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医療機器産業の新興国展開促進に向けて

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Academic year: 2021

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平成28年6月2日に閣議決定された「日本 再興戦略2016」においては、医療機器産業は、 新興国を中心に拡大するグローバル市場の獲得 を図ることとされ、医療機器を含む日本の医療 技術・サービスで2030年までに5兆円(2013年 時点で6,600億円)の海外市場を獲得すること が目指されている。 このように日本再興戦略においてもメイン ターゲットとされている「新興国」については、 市場成長性の観点から、BRICs、ASEAN、中 東諸国等が有望視されることが多い。海外展開 にあたっては、現地規制に対応し、医療機器の 登録申請を行い承認されることが市場進出の入 口で求められる必須要件となる。しかし、一般 的に新興国の規制は発展途上にあり、頻繁に変 更があることに加えて規制の文書上の内容と実 態が必ずしも一致しないことが多いため、医療 機器メーカーの薬事規制対応を困難なものとし ており、海外展開における大きな課題のひとつ となっている。 そこで、本レポートでは、新興国のうち、現 状の市場規模が大きく周辺地域へも展開が見込

はじめに

まれる一方で、言語の問題も含めて特に情報取得の困難なロシア連邦を取り上げながら、同国 の医療機器規制の理解の一助となるよう、医療 機器規制の主な着目点に沿って規制の特徴や動 向、課題等を概観する。 今回、新興国の例としてロシアを取り上げる 背景としては、上述した医療機器規制情報の取 得の難しさの一方で、(1)新興国の中では現状 の市場規模が大きく保健医療政策にも積極的で あることと、(2)周辺国との関係においてもロ シア一国に限らない面的展開が考えられること の2点から、市場の魅力度は比較的高いと考え られるためである。 (1)市場性と保健医療政策動向 ロシア医療機器市場は、2014年時点で約 6485.3百万ドル(1ドル110円換算で約7,134億 円)の規模(世界第9位)であり、市場全体の約 2%程度を占めている(1)。年平均成長率も、約 6.06%と先進国と比較して高い傾向にある。 政策面では、近年ロシアにおいては保健医療 政策に関する問題意識が高く、心血管疾患・が

1. ロシアにおける医療機器市場

さらなる海外展開が期待される医療機器産業において、特に新興国展開の際に課題となること の多い医療機器規制対応に着目し、新興国の中でも現状の市場規模が大きいロシア連邦を中心に、 2017年1月から市場統合に向けた医療機器承認プロセスにおける共通制度が開始されるユー ラシア経済連合における規制動向を整理した。

社会動向レポート

医療機器産業の新興国展開促進に向けて

ロシア及びユーラシア経済連合における規制動向の整理

社会政策コンサルティング部 医療政策チーム医療産業課 コンサルタント 

片岡 千鶴

(2)

ん・結核等の深刻な病気に対する施策、予防 医療の推進、医療従事者や医療業界の賃金向 上等を含む大規模プログラム「2020年までの ロシア連邦ヘルスケア発展プログラム(Health 2020)」が進められている。また、医療産業分 野についても、「2020年までのロシア連邦製薬・ 医療産業発展プログラム」(Pharma 2020)が 2009年に承認され、ロシアの製薬・医療産業 のイノベーションモデルへの移行を目的とし て、外資系メーカーによるロシア現地生産化や 外資系メーカー誘致等による現地R&Dなどを 目指して革新的医薬品・医療製品の生産・開発 や医薬品・医療製品に関する制度改善等が進め られている(2)。 こうした中、民間医療機関には最新医療機器 設備がみられるものの、医療機関の大多数を占 める公立病院を中心に医療設備の老朽化が進ん でおり、医療機器の6割程度が古くなっている ともいわれ(3)、潜在的な医療機器ニーズも高 いことが想定される。 (2)周辺地域における動向 ロシア及びその周辺国では、2015年1月1日 に「ユーラシア経済連合(EAEU)」(加盟国: ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、 キルギス)が発足しており、医療分野において は、医薬品共同市場及び医療機器共同市場の形 成が目指されている。具体的には、後述すると おり(3章参照)、2017年1月から域内共通の新 たな医療機器登録承認制度が開始されており、 今後はロシア市場への進出が周辺国も含めた面 的な市場進出となる可能性が高まっている。 海外の医療機器規制の特徴を理解するにあ たっては、規制当局や根拠法等の基本的情報を 把握するのはもちろんのこと、規制対応の難易 度や必要期間・経費等を見極めるうえで何点か 着目すべきポイントが挙げられる。 ほかにも、適合すべき規格や法定代理人の要 否・条件等、着目すべき点は多々あるものの、 今回は、上記を中心にロシアの状況を説明する。 (1)医療機器登録申請の審査機関 ロシアでは、医療機器として市場に流通させ ることができるまでの手続きが二段階ある。第

2. 医療機器規制の着目ポイントとロシ

アにおける規制内容

(資料)Worldwide Medical Market Forecasts to 2019(Espicom)よりみずほ情報総研作成 図表 1 国別医療機器市場世界シェア(2014 年時点)

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一段階は、規制当局であるROSZDRAVNADZOR (ロシア連邦保健社会発展庁、以下RZN)に対 して行う国家登録手続きであり、国で定められ た要求事項を満たすか確認/承認された後に登 録証明書が付与される。第二段階は、流通する 際に品質と安全性が「国家標準規格(GOST-R: GOSSTANDART of RUSSIA)」に適合してい ることを証明するために、国が認定した指定機 関から認証を得て行う適合宣言手続きであり、 第一段階で発行される登録証明書がなければ行 うことができない。 例えばEUでは、第三者認証機関による審査 の結果、安全基準条件を満たしていることを証 明するCEマークの認証が与えられ、これを活 (資料)各種資料よりみずほ情報総研作成 けて登録が行われている場合(EUのCEマーキング等)がある。 図表 2 海外の医療機器規制の特徴把握における着目点

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用してEU内各国における医療機器登録と適合 宣言が行われることで各国での手続きが効率化 されているが、ロシアでは順序が逆となってお り、現時点で適合宣言の仕組みは特に登録審査 の効率化には寄与していない。 (2)医療機器の定義、製品のリスク分類 ロシアでは、医療機器の定義は規制当局であ るRZNにより、以下のとおり定められている。 また、医療機器に該当する製品は、その人 体に影響するリスクの大きさに応じて、4段階 のリスククラス(リスクが低いものから1、2a、 2b、3)に分類されている。欧州の医療機器指 令(93/42/EEC)とおおよそ同じ分類規則と なっており、欧州に進出済みの企業にとっては、 比較的理解しやすい内容となっている。 (3)登録手続き概要と簡略審査の有無 登録手続きは、リスククラス2a、2b、3では 同一の流れであるが、リスククラス1の場合の み、一部簡略化された手続きがとられている。 前者では、スムーズに手続きが進む場合でも一 般的に7 ~ 9か月を要するが、後者では、所用 期間が約5 ~7か月と短くなっている。 (4)被験者を用いた臨床試験の要否 医療機器規制の文書上は、臨床試験(Clinical trials)も臨床評価(Clinical evaluation)も区 別されずに“Clinical trials”と呼ばれている。 そのため、登録しようとする全製品についてロ シア国内での“Clinical trials”(臨床試験)が必 要であるように読めるが、ロシアで医療機器 登録申請を代行する現地コンサルタントによ れば、実際には、新たな被験者を必要とせず 書類ベースでのデータ検証のみ行う“Clinical evaluation”(臨床評価)であることがほとんど となっている。 臨床評価は、ロシア国内ですでに登録されて いる同種の医療機器の情報、生産国の市販後調 査情報、同種機器の使用に関する科学記事等で 検証可能であり、例えば日本メーカーの製品で 日本において販売実績があり、それに関する統 計的な数値があれば、それをもって臨床評価に 活用することができる。

(資料)Order of RF Government #1416 from 27/12/2012(Registration rules for Medical products)with changes, order 4n with changesより翻訳

(5)

(5)申請書類 申請書類としては、主に以下の文書が必要と なる。 a. 委任状(登録申請手続きの代理人とすること が認められる書類の写し) b. 製造業者の事業許可証(合法組織としてロシ ア国内で登録されていることの証明書) c. ISO13485またはQMS認証に関する書類: 生産工場の状況証明となるもの d. CEマーク認証書類等、他国における製品書 類(医療効能、安全性を確認できる情報) e. 製品の技術仕様書 f. 取扱説明書 g. 医療機器全体及び必要な附属品を映した写 真とその参照番号 上記についてすべてロシア語で準備する必要 がある。他言語で作成されている場合には、国 で規定された翻訳の資格要件を満たす者が翻訳 したロシア語翻訳を添付することが必須であ り、時間的・金銭的にコストがかかることに留 意が必要である。 (6)ラベル表示における要求事項 ロシアにおいて医療機器を販売する際には、 英語のラベル表示だけでは認められず、ロシア 語の記載を要件とする厳格な規則が存在する。 既に他国にて流通している製品でロシアでも流 通させる場合には、ロシア語対応のためにメー カー側でラベルの変更が必要であるものの、複 数言語を併記することは可能である。 前章までは、ロシアにおける医療機器規制の ポイントを概観してきたが、本章では、ロシア を含むユーラシア経済連合における規制動向を 整理する。 これまで、ユーラシア経済連合内では各国独

3. ユーラシア経済連合における医療機

器規制動向

(資料)SV-Progress, LLC社資料より作成  リスククラス2a、2b、c  リスククラス1(リスクの低い製品群) 追加要求がある場合 肯定的結果の場合 申請 製品試験 RZNによる 書類審査 臨床試験 RZNからの 登録証明書 所要期間 5~7か月 専門の 検査場での 書類審査 RZNによる 書類審査 申請 製品試験 RZNによる 書類審査 臨床試験 専門の 試験場での 書類審査 RZNからの 登録証明書 所要期間 7~9か月 専門の 検査場での 書類審査 RZNによる 許可の発行 RZNによる 書類審査 RZNによる 最終書類審査 図表 4 ロシアにおける医療機器登録の流れ

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自の規制に基づいてそれぞれの国で医療機器登 録が求められていたが、2017年1月より、ユー ラシア経済連合における医療機器市場統合に向 け、域内の一か国で登録証書が取得できれば、 関係国でも登録に適用できる制度(EAC認証制 度)が開始された。 メーカーは、登録申請を行なう国を決め(参 照国(referenced country)の決定)、参照国を 決めたあと、その登録を適用したい(承認して ほしい)国が認知国となる。 参照国において、製品試験、臨床試験(評価)、 さらに工場査察が行われ、これらの結果をもと に第三者認定機関(Notifi ed Body)が「専門家 見解(Expert conclusion)」を発行し、これに 基づいて認知国において登録申請の受理の可否 判断を行うこととなっている(下図のとおり)。 この新制度には5年間の移行期間が設定され ており、移行期間中は各国の国家登録システム と並行して実施される。 新制度の実施にあたっては、現在、主に以下 の点が課題として懸念されており、新制度開始 後も状況は流動的であることが予想される。た だし、同制度が軌道に乗れば、EUにおけるCE マーキングに近い制度がユーラシア経済連合内 にて実現されることとなり、国を超えた面的な 市場展開がしやすくなることが期待できる。 ここまで、医療機器の新興国展開における規 制について、ロシアを事例として紹介してきた。 冒頭に述べた現地における最新かつ実態に即 した医療機器規制情報を入手することが困難で

おわりに

(資料)SV-Progress, LLC社資料より作成 図表 5 主なラベリング要件 (資料)SV-Progress, LLC社資料より作成 図表 6 EAC 認証制度下にて想定されている医療機器登録承認プロセス

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(資料)SV-Progress, LLC社資料より作成

図表 7 EAC 認証制度において想定される課題

(資料)SV-Progress, LLC社資料より作成 図表 8 医療機器登録件数の国別シェア

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あることも一因となり、現在、ロシアに進出し ている日本メーカーは限定的である。例えば、 2015年の医療機器登録件数の内訳をみると、 日本メーカーの占める割合は約4%に留まって いる。 しかし、最近のロシアと日本との間の医療政 策動向を見ると、両者における関係は強化され る方向に進んでいる。現在、2016年5月に安 倍首相がプーチン大統領に提案した「8項目の 経済協力」に沿ってその実現に向けた具体的な 動きが進んでおり、特にロシア側が重視する「医 療水準の向上」については、同12月16日、塩 崎厚生労働相とロシアのスクヴォルツォヴァ保 健相が、安倍首相とプーチン大統領立ち会いの 下、医療・保健分野の協力覚書が交換された。 協力覚書では、心臓病やがんなどの非感染性疾 患や保健分野への医療イノベーション技術と治 療の導入、医療従事者の技能向上などの分野で 協力を発展させることとされている(4) このような政策的な追い風を活用するために も、今後も動きがあるとみられるロシア及び ユーラシア経済連合における医療機器規制の動 向は注目していく必要があるだろう。

(1) Espicom(2014) “Worldwide Medical Market

Forecasts to 2019” (2) 医療経済研究機構「新経済成長大国の医療保障制 度に関する調査研究-ロシアの医療保障制度-」 (2013) (3) 医療経済研究機構「新経済成長大国の医療保障制 度に関する調査研究-ロシアの医療保障制度-」 (2013) (4) Medifax記事(2016.12.20)

図表 3 ロシアにおける医療機器の定義
図表 7 EAC 認証制度において想定される課題

参照

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