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高齢者理学療法研究の立場から

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 702 42 巻第 8 号 702 ~ 703 頁(2015 年) 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 大会シンポジウム 4. 高齢者理学療法研究の立場から* 山 田 実**. 超高齢社会と介護保険制度. を比較した。その結果,介護予防事業参加者は非参加者と比べ てその後 1 年間の新規要介護認定発生が 1/2 程度に抑制されて. 2015 年現在,我が国は高齢化率 25%を超える世界一の長寿. いることがわかった 2)。つまり,介護予防事業には新規要介護. 国であり,2025 年には高齢化率が 33%に到達するとも予想さ. 認定発生を抑制する効果があり,多くの高齢者に参加を促して. れている。この 2025 年は,単に高齢化率が高まるだけでな. いくことの意義が示された。しかしながら,このような介護予. く,団塊の世代が 75 歳以上となることで後期高齢者の割合が. 防事業においてリハビリテーション専門職の優位性は示されて. 高まるとされている。つまり,社会保障領域において 2025 年. おらず,現時点ではリハビリテーション専門職の関与の有無が. は重要な節目となるため,様々な領域の専門家が対策を講じて. その後の効果に影響を及ぼすといった情報は示されていない。. いる。 このような社会の中で理学療法士にはなにが求められてい. 高齢期の諸問題に対する運動介入の効果. るのだろうか。我が国の介護保険制度は,ドイツの制度を参. 介護予防の周辺領域においては様々な研究報告がなされエビ. 考に 2000(平成 12)年より開始された。2000 年に 218 万人で. デンスも確立されつつある。特に,フレイル進行抑制,サルコ. あった要介護認定者は 2015 年に 600 万人に,2000 年に 3.2 兆. ペニア予防,それに転倒予防などの領域に関しては,運動の効. 円であった介護給付費は 2015 年には推計で 10 兆円に,それに. 果が明確に示されるようになり,アセスメントに基づくリスク. 介護保険料は 2000 年に全国平均 2,911 円であったのが 2015 年. 管理および適切な運動処方が行えるリハビリテーション専門職. に 5,514 円に増加した。このような増加の一途を辿る介護周辺. が活躍すべき領域であると考えられる。. 問題に対応すべく,2006(平成 18)年より介護予防事業が開 始された。介護予防事業を公的な資金で実施するという点では. 1.フレイル. 世界で例がなく,長寿フロントランナーである我が国の介護予. フレイルとは,これまで虚弱や衰弱などと訳されていた. 防事業の動向には各国が注目している。そんな中,2013(平成. 『frailty』を国民に対してより馴染みやすい用語にするために, 3). 。. 25)年に厚生労働省より『理学療法士が,介護予防事業等にお. 日本老年学会が 2014(平成 26)年に提唱した造語である. いて,身体に障害のない者に対して,転倒防止の指導等の診療. このフレイルとは健常と要介護の中間的な状態のことを指し,. の補助に該当しない範囲の業務を行うことがあるが,このよう. 近い将来要介護状態になるリスクが高い一方で,適切な介入に. に理学療法以外の業務を行うときであっても,「理学療法士」. よって健常へと戻ることができると考えられている。フレイル. という名称を使用することはなんら問題ないこと。』という通. の判定には様々なものがあるが,なかでも国際的にもっとも広. 1). 。さらに,2015 年から開始された総合支援事. く用いられているのが,Fried 博士らが提唱した 5 つの項目に. 業では,理学療法士・作業療法士といったリハビリテーション. よって構成されたスコアである 4)。これには,①体重減少,②. 専門職の貢献に大きな期待が寄せられることとなり,リハビリ. 活力低下,③活動度低下,④歩行速度低下,⑤握力低下の項目. テーション専門職が医療・福祉機関だけでなく社会の中でどの. が含まれており,3 つ以上の該当でフレイル,1 ~ 2 項目該当. ような力が発揮できるのか試されることとなった。. でプレフレイルと定義される。この判定方法を用いてフレイル. そもそも介護予防事業には要介護認定を抑制させるような効. 有病率調査を行った研究によると,我が国高齢者におけるフレ. 果は認められるのだろうか。我々は介護予防事業による要介護. イル有病率は 10%程度と報告されている 5)。フレイル高齢者. 認定抑制効果を調べるために傾向スコアを用いた共変量調整を. に対して運動介入を実施した研究をメタ解析すると,①介入頻. 行うことで,介護予防事業参加者の身体機能レベルとマッチン. 度は 2 ~ 3 回/週,②介入期間は 12 週間以上,③ 1 回あたり. グさせた非参加者を抽出し,両群における新規要介護認定発生. の運動時間は 60 分程度,④運動の内容としてはレジスタンス. 知が出された. *. The Study for Geriatric Physical Therapy ** 筑波大学大学院人間総合科学研究科 (〒 112–0012 東京都文京区大塚 3–29–1) Minoru Yamada, PT: Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba キーワード:高齢者,介護予防,理学療法. トレーニングを含める,といった内容を遵守することによっ て,運動機能の向上効果が得られやすいことが示唆された。 2.サルコペニア サルコペニアとは,加齢に伴って骨格筋量が減少することを.

(2) 高齢者理学療法研究の立場から. 703. 指し,我が国高齢者の有病率は 10 ~ 20%とされる。サルコペ. トレーニングよる転倒予防効果は認められていない。自験的に. ニアの判定にも幾つかの方法が存在するが,その中で 2014 年. も,身体機能レベルの高い高齢者に対しては二重課題処理能力. にアジアのサルコペニアワーキンググループ(AWGS:Asian. を向上させるようなトレーニングプログラムが転倒予防に有用. Working Group for Sarcopenia)によって報告されたアルゴリ. であることが示されており,高齢者の転倒予防を行う際には機. ズムを紹介する。このアルゴリズムでは,この骨格筋量減少. 能レベルに応じた内容を選択すべきであるといえる。. に加えて運動機能の低下(握力低下および歩行速度低下)が 認められるものをサルコペニアと定義している 6)。ここでは,. おわりに. 通常歩行速度の基準値は≦ 0.8  m/sec,握力は男性< 26  kg,. このように高齢化率が増加の一途を辿る我が国において,要. 女性< 18  kg,それに骨格筋量(SMI:Skeletal muscle mass. 介護状態を予防するという取り組みは重要な課題であり,この. index)は二重エネルギー X 線吸収法の場合であれば男性<. 課題に対して我々理学療法士が貢献していくことが求められて. 2. 2. 7.0 kg/m ,女性< 5.4 kg/m ,生体電気インピーダンス法の場. いる。フレイル予防,サルコペニア予防,転倒予防,それに認. 合であれば男性< 7.0  kg/m2,女性< 5.7  kg/m2 をそれぞれ基. 知機能低下抑制等の介護予防周辺領域に関しては様々な研究が. 準としている。サルコペニアの予防・改善を目的に介入を実施. 報告されるようになり,我々は適切に情報収集を行い,そして. した研究をメタ解析すると,①介入頻度は 2 ~ 3 回/週,②介. 実践に活かしていく必要がある。このような社会貢献を促進. 入期間は 24 週間以上,③ 1 回あたりの運動時間は 60 分程度,. し,世界に発信していくことこそが高齢者理学療法研究領域の. ④運動の内容としてはレジスタンストレーニングを含める,さ. 責務であり,超高齢社会で求められている姿であると考えて. らに⑤アミノ酸,タンパク質といった栄養療法を併用すると. いる。. いった内容を遵守することによって,骨格筋量増加および筋力 増強効果が得られやすいことが示唆された。 3.転倒予防 高齢者における年間の転倒発生率は約 30%とされており, 身体機能レベルによって転倒発生率および転倒要因が異なる ことが示されている。つまり,身体機能レベルの低い高齢者 (TUG:timed up & go test ≧ 11.0 秒)では下肢筋力低下が主 たる転倒要因となり年間の転倒発生率は 40 ~ 50%になるのに 対して,身体機能レベルの高い高齢者(TUG < 11.0 秒)では 二重課題処理能力の低下が主たる転倒要因となり転倒発生率 は 20%程度となる. 7). 。各々の機能レベルの高齢者に対する介. 入研究のメタ解析からは興味深い結果が得られており,身体機 能レベルの低い(≒フレイル)高齢者に対する介入ではレジス タンストレーニングによる転倒予防効果が明確に示されるのに 対して,身体機能レベルの高い高齢者に対してはレジスタンス. 文 献 1) 理学療法士の名称の使用等について(厚生労働省医政局医事課長 通知),平成 25 年 11 月 27 日. 2) Yamada M, Arai H, et al.: Community-based exercise program is cost-effective by preventing care and disability in Japanese frail older adults. J Am Med Dir Assoc. 2012; 13: 507–511. 3) フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント.http:// www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20140513_01_01.pdf (2015 年 10 月 10 日引用) 4) Fried LP, Tangen CM, et al.: Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001; 56: M146–M156. 5) Shimada H, Makizako H, et al.: Combined prevalence of frailty and mild cognitive impairment in a population of elderly Japanese people. J Am Med Dir Assoc. 2013; 14: 518–524. 6) Chen LK, Liu LK, et al.: Sarcopenia in Asia: consensus report of the asian working group for sarcopenia. J Am Med Dir Assoc. 2014; 15: 95–101. 7) Yamada M, Aoyama T, et al.: Dual-task walk is a reliable predictor of falls in robust elderly adults. J Am Geriatr Soc. 2011; 59: 163–164..

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