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他者との協働による課題解決型ワークショップのデザイン

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Academic year: 2021

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(1)他者との協働による課題解決型ワークショップのデザイン The Workshop Design to Develop the Collaborative Task-Solving Skills for Children 柚木泰彦. 東北芸術工科大学. YUNOKI Yasuhiko Tohoku University of Art and Design. 1.はじめに. 2.ワークショップの概要. 今を生きる子どもたちが、正解のない時代をたくましく生き. 本ワークショップは、2014年8月に第1回目を開催し、そ. 抜くために身につけるべき力として、主体的に考える力、協働. の後改良を加えながら2016年3月までに合計4回開催してい. して物事に取り組む力、問題(課題)の本質を見つける力、試. る。開催時間は2時間前後、小学3∼6年生を対象に参加者を. 行錯誤しながら創造的にそれらの問題(課題)を解決する力な. 募ってきた。第4回目の実施を例に取り上げ、本ワークショッ. どが挙げられる。このような力を育んでいくことを目的とした. プのねらいと概要を以下に記す。. こどもワークショップのプログラム開発を行うとともに、学内. 2.1. ワークショップのねらい. 外を通して参加、経験の機会をひろげていくためのデザインが. ①与えられた素材だけを用いて創意工夫をすることで、いかに. 求められている。 本研究は、小・中・高生を対象とした「生きる力を育む芸 術・デザイン思考による創造性開発拠点の形成」(平成25年度. 球を遅く転がすかという課題に対する解決力を育む。 ②3∼4人のチーム編成で行うことにより、他者との協調性を 持ちながら目標に向けて前に進む力を身につける。. 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業を採択)にお. ③最後に全チームのスロープを繋げて球転がしを行うことによ. けるプロジェクトの1つとして進めてきた。本稿では、参加児. り、皆が力を合わせることで大きなスケールのことが成し遂. 童が他者との協働により、チームで課題解決に取り組む手法や. げられる達成感と自信を獲得する。. プロセスを習得するための授業やワークショップのプログラム. 2.2. ワークショップの概要. 開発を目的として、こどもワークショップ「世界一遅い球転が. ①初めて出会ってチームを組む児童たちの緊張を和らげるため. しに挑戦しよう!」を4回にわたって実施してきた経過と考察 を中心にまとめている。 なお、プロジェクト全体としては、下表に示すように2014 年3月から2016年3月までの時点で44のワークショップを開 催、延べ人数で618名の児童が参加している(表1)。. に、球やボードを用いたアイスブレイクを行う。 ②1,800×900の有孔ボード板を斜面として木球を転がし、下端 のゴールに辿り着くまでの時間ができるかぎり遅くなるよう、 丸棒材や輪ゴム、発泡材シートなどを用いた仕掛けを作る。 ③各チームより工夫した点を発表し、最初のタイムを計測す る。球がどのように転がるかを観察し、改善点を話し合い、. 表1 プロジェクト全体のワークショップ実施状況. チームに戻って球転がし装置を修正する。 ④装置を改善した後、最終的なタイムを計測し、2度の計測タ イムをシートに記入する。 ⑤最後に全チームのスロープをつなげて全長7メートルを超え る球転がし装置をつくり、球が転がる様子を観察するととも にタイムを計測する。 ⑥ワークショップの全行程をおさらいした後、各チーム毎に振 り返りの時間を持ち、ワークショップの各ステップを振り 返って感じた気づき、達成感、参加者同士の関係の変化など について確認する。なお、進行表の例を表2に掲載する。. 3.各ワークショップの実施詳細と経過 以下にこれまでの4回のワークショップの実施内容とプロ グラム改善の経過を示す。また、表3に参加児童の学年、性 別、リピーター等の内訳を示す。. 38. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016.

(2) 3.1. 第1回目のワークショップ (実施日:2014.8.11/参加者:10名[男5/女5]) 球転がし用スロープ. 表2 ワークショップの進行例. として AB フ ル ート段. 00:00 事前アンケート記入の時間 00:10. ボール板を用い、丸棒 を挿す穴や木球が落ち. 自己紹介. る穴をカッティングマ. 00:15 アイスブレーク. シンでカットし、両サ. 使用できる材料の説明. を兼ねるガイド板を取. イドには補強と持ち手. 00:20 00:25 球転がしの制作(前半戦) 00:50 工夫した点の発表とタイム計測 01:05 球転がしの制作(完成まで) 01:20. 図1 段ボール板とスポンジ球を用いたアイスブレークの様子. り付けた。最初に二人 組になってボードの上 のスポンジ球を八の字 状に動かすアイスブレ イク等を行った(図1) 。 ワークショップの前. 最終タイムの計測 01:35 全スロープをつなげて挑戦 01:45 まとめ・チーム毎の振り返り 01:50 事後アンケート記入の時間 02:00. 半で、丸 棒、輪ゴム、 段ボールの細切り板な どの材料を若干不足 する程度に用意して球 転がしの仕掛けをつく り、タイムを計測した。. ワークショップの後半では、もう1枚のボードを用いて、球. 図2 途中まで制作したところで工夫した点を発表している様子. 転がしで使用した材料とボードを組み合わせて、複数の児童で. られた時間の中で消化不良であったことから、第2回目のワー. 協力して関わることができる新しい遊びを考えて実演、発表す. クショップより球転がしのみを行うこととした。前半の制作お. るという課題を行った。. よびタイム計測、工夫した点の発表と質疑(図2)、後半の制 作と自己タイムを超えるための最終タイム計測(図3)、最後. 表3 第1∼4回迄の球転がしワークショップ参加児童の内訳. 実施日 性別. 第1回. 第2回. 第3回. 第4回. 2014.8.11. 2014.12.14. 2015.3.25. 2016.3.23. 男子. 男子. 男子. 男子. 女子. 女子. 女子. 小2. 小4. 2 1. 1(1). 1. 3. 2(2). 2. 4. 2. 1. 1. 1. 小6 不明 合計. 協力へ」というコンセプトを前面に出して実施した(図4)。. 女子. 1. 小3. 小5. に全スロープ連結による大きな球転がし装置とし、「競争から. 1 4. 3 10. 2. 2(1) 1. 3(1). 4 9. 14. 9. ( )はリピーター人数(内訳) ※第4回 WS のリピーターは二人とも3回目の参加. 3.2. 第2回目のワークショップ (実施日:2014.12.14/参加者:9名[男1/女8]) 第1回ワークショップでは、前半の球転がしをもう一度行い たいとの意見があったこと、後半の「新しい遊び」の創出は限. 図3 2度の計測よりタイムの伸びを確認. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. 39.

(3) 4.考察 4.1. 参加者の組み合わせによる成果の差異 参加児童の組み合わせ方がワークショップの満足度にも影響 した。小学校高学年になると男女を組み合わせる場合、協働が 次第に難しくなってくる年頃のため注意を要するが、その時々 の参加者の属性を見渡して、同学年、異学年、同性、男女混成 等など様々な組み合わせを試みた。同じ学校で仲の良い児童同 士よりも、学校学年が異なる組み合わせの方が、初対面の人間 関係の中での立ち位置を探りつつも課題に集中できるようだ。 4.2. ワークショップを通したチームの形成 参加者の組み合わせによっては周囲を気にして沈黙が続くこ ともあるが、ファシリテータの問いかけがきっかけで自分のア イデアを伝えようとし始める。手が動き始めるとともに意見を 出し合いながら制作がどんどん進むケースが多い。徐々にリー ダー役、アイデア出し役、サポート役など役割分担が明確になっ ていく。後半になると次第に打ち解けてくるとともに取り組み への達成感を得ることができ、前向きの振り返りが多くなった。 4.3. 制作過程の観察と気づき アイデアが出てから試すまでの時間がスピーディー且つ試行 錯誤を厭わないことが観察された。アイデアを身振り、手振 図4 4つのスロープを連結して全長7m超の球転がし装置に挑戦. 3.3. 第3回目のワークショップ (実施日:2015.3.25/参加者:14名[男9/女5]) . り、擬音を駆使して説明しようとする児童もいた。考えてから つくるというよりも、つくってみた結果こうなった、という進 め方になることも多く、工夫した点を発表する際にうまく説明 できないときや気づけない時があるため、その発見の時間をも. スロープ用ボードを全てリニューアルし、段ボールの変形を. う少し確保すべきであると感じた。初対面でも意見の衝突があ. 抑える形状のガイドを新たに取り付けて実施した。使用できる. るが、相手のアイデアの良い所を見つけ、肯定的に前に進もう. 材料として、曲面レール用に発泡材シートを加えた。. とする姿勢が見られる。後半の制作が自己タイムとの競争とい. 3.4. 第4回目のワークショップ. う意識には向かわず、他チームのタイムを超えるためのチーム. (実施日:2016.3.23/参加者:9名[男6/女3]) 作成される装置の再現性と精度を高めるために、スロープを 段ボールからシナ合板の有孔ボードに変更した。使用できる部. 結束を促すプログラムになっていると言える。 4.4. ファシリテータを務めた学生の学び 児童の発想はとても自由であり、作っては壊す潔さに驚くと. 品を丸棒25本、輪ゴム5本、発泡材シート(300mm ×3本、. ともに、自身の学修に照らして見習うべきことが多いと感じた. 450mm ×3本)とし、ハサミでのカットやテープ固定はしな. ようだ。また、ファシリテータの役割として、児童たちへの多. い条件とした。これまでのワークショップでは慌ただしく2時. くの問いかけを通して、自身で考え、言葉で伝え合う機会を促. 間が過ぎていたが、今回はチーム毎の振り返りの時間を十分に. すことが児童個々人の成長につながると意識できたようだ。. 確保した(図5)。. 5.今後の課題と展望 本プロジェクトの各ワークショップでは、開催前後の定量的 評価として SAN 感情スケールと MI(多重知能理論)アンケー ト(40項目)を実施し、自ら持っている知能の活用を意識で きたかを確認しようとしている。本ワークショップでは、MI のうち特に論理的知能、空間的知能、対人的知能、内省的知能 を活用できるように設計しているが、同一児童の成長を追跡す 図5 チーム毎にファシリテータの学生と振り返りをしている様子. 40. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. るなど継続的な視点が必要であり、MI 理論を用いた分析をも.

(4) とにまとめる段階に至っていない。本稿では、参加児童とファ. 謝辞. シリテータ学生の振り返りを中心に考察を行うことにより定性. 本研究を進めるにあたり、第1∼3回のワークショップ材料. 的な評価を行っている。これまでのワークショップは、やまが. の制作協力を快くお引き受けいただいた株式会社エスパックの. た藝術学舎または東北芸術工科大学こども芸術大学を会場に、. 大場貴之氏、河野廣史氏に感謝の意を表します。. 開催の度に参加児童を募ってきたが、リピーターよりも一度き. 山形市立第一小学校4年生と6年生の担任教諭の皆様には、. りの参加であることが多いため、個々の児童に対して継続して. 貴重な授業時間を調整いただき、総合的な学習の時間において. 成長の軌跡を辿ることが難しい。. 本ワークショップを実施させていただきましたことを深謝いた. 2016年度以降は、山形市立第一小学校の協力のもと、4学. します。. 年と6学年の授業で他のワークショップとの合同実施を計画し ており、継続的に評価できる環境となる。すでに、2016年7 月15日に6年生(児童数:45名)の総合的な学習の時間にお いて、45分授業2コマ分の授業時間内で球転がしワークショッ プを実施した(図6)。グループ編成は、学年ですでに班組み されていた男女混合の5人を1グループとして9グループで. 【参考文献等】 1)文部科学省:小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時 間編,2008. 2)今村光章:アイスブレイク 出会いの仕掛け人になる,晶 文社,2014. 3)NHK エンタープライズ:スタンフォード白熱教室,2012.. 行った。そのため、アイスブレイクをせずに本課題に入った。 また、ファシリテータの学生は3グループに1人つけることと し、ワークショップ最後の協力ステージでは3つのスロープを 連結することとした。さらに11月上旬にも4年生の総合的な 学習の時間を用いて、同様の授業を行う予定である。この2度 の授業実践の結果と考察は次年度の学会発表等で報告したい。 今後、小学校における総合的な学習の時間への展開を図ってい く上で、貴重な実験授業の場であると考える。. 図6 小学6年生の総合的な学習の時間で実施している様子. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. 41.

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