次
世 代 車 輌
の
デ
ザ
イ
ン
ー
高 齢 社
会
に お
け
る
人
と
車
の
デ ザ
イ
ン
Car
Design
for
the
Next
Generation
in
anAged
Society
渡
部
紀 綱トヨタ自動車株式会社
WATANABE
Noritsuna
TOYOTA
Motor
Corporation
1 .
はじ めに こ れ まで、
車 (本 稿で は乗用 車 を 指 す、
以後 車)
づ く りは、
時 代 や使 う人々 の様々 な 要求に応 えな が ら 発展 を 遂 げて きた。
モー
タ リゼー
シ ョ ン 隆盛期、
時 代の 嗜好を 反映し た 流 麗 でエ モー
シ ョ ナル な車は、 バ ブル 崩 壊を境に、 生活の充実、
心 の豊か さ を求め た人々 の ラ イフス タイルや価 値 観 変 化に よ り、車
の本 質 性の見 直しへ と質 的に変 化 して きた。
そ して、
安 全、
エ ネル ギー、
環境な ど 車 本 来の技 術を革 新 してきた車は、
今、
成熟 し た 社 会 環 境との共生,
及び高 齢社会へ の対応 が強 く求 め ら れ てい る。 こ の ような状 況におい て、 車で の 移 動は人々 に とっ て 生活の原 点であり、
高 齢 社 会 では必 需 品である との 認 識か ら、 高 齢 者に とっ て の使い易い 車の開 発ニー
ズ が高まりを見せ て きた。一
方、
ユ ニ バー
サル デザイン の 視 点か ら車
を観 る と、少
数の車
に適 応が 見 ら れ る もの の、
その他 の多 くの 車を含め、…
般 成 人 健 常 者へ の もの造 り に主 眼が置か れ、本
格 的なユ ニ バー
サル デ ザ イン を伴っ た高 齢 者へ の 車づ く りは これ か らと言っ た 状 況にあると 思 わ れる。 車の デザ イン の 行 為の 原 点は、
「人 」の ため を考
える ことである が、
車は人 との関わ り が他 商 品 と 異 な り「
乗っ て自
ら が 運転 し自由 に 移動出来 る」こ と か ら開 発 要 素は多 岐に亙っ てい る。 その為、
全ての 人々 を 対象
とするユ ニ バー
サル デザ イ ン と車の 関 係を デ ザ イン か らの 切 り口 だけで は到 底 語れ ない が、
本 稿は デザ インの立場か ら に限っ て、
高 齢 者の 特 性 を 踏 ま えた老 若 男 女 誰で もが使 い 易い車
や そのデ ザ イン の対 応と、
高 齢社会に お ける車のユ ニ バー
サ ル デ ザ イン のあ り方につ い て考察
を行っ た。ユ ニ バ
ー
サ ル デ ザ イ ン を多様
化、 個 性 化 する車 に置き換える とい か なる点が デザ イン 開発ポイン トになるか。 それ はユー
ザー
や企 業 戦 略に合 致 し て い るか。 総 合 的な交 通シ ス テ ム や社 会 環 境の中 で の役 割は。 な ど な どの課 題を踏 ま えつ つ 検討 し て み たい 。 尚、
障 害 者用車 両につ い て は、
広 義の 意 味で ユ ニ バー
サル デ ザ イン の カ バー
すべ き 範 疇と考 える が、 本 稿では特 記した 以外は触れて い ない 。2 .
高 齢 社 会の人と車 高 齢 者の 各 種 特 性と車の 開 発 要素につ い て概 観 す る。
2.
1.
高 齢運転 者人口の 増加 日本の 自動 車 保 有 台 数は1998
年で7 ,
081
万台 を 数 え、
運転免許保 有 者 数 も6
,867
万 人 と 増 加 してい る[注1
]。 高 齢 人口 が増 加 する と共に、
高 齢 者の運 転 免 許保 有 率も上昇 し て お り、65
歳以 上の 運 転免 許保 有 率は、
人口1
,974
万 人の う ち26 .
7
%に達 して い る(
図1)。
男 女 別に み る と、
女 性の免 許 取 得 数、
及び高齢者
が 増加傾向
に あ る。 保有率
で は、
男 性は20
代か ら60
代まで、 女性は40
代か ら50
代の 伸び率が大き く、
女性は50
代で約 半数
の人が 免 許を持っ てい る [注2
]。又
、
女 性の 高 齢 介 護 運転者が 増加、
介 護 者の50
% が60
歳以 上、
女性が85 .
9
% を占めてい る。「
車 は被 介 護 者、 介 護 者 両 者へ の支 援 策が必 要で、
特 に介 護 者マ イン ドの重 視」
が大 切である。 更に、
免 許 証に 身 体 障 害 者 用 車 輌に 限る な どの 限 定 条 件 がつ く人は、
約22
万 人。 「障 害を持っ てい ても、
自 由に移 動 し たい と願 う意 欲 的な 人 が年
々 増加傾向
」に あ る。2 .
2.
健 康 な 高 齢 者の増 加介 護 を必 要 とし ない 健
康
な高齢
者が 増加(
高
齢 者の8
割以 上 が元 気 印)
、 その 多 くは運 転 免 許を 持っ て お り、
む し ろ 「他の年 齢 層よ り車を 必 要 と してい る」。48 sPEcIAL IssuEoF JssD vol
.
7 No.
1 1999 デ サ イン学 研 究 特 集 号18
〜
19 25〜
29 35〜
3945〜49
55〜
5965
以 上 全 体 0 20 4060
80
100 出 典 : (注 ) 大 型 特 殊、
小 型 特 殊、
原付、
自動二輪 免許を 除 く、
人 口 は 国 立 社 会 保障、
人口問題研 究 所 「日本の将 来 推 計人口 (1997年1月推 計 )」、
運 転 免 許 保 有 者 数は警 察 庁 図1
運転免
許保有
率(
1998
年 )2.
3.
高 齢 者 の身体機 能の 特 性…
般 成 人 健 常 者 向 けの車では、
身 体 機 能が低 ド してい るため の不 都 合 が 高 齢 者の 間で生 じ てい る。
車の 運転に影
響す る主 要 な特 性と して は、
視 覚 機 能の低下 が最も早 く、
大 き く現れる(
40
才 代 後 半か ら)。近 距 離 視 力 夜 間 視 力 動 体 視 力 (
20
才 代に比べ60
才 代で約65
%)明 る さ感 度
瞳
孔か ら 入 る光 量は20
才 代に比べ60
才 代で約55
%に 落 ちる) 青 色 系の視 感 度 低 下 などにより、
視 界 や視認性に影 響 を 与 え、
メー
ター
類 や ナ ビの 文字 が 小 さく、 夜 間も見に く く な る。 又、 夜 間 前 方 視 界も低
下す
る。動作機能
で は、使
用 性や操作
性に 影 響を与える。 関 節 可 動 域の 減 少 筋 力 低下複雑
反応 時間の 増加
な ど が 現 れ、
下肢
動作 (
20
才 代か ら低 下 傾向)
の低 下が顕 著で、 乗 降 時 足を 上 げた状 態の維 持や、
ひざ を 曲 げて シー
ト に 腰 を 落 とす 動 作が難 し く な る な ど見ら れ る。 聴 力も低 下 する。 又、
精神機 能
で は、
記 憶 力計
算
能 力の 低下現 象が起こ り、
最 も低下する 能 力は、
瞬 間 判 断力で、
特に多
要素間の 比較
瞬 間判断 力低
下 が あ げら れ る。高齢 運 転 者は
、
「運 転の し づ らさ」 「駐車
時に後
方が見づ らい」 「狭い路地 での 切 返 し」「
ミ ラー
が見 づ らい」
「ス イッ チ操作
が複 雑、 使い づ らい 」 など 具 体 的に指 摘 してい る。 そして、車
へ こだわ る代
表 的 な点は「取
り回 しの し易さ」
「乗 降の し易さ」 「視 界の 良さ」と言わ れてい る。
2
.
4,
高齢 運 転 者 の交通事故状 況 高 齢 者の交 通 事 故 率が年々増 加 し てい る。
交通 事 故 (平 成6
年 中)による65
歳以 上の高
齢 者の死者 のう
ち25 .3
% が車の運転 中であっ た。 又、
高 齢 者 の 事 故は車 種に関わ ら ず 出 合 頭 事 故 比率
が高
い(
右 方 向か らの相手
と衝 突 する割 合〉
。 乗 用 車の 場合、
事 故の 約7
割は直進 中に発 生 (正面 衝 突 ) してい る が、
右 折 中に発生 する割 合 も高い 。 性、
年 齢 別で は乗 用 車(
含 軽 貨 物車)
運 転者
の95
% が 男 性 で、70
歳 迄 が 過半 数を占め る (平 成5
年 中の 死亡事 故 )。 日常の買い 物、
訪 問 時に事故
に 遭い やす く、
事 故の 発 生 時間帯で は、
全 般 的に 昼 間に 多い (夜間事 故比率
は 約20
% と低い)
[注4
]。人的 要 因の事 故 内 容 分 析によ れ ば
、
操 作の 誤 り (ペ ダル、
ハ ン ドル など操 作の 円滑
さ が欠けデ ザイン学 研 究特集号 SPECIAL IssuE OF JSSD Vol
.
7 No.
1 1999 49〜
49才〜
59才〜
69才 女 性19才以 下〜
29才〜
39才〜
49 才〜
59才〜
69才 ■ ス タイル・
外 観 ■ ボ ディ タイ プ 囗 運転の し や す さ 田 その他 口 出足・
加 速等のエンジン性 能 自 車全 体の大 き さ 自 維 持 費の経 済 性 囗 メ カニズ ム ロ 室内の広さ 鬨 車 両 価 格 図2
性、年 齢 別 購 買 重 視 点 (1998 年 )除軽 乗用車+RV
車 出 典 : 社 内資 料 る)ル
ー
ル の 認 識不 足、
ミ スマ ッ チ (判 断、
応 答 遅れ、
他との タイ ミン グ が合わ ない、
加 齢の 影 響が強 く現れ てい る〉 考え事、
飛び 出 し、
病 気に分 類し た高
齢
者に特
徴 的な事 故の 原 因が 分 析 されてい る[注5
]。2
.
5.
高 齢 者ユー
ザの車 購 入 重 視 点高 齢 者ユ
ー
ザ が車
を購
入の際に決め手と した購 入 重 視 点は、
「車の大き さ
(
小さい車体)
」「運転 の し易さ」
「価 格 」である。 又
、
車の 主 用途で は「自
宅 周辺の買い物」
「ス ポ
ー
ツ外 出」「女 性は習 い 事
、
男 性は一
泊以 上の長 距 離旅行」
が 増加、
「日 帰 りレ ジ ャ
ー
」 「通 勤 通 学 」 「ウイ ン ター
ス ポー
ッ」な ど は減 少す る。 男女 と も 「仕 事、
商用」が特 徴 的で増 加 傾 向にある(
図2
、
3
)。
3
.
ユ ニ バー
サル デ ザ インを 目指 して以 上の よ
う
な様
々 な特 性 を持つ 高 齢ユー
ザー
へ 対応 し た車の取り組み は、
従 来、
「高 齢ユー
ザー
に は健 常 者 用 に アジャ ス ト機 構 類で フィ ッ ト」
及 び 「身
障 者 には健 常 者用 に特 装、
個 別 対 応 」の展 開が一
般 的であっ た。 し か し、
咋 今、
新 コ ンセ プ ト 開発 車のライン ア ッ プ及びハー
ド面の充 実に よ り高齢 者、
女性、
軽い 障 害 者の人々 を特 別 扱い す るこ と な く健 常 者と同じ に抵抗
な く使
える車
と そ の デザ イン の開 発が きめ こまか く行
わ れ る ように なっ て きた。3.
1.車
のユ ニバー
サルデ ザインプリンシプル高 齢 運 転 者の 特 性を踏まえた、
重
要なハー
ド面 の 要 件と その チ ェ ッ ク ポイ ン トがユ ニ バー
サル デ ザ イン の 観 点か ら纏め られ てい る (表1 )
。 デ ザ イン開 発 時にガ イ ド と な る 「車
と人」に関 わ る技 術は人 間工学 分 野で研 究 さ れ る が、
デザ インの具体化
には更に、
外 観、
室 内、
カ ラー
デザ イン別に ブ レー
ク ダ ウ ン し た 細部ハー
ド構
想 が 必要で、
設50 sPEctAL tssuE oF JssD vol
.
7 No.
1 1999 デザ イン学 研 究特集号0% 1晩 2脳 3慨 40e6 5既 6 7脳 8脳 9096 100% 男 性19才以 下
〜
29才〜
39才〜
49才〜
59 才〜
69才 女 性19才以 下一
29才〜
39才〜
49才〜
59才一
69才 ■仕 事・
商用の足 (含む仕事で お客 様 を乗 車) ロ 親 戚 や 友 人・
知 人 の 家 に 行 く 口 百 貨店・
専 門店の買物・
食事 薗 習い車 など で の外出 に ■ 日帰 り レ ジャー
に 囗 ウインター
・
マ1ルスポー
ツでの外 出 厘 オフ ロー
ドで の使用 目 通勤・
通 学の足 □ 自宅周辺の買 物・
用足 し ロ家族の送迎 ロー
泊 以 上の長距 離旅 行 ■ スポー
ツ で の 外 出 国 オー
トキャン プ 目 そ の 他 図3
性
、
年齢 別活用 シー
ン (1998
年)
除軽乗用車+RV
車出 典 : 社 内 資 料 計 要 件 と も絡み
、
デ ザ イン開 発上の大き な ウエ イ トを占め る。 そして、
基本パ ッ ケー
ジ に可 能 な 限 りの数値化
で纏め ら れ る。 無 論、 ハー
ド要件
だけ でな く、 デ ザ イ ン の 商 品 性、
市 場 性 も組み込ん だ、
ユー
ザー
の嗜 好 性を導
くた めの デ ザ イ ン/ス タイル要件 も同時に創案
さ れ る。
3.
2.
人に優 しく使い 易い車の開発人に優しく使い 易く との 狙い か ら
、
前 出の「
車 の ユ ニ バー
サルデ ザ インプ リン シプル 」な どを基 に革 新 的なパ ッ ケー
ジ で開 発 され た車と して、
車 の 革 新 性 を実 現 し た「
プ リ ウス」、
新機
軸の フ ァ ミ リー
向
けRV
「イ プ サム」、 小型高 級セ ダン 「プ ロ グレ」、
新パ ッ ケー
ジ セ ダ ン 「ビス タ」な ど挙 げら れ る。 こ こ で は 「ビス タ(
’
98
年モ デル ) 」を 例 と して紹 介 する (図4
)。3
ボッ クス セ ダン の理 想を追 求 し た車が ビス タ である。 室 内は広 く使い 易 く、
外 観は全 高を高 く しつ つ コ ンパ ク ト化を図っ た新しい パ ッ ケー
ジ が 特 徴で あ る。
その着
服点は、
様々 な人を基 準に し た 「乗 員のス トレス フ リー
の 追求」
と 「空間概 念 の 再構築」
とである。 目線が高く快
適な着 座姿
勢 と楽な 乗 降性が実現 し、
セ ン ター
メー
ター
の採用 によ り視 認 性がア ッ プ した。
加えて、
車 椅 子 収 納 が楽に出 来る大 き なラゲー
ジルー
ムな ど 関連 製 品 とのマ ッ チン グ も重 視 し た設 計で ある。 モ ノの寸 法 関 係の新た な基 準づ く り を基に普遍的 な使い 易 さ が 追求 (
道 具 として の本 質 性 ) され た デ ザ イン である。 ユ ニ バー
サル デ ザ イ ン思 想の全て の 製 品 化で は ない が、
乗 降性、
運 転姿 勢、
操 作 性、
視 認 性、
等 洗 練 された技 術は、
全 ての ユー
ザー
に使
い易
い 車と して標
準 的に捉 えら れ よう。3.
3.
ユ ニ バー
サル デ ザ インの実践 次 に、
ラウム の 「デザ イン概 念とユ ニ バー
サル デザ イン」につ い て述べ る。 ラ ウム は元々’
gO 年代
デザ イン学 研 究特集号 SPEcIAL ISSUE OF JSSD Vot
.
7 No.
1 1999 51表
1
車のユ ニバー
サルデザ インプリ ン シ プル ユ ニ バー
サル デザ イ ン プ リンシ プル 主 な チェ ッ ク ポ イン ト 1)シ ンプル で直 観 的に・
操 作 方 法・
手 順の明 示 わ かる操 作、
使 用 方 法・
イメー
ジ し易い シ ンボル・
ON10FF
のブ イー
ドバ ック 2)見 易く分か り易い・
輝度/色 度 /コ ン トラス ト 表 示 操 作 類・
表 示 方 法、
表 示サ イズ・
情 報 量 3)身体 負 担の少ない・
ワー
ク スペー
ス 乗 降 動作や姿勢・
車 室 内レイ アウ ト・
シー
ト 4)操 作 が楽で簡 単 な・
運 転 席 レイア ウ ト 運転 操 作 系・
適 切 な操 作 力・
操 作 部のサ イ ズ、
形 状 5)車 両の周 辺 状 況の・
前 方、
後 方、
側 方の直 接 視 界 つ かみ易 さ・
ミラー
に よ る間接 視界・
補 助 装 置 6)交 通 環 境、
使 用 環・
昼夜 間 境に 適した使い易さ・
天 候 / 雨天、
雪、
霧 7)便利で使い 易い 酒 己置、
サ イ ズ 内 装 品・
軽い操作力・
使 用 方 法 8)使用 安 全 性に対 する・
コー
シ ョ ンラベ ル 充分 な 配慮・
ウ 才一
ニ ング表示・
エ ッジ処 理 考 え 方:体 格、
身 体 能 力、
tF 齢 等に関 わ ら ず 全ユー
ザ・
.
に使い易 さ を提 供 出 典:引 内 資 料 初 頭、
新たなモ ビリテ ィ コ ンセプ トで人と社 会の 見 直し が 問わ れ た時 代を背景 に デ ザ イ ン研究 開 発が始 まっ た。1993
年東京
モー
ター
ショ ウ に 「RAUM
」 名で出展 され(図5
)、
「
幼 児、
老人、
身 障 者、
妊婦 が快 適に使
え、
健 康 的な ラ イフ ス タイルの 発 展に 寄 与 」の コ ンセプ ト を 基本に、
取 り回しの 良い小 さい 外 観 なが ら居 住 性 が 良 く使い 易い 空 間、
大 開 ロス ライ ド ド ア(
左 右 非 対象
ドアー
)、
可変ユー
テ ィリテ ィ、
目線の 高い 着座姿 勢、
身 障 者 用回転 助 手 席シー
ト な ど が提 唱 さ れ た。 ユ ニ バー
サル デ ザ イン 自体 知 られて い ない 当 時、
既にデ ザ イナー
の 感性、
仮 説構築
力が、
その 思 想 と 同一
方 向の 新 しい 価 値 創 造を行っ て いた。 デザ イ ナー
自ら 「コ ト」
の因 果 関係
を きち ん と調 査 把 握 し た結 果であ る。 生産 車ラウム は( 図6
)、
ヒ ュー
マ ン フ レン ド リー
コ ン パ ク ト と し て、
人へ の 優 しさ、
車の 使い 易さの 追求、
クラス トッ プの 安 全 性の確
保な ど を 訴 求 し、
身 障 者 用の仕様
も同 時に開 発さ れ た。 使 い 易い ド アー
開 閉シ ス テムや新た な広さの ス タン ダー
ド と も雷 える室 内 空 間、 コ ンパ ク トな外 観 な ど、
ハー
ド面の新 設 計と共に、RAUM
の考
え 方は 生 産車
に継 承 さ れ た。 今、
新た にユ ニ バー
サル デ ザイン を標 榜する車の コ ンセプ ト/パ ッケー
ジ作成 を 企 て る とラ ウ ム に近い もの に なる。 ラ ウ ム はそ れだ けユ ニ バー
サル デ ザ イン の 精 神の 普 遍 性 を 持っ てい ること に な る。 生 産車
ラ ウム は1997
年
グッ ドデザイン賞の’
97
年ユ ニ バー
サル デザイン賞 を受賞
し た。52 sPEcIAL ISSUE oF JssD vol
.
ア No,
1 1999 ヂ ザ イン学研 究 特 集 号図
4
ビス タ セ ダ ン 図5
トヨ タRAUM
以上 取 り上 げた車は共 に 「人」を中心に置い た新 コ ン セ プ ト車で ある が、
見 方に よっ ては ノ ン ジ ャン ル で ク ラ ス レ ス な車 と も定 義 出 来 よ う。 又、
新 コ ン セ プ ト車
の パ ッ ケー
ジ創 りは 同 時 に新た な価 値の デ ザ イ ン 創 りで もあ り両 者の 高 度の成 立 が良い 商 品 を 生 み だ す 鍵 で もある。
4
.
高 齢 者 と車のユ ニ バー
サルデザ イン 高 齢 者とデザ イン を考え る時、
必ず 指 摘さ れ るの は、
価 値 観や嗜 好 性 など心へ の対 応が不 可 欠と言う
こ と と、
高 齢 者用 とか身
障 者用 とい っ た差 別 化(
高 齢 者テー
ス ト)
を 助 長する よ うな特 殊 性の 廃 止 と言 う二点である。 同 感で ある。 高 齢 者のニー
ズは、
身 体 的 要 件を除 けば、
機 能、 技 術を超越 し た 心 に な じ む使い 良さ、
高品質な デザ イン の重 視 と健 常 者のそれ と何 ら変わ ら ない [注6
]。 む しろ、 誰 もが認め る集 大 成と して の車づ く り が 必要であ る。
そ れは、
ユ ニ バー
サ ル デザ イン に基づ い た先 進 的な車で対応 が 可能で あ り、高
齢 者へ の専用 的 車や デザ イン はあ り得ない と思 わ れ る。
2010
年
に高
齢 真っ 只 中の 団 塊 世 代 は、
豊か さの中で車生活 をエ ン ジ ョイ し、
行 動的、
進歩的 で あ る。 高 齢に なっ ても 車へ の思い 入れ は強い 。 理 性 的、
創 造 的 な 企 画 が デザ イナー
に求め ら れ よ う。筆
者らの 同 テー
マ 研 究過程で も、諸
要素 を入 れ た結果 と して の デ ザ インが人々 の気 持 ちを魅 了 し ない 場 合は、
誰か らも支持
さ れ ない 経 験 を持っ てい る。5
.
求め ら れる 「車のデザ イン」 発 想の転 換 ユ ニ バー
サ ル デ ザ イ ン の提 唱 者、
故ロ ン・
メイ ス氏の思 想 や他の 文献
を参考
に車のユ ニ バー
サ ル デ ザ イン概 念 につ い て筆
者な りの考
え を示 し て み る。5.
1,
車のユ ニ バー
サル デ ザ イン の 目 指 す ところ 車のユ ニ バー
サ ル デザ イ ンの 意 義は、
従 来の 「グッ ド デザ イン」 志 向に更にユ ニ バー
サ ル デ ザ インの視
点か らの 要索が デ ザ イン の 範囲 と研 究の 拡 大を も た ら し、 デ ザ イン フ レー
ム の再構築
が計 ら れ [注7
]、
その 結果 が 「車の進 化 」その もの に繋 が るこ と と捉 えてい る。 ユ ニ バー
サ ル デ ザ イン は 社 会 環 境、
移 動 交通 な ど 人々 の 生活と車
に関 わ る 全て に幅 広 く関 連してお り、
車の進 化は そ れ ら を 総合的 に向
上 さ せ る牽 引 役 を果たす もの と考
え る。 その意 味で 社会、
企業
文 化へ の 貢献
が期 待 さ れ て い る。 その為の車のユ ニ バー
サル デザ イン 開 発の 方向
は、様
々 なユー
ザー
の価値
観、使
い 方に 合 致してい く と 同時に、
商 品づ く り を前 提に、
適 切 な価 格で グ ロー
バ ル な市
場 性確
保を 図 り、
関連 する他 技 術、
シ ス テ ム との統 合な ど を充 分 配 慮 す るこ とである。 そ して、
商 品の拡 大が図ら れ、
多 くのユー
ザー
の共感
を得て、普
遍 的 デザイ ンに育 て てい くこと が重 要である。 デザ インの意 図 する ところ が伝 播さ れ るこ とが 必要条件
である[
注8
、
注9
]。 以上の よう な 観 点か らデザ イン の取 り組み を次 の4
点 に置 き、様
々 なユー
ザー
層へ の車
のユ ニ バー
サ ル デザ イン対 応 方 向の考え を整理 し た(
図5
)。全 ての 車の デ ザ イン 開発の 基 本にユ ニ バ
ー
サル デザ イン を 据えるデ ザイン学 研 究 特 集 号 SPECIAL IsSUE OF JSSD vol
,
ア No.
1 1999 53図
6
生 産者ラウム車 両コ ンセ プ ト別に
3
方 向(
下記A
、B 、C
)の ユ ニ バー
サ ル デ ザ イン選択 デザ イン・
フ レキシ ビリテ ィ概念 活 用 [注10
]オ プ ショ ン 、イン ター
フ ェ イス デザイン の 積 極 化適 切なパ ッケ
ー
ジ戦 略 (コ ス ト、
重 量 とのバ ラン ス )A
)個別ニー
ズ 対応身
障者
用(
中、
重 度)
の最 適車
コ ン セプ ト。 バ リア フ リー
か らユ ニ バー
サ ル デザ イン の 観 点へ と 進 展させ たベー
ス車
の デ ザ イン。 性 能 / 使い 方を身
障 者に そ して、
介 護 者に満 足の行 くよう特 化さ せ、 改 造 し易 く
、
コ ス ト低 減設計が 図 ら れ た車。
障 害の程 度、
状況 に応 じ た多様
な オ プショ ン デザ イ ンを用意す る。B
)
ユ ニ バー
サル デザ イン基 本車
老 若 男 女 全ての ユ
ー
ザー
が使
い 易く楽しめ るユ ニ バー
サ ルデ ザ イ ンが活か さ れ た新しい 戦 略 車コ ン セ プ ト。 障 害 者 対 応 も考 慮 した基 本 構 造 を 持つ が、
可 能な限 り共用 を図 る。多様
なユー
ザー
へ の デ ザ イン の 個 性化
や コ ス ト低 減が必 須で ある。 む しろエ イ ジ レス (年 代 差の無い〉車
の 概念が最 適であ る。 オ プショ ン デザ イン (イン ター
フ ェ イス な ど)
を用 意 する。C
)
既存
一
般 車 対応従 来 価 値 観 コ ン セ プ トの
車
の 発 展 的 な デザ イ ン。 既存車種
の様
々 な 魅力の リフ ァイ ン、 使 用 性 拡 大 を目 指 す。 人の欲 求の最 大 値(
限 度はある が)で デ ザ イ ン。 ア ジ ャ ス ト類で ジャ ス トフ ィ ッ トを 図る。車を全て のユ
ー
ザー、
全て の使
用 に合
致さ せ る よう な 共用概 念は効 果的 で な く、 逆に全 て のユー
ザー
嗜好性 を 充分 反映出 来 ず 中 途 半 端 な個 性の 無 い 商 品になる恐れ がある。 共用 出来る車種
と専 用 に な る車 種 と を効 率 良 くラ イン ア ッ プ してい くべ きであろう。 車は言 う まで もな く、
使用 目的に応 じた種々 の バ リエー
ショ ン が必 要 と さ れてお り、
多様
なユ ニ バー
サル デザ イン思 想の車
の存在
が求 め ら れるものと考える (図7 )
。5.
2,
今 後の方 向と課 題デ ザ インの専 門 分 野と して の開 発 * ユ ニ バ
ー
サル デザ イン車ラ イ ンアッ プ / デ ザ イン戦 略の設定。 基本デ ザ インガ イ ドライン の整備。 * フ レキ シビ リテ ィ
・
デザ イ ン (個 別 イ ン ター
フ ェ イス、
ロー
テ ク で気の効い た デ ザ イン オ プショ ン
〉
。 * ユ ニ バー
サ ル デザ イン車 両の コ ン セ プ ト開 発の ア イデ ア と しては 「エ イジ レス 車 」の 発 想 が ある。 若 年 層か ら高 齢
者
ユー
ザー
まで使 用 出 来、
ス ト レスが な く、 プライ ド と喜びが 持てる
車
がイメ
ー
ジである。 生 活 密 着 型の コ ン パ ク ト な、自分の使い 勝 手に合っ た車がユ
ー
ザー
の 支 持を 得て い る今、
トー
タル にバ ラ ン ス し たエ イ ジ レス概念の車の開 発が望ま れ る。 専 門領 域を超えた連 携研究 * ヒュ
ー
マ ン デ ザ イン研 究(
人の求め る感 性に まで 立 ち 入っ た 人間工学のあるべ き姿の研 究 ) 促 進。 * 身障 者用の色々 な 関 連仕 様、
製品の連 携 開発。 *初 期構
造、
設 計 段 階でのVA
,VE
を図 り、
オブ54 SPECIAL ISSUE OF JSSD vol
.
7 No,
1 1999 デ ザ イ ン学研 究 特 集 号出典:三角 図は「日本健 康福祉用具工 業会川 村 会長の 提唱」 資料 を基に作成 図 7
様々 なユ
ー
ザー
へ の車のユ ニバー
サル デ ザ イン対応方 向イ メー
ジ ショ ンな どへ のコ ス ト低 減を図る。 *新 技 術は時 代の要 請であ り、
ITS
、
マ ルチ メデ ィ ア との連 携が必 要
(
シ ン プル な使い 易い コン トロ
ー
ル 性、
低 コス ト化)。
高 齢 ドラ イバー
の認 知
、
判 断、
操作
の能 力 低 下を補 う もの と して有
効
で あ る。 * 各 種の移 動 手 段イ ン フ ラ、
交 通の シス テ ム (交差 点
、
交通標
識 など)
との 相互研 究。6
.
お わ りにユ ニ バ
ー
サルデザインは,
今後
益々 車の デザ イン 開 発 レベ ル で加速度 的な広が りを見せ る で あろ う。 車はユー
ザー
にとっ て高 額な耐 久消費財 で あ る と 同時に、
企業にとっ て も開 発は長 期に亙 り開 発費
も 膨大で あ る。 ユ ニ バー
サル デザ イン を車
の デザ イ ン に適応する時、
本稿の 考 え 方は部 分 的、 管 見 的 見 方で はある が、
望む ら く は、一
時の トレ ン ド志向
で惑
わ さ れ ること な く、
実 態を自 らの 目 で確 認 し、 本 質 性を見 極め た 上 で、
常 にユー
ザー
の ベ ネフ ィッ トを考
えた より良い 車づ く りへ の研 鑚と努 力が肝 要と言 うことである、 特に車
の デ ザ イ ン は、
他の どの商 品より もどこ で も誰で も が気 楽に乗 り、
見る こ と が出 来る点か ら、
メ ッセー
ジ 性が非 常に高 く、
企業
の文 化 性や社 会 性の表 明に 重 要な役
割を担っ てい る。 デザイン の向 上に よ り 使い 易さ とい う付 加 価 値で車の 潜 在的 な価 値が更 に高 まる と考
えてい る。 参 考 文 献 ユ)日本
自動車
工業 会、 警 察 庁2 )
日本 自動 車工 業 会、
平 成10
年 度、
乗 用車 市 場 動 向 調査、
p37−38 、
]999
3
)
通 商 産 業 省 生 活 産 業 局 監 修、高齢
社会 対応型産 業の研究
、
p27−
28
4
)
市川和 子、 車 種 別に見た高 齢 運転者の 交 通事故の特 徴
、
科 学 警 察 研 究 所 報告 交通 編、 vo1.
37
no 」January l996,
P31−38
5
)石 田敏郎、事
故 は どの よ うな ときに起こ るか、 日経サ イエ ン ス
1998
年 1月 号、p112 − 114
6
) 株 式 会 社ジェー
ディー
エ ス、株
式 会 社SRI
コ ン サルティン グ、
IAGMAP
働 結 果サマ リー
工997
年10
月、Part2
、Part3
7
)http
:〃darkwing.
uoregon.
edu ノ〜
uplan /UDEPweb
! MainUDEP.
htm1
8
)古
瀬敏
、 デザ インの未 来、都市文化
社、 p20−30
9 )
日経デザ イン は こ う考
える、
日経デザ イン、
1999
年2
月号、
p34−35
10 >
堀 田 明祐、高 齢 社 会に お け る デ ザ インの方 向、
デ ザ イン学研 究
BULLETIN
OF
JSSD
vol.
44.
No.
31997デ サ ィン学 研 究 特 集 号 sPEcIAL IssuE oF JssD vol