第
章
複素関数と正則性
展望: 本章では複素解析、複素関数の性質の基本である連続性と微分可能性につ いて述べる。実数変数に関する微分についてはすでに高校その他で学んでい るであろうが、その定義についてはさほど気を付ける必要はなかった。また 微分の意味は接線(あるいは接平面)の勾配として直感的に理解することが できた。このように視覚的に理解できるのは実変数の微積分学が歴史的に力 学のための道具として発見されたことと無縁ではない。複素数を変数とする 微分は同じように lim z !z 0 f(z)0f(z 0 ) z0z 0 と定義される。しかしzは複素数であるから、実変数による微分の時のよう に視覚的に理解できる「傾き」という意味はもはや無い。さらに z の変化分 1z = z0z 0 をゼロにする極限操作にもいろいろなとり方が考えられる。例 えば1zの虚部をゼロにしたまま実部をゼロに近付ける(zをz 0に近付ける時、 実軸に平行に動かす)。あるいはその逆に1zの実部をゼロにしたまま虚部を ゼロに近付ける( 虚軸に平行に動かす)、または実部と虚部を同時にゼロに するなど様々なやり方が考えられる。実はこの極限の取り方に依存しない値 が得られることが複素関数の微分を定義するために必要である。この要求は 大変強いもので、複素関数のすべての性質はこの要求によって定まってしま う。先ずこのことに十分注意しながら本章を読み進んでほしい。 本章では最初に複素関数の連続性、微分を定義する。これらの定義から直 接導かれる性質を議論すると共に、複素関数の大きな応用である等角写像について学ぶ。さらに簡単な応用として2次元の電磁気学および流体力学に触 れることにする。 実関数の連続性や微分の概念の形成にはニュートン(1642-1727)やライプ ニッツ(1646-1716)を必要とした。複素関数の性質の研究は、ガウス (1777-1855)、コーシー(1789-1857)、リーマン(1826-1866)といった18世紀から19 世紀にかけての大数学者達の華やかな活躍の場であった。 2.1
複素関数とその連続性
2.1.1複素関数および連続の定義
定義 12 複素関数:複素z平面から複素w平面への写像が与えられたとき w=f(z) (2.1) と書いて、f(z)をzの関数、あるいは複素関数という。 複素関数w=f(z)について、zをz 0に近づけたとき wがw 0にいくらでも近 づくなら、すなわち任意の正数"に対して適当な正数が存在し0<jz0z 0 j< であるすべてのzにおいて jf(z)0w 0 j<" (2.2) が成り立つならば、 lim z !z0 f(z)=w 0 (2.3) と書いて、w 0を「 wのz !z 0における極限値」という。 定義 13 複素関数の連続性:lim z!z 0 f(z)=f(z 0 )のとき、すなわち任意の正 数 "に対して適当な正数 (")が存在して、 jz0z 0 j<(")である全てのzについてjf(z)0f(z 0 )j<" (2.4) であるとき、「f(z)はz =z 0で連続である」という。 1図 2.1 関数の連続性.半径の円内の点zの写像w=f(z)は半径"の円内にある.
一般に2次元ベクトル空間(x;y)から2次元ベクトル空間(u;v)への写像
はf(z)=u(x;y)+iv(x;y)と書ける。さらにx=(z+z )=2, y=(z0z)=(2i)
であるから、f =u(z;z ) +iv(z;z )と書くこともできる。我々が複素解析で問 題にするのはzを使わないと書けないような関数ではなく、jzj や zを使わな いでw=f(z)=u(z)+iv(z)と書かれる関数である。たとえばw 1 =z 2 はこ れから大いに問題にする。一方、w 2 =x 2 +y 2 はw 2 =zz=jzj 2 であるからz だけで zや jzjを用いず書くことはできない。このような関数にはあまり興 味がない。2 公式 1 複素関数f(z), g (z)に関してlim z!z 0 f(z), lim z !z 0 g(z) が存在するな ら次の性質が成り立つ。 1. lim z !z 0 (f(z)+g(z))=lim z !z 0 f(z)+lim z!z 0 g(z) 2. lim z !z0 cf(z)=clim z !z0 f(z) 3. lim z !z 0 (f(z)g(z))=lim z !z 0 f(z)lim z!z 0 g (z) 4. lim z !z 0 f(z) g (z) = limz !z 0 f(z) lim z !z 0 g (z) 、ただし lim z !z 0 g(z)6=0 以上の証明は不要であろう。 1 「連続」とは日常的には鉄道の線路のようにずっと先まで続くことをいうが、数学では 「細かく細かく」見ても「途切れていない」「跳びがない」ことを意味する。 2 興味がないといってもこれからの議論に絶対に出てこないということではない。これか ら議論する豊富な内容を持っているのはw=f(z )と書ける関数だという意味である。
2.2
複素関数の微分可能性と正則関数
2.2.1複素関数の微分
定義 14 微分:複素z 平面上z =z 0 の近傍(適当な正数 に対してjz0 z 0 j< の領域)で定義された複素関数 w=f(z) に関して lim z!z 0 f(z)0f(z 0 ) z0z 0 (2.5) が一意に存在する(有限確定)ならば、f(z) は z =z 0 で「微分可能」であ るという。この量を微分係数または導関数と呼び、f 0 (z 0 ) あるいは df dz z =z0 と 書く。 f 0 (z 0 )= df dz z =z0 = lim z!z 0 f(z)0f(z 0 ) z0z 0 (2.6) ここではz を z 0 に近づけるといったとき近づけ方を指定していない、す なわち近づけ方によらずどのような近づけ方をしてもこの極限値が一意に存 在することを要求している。この要求は実は大変強いもので、複素解析の対 象とする関数の性質がこれから述べるように豊富な内容を持つのはこの性質 のためである。3 微分可能性の条件を次のように書くと便利である。 1f f(z+1z)0f(z)=f 0 (z)1z+1z ; ただし !0(1z !0): (2.7) 定義 15 正則:領域Dの任意の点で微分可能な関数を「領域Dで正則(regular, holomorphic)」という。また複素関数f(z)が「点z 0で正則」であるとは「点 z 0の近傍の各点で微分可能」なことをいい、点 z 0を関数 f(z)の正則点と呼 ぶ。また関数f(z)がz =z 0で正則でないとき、点 z 0を特異点という。 例 10 べき乗z n の微分は、2項展開の公式 (z+1z) n =z n +nz n01 1z+ 1 2 n(n01)z n02 (1z) 2 111 3 自然現象を記述する関数は多くの場合に微分可能な関数である。もし変数を複素数まで 拡張して定義することができれば、逆にその関数の性質の一般的側面を捉えることが可能で あり、その現象の一般的性質をはっきり理解することができる。より dz n dz = lim 1z!0 (z+1z) n 0z n 1z =nz n01 となる。 例 11 べき根z 1=n の微分は(z+1z) 1=n =a, z 1=n =b とおくと (z+1z) 1=n 0z 1=n 1z = a0b a n 0b n = a0b (a0b)(a n01 +a n02 b+a n03 b 2 +111ab n02 +b n01 ) より dz 1=n dz =lim a!b 1 a n01 +a n02 b+a n03 b 2 +111ab n02 +b n01 = 1 n z (1=n)01 となる。またz 1=n はz =0では微分不可能である。 公式 2 複素関数の微分の諸公式をあげておこう。 1. d dz fcf(z)g=c df(z) dz 2. d dz ff(z)+g(z)g= df(z) dz + dg (z) dz 3. d dz ff(z)g(z)g= df(z) dz g (z)+f(z) dg (z) dz 4. d dz f(z) g(z) = df(z ) dz g(z)0f(z) dg(z ) dz g 2 (z) 5. 合成関数の微分:g(z)はz =z 0で微分可能、 f(w)はw=w 0 =g(z 0 )で 微分可能であるとき、f(g (z))はz =z 0で微分可能で df(g(z 0 )) dz = df(w (z 0 )) dw dg(z 0 ) dz (2.8) である。
図 2.2 w=z 1=3 の振舞い. これらの証明は実関数のときと形式的にまったく同じである。最後の合成 関数f(g (z))の場合のみ証明しておこう。他の公式も定義から、あるいは以 下の証明に倣ってできる。gの変動1gに対するfの変動を1fなどと書けば微 分可能性により 1f =f 0 (g)1g+ 1g 1g =g 0 (z)1z+ 0 1z と書ける。ここで1g ! 0のとき ! 0、および1z ! 0のとき 0 ! 0 とな る。したがって 1f 1z =(f 0 (g )+ )(g 0 (z)+ 0 )=f 0 (g )g 0 (z)+(f 0 (g) 0 + g 0 (z)+ 0 ) である。上で最後の括弧内の式は1z !0のとき0になるから式(2.8)が導か れる。 公式 3 有理数べきのべき根z m=n (n, m は自然数で n6=m)に関しては dz m=n dz = m n z (m=n)01 (2.9) である。 式(2.9)は,f(w )=w m ,g(z)=z 1=n としてべき根の微分と合成関数の微分 により容易に導くことができる。z =e i として偏角を0から2まで動かし てみると関数z m=n は =0のところと =2のところとは連続につながらな
い(図2.2)。z m=n は複素z平面上で1価ではないからである。このためz =0 の近傍ではz=z 1での値 z m=n 1 を一意に定めても、 z 1 をわずかに動かした点 z 2 での値z m=n 2 が一意に定まらないことがある。 z 1から z 2に動かす途中 z =0を 通れば、そこでzの偏角が不定になるからである。z m=n についてのこのよう な事情は原点の近傍に限られる。原点から有限の距離だけ離れた点では、点 をその近傍で動かしても値の一意性がこわれるなどという困難はない。した がってべき根の関数z m=n はz =0では正則でない。 4 以上いくつかの例から、複素関数の微分公式は実関数のそれと同じである といえる。 2.2.2
コーシー・リーマンの関係式と調和関数
正則関数とは考えている領域で微分可能な関数であった。実関数のときは 微分可能性というのはそれほど強い条件とは思えなかっただろうが、複素関 数ではz ! z 0 の近づけ方によらないということは大変に強い条件で、これ 1つから沢山の基本的性質が導かれる。 正則関数であるための1つの必要充分条件をあたえるのが以下に見るコー シー・リーマンの関係式である。これを見ると正則関数というのが如何に強 い条件になっているかが分かってくるであろう。 定理 13 コーシー・リーマンの関係式:f =u+ivの実部および虚部がz =z 0 の近傍でxおよびyに関して連続1回微分可能であるとき、f(z)=u+ivが 正則であるための必要十分条件は、 @u @x = @v @y @u @y =0 @v @x (2.10) を満たすことである。上の式をコーシー・リーマン(Cauchy-Riemann)の関 係式という。 コーシー・リーマンの関係式の証明は簡単である。基本はz !z 0の近づけ方 によらないということであるから、z+1zをz に近づけるとき1z =1x+i1y 4 有理数べき根z m=n に留まらず無理数べきについても全く同じであるが、ここではまだ無 理数べきの定義をしていない。として (1) 1x!0; 1y =0 (2) 1x=0; 1y !0 の2つの近づけ方で微分を考えてみよう。其々を書下して (1) f 0 (z) = lim 1x!0 f u(x+1x;y)0u(x;y) 1x +i v(x+1x;y)0v(x;y) 1x g = @u @x +i @v @x (2) f 0 (z) = lim 1y !0 f u(x;y+1y )0u(x;y) i1y +i v(x;y+1y)0v (x;y) i1y g = 0i @u @y + @v @y (2.11) となる。この両式の最後の項で実部虚部を比較して @u @x = @v @y @u @y =0 @v @x を得る。これで必要条件が示された。 次に充分条件を考えよう。偏微分係数u x ; u y ; v x ; v y が連続で (2.10)を満 足するとする。このとき偏微分の定義より u = u 0 +a1x+b1y+" q (1x) 2 +(1y ) 2 v = v 0 0b1x+a1y+" 0 q (1x) 2 +(1y) 2 である。", " 0 はj1zj!0のときゼロとなる。f =u+ivより f =f 0 +(a0ib)1z+" 00 q (1x) 2 +(1y) 2 ただしj1zj!0のとき " 00 !0となる。これから f 0 =a0ib であり、微分が存在する。これで充分条件も証明できた。
上の条件は実は少しきつ過ぎる。もう少し緩めて、「f = u+ivが正則で あるための必要充分条件は、u, vが全微分可能(したがって偏微分可能)かつ コーシー・リーマンの関係式が成り立つことである。」としても良い。5 ここ では条件をきつくしておいたほうが証明は容易であるし、実際上支障がない のでそのようにしておく。 例 12 簡単な例を見よう。複素平面上原点から有限な距離にあるどの点にお いても微分可能である正則関数f(z) =z 2 の実部と虚部はそれぞれ u(x;y) = x 2 0y 2 , v(x;y) = 2xyである。このu;vはコーシー・リーマンの関係式を満 足する。 7章7.2(グルサの定理)で示すように正則関数は実は無限回連続微分可 能である。すなわち正則関数の実部u 虚部vはそれぞれx, yで無限回連続微 分可能となる。このことを証明する準備は整っていないので、しばらくはそ のまま認めておくことにしよう。コーシー・リーマンの関係式をもう一度微 分すると @ 2 u @x 2 = @ 2 v @x@y @ 2 u @y 2 = 0 @ 2 v @x@y となり、これらの両辺を足せば @ 2 u @x 2 + @ 2 u @y 2 =0 (2.12) を得る。同様にv(x;y )についても @ 2 v @x 2 + @ 2 v @y 2 =0 (2.13) となる。これは2次元ラプラス方程式である。ラプラス方程式を満足する関 数を調和関数という。すなわち、正則関数の実部u、vはそれぞれ(2 次元) 調和関数である。 5
u(x;y )が(x;y)で全微分可能であるとは1uu(x+1x;y+1y )0u(x;y)=a1x+ b1y+" p (1x) 2 +(1y ) 2 とかけ、a,bは1x, 1yに関係せず、かつ(1x) 2 +(1y ) 2 !0の とき"!0 となることをいう。
定義 16 調和関数:2次元ラプラス方程式 @ 2 u @x 2 + @ 2 u @y 2 =0 (2.14) を満足する関数を調和関数という。 コーシー・リーマンの関係式によれば、正則関数の実部または虚部の一方 を定めれば、他方は定数項を除いて定まる。調和関数についていえば、1つ の調和関数u(x;y) が決まれば、それと組になって正則関数 f(z)=u+iv を 作るもうひとつの調和関数 v(x;y) が決まる。u, v を夫々他方に対して「共 役な調和関数」と呼ぶことがある。 例 13 正則関数f(z)=u+ivの実部がu(x;y)=x 2 0y 2 であるとする。 1u= @ 2 @x 2 + @ 2 @y 2 u=202=0 であるからuは調和関数であることが確かめられる。uを実部とする正則関 数の虚部vはコーシー・リーマンの関係式から @v @x = 0 @u @y =2y @v @y = @u @x =2x を満足しなくてはならない。これを積分すれば v(x;y) = Z x
dx(2y)=2xy+(y)
= Z y dy(2x)=2xy+ (x) と求められる。これから(y) = (x) =定数となる。よって定数を除いて f(z)=(x 2 0y 2 )+i2xy =z 2 と定まる。 コーシー・リーマンの関係式と合成関数の微分公式から次の「逆関数定理」 が導かれる。 定理 14 逆関数定理:f(z)がz = z 0で正則で f 0 (z 0 ) 6= 0とする。このとき z =z 0の近傍で w=f(z)の逆関数z=g(w )が存在し df dz =1= dg dw (2.15) が成り立つ。
(証明)この定理の証明は2段階で行なう。第1は逆関数の存在、第2は その微分公式の適用である。2変数x, yの関数f =u+iv u = u(x;y) v = v(x;y) (2.16) を考える。関数行列式(ヤコビアン) D(u;v) D(x;y) = @u @ x @u @y @v @x @v @y =J (2.17) がゼロでないとき(J 6=0)、上の関係の逆写像 x = x(u;v) y = y(u;v) (2.18) が一意的に確定、すなわち逆関数が存在する。関数行列式はコーシー・リー マンの関係式を用いて J = @u @x @ u @y @v @x @v @ y =u x v y 0u y v x =u 2 x +v 2 x =jf 0 (z)j 2 となるからf 0 (z)6=0が必要充分条件となる。これで第1段階は終わった。 第2段階はf(z)と逆関数g(w )との関係 w=f(g(w)) に対して合成関数の微分公式を適用すると 1= dw dw = df dz dg dw (2.19) となり求める式が得られた。(証明終わり) 2.2.3
電磁気学、流体力学への調和関数の応用
ラプラス方程式を満足する関数を調和関数と呼ぶ。すなわち、正則関数の 実部u、vはそれぞれ(2次元)調和関数である。ラプラス方程式は電磁気学 で電荷がない領域での静電ポテンシャルの式、流体力学の流れのポテンシャ ルの式などさまざまなところで顔を出してくるので、調和関数は大変重要で ある。例 14 静電ポテンシャルと電気力線:空間電荷がない領域での静電ポテンシャ ル (r) はラプラス方程式 ( @ 2 @x 2 + @ 2 @y 2 + @ 2 @z 2 )(r )=0 を満たさなくてはならない。点rに電荷qを持つ質点をおいたときにそれに働 く力F は静電ポテンシャルの勾配 gradで表すことができる。 F(r)=0q grad(r)=0q ( @ @x ; @ @y ; @ @z )(r ) 各点でのポテンシャルの傾き、すなわち最大傾斜の方向と傾斜の大きさを持っ たベクトルを電場ベクトルEという。 E(r)=0grad(r)=0( @ @x ; @ @y ; @ @z )(r ) 電場ベクトルを表す矢印を空間に描いてそれを連続的につなぎあわせたもの を電気力線という。電気力線は電場の方向に沿っていて、(r)=一定 の曲面 に垂直に交わり、電気力線の密度は電場の強さ( 電場ベクトルの大きさ)に 比例する。したがって荷電粒子に働く力の方向と大きさを電気力線が表して いる。 (r)が zによらない 2 次元静電ポテンシャル(r) および電場ベクトル E(r )はそれぞれ ( @ 2 @x 2 + @ 2 @y 2 )(r)=0 E(r)=0grad(r)=0( @ @x ; @ @y )(r ) となる。静電ポテンシャル(x;y )は(2次元)調和関数となる。また静電ポ テンシャルの勾配(に符号を変えたベクトル)が電場ベクトルを表す。 を 実部とする正則関数の虚部 (x;y)の勾配は、コーシー・リーマンの関係式 @ @x (x;y)= @ @y (x;y); @ @y (x;y )=0 @ @x (x;y) を満足せねばならないから電場ベクトルに直交(電気力線に直交)する。し たがって =一定となる曲線が電気力線を定め、 =一定となる曲線と直交 する。
例 15 渦無しの流れと速度ポテンシャル:流体の速度場のベクトル(速度ベ クトル)をv (r) とするとき、!(r ) = rotvを渦度といい、渦の流れを表す。 ! =0のとき渦無しの流れという。rotv=0であるとき、vはv =grad8と書 かれる関数8から導くことができる。この8を速度ポテンシャルという。流れ の質量密度を、時間をtとして、連続の式 @ @t +div(v)=0 が成り立つ。縮まない流体では=constであるから
div v =0)div grad8=( @ 2 @x 2 + @ 2 @y 2 + @ 2 @z 2 )8=0 となり速度ポテンシャル8はラプラス方程式の解となる。 vがx, yにのみ依存しzには依らない2次元的流れvを考えよう。速度ポ テンシャル8は2次元のラプラス方程式 ( @ 2 @x 2 + @ 2 @y 2 )8=0 を満足し、流れの速度場は v x = @8 @x ; v y = @8 @y となる。このとき図2.3に示すように空間に1点Aと任意の点Pを考える。 曲線CのAからPへ向かって引いた接線を時計まわりに90度回転させた方 向に射影したvの成分をv nとする。非圧縮性流体では、 AとPを結ぶ曲線C をよぎって通過する流体の体積は 9(P)= Z P A v n ds は曲線Cによらず点Pだけで決る。A とP を結ぶ任意の2つの曲線CとC 0 を考えるとCを通って入った流れは縮まない以上C 0 から必ず出ている筈だか らである。この9(x;y)を流れの関数という。9=一定である曲線を通過する 流量は0であるからこれが流線をあたえる。 定義から流れの関数9の微分は流れの速度となりv n =@9=@s、すなわち 流れの関数をある方向に微分すればその方向からさらに時計周りに90度周っ
図 2.3 非圧縮性流体の流れの関数. た方向の速度が求められる。したがって、微分の方向をそれぞれx, y方向に とると0y,x方向の速度0v y , v xとなる。 v x = @9 @y ; v y =0 @9 @x 流れの速度場の速度ポテンシャルによる式と流れの関数による式とを比べる とコーシー・リーマンの式になっていることが分かる。つまり8と9をそれぞ れ実部と虚部とする関数 f =8+i9 はz =x+iyに関して正則関数で8と9は調和関数である。fを複素速度ポテ ンシャルという。 2.3
等角写像
2.3.1等角写像の定義
領域 Dで正則な関数 w = f(z) について、D内の隣接した 3点 z i , (i = 0;1;2)を考える。z 0と z i (i=1;2)を結んだ滑らかな曲線はfの連続性から同 じくw 0と w i (i=1;2)を結んだ滑らかな曲線に写像される。 このときz平面上の点、w平面上の点のそれぞれの座標をz 0、 w 0を中心と して z 1 0z 0 =r 1 e i 1 ; z 2 0z 0 =r 2 e i 2 w 0w = e i1 ; w 0w = e i2 (2.20)図 2.4 3点z i ,(i=0;1;2)とw=f(z)によるその写像w i (i=0;1;2)と等角性。 と表す。w=f(z) の正則性により f 0 (z 0 )= lim z 1 !z 0 w 1 0w 0 z 1 0z 0 = lim z 2 !z 0 w 2 0w 0 z 2 0z 0 である。極表示で書き直すと f 0 (z 0 )=lim 1 r 1 e i(101) =lim 2 r 2 e i(202) (2.21) あるいは 1 r 1 e i(101) =f 0 (z 0 )+ 1 2 r 2 e i( 2 0 2 ) =f 0 (z 0 )+ 2 (2.22) である。ただし 1 , 2 はともに z !z 0 で r 1 ,r 2 , 1 , 2 などより早く 0とな る複素数である。したがって z !z 0 の極限で lim 2 1 =lim r 2 r 1 ; lim( 2 0 1 )=lim( 2 0 1 ) となる。言い換えると「z 0の近傍での微小 3角形1z 0 z 1 z 2は w 0の近傍の相似 な微小3角形1w 0 w 1 w 2に写像される。」 1z 0 z 1 z 2 1w 0 w 1 w 2 (2.23) 式(2.21)より直ぐ にjf 0 (z 0 )jは相似図形の拡大率、arg f 0 (z 0 )は図形の回転角 ( 1 0 1)であることが分かる。このような性質を、写像 f(z)の「等角性」
図 2.5 w= 1 z . といい、関数f(z)を等角 (conformal) であるといい、写像f(z)を等角写像 という。ある道筋に沿って右(左)にある領域は、像曲線の対応する道筋と 同じ右(左)側に写像されることも上の説明から分かるであろう。 定義 17 等角:領域Dで定義された写像w=f(z)があって、点z 0を通る滑 らかな任意の2曲線のなす角が、像点w 0を通る 2像曲線がなす角と符号を含 めて等しいとき、w=f(z)はz 0で等角であるという。 定理 15 関数f(z)がz 0で正則で f 0 (z 0 )6=0であるなら、写像w=f(z)はz 0 で等角である。 これは上の等角性の説明の言い直しであるから特に改めて証明する必要は ない。ただ、f 0 (z 0 ) =0 の場合には写像 w=f(z)はz =z 0 で偏角が不定に なってしまうので等角性が壊れることだけを注意しておこう。 例 16 w= 1 z この写像はz =r e i とすればw=(1=r)e 0i であるからz =0を中心とする円 はw=0を中心とする円に、z =0から放射状に広がる直線群はw=0に集 まる直線群に写像される。z平面上の直交曲線群はw平面上の直交曲線群に写 像され、z =0を除いて写像の等角性が成立する(図2.5)。
図 2.6 w=z 2 . 例 17 w=z 2 z平面上で実軸にそった半直線y =0;x>0 はv =0;u >0に、z平面上で虚 軸にそった半直線x=0;y>0 はu=0;v <0に写像される。またz平面の第 1象現にある円弧はw平面上の上半平面にある円弧に写像される。f 0 (0) =0 であるからz =0を除く他のすべての点で等角である。 u=x 2 0y 2 ; v =2xy であるからz平面で実軸、虚軸に平行な直線はそれぞれ次のような放物線に 写像される。 x=a )u=a 2 0( v 2a ) 2 y=b )u=( v 2b ) 2 0b 2 これら2つの放物線群はいたるところで互いに直交している(図2.6)。 2.3.2 2
次元の流れ
I: 境界のあるラプラス方程式の解法へ
の等角写像の応用
正則関数の実部、虚部は各々調和関数である。等角写像 w = u(x;y)+ iv(x;y)を用いて変数変換を行なうと、(x;y)空間のラプラス演算子は @ 2 @x 2 + @ 2 @y 2 = n @u @x 2 + @u @y 2 o @ 2 @u 2 + @ 2 @v 2 (2.25) と変換される。変換の比例係数は等角写像の拡大率 @u @x 2 + @u @y 2 =jw 0 (z)j 2 である。式(2.25)により、(x;y)空間のラプラス方程式は(u;v )空間のラプラ ス方程式に変換される。 @ 2 @x 2 + @ 2 @y 2 f(x;y)=0, @ 2 @u 2 + @ 2 @v 2 f(x(u;v);y(u;v))=0 : (2.26) 2次元非圧縮性流体の渦無しの流れを考えよう。このとき複素ポテンシャ ルf =8+i9 が定義されることはすでに見たとおりである。ここで正則関 数z = z(w)(w = w (z))を用いてz平面をw平面に写像する。複素ポテン シャルf(z(w )) = 8+i9 はwで微分可能であるからやはりwに関して正則 関数となり8,9はそれぞれu;v (w =u+iv)の調和関数となる。したがって w=u+iv平面においても8(u;v),9(u;v)をそれぞれ速度ポテンシャル、流 れの関数とする渦無しの流れの速度場が存在する。これが上で述べたことで ある。 定常的な流れでは流れの境界(入れ物)に沿って流れがあるから、z平面 での流れの境界はw平面での流れの境界に対応し9=一定である流線のひと つがその境界にならなくてはならない。ある物体の周りの流れの模様を知る ためには流れを一々解くまでもなく、別の物体の周りの流れを知っていれば、 その物体の境界を一方の物体の境界に写像する等角写像を求めれば充分であ る。このため2次元非圧縮性流体の渦無しの流れ( あるいは電磁気学)では 等角写像が重要になる。 半径aである円(円柱)の周りの流れを考えて見ることにしよう。流れの 中の閉曲線Cに沿って I(C)= I C v1ds = I C v s ds (2.27) がゼロでない時これを循環と呼ぶ。例えば流れの中に物体がおかれた場合に は物体の近くの流線が閉曲線を作り物体を回る流れができる。物体が円(柱)
図 2.7 ジューコフスキー変換. 図 2.8 円柱の周りの非圧縮性流体の渦無しの流れ(循環のない場合). の場合に循環がなければ円の上下で流れは対称であるが、循環がある場合に は円の上下で流れの速さが異なり圧力が働き揚力の原因となる。ここでは簡 単のため循環はないとする。6 w=z + a 2 z (2.28) という変換を考えてみよう。これをジューコフスキー変換という。z =ae i と するとw = 2acosとなるから、ジューコフスキー変換はz平面の半径a で ある円をw平面の長さ4aの平板に写像する(図2.7)。w平面上で厚みのない 6 円(柱)の回りの循環を表現するには対数関数が必要なのだが、まだ対数関数を定義し ていない。循環があって円から充分に離れると一様流になる場合、複素速度ポテンシャルは f =U(z+a 2 =z )+i(0=2 )logzと書くことができる。これについては第3章3.4で考える。
平板に平行な流れの場合(平板がない場合と同様であるから)、複素速度ポテ ンシャルは f =Uw (2.29) である。実際、w=u+ivとすると8(u;v)=Uu,9(u;v)=Uv であるから、 u方向の流れの速度はU,v方向の流れの速度は0であり、また流線はv =一 定という直線で表される。複素速度ポテンシャルfをzで表すと、 f =U(z+ a 2 z ) (2.30) となる。円から離れると(z !1)流れはf !Uzとなり一様流になる。ま た円柱表面(z =ae i )では f =2Uacos (2.31) すなわち 8=2Ucos ; 9=0 (2.32) であり確かに流線は円(柱)に沿っている。円に沿った流れの速度は v =( 1 r @8 @ ) r =a =02Usin (2.33) となる。流れの様子を図2.8に示す。 平板に斜めに当たる流れに対してはジューコフスキー変換を逆に用いれば よい。w平面で角度で円(柱)に当たる流れは f =U(e 0i w+ a 2 e i w ) (2.34) である。したがってz平面で長さ2aの平板に角度をもって当る流れは上の 式から z =w+ a 2 w によってz平面に移ればよい。 ジューコフスキー変換以外にも2次元流れに対しては等角写像がいろいろ と応用される。複素速度ポテンシャルが n
図 2.9 角=nをまわる渦無しの流れ. となる場合を考えてみよう。z=r e i としてf を実部と虚部に分ければ 8=Ar n cosn ; 9=Ar n sinn (2.36) であるから、9=0となる流線は =m=n(n =0;1;2;111)である。したがっ て上の速度ポテンシャルは角度m=nの物体をまわる流れである(図2.9)。
2.4
第
2章問題
問1. 公式2 1.∼4.を証明せよ。 問2.次のu(x;y)は調和関数であることを示し、uを実部とする正則関数を 求めよ。 (1)u=x 3 03xy 2 (2)u= 1 2 ln(x 2 +y 2 ) (3)u=e x cosy 問3. w(z)が正則関数であるとき、z = r e i ;w(z) = R e i2 と書くと、コー シー・リーマンの関係式は、 @R @r = R r @2 @ ; @R @ =0rR @2 @r と書けることを示せ。 問4. 写像w= 1=zにより、z平面の直線群x=a(一定)およびy =b(一 定)がw平面のどのような曲線群に写像されるか。それらの曲線群で等 角性を確かめよ。 問5. ジューコフスキー変換w = z+a 2 =zにより =一定(z =re i )の半直 線はどのような曲線に写像されるか。 問6. ジューコフスキー変換 =z+b 2 =zにより、r=一定(z=r e i )は、平 面の楕円に写像されることを示せ。これを用いて断面が楕円形の柱の周 りの2次元の流れを議論せよ。 問7. w=z+e z によりz平面の0 Imz がw平面全体に写像されていることを示せ。特にImz =6がImw =6 ;Rew 01に写像される