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巻頭言:特集「多様性と変動性の基礎心理学」

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DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.38.9

特集「多様性と変動性の基礎心理学」

Diversity and variability of mental processes

巻頭言

鈴 木 敦 命

a

・内 藤 智 之

b a東京大学,b大阪大学 近年,日本基礎心理学会では,フォーラムや大会シン ポジウムを通して,2つの問題が繰り返し問われてい る。1つは社会や他学問領域への貢献について,もう1 つは新しい測定技術・理論の活用についてである。もち ろん,今に限らず,存在意義と革新はあらゆる学問に常 に求められているものではあるが,その要請に応える術 は時代によって当然異なる。現代の基礎心理学がこれら の問題にどう対峙するかを考える時,1つの有効な切り 口として,本特集号のテーマである「多様性と変動性」 を挙げることができるだろう。 心理学におけるデータの収集・分析方法の新しい展開 により,心の多様性と変動性を研究する環境が近年急速 に整ってきている。例えば,大規模サンプルデータの効 率的な収集を可能にするオンライン実験プラットフォー ムやクラウドソーシングサービスの普及,幅広いテーマ にわたる国際研究チームの立ち上げによって,個体差や 文化差などの多様性を従来よりも正確に知ることが可能 になり,さらに,スマートフォンやウェアラブルセン サーを用いた連続的・長期的計測によって,個人内や集 団内での変動を探るのに適したリッチなビッグデータが 得られるようになってきた。また,分散分析のような平 均値の比較にとどまらず,データのばらつきや変化を統 計モデルに組み込んで推定する柔軟な分析法の使用も浸 透しつつある。この好機を活かして心の多様性と変動性 を解明することは,心理学への社会的要請ともいうこと ができよう。例えば,少数の大学生から得られた研究知 見は,心の働きの一般的な学術的理解に貢献しても,現 代日本の多数構成員である高齢者の認知や行動の予測と いった個別の実社会的問題への示唆は限定的かもしれな い。また,産業界で模索が始まっている製品やサービス の顧客別カスタマイゼーションにおいては,感性判断や 選好の多様性に加えて,それらが個人内で時間的・状況 的にどのように変動し得るか(安定したものであるの か)も考慮に入れる必要がある。以上を鑑みると,従来 はともすれば「ノイズ」として無視・軽視されがちだっ た心の多様性と変動性が,今後はいっそう心理学を牽引 する研究テーマとなり得る可能性を秘めている。このよ うな背景から,「多様性と変動性の基礎心理学」と題し た特集号を組み,基礎心理学が研究対象とする種々の心 理過程の多様性や変動性に関連した研究論文を広く募集 した。 その結果,企画者の狙い通り,投稿された論文は知 覚,注意,認知バイアス,嗜好・審美判断,動機づけな ど幅広いトピックをカバーし,個人差,性差,加齢や文 化の影響,時間・文脈・学習による変動(あるいは安定 性)などそれぞれ異なる切り口から多様性と変動性の問 題に迫るものであった。データの収集や分析について は,オンライン実験,公開データの活用,計算論(強化 学習)モデリング,MAP (最大事後確率)推定,線形混 合モデル分析など,近年注目・推奨されている方法論が 積極的に用いられており,さらに,報告されている研究 知見は基礎学術的意義を持つにとどまらず,臨床心理学 的検査やマーケティングへの応用など他領域への示唆に 富んでいる。読者には専門とする分野によらず是非計8 の論文を通読し,基礎心理学研究の裾野の広さ,将来 性,他領域や社会への貢献などを改めて実感していただ きたい。 最後に,企画者らの呼びかけに応じて投稿していただ いた著者の方々に感謝するとともに,編集と審査に加 わっていただいた多くの研究者の皆様にも深くお礼を申 し上げたい。心理学の知見は時にサンプルの偏った限定 的なものだと批判を受けるが,本特集号が新たな契機と なって心の多様性と変動性に関する研究がさらに活発化 し,そうした指摘へのエビデンスに基づく反論,批判に 応える理論の更新・拡張,あるいは,全く新しい心理現 象の発見などにつながることを期待する。

The Japanese Journal of Psychonomic Science 2019, Vol. 38, No. 1, 1

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