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女性に対する暴力スクリーニング尺度への回答と想起した状況の分析

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日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 29, No. 1, 22-34, 2015

*1聖路加国際病院(St. Luke's International Hospital) *2聖路加国際大学(St. Luke's International University) *3市立大町総合病院(Omachi Municipal General Hospital)

2014年5月15日受付 2015年1月22日採用

原  著

女性に対する暴力スクリーニング尺度への回答と

想起した状況の分析

Analysis of women's response and situation for items of the violence

against women screen in prenatal settings

今 関 美喜子(Mikiko IMAZEKI)

*1

片 岡 弥恵子(Yaeko KATAOKA)

*2

櫻 井 綾 香(Ayaka SAKURAI)

*3 要  旨 目 的  女性に対する暴力スクリーニング尺度(VAWS)は,日本で作成されたDVのスクリーニングツールで ある。より正確で臨床適用性の高いツールを開発するため,本研究は,妊娠期にDVスクリーニングで 用いたVAWSの項目について産褥期にインタビュを行い,質問項目への回答と想起された状況を明らか にすることを目的とした。 対象と方法  7項目で構成される原版VAWSに,精神的暴力に関する5項目を加え12項目の改訂版VAWS(案)を作 成した。研究参加者は,妊娠期にDVスクリーニングを行った褥婦43名であった。産褥入院中に,改訂 版VAWS(案)の質問項目から想起された女性とパートナーの状況等について半構成的インタビュを行 った。分析は,内容分析の方法を用いた。本研究は,聖路加看護大学研究倫理審査委員会の承諾を得て 実施した。 結 果  改訂版VAWS(案)の項目のうち,精神的暴力を問う項目は多様な認識が認められた。「もめごとが起 こったとき,話し合いで解決するのは難しいか」という質問項目に関しては2カテゴリ【言い争いになる】 【話し合いができない】が抽出され,「話し合い」には,一方的とお互いにという両方の文脈で語られて いた。「大きな声で怒鳴ったりすることはあるか」「パートナーとの関係性の中で安心が得られているか」 「彼にコントロールされていると感じるか」「あなたの気持ちを無視するか」の精神的暴力を示した項目 については,3つ以上のカテゴリが抽出され,開発者の意図とは異なる認識が含まれた。さらにこれら の項目には【選択肢を間違えた】【判断に悩んだ】が含まれているものがあった。一方,精神的暴力を示 す「パートナーのやることや言うことを怖いと感じるか」は複数のカテゴリが抽出されたが怖いと感じ た状況が語られた点で類似しており,「壁をたたいたり,物を投げたりすることはあるか」および身体的

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暴力と性的暴力を示す項目は,1つのカテゴリのみ抽出された。 結 論  精神的暴力を示す質問項目については,研究参加者によって様々な認識があることがわかった。今後 本研究結果に加えて,量的データから正確度を検討し,より臨床適用性の高いDVスクリーニングツー ルに改訂する必要がある。 キーワード:ドメスティックバイオレンス,親密なパートナーからの暴力,スクリーニング,周産期, 尺度 Abstract Purpose

The Violence Against Women Screen (VAWS) is a Japanese screening tool for intimate partner violence. In order to revise the VAWS to be more accurate and applicable for clinical settings, we conducted an interview with postpartum women screened for IPV during pregnancy to clarify women's response and its situation for VAWS items.

Methods

Five new items inquiring about psychological violence were added to the seven items in the original VAWS. A total of 43 postpartum women who answered the 12-item VAWS during pregnancy were asked their response and its situation of the VAWS question items by semi-structured interview. The data was analyzed using content analysis. This study was approved by the Institutional Review Board of St. Luke’s College of Nursing (Approval No. 11-039). Results

Participants expressed a variety of perceptions concerning question items on psychological violence. For the question "Is it difficult to settle arguments by talking?", replies consisted of 2 categories: [Get into a quarrel] and [Lack of conversation]. The concept of "talking" included both one-way and two-way conversation depending on con-text. The psychological violence questions "Has he yelled at you?", "Do you feel safe?", "Do you feel controlled by your partner?" and "Does he have no respect for your feelings?" consisted of more than three categories of answers, including perceptions that researchers did not intend. In addition, some of the psychological violence questions had response categories [Chose wrong options] and [Felt hesitant about which option to choose]. On the other hand, for two psychological violence questions: "Have you felt afraid?" and "Has your partner thrown or punched things?", and for the physical violence and sexual violence questions, participants' perceptions were most consistent.

Conclusion

Various perceptions were expressed by participants concerning psychological violence questions. In accor-dance with our quantitative data analysis, the VAWS requires further revision to make it an accurate and applicable tool to screen IPV.

Keywords: domestic violence, intimate partner violence, screening, perinatal, instrument

Ⅰ.序   論

1.研究の背景   ド メ ス テ ィ ッ ク・ バ イ オ レ ン ス(Domestic Vio-lence:以下,DVとする)とは,夫婦や恋人など親密な 関係における暴力であり,世界中のあらゆる地域に 存在する。日本では,成人女性の3人に1人はパート ナーから身体的暴力を経験しており(内閣府男女共同 参画局,2012),配偶者暴力相談支援センターにおけ る相談件数も年々増加している深刻な状況にある(内 閣府男女共同参画局,2013)。また,DVは女性および 胎児の健康に多大な影響を及ぼす。DVによる健康被 害は,身体的暴力による外傷だけではなく,抑うつ

や自殺企図(Beydoun, Beydoun, Kaufman, et al., 2012, pp. 969-970; McLaughlin, O'Carroll, & O'Connor, 2012, pp.679-685),心的外傷後ストレス障害(DeJonghe, Bo-gat, Levendosky, et al., 2008, pp.294-295; Dutton, Green, Kaltman, et al., 2006, p.958)といった精神症状が顕著 である。周産期においては,流早産,人工妊娠中絶, 低出生体重児,胎児機能不全,胎児死亡などが報告さ れている(Sharps, Laughon, & Giangrande, 2007, p.110; Boy & Salihu, 2004, pp.161-162; Sarkar, 2008, p.269)。  DVの早期発見や健康被害の予防と対応のため,全 妊産婦を対象としてDVスクリーニングを実施するこ とが推奨されている(聖路加看護大学女性を中心にし たケア研究班,2004, p.45; World Health Organization,

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2013)。DVスクリーニングツールは欧米を中心に10 種類以上開発されている(Feder, Ramsay, Dunne, et al.,

2009, p.33)。日本で開発されたスクリーニングツール

としては,「女性に対する暴力スクリーニング尺度:

Violence Against Women Screen(以下,原版VAWSと

する)」(片岡, 2005)があり,臨床での活用が報告され ている(長坂・井上・堀井他, 2012)。しかし,関東圏 の病院を対象とした調査結果では,DVスクリーニン グを実施している施設はわずか5%であり(片岡・櫻 井・江藤他, 2010, p.61),ほとんど実施されていない 現状がある。DVスクリーニングを推進するためには 様々な方略が必要であるが,正確性が高い,つまり偽 陽性と偽陰性が少ない質のよいスクリーニングツール の開発が必須である。さらに女性および医療者への負 担が少ないなど臨床適用性が確保される必要がある。  そこで我々は,「女性に対する暴力スクリーニン グ尺度(VAWS)」の改訂版を開発するために,原版 VAWSに新たな項目を追加し改訂版VAWS(案)を作成 した。本研究は,妊娠期にDVスクリーニングで用い た改訂版VAWS(案)の項目について産褥期の女性にイ ンタビュを行い,回答時に想起した女性とパートナー の状況を明らかにすることを第一目的とした。さらに, 選択肢について検討するために,「ある」と回答した場 合の頻度を示すことを第二の目的とした。  本研究の結果により,VAWSの質問項目に回答する 時の女性が想起する状況が明らかになれば,開発者の 質問の意図を比較することができ,回答者がより正確 に質問項目を捉え,回答できる適切な項目と選択肢を 選定することに役立つ。 2.用語の定義 ドメスティック・バイオレンス(Domestic Violence: DV)  DVとは,親密な関係にある男性から女性への暴力 である。親密な男性とは,恋人または元恋人,夫ま たは元夫を指す。DVには,身体的暴力,精神的暴力, 性的暴力があり,女性の安全や尊厳を脅かす力の行使 とみなす。身体的暴力とは,外傷など女性に危害を及 ぼすかもしれない力を故意的に使うことである。精神 的暴力は,女性に対し精神的な危害又は苦痛となる行 為,あるいはそうなる恐れのある行為であり,さらに, そのような行為の威嚇・脅しを含む。性的暴力は,女 性の意思に反して,性的な行為を強要することと定義 される(聖路加看護大学女性を中心にしたケア研究班, 2004, p15)。

Ⅱ.改訂版VAWS(案)の項目の検討

1.女性に対する暴力スクリーニング尺度:Violence Against Women Screen

 片岡(2005)は,日本での臨床適用性を重視し「女性 に対する暴力スクリーニング尺度(原版VAWS)」を開 発した。原版VAWSは身体的暴力,精神的暴力,性的 暴力から構成され,7項目からなる3段階リカート尺 度である。因子分析による構成概念妥当性,General Health Questionnaireおよび自尊感情尺度との併存妥 当性が示された。信頼性はCronbach's αが0.70であっ た。日本語版 Index of Spouse Abuseを至適基準とし たとき,感度86.7%,特異度80.2%であったことが報 告されている(片岡, 2005, p.58)。 2.改訂版VAWS(案)作成のプロセス  女性および医療者の両者にとって負担が少なく, より信頼性および妥当性,正確性を高めるために, VAWSの質問項目の変更または追加,削除に関する再 検討を行った。改訂版VAWS(案)の検討には,VAWS の開発者である片岡を含めた2名の研究者で行った。  Feder, Ramsay, Dunne, et al.(2009, pp.29-37)のシス テマティックレビュにてエビデンスレベルが高いと される既存のスクリーニングツール「Partner Violence Screen (PVS)」,「Hurts, Insults, Threatens and Screams at her (HITS)」,「Women's Experience with Battering Scale (WEB)」,「Slapped, Threatened or Thrown scale (STaT)」,「Ongoing Violence Assessment Tool (OVAT)」 および男女間における暴力に関する調査(内閣府男女 共同参画局, 2012)の質問項目から,身体的暴力,精 神的暴力,性的暴力を示す項目を検討した。  身体的暴力と性的暴力の質問項目はツールによって 表現に違いはあるが同様の内容を問うものであった。 しかし,精神的暴力の質問項目では,原版VAWSには 含まれていない項目が用いられていた。PVSとWEB から「支配的な関係性」,HITSから「威圧的な態度」, HITSとSTaTか ら「威 嚇 や 脅 し 」,WEBとSTaTか ら 「パートナーからのコントロール」,OVATから「女性 の尊厳の否定」という要素を参考に,新たな項目を作 成した。その結果,原版VAWSの7項目(精神的暴力 4項目,性的暴力1項目,身体的暴力2項目)に,精神 的暴力を示す5項目を加え合計12項目の 改訂版VAWS (案)を作成した(表1)。表1には,改訂版VAWS(案) の項目と,各項目が示すDVの特徴を示した。選択肢は,

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原版と同様に問1は「たいへん難しい」「難しい」「まっ たく難しくない」,その他は「よくある」「たまにある」 「まったくない」の3段階リカート尺度とした。

Ⅲ.研 究 方 法

1.研究参加者  研究協力施設は,1か所の総合病院とした。研究参 加者は,研究協力施設にて分娩を予定している妊婦で あり,日本語による日常会話に支障がなく,読み書き ができることを条件とした。ただし,条件を満たした 場合であっても,スクリーニングによって明らかに妊 婦の健康状態に影響を及ぼすと予測された場合は,研 究参加者から除外することとした。データ収集期間は, 2011年9月から12月であった。 2.データ収集方法  研究依頼は,分娩予定日が2011年10月から11月末 日の妊婦に対し,妊婦健診の際に文書および口頭にて 研究の趣旨・方法を説明し,研究協力の同意が得られ た場合,同意書に署名を依頼した。  研究参加者に対し,妊娠35週以降の妊婦健診の際に, プライバシーが確保できる場所にて,自記式の改訂版 VAWS(案)および背景質問紙に回答してもらい,封筒 に入れて封をした後研究者が直接回収した。背景質 問紙は,年齢,婚姻状況,家族構成,教育背景,職業, 年収,妊娠分娩歴等に加え,夫・パートナーの年齢・ 職業などから構成した。  研究参加者が分娩を終了した後に,改訂版VAWS (案)項目の評価のためインタビュを行った。インタ ビュは,インタビュガイドおよび妊娠中に回答した改 訂版VAWS(案)を基に半構成的に行った。インタビ ュガイドは,改訂版VAWS(案)の各項目に関して選 択した回答について確認し,「たまにある」「よくある」 を選択した女性に,回答した時想起した女性とパート ナーの状況,その時の状態や思い,具体的な頻度など で構成された。インタビュは,原則として経膣分娩後 3∼4日目,帝王切開の場合は,手術後5∼6日目頃と した。インタビュの場所は,プライバシーが確保され る個室で行った。インタビュは,研究参加者の承諾を 得てICレコーダーに録音した。 3.データ分析  ICレコーダーの録音内容を逐語録として文書に起 こし,改訂版VAWS(案)の質問項目別に大きく分け た。分析には,内容分析の方法(有馬,2007)を参考に した。逐語録を繰り返し読み,研究参加者の語った内 容を理解し,質問項目に対して女性が想起した状況や 表1 改訂版女性に対する暴力スクリーニング尺度(VAWS)(案)の項目におけるDVの種類と特性 項目 質問項目 DVの種類 DVの特性 1* あなたとパートナーの間でもめごとが起こったとき,話し合いで解決するのは難しいですか? 精神的 支配関係 2* あなたは,パートナーのやることや言うことを怖いと感じることはありますか? 精神的 女性の安心・安全感欠如 3* あなたのパートナーは,気に入らないことがあるとあなたを大きな声で怒鳴ったりすることはありますか? 精神的 パートナーの暴言と威嚇 4* あなたのパートナーは,気に入らないことがあると壁をたたいたり,物を投げたりすることはありますか? 精神的 パートナーの怒りの表出と威嚇 5 あなたは,現在のパートナーとの関係性の中で安心が得られますか? 精神的 女性の安心・安全感欠如 6 あなたのパートナーは,あなたを見下したような話し方をしますか? 精神的 パートナーの威圧的態度 7 あなたのパートナーは,あなたに危害を加えると脅迫することはありますか? 精神的 パートナーからの脅迫 8 あなたは,彼によってコントロールされていると感じることはありますか? 精神的 支配関係 9 あなたのパートナーは,あなたの気持ちを無視しますか? 精神的 女性の尊厳の否定 10* あなたが,気が進まないのにパートナーから性的な行為を強いられることはありますか? 性 的 性的行為の強要 11* あなたのパートナーは,あなたをたたく,強く押す,腕をぐいっと引っ張るなど強引にふるまうことがありますか? 身体的 身体的暴力行為(軽度) 12* あなたのパートナーは,あなたを殴る,けるなどの暴力をふるうことはありますか? 身体的 身体的暴力行為(重度) *の質問項目は,原版VAWSの項目を示す

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状態に関する記述を抽出し,文節ごとにコード化を行 った。類似性を持つコードを統合し,カテゴリを作成 した。そして,作成したカテゴリが抽出された人数を 算出した。 4.研究参加者のフォローアップ  インタビュは,Women-centered Careの原則「尊厳」 「安全」「ホーリズム」「パートナーシップ」(Horiuchi,

Kataoka, Eto, et al., 2009)に基づき,女性の体験を理 解し尊重する態度で行い,研究参加者には,DVに関 する地域の社会資源に関する情報を提供した。専門的 介入が必要と判断された場合,配偶者暴力相談支援セ ンターの相談員,研究協力施設の担当助産師と連携し, 女性の安全を最優先に対応した。対応は,「周産期DV の支援ガイドライン」に則って実施した。また,DV 被害があった場合,研究参加者の同意を得た後,協力 施設の助産師より配偶者暴力相談支援センターに通報 することとした。 5.倫理的配慮  研究協力および中断の自由意思の尊重,プライバ シーの確保,匿名性の保持の厳守,データは研究目的 以外に使用しないこと,安全なデータの保存と破棄, 研究成果の公表等,研究協力施設と協力者の安全・安 心の最優先を前提とし,研究参加者が不利益を被る ことのないよう十分配慮した。本研究は,聖路加看護 大学研究倫理審査委員会の審査で承諾を得て実施した (承認番号:11­039)。

Ⅳ.結   果

 2011年10月から12月までに研究協力施設にて出産 予定の49名の妊婦のうち,「日本語が読めない」ため条 件を満たさなかった1名を除き,48名に研究協力を依 頼し,43名(89.5%)から同意を得られた。 1.研究参加者・パートナーの特性   研 究 参 加 者 の 年 齢 は,30代 が 最 も 多 く(28名, 65.1%),10代が1名であり,平均31.0 4.6歳であっ た。分娩歴は,初産婦が19名(44.2%)であった。全 員が既婚であり,離婚歴があったのは3名,夫の離婚 歴があるのは1名であった。夫と別居中は3名であっ た。核家族が31名(72.1%)であった。妊娠中仕事を していた女性は,28名(65.1%)であった。教育背景は, 専門学校・短大卒が最も多く(17名,39.5%),続いて 大学・大学院卒12名(27.9%),中学卒は4名であった。 夫婦の年収は,200万未満が2名,200∼400万未満が22 名と約半数であった。生活保護を受けている者はいな かった。原版VAWSにてDVスクリーニング陽性であ ったのは8名(18.6%),陰性は35名(81.4%)であった。  パートナーの年齢は,30歳代が最も多く(29名, 67.4%),平均年齢は33.6 5.4歳であった。就労状況は, フルタイムが38名(88.4%),失業中が3名,休職中が 1名であった。 2.改訂版VAWS(案)各項目における女性とパート ナーの状況  表2に,改訂版VAWS(案)の各項目における女性と パートナーの状況のカテゴリとサブカテゴリを示し た。なお,改訂版VAWS(案)の12項目中2項目(No.7, No.12)に「よくある」「たまにある」と回答した女性は いなかった。各項目におけるカテゴリを【 】,サブカ テゴリを〈 〉で示し,研究参加者が語ったデータは斜 体にて「 」で示した。 1 ) 「もめごとが起こったとき,話し合いで解決する のは難しいですか」(No.1)  この質問について女性が想起した状況として,2つ のカテゴリ【言い争いになる】【話し合いができない】 が抽出された。【言い争いになる】というカテゴリは, 話し合いをするが解決しないという状況であるのに対 し,【話し合いができない】は話し合いすらできないと いう状況の相違があった。「たまにある」の頻度として は,月に1回から年に2回であった。行事ごとにある と述べた者もいた。 (1)【言い争いになる】  【言い争いになる】と答えた者は,16名(37.2%)であ った。もめごとが起こった時,どちらか一方,あるい は双方が感情的になり,話し合いがつかないまたは言 い争いとなり,話し合いで解決することができなくな ると語られた。 「感情的になってしまって。お互いに。話してもしょ うがないなっていう時はあります」 「話し合いはするんですけど,どっちかが折れなかっ たりとかするときは,やっぱ難しい方に傾きますね。 (中略)言いあって,どっちかが納得しなくて,折れ なきゃいけなかったりとかなると,完全話し合いじゃ ないですよね」

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(2)【話し合いができない】  【話し合いができない】と答えた者は4名(9.3%)で あった。パートナーが話し合い自体を嫌がったり,女 性が話し合いをしたくてもできない場合,仕事の忙し さや別居により物理的に話し合いをする時間が持てな いことが理由となって,話し合いをすることが難しい と語られた。 「向こうが話し合いが嫌いなので,話し合い出来ずに 終わります,うちは」 「旦那さんが,出張ばっかりで,一緒に住んではない んですよ。(しかし)会った時にはちゃんと話すという か,思ってることは言えるようにしてます」 2 ) 「パートナーのやることや言うことを怖いと感じ ることはありますか」(No.2)  この質問については,どのような時に怖いと感じる かに関する3カテゴリ【自分に向けての攻撃】【自分以 外に向けての攻撃】【想定外のパートナーの言動】が抽 出された。すべてのカテゴリは,パートナーの何らか の言動が女性に怖いと思わせるまたはびくつかせると いった状況を示していた。「たまにある」と回答した者 の頻度は,週1回から半年に1回と幅があった。また, パートナーがイライラした時や結婚してから1度だけ という女性もいた。 (1)【自分に向けての攻撃】  このカテゴリは,1つのサブカテゴリ〈怒鳴られる〉 から構成されていた。〈怒鳴られる〉と語った女性は5 名(11.6%)であった。女性とパートナーの間で喧嘩や 言いあいになった時,パートナーが一喝したり,怒っ て大声で怒鳴るという場面に遭遇し,怖いと感じたこ とがあると語られた。 「ちょっとした言いあいの中で,私が話していると, 男性って『うるさい』って一喝することがあるので, それにびっくりした」 「怒るときも,声が大きくなったりするから,たまに, おぉって,ちょっと怖いんだけどっていうような。そ んなに怒らなくてもいいじゃんっていうときはたまに ありますね」 (2)【自分以外に向けての攻撃】  このカテゴリは,〈物にあたる〉と〈他人に攻撃的に なる〉という2つのサブカテゴリから構成された。〈物 にあたる〉と述べた女性は2名(4.7%)であった。パー トナーともめたとき,パートナーがカッとなったとき に,女性への直接的な攻撃ではないが,物にあたった り,物を壊したという所に居合わせて,怖いと感じた ことが語られた。 「旦那がカッとなるタイプなんです。結婚後はなくな ってきたけど,前は物に当たることがあったんです。 物に当たって,物を壊したり,人の物でも壊すことが あったんです」 〈他人に攻撃的になる〉と述べた女性は2名(4.7%)で あった。他人に対しての怒り方,言葉づかいや態度を 見て,怖いと感じたことを表している。 「家の中じゃなくて,外に向けての攻撃性。(中略)1回, 2回くらい,子どもの問題で,ちょっと言い過ぎなん じゃないかなってことはあった。それだけ怒ってるん だなって」 「運転中とか,相手の運転に対しての言葉づかいや, あとは,普通に買い物をしていて店員さんに対する態 度で,ちょっと怖いと思う時はある。手を出すとかは まったくないんですけど,そういうときは怖いなと思 います」 (3)【想定外のパートナーの言動】  このカテゴリは,〈冗談の限度を超えている〉〈知ら ない一面が見えた時〉の2つのサブカテゴリから構成 されていた。〈冗談の限度を超えている〉と述べた女性 は1名であった。冗談の中にも,冗談の限度を超えて いると思ったときに,怖いと感じたことがあると語ら れた。 「たぶん冗談で言っているんですけど,ちょっと冗談 の限度があるっていうか,範囲が」 〈知らない一面が見えた時〉と述べたのは,2名(4.7%) であった。パートナーの言動について,恋人の時と結 婚生活でのギャップがあり,パートナーのこれまで知 らなかった一面,意外な一面が見えたときに,怖いと 思ったと語られた。 「結婚して一緒に生活したときに,今まで知らなかっ た部分が見えてきたんです。本当はこういう人だった んだみたいな。そういう知らない面が見えて。こうい う話し方する人だったんだとかそういう意外性な面が 見えた時は,怖いと思ったこともあります」 3 ) 「あなたを大きな声で怒鳴ったりすることはあり ますか」(No.3)  この質問への回答については,パートナーが大きな 声で怒鳴ったりする状況として3つのカテゴリ【対等 な喧嘩】【一方的な怒り】【自分が原因】と【選択肢を間 違えた】という1カテゴリが抽出された。パートナー が怒鳴った状況のカテゴリの中には,対等性と一方的 という2つの文脈があった。「たまにある」の頻度は,3

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か月か半年に1回,年に1回と回答された。中には,パー トナーの疲労度合によると語られた。 (1)【対等な喧嘩】  このカテゴリは,1つのサブカテゴリ〈大声で互いに 言い合う〉から構成された。〈大声で互いに言い合う〉 と述べた者は6名(14.0%)であった。喧嘩をしている 中で,分かりあえないときに,互いに声が大きくなる と語られた。〈大声で互いに言い合う〉のは,一方的で はなく,対等に言い合うことを示している。 「あんまりにも分かってくれないと,こうだんだんエ キサイトしてきて,声が大きくなりますよね。そうい う意味であるっていう,大きな声を出すということで。 一方的にというわけじゃない」 「エキサイトしていく中で,どっちかが大きくなった り,両方が大きくなったりっていうことで,それを怒 鳴るっていうのか分かんないんですけど,そういう意 味で『たまにある』を選んでますね」 (2)【一方的な怒り】  このカテゴリは,1つのサブカテゴリ〈パートナーが 一方的に怒鳴る〉から構成され,5名(11.6%)が示して いた。パートナーがカッとなった時,機嫌が悪い時, 気に入らないことがあった時,イライラしている時な どに怒鳴られたり,または,パートナーがストレス発 散のためか爆発して一人で怒っていることがあると語 られた。 「カッとなって感情が抑えられない時や,機嫌が悪い ときにあります」 「妊娠前は,結婚する前なので,他の男性のこととか あると,怒鳴られました」 「どうにもならなくなって,子どもみたいに一人で怒 ってたりするんで。それが,本当に,ごくたまに,本 当に年に1回あるかないか。あぁ,爆発したか,みた いな」 (3)【自分が原因】  このカテゴリは,1つのカテゴリ〈自分がパートナー を怒らせた〉から構成された。〈自分がパートナーを怒 らせた〉と述べたのは2名(4.7%)であった。このカテ ゴリでは,質問項目にある 気に入らないことがある と ではなく,自分が間違えたときまたは自分が悪い とき,パートナーが怒鳴ることがあったと語られた。 「1回だけ,気に入らないことじゃなくて,間違った ことに対して。自分が間違ってて,旦那の言ってるこ とが正しかったんで。それは,しょうがないのかって」 (4)【選択肢を間違えた】  【選択肢を間違えた】と述べた女性は2名(4.7%)で あった。実際はパートナーがこれまで怒鳴ることはな かったが,選択肢を間違えたと語られた。 「何で,そう思ったのかな。特にそのようなことはな かったです。怒られるようなこともないです」 4 ) 「あなたのパートナーは,気に入らないことがあ ると壁をたたいたり,物を投げたりすることはありま すか」(No.4)  この質問については,1つのカテゴリ【怒りから物に あたる】が抽出された。「たまにある」の頻度は,年に 何回かと述べた者や,パートナーがイライラした時, これまでに1回だけであったと話された。【怒りから物 にあたる】と述べた者は7名(16.3%)であった。けん かをしたときや,パートナーの気持ちが高ぶった時に, 物をたたいたり,物をけったり,投げたりすることが あったことを表している。気に入らないことがあった 時に,パートナーがガラスを割ったことがあると語っ た女性もいた。 「壁をけるとか,あとは,壁をたたくとか。何かを壊 すとかまではいかないんですけど,自分の気持ちを抑 えてるのかなぁ」 「自分がイライラして人に当たらないように,1回だけ, 壁をけったかな」 「ガラスを割ったことがある。やめてと言ったら,や めてくれた。それ以降はない」 「ぬいぐるみを投げることはありました。がたいがい い方なので,手を上げちゃいけないことは分かってい るので,人に手を出したりはしてこないです。ただ感 情を抑えられないときがあるみたいです。」 5 ) 「現在のパートナーとの関係性の中で安心が得ら れますか」(No.5)  この質問への回答としては,3カテゴリ【将来への不 安】【夫への不信感】【選択肢を間違えた】が抽出された。 「たまにある」の頻度は回数で表現することは難しい と語られた。 (1)【将来への不安】  【将来への不安】と述べた女性は1名であった。パー トナーが病気をして休職となり,今後のことが気にな り不安であると感じていることを表している。 「主人はサービス業で忙しくて,病気になって休職し ていたんです。2カ月ほど。私も病気と言われても最 初はわかってあげられなくて,不安で。子育て中で, どうなるか」

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(2)【夫への不信感】  【夫への不信感】と述べた女性は1名であった。パー トナーが怒ったり,女性の話に耳をかさないといこと が重なり,パートナーに対する不信感が強まり,信頼 できなくなったと語った。 「怒られたりとか,聞き入れてくれなかったりとかあ るので。ちょうどアパートの更新で,どうしようかっ て話になった時に,(旦那の実家に)同居になったんで す。そこからやっぱり,ちょっと不信,信頼性がうー ん」 (3)【選択肢を間違えた】  【選択肢を間違えた】と述べた者は3名(7.0%)であ る。実際は安心が得られているが,回答方法が分から ず,選択肢を間違えたと語られた。 「妊娠中も安心は得られていた。答え方が分からなか ったので,そう答えてしまったんだと思います。安心 は得られています」 6 ) 「あなたを見下したような話し方をしますか」  (No.6)  この質問については,1つのカテゴリ【根底にある パートナーの優位性】が抽出された。このカテゴリは, 〈上から目線での物言い〉〈特定の状況下で威圧され る〉〈女性の仕事や育児への無関心〉の3サブカテゴリ から構成された。「たまにある」の頻度としては,週に 1回から年に1,2回であった。中には,パートナーの 機嫌や疲労の程度によると述べた女性もいた。  〈上から目線での物言い〉と述べた女性は5名(11.6 %)であった。女性が不快に感じることはないが,か らかわれたり,冗談を言う会話の中で見下した話し方 をすると語られた。また,知らないことを教える時や 理論的に言われる場合,パートナーに悪意を感じたり, 関係が悪化するようなことはないが,上から見下され ていると感じると語られた。 「そんな不快になるような言い方ではないから,私が そんなに問題にすることじゃないから,冗談,コミュ ケーションの取り方の1つかなぁと」 「悪意があるわけじゃなくて。知らないことを,教え てくれるときっていうか。それで関係が悪くなる感じ ではなく」 「見下すというか,上から物を言われてるって感じた ことはあります。言い合った時に,向こうの方から理 論的に言われると,言いくるめられるようでむかつく と思って」  〈特定の状況下で威圧される〉と述べた女性は4名 (9.3%)であった。このサブカテゴリでは,日常生活 の中で見下されている話し方とは感じないが,パート ナーが感情的になった時,意見を突き通したい時,イ ライラしていたりや疲れている時,見下したような言 い方をすると語られた。 「いつもそういう喋り方をしてるわけじゃなくて。け んかの中で,嫌な言い方をする奴だと思うことがある ということです」 「自分の意見を通したい時には,上から見下したよう な話し方をします。日常的にはないけど,性格的に自 分の考えを突き通すタイプで,人の話を聞かないんで す」 「気に障ることがあるかわかんないんですけど,う んと(たくさん)言われたり。やっぱり仕事ですかね。 イライラとかと重なると。忙しいとか,寝不足とか, 疲れてる時に」  〈女性の仕事・育児への無理解〉と述べた女性は4名 (9.3%)であった。このサブカテゴリでは,パートナー が潜在的に男は仕事,女は家庭という考えがあり,女 性の仕事や育児への理解がない発言があると語られた。 「仕事に対して,主人がやっぱり体がけっこう辛い仕 事なので,見下したまではいかないと思うんですけど, 私の仕事に対して,理解がないんです。私も大変なの を分かってくれればいいなと思う時がありました」 「自分も仕事していたので。私が育児休暇を取ると楽 できるじゃんって,そういう感じ」 7 ) 「彼によってコントロールされていると感じるこ とはありますか」(No.8)  この質問については,3カテゴリ【パートナーへの依 存】【経済的な弱者】【判断に悩んだ】が抽出された。「た まにある」の頻度としては,年に1,2回あるいは年に 何回かであった。 (1)【パートナーへの依存】  このカテゴリは,〈パートナーにあわせる〉〈意思 決定を委ねる〉の2つのサブカテゴリから構成された。 〈パートナーにあわせる〉というサブカテゴリは,2名 (4.7%)から語られた。1名は,パートナーの仕事の都 合にあわせて女性が予定を調整していると語った。一 方,もう1名は,当初はパートナーにあわせていたが, 結果的に話が違うことで,パートナーに丸め込まれた と感じたと語られた。 「例えば,予定とか。向こうがコロコロと変わったときも, コントロールと言わないかもしれないですけど,私がそれ に乗っかるような感じの時はあります」

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「コントロールというか,同居とかも上手く丸めこまれた というか。最初はやだったら出ればいいよみたいなこと言 ってたんですけど,今は全くその気がない」  〈意思決定を委ねる〉と述べた者は1名であった。こ のサブカテゴリでは,悩んだときに,パートナーの助 言によって意思決定することが示された。 「自分が優柔不断なんで,旦那さんが,こうした方が いいんじゃないってときは,たまにありますけど」 (2)【経済的な弱者】  このカテゴリは,〈金銭的に遠慮する〉の1カテゴリ から構成された。1名から示され,パートナーの収入 で生活をしていることで,パートナーに言われなくて も,我慢や遠慮があることが語られた。 「生活の全て旦那さんの収入でやってるので,お金の 面で,遠慮する面が出てきたので,自由がなくなった っていう気持ちがあったんです。彼は私に我慢しろと か思っていなかったとしても,自分の気持ちを押さえ つけてた面があるような気がします」 (4)【判断に悩んだ】  【判断に悩んだ】と答えた者は1名であったが,質問 の中で聞かれている コントロール がどの程度範囲 まで含むのか判断が難しいと話された。 「コントロールっていうのが,どこまでがコントロー ルなのかなぁっていう。それが,強要とかと同じ意味 なのかなとか。コントロールっていうと,やられてる って感じ(イメージがある)」 8 ) 「あなたの気持ちを無視しますか」(No.9)  この質問については,4つのカテゴリ【分かりあえな い】【意見を無視する】【判断に悩んだ】【選択肢を間違 えた】が抽出された。これらのカテゴリは,状況に対 する女性の認識によって異なっていた。お互いに【分 かりあえない】から無視されたと感じている状況と実 際にパートナーが女性の【意見を無視する】という状 況という違いがある。なお,「たまにある」の頻度とし ては,月1回から年1回であった。中には,パートナー の調子が悪い時や,女性またはパートナーの調子が悪 い時と述べた者もいた。 (1)【分かりあえない】  このカテゴリは,〈気持ちが伝わらない〉〈意見が食 い違う〉の2つのサブカテゴリから構成された。〈気持 ちが伝わらない〉と述べた者は3名(7.0%)であった。 自分の気持ちを伝えているのに伝わらない,わかって もらいえない時,理解してもらえない時に無視された と感じたことが語られた。 「けんかの一環ですね。けんかしてる中で,こんなに 気持ちを伝えてるのに,何でわかんないのみたいな」  〈意見が食い違う〉は2名であった。お互いに意見が 食い違い,気持ちが理解されず無視されたと感じたこ とがあると語られた。無視されたことをそれほど気に しないという女性とネガティブな感情がある場合があ った。 「あなたの気持ちを無視してますかだもんね。たまに あるかなと思うけど,別にそんなに気にしてはいない ですね。たぶん,旦那も旦那で,気に入らないときも ある」 「意見が食い違っている時に,イラっとする。そうい う時に無視されていると感じる」 (2)【意見を無視する】  このカテゴリは,〈意見を聞き入れない〉の1つのサ ブカテゴリから構成され,2名(4.7%)から語られた。 パートナーが自分の意見を突き通すために女性の話を 素通りしてしまうことや,女性の意見や提案には応じ ないこと,それによって女性の気持ちが無視されてい ると感じたことを表している。 「自分の考えを突き通す人で,他人から言われたこと は素通りしてしまうんです」 「買い物や人込みの中だと特にそう。自分の買い物は いいけど,人の買い物にはあまり付き合ってくれない です。ブツブツ言いますね。そんな感じだと,一緒 に行ってもつまらないから,子どもと2人で行ったり, 友達を誘って行くこともあります。でも,そしたら, 旦那に怒られたんです」 (3)【判断に悩んだ】  【判断に悩んだ】と答えた者は2名(4.7%)であった。 このカテゴリでは,質問の中で聞かれている 無視 がどの程度の範囲まで含むのか判断が難しかったと述 べていた。 「 無視 はどこまでがそうなのか判断が難しかった。 意見が合わない時にそう感じたのでそう答えた」 「無視する。無視してるわけじゃないんだけどってい う。その判断に迷ったんですよね」 (4)【選択肢を間違えた】  【選択肢を間違えた】と述べた者は1名であった。意 見の違いはあったとしても,無視されていると感じて いることはなかったと話された。 「意見の違いがあったとしても,無視されていると感 じることはないですね。何で,そう答えたんだろう。 ないですね」

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9 ) 「気が進まないのに性的な行為を強いられること はありますか」(No.10)  この質問については,1カテゴリ【性的行為の強要】 が抽出され,3名(7.0%)であった。女性が疲れている ときに,パートナーから性交を求められ,「邪険にし ても可哀そうだから」「しょうがない」と感じているこ とが語られた。「たまにある」の頻度としては,「毎週」 から「年に数回」であった。 「私が寝てて,どうしても起きなければ諦めるらしい んです。それで,怒ったりとかはないです。えーめん どくさいとかよく言っちゃうんですけど」 「なんか,向こうは『したいよ』みたいな感じで,『明日 仕事だから』って断わっても,『いやいや,そうは言 わず』みたいな。強いられるって言ったら,強すぎる んですけど」 10) 「あなたをたたく,強く押す,腕をぐいっと引っ 張るなど強引にふるまうことがありますか」(No.11)  この質問については,【腕をぐいっと引っ張る】の1 カテゴリが抽出され,2名(4.7%)の回答があった。パー トナーが感情的になった時に言葉で伝えず強引な行為 として腕をぐいっと引っ張るような行為があったと語 られた。この2名は,たたく,強く押すことはないと 表2 各項目において回答時に想起された状況に関するカテゴリ・サブカテゴリ カテゴリ サブカテゴリ 人数 1. もめごとが起こったとき,話し合いで解決するのは難しいですか 言い争いになる 16名 話し合いができない 4名 2. パートナーのやることや言うことを怖いと感じることはありますか 自分に向けての攻撃 怒鳴られる 5名 自分以外に向けての攻撃 物にあたる他人に攻撃的になる 22 想定外のパートナーの言動 冗談の限度を超えている 1名 知らない一面が見えたとき 1名 3. あなたを大きな声で怒鳴ったりすることはありますか 対等な喧嘩 大声で互いに言い合う 6名 一方的な怒り パートナーが一方的に怒鳴る 5名 自分が原因 自分がパートナーを怒らせた 2名 選択肢を間違えた 2名 4. 気に入らないことがあると壁をたたいたり,物を投げたりすることはありますか 怒りから物にあたる 7名 5. 現在のパートナーとの関係性の中で安心が得られていますか 将来への不安 1名 パートナーへの不信感 1名 選択肢を間違えた 3名 6. あなたを見下したような話し方をしますか 根底にあるパートナーの優位性 上から目線の物言い 6名 特定の状況下で威圧される 4名 女性の仕事・育児への無理解 4名 8. コントロールされていると感じることはありますか パートナーへの依存 意思決定を委ねるパートナーに合わせる 21 経済的な弱者 金銭的な遠慮 1名 判断に悩んだ 1名 9. あなたの気持ちを無視しますか 分かりあえない 気持ちが伝わらない意見が食い違う 32 意見を無視する 意見を聞き入れない 2名 判断に悩んだ 2名 選択肢を間違えた 1名 10. 気が進まないのに性的な行為を強いられていることはありますか 疲れているときの要求 3名 11. あなたをたたく,強く押す,腕をぐいっと引っ張るなど強引にふるまうことがありますか 腕をぐいっと引っ張る 2名

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語った。なお,「たまにある」の頻度としては,「10年 間で1,2回」または「何も言わずに行動したとき」であ った。 「腕をぐいっは,ちょっとあるかもしれないけど。感 情的になってるときですけど」 「力強いから,自然となるんですけど。喧嘩してると きはないけど,出かける時とか,どこ行くのみたいな, ぐいって引っ張るかな」

Ⅴ.考   察

1.改訂版VAWS(案)の質問項目と回答の意図  本研究の結果では,改訂版VAWS(案)の質問項目 に回答する時,女性がどのような状況や場面を想起し たかについて明らかになった。表1にDVの特徴として, 改訂版VAWS(案)の各項目の質問意図を示した。考察 においては,改訂版VAWS(案)各項目の質問意図と女 性が想起した状況を比較する。項目No.10,11,12の 身体的暴力や性的暴力は具体的な行為の有無を質問し ているため,不一致は少なかった。しかし,精神的暴 力に関する質問項目は,女性の想起した状況や場面が 様々であることがわかった。原版VAWS開発の際,日 本の女性に非侵襲的で受け入れやすい質問項目がスク リーニングに適していると考え(片岡,2005, p54),精 神的暴力を問う項目において間接的な表現が用いられ た。これが相違を生み出した要因と推測される。した がって,特に精神的暴力を問う質問項目の適切性につ いて検討した。  精神的暴力を問う質問項目の中で開発者の意図と回 答者の意図がほぼ一致していたのは,項目2「あなたは, パートナーのやることや言うことを怖いと感じること はありますか」,項目4「あなたのパートナーは,気に 入らないことがあると壁をたたいたり,物を投げたり しますか」であった。項目2では,どのような時に女 性が怖いと感じたかが語られた。【自分に向けての攻 撃】【自分以外に向けての攻撃】【想定外のパートナー の言動】の状況に遭遇し怖いと感じていた。怖いとい う感覚は,女性の安心・安全感を損ない,精神的健康 への影響の根源をなすと考えられる。また,項目4に ついては,【怒りから物にあたる】という1つのカテゴ リのみが抽出された。この項目は精神的暴力にあたる 威嚇や脅しと解釈され,この行為が女性に恐怖感を与 えると考えられる。この項目は,精神的暴力にあたる 項目の中でも具体的な行為を示している。したがって, 回答者の認識や意図はほぼ一様であり,開発者の意図 と一致していた。  開発者の意図と回答者の意図の相違が含まれる精神 的暴力の項目は,項目No1,3,5,6,7,8,9であった。 項目1の「もめごとが起ったとき,話し合いで解決す ることは難しいか」という質問は,女性の語りから「一 方的に」と「お互いに」という文脈の両方があった。さ らに,別居などにより物理的な距離から話し合いが できないと回答していた女性もいた。DVの特徴とし て,夫婦に支配関係があり,話し合いができない状況 があることを意図して質問が設定された。しかし,そ の他にも話し合いができない状況が想起されることが わかり,再検討の必要があると考えられた。同様に項 目3「大きな声で怒鳴るか」についても,「一方的に」と 「お互いに」という文脈が混在していた。項目5の「安 心が得られているか」は,度数は少なかったが関係性 の中での不安というよりも将来への不安として回答し ていた女性がいた。さらに,この項目5に対して【パー トナーへの不信感】が状況として語られ,直接的な安 心感とは異なる文脈とも考えられる。項目6の「見下 したような話し方をするか」という質問には,1つのカ テゴリ【根底にあるパートナーの優位性】が抽出され たが,見下した話し方をすると女性が感じる状況は 多様であり,冗談や教えてくれる時の【上から目線の 物言い】といった状況に加えて,【女性の仕事・育児へ の無理解】や【特定の状況下で威圧される】が示された。 【女性の仕事・育児への無理解】および【特定の状況下 で威圧される】は,DVの根底にありトラウマにも影 響を及ぼすジェンダーの存在が推測され(宮地, 2004, pp.12-21),パートナーからの支配や威圧を予想され る場合も含まれていた。項目6を採用する場合は,こ れらを判別する質問の表現が必要である。また,項目 8の「コントロールされていると感じることはあるか」 においては3つのカテゴリ,「あなたの気持ちを無視し ますか」は4つのカテゴリが抽出され,多様な状況が 語られた。開発者の意図と異なる状況が含まれており, 多様で幅広い認識が想定されるこれらの項目は,正確 度を低下させる要因となることがあるため,削除する ことも含めて検討すべきである。 2.インタビュによる評価の妥当性  インタビュの結果,4項目(No.3,5,8,9)にて【選択 肢を間違えた】【判断に悩む】のカテゴリが抽出された。 本研究で,妊娠中の改訂版VAWS(案)では「たまにあ

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る」を選択していても,産褥期に行ったインタビュで は,【選択肢を間違えた】と語られたのは,妊娠期に行 ったスクリーニングの回答が間違えたのか,もしくは 直接対面していたことで言い難い状況になったにかは 不明である。しかし,DVスクリーニングの方法に関 する日本の研究結果では,インタビュよりも自記式質 問紙の方が陽性者の検出が高いことが報告されている ことから(Kataoka, Yaju, Eto, et al., 2010),後者の可 能性も高い。DVは,家族という閉じた状況の中で起 こる暴力であるため,医療者を含め外の者には言い難 いという特徴がある。女性が打ち明けやすい方法でス クリーニングすることが重視される。また,スクリー ニング陽性者との面談においても,女性との信頼関係 の確保,安全と尊重の重視といったWomen centered careの原則がすべての支援の基盤であると考えられる。 3.改訂版VAWS(案)選択肢の妥当性  次に,改訂版VAWS(案)の選択肢であるが,DVの 頻度について「まったくない」「たまにある」「よくあ る」の3択に設定されている。他の既存のDVスクリー ニングツールの選択肢は,「ある」「ない」の2択(AAS, WEB等),VAWSと同様に3択(WAST等),それ以上 (HITS,OVAT等)がある。本研究のインタビュから, 「たまにある」の回答における頻度が人によって異な っていたことがわかった。月に1度という頻度であっ ても「たまにある」を選択していた項目もあったこと から,個人の認識によって「よくある」「たまにある」 の選択は大きく異なると考えられる。一方VAWSはス クリーニングツールであり,DVという相談すること への障壁が大きいものは,できるだけ選択しやすい表 現が望ましい。選択肢の適切な頻度の設定については, 質的および量的分析から今後検討すべき課題である。

Ⅵ.結   論

 DVスクリーニングを受けた女性へのインタビュか ら,回答時に想起した状況を明らかにし,スクリーニ ング項目の適切性について検討した。身体的暴力およ び性的暴力の項目は,想起された状況が一定であっ たが,精神的暴力は,質問項目から思い浮かべ回答し た状況が様々であるものがあった。今後,量的デー タから信頼性および正確度の検討を合わせて行い原版 VAWSを改訂する必要がある。  本研究は,文部科学省科学研究費助成(課題番号 22390435)を受けて行った。 文 献 有馬明恵(2007).内容分析の方法,京都:ナカニシヤ出版. Beydoun, H.A., Beydoun, M.A., Kaufman, J.S., Lo, B., &

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参照

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