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Breast Awareness 支援のプログラム開発とプロセス評価

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Academic year: 2021

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*1前 聖路加看護大学大学院博士前期課程修了(Graduate Program, Master of Nursing Science, St. Luke's College of Nursing) *2聖路加看護大学(St. Luke's College of Nursing)

2010年5月10日受付 2010年10月28日採用

資  料

Breast Awareness 支援のプログラム開発とプロセス評価

Development and process evaluation of

a Breast Awareness program

吉 野   都(Miyako YOSHINO)

*1

江 藤 宏 美(Hiromi ETO)

*2 抄  録 目 的  助産師によるBreast Awareness支援のプログラム開発過程と実施事例,プロセス評価を記述する。 方 法  評価研究。ヘルスプロモーションの概念を基盤としたプログラム開発のモデルを参考に,助産師によ る乳がんの正しい情報提供を中心としたBreast Awareness支援のプログラムを作成した。ヘルスプロ モーションのプログラムには,ニーズアセスメントから結果評価まで一連のサイクルがあるが,本研究 では,その一部であるニーズアセスメント,プログラムの計画と実行から,プロセス評価を試み記述し た。対象者は,成人女性,特に卒乳を視野に入れている児が1歳前後の母親10名とした。プログラムは, 参加者5名ずつ,2回実施した。 結 果  ニーズアセスメントにて,乳がんの健康問題の分析を行い,寄与リスクファクター(前提要因,実現 要因,強化要因)を明確にし,プログラムの要素を抽出した。プログラム計画では,プログラムの目的, サブ目標,戦略目標,参加者の目標を示し,目標達成のためのプログラム実行の具体案を選定した。  上記のプログラム計画の過程で,参加者の目標(1)乳房が大切なものだと考える,(2)乳がんの正し い情報を得る,(3)Breast Awareness の啓発がなされる,を選定した。ニーズアセスメントで抽出した プログラムの要素から,プログラム内容をBreast Awarenessの5つのコード(①自分の乳房を知る,② 乳房を見て感じる,③乳房の変化に気づく,④変化を感じたら敏速に医療機関にかかる,⑤40歳から 乳がん検診を受ける:National Health Service, United Kingdom)を中心に,参加型のグループワークを 実施した。プログラム実施後のプロセス評価を基に,プログラムの一部を修正し提示した。

考 察

 プログラムと評価がサイクルであるヘルスプロモーションの基盤に沿ったプログラム開発の戦略的意 義,助産師によるBreast Awareness 支援の重要な要素と今後の検討課題,women's health care として 助産師が乳がん啓発のためにとりくむための助産実践への示唆,以上3点の重要性が確認された。 キーワード:Breast Awareness,乳がん啓発,助産師,ヘルスプロモーション,プログラム開発,プロ

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Ⅰ.緒   言

 日本において乳がんは,65歳未満の成人女性のが ん死亡第1位である(厚生労働省,2004)。特に,30歳 から65歳未満の壮年層の女性の間で,顕著であると 指摘されている(霞,2003)。乳がん対策に力を入れ, 死亡率が1990年代から下降に転じている欧米に比べ, 日本では罹患率・死亡率とも上昇している。しかし, 乳がんの10年生存率は,Ⅰ期(しこりが2cm以下でリ ンパ節転移がない)で約90%であり(中村,2005),死 亡率の低下には,早期発見が重要である(霞,2003)。 乳がんの早期発見には,マンモグラフィと医療者に よる視触診(clinical breast examination,以下CBE) を含めた乳がんの検診,乳房の自己検診(breast self examination,以下BSE)が重要と言われている(厚生 労働省,2004)。厚生労働省の報告によると,乳がん 検診の受診率は14.2%(2007),マンモグラフィ普及率 は48%(2004)と少なく課題である。

 Cochrane Library の systematic review(Gøtzsche & Nielsen, 2006)によると,40歳以上の女性がマンモグ ラフィを含めた乳がん検診を受けることは,マンモ グラフィを含めた乳がん検診を受けないことと比べ て,乳がんの死亡率を有意に低下させるという結果が 得られている(RR0.8, 95%CI 0.70-0.91)。CBEの効果 は,ランダム化比較試験がなく不明であり,CBE単 独の乳がん検診は推奨されない(Kösters & Gøtzsche, 2003)。Cochrane Libraryのsystematic review(Kösters & Gøtzsche, 2003)によると,BSEは有意に乳がんの 死亡率を減少させない(RR1.05, 95%CI 0.90-1.41)。そ の た め,Canadian Task Force on Preventive Health Care(Baxter, 2001)やAmerican Cancer Society(Smith, Cokkimis & Eyre, 2006) は,女性はBSEの利益や限界 を理解し,その実施は女性自身の判断に委ねられる べきとし,インフォームド・チョイスを重視してい る。 し か し,Howard & Scotto-Findlay(2006)は, ラ ンダム化比較試験の結果はBSEを再考する機会を投 じたが,乳がん検診の対象外である若い女性のBreast Awareness(乳房の意識化)の向上のために,BSEは依 然として重要な役割を担うとBSEを位置づけた。  Breast Awarenessとは,自身の乳房の形や感触が通 Abstract Purpose

This paper describes the process of developing a Breast Awareness program, implementation and process evaluation, as a part of midwifery practice.

Method

Evaluation study. We developed a Breast Awareness program to introduce the concept of Breast Awareness particularly breast cancer awareness to lactating women. The program was guided by the concept of health promo-tion program development that has a circular process including: needs assessment, program planning, program im-plementation and process evaluation. This program imim-plementation was conducted twice with five lactating women whose babies were nearly weaned participating in each program.

Results

Elements of the program were extracted by analyzing a breast cancer health issue in the needs assessment. In this segment, the contributing risk factors (predisposing, enabling and reinforcing) were clarified.

Program purpose, sub-objects and strategic objects were indicated during program planning segment. Three program objects of participants were educed: (1) consider own breast as an important part of own body, (2) derive correct information about breast cancer, (3) knows and understands the aim of Breast Awareness, and a definite plan was selected to achieve those objectives. Five Breast Awareness codes formed the focal points of the program: 1) know what is normal for you, 2) look and feel, 3) know what changes to look for, 4) report any changes without delay, 5) attend breast screening if aged 50 (In case of Japan, if aged 40) or over (Department of Health, United Kingdom). The program was executed with a participatory approach, a lecture, demonstration and then mainly dis-cussion. The program was revised after the second implementation and process evaluation.

Considerations

Three points were discussed: strategic significance of health promotion program development, consequential elements and tasks of the Breast Awareness program as a midwifery practice, and a recommendation to introduce Breast Awareness to women as an important component of women's health care.

Key words: Breast Awareness, breast cancer awareness, midwife, health promotion, program development, process evaluation

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が ん 検 診 の 現 状 と 乳 が ん 検 診 のresearch evidence (Gøtzsche & Nielsen, 2006)を考慮し,⑤40歳以上に なったら,乳がんスクリーニングを受ける,とした。

Ⅱ.研 究 方 法

 ヘルスプロモーションの概念を基盤としたプログラ ム開発のモデルを参考に,助産師による乳がんの正し い情報提供を中心としたBreast Awarenessの支援のた めのプログラムを作成する過程を記述した。プログラ ムは,Hawe, Degeling & Hall(1990/2003),Dignan & Carr(1992)のヘルスプロモーションのプログラム開 発のプロセスを参照した。そのプロセスは,[ニーズ アセスメント]→[プログラム計画]→[プログラム実 行]→[プロセス評価]→[プログラム再デザインと再 実行]→[プロセス評価]→[評価可能性のアセスメン ト]→[影響評価]→[結果評価]→([ニーズアセスメ ント]に戻る)という一連のサイクルである。このサ イクルには,プロセス評価を反映させたプログラムを 再度実行し,その繰り返しによってプロセス評価が満 たされた際に次のステップにうつるという特徴がある。 本研究では,ニーズアセスメント,プログラムの計画 と実行からプロセス評価を試みた。以下にその手順を 記す。  研究期間およびデータ収集期間は,2006月4月から 10月であった。本研究は,聖路加看護大学研究倫理 審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号06-043)。 1.ニーズアセスメント  ニーズアセスメントは,[第1期:優先順位の高い問 題の明確化],[第2期:健康問題の分析]から成る。第 1期では,健康課題の種類を理解し,既存のデータを 検討し,健康問題の広がり,重大性,選択性から優 先順位を決定した。第2期で,第1期より導き出され た健康問題の文献検討,対象集団の記述(年齢,性別, 属性等),健康問題に寄与している要因の分析を行っ た。ここで対象集団を明確化するために,[リスクマー カー]と,健康問題に関係した[リスクファクター]を 記述した。さらに,リスクファクターの下位にあた る[寄与リスクファクター]である[前提要因;知識や 態度],[実現要因;行動を可能にする要因],[強化要 因;行動やその状況を維持する要因]を明確にし,プ ログラム内容の要素を抽出した。 常どのような状態であるのか理解し,通常と違うこ とを感じたら,敏速に医療機関にかかる,乳がん検 診を受けることなどを提示し,乳房に関する意識付 けを奨励する。この目的は,自身の乳房への意識化 を図ることであり,乳がんの早期発見の戦略の要所 で あ る(Graham, 2005)。 前 述 し たCochrane Library のsystematic reviewも欧米のガイドラインも,Breast Awarenessの 向 上 を 目 的 と し た 教 育 を 奨 励 し て い る。1990年代初頭よりイギリスで提唱されたBreast Awarenessは,ヘルスプロモーションの一部として 位置づけられ,身体の意識化,それに伴う女性のエ ンパワーメントに影響を及ぼす(Graham, 2005)。ま た国際的な乳がん啓発団体であるThe Young Survival Coalition(2007)は,Breast Awarenessは,40歳以下の 若い女性が乳がんを早期発見するための最善の方法で あると提唱している。

 助産師は,女性の生涯にわたってのwomen's health を 支 援 で き る 専 門 職 で あ る。Turnbull & Roberts (2004)は,助産師が専門家としての役割意識を持ち ながら,病院や地域で機会あるごとに対象の女性への 啓発教育に関わり,女性が乳房の健康への意識を高め, 適切な行動がとれるように支援する必要性を説く。  そこで,助産師が実践するwomen's healthケアと して,Breast Awarenessを通じて乳がんの啓発を行い, 乳房を改めて意識する機会を提供することは,意味の あることではないかと考えた。本研究の目的は,助産 師による乳がん及びBreast Awarenessのプログラムの 開発過程と実施事例,プロセス評価について記述する ことである。プロセス評価で考察される,より対象の 視点に立ったアプローチは,助産師のBreast Aware-ness活動の一例として提示され,助産実践の示唆と なると考える。 用語の定義  Breast Awareness(乳房の意識化)とは,英国のDe-partment of Health(2004)の示す「身体の意識化の一部 であり,自身の乳房がどのようなものであるか,また その姿が身近になるプロセス」である。Breast Aware-ness(乳房の意識化)は,5つのコードから成る。①自 分の乳房の正常を知る,②見て感じる,③乳房の変化 について気づく,④変化を感じたら敏速に医療機関に アクセスする,⑤(英国の場合)50歳以上になったら, 乳がんスクリーニングを受ける,である。  本研究では,⑤のコードについては,日本の乳

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2.プログラム立案と実行  次の段階であるプログラム計画のステップは,①目 的の設定,②目標とサブ目標の決定,③戦略目標の設 定,④戦略活動の工夫,⑤プログラム教材の開発とプ レテスト,⑥自身やスタッフの訓練,⑦管理・宣伝・ 記録手順の作成,そして⑧プログラムの実行である。 ①の目的は,ニーズアセスメントで導き出された健康 問題と,②目標はニーズアセスメントで導き出された リスクファクターとそれぞれ対応している。③戦略目 標は,②サブ目標を達成するために何をプログラムで 行うのかを記述した,より具体的な目標であり,プロ セス評価で測定される。 3.プロセス評価  プロセス評価とは,ヘルスプロモーションのプログ ラム評価の一部であり,プログラムを改善するための 具体的な情報である。具体的には,①参加者の理解度, ②参加者の満足度(内容,ファシリテーター,教材と リーフレット,場所­施設・設備,そのほか),③プ ログラムのすべての活動は実施されているか,④プロ グラムの教材と構成要素の質は高いものか,といった 情報の整理と判定を行いプログラムの改善を実施した (Hawe, Degeling & Hall, 1990/2003)。

Ⅲ.結   果

1.ニーズアセスメント—乳がんの健康問題の分析  日本において乳がんは,65歳未満の成人女性のがん 死亡の第1位であり,社会に及ぼす影響は大きく優先 順位の高い健康問題である。これより分析する健康問 題は,「65歳未満の成人女性の間では,乳がんががん 死亡の第1位」となる。リスクマーカーは,65歳未満の 成人女性である。次に,序論で述べた現状から健康問 題のリスクファクターを,「乳がん検診の受診率が低 い,マンモグラフィの普及率が低い」と提示した。さ らに,プログラム内容の要素を導くために,健康問題 の原因の一番下位にあたる寄与リスクファクターを明 確にする。文献検討により抽出された,日本人女性の 乳がん検診受診行動の要因を検討した研究(小林・斉 藤・片岡他,2006)と,医療者向けに乳がんのスクリー ニング教育プログラムを開発,実践した研究(Mahloch, Taylor & Taplin, et al., 1993)を参考に寄与リスクファク ターを明確化した。これらの乳がんの健康問題の分析 結果を図1に示した。前提要因は,自身の乳房や乳が んに対する意識の不足があがり,実現要因として,乳 房の自己検診方法を知らない,乳がんの啓発に関する 教育の機会がない等,強化要因は,政策決定者の乳が んに対する重要性の認識不足,医師,助産師や看護師 が乳がん啓発や情報提供に積極的でない等があがった。 健 康 問 題 日本では65歳未満の成人女性の乳がんが, がん死亡原因の第1位である 健 康 問 題 に 関 係したリスクファクター 乳がん検診の受診率が低い 市町村のマンモグラフィの普及率が低い 前提要因 実現要因 強化要因 ・乳房に対する認識の不足 ・乳がんに対する知識の不足 ・乳がんに対する関心のなさ ・自分とは無縁という思い込み ・乳がんに対する潜在的な恐怖 ・検診に関する知識の不足 ・検診の必要性の理解不足 ・早期発見の重要性の理解不足 ・乳房自己検診の正しい方法を  知らない ・乳がん啓発される機会がない,  教育パンフレットをもってない ・検診に行く時間的余裕がない ・検診にかかる費用が負担 ・検診場所が遠い ・検診の時間が都合が悪い時間帯  である ・政策決定者が乳がんの早期発  見の重要性の認識が低い ・乳房を男性の医師にみてもら  うことに抵抗がある ・女性医師と検査技師が不足 ・助産師・看護師が乳がんの啓  発や情報提供,相談に積極的  ではない ・家族の乳がんに対する知識・  理解の不足 ・ピンクリボン・キャンペーン,  マスコミのメッセージ 図1 乳がんの健康問題の分析

モデルはHawe, P & Hall, J. (1990). Evaluating health promotion. 鳩野洋子,曽野智史訳(2003)。 ヘルスプロモーションの評価̶成果につながる5つのステップ.医学書院,p72より引用,内容は筆者が作成。

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2.プログラム立案と実行 1 )目的,サブ目標,戦略目標の設定  図1より,本研究のプログラムは,前提要因と実現 要因の一部に働きかける要素が重要であるということ がわかる。図1の分析に基づいて,乳がんのヘルスプ ロモーション活動の全体像を立案すると,図2のよう になる。図1の健康問題「日本では65歳未満の成人女 性の乳がんが,がん死亡の第1位である」は,図2のヘ ルスプロモーション活動の目的と対応している。また, 図1「乳がん検診の受診率が低い,市町村のマンモグ ラフィの受診率が低い」の健康問題に関連したリスク ファクターは,図2のヘルスプロモーション活動の目 標と対応している。図1の前提要因,実現要因,強化 要因などの寄与リスクファクターは,図2のサブ目標 と対応している。そのときサブ目標は,図2が示すよ うに複数挙がることが考えられる。その一部が,図2 のサブ目標「乳房の意識化(Breast Awareness)の支援 を受けることによって,乳がんの早期発見が重要であ ることを理解する女性が増加する)となる。  サブ目標を達成するための戦略目標は,助産師が行 うBreast Awareness支援の目標である。ここでは対 象を,「成人女性,特に卒乳を視野に入れている女性 が,乳がんの正しい情報提供を含んだ乳房の意識化 (Breast Awareness)のための知識と態度を,プログラ ムを通じて身に付ける」とした。卒乳の時期は,女性 が「母親」から「女性」へ自我を再考することが示唆さ れており(松永,2003),適切な情報提供により女性が 乳がんやBreast Awarenessを学ぶ動機づけを得られる と考えられたためである。  戦略目標は,プログラムを提供し実施しようとして いることであり,プロセス評価で記述される。戦略目 標は,プログラム目標であり,「授乳期及び卒乳期の 女性が乳がんの正しい情報提供を含んだ乳房の意識 化̶Breast Awarenessのための知識と態度を,学習会 を通じて身に付ける」とした。プログラム目標の下位 目標は,対象者の目標であり以下の3点とした。 (1)わたしの乳房が大切なものであると考えることが できる。 (2)乳がんについて正しい情報を得る。  ①若い女性の間で乳がんが増えていることを知る。  ②早期発見されることの必要性と利点を知る。  ③授乳と乳がんの関係性について知る。 (3)以下のBreast Awarenessの目的と5つのコードを 理解する。以下の①,②は,日常的に実施できる。③, ④,⑤は,理解する。  ①自分の乳房を観察し,自分の乳房を知る。 ヘルスプロモーション活動の目的 ○△年までに○区において,成人女性の乳がんの 死亡率を◇%低くする。 ヘルスプロモーション活動の目標 ○▽年までに○区において,成人女性の乳が ん検診率をX%上昇させる。 ヘルスプロモーション活動の目標 ○▽年までに○区において,マンモグラフィー の普及率をY%上昇させる。 ・乳房の意識化(Breast awareness)  の支援を受けることによって,  乳がんの早期発見が重要である  ことを理解する成人女性が増加  する。 サブ目標 サブ目標 サブ目標 サブ目標 ・卒乳を視野に入れた女性が乳が  んの正しい情報提供を含んだ乳  房の意識化(Breast awareness)  のための知識と態度をプログラ  ムを通じて身に付ける。 戦略目標 (本研究のプログラム目標) 戦略目標 戦略目標 戦略目標 図2 乳がんの健康問題に関連したヘルスプロモーション活動の全体像の把握

モデルはHawe, P & Hall, J. (1990). Evaluating health promotion. 鳩野洋子,曽野智史訳(2003)。 ヘルスプロモーションの評価̶成果につながる5つのステップ.医学書院,p73より引用,内容 は筆者が作成。モデル内の「ヘルスプロモーション活動」は,原文は「プログラム」。ここでは, 本研究の「プログラム」との混同を防ぐために,図のように示した。

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②自分の乳房を見て感じること。方法の一つとして BSEがあり,益や限界があることを知る。実際に BSEを行うことができる。 ③乳房の変化に気づく。 ④変化を感じたときに敏速に医療機関にアクセスす る。 ⑤40歳からマンモグラフィを併用した乳がんスク リーニングの受診。 2 )戦略活動の工夫,プログラム教材の開発とプレテ スト,自身やスタッフの訓練と管理・宣伝,記録手順 の作成  前述した1)で導きだされたサブ目標にそって,プ ログラムの対象者を,東京都内の家庭支援センターに 利用登録している女性または,研究協力機関であるA 助産所で母乳育児支援を受けている女性からリクルー トすることにした。研究の案内とプログラム説明を記 載したポスターを,A助産所とB区家庭支援センター に掲示し,対象をリクルートした。その結果,児が1 歳前後の授乳期で母乳育児を行い,卒乳を視野に入れ 始めている女性たち10名が研究協力者としてプログ ラムに参加した。その際に研究の趣旨,目的,方法を 説明し,口答で同意を得た際に同意書を交わした。同 意書には,匿名性の保持,不同意でも不利益の保障, 棄権の自由等の内容を明記した。  プログラムの実施方法として,対象者が自由に自分 の思いや考えを述べ学びあい,連帯感と自信を育むこ とができるように参加型学習を取り入れる。Mahloch ら(Mahloch, Taylor & Taplin, et al., 1993)が開発した 乳がんスクリーニングのプログラムを参考に,成人教 育に配慮した academic detailing アプローチ(Soume-rai & Avorn, 1990)の要素を一部取り入れる。これは, 参加型,少人数制で,参加者同士の相互の交流,非公 式的な雰囲気を重要視するアプローチであり,参加者 のベースラインの知識と参加動機を確認する,フォー カスグループを行う,グラフの教材を用いて訴える, 基礎的なメッセージを強調し繰り返すなどを手法とす る(Soumerai & Avorn, 1990)。

 プログラムは,研究者が実施し,ファシリテーター となった。また,研究協力機関の助産師1名と,大学 院で助産学を専攻している看護師1名が,プログラム 実施の補佐をした。プログラム実施者の研究者,研究 協力者は,必要な知識の伝達を行い,ファシリテー ターとなった。津村&石田(2003)が示すファシリテー ターの行動基準,即ち「相手中心であること,個の尊 重,非評価の姿勢,非操作,ともにあること」に準じ プログラムを実施するように心がけた。  視覚教材として,統計グラフ(女性の年齢階級別乳 がん罹患率,女性の部位別がん発生率,乳がん発生と 死亡の推移比較)を作成した。また,助産師が配布す る乳がん啓発パンフレット「Breast Awareness Guide-book̶乳がんからママを守るために」を作成した(資 料 )。 乳 房 自 己 検 診 モ デ ル(KOKEN CO., LTD. LM-017)と乳がんモデル(KOKEN CO., LTD. LM-018)を使 用した。  プログラム目標にそってプログラム概要を作成し, ファシリテーター(研究者)のスキルを上げ信頼性を 高めるためと,プログラム教材のプレテストのために, プログラムの模擬クラスを仮想集団で実施し,得られ たフィードバックを基に,内容や所要時間を再度吟味 した。その後,プログラム全体の概要を再作成し(表1), プログラム実施マニュアルをファシリテーター用に資 料として作成した。  プロセス評価のためのデータ収集は,①プログラム 実施中の参加者同士のやり取り,②参加者とプログラ ム実施者のやり取り,③プログラム終了後のグループ 資料 作成した乳がん啓発パンフレット

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表1 プログラム全体の概要と参加者の反応 「乳がんからママを守るために;知ろう・かたろう,だいじなからだ,だいじなおっぱい」 時間 学習目標等 内容の詳細 方法(教材) 参加者の反応 10分 導入 自己紹介 1. 歓迎の意,感謝の挨拶 2. プログラムの目的 3. 参加者へのお願い 4. スケジュールとその他の説明 (育児係や手洗い場所) 5. 参加者自己紹介 ・名前,お子様のお名前と年齢,ど ちらからいらっしゃったのか,今 日ここにいらっしゃっていなかっ たら何をしていましたか? 説明 アイスブレイク 25分 (1)乳房を改めて 意識し大切に 思う̶Breast Awareness導 入 1. ワーク「おっぱい,乳房」からイ メージする言葉を5つ紙に書いて みる。 2. ワークの共有 3. 妊娠から今までどのように乳房が 変化しているか,お話する。 4. Breast Awarenessとは?̶[卒乳後 も引き続き自身の乳房に意識を向 けること] ワーク 参加者語り 参加者語り 説明 ・[母・女性の乳房][子どもの乳房;母乳や栄 養][母子の共有物としての乳房;愛や絆]と いう視点で語った。今後不安なこととして[乳 がん]があった。 ・妊娠中から出産,授乳期を経て,女性たちは 共通して[乳首,乳房それぞれの色や形,外 観,質感,感度の変化を刻々と感じ],[乳房 を意識せざるを得ない状況]におかれていた。 15分 (2)乳がんの正し い情報を得る ̶乳がんにつ いてリストを 作って分かち 合う 1. 乳がんの知識,知りたいこと,想 像・連想,経験を語りあう。 2. 研 究 協 力 者 が 参 加 者 の 語 り を 付箋に記録し,実施者がBreast Awarenessの5つに分類する。 3. それぞれの事項を振り返る。 4. 必要な情報の補足をする。 ・授乳と乳がんの関係 ・年齢,増え続ける乳がん,乳がん になりやすい因子等 参加者の語り 付箋 模造紙 説明 説明 パンフレット (視覚教材) グラフ (視覚教材) ・[年齢と乳がんの関係][乳房の自己検診法] [乳がんと遺伝][乳がん早期発見の重要性] [乳がんの治療法]など[乳がんの情報を持っ ている]が,その情報の確信が持てず[信頼 性の高い正確な情報を得たい]。 ・得たい情報は[授乳と乳がんの関係][かかる 医療機関][検診を受けるタイミング][検診 場所][乳がんにかかりやすいタイプ][乳房 の自己検診法] ・[がんばって授乳を続けたい][卒乳を終える 前に話を聞きたかった][自分は授乳をして いるので乳がんにならないと思ったが,それ ではいけないと思った]。 ・[乳がんの治療を受けた知人][乳がんが疑わ れた知人]を持った体験談があった。[自分も 乳がんにかかるかも]という予期的な[不安], さまざまな思い。 30分 (3)Breast Awareness (右記BA)の 啓発がされる。 ・Breast Awareness概要 BA①自分の乳房を知る。 BA②見て,感じること。方法のひ とつとして乳房の自己検診法, その益と限界を知る。自己検診 を実施する。 BA③乳房の変化に気がつく。乳が んの症状模型を見て触って学 ぶ̶[自分の乳房との違いは何 か?] BA④変化に気がついたら,敏速に 医療機関にかかる。 BA⑤40歳から乳がん検診を受ける こと。マンモグラフィの重要性 と限界を知る。 パンフレット (視覚教材) 乳房自己検診模 型(視 覚・ 触 覚 教材) 乳がんの症状模 型(視 覚・ 触 覚 教材) パンフレットに 添付した東京都 病院リスト ・BA①[おっぱいが大事だと改めて感じる][自 分の乳房の正常がわからないと異常がわから ないと感じた]。 ・BA②乳房自己検診法を実際に行ってみる。 自身の乳房を触ることの抵抗は見られず。乳 房自己検診モデルを積極的に触る。[自己検 診を行うか行わないかは自分次第][家族の 協力を得てお風呂で実施したい][乳がんは 早期発見が大切なので自己検診を行いたい]。 ・BA③乳がん模型を見て[血が出ている][え くぼがある][ぼつぼつがある][しこり以外 の変化がある]。模型を触って[乳がんのイ メージがついた]。一部[乳がんの症状は乳 腺炎の症状と似ている]ので,[いつもの乳房 を知っていれば何か出てきたら気がつくだろ う]と意見を述べ合う。 ・BA④[どこにかかるかわからなかった]ので [医療機関のリストは役立つ]。[男性の医師 に乳房をみせるのは抵抗がある]から[何か あったら身近な助産師に相談できると良い]。 ・BA⑤[2年に1回の検診で十分なのか]とい う疑問。[40歳になったら検診を受けようと 強く思った][乳がん検診をもっと広めたほ うが良い]。 10分 振り返り・質問 1. 今日の振り返り 2. 質問の受付,返答 緊張のほぐれ 学びの動機づけ Breast Awareness習得 乳房を意識してい たことへの気づき

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・インタビュー,④参加者への質問紙の回答,⑤プ ログラム実施者の補佐へのインタビュー,であった。 ①,②,③,⑤は,プログラムとグループ・インタ ビューをテープで録音し,得られたデータを逐語録と して記述するよう準備した。③,⑤のインタビューは, グループ・インタビューの手法(Vaughn, Schumm & Sinagub, 1996/2002)を参考に作成した。④の質問紙は, 「1. そう思う」から「4. そう思わない」の4ポイントのリ ッカートスケールと,自由記述を含めた匿名の質問紙 調査とした。 3 )プログラム実行  本研究では,参加者5名のプログラムを2回,A助 産所で実施した。プログラム中の発言や質問紙への自 由記載のデータを抽出した参加者の反応を,表1にと もに示す。  プログラム目標(1)「乳房の大切さを改めて意識す る」ために,参加者に乳房から連想する言葉や,妊娠 期から授乳期に至る乳房の変化を自由に語ってもら った。プログラム目標,(2)「乳がんの正しい情報を得 る」ために,前述した視覚教材を用いて,年齢別乳が んの罹患率などを説明した。参加者の乳がんに対する 知識,連想,経験等の語りを付箋に記録,リストを作 成しBreast Awarenessの5項目と関連付けて整理した。 プログラム目標,(3)「Breast Awarenessの啓発」では, 作成したパンフレットを使用し,Breast Awareness の5項目を説明した。乳房の自己検診法は,Cochrane LibraryのSystematic reviewのデータを含めて説明し 実施した。また,前述した乳がん模型を触って,乳が んの症状を確認した。  参加者の反応から,プログラム導入で緊張が解 れ,妊娠,出産と授乳期を経て自身が乳房を意識し ていたことを改めて確認し,乳がんの新たな知識を 習得しBreast Awarenessについて学ぶ動機づけを得て, Breast Awarenessを習得するに至るプログラムの全体 像を確認した。 3.プロセス評価  参加者の理解度の主な評価指標は,質問紙である。 その結果,乳がんの早期発見の重要性,授乳と乳がん の関係性については,全員が「理解できた」と回答し た。日本の乳がんの現状,乳がんにかかりやすいタ イプについては,10名のうち7名が「理解できた」,2名 が「まあまあ理解できた」と回答した。乳がんの症状 については,6名が理解でき,4名が「まあまあ理解で きた」と回答した。Breast Awarenessのコード①,②, ④を全員が「理解できた」と回答し,「乳房を見て感じ る」方法のひとつとしての乳房自己検診法は,全員が 「実行しよう思う」と答えた。コード③については,9 名が「理解できた」,1名が「まあまあ理解できた」と回 答した。コード⑤の乳がん検診については,8名が「理 解できた」と回答,2名が「まあまあ理解できた」と回 答した。  参加者の満足度は,グループ・インタビューで得ら れたデータから,参加者の意見と質問紙の自由記載か ら肯定的意見,否定的意見,提案をまとめた。プログ ラムに対する肯定的コメントが多く認められた。一方, ファシリテーターの声の大きさなどの否定的コメント や提案があった。プログラムに適した時期は,卒乳の 時期の肯定的コメント,妊娠期が良いという提案が複 数挙がり,プログラムの修正案で提示する検討課題と なった。  活動の実施について,研究協力者からの指摘なく, プログラムはほぼ計画に基づいて実行された。参加者 同士の話の流れにそって,臨機応変に対応し,Breast Awarenessの紹介の順番を前後したこともあった。  教材について,研究協力者より,目的にあったイン パクトのある教材という評価を得た。パンフレットは, 内容が充実しており,母子手帳に入れられる利便性が あるとコメントを得た。一方,プログラム終了後の外 部評価者のコメントから,パンフレットの内容を一部 変更した。1点目は,表紙などのイメージに外国人を 採用していたため,女性たちが,乳がんという健康問 題を,より身近な問題として捉えられるよう日本人女 性のイメージに変更した。2点目は,乳がんの進行を 示した図説が,乳がんの恐怖感を与えるという検討課 題があり,乳がんの進行は簡単な文章での説明に変更 した。3点目は,妊娠・授乳中の女性たちの状況をよ り考慮したものに変更したことである。特に,妊娠中 から乳房の変化を感じてきたことがBreast Awareness につながることを記し,読み手に訴えるような内容に 変更した。加えて,乳がんの症状と,妊娠や授乳によ る生理的な乳房の変化や乳腺炎の症状と重なる部分に 記しをつけ,症状があったときには,助産師や医師に 相談するこという一文を追加した。修正版パンフレッ トを写真(資料)に示す。  構成要素の質は,プログラム後のグループ・インタ ビューで研究協力者より,「助産師が取り組まなけれ

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ばならない」,「興味深い内容でニーズが高く」,「助産 所でも乳がんの啓発を始めなければならない」という 評価を得た。Breast Awarenessについては,「副題があ ればいい」が「印象に残る」という感想を得た。ファシ リテーターの質について,「参加者の話を聞きながら スムーズに進行した」という評価を得た。また,「参加 者同士の出産や授乳という共通した体験」があったの で,そこから「Breast Awarenessの話につながってい た」,「参加者は多くの情報を持っている」が,「乳がん についての疑問や不安がある」ので,「プログラムは参 加者が抱いている疑問や不安に答えることが大切」と のコメントも得た。

Ⅳ.考   察

1.ステップにそったプログラム開発の戦略的意義  本研究では,ヘルスプロモーションのプログラム開 発の基盤に沿って,乳がんの健康問題のニーズアセス メントから,プログラム計画,プログラム実行,プロ セス評価までの実施を試みた。研究方法の文頭で述べ たように,プロセス評価を得た後は,再度プログラム がデザイン,実行されフィードバックしていく一連の サイクルがある。ステップに沿ってプログラム開発を すること,即ちニーズアセスメントを行い,的確なプ ログラムのための要素を抽出し,プログラム内容に 焦点をあてること,プログラムの全体像の中での自身 のプログラムの位置づけを確認することで,強固なプ ログラムの柱を導きだすことが可能となる。Dignan & Carr(1992)は,プログラムの成功の鍵を握るのは, ニーズアセスメントにあるとし,プログラム計画前の 健康問題の分析の重要性を説く。  また「評価の正しいステップは正しいプログラムを 計画すること(Hawe, Degeling & Hall, 1990/2003)」と 表現されるように,ヘルスプロモーションのプログ ラムは,計画と評価の一連のサイクルがあり,プロ グラム計画の段階で評価の視点が必要である。本研 究のプログラムにおいても,戦略目標がプロセス評価 で対応することが,プログラム計画段階で認識できた ため,より具体的なプログラム内容を立案することが 可能であったと考える。またプロセス評価を行うこ とで,再デザインされたプログラムが導きだされるが, ニーズアセスメントを基盤としていれば,目的や目標 は見失わずにプログラムを再実行することが可能であ る。ヘルスプロモーションとは,「健康に資する諸行 為や生活状態に対する教育的支援と環境的支援の組み 合わせ(Green & Kreuter, 1991/2000)」であり,「複数 の要因の組み合わせが動機に結びつき,複数の介入が ヘルスプロモーションに結びつく(Green & Kreuter, 1991/2000)」。そのためヘルスプロモーションプログ ラムの結果評価を得るのには,長い年月を要する。そ のため,プログラム開発の段階で,プログラム目的や 目標,プログラム要素の基盤を導き出すことは重要だ と考えられる。 2.プログラムの重要な要素と検討課題  今回のプログラムの核であるBreast Awarenessと, Breast Awarenessの「自分の乳房を見て感じる」方法 としての乳房の自己検診方法に関する情報は,Co-chrane Libraryのsystematic reviewや各種ガイドライ ンの内容を検討したものである。助産師の実践とその 意思は,科学的根拠に基づき,女性の好みや意思を尊 重したものでなければならない。そのために助産師は, 女性に最善の科学的根拠を伝える必要がある(Raynor, Marshall & Sullivan, 2005)。臨床比較試験の総説によ ってもたらされた最新の科学的根拠を実践でどのよう に適用するか,プログラム立案の段階で吟味すること は重要であったと思われる。   ま た, 本 プ ロ グ ラ ム はBreast Awarenessと い う Practiceの伝達が重要な要素である。その具体的な方 法として,参加型・少人数でのプログラムの実施,視 覚的な教材を用いることなどのアプローチを参照した (Soumerai & Avorn, 1990)。特に対象者をグループと する利点は,集団での意思決定が個人の変容をきたす こと,参加者同士が相互に影響をしあうことと言われ ている(Dignan & Carr, 1992)。プログラムの参加者は 豊かな知識と経験をもちあわせた成人女性であり,参 加者同士,ファシリテーターと参加者の対話を重視し, 参加者の経験や体験を引き出し,Breast Awarenessと 関連付けたことは,参加者の理解度や満足度を高める ことに貢献したと思われる。  プロセス評価より,プログラムの実施時期は適切 であるという評価を得たが,多くの参加者はプログ ラム実施の適切な時期として,妊娠期をあげていた。 Nolan(2005)は,「妊娠中の身体的,心理的,社会的 な変化は,健康的な出産をしたいという欲求と相まっ て,女性が健康問題を熟慮する力強い動機付けとな る」と説明している。また,妊娠期は出産準備教育で 女性たちが集合しやすく,集団に訴えるという点で利

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便性がある。本プログラムを妊娠期の出産準備教室な どに取り入れ,プロセス評価していく検討の余地があ る。 3.助産実践への示唆  助産師に対するBreast Awareness普及は始まってい るが(大林・片岡・鈴木,2009),さらに活動を広めて いく必要がある。米国では,助産師・看護師が女性へ の乳がん啓発に重要な役割を果たしたという見解があ る(Dillan, 1991)。日本においても助産師は,乳がん 啓発を含めたBreast Awarenessの普及に取り組むこと ができる専門職であると考える。  女性は妊娠を契機に,地域の助産ケアを支える助産 師を訪問する。周産期のプロセスを経て,正常出産を 担う助産師と女性は,信頼関係を育んでいく。Wom-en-Centered careの概念は,ケア提供者と女性の公平 な関係,互いの信頼関係からなるパートナーシップを 特質とし,女性はそのパートナーシップのプロセスの 中で,自信を育んでいく(Horiuchi, Kataoka, & Eto, et al., 2006)。Beiley(2000)は,医療の専門家からBSEや Breast Awarenessの支援を受けた女性は,医療の専門 家以外の関係筋から情報を得た女性に比較して知識や 自信を持ち,定期的にBSEなどを実施していると報告 している。  また日本には,乳房ケアの一環として乳房に触れる 文化と習慣が根付いている。米国では,助産師が妊婦 健診の初診で乳房のフィジカル・エグザミネーション を行うが,それは母乳育児のアセスメントのみならず, 乳がんの早期発見と乳房の自己検診法の啓発であると いう。最後に,助産の基礎教育及び継続教育に乳がん 啓発を含めたBreast Awarenessを組み込むことが必要 ではないかと考える。米国の助産テキストは,乳房の 系統的な観察方法と,乳がん啓発の必要性を詳細に 記述している(Wheeler, 2002)。助産の教育にBreast Awarenessが加えられ,乳がん啓発が助産業務として 定着すれば,周産期ケアを必要とする女性への乳がん 啓発が可能となる。日本女性の乳がん死亡率が低下す るという結果評価を得るまで,助産師の役割は重要で ある。 4.本研究における限界  本研究の対象者は,2カ所の研究協力機関からリク ルートした研究協力者であること,協力者が10名と 少数であったことから,データの偏りがある可能性が ある。今後はさらに,プログラムとプロセス評価を重 ねて,記述していく必要があると考えられる。

Ⅴ.結   論

 ヘルスプロモーションの概念を基盤としたプロ グラム開発のモデルを参考に,助産師によるBreast Awareness支援のプログラムを作成した。本研究では 特に,ニーズアセスメント,プログラム計画と実行か らプロセス評価を試み記述した。ニーズアセスメント にて,乳がんの健康問題の分析を行いプログラム要素 を抽出した。プログラム計画では,目的,目標を示し, 目標達成のためのプログラム実行の具体案を作成した。 プログラム内容をBreast Awarenessの5つのコードを 中心に参加型グループワークを行った。プロセス評価 として,参加者の理解度,満足度の高いプログラムで あることが示唆された。一方,プログラム実施時期や パンフレットの内容などが修正課題として上がり,パ ンフレットは改訂版を作成した。ヘルスプロモーショ ンの基盤に沿ったプログラム開発の戦略的意義,助産 師によるBreast Awareness支援の重要性が確認された。  Breast Awareness Guidebook̶乳がん啓発パンフレ ット作成において,NPO法人Run for the Cure Foun-dation,聖路加看護大学21世紀COEプログラムの助成 を受けたことに感謝します。

文 献

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参照

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