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肩関節障害の理学療法

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 751 ∼ 752 頁(2015 年) 肩関節障害の理学療法. 751. モーニングセミナー. 肩関節障害の理学療法* 村 木 孝 行**. 対する理学療法を行い,改善が見られない場合はまた別の原因. 海外の動向. を再検索するという流れになっている。以上のように,このア.  従来,我々は「肩腱板断裂」,「肩関節周囲炎」,「インピンジ. ルゴリズムでは病態解剖学的診断名を使用せず,運動系の障害. メント症候群」といった肩関節疾患の診断名をもとに,理学療. 名のみを使用することで効率よく適切な治療に到達できるよう. 法においてどのような評価と治療が必要なのかを議論してき. につくられている。. た。近年,Ludewig ら. 1). は前述のような診断名を病態解剖学. 的診断名と呼び,それに基づいた疾患の分類における限界を示. 肩関節の異常運動 ─原因か?代償か?─. している。この限界のうちもっとも重要なものは,病態解剖学.  臨床においては評価している機能,あるいは能力が「正常」. 的な診断名が示しているものは必ずしも同じ病態を示している. か「異常」か,という判断が重要になる。また,正常から逸脱. とは限らないため,診断名だけで大方の内容を決めてしまうと. しているような所見でも,治療すべき内容と関連しているかど. 適切な理学療法が行われない可能性が生じるという点である。. うか判断しなければならない。前述のアルゴリズムでもそうで. たとえば「インピンジメント症候群」の場合は,そこに含まれ. あるが,判断の基準が定性的,そして主観的であるため治療者. る病態が腱板病変や肩峰下滑液包炎,上腕二頭筋長頭腱炎,関. によって判断の結果が異なってしまう可能性がある。そのた. 節唇損傷など複数存在する。インピンジメントという現象に関. め,健常者と肩関節障害を有する患者との間にどのような肩関. しても肩峰下インピンジメントとインターナルインピンジメン. 節運動の違いが生じているかどうかに関する定量的な研究が多. トなど異なる種類のものが存在しており,「インピンジメント. く行われている 3)。これらの研究によって,患者の肩関節運動. 症候群」という診断名からは行うべき理学療法を簡単に導くこ. が健常者と比較して過大,あるいは過小な場合は異常運動とし. とができない。 「肩関節周囲炎」という診断名ではなおさらで. て捉えられ,それらを引き起こす原因となりうる機能低下が理. ある。このような問題に対して,Ludewig ら 1) 理学療法士に. 学療法の対象として挙げられている。しかし,それらの異常運. おいては運動系の障害名を診断名として含めることが,より適. 動が症状の原因なのか,代償として起こる結果なのかが明確に. 切な理学療法を導きやすいとしている。具体的には「肩関節痛. されないまま様々なアプローチが考案されている現状がある。. と筋力低下:肩腱板損傷」というような形である。これだけで. 例を挙げると肩甲骨上方回旋が少ない場合は,主動作筋である. はまだ広い範囲での診断名になるため,その中でサブグループ. 僧帽筋や前鋸筋のトレーニングを行うといったようなことで. を表す診断名が必要になり,そのためのサブグループ分類に関. ある。. する研究が今後求められる。.  異常運動が肩関節障害の原因なのか代償なのかについて,.  このようなサブグループを形成していくうえで有用なツール のひとつはアルゴリズムである。Klintberg ら. 2). は肩関節痛に. Ishikawa ら. 4). は上肢拳上運動中の肩甲骨運動や肩甲骨周囲筋. の活動について有症候の腱板断裂症例と無症候の腱板断裂症. 対する適切な運動を導くためのアルゴリズムを作成している。. 例,そして健常(断裂なし)例との違いを調べている。その研. このアルゴリズムで最初に評価するのは自動運動時に肩甲上腕. 究では,無症候症例の肩甲骨上方回旋が健常例より大きく,有. 関節の異常運動パターンがあるかどうかである。もし異常運動. 症候例は健常例と有意差がなかったが,無症候例より上方回旋. パターンがなければ他動関節可動域に制限がないかを評価し,. が少なかったとされている。筋収縮の強さを見てみると,有症. 異常運動パターンが見られた場合は筋パフォーマンスの欠如が. 候例は健常例より僧帽筋上部線維の収縮が大きかったが,肩甲. 存在するかどうかを評価する。このような流れで原因となる運. 骨の下方回旋筋である肩甲挙筋の収縮も健常例より大きかった. 動系の問題を検索し,その部位は肩関節だけでなく頸椎や胸椎. と報告している。無症候例は有症候例より肩甲挙筋の収縮が少. まで及ぶ。一旦原因となる運動系の問題を特定した後はそれに. なく,無症候例より上方回旋が大きくなる現象を裏づけている と考えられる。この研究からもわかるように,腱板断裂例にお. *. Physical Therapy for Shoulder Disorder ** 東北大学病院リハビリテーション部 (〒 980‒8574 宮城県仙台市青葉区星陵町 1‒1) Takayuki Muraki, PT: Department of Rehabilitation, Tohoku University Hospital キーワード:肩関節,痛み,発生機序. ける肩甲骨の上方回旋は無症候例でも大きくなっていることか ら代償による変化と捉えることができ,有症候例はその代償が 少ないといえる。健常例より大きくなることを異常と捉えてし まうと目的を誤った理学療法を行ってしまう可能性が生じる。.

(2) 752. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. また,有症候例と無症候例の筋の収縮パターンを見てみても,. もインターナルインピンジメントの増強を避けるために生じて. 単純に主動作筋だけ運動させればよいとはいう訳ではない。. いると考えれば合点がいく。. 痛みの機序に焦点を置いた考え方  以上のように,単純に運動の大小や非対称性だけで治療方針 を決定するのは困難であるため,別の視点も含めて判断する 必要がある。肩関節障害を有する患者の主な主訴は痛みであ.  このように運動の大小や非対称性だけでなく,運動時痛の機 序にかかわる運動系の機能低下を整理することで,肩関節の痛 みを軽減させるための理学療法を導きやすくなる。. おわりに. り,Itoi ら 5) によると病院を受診する腱板断裂を有する患者.  今回は痛みを主訴とする肩関節障害に絞って述べたが,痛み. の 99%は痛みのために来院していると報告している。したがっ. 以外に機能障害として生じる可動域制限や筋力低下にも機序が. て,痛みの増減に関わる運動系の機能低下に対する理学療法が. 存在するため,それぞれの機序にかかわる因子を整理すること. 肩関節障害においては大半を占めるといえる。. で適切な理学療法を導くことができると考えられる。各機能障.  痛みにかかわる運動系の機能低下を評価するには痛みの機序. 害の機序を考えた場合は病態解剖学的な視点も必要であり,運. について理解を深める必要がある。運動時痛の機序に絞って述. 動系の機能障害の視点と融合させて肩関節障害のグループ分類. べると,関節組織に対する物理的な刺激が痛みの発生に大きく. を行っていくことが今後必要になるであろう。. かかわっていると考えられる。この物理的な刺激には組織の伸 張と圧迫(インピンジメント)の 2 つが挙げられる。当該組織 が伸張される方向に運動が起きると伸張刺激が生じる。した がって,筋が拮抗筋となる方向,あるいは靭帯・関節包が制動 に働く方向に関する知識があれば伸張刺激の発生機序は理解で きる。圧迫刺激はそれより少し複雑で,烏口肩峰アーチが関与 するもの(肩峰下インピンジメント)と,関節窩が関与するも の(インターナルインピンジメント)がある。どちらの圧迫刺 激も肩関節運動が最終域まで行われれば生理的に生じるもので あるが,それぞれの刺激に影響する因子が存在する。肩峰下イ ンピンジメントでは上腕骨頭の変位が大きく影響し,その原因 には関節拘縮 6) と筋機能不全が挙げられる。筋機能不全は上 腕骨頭の求心位を保たせる作用のある腱板筋群の機能低下だけ でなく,上腕骨頭を上方に変位させる筋群 7) や前方に変位さ せる大胸筋といった筋の過剰な収縮も含まれる。インターナル インピンジメントは肩関節運動の最終域付近での肩甲骨運動に 大きく左右されるため,肩甲骨周囲筋群の機能が重要となる。 前述の無症候の腱板断裂症例における代償的な肩甲骨上方回旋. 文  献 1) Ludewig PM, Lawrence RL, et al.: What’s in a name? Using movement system diagnoses versus pathoanatomic diagnoses. J Orthop Sports Phys Ther. 2013; 43: 280‒283. 2) Klintberg IH, Cools AM, et al.: Consensus for physiotherapy for shoulder pain. Int Orthop. 2015; 39: 715‒720. 3) Ludewig PM, Reynolds JF: The association of scapular kinematics and glenohumeral joint pathologies. J Orthop Sports Phys Ther. 2009; 39: 90‒104. 4) Ishikawa H, Muraki T, et al.: Differences in scapular upward rotation and activities of downward rotators during arm elevation between symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears. Physiotherapy. 2015; 101: e651‒e652. 5) Itoi E, Minagawa H, et al.: Are pain location and physical examinations useful in locating a tear site of the rotator cuff? Am J Sports Med. 2006; 34: 256‒264. 6) Muraki T, Yamamoto N, et al.: Effects of posterior capsule tightness on subacromial contact behavior during shoulder motions. J Shoulder Elbow Surg. 2012; 21: 1160‒1167. 7) Halder AM, Halder CG, et al.: Dynamic inferior stabilizers of the shoulder joint. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2001; 16: 138‒143..

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参照

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