問 題
解決
に
お
ける
外 的
資
源
の
役
割
協
同 的
な
デ
ザ
イ
ン
プ
ロ
セ
ス
と
し
て
見
る
「
貼
り
紙
」
一
野 島 久 雄 N 幵 生活瓊 壌研 麌 所 新垣紀子 NTr 亰 日本1
は じめ に 私たちは社 会の中で、
さ ま ざ ま な 道 具 を 利 用し た り、
他 者と や り取り を し ながら生 活 を してい る。
こ の こと は、
改 めて言 うまで もない 自明なこ と であると思 わ れる か も しれ ないが、
他 者 や 外 部 の 情 報 が私た ちの認知活 動 に どの よ うな影 響を 及 ぼ している のか につ い て の研 究 は、
近 年になって よ うや く認 知心理学や認知 科学、
さ ら にはヒュー
マ ンインター
フェイス の分 野に おいて も、
進 め られ る よ う になっ た ものである。
日常 場 面で 人 が道具 を利用 した り、
問題 解 決 を した り する行為は一
般 的には 個 人 的 な 営み であ ると考えられて いる。
しか しながら、
た と え ば.
私 た ち が 道 を 覚 え 目的 地 に 移 動 す る過程に お い ては,
街並みが提 供する情 報 や 自分以 外の他 者 が 街 を移 動 す ることによっ て作られ る 人 の流れ な どを情報と して利 用 すること も ある し(新垣& 野 島,
2001
)、
ま た、
コ ピー
機や書 籍 な どの道 具 を使 う際に も、
誰 か が 貼 り付 け た利用上 の注意 書や多くの人 が 使っ た た め に 付いた 汚 れ (手 あ か )などが利用の手 順や目的の 情 報を探す と きの手 が か り と な ること は よ く あ る (Hill,
Hollan,
Wroblewski
,&McCandles
$1992
)。
私た ちの日常場 面にお ける問 題 解 決 過 程 を 明 らか に し
、
そ れ を支援す る た め に は、
人の外部にあっ て、
その 人の問 題 解決行 動 に影 響 を 及 ぼ す 道 具や情報などが どの よ う に利 用 され て いるか を 明らかにして いくことが必 要 だ ろう。 本 論文におい ては、
私 た ちの日常 場 面 に おいて、
道 具、
他 者 な どの個人外の要 因(こ こ では、
それらを 人の外 部にあっ て利 用でき る リソー
ス という意 味で広く「外的 資 源」と呼ぷ)が私た ちの認 知 過 程・
問 題 解 決 過 程に どの よ うな 影 響を及 ぼし ている か、
すな わち、
問題 解 決 場 面 お よびインター
フェ イスデザ イン場面にお ける外 的 資 源の 彳賻 】につ いて、
これ ま での認 知 研究の歴史を ふまえ て検 討する。
さら に、
道具に貼 付 され た 貼 り紙 を 例 と し て.
私たちの問題解決にお ける外 的 資 源の役 割につ いて も考 察 したい。 〜(り’maH
’∫aoNTTLifeStγte end fnvironmentat Technotogy LabOretOfies
∫hingaki Noriko NTTEAsr2 問 題 解 決に おける外 的資 源の役 割
2.
1
問 題 解 決 という考え方 認知科学の分野においては、
私 た ち が 日常で行っ て い る さ まざま な 行 為は問題解決の枠 組に基 づいて記 述 され る ことが多い。
問 題 解 決 とは、
あ る 課題が 目的と する状 態(ゴー
ル)とは 異 なる状 態 に あ る と きに、
人が自らの持 っている資源 (知識、
技 術な ど)を 用いてその 状 態に対 す る変形 操 作 を加え ること に よって、
目的とする状 態 (ゴー
ル )に移 行 させ ることである。
人の知的な営み を問題解決 と して捉え る観点 は、
NeweU
&S
on によ り提 起 され.
1970
年 代 以 降の認 知 科 学の基本的なパ ラダ イム の一
つ と なって い る(Newell
&Simon,
1972
)。NeweU
らの研究が認知科 学とい う研 究 分 野の基 礎を形 づ くっ た と言われ るのは、
こ こ で 知識の状 態を 問題 空 間 と し て記 述 するた めの シンボル表 現、一
般問題解決 器 (Genera1 ProblemSolver
)とい う問 題 空 間の変 化 を 記 述す るた めの枠 組を提案する と と も に
.
人 が 行っ ている 問 題 解 決 過 程 を観 察 し記 述 す る た めのプロ トコル分析 といわ れ る思考過 程の分析方法 を 確 立 した ところにあ る (Ericsson
&Simon
,1984)。2.
2
問題 解 決にお け る「外 界」の発見 し か しながら、
これら の認 知 科 学の素 材 となった もの の多 く は、
パズ ル や 文章理解、
個人の道 具の利用 プロセ スなどの個人の問題 解決過程であっ た。
認 知 科 学 は、
1970
年 以 前の行 動 主義に対 する批判 をふま えて.
研 究の 対 象 と する問 題 解 決の題 材と し て は、
日常 的な 課題 を取 り 上げる よ う になった が、
研 究の手 法 としては、
状 況 か ら切り放さ れ た場にお ける個 人の問 題 解 決プロセス を対 象 とす る もの が中心となっ て いた。
典 型 的 な 実 験 は、
被 験者は 実 験 室 に 入 れ られ.
実験者か ら提示 されて課題に (参考 資料を見た り、
人に尋 ね た りす るこ とは許されず に)自分の力で取り組む。
実験 者 は その過 程で被 験 者が ど の よ うな 知 識を 頭 の 中 に 蓄 え ており、
それ を どのよ う な 方 略 を 用い て利 用 する か(あるいは 利用しないか )の検 討ヂ ザ ィン学研究 特槊号 SPECIAL
ISSUE
OF
JSSD Vol
.
9 No.
3 20027を 進 め たの であ る
。
これ らの実 験にも とついて認 知 科 学・
認知 心 理学は 人 の認知プロセ ス や知識構造につ いて のさ まざま な 知 見 を明 らか に してき た。
しか し、
こ う した 認 知 プロセ ス を個人 に閉じ た も の と し て捉え る考え方が現 実に即して いないば か り か、
その 考 え 方に基 づいている限り、
支 援 場 面のデ ザイ ン をする のは 困 難であるとい う こと も 明ら か になって きたの で あ る。 以下に.
私た ちの問 題解決に社会とい う観 点 が どの よ うな 役 割 を 果 た している のか を明 ら か にする ときに重 要な ポイントとなっ た研究を示し た い。 2.
3集 団の心 理 学の研 究社会心 理 学の分野では
、
他 者の存 在 が私たちの意思決定 に大 きな影響を与え る こ とはよ く知られて いる。
代表 的 な 研究と しては、
Asch
によ る意思 決 定 過 程へ の集 団 圧 力の 研 究 (Asch,1963
)やMilgram
に よる集 団規模の誘 因効 果の 研 究 (Milgrarn
,
1992
)な どが ある。
また、
他 者は 圧力を か け るだ けでなく、
相互 に援 助しあ う こ と も できる。
人々が社会のなかで相互に助 け 合いなが ら道 具の利 用 方 法 を学 んでいくことにつ いては、
インター
フェ イス の分 野で の相 互援 助に関 するBannon
の研究 (Bannon ,1986
)やネッ ト ワー
ク を利 用 す る場 面での社 会 的 分業に関 す る 野 島 らの研 究 (野 島& 阪 谷,
1992
)が ある。
2.
4道 具 論 とア フォー
ダン ス ま た、
1990 年代の イ ン ター
フェ イス研究およ び インター
フェ イスデザインの 分 野で重 要 視 され た 考 え 方に アフ ォー
ダン スが ある。
ア フォー
ダン スは、
も と も と は、
視覚 心 理 学 者の
Gibson
の用 語であるが (Git
]mson,
1992).
デザ イン の分野 で重要視 される よ う に なっ た の は
、
DonaldANorman
がそ の著 書の中で、
説 明抜きで も利 用 方 法 が はっ き り とわ か る よ うなデザ イン の重 要 性 と して アフォー
ダン スという 概 念を 広 め たこ と に始まる(Norman
,
1990,
1999
:野島& 新垣,
2001
)。Norman
のアフ ォー
ダ ンス概 念 は、
Gibsc
)nの環 境の中 に実 在 するものと して の アフォー
ダン スと は異なるもの であり、
本人 も後に「知 覚 され たア フォー
ダン ス(peroeived affordance >」とい う言 葉で言い換え て い るが (Noman,
1999)、
もとも とは、
Norman
の認 知的人工物 (道 具 )に関 す る議 論 と深いつな が り を持り もの であ る (No
,1992
)。
2.
5 ネッ トワー
ク の普及との関連 1990年 代 以 降に社 会 に対 する注 目が 増 え た も うひとつ の理 由 は、
コ ンピュー
タネッ トワー
クの普及にある。 ネ ッ ト ワー
ク技術の普 及に伴っ て、1980
年 代 後 半 か ら、
コ ン ピュー
タ科学の分野 で は、
グルー
プウェ ア(あるいは.
CSCWi
Computer
Supported
Cooperative Work )と呼ば れる
一
連の研 究 が 広 まった。
それ まで単 体で利用されてい たコ ンピュー
タ を ネッ トワー
クを介して接続する こ と に よっ て、
人 々 の協同 行 為 を 支 援 し よ う と す る 試み であ り、
数 多 くの シ ス テ ム(議 論 支援、
協 同著作 支援、
意思 決 定 支援のた めの シ ス テ ムなど )が作られた。 しか しな が ら、
そのよ うに して 作 られたシステムの ほ とん ど が あ ま りうま く使わ れなかったの であ る。Grudiin
は、
そ う した 数 多 くの シ ス テ ム の失 敗 をレビュー
して、
そ れ ら が、
シ ス テ ムを使 う 人々の社会的 なプロセス を軽視して いた と こ ろ に原因の一
つ があ る と述べ (Grudin
,
1989
)、
集 団プ ロセスに関 す る 社 会 心 理 的 な アプロー
チの重 要 性 を 指 摘 してい る。
また、
その一
方で、
90
年 代に なって か ら のWorld
WideWeb
(WWW )の爆発的な普及は、
多数の新 規の ユー
ザを 増やす と と もに、
そ う したユー
ザ が 利 用 可 能 な 情 報の量 も 爆 発 的に増 や した。
そ の膨 大 な情報の中か ら必要 な情 報を取捨 選 択する ときの枠組と して、
多く の人 が 評 価 し、
参考に して いる情 報 を 優 先 して選 択 するとい う社 会 的フ ィル タ リン グの考 え 方 が 広 く採 用 さ れるよう になっ てき た (Shardanand
&Maes ,1995
)。
こ の 考 え方は、
WWW
の検 索エ ン ジ ン が検索ワー
ドとWWW ペー
ジ を 結 び付ける と き に も利 用 され てい る (Clever
Proiect
,
1999
)。
以 下で は、
これ らの 認 知 科 学の動 向 を踏 まえた 上でt 外 的 資 源 が 人の問題解決 に 及 ぼ してい る影 響のいくつか を 明らかにするとともに、
個人的な認 知と社会的 な 支 援 の間をつなぐ もの として 「貼 り紙」を例 と してと りあげる と と もに、
外 的 資 源のデザ インにつ いても検 討 して いき たい。
3
貼 り紙と は 何 か 3.
1な ぜ 貼 り紙 を 取 り上 げ る か 外 的 資 源 が 私 た ちの 日常 場面 に果た し ている役 割を検 討 する にあ たっ て、
今回は、
私たちは、
「貼 り紙」を取 り 上 げる こ と に し た。
貼り紙は、
ごく日常 的に見 られ るも8SPECIAL
ISSUEOF JSSD Vol.
9 No.
3 2002 デ ザ イ ン学研 究特 集 号の であ り
、
人の外部にあっ て情 報を 伝 達 するもの であ る。 私た ちが日常 的に利 用 する さ まざまな 道 具は.
日々 高 機 能 化 すると と も に 複 雑 な もの に なっている。
特に多 機 能化・
高機 能化してい る複雑な道 具、
た とえば自動券 売 機や自 動 改 札 機、
コ ピー
機 など に は、
しばしば 貼り紙 が 貼られてい るのを 見 か ける。
こ こでい う貼り紙 とは,
「あら か じめデ ザイ ンさ れ た道具に対 してユー
ザ(道 具の 設 置 者、
所 有 者 を含む )が 後 か ら意図 的に付 け 加 え た 情 報」の ことである。
その内容 と しては.
人 が その道 具の使 い方を 誤る こと を警 告して い るもの、
使い方の ノウハ ウ、
注意 点な どに関する もの が多く、
メッセー
ジ は手書 きで書いて紙に貼 られた り、
ラベ ルプ リンタで出 力さ れ たりするものな ど が 多い。
No は.
その著書の中で道具の使い やす さ・
わ か りや す さ を規 定 す る ものと してアフォー
ダンス とい う概 念 を展 開 した (No
,
1990
)。
道 具の形 状 や 置 か れてい る状況 が自明でない場 合(アフ ォー
ダン スがない場 合)、
人はその道 具の使い方を理 解しなかっ た り、
使い方を誤 ったりする。
貼 り紙はま さに こ のよ うな 場 面に貼ら れる こと が 多 く、
いわ ば、
道 具 に 欠 けている ア フォー
ダン ス を補う 役割を果た し て い る も の である と い う こ とができ る だ ろ う。 さ らに、
貼 り紙の多く は他 者に宛て た メッセー
ジ とい う意 味で、
ま さに他 者へ の社 会 的 な 働 き 掛 け を 示 す もの である。 も ちろ ん、
貼り紙に は さ まざま な種 類 があ り、
自分 自 身に対して のメモ と して貼ら れ る もの も あるが、
本 研 究において は、
公の場に貼ら れるもの で、
貼った 人 とそれ を読 む 人 が 異 なると 考 えられるものを 対 象と し た。
こ のよ うに考 えると、
貼 り紙は、
道 具や環境に欠 けて いるアフ ォー
ダン スを補 うこ と によっ て個人の 問 題 解 決 を支 援 するだけで はなく,
個 人の問 題解決 を社 会的 な 文 脈 に位 置 づ け 社 会 的 な 支 援 を成 立 さ せ る た めの 機 能 を果 た して い ると考え られる。
貼り紙は、
日常 場 面におい て 人 が外的 資源 をどのよ うに使って い る か を示すよい例で あ る と考 えてい る。 なぜな らば、
貼 り紙 は、
人 が な ん ら か の道具を使っ ていると きに、
困った 場 面、
問題である と考え た場面 に貼られる も の である か ら である。
さら に、
貼り紙が貼られる ことによっ て道具のあり方・
使 わ れ方が変わ る と いう意味で、
ユー
ザに よ る道 具のデ ザイ ン プロセ スへ の参加 と も言え る も のだか ら である 。3.
2
外 的資源とし て の貼 り紙の役 割 鉄道の自動 改札機は、
多機能化 する こ と に よって多 様 なユー
ザの切 符 (乗 車 券、
特 急 券、
定 期 券 な ど 〉を 自 動 的 に処 理 し、
省 力化を 図るもの のは ずである。
し か し、
現 時 点に おい て、
た と え }詢R
新 幹線 の 自 動 改 札 の よ う に、
利 用 者がう まく使 うこ と ができない こと がある。
こ こ で は、
さ ま ざ ま な 注 意の 貼 り紙 (「2
枚 重 ねて入 れてく だ さ い」「乗車券を お取り下さ い(取り忘れ防止)」など)が必要に な る だ けでは 足 りず、
何 人 もの駅 員 が 自動改札の隣に立 って利 用 者 に 切 符 を 取 る よ うにいちい ち説 明 し な け れば な らないよ うな状況に陥っ てい る。 こ うした道 具に貼ら れて いる貼り紙や.
利 用 者を手 助けする 人 が必 要で あ る とい うこと は.
高 機 能 化 し た 道 具のインタフェー
ス に不 適 切な点が ある こと を 明確に示 してい る。
貼 り紙 は,
そ のインタフェー
ス で何が問題になっ て い る の か を示し て いると考 え られ る。 そこで、
貼 り紙に着 目 し、
貼 り紙 が どの よ うな場面に貼られる のか、
ま た、
どの よ うな 機能 を サポー
ト し ている の か とい う こ と を分 析 する こ と に よ っ て、
高機 能化し た道具や電子メディアの アプリ ケー
シ ョ ン にお け る インタフェー
スの要 件 を明 らか にする と と も に、
私た ちの問題解決 や道具のデ ザ インが どのよ う に 他者と関わっ て い る の か をあきら か にする こ とができる だろう。
そ の た め に、
本論文で は、
コ ピー
機 な どに ユー
ザ が 貼 った 貼 り紙(例 えば、
図1)を 収集、
分析 する こ と に よ り、
シ ステム や道 具 などの懆 作 対象とユー
ザの間で問題が起 る のは どのよ う な 場 面 か (貼 り紙 が 貼 られ る 状 況の 分 析)、
そ の問題を解決 するた めに提案され た 方 法 は 何 か (貼 り紙の内容の分析)を明らか にする と と も に、
それ が ど うい う社会的 な意味を持っ て い る の か を検討 し た。
f’
図1コ ピー
機に 貼られ た 貼 り紐の例デ ザ イン学 研 究 特M号 SPECLAL ISSUE OF JSSD Vol
.
9 No.
3 20029一
対a〃見λ葎い φ 隠 が 見& な い m 口」ゆ 阻い 槽遭{tPt題い 甎 シ ステ ム 〔傍外 シス ヂム) 瞬隠船 シス7ム の 翼霧 シス 詑 繍の噴 艦 外 昇 の 知 鍵 〔見 隅 り
.
脇 とし ,。
驫 齦
鋤 メ ンタルモデ ルCPξ扣 ) プランa ン グ ‘欠 鋤 朽助 鰤作 ミス} り罎 が 偽鏨か け る 知 の レペ
ル ユー
サの システム イ メー
ジ影
図2人 間一
シ ステムー
環境の中で の 貼 り紙の役 割 (1
)システムな ど操 作 対 象の問 題:システ ム はユー
ザにど の よ う な機 能を提 供し ている の か。
シ ス テ ム にどのよ う な 問 題 が あると き、
貼 り紙 が 貼 られるのか。
(2)ユー
ザへ の援助:貼り紙によって、
ユー
ザ とシ ステム の インタ ラ クション の ど の側 面が援助さ れ て い る のか。
(ユー
ザの認 知プ囗セスの段 階 と して はNorman の 「行 為 の7
段 階モデル 」を参 考に して分 類 した (Norman,
1990)。
) (3
)環 境、
社 会の 問 題:文 化や社会、
環 境が 人 や システ ム に与え てい る制 約 を どのよ う に 教 えているの か。
4 貼り紙の 分析 そ も そ も どのよ う な 貼 り紙 が 存 在 す る か を 調べる た め に、
主としてオフ ィ ス内の情報機 器や 街の中 な ど 公 共の 場に貼 られている 貼 り紙を 収集し た。 貼り紙は、
オフ ィ スや 駅の改 札ロ、
高 速 道 路のサー
ビス エ リ アなど た く さ ん の 人が 集ま る場 所に貼られる こと が 多い。
こ こでは、
特に、
人間と シ ステム の間で トラブルを 生 じて い る こと を 表 している と 考 え られ る 貼 り紙に注 目 して、 約500
例 を収 集した。
収集した 写真から、
貼り紙が貼られる場 面の主な問題 の所 在を示 すよ う に、
システム、
人間、
環 境の3
軸に 基づ いて分 析 した (Nomm
,
1990)(図2参照 )。
そ して、
貼 り紙の具 体 例の いくつか を 例と し て、
そ の 貼り紙が 果 た していると考 え ら れ る 機 能 / その貼 り紙に よっ て 明 らかにな るシ ステム の問題点 /貼り紙が提示 す るユー
ザの認 知レベル(貼 り紙がユー
ザを援 助し て い る側 面 )をまと めた ものが、
表 1である。
5
考察5.
1
貼り紙の役割 表1
に示 される よ うに、
貼 り紙は、
人 と シ ステムな ど操 作 対 象の間の不 整 合 をつなぐ た めの役 割を果た し て い る と考え られる。
こ の多 くは適 切 な「知 覚 される ア フ ォー
ダ ンス」の欠 如に よ るもの である。
した がっ て、
不 整 合 を 引 畏1:貼 り紙の分 類 貼 リ紙の具 体 例 貼 り紙の機 能 貼 り紙 が 示 す システム の問 題 点 貼り紙が働きか ける認知の レベル (ユー
ザへ の補 助) 階段あリ/段 差 あ り 目 立 た せ る 対 象 が見 えない 知 覚 (見 誤 り〉 中の見えない本 棚の中 身 中 身の表 示ラベ ル 中 身が見えない 配憶(記憶 補助 ) 電灯の各スイッチ に対し て 操 作 さ れ る電 灯のメモ香き 対応 付 け 対 応 付 けが 悪い(mapping ) 記 憶 (記 憶 補 助 )操作 (操 作ミス 防止)JR
のタッチ パネル券 売 機 (買 う 人が選択 する 項 目ごと に 構造化 されて いない ) 表示の構 造 化 選 択 肢が多い 手続き 的 知 識の補 助 空かない扉の前にある障害物 障香 物 などに よ る警 告 シ ス テ ム の異 常 (機 能しないな ど ) 行 動 〔操 作 させ ない) 切符を2枚 挿入す る 自 勳 改 札 / 異 な る 点 を 教示 切符を1枚しか受け付けない自 動 改 札/ 釣 り 銭 返 却 ロ の よ う な お金入れ 新シス テ厶 (例 外 システ ム) メンタ ル モデル の 作成 システ 厶 理解の補助 パスネット使 用 可 能 / 原 稿 面 を上向 き に 挿 入 す るFAX 機 能 表 示 新機 能 メ ンタルモデル補 助 シ ス テ 厶理 解の補 助10SPECIAL LSSUE OF JSSD Vol
.
9 No.
3 2002 デ ザ イ ン学研 究特築号き起こす 問題がシ ス テ ム側に存 在する場合は
、
デザイン を よ く し た り、
異 なる システム の間の違いを な くす な ど して ユー
ザの学 習 を 容 易にする(た とえ ば.
記憶負荷を減 らす )こ とによ り、
貼り紙 を なくすこ と が で き る 可能性 が ある。
しか し、
こ の問題は、
単にシ ス テム の デザ インだ け で解決 され る もの では ない。
その シ ス テ ムが ある環 境 に 置 か れる ことによっ て発生 する こ とがある から で あ る。
新し い シ ステム の導 入 時には、
た と え ば「(新 しい機 械に)切 符 は2
枚 重 ねてお 通 し下 さい」「(古い機械に )切 符は1
枚 ずつ お 通 し下 さい」が貼られる こ と があ る。 この過 渡 期に お い て、
どち らの貼 り紙 がメインになるか は変わり うる。
さ ら に、
上 記の不 整 合 は人 の認知の さ まざまなレ ベル で発 生し う る。 表1に示した よ うに、
貼 り紙 は 人の認 知の さ まざま な レベル で機 能 している。
しか しな がら、
こ の レ ペ ルの選 択 を貼り紙に よってコ ン トロー
ルする の が困 難である た め、
貼り紙のさ まざまな 問題(統一
感のない雑 然さ、
ユー
ザの学 習 を 支 援 しないな ど)が 発 生し ている の で あ る と考 え られ る。
ま た、
ある人の失敗をユー
ザ 間 で 共 有 す る とい う(ノウ ハ ウ 情 報の流 通 )た め に も、
貼 り紙 は 重 要 なメディア で あ る。
これ らの情 報 は、
シ ス テ ム の本 来のデザ イナ がデ ザ イ ンしき れなかった 問題(と りわけ、
そのシステムが ある 特 定の環 境 に 置 か れる ことによって発生 した問題)に 人 が 対 処 するため に も役に立っ て い る。 5.
2初 心 者ユー
ザへのヘル プ 貼り紙 がメッセー
ジ を伝え て い る相 手の 多く は、
その システムを あ ま り使っ たことの無い人、
そ の シ ス テ ム を 知 らない人であ る と 考 え られ た。
同様に、
システムなど 操 作 対 象の側面か ら見て も、
人間に とって 見 たことのな い新し い シス テムや 通 常 と 異 なる シ ス テ ムに 対 して貼り 紙 が 貼 られる ことが多かった。
新しい シ ステム が導入 さ れ た場面や、
初心者ユー
ザが システ ム を 使 う場 面では、
人の もっ ている シ ス テ ム に対する メ ン タ ル モデル と、
実 際のシ ス テ ムとの間に存 在 する 不整 合が もっ と も大きな 場 面である と考え られる。 全く知 らない シ ス テム を従 来 の知識から推測 して 利 用 し た り、
シ ス テ ム の形 状 から知 覚 され るア フォー
ダン スだ けで使い こなすの は人に は難 しいと考え られ る。 こ のよ う な 場 面では、
初 心 者ユー
ザ に貼り紙の ような 形 式で情 報 を 呈 示 する ことは有効であ ろう。
5.
3
公 共メ ッセー
ジ と して の貼 り紙:Social
navigation シス テ ムのデザ インが悪 く、
ボ タンが見えない・
中身が 見 えないな どの問題がある場合は貼 り紙が貼 られ る。 この AppcrxSx(参考 図 ) Appendix 1:段差あ り AppUtx 4:新 幹 線の改 札 利用 の 注意 Appcrrix2:どのボタ ン で、
どの電灯が つくか Appendix3
:JRの タッチ バ ネ ル 券 売 機 Appaxix 5:JR新 幹 線 改 札 投 入 直 前の警 告 A叩 encix 6;釣り銭返却ロ のような お金 入 れデザ イン学研究 特粟号 SPECIAL
ISSUEOF
JSSD Vol
.
9 No.
3 200211貼り紙は
,
誰か があ る 失 敗 を した とい うメッセー
ジが 明 示 的に残さ れていると解釈 する ことが できるだろ う。
貼 り紙 によ り、
後でシス テ ムを利用するユー
ザ は,
その前のユー
ザ と 同 じ過 ちを繰り返さ な い た め の助 けとなり、
情 報 を共 有する こ とができる からである。
た と え ば、
は じめで出 か け た 外 国の レス トラ ンで お 金 の支 払いを しよ う と した と きに、
他の 人 が支払う様子 を 見本と し て、
実行す るの は、
そ れ ほ ど難 しいことでは な い。
こ の よ うな 他 者のシ ス テ ムの使い方の見本を電子 メ ディア に持 ち込も う とい う研究(Socia1
Navigation)が 重要視さ れてきて いる(Diebergeg
Dourish,
Hook ,
Resnick
,& Wexe ]
blat
,
2000
)。
これ らは 人 がシ ス テ ムを利用した履歴 情 報 を積極的に活 用し よ う という試み で あ る。
貼 り紙 は、
明 示的な メッセー
ジであるた め、
履 歴 よりも 明 確 な 情 報であ り、
利 用 しや すい場面が ある。 こ のよ うな 貼り 紙がもたらしてくれる情報は機器のデザ イン にフ ィー
ド バ ッ クさ れるべ きで あ ろ う。
5.
4
貼り紙をデ ザイ ン に ど う活 か す か き れいに デ ザ インさ れ た道具や整然と した街並 みに貼 ら れ た貼り紙は見苦し い こと も多い。
しか しながら、
以 上に 考察し て き た ように.
貼 り紙 が 私 た ちの問題解決に直接的 に役立つとい うこと、
ま た、
社会的な場面で の他 者からの 援 助行動の発現で ある ということ を考え る と、
少 なく と も 貼り紙の社 会的 な 機 能 は 認 め ざるを 得 ないだろ う。
それで は、
貼 り紙 が 持つ問題点 を解決 して,
そ の機能 を利 用できるような 環境を考え ようと した と き、
い くつ かのチャ レ ン ジ ングな課題が存 在 していることが わ かる だろ う。
ま ず
、
貼り紙の 問 題 点 と しては、
以下の も の を考え る こ と がで き る。 (1
)ユー
ザ を選べない:必 要のない人にま で 提 示 さ れ る (2
)時を選べ ない:必 要のない時 に 提 示 さ れる (3
)見栄え が悪い:事 後 的にデ ザイ ン に付加さ れ る も ので あ り、
デザイナー
がコ ン トロー
ル で きない こ の うちの3
点目は、
デザ イ ナー
がユー
ザの利用 形態を 十分に理解して、
あ らか じめ対 処 する ことに よっ て改 善し て い くことによって対 処 すべ きである と いう考 え 方 も あ る。 しか し、
ユー
ザの レペル の多様性、
事前にユー
ザの利 用 目的を推測する こ と の困難さ を考 え る と、
.
現 実 的には デ ザイナ があらか じめ対処する こ と は不 可 能 で あ ろ う。 ユー
ザ や 時 を 選べ ないという点にっ い ては、
利用者や シ ステ ムの状態に 応 じて 表 示 が 変 る「電子的な貼り紙」を 実 現 するとい うことが 可能であろう(新垣,
野島,
&相川,
2001
)。
し か しな が ら、
そ れ が本当 に役に 立つよ うになる ために は、
ユー
ザの レベルの推 測、
個人適 応、
意図推 測 な どの 知 的 処 理 が さ ら に 必 要になるだろう (Dertouzos ,1999
)。
私 た ちは、
道 具に貼 られ た 貼 り紙を含め た総体 を考 慮 にいれてい くこと が道 具のデザ イン に とって重要 で あ る と考え て い る。
現実の道 具の利 用 場 面において、
利 用 者 が利用状況 を 変 更 し、
道 具の使 わ れ 方 を 再 デ ザイ ンす る。
こ のよ う な デ ザ イ ナー
とユー
ザの協 同的 な 場とし て、
道具の利 用の場を考 え、
そ してそ れ が さ ら に他のユー
ザ に も共 有 されてい く場 と して考え て い く こ と が 重 要 だろう。
そ れ を考え てい くため に は、
認 知科学の ような 知 識のあり方に関わ る学 問や社会心 理 学 な どの人々 の社 会 的イ ン タ ラ ク ション に関 する学 問が、
デザ イン の現場 と深く関わっ ていくこと が 重 要である と考え ている。
野島 久 雄 1983年東京 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科修士 課 程修 了。
同年電電 公社入社。 現在、
NIT
生活環境研究 所主幹研 究 員。
コン ピュー
タコ ミュ ニ ケー
シ ョンの心 理学、HCI
な どの研究に従 事。
著 書に 『認 知 心理学を知る』(共著、
ブレー
ン出 版 )他、
訳 書に 『 誰のた めのデ ザ イン ?』(新曜社)、
『認 知 心 理 学 事 典』(共訳、
新曜社)他 など。
教 育工学 会、
教 育心 理学会、
発達心 理 学会、
ヒュー
マ ンインタフェー
ス 学会、
情報 処 理 学 会、
電 子 情 報 通 信学会、
人工知能 学会
、
ACM,
CQgnjtive
Science
Society
各 会員。新 垣 紀 子
1988
年大阪 大 学 基 礎 工 学 部 卒 業。1990
年 大 阪 大学 大学院 基 礎工学研 究 科 物 理 系 専 攻 前期課程修了。
同年 日本電 信 電話 株式会社入社。 同基 礎研 究 所 等 を 経て、
現 在、
NrlT
東日本 株 式 会 社 法 人 営 業 本 部 ブロー
ドバ ンドビジネス部 勤 務。
人のナビゲー
ショ ン の 研究に従事。
著 書に『方 向 オ ンチの科 学』(野 島 と 共著、
講 談社)な ど。Cognitive
Sci−
ence 蹴iety、
日本認知科学会、
人 間 環 境 学 会、
情 報 処 理学会 各会 員。12SPECIAL ISSUE OF JSSD Vol
,
9 No.
3 2002 デ ザ イ ン学研究 特染号参 考 文 献
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デ ザ イ ン掌研究特 集号 SPECIAL ISSuE OF JSSD vo1