Agyeya
の
詩
Asadhya vina
を
め
ぐ
つ
て
田
中
敏
雄
現 代 ヒ ン デ ィ ー 文 学、 特 に 詩 の 分 野 に お い て、 四 〇 年 代 以 降、 さ ま ざ ま な 文 学 運 動 ・ 論 争、 転 換 期 に、 サ ッ チ ダ ー ナ ン ド ・ ヒ ー ラ ー ナ ン ド ・ ワ ー ツ ヤ ー ヤ ン" ア ッ ギ ェー エ "(Sach chidanand vatsyayan Afyeya, 1911-)
の 存 在 は 重 要 で あ る。 お そ ら く、 ア ッ ギ ェ ー エ の 人 と 作 品 ほ ど 論 争 の 的 と な つ た も の は 他 に 例 が な い で あ ろ う し、 " ア ッ ギ ェ ー エ" ほ ど、 い わ ゆ る 文 学 史 上 の 転 換 点 に 立 ち、 さ ま ざ ま な 文 学 運 動 に 影 響 を 与 え た 詩 人 は な い で あ ろ う。 ( 1) 詩 集
﹃Angan ke par Dvar
﹄ に 収 録 さ れ て い る ﹁ Asadhya Kina﹂ は、 " ア ッ ギ ェ ー エ" の 一 九 二 七 年 か ら 現 在 に 至 る ま で の 作 品 の な か で、 最 も 長 く、 特 異 な 位 置 を 占 め て い る。こ の 詩 集 に は、 一 九 六 四 年 度 の 文 学 ア カ デ ミ ー 賞 が 授 与 さ れ、 ( 2) ﹁ 現 代 ヒ ン デ ィ ー 文 学 へ の 重 要 な 貢 献 ﹂ と さ れ な が ら も、 こ の 作 品 に つ い て の 評 価 は 充 分 に さ れ て い る と は 云 え な い。 こ ( 3) の こ と は、 現 在 の " ア ッ ギ ェ ー エ" 文 学 に 対 す る 関 心 か ら 見 る と、 奇 異 に 思 わ れ る。 こ こ で は、 ﹁ A sashya vina﹂ を め ぐ る い く つ か の 間 題 を 指 摘 し、 評 価 へ の 材 料 を 提 供 し た い。 ( 4) ﹁ Asadhya vina﹂ の 筋 は 道 教 徒 の 物 語 ﹁ 琴 な ら し ﹂ に 基 づ い て い る。 三 一 七 行 よ り な る 長 詩 の 構 成 は 次 の よ う で あ る。 (1) 王 はpriyamvad を 迎 え、 Asashya をponvad の 前 に 置 か せ、 A sadhya vina に ま つ わ る 伝 説 を 語 る。 ( 四 四 行 ま で ) (2) Priyamvad と A sadhya vina の 対 面。Privad に よ る 沈 黙 の モ ノ ロ ー グ。 ( 二 二 七 行 ま で ) (3) Priyamvad. vina を 鼓 す。 ( 二 八 八 行 ま で ) (4) 王 とPriyamvad の 対 話。 ( 三一 二 行 ま で ) (5) Priyamvad 去 る。エ ピ ロ ー グ。 ( 三 一 七 行 ま で ) " ア ッ ギ ェ ー エ"が岡倉 覚 三 の ﹃ 茶 の 本 ﹄ 第 五 章 芸 術 鑑 賞 か ( 5) ら 刺 戟 を 受 け、 岡 倉 覚 三 の ﹁ 琴 な ら し ﹂ の 解 釈 の 範 囲 内 で、 Asadhya vina を 書 い た の は、 ほ ぼ 確 実 で あ る。 一 九 五 七 年 か ら 五 八 年 に か け て、 " ア ッ ギ ェ ー エ" は 日 本 及 び 東 南 ア ジ Agyeya の 詩 Asadhya を め ぐ っ て ( 田 中 ) 三 八 七
-876-Agyeya. の 詩 Asadhya を め ぐ っ て ( 田 中 ) 三 八 八 ア を 旅 行 し、 日 本 に は 半 年 以 上 も 滞 在 し、 日 本 文 学、 文 化 に 関 す る 本 を か な り 読 ん だ こ と か ら、 タ ト ル 版 を 使 用 し た こ と は、 ほ ぼ 断 定 で き る。 ﹁ Asadhya vina ﹂ と ﹃ 茶 の 本 ﹄ の 第 五 章 を 比 較 す る と、 (2) と (5) が、 ﹁ Asadhya vina﹂ に 挿 入 さ れ て い る こ と、(2) に 力 点 が 置 か れ、 こ の 長 詩 の 大 半 が あ て ら れ て い る こ と、 琴 を 聴 く も の は 王 の 他 に、 王 妃 と 民 が あ り、 各 自 そ れ ぞ れ に 聴 く こ と、 以 上 の 三 点 が ﹃ 茶 の 本 ﹄ に は 見 ら れ な い も の で あ る。 従 つ て、 以 上 の 三 点 を 吟 味 す る こ と に よ つ て、 ﹁ A sadhya Koma﹂ は 単 な る 模 倣 や 翻 案 で は な い と 云 え る だ ろ う。 ﹁ Asadhya vina﹂ に お い て、 伯 牙 (Peiwoh) はPriyam-K ad, Keskambali に、 竜 門 の 峡 谷 (the ravine h Lungmen) は d tt a r k h a の 峡 谷 に、 古 桐 (kiri tree) は kiriti taru に、 銀 竜 (dragon) はvasuki に、 偉 大 な る 妖 術 者 (mighty) はvajrakirti に 置 き か え ら れ て い る。 イ ン ド の 読 者、 ヒ ン ド ゥ ー に と つ て、Priyamvad は Qandharva の 王 の 子viddhara を、vasuki は Kasappa 仙 の 子、 竜 王 を 連 想 さ せ、
Keskam Urrara, vajra
kirti と 抵 抗 な く 入 つ て 行 け る 世 界 で あ る。 こ の 詩 集 が 刊 行 さ れ て 一 〇 年 に も な ろ う と し て い る 現 在、 こ う し た 事 実 を 指 摘 す る 研 究 者 は な い。 ﹃ 茶 の 本 ﹄ の 伯 牙 が、 御 し が た い 馬 を し ず め よ う と す る 人 の ご と く、 や さ し く 琴 を 撫 し 静 か に 弦 を た た き 歌 う と、 古 桐 の 追 憶 は す べ て 呼 ぴ 起 さ れ る が、 ﹁ Asadhya vina﹂ のpri-y a mvad は 目 を 閉 じ、 呼 吸 を 整 え、 合 掌 し て か ら く 甘 鋤 に 対 す る。 ﹁
Spandit sannate men﹂
(65) か ら ﹁ avibbhjya, anp, ( 6) adravit, ameya﹂ (310) の 世 界 に 没 入 す る。Priyamva の 沈 黙 の モ ノ ロ ー
グ、cina, kiriti taru
さ ら に 無 制 約 絶 対 者 ( 7) へ の 熱 烈 な 呼 び か け が 続 く。 ﹃ 茶 の 本 ﹄ に お い て 岡 倉 覚 三 は、 ﹁ 真 の 芸 術 は 伯 牙 で あ り、 わ れ わ れ は 竜 門 の 琴 で あ る ﹂ と 云 う。 ﹁ Asadhya vina﹂ に お い て、priyanvad を" ア ッ ギ ェーエ" に、 asadhya vina を " ア ッ ゲ ェ ー エ " の 詩 の 世 界 に 対 置 で き よ う。vina は kiriti taru の 一 部 分 で あ る。 kiriti taru は 無 制 約 絶 対 者 に 増 幅 さ れ る。cina はpriyamvad の 膝 の 上 に あ る。 し か し、priyan K ad に と つ て 自 分 は ﹁ 汝 の 膝 に 嬉 々 と し て 坐 つ て い る 少 年 ﹂ (111) な の で あ る。 こ う し て、 詩 人 と そ の 詩 の 世 界 は、 信 徒 と 神 と の 関 係 に 対 置 さ れ る。priyamvad の 沈 黙 の モ ノ ロ ー
グ、vina, kiriti taru
さ ら に 無 制 約 絶 対 者 に 対 す る 呼 び か け は、 神 に 対 す る 信 徒 の 熱 烈 信 仰、 絶 対 帰 依 を 思 わ せ る。 こ う し て、vina は 鳴 り だ す。 伯 牙 の 聴 き 手 は 鍾 子 期 だ け で あ つ た が、priyamvad の 聴 き 手 は 王 と 王 妃 そ れ に 民 で あ る。 各 自 が そ れ ぞ れ に 聴 く。 さ ま ざ ま な 人 と そ の 現 実 の 生 活、
-877-( 8) 生 の 多 様 な 姿 が 窺 え る。 一 九 二 七 年 か ら 現 在 に い た る ま で、 " ア ッ ギ ェ ー エ" の 詩 作 は 終 末 の な い 修 業 時 代 で あ る。 詩 の 媒 体 を 求 め る 不 断 の 試 み で あ る。 つ き つ き れ ば、 こ と ば と 意 味、 自 己 表 現 の 相 関 関 係 ( 9) を め ぐ つ て で あ つ た。 ﹁ Asadhya vina﹂ に お い て、 ﹁ 我 ﹂ を 滅 す る こ と に よ り、 更 に 強 烈 な 自 己 表 現 を 試 み、 詩、 ま た は 広 い 意 味 に お い て、 文 学、 芸 術、 生 そ の も の へ の 類 歌 を 書 き あ げ た、 と 云 え よ う。
1 Agyeya Angan ke Dvar Bharatiya
O yanpith, 1961. 2 文 学 ア カ デ ミ ー の 褒 状。 Uinmaan, (Feb. 21, 1965) 3 雑 誌 掲 載 論 文、 未 刊 の 論 文 は 実 に 多 い が、 作 品 論、 作 家 論 と し て、 す で に 五 冊 が 刊 行 さ れ で い る こ と は、 現 存 の 作 家 に と つ て は 異 例 と い え よ う。 4 村 岡 博 訳 ﹃ 茶 の 本 ﹄ 昭 三 六 改 版 岩 波 文 庫。 5 国 訳 漢 文 大 成 第 七 巻 老 子 ・ 列 子 ・ 荘 子 列 子 湯 間 九 〇-九 一 頁。 第 八 巻 筍 子 ・ 墨 子 筍 子 勧 学 編 四 頁。 第 一 一 巻 潅 南 子 説 山 訓 四 一 頁 等 を 参 照 す る と、 ﹃ 茶 の 本 ﹄ の 第 五 章 は、 岡 倉 覚 三 の 想 像 力、 自 由 な 解 釈 の 所 産 で は な い か と 思 わ れ る。 6 以 下、 括 弧 内 の 数 字 は テ キ ス ト の 行 数 を 示 す。 テ キ ス ト で は、 こ の 世 界 は 次 の よ う に も 表 現 さ れ て い る。 7 Agyeya の 詩、 A sadhya vina を め ぐ っ て ( 田 中 ) 三 八 九
-878-Agyayye の 詩 Asadyhya vina を め ぐ っ て ( 田 中 ) 三 九 〇 8 王 に と つ て、 ﹁ 王 冠 は 花 の よ う に 軽 く な り ﹂ ( 二 四 三 )、 ﹁ 羨 望 野 心、 敵 意、 阿 談 追 従、 す べ て 古 着 の よ う に 落 ち た ﹂ ( 二 四 五 ) 王 妃 に は ﹁ 宝 石、 首 飾、 装 身 具、 衣 装、 す べ て 暗 黒 の 粒 子 ﹂ ( 二 五 圃 ) の よ う に 思 わ れ た。 民 の そ れ ぞ れ は 次 の よ う に 聴 く。 ﹁ 神 々 の 恵 み の こ と ば ﹂ ( 二 六 〇 )、 ﹁ 恐 怖 か ら 解 放 の 確 約 ﹂ ( 二 六 二 )、 ﹁ 金 庫 の な か の 金 の 音 ﹂ ( 二 六 四 )、 ﹁ 米 櫃 の な か の 芳 香 ﹂ ( 二 六 六 )、 ﹁ た め ら い が ら に 歩 く 新 妻 の 足 飾 り の 響 き ﹂ ( 二 六 七 )、 ﹁ 嬰 児 の 笑 い 声 ﹂ ( 二 六 七 )、 ﹁ 網 に か ゝ つ た 魚 の は ね る 音 ﹂ ( 二 六 八 )、 ﹁ 空 を 行 く 鳥 の 鳴 き 声 ﹂ ( 二 六 九 )、 ﹁ 市 場 の 雑 踏、 喧 喚 ﹂ ( 二 七 〇 )、 ﹁ 寺 院 の 鐘 の 音 ﹂ ( 二 七 一 )、 ﹁ 鍛 冶 屋 の 槌 の 音 ﹂ ( 二 七 二 )、 ﹁ 繋 留 さ れ た 小 舟 に ひ た ひ た と 寄 せ る 波 の 音 ﹂ ( 二 七 三 ) ﹁ 畔 か ら 流 れ で る 水 の 音 ﹂ ( 二 七 六 )、 ﹁ 踊 り 子 の 足 飾 り の 音 ﹂ ( 二 七 七 )、 ﹁ 陣 大 鼓 の 轟 き ﹂ ( 二 七 八 )、 ﹁黄 昏 の 響 き ﹂ ( 二 七 九 )、 等。
9 Agyeya ed., Tar Saptak. 1943. pp. 75-76.