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はじめに 産業財産権制度問題調査研究事業は 専門家を交えた研究委員会 国内外公開情報調査 国内外ヒアリング調査 国内外アンケート調査等により 産業財産権法のみならず隣接法領域を含む広い視点から分析を行うことで 知的財産創造物の保護の現状把握及びその在り方等について検討を行い 産業財産権制度の法制面や

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特許権侵害訴訟における訴訟代理人費用等

に関して

本調査研究では、弁護士および企業へのアンケート調査を実

施し、特許権侵害訴訟における弁護士費用を含む訴訟に必要な

費用の実態の把握と、特許権侵害訴訟における弁護士費用に関

するデータベースの作成についての検討を行いました。

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はじめに

産業財産権制度問題調査研究事業は、専門家を交えた研究委員会・国内外公開情報調 査・国内外ヒアリング調査・国内外アンケート調査等により、産業財産権法のみならず 隣接法領域を含む広い視点から分析を行うことで、知的財産創造物の保護の現状把握及 びその在り方等について検討を行い、産業財産権制度の法制面や運用面について改正を 行う際の基礎資料を作成することを目的としている。 <詳細について> 本調査の詳細については、特許庁 HP(以下 URL 記載)に掲載しております平成 28 年 度研究テーマ一覧より「大学をはじめとする公益に関する団体等を表示する商標のライ センスに関する調査研究報告書」をご参照ください。 URL:http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/zaisanken.htm <お問い合わせ先> 経済産業省 特許庁 総務部 企画調査課 〒100-8915 東京都千代田区霞が関 3-4-3 TEL:03-3581-1101(内 2156)FAX:03-3580-5741 特許庁 国際的な制度調和 産業財産権制度に関する 多種多様なニーズ 関係者(産、学、官)及び 有識者(弁護士、弁理士等) による調査研究委員会にて検討 国内外公開情報調査 各国の制度調査 国内外ヒアリング調査 国内外アンケート調査 調査研究機関 調査研究報告書の取りまとめ 委員会の検討結果や研究報告書等を 制度改正の検討に活用 事業イメージ

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<調査の俯瞰図>

有識者委員会 弁護士 3 名(内 1 名は裁判官経験者)、企業の知的財産担当者 2 名、経済学者 1 名の計 6 名で構成される有識者委員会を全 4 回開催した。委員会においては、国内アンケート 調査結果に基づき、知的財産訴訟における弁護士費用を含む訴訟に必要な費用の実態の 分析と、特許権侵害訴訟における弁護士費用のデータベースの作成についての検討を行 った。 背景 特許権侵害訴訟は法的にも技術的にも高度な知見が求められるため、一般的な訴訟事件 と比較しても代理人である弁護士の負担が大きくなる傾向があり、その結果として、訴 訟代理人費用は高くなるとの声もある。 他方、特許権侵害訴訟において特許権者が被疑侵害者に対して弁護士費用を請求した場 合、相当因果関係が認められる範囲で認容されるが、実態として認められる弁護士費用 は十分でないと言われている。 目的 知的財産訴訟における弁護士費用を含む訴訟に必要な費用の実態について調査を行い、 裁判所が損害賠償額を認定する際の基礎として活用可能なデータベース等の作成につ いて、その可否も含めて検討する。 公開情報調査 我が国における特許権侵害 訴訟に係る訴訟費用等の制 度・実態に関して、書籍、 論文、調査研究報告書、審 議会報告書及びインターネ ット資料等を収集し、それ らの内容の分析・整理を行 った。 国内ヒアリング調査 特許権侵害訴訟に関する知見を有する、弁護士・企業・ 有識者計 15 者にヒアリングを行い、アンケート調査票 の設計等に関する助言を得た。 国内アンケート調査 特許権侵害訴訟における弁護士費用を含む訴訟費用の 実態を把握するため、特許権侵害訴訟の代理経験のある 弁護士 303 者及び特許権侵害訴訟の経験のある企業 210 者を対象にアンケート調査を行った。

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1.本調査研究の背景・目的

我が国の民事訴訟制度においては、代理人を選任せずに訴訟を遂行するいわゆる「本 人訴訟」を原則としているが、法的にも技術的にも高度な知見が求められる特許権侵害 訴訟においては、当事者が知財専門の弁護士を代理人として選任せずに訴訟を遂行する ことは事実上困難であると言われている。 また、特許権侵害訴訟は無効論・侵害論・損害論等、多岐の論点があり、そのための 技術調査・特許調査も必要となるため、一般的な訴訟事件と比較しても代理人である弁 護士の負担が大きくなる傾向があり、その結果として、特許権侵害訴訟における訴訟代 理人費用は高くなるとの声もある。 他方、特許権侵害訴訟において特許権者が被疑侵害者に対して弁護士費用を請求した 場合、相当因果関係が認められる範囲で認容されるが、実態として認められる弁護士費 用は十分でなく、一般的には損害賠償額の1割程度を弁護士費用として認める運用が多 いと言われている。 特許権侵害訴訟において認められる損害賠償額が十分ではないという指摘もある中、 損害賠償の一部として認められる弁護士費用も実績額と比べて低額であって、訴訟に要 する費用が訴訟を通じて回復される損害額を上回るとすれば、特に、中小企業は侵害訴 訟の提起を躊躇し、権利侵害に泣き寝入りせざるを得なくなると考えられる。 したがって、特許権侵害訴訟に要する弁護士費用が、特許権の権利行使を通じた救済 の途の妨げとならないよう、裁判所が特許権侵害訴訟において認める弁護士費用を実績 額に近づけるための取組が求められる。その具体的な取組の一つとして、2016 年 3 月 に公表された「知財紛争処理システムの機能強化に向けた方向性について」の中では、 「知的財産訴訟における弁護士費用を含む訴訟に必要な費用に関するアンケート調査 等により実態を反映したデータベース等を作成することで、裁判所が損害賠償額を認定 する際の基礎として活用できるようにすることが考えられる。」と指摘されている。ま た、2016 年 5 月 9 日に知的財産戦略本部において決定された「知的財産推進計画 2016」 においても、我が国の知財紛争処理システムの機能強化に向けて種々の取組を推進する ことが記載され、弁護士費用の問題についても「知財訴訟に必要な費用のデータベース 等の作成について、その可否も含めて具体的に検討を進める」こととされている。 そこで本調査研究においては、特に特許権侵害訴訟を念頭に、知的財産訴訟における 弁護士費用を含む訴訟に必要な費用の実態について調査を行い、裁判所が損害賠償額を 認定する際の基礎として活用可能なデータベース等の作成について、その可否も含めて 検討することを目的とする。

2.本調査研究の実施方法

本調査研究では、特許権侵害訴訟における訴訟代理人費用等について、公開情報調査 (文献調査)、国内ヒアリング調査(弁護士・企業・有識者対象)及び国内アンケート調

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査(弁護士・企業対象)を実施し、その結果を基に有識者委員会による分析・検討を行 った。 (1)公開情報調査 我が国における特許権侵害訴訟に係る訴訟費用等の制度・実態に関して、書籍、論文、 調査研究報告書、審議会報告書及びインターネット資料等を収集し、それらの内容の分 析・整理を行った。 (2)国内ヒアリング調査 アンケート内容決定の参考とするため、調査票の設計についてや、特許権侵害訴訟に おける弁護士費用を含む訴訟費用の算定に関係する事項について、弁護士・企業・有識 者(計 15 者)を対象に、ヒアリング調査を行った。 図表 1 ヒアリング対象者 区分 対象者数 弁護士 9 者 大企業 4 者(化学・医薬分野:2 者、電気・通信分野:2 者) 中小企業 1 者(機械分野) 有識者 1 者(民事法学者) 図表2 ヒアリング項目 大項目 小項目 1)アンケート調査 票の設計 匿名での回答について 実際に経験をした特許権侵害訴訟に関する設問について 2)アンケート調査 の設問内容 費用に関する取り決めについて 弁護士費用に影響を与える要素について 仮想の事例について 実際の事例を参考にした特許権侵害訴訟のモデルケースの作 成について 弁護士費用以外に発生する費用について (3)国内アンケート調査 特許権侵害訴訟における弁護士費用を含む訴訟費用の実態を把握するため、特許権侵 害訴訟の代理経験のある弁護士 303 者及び特許権侵害訴訟の経験のある企業 210 者を 対象にアンケート調査を行った。

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(4)有識者委員会による検討 調査の方向性やデータベースの作成等に関して、専門的な視点からの検討、分析、助 言を得るために、弁護士 3 名(内 1 名は裁判官経験者)、企業の知的財産担当者 2 名、 経済学者 1 名の計 6 名で構成される調査研究委員会を設置した。有識者委員会は全 4 回開催した。各回の主な議題は次のとおりである。 <アンケート項目> ・ 取り扱い事件の概要(弁護士)/ 特許権侵害訴訟経験の概要(企業) ・ 仮想の事例における弁護士費用(弁護士) ・ 実際の事例を参考にした、特許権侵害訴訟のモデルケース(弁護士・企業) ・ 弁護士費用以外の費用(弁護士・企業) <委員名簿> 委員長 飯村 敏明 ユアサハラ法律特許事務所 弁護士 委員 上山 浩 日比谷パーク法律事務所 弁護士 重冨 貴光 大江橋法律事務所 弁護士 竹本 一志 サントリーホールディングス株式会社 知的財産部長 西村 陽一郎 神奈川大学 経済学部 准教授 別所 弘和 本田技研工業株式会社 知的財産部長 (敬称略・五十音順) <議事内容> 第1回 ・事業概要説明 ・公開情報調査結果の報告 ・国内アンケート調査 調査方針の検討 ・国内ヒアリング調査 調査対象および調査項目について 第2回 ・国内ヒアリング調査報告 ・国内アンケート調査 調査対象および調査票について 第3回 ・国内アンケート調査 調査結果の中間報告 ・国内アンケート調査 分析方法について 第4回 ・国内アンケート調査 調査結果の最終報告 ・報告書(案)及びデータベース等の提示及び検討

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3.調査結果

(1)国内公開情報調査 (i) 旧報酬規定 かつては、弁護士は所属する弁護士会が定める報酬会規に基づき、弁護士費用を請 求していた。報酬会規においては、事件の種類ごとに弁護士費用の上限と下限が定め られていたが、独占禁止法に抵触するおそれがあるとの公正取引委員会からの指摘を 受け、2004 年 3 月をもって廃止された。 (ii) 現在の弁護士報酬に関する規程 現在では、日本弁護士連合会の定める「弁護士の報酬に関する規程」に則った上で、 自由に弁護士費用を請求できるようになっている。 (iii) 審議会等における議論 平成 27 年 10 月から平成 28 年 3 月にかけて計 9 回開催された知財紛争処理シス テム検討委員会が、2016 年 3 月に公表した報告書「知財紛争処理システムの機能強 化に向けた方向性について」の中では、弁護士費用の負担に対する施策として、訴訟 に必要な費用のデータベースの作成を検討することが挙げられている。 また、平成 28 年 5 月 9 日に内閣府知的財産戦略本部において決定された「知的財 産推進計画 2016」においては、我が国の知財紛争処理システムの機能強化に向けて 種々の取組を推進することが示されており、訴訟に必要な費用のデータベース作成に ついて、その可否も含めての検討を進めるとの方向性が示されている。 (iv) 弁護士費用全般に関する文献調査 裁判所が認容する弁護士費用の認容額は、基本的には損害賠償額の 1 割相当とする 裁判例が多いが、損害賠償の認容額が少ないため、場合によっては賠償額の 5 割近く を弁護士費用が占める場合もあることが指摘されている。 費用体系については、特許権侵害訴訟では、一般民事事件と比べて、タイムチャー ジ方式での請求が多いとの指摘がある。 費用に影響する要素としては、着手金・報酬金方式については、事案の難易性、要 する時間、労力、請求額、認容額が挙げられており、タイムチャージ方式については、 無効事由の個数や証拠のページ数が挙げられている。

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(2)国内ヒアリング調査 国内アンケート調査の調査内容の参考とするため、調査票の設計や、特許権侵害訴訟 における弁護士費用を含む訴訟費用の算定に関係する事項について、ヒアリング調査を 行った。 アンケート調査票の設計に関しては、匿名での回答の可否や、実際に経験した訴訟に 関する質問の是非について、意見を聞いた。また、弁護士費用に影響を与える要素や、 弁護士費用以外に発生する費用についても、意見を聞いた。これらに基づき、アンケー ト調査票を作成した。 (3)国内アンケート調査 平成 25 年 1 月 1 日~平成 28 年 9 月 30 日における特許権侵害訴訟判決から、 図表 3 のとおり、アンケート対象者を選定した。 図表 3 アンケート対象者 種別 選定条件 弁護士 抽出した裁判例において、原告または被告の代理人とな った弁護士を対象とした。ただし、同一事務所に所属す る弁護士は 1 名のみを対象とした。 企業 抽出した裁判例において、原告または被告となった企業 のうち、2 件以上の訴訟を経験した企業を対象とした。 アンケート調査の発送・回答状況は図表 4 のとおりである。 図表 4 アンケート調査発送・回答状況 弁護士 企業 発送数 303 210 うち宛先不明等 4 5 有効発送数 299 205 回収数 50 50 回収率(回収数÷有効発送数) 16.7% 24.4% アンケート調査結果に基づく有識者委員会での分析は、「4.総合分析」のとおりで ある1。 1 有識者委員会においては、本調査の結果は、あくまでもアンケート調査の回答に基づくものであり、我が国における 特許権侵害訴訟の実際のデータに基づくものではないということに、十分に留意すべきとの指摘があった。

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4.総合分析

(1)特許権侵害訴訟の弁護士費用と他の訴訟の弁護士費用との比較 アンケート調査では、特許権侵害訴訟と債権回収を目的とした訴訟との弁護士費用の 比較調査を行った。結果、特許権侵害訴訟は、債権回収を目的とした訴訟に比べて平均 3.5 倍程度の弁護士費用がかかるという回答が得られた。 具体的な事例に基づく設問ではないため、得られた数値の厳密性を検証するのは難し いが、有識者委員会においては、特許権侵害訴訟の弁護士費用が、一般的な訴訟事件と 比較して高いという実態は、一定程度明らかになったのではないかとされた。 (2)訴訟で認められる弁護士費用 弁護士および企業が、過去に経験した特許権侵害訴訟に基づいて作成したモデルケー スでは、損害賠償認容額に対する弁護士費用の割合は図表 5 のとおりである。 図表 5 損害賠償認容額に対する弁護士費用の割合 回答者 件数 平均値 中央値 弁護士 17 件 26.1% 19.4% 企業 7 件 66.6% 71.9% 弁護士及び企業 24 件 37.9% 21.8% なお、有識者委員会においては、企業からの回答に弁護士費用が損害賠償認容額を上 回る回答が 3 件あったことが、全体的な数値を引き上げている可能性もあるとの指摘 があった。 (3)仮想事例に基づく弁護士費用の相場 弁護士向けアンケート調査では、仮想の特許権侵害訴訟の事例(ケース 1、ケース 2) と、警告状の作成の事例(ケース 3)を設定し、それぞれに要する弁護士費用について 質問をした。結果は、図表 6~9 のとおりである2 2 結果を見ると、タイムチャージ方式の方が、着手金・報酬金方式よりも高い結果になっているが、有識者委員会にお いては、タイムチャージ方式一般が、着手金・報酬金方式よりも割高になるという見方は、必ずしも正しくないとの指 摘があった。理由として、アンケートで設定した事例が、タイムチャージ方式では弁護士費用を請求しやすいが、着手 金・報酬金方式では弁護士費用を請求しにくい事例であった可能性等が指摘された。

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図表 6 ケース 1 における弁護士費用の平均額 A 社は、ある特許権を実施して商品を製造販売していた。B社が同様の商品の販売を開始したため、A 社は、製造販売の差 止めと、2,000 万円の損害賠償を求めて訴訟を提起した。 A 社が侵害されたと主張した特許は 1 件(存続期間は残り 15 年)であり、請求項は 2 つである。 これまでの、A 社の当該製品の売上は過去 3 年間で合計 8,000 万円程度(利益率 40%)であり、B社の当該製品の売上は 過去 2 年間で合計 4,000 万円程度(利益率 40%)である。 B社は、自社の製品が A 社の特許権の権利範囲に属さないとの主張を行うとともに、A 社の特許には進歩性違反と記載不備 の 2 点で無効理由が存在すると主張した。なお、均等論は争点とならなかった。 訴訟においては、双方 3 回ずつ準備書面を提出し、提訴から 1 年後の第 6 回弁論準備手続きにおいて、裁判所は心証を開示 した。 結論① 結論② 結論③ 3 回の損害の審理を経て判 決 ・製造販売の差止め ・損害賠償 1,600 万円の支 払い 3 回の損害の審理を経て判 決 ・製造販売の差止め ・損害賠償 400 万円の支払 い 3 回の和解の期日を経て和解 が成立 ・B社は無効審判の請求を行 わない ・(製造販売は停止せず) ・(和解金なし) 着手金・報酬金方式(合計額) 642 万円 480 万円 301 万円 着手金 265 万円 265 万円 265 万円 報酬金 378 万円 215 万円 36 万円 タイムチャージ(合計額) 1,461 万円 1,461 万円 1,406 万円 全体(合計額) 843 万円 715 万円 559 万円 図表 7 ケース 2-1 における弁護士費用の平均額 A 社は、ある特許権を実施して商品を製造販売していた。B 社が同様の商品の販売を開始したため、A 社は、製造 販売の差止めと、1 億円の損害賠償を求めて訴訟を提起した。 A 社が侵害されたと主張した特許は 1 件(存続期間は残り 2 年)であり、請求項は 2 つである。 これまでの、A 社の当該製品の売上は過去 12 年間で合計 8 億円程度(利益率 40%)であり、B社の当該製品の売 上は過去 2 年間で合計 2 億円程度(利益率 40%)である。 B社は、自社の製品が A 社の特許権の権利範囲に属さないとの主張を行うとともに、A 社の特許には進歩性違反と 記載不備の 2 点で無効理由が存在すると主張した。なお、均等論は争点とならなかった。 訴訟においては、双方 3 回ずつ準備書面を提出し、提訴から 1 年後の第 6 回弁論準備手続きにおいて、裁判所は心 証を開示した。 結論① 結論② 結論③ 3 回の損害の審理を経て判 決 ・製造販売の差止め ・損害賠償 8,000 万円の支 払い 3 回の損害の審理を経て判 決 ・製造販売の差止め ・損害賠償 2,000 万円の支 払い 3 回の和解の期日を経て和解 が成立 ・B社は無効審判の請求を行 わない ・(製造販売は停止せず) ・(和解金なし) 着手金・報酬金方式(合計額) 1,404 万円 947 万円 587 万円 着手金 511 万円 511 万円 511 万円 報酬金 893 万円 437 万円 74 万円 タイムチャージ(合計額) 1,719 万円 1,719 万円 1,656 万円 全体(合計額) 1,458 万円 1,093 万円 793 万円

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図表 8 ケース 2-2 における弁護士費用の平均額 ケース 2-1 の後、B社は判決を不服として、知的財産高等裁判所へ控訴した。 控訴審では、2 回の弁論準備手続(双方 2 回ずつ準備書面を提出)を経て、訴訟提起から 6 月後、裁判所はB社の 控訴を棄却した。 なお、控訴審において、B 社代理人は、証拠を追加したが、新規の争点の追加はなかった。 結論① 結論② 一審の判決を維持 ・製造販売の差止め ・損害賠償 8,000 万円の支払い 一審の判決を維持 ・製造販売の差止め ・損害賠償 2,000 万円の支払い 着手金・ 報酬金 方式の 場合 一審・控訴審 着手金・報酬金 1,836 万円 1,284 万円 一審 着手金・報酬金 684 万円 605 万円 着手金 491 万円 491 万円 報酬金 192 万円 113 万円 控訴審 着手金・報酬金 1,152 万円 679 万円 着手金 336 万円 295 万円 報酬金 816 万円 384 万円 タイムチャージ(合計額) 2,281 万円 2,281 万円 全体(合計額) 1,898 万円 1,312 万円 図表 9 ケース 3 における弁護士費用の平均額 A 社は、B社の製品 1 件を調査した結果、自身の保有する特許権 1 件の技術的範囲に属すると考えたため、警告状を 送ることにした。警告状は、B社に対して、当該製品の製造・販売の停止と、販売済み数量・単価・利益額・在庫数量 の提示を求める内容とした。 平均値 作成手数料 161,860 円

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(4)タイムチャージの相場 弁護士のタイムチャージの単価の単純平均・加重平均3は、以下のとおりであった。 図表 10 タイムチャージの平均金額 単純平均 加重平均 パートナークラス (N=31) 最低額 33,194 円 38,705 円 最高額 47,484 円 54,693 円 アソシエイトクラス (N=25) 最低額 19,460 円 20,560 円 最高額 32,012 円 36,363 円 (5)弁護士費用に影響を与える要素 弁護士向けアンケートにおいて、弁護士費用に影響を与える要素の調査を行った。着 手金・報酬金・タイムチャージへの影響が大きい要素として挙げられた項目と、回答の 比率は、以下のとおりであった。 図表 11 着手金・報酬金・タイムチャージへの影響が大きい要素 項目 影響が大きい要素 着手金 訴額(73.2%) 差止請求の有無(19.5%) 勝訴の見込み(14.6%) 対象となる特許の件数(14.6%) 特許技術の理解の難しさ(14.6%) 報酬金 認容された損害賠償額(81.0%) 差止請求の有無(14.3%) 顧問契約の有無(11.9%) タイムチャージ 訴訟期間(41.4%) 出廷の回数(24.1%) 事件を担当する弁護士/弁理士の数(24.1%) (6)特許権侵害訴訟における弁護士費用のデータベースの作成について 実際に特許権侵害訴訟に要した弁護士費用は、機密性が高い情報であるため、実際の 費用に基づく弁護士費用のデータベースを作成することは、困難であると考えられる。 3 アンケート結果では、所属弁護士数が多い事務所の方がタイムチャージの相場が高い傾向があったため、所属弁護士 数による加重平均(回答金額×回答者の所属事務所における所属弁護士数÷全回答における所属弁護士数の合計)も算 出した。

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一方で、本調査で明らかになった、弁護士費用に影響を与える要素をパラメータとす ることで、特許権侵害訴訟に要する弁護士費用の予測が、一定の範囲で可能となるとも 考えられる。弁護士および企業が作成した原告側のモデルケースを用いて重回帰分析を 行ったところ、図表 12 の結果を得た。 図表 12 重回帰分析の結果 説明変数(パラメータ) 単位/選択肢 回帰係数 1.請求額 万円 0.0019 2.損害賠償額 万円 0.0166 3.争点になった特許の数 個 268.7023 4.争点になった無効理由の数 個 168.8567 5.訴訟期間 月 12.3550 6.関与した弁護士数 人 390.1635 7.特許権の技術分野 電気・通信4 -517.6142 化学・医薬5 455.8278 機械・運輸 -130.4859 その他 0.0000 定数項 - -1,004.0097 あくまでも、本調査において収集した、限られたデータの範囲における分析であるこ とに留意する必要があるが、説明変数(パラメータ)の値と回帰係数の積を求め、その 合計値に定数項を加えることで、弁護士費用の予測値を計算することができる6 4 有識者委員会においては、特許権の技術分野によって争点となる特許の数が異なることが、回帰分析の結果に影響を している可能性が指摘された。例えば、「電気・通信」分野は平均的に争点になる特許が多いと考えられるが、その場 合「争点となった特許の数」の影響が大きくなるので、その分「特許権の技術分野」の回帰係数は、小さくなっている 可能性がある。 5 「化学・医薬」分野の回帰係数が大きいのは、争点となる特許権の数が少ないことが考えられる。さらに、有識者委 員会において、「化学・医薬」分野の回帰係数が大きい理由は、損害賠償請求だけではなく差止めが経済的価値として 高く評価されることにあるのではないかとの指摘があった。「電気・通信」及び「機械」分野では、比較的設計変更が 可能なため、判決で差止めが認められても、弁護士費用に反映され難いと考えられる。一方で、「化学・医薬」分野の 場合は、差止めの効力が実効性を持って発生するので、それが弁護士費用にも影響している可能性がある。 6 例えば、各パラメータが以下の値の場合には、弁護士費用(原告側)の予測値は、約 1,707 万円と予測される。 説明変数(パラメータ) 説明変数の値 回帰係数 説明変数の値 ×回帰係数 1.請求額(万円) 5,000 0.0019 9.5 2.損害賠償額(万円) 3,000 0.0166 49.8 3.争点になった特許の数(個) 1 268.7023 268.7023 4.争点になった無効理由の数(個) 2 168.8567 377.7134 5.訴訟期間(月) 15 12.3550 185.325 6.関与した弁護士数(人) 5 390.1635 1950.8175 7.特許権の技術分野 機械・運輸 -130.4859 -130.4859 定数項 -1,004.0097 弁護士費用の予測値(万円) 1707.359

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(7)特許権侵害訴訟に要する弁護士費用以外のコストについて アンケートでは、特許権侵害訴訟において弁護士費用以外に発生する費用について、 その金額を質問した。主な項目とその金額は図表 13 のとおりである。 図表 13 弁護士費用以外の要素 項目 弁護士平均値 企業平均値 鑑定費用 137 万円 56 万円 立証用の実験費用 219 万円 62 万円 特許の有効性の調査 107 万円 40 万円 侵害の成否の調査 84 万円 40 万円 上記のほか、「旅費・交通費」、「日当」等の訴訟の実施に伴い必要な費用や、「無効審 判」「訂正審判」等の特許権侵害訴訟以外での特許の有効性に関する判断に関する手続 きの費用も挙げられた。 有識者委員会においては、弁護士に依頼した費用だけではなく、訴訟に臨むために企 業自身で調査等をした費用など、さまざま様々な費用についても、裁判所の認容額を議 論する上での前提として、想定をすべきとの指摘がなされた。 (8)特許権侵害訴訟によって回復される損害賠償以外の利益について 有識者委員会においては、訴訟において回復される利益は、損害賠償だけではなく、 製造販売の差止めにより市場が確保される点にもあるとの指摘がなされた。 損害賠償額を元に弁護士費用相当額が認定されているという実態があるとしても、特 許権侵害訴訟は製品と事業を守るために行われる。よって、例えば、差止請求と損害賠 償請求の両方が認容された場合で、認容された損害賠償額が比較的低廉であったために、 結果として弁護士費用の補填が十分にされなかったとしても、当該判決により特許権者 の回復する経済的利益と比較して弁護士費用の負担が過重な状況になっているとまで は言えない。損害賠償額と認容された弁護士費用について比較することに留まらず、損 害賠償や差止めを含む訴訟において回復される総合的な利益と、弁護士費用を含む訴訟 に必要な様々なコストについて、そのバランスを検討していくことが必要と考えられる。 (9)まとめ 本調査研究では、弁護士及び企業に対するアンケート調査により、特許権侵害訴訟に おける弁護士費用を含む訴訟に必要な費用の実態の把握を行った。また、これらの結果 に基づき、有識者委員会において、弁護士費用に影響を与える要素と、それらの要素に 基づく弁護士費用の予測の可能性について、検討を行った。さらに、損害賠償や差止め

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を含む訴訟において回復される総合的な利益と、弁護士費用を含む訴訟に必要な様々な コストについても、検討を行った。

本調査結果を基に、特許権侵害訴訟において回復される利益と訴訟に要するコストの バランスについての議論がより一層の進展することを、期待するものである。

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禁 無 断 転 載 平成 28 年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究 特許権侵害訴訟における訴訟代理人費用等に関して (パンフレット) 平成 29 年 2 月 請負先 株式会社サンビジネス 〒105-0014 東京都港区芝一丁目 10 番 11 号 コスモ金杉橋ビル

図表  6  ケース 1 における弁護士費用の平均額 A 社は、ある特許権を実施して商品を製造販売していた。 B 社が同様の商品の販売を開始したため、A 社は、製造販売の差 止めと、2,000 万円の損害賠償を求めて訴訟を提起した。  A 社が侵害されたと主張した特許は 1 件(存続期間は残り 15 年)であり、請求項は 2 つである。  これまでの、A 社の当該製品の売上は過去 3 年間で合計 8,000 万円程度(利益率 40%)であり、 B 社の当該製品の売上は 過去 2 年間で合計 4,000 万円
図表  8  ケース 2-2 における弁護士費用の平均額  ケース 2-1 の後、 B 社は判決を不服として、知的財産高等裁判所へ控訴した。  控訴審では、2 回の弁論準備手続(双方 2 回ずつ準備書面を提出)を経て、訴訟提起から 6 月後、裁判所は B 社の 控訴を棄却した。  なお、控訴審において、B 社代理人は、証拠を追加したが、新規の争点の追加はなかった。 結論①  結論②  一審の判決を維持  ・製造販売の差止め  ・損害賠償 8,000 万円の支払い  一審の判決を維持  ・製造販売の差止め

参照

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