱいの詰まりを一気に解消してくれる児の吸啜への有り難さ 13.直接おっぱいを吸ってい る児を目の前に実感した児 の成長への喜び A.壊れそうな児におっぱいを吸われた感覚への嬉しさ B.おっぱいを吸っている児の頼もしさと直接母乳ができた嬉しさ D.直接母乳を嫌がる児に戸惑いながらも意思表示できる児への嬉しさ D.力強くおっぱいを飲み込む児が普通の赤ちゃんに近づいたと思える嬉しさ E.直接母乳ができるようになるまで成長した児への嬉しさ 14.児の吸啜刺激による催乳感 覚と直接母乳へのこだわり B.児の吸啜刺激により自覚した劇的な身体感覚の変化と直接母乳への執着G.児に直接母乳をして得られた催乳感覚と母子双方の直接母乳への試行錯誤 15.児の吸啜行動への期待と 直接母乳への試行錯誤 A.未熟なわが子の吸啜行動への期待から生じた直接母乳への試行錯誤 D.直接母乳より瓶哺乳での方が機嫌よく吸啜する児への寂しさと直接母 乳への試行錯誤 16.直接母乳による母子相互 作用の実感と増大する児へ の愛情 B.自分の母乳を飲んでくれる児との一体感と児への独占欲 E.直接母乳による児との相互作用の実感と深まる児への愛情 E.児のぬくもりを実感する直接母乳により気付いた児のかけがえのなさ E.児に母乳をどんどん求められることへの嬉しさと直接母乳への意欲の高まり G.母乳育児を通して増大する児を育てていく責任感と児への愛情 17.直接母乳でようやく得ら れた児の母親になった実感 と使命感 C.児に直接母乳をして得られた催乳感覚と児を出産した実感 D.直接母乳ができたことへの達成感と普通の親子に仲間入りできた感覚 E.母乳育児を通してやっと得られた母親になった実感と児を守らなけれ ばという使命感 F.直接母乳によりやっと得られた児を産んだ実感と膨らむ児への愛情 F.直接母乳によりやっと得られた児の母親になった実感 G.直接母乳ができるようになって感じられた母親になった実感と責任感 G.いくら母乳が出ても、児が不安定な状態で搾乳をしていることによる 母親になった実感のなさ 18.児の吸啜刺激により想起 された上子への授乳 C.児の吸啜刺激により想起された上子への授乳 19.保育環境の変化により徐々 に近くなる児との距離感と 母子のつながりの確かさ A.保育器から出た児への親近感と児の反応の持つ意味への気付き E.直接母乳を通してだんだん近くなった児との距離感 F.別世界のような保育器に居る児との心のつながりの不確かさ 母親としての 自己効力感の高まり 20.母乳育児だからこそ実感 できる母と子のきずな A.児の情緒的成長のためにも笑顔で母乳育児を継続したい E.母乳栄養だからこそ感じられる親子のつながりにより生じた母乳栄養 継続への決意 F.唯一児との血のつながりを実感できる母乳育児 21.母乳育児への自身の努力 が児の成長に貢献できたと いう自己効力感 A.自分の母乳が順調な児の成長に貢献できたという自己効力感 C.小さく生まれたからこそ母乳育児をしていて実感できた児の成長への 気付きと嬉しさ E.リズムを保ちながら搾乳を継続できたことで得られた母乳育児に参画 できているという自己効力感 F.自分の母乳が順調な児の成長に貢献できたという自己効力感 G.母親にしかできない特権である母乳育児 G.母乳が児の成長に貢献できたという自己効力感 22.母乳育児によって得られた 母親らしくなっている自信 E.直接母乳や児の世話によって得られた児の母親らしくなっているという自信 母乳育児に 並行する 親役割獲得 早産により中断された 育児イメージの修正 23.妊娠中には描けなかった 出産後のイメージ E.妊娠中の母乳育児のことを具体的に考える余裕のなさF.妊娠中には持てなかった出産後のことまで考える余裕 24.妊娠期の母乳育児に対す る具体性のないイメージ G.妊娠期の母乳育児に対する関心と思い巡らせた母乳育児 25.上子の育児経験からくる 母乳へのこだわり C.母乳が出るならと経済面を考慮した搾乳の継続 C.乳房トラブルにより混合栄養となった上子の育児経験からくる今回こ そは母乳でという気持ち

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母乳育児に 並行する 親役割獲得 早産により中断された 育児イメージの修正 26.出産後の体験からくる妊 娠期の母乳育児のイメージ の具体性のなさへの気付き F.早産したら母乳は出ないという思い込みからくる動揺 G.早産してからの妊娠期に得られた母乳育児に関する知識の再確認と体 験からくる実感 現実感とともに高まる 児への愛情 27.児の順調な成長から取り 戻された現実感と心の癒し F.児の順調な経過による心の癒し G.児の成長とともに前向きになった自分の気持ちと児の誕生への素直な喜び G.児の退院を目の前に取り戻されてきた現実感と母親としての実感 G.早産してしまった事実の受容と自覚される抑うつ状態の消失 28.早産したからこそ時間を かけて育んだ児への愛情 F.早産後の長い母子分離期間があったからこそできた児を迎えるための心の準備G.初めての子どもを早産したからこそ変化した自分の職業観と増大する児への愛情 29.小さく生まれた児の成長 だからこそ実感した児の生 命の尊さ C.小さく産まれた児が成長してくれていることで実感した児の生命力 C.胎内での成長を目の当たりに見せてくれた児 F.死んでしまいそうな児を目の当たりにしたからこそ感じた児の命に対する重み G.小さいながらも頑張って生きてくれている児の生命力の実感 育児イメージの広がりと ともに生じる予期的不安 30.児の順調な成長でしか拭 いきれない早産への罪悪感 や後悔の念 D.児の順調な成長でしか払拭されることのない罪悪感 G.児の退院前の検査により想起される早産となった妊娠期の生活への後悔の念 31.児の退院後の母乳育児に 対する不安と焦り A.児の欲求を満たしてあげられないかもしれないという母乳分泌量への不安 A.退院後、直接母乳をちゃんと1人でできるかどうかという焦り G.母乳へのこだわりが強いからこそ生じる児の退院後の母乳分泌維持への不安 32.予測不能な退院後の育児 における児の急変への予期 的不安 A.退院後の児の急変に対する自己の対処行動への予期的不安 C.児が普通の子と違うという思いから生じる退院後の児の状態への予期的不安 D.児の退院に向けた準備と退院後の児の急変に対する自己の対処行動へ の予期的不安 E.児の未熟児網膜症の予後への気がかり E.退院後の児の哺乳時の急変に対する自己の対処行動への予期的不安 F.退院後の児の哺乳時の急変に対する自己の対処行動への予期的不安 F.予測不能な児の成長過程に対する予期的不安 G.これからの未知の育児に対する期待と児の急変に対する自己の対処行 動への予期的不安 母乳育児を通 した親役割獲 得に影響する 要因̶母親の 身体的・精神 的側面̶ 早産という喪失体験に 伴う複雑な心理状態 33.これまでの喪失体験から くる児の生への執着と予期 せぬ出産への衝撃 A.想像以上に未熟な児の姿を目の当たりにした衝撃と予期的悲嘆 A.数回の流産経験からくる児の生への執着と児のためにどんなことでも 頑張れるという決意 B.双胎妊娠で1児を喪失した体験から生じた児の生命への執着と予期し ない出産への動揺 34.予期せぬ出産による喪失 感 F.帝王切開術後の児を出産した実感のなさG.早産して周囲から児の出産を祝福されても感じられない喜び 35.児のおかれている状況に より左右される精神状態 D.児の状態に一喜一憂することの繰り返し G.児のおかれている状況から、産後の身体回復とは裏腹に、無気力にな っていく自分 36.早産となったことへの自 責の念と児に対する罪悪感 B.早産となった児に対する衝撃と罪悪感からくる面会へのためらい C.小さく産んでしまった児への申し訳なさと小さいながらもここまで成 長した児に出会えたことへの驚き D.仕事をしながら普通の出産を思い描いていた認識の甘さが早産につな がったという自責の念 D.仕事よりも児を大事にしたらよかったという後悔の念と小さく産んで しまったことへの罪悪感 F.児を残して退院した寂しさと申し訳なさ F.壊れそうな児を目の当たりにして感じた申し訳なさと何もできない無力感 G.児を小さく産んでしまったことへの自責の念 37.早産となった自分を安易 に慰めようとする母親に対 する怒り A.あまりにも未熟な児を産んだ私に気休めを言う実母に対する怒り D.早産となった自分を安易に慰めようとする義母に対する怒り 38.予期しない早産にも関わ らず児が無事に生まれてく れたことへの安心感 E.予期しない早産にも関わらず児が無事に生まれてくれたことへの安心感 妊娠期の長期安静に伴う 産後の体力回復の遅れ 39.長期安静による出産後の体力回復の遅れ C.長期安静により出産後に動いて児と面会することの辛さF.長期入院による出産後の体力回復の遅れと生活適応の困難さ 母乳育児を 通した 親役割獲得に 影響する要因 ̶看護者およ び家族からの 支援̶ 母乳育児開始に向けた 助産師の支援 40.助産師からの支援を得て 出産直後から開始できた母 乳育児 D.病室で1人搾乳をする孤独感を抱えた自分の助け舟になってくれた助 産師の存在 F.出産後の身体回復の遅れに配慮して自分のかわりに献身的に搾乳をし てくれた助産師への感謝 母乳育児継続を支えた 看護者や家族の存在 41.看護者からの支援を得て 継続できた母乳育児 A.看護師からの助言と励ましを得て継続できた母乳育児への努力 D.思いを傾聴してくれる看護師の支えによる気持ちの落ち着き G.専門職からの情報提供による母乳育児に関する知識の深まり 42.面会時の看護師の多忙さ への配慮 C.面会時の看護師の多忙さへの配慮 43.夫からの気遣いや共感に よる気持ちの癒し D.慌てず騒がず見守ってくれる夫からの癒し G.搾乳の大変さを抱える自分への夫の気遣いと搾乳への寄り添い G.家族を守る責任感からくる早産になったことへの夫の後悔と怒り

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るカテゴリーを用い,背景となる母親の語りを一部抜 粋しながら説明していく。記述中における〈 〉はコア カテゴリー,【 】はカテゴリー,「 」は母親の語り,( ) は補足説明である。 1 ) 母乳育児を通した親役割獲得  母乳育児を通した親役割獲得とは,母親が母乳育児 を実践する中で得られた,母親としての体験や認識, 実感である。 ①〈早産したからこそ生じた母乳へのこだわり〉  母親は,出産した直後から【早産児を出産したから こそ生じた児を生かすための母乳へのこだわり】を持 ち,壊れそうに未熟な児を目の当たりにし,児を生か すためには母乳を与えるしかないという決意から搾乳 の努力を積み重ねるなど,児を生かすための母乳にこ だわり,搾乳を開始する意欲を得ていた。 「母乳だからこそ,消化もしやすいって(看護師から)聞 いて,初めて母乳ってすごいって思って,少しでも出そ うと頑張りました」(Bさん) 「早く産んでしまった分だけ(母乳育児を)してあげたい っていう思いも強くなっていった」(Gさん) ②〈児のためにできる搾乳の継続〉  母親は,毎日3時間おきに搾乳を続け,搾った母乳 はすぐに冷凍保存しなければならないといった日常生 活における拘束感を感じるなど【母乳分泌維持のため の搾乳継続の苦労と努力】を体験していた。 「3時間,4時間ぐらいの範囲で動いて,冷凍室のあると ころじゃないと動けないので自由なようで自由じゃない。 どこそこ行きたいって思っても,冷凍室がないので,(母 乳は)溶かしたら絶対だめなので,動ける範囲が限られ ています」(Dさん)  児との面会時には,他児の母親と母乳分泌状況や母 乳分泌維持のための工夫に関する情報交換をするなど 【他児の母親の母乳分泌維持への強い関心と模倣】を 示し,他児の母親や看護職からの情報提供をもとに, 脂っこいものは避け,栄養バランスのよい食事を作る など【順調な母乳育児のための食生活へのこだわりと 配慮】を心掛けていた。家事があっても夫の理解を得 て,【夫婦で協力しながら児のための搾乳を中心とし た生活】を送っていた。 「家事とかあっても,母乳を最優先に,主人も子どもが 大事だから,搾乳の時間に主人が帰って来て,ご飯の準 備ってなっても,母乳を搾るのを優先させるっていう生 活」(Eさん)  児のために唯一できる搾乳を一生懸命するしかない という決意で,家で育児をしているかのように【児の ために母親として唯一してあげられる搾乳の実践】に 取り組んでいた。 「おっぱいを届けてあげることしかできなかったから, (母乳育児は)○○の母として,してあげられる(たった) 1つで,すごく大事にしたい」(Gさん) ③〈搾乳を通した役割の模索〉  母親は妊娠中にできなかった育児準備を進めるなど 【面会や育児準備など児のことを中心とした日常生活】 を送り,搾乳を通して目に見えてわかる母乳分泌量が 意識され,母乳分泌が低下すると,児とのつながりが 断たれるかもしれないという【母乳分泌状況が児の欲 求を満たせなくなることへのプレッシャーや焦り】を 感じていた。 「母乳がちょっと出にくくなってきたことがあって,も しかしたらこの先(赤ちゃんに母乳を)飲ませてあげら れないかもしれないっていう不安を感じた」(Eさん) 「子どもがいっぱい飲んでくれるようになって,もっと たくさん出さないといけない,出さないと足りなくなる っていうのがあって(プレッシャーだった)」(Gさん)  児に直接おっぱいを吸ってもらえず,児のことを思 いながら搾乳だけをする苦痛と寂しさを抱え,【児に 直接母乳をすることを思って継続した苦痛な搾乳】に 取り組んでいた。 「赤ちゃんの声とかを聞いて,それが刺激になって,(母 乳を)飲ませるのとは違って,(赤ちゃんは)大丈夫かな, 今日も何しているかなと想像しながらの搾乳はすごく大 変」(Gさん)  経管栄養のチューブで児に母乳をあげても,与薬の ような感覚で,自分の母乳で児を育てている実感が湧 かず【搾乳だけでは得られない母親として児に何かを してあげられているという実感】を抱えたまま,児の ために唯一できる搾乳を通して役割の模索を繰り返し ていた。 「(チューブで赤ちゃんにミルクをあげていたとき)何か すごく不思議で,自分のなんだけど,自分のおっぱいっ ていうイメージがなかった」「薬みたいな感じ」(Aさん) 「(直接母乳をできるようになるまで)赤ちゃんが頑張っ てたくましく育とうとしてくれているっていう感覚のほ うが強くて,自分が育てているっていう感じではなかっ た」(Fさん)  哺乳瓶で経口哺乳ができるようになっても,哺乳中 に呼吸状態が乱れる児を見て【小さく生まれた児なら ではの哺乳行動への戸惑い】を感じていた。

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④〈直接母乳により劇的に湧き出てきた母親としての 実感〉  母親は直接母乳ができるようになると,それまで格 闘していたおっぱいの詰まりが児の吸啜によって解消 されるといった搾乳の大変さが一気に払拭される感覚 を持つなど【搾乳の大変さと児に吸啜してもらえる直 接母乳の有り難さ】を実感していた。直接母乳を通し て,力強くおっぱいを飲み込む児が普通の赤ちゃんに 近づいた嬉しさなど【直接おっぱいを吸っている児を 目の前に実感した児の成長への喜び】を得ていた。 「(赤ちゃんがおっぱいを吸えることは)当たり前だと思 っていたけど,未熟児の子って吸えない子もいるってい うし,この子も吸えないかもしれないと思ったこともあ ったので,すごく頼もしいなと思いました」(Bさん)  自分の母乳を飲んでくれる児との一体感や児に求め られる母乳量がどんどん増えることへの嬉しさなど 【直接母乳による母子相互作用の実感と増大する児へ の愛情】により,母親の直接母乳への意欲が高められ ていた。 「(赤ちゃんの飲むことができる)母乳量がどんどん増え てきて,もっと搾らなきゃいけなくなった,成長してき たっていうことが,すごく嬉しかった。自分であげられ るようになって,(赤ちゃんが)飲んでくれて,ますます 母乳を出して,この子に与えてあげなきゃいけない」(E さん)  また,保育器から出た児に直接母乳ができたことで, 【保育環境の変化により徐々に近くなる児との距離感 と母子のつながりの確かさ】を自覚していた。直接母 乳ができたという達成感や普通の親子に仲間入りでき たという感覚,やっと母親になれたという実感,児を 守っていく使命感など【直接母乳でようやく得られた 児の母親になった実感と使命感】が得られていた。 「今まで搾り続けてきた,直母で実際に飲んでもらえた ことは,私の中で,ひとつ目標をクリアしたっていう感 じ」(Dさん) 「(母乳を)届けているだけ,赤ちゃんに触れているだけ では,何かをしてあげている感じはなかったけど,直母 であげられるようになったときにやっとお母さんらしい ことをしてあげたって思いました」(Eさん)  また,児の吸啜刺激を受け,劇的に母乳分泌が促さ れるような身体感覚を得て,直接母乳をすることに執 着するなど【児の吸啜刺激による催乳感覚と直接母乳 へのこだわり】が生じていた。 「直接母乳ができるようになって,ちょっとは吸ってく れた。(その後)家に帰って搾乳したら,びっくりするく らいの量(母乳)が出た。女性ホルモンが敏感になった のかなみたいな。絶対直接母乳しようって毎回思ってい ました」(Bさん)  直接母乳に慣れない児が,いつか上手におっぱいを 吸ってくれるようになると信じて練習するなど【児の 吸啜行動への期待と直接母乳への試行錯誤】が繰り返 され,直接母乳を通して児との相互作用が生まれ,児 への愛情や母親としての実感が急激に高まり,搾乳し かできなかったときの役割の模索から解放されていた。 なお,経産婦である母親は,上の子に直接母乳をした ときを思い出したなど【児の吸啜刺激による上子への 授乳の想起】をしていた。 ⑤〈母親としての自己効力感の高まり〉  児の退院前には,母乳育児を通して自分の血液から 作られた母乳を児が飲んでいるといった,児との血の つながりを実感するなど【母乳育児だからこそ実感で きる母と子のきずな】が築かれていた。 「(母乳育児は)血のつながりと一緒で,私の体から出た ものを(赤ちゃんが)飲んでいるっていうつながり,唯 一のつながり」(Fさん)  母親は,搾乳の継続や食生活の工夫を通して母乳育 児に参画できていた自分を認めるなど【母乳育児への 自身の努力が児の成長に貢献できたという自己効力 感】を持っていた。また,直接母乳をすることに伴い, 児を育てている自分を意識できるようになるなど【母 乳育児によって得られた母親らしくなっている自信】 を得ていた。 2 ) 母乳育児に並行する親役割獲得  母乳育児に並行する親役割獲得とは,母乳育児だけ に限定されない親役割獲得ではあるが,母乳育児をす ることで,小さく生まれた児を育てていくイメージが 促進され,児への愛情が増大する等,母乳育児を通し た親役割獲得と相互に作用し合うものである。 ①〈早産により中断された育児イメージの修正〉  母親は【妊娠中には描けなかった出産後のイメージ】 という妊娠週数が満期に近付くにつれて生じてくる, 児の育児をしていく自分の姿や赤ちゃんのイメージが 形成されない状態であった。母乳育児に対しても何と なく関心を寄せ,思い巡らせようとしていた矢先【妊 娠期の母乳育児に対する具体性のないイメージ】のま ま突然の出産に至っていた。 「妊娠中は,(時期が)早かったので,母乳がいいってい うのを漠然と思っているだけで,こうしたいっていうの

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は,特になかったです」(Eさん)  早産したら母乳は出ないと思い込んでいたのに,実 際にはそうではない現実に直面するなど【出産後の体 験からくる妊娠期の母乳育児のイメージの具体性のな さへの気付き】が生じ,妊娠期に得られた母乳育児に 関する知識も,実際の体験を通して再確認する必要が あることを実感し,妊娠期の具体性のない育児イメー ジの修正がなされていた。 「実際に子どもが早く生まれて(母乳が)すごく大事で, 早産の子には早産のおっぱいが出るって聞いて,それか らもっと(搾乳を)頑張らなって思いつめたら,おっぱ いが出なくなって,もう1回(妊娠中に読んだ)本を読み 直したり,母乳外来も行ったりしていたら,(母乳分泌 が)復活してきたので,(実際に)体験しないとだめだな と思った」(Gさん)  なお,育児経験のある母親は,乳腺炎を起こして人 工栄養になっていってしまった【上子の育児経験から くる母乳へのこだわり】を持っていた。 ②〈現実感とともに高まる児への愛情〉  母親は児の退院前に,もうすぐ児が家に戻ってくる ことを思い巡らし,児を家に迎え入れる準備をしたり する中で,母親としての現実感が湧くなど,小さく生 まれた【児の順調な成長から取り戻された現実感と心 の癒し】を得ていた。 「退院っていう言葉が聞かれるようになってきて,どん 底に落ちていた(気持ち)が全然上を向いて歩けるよう な感じになって,だんだん現実の世界に戻ってきたみた いな感じで,今まで全然準備することができなかった子 どものものをお洗濯して,“何かお母さんぽいこれ”とか 思って,“あー(赤ちゃんの退院が)もうすぐなんや”っ て思って,すごく嬉しくなった」(Gさん)  【小さく生まれた児の成長だからこそ実感した児の 生命の尊さ】を感じ,早産後の長い母子分離期間があ ったからこそ,児を迎え入れる心の準備ができたとい った【早産したからこそ時間をかけて育んだ児への愛 情】を認識していた。 「産んですぐ(赤ちゃんのお世話が)始まったお母さんが 思う愛情とは違う愛情が先にあって,そばに(赤ちゃん が)いたら大変だから辛い気持ちがたくさん来ると思う けど,私は(NICUで)見てもらって,母乳だけを出して いればよかったので,早く元気になってほしい,お家に 帰ってきてほしいって思える余裕があった。ハンディが あっただけに大切に育てたい」(Fさん) ③〈育児イメージの広がりとともに生じる予期的不安〉  児の退院前には,沐浴などの育児練習が始まり,こ れまで看護師に支援してもらっていた冷凍母乳を温め て準備するといったことなど,これから育児を自分で していくことを具体的にイメージできるからこそ,退 院後の直接母乳をちゃんと1人でできるかどうかとい う焦りなど【児の退院後の母乳育児に対する不安と焦 り】を感じていた。 「(直接母乳で)飲ませて,(足りない分)冷凍してある(母 乳を)あっためて飲ませてってしていると,(赤ちゃん が)泣いている間かわいそうと思うし,こんなんじゃ家 に帰ってもどうしたらいいだろう,ヤバイ,ヤバイと思 う」(Aさん)  小さく生まれた児ということを意識することで【児 の順調な成長でしか拭いきれない早産への罪悪感や後 悔の念】が思い起こされ,NICUで児が哺乳中に突然 無呼吸になる状況に直面した体験もあることから,こ れからの未知の育児に対する期待を持ちつつも,児の 急変に対して自分が適切な対処行動がとれるかどうか など【予測不能な退院後の育児における児の急変への 予期的不安】が生じていた。 「(退院してからの育児は)わからない未知の世界で,可 能性も子どもって未知だけど,病気になったりとかした ら,どんな症状が出るだろうとか,(子どもが自分に)与 えてくれるもの,その幸せも大きいけど不安もありま す」(Gさん) 3 ) 母乳育児を通した親役割獲得に影響する要因  早産児を出産したことに伴う母親の身体的・精神的 側面,看護者および家族からの支援が,母乳育児を通 した親役割獲得に影響する要因としてあげられた。 (1)母親の身体的・精神的側面 ①〈早産という喪失体験に伴う複雑な心理状態〉  母親は過去に数回の流産を経験したことにより,児 を生かしたい思いから児のためならどんなことでも頑 張れると決意する一方,早産となってしまったことへ の動揺を抑えきれないなど【これまでの喪失体験から くる児の生への執着と予期せぬ出産への衝撃】を受け ていた。 「最初の妊娠と今回はやっぱり全然気持ちが違って,ま たあかんかもしれへんっていう気持ちがすごく強かった から,これだけやっと(赤ちゃんが)育ってくれたので (赤ちゃんのためにできることを)頑張りたいって気持 ちがあった」(Aさん)  周囲から児の出産を祝福されても喜びが感じられな いなど【予期せぬ出産による喪失感】を感じ,壊れそ

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うに未熟で今にも死んでしまいそうな児の状況を目の 当たりにして,自分の身体は回復してくるものの無気 力になっていくなど【児のおかれている状況により左 右される精神状態】を自覚していた。 「出産して実家に帰って(家族から)大事にしてもらって, 子どもはまだいっぱい治療を受けて頑張っていて,自分 だけが元気になってすぐに回復してくるのに,赤ちゃん はすごくしんどい目に合っているとか思って,無気力に なっていた」(Gさん)  【早産となった自分を安易に慰めようとする母親に 対する怒り】や,仕事をしながら普通の出産を思い描 き,早産に対する認識が甘かった自分を責める気持ち など【早産となったことへの自責の念と児に対する罪 悪感】が生じていた。 「(妊娠中は)早産っていう,危機意識がなかった。まさ かそれが自分に降りかかってくるとは思っていなかった ので,血圧が200ぐらいあっても仕事行っていましたか ら,あの時に仕事に行かんと体を休めていたら,もっと 早いこと手を打っていたら,(赤ちゃんは)もうちょっと 週数長いことおれたのではないのかな」(Dさん)  また,突然の出産となり,児の状態がどうなるのか 心配していたにも関わらず,児が無事に生まれたこと を知ってホッとするなど【予期しない早産にも関わら ず児が無事に生まれてくれたことへの安心感】も生じ ていた。 ②〈妊娠期の長期安静に伴う産後の体力回復の遅れ〉  母親は妊娠中,入院管理で長期安静を余儀なくされ たことから,産後の体力回復が遅れ,児と面会するた めに動くことが辛く,日常生活に適応していく困難さ を抱えるなど【長期安静による出産後の体力回復の遅 れ】を実感していた。 「2週間ぐらいずっと入院して,寝たきりだったので, 筋力が落ちていて,手術後に動くのが辛くて,(赤ちゃ んの)面会に行くにもふらふらする感じがあって,産ん だ直後は,それが一番,大きかったような気がします」 (Cさん) 「搾乳していて大変だったのは,(家事や搾乳に)体力が ついてこなかったところ」(Fさん) (2)看護者および家族からの支援 ①〈母乳育児開始に向けた助産師の支援〉  助産師が病室で1人孤独感を抱えて搾乳をする自分 の助け舟になってくれたことや出産後の身体回復の遅 れに配慮して自分のかわりに献身的に搾乳をしてくれ たことなど,【出産直後からの母乳育児開始に向けた 助産師の支援】に対する感謝の気持ちを表出していた。 「(出産してすぐ)一生懸命(母乳を)出してくれて,血圧 も高いままだったし,息も浅くてうなされていたけど, 一生懸命,スポイトで(母乳を)とってもらって,出そ うと思っているわけではないけど,頑張れば出してもら えるっていう,ほんとに看護師(助産師)さんに感謝の 気持ちでいっぱいだった」(Fさん) ②〈母乳育児継続を支えた看護者や家族の存在〉  母親は,看護師が忙しそうにしているときは話しか けることを自粛するなど【面会時の看護師の多忙さへ の配慮】をしながらも,看護師から情報提供を受ける ことで母乳育児に関する知識が深まり,思いを傾聴し てもらうことで気持ちが落ち着くなど【母乳育児継続 のための看護者からの支援】を実感していた。夫が搾 乳の大変さを抱える自分に気遣い,搾乳をしている自 分に寄り添ってくれることで【夫からの気遣いや共感 による気持ちの癒し】を得ることができ,母乳育児を 継続できていた。 「(旦那は)母乳が(私の)唯一(赤ちゃんに)届けてあげ られるものっていうこともわかってくれていたので,睡 眠をちゃんととらないといけない,疲れていたら(母乳 が)出ないからとか気にしてくれて,出なくなったとき はどうしよう出ないって言って,無我夢中で一緒に悩ん で,人に搾ってもらったらまた違うかもしれないから搾 ってと(旦那に)言って手伝ってもらった」(Gさん)

Ⅳ.考   察

1.早産児を出産した母親が母乳育児を通して親役割 獲得に向かう過程  早産児を出産した母親が母乳育児を通して親役割獲 得に向かう過程として抽出された12のコアカテゴリー の構造を図1に示した。  早産児を出産した母親は,突然の妊娠の中断から 〈早産により中断された育児イメージの修正〉に直面 し,出産後〈早産という喪失体験に伴う複雑な心理状 態〉で〈妊娠期の長期安静に伴う産後の体力回復の遅 れ〉もある中,出産直後からの〈母乳育児開始に向け た助産師の支援〉を受けて〈早産したからこそ生じた 母乳へのこだわり〉により,搾乳を開始していた。直 接母乳ができるようになるまでの搾乳の過程では〈母 乳育児継続を支えた看護者や家族の存在〉により〈児 のためにできる搾乳の継続〉と〈搾乳を通した役割の 模索〉を繰り返していた。直接母乳ができるようにな

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ると〈直接母乳により劇的に湧き出てきた母親として の実感〉を自覚していた。また,これらの過程で〈早 産により中断された育児イメージの修正〉が繰り返さ れていた。退院前には,母親自身が〈現実感とともに 高まる児への愛情〉を感じ,母乳育児を通して〈母親 としての自己効力感の高まり〉が生じる一方〈育児イ メージの広がりとともに生じる予期的不安〉を抱えて いた。  早産児を出産した母親は,母乳育児の体験を通して 親役割獲得に向かう過程において, 早産したからこ そ 児を小さく産んでしまったからこそ 児を生かす ための母乳にこだわり,自分自身に母乳育児を開始す る動機付けを行っていた。また,直接母乳ができるよ うになるまでの搾乳を,児のために母親としてできる 唯一のことと意味付け,家で育児をしているようなつ もりになって継続していた。さらに,直接母乳開始と ともに,劇的に母親としての実感が湧き,直接母乳を 母親である証と意味付けていた。  人は,生まれたときから自分自身を成長させ,発達 させようとする動機付けを持ち,自身を成長に向かわ せる能力を持っている(Maslow, 1968)。また人は,絶 えず自分自身を取り巻く事象や人間,社会を自分なり に意味付け,自己を再編成しながら成長していく(岡 本・山上,2000)。人が生涯にわたり発達していく過 程で,役割を持つということは,自己の成長につなが る新たな能力を獲得していくことでもある(Barbara & Philip, 1975/1988)。  このように,早産児を出産した母親は,母乳育児の 体験の中で,自己を動機付け,行為を意味付けること によって,母親としての新たな能力を獲得していこう としていたと考えられる。このような母親が母乳育児 を通して親役割獲得に向かう過程を支援していくため には,母親の母乳育児を開始する動機付け,母乳育児 における行為の意味付けを踏まえた上でそれらを強化 していく必要がある。 2.早産児の母親が母乳育児を開始する動機付け  早産児の母親は 妊娠中の母親役割に求められるも

母乳育 児を通 した 親役割獲 得

母乳育 児に並 行す る親役割 獲得

母乳育 児を通 した 親役割獲 得に影響する要因

母乳育 児を通 した 親役割獲 得に向 かう過程

時間 早産したからこそ生じた 母乳へのこだわり 児のためにできる搾乳の継続 搾乳を通した役割の模索 直接母乳により劇的に 湧き出てきた母親としての実感 早産という喪失体験に伴う 複雑な心理状態 妊娠期の長期安静に伴う 産後の体力回復の遅れ 母乳育児開始に向けた 助産師の支援 母乳育児継続を支えた看護者や家族の存在 現実感とともに高まる児への愛情 早産により中断された育児イメージの修正 育児イメージの広がりとともに生じる予期的不安 母親としての 自己効力感の高まり 図1 早産児を出産した母親が母乳育児を通して親役割獲得に向かう過程

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のに関する知識の習得,母親役割への社会的・心理的 調整の開始 の段階が中断される。そして,児の死に 対する予期的悲嘆,早産となったことへの罪悪感・自 責の念,母親としての無力感を感じつつ,出産をとり まく出来事や喪失感に対処しなければならない。さら に,子どもの状態に望みを抱き,妊娠期にイメージし ていた子どもと出産した早産児のイメージを調和させ なければならない(Mercer, 1995)。  母乳育児においても,早産児の母親は,妊娠期にイ メージしていた直接母乳ができず,唯一できる搾乳に 一生懸命取り組むなど〈早産により中断された育児イ メージの修正〉をしていた。さらに〈早産という喪失 体験に伴う複雑な心理状態〉にありながらも〈早産し たからこそ生じた母乳へのこだわり〉により搾乳を開 始していたことが明らかとなった。  産褥期の母親の否定的な出産体験は,母親役割の獲 得にマイナスに作用するが,否定的感情を表出させて わだかまりを消すという情緒的な作業を行い, 分娩 体験の想起 により経験を統合することで,自己概念 を再構成することができる(Mercer, 1981)。本研究に おいて,母親は,出産後に壊れそうな児を目の当たり にし,小さく産んでしまったことへの自責の念や罪悪 感を抱えるからこそ,児を何とか生かしたいと願い搾 乳を開始していた。このことから,搾乳を開始する動 機を母親が得るためには,早産してしまったという事 実と向き合い,今の自分にできることを再確認するこ とが必要であるといえる。  母乳育児は,母親が母乳をわが子に与えようという 意識をもつことから始まり,母乳を与えられるのはそ の子の母親だけであるという事実も極めて重要である (堺,2004)。早産児を出産した母親も,児に母乳を与 えようと母乳育児への動機を持てることが大切であり, そのためには,母親自身が〈早産という喪失体験に伴 う複雑な心理状態〉と向き合い,対処していく必要が あることが明らかとなった。  看護としては〈妊娠期の長期安静に伴う産後の体力 回復の遅れ〉に配慮した出産直後からの〈母乳育児開 始に向けた助産師の支援〉が必要であり,何より〈早 産という喪失体験に伴う複雑な心理状態〉を受け止め ることが重要である。  早産児を出産した母親の母乳育児支援について,母 親に対する心理的な配慮から,看護者が搾乳への早期 介入に困難さを抱えている実態もある(横尾・宇藤・ 木下他,2008)。しかし,母親の〈早産という喪失体験 に伴う複雑な心理状態〉を支えることも搾乳への動機 付けに重要であり,母親への心理的配慮と搾乳への介 入は,同時進行で行うからこそ意味がある。出産直後 からの〈母乳育児開始に向けた助産師の支援〉に示さ れるように看護者は母親のかわりに児のために必要な 搾乳をしてくれる存在であり,児を生かすために母乳 を出すという母親の思いに寄り添う存在である。よっ て,早産児を出産した母親に対する産後早期からの搾 乳への介入は,母親が〈早産という喪失体験に伴う複 雑な心理状態〉と向き合い,母乳育児を開始する動機 付けにつながるものであると考えられる。 3.早産児の母親にとっての搾乳の意味付け  母親は,直接母乳開始まで,搾乳を継続することを 〈児のためにできる搾乳の継続〉と意味付け〈搾乳を通 した役割の模索〉を繰り返す時期を過ごしていた。  早産児の母親は,児の身体的機能が不安定な時期か ら,母乳を児に届けることを通じて児との関係を形 成していこうとしている(藤本,1990)。しかし実際に, 母親が児との関係性を築くことができていると認識で きるようになるのは,直接母乳開始からであることが 示された。また,児に母乳を注入するという楽しみを 母親に与えることは,搾乳意欲のきっかけとなり,母 親の早期からの育児参加につながる(長屋・林・竹田 津他,2004)とも言われているが,母親にとって母乳 注入は,母親としての役割を模索する過程での行為の 一部であり,児を育てているという実感はなく,母乳 注入という行為に母親としての意味付けはしていない ことが明らかとなった。  母親は搾乳だけを繰り返している時期は,母親とし ての自分に何か物足りない感覚を持ちつつも,児の順 調な成長のため,児の欲求を満たすためということを 最優先に唯一児のためにできる搾乳を継続していた。 その過程において母親としての実感がないながらも搾 乳を継続することができたのは〈児のためにできる搾 乳の継続〉という搾乳の意味付けにより,〈搾乳を通し た役割の模索〉を繰り返したからであると考えられる。  また母親の中には,妊娠期にイメージしていた直接 母乳をしている自己像に到達したいとの思いで搾乳を 継続した母親もいたことから,直接母乳開始までの搾 乳は,妊娠期に描いていた自己像に近付くための努力 でもあり,直接母乳に向けた心の準備をするための時 間でもあったと考えられる。  看護としては,母親自身が搾乳を継続することに意

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味を見出し,直接母乳に向けた心の準備も含めた役割 の模索ができるような関わりが重要である。特に母乳 育児において,児が成長に必要な栄養を摂取している とわかると母親は達成感を感じる(Francine & Shar-ron, 2000)ことから,自分の届けている母乳が児の成 長に貢献できていると母親が感じられるような関わり が,搾乳の意味付けに重要であると考えられる。 4.早産児の母親にとっての直接母乳の意味付け  母親は,直接母乳が開始したとき,直接母乳を児の 成長の証ととらえ,〈直接母乳により劇的に湧き出て きた母親としての実感〉が得られたと感じていた。直 接母乳は母子間の重要な行動をすべて含んだ行為であ り(堺,2004),母親は児との相互作用を意識し,〈現 実感とともに高まる児への愛情〉を強く感じていた。 また,母乳育児を通して〈母親としての自己効力感の 高まり〉が得られるからこそ,その先のことを想定で きるようになり〈育児イメージの広がりとともに生じ る予期的不安〉を抱えていた。  早産児の母親が,直接母乳を開始していく時期は, 母親が児の母親になれていることを劇的に強く意識す る時期であり,また,直接母乳を開始することをきっ かけに,母親の児を育てていく責任感や意欲が高まり, 児の成長を確かなものと確認できる時期である。  よって,看護としては,直接母乳を開始する時期に, 母親が児の母親としての実感を持ちながら,児を育て ていく責任感や意欲を高められるような関わりが重要 であると考えられる。

Ⅴ.結   論

 早産児を出産した母親が母乳育児の体験を通して親 役割獲得に向かう過程を明らかにするため,7名の母 親に半構成的面接法を実施して質的帰納的に分析した。  その結果,母親は〈早産したからこそ生じた母乳へ のこだわり〉が母乳育児開始の動機となり,直接母乳 ができるようになるまでは,母親としての実感のなさ から〈搾乳を通した役割の模索〉に葛藤しつつも,搾 乳の継続を〈児のためにできる搾乳の継続〉と意味付 け〈直接母乳により劇的に湧き出てきた母親としての 実感〉が得られるまで継続し,退院前には,母乳育児 を通して,〈母親としての自己効力感の高まり〉が生じ ていたことが明らかとなった。  早産児を出産した母親の母乳育児を通した親役割獲 得を促進するためには,母乳育児への動機付けや意味 付けを支援する看護の重要性が示唆された。 謝 辞  本研究にご理解いただき調査にご協力くださいまし た7組の母子と,A県総合周産期母子医療センター臨 床研究部長,新生児科医長,看護部長,NICU看護師 長,新生児集中ケア認定看護師,スタッフの皆様に心 より感謝いたします。  本研究は2010年度三重県立看護大学大学院看護学 研究科に提出した修士論文を一部加筆・修正したもの であり,第52回日本母性衛生学会学術集会において 発表した。 引用文献

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参照

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