学び続ける職員の資質向上をめざす研修の検討
―保育者の経験年数別にみた研修希望調査―
A study of training program for childcare workers
-Training needs of participants by professional career-
小川 圭子・森口 由佳子
<要旨> 保育所保育指針には、「保育の計画」「保育の内容」「健康および安全」「子育て支援」を踏まえて、 施設長は質の高い教育・保育を運営するためのリーダーシップを発揮し、職員の研修内容や実施 体制について、社会的責任を果たさなければならないことが明記されており、幼児教育・保育に 携わる職員の研修は必須条件である。そこで、職員は日々保育実践していくなかで、どのような 研修項目を必要としているのか、さらに、経験年数別では、研修項目に違いがあるのかを検討す ることで、保育者に有効な研修プログラウムを作成するための基礎研究を行った。その結果、保 育者が希望している研修ニーズの上位は「発達障害のある子への対応」であり、3 分の 2 以上の 保育者が強く望んでいた。続いて、「子どもの病気への対応」、コミュニケーションスキルであっ た。日々の子どもへの対応スキルに関して悩んでいる保育者が数多くいることが明らかになった。 キーワード:研修 保育者 経験年数別 資質の向上 調査 Ⅰ.はじめに 最近、保育現場では社会の変化や保育ニーズの多様化とともに、配慮の必要な子ども、障害 のある子ども、病児・病後児、アレルギー対応、児童虐待、生活面・精神面など、いろいろな 対応や取り組みが求められている。多様な背景を支えるための保育の場における取り組みは複 雑かつ高度化し、さまざまな対応が求められる中で、養護と教育が一体となって子どもの育ち を支える実践や、多様な家庭に対する保育ソーシャルワーク、貧困等に対応するための福祉的 な視点による保育についての確保・向上が必要であると考える。 厚生労働省告示の『保育所保育指針』第5章に,職員の資質向上が記載されている。職員の資 質向上に関して取り組むよう努めなければならない基本的事項として,以下3項目が挙げられ ている。「①子どもの最善の利益を考慮し,人権に配慮した保育を行うためには,職員一人一人 の倫理観,人間性並びに保育所職員としての職務及び責任の理解と自覚が基盤となること。② 保育所全体の保育の質の向上を図るため,職員一人一人が,保育実践や研修などを通じて保育 の専門性などを高めるとともに,保育実践や保育の内容に関する職員の共通理解を図り,協働 性を高めていくこと。③職員同士の信頼関係とともに,職員と子ども及び職員と保護者との信 頼関係を形成していく中で,常に自己研鑽に努め,喜びや意欲を持って保育に当たることとさ れている。さらに、養護と教育を核として、「保育の計画」「保育の内容」「健康および安全」「子育て支 援」を踏まえて、施設長は質の高い教育・保育を運営するためのリーダーシップを発揮し、職 員の研修内容や実施体制について、社会的責任を果たさなければならないことが明記されてい る。 そのためには、「体系的な研修計画の作成」「組織内での研修成果の活用」等に取り組むことが できるようなプログラムの実施の必要性である。 無藤(2009)らが行った文部科学省委託事業の調査研究結果(対象園:認定こども園358園、 有効回答率68.4%)からは、全体として保育者の資質向上のために必要なこととして、保育者 同士が学び合う園の組織文化、管理職のリーダーシップ、園内研修の内容の充実などがあげら れていた。 このように多様な状況な中で保育者には、体系的な研修機会の充実と、組織的な実施体制の 整合性を図りながら、経験年数や役職別に知識及び技術を習得できるような、マネジメント機 能の強化を図っていくことが求められている。本研究では、保育者が実際にどのような研修を 望んでいるのかを検証する。 Ⅱ.研究目的 保育者の求める研修ニーズについて調査を行い、保育の場における経験年数別の研修構成の 一助とすることを目的とする。 Ⅲ.研究方法 (1)調査対象者 2014 年 1 月に予備調査をし、その後、大阪府茨木市 4 箇所、大阪市 1 箇所、計 5 箇所の保 育者に配布し、回収をした。94 名中 93 名(98%)が回答、回収率は 98%、有効回答率は 85 名(84%)であった。経験年数別は初任者 20 名、2 年から 5 年 22 名、6 年目から 10 年目 22 名、11 年以上は 21 名の計 85 名であった。 (2)手続き 5 箇所の保育所(認定こども園である。以下、保育所と記載する)に事前に電話でお願いを し、その後、郵送で依頼書ならびに調査用紙を送付した。保育所内の職員室にボックスを設置 して、保育者の空き時間に無記名投函をした。その際、回答方法の説明文を同封した。設置期 間は一週間とした。各保育所から一括で郵送にて返送していただいた。 (3)調査時期 2014 年 7 月~8 月であった。 (4)倫理的配慮 質問調査用紙の郵送時に倫理的配慮についての同意書を同封した。調査は無記名自己記入式 とし、回答用紙は、封筒に入れ封をすることを依頼した。結果について、全体的な傾向意を解 析するものであることを明記した。また、調査の依頼に当り、研究協力を得られる場合には、 所属長に署名および捺印をしてもらった。結果は郵送にて返信された。回収された調査のデー
タは、すべてID 化し、各施設名および個人が特定できないようにした。 (5)調査項目 アンケート項目は、財団法人全日本私立幼稚園幼児教育研究機構研究研修委員会(2008)保 育者としての資質の向上研修附瞰図,財団法人全日本私立幼稚園幼児教育研究機構(監),『研修 ハンドブック』,付録,世界文化社などの参考資料をもとに、著者らが項目を選定し、作成した。 予備調査の結果、回答しにくいと判断した項目などについては、質問内容を修正し、調査項目 を調整した。その結果、研修ニーズの質問項目は、コミュニケーションスキル、リラクゼーシ ョン、メンタルヘルス、職員の健康維持、伝染病への対処、施設の衛生管理、子どもの病気へ の対応、などの26 項目とした。 (6)分析方法 IBM SPSS Statistics 19.0J を用いて統計的に処理した。 Ⅳ.結果および考察 (1)保育者の研修ニーズ 回収率は、93 名(98%)であり、有効回答率は 85 名(84%)であった。表 1 に示したとおり、 本調査における保育者が希望している研修ニーズの上位は「発達障害のある子への対応」につ いては53 名(62.4%)であった。3 分の 2 以上の保育者が強く望んでいることが読み取れた。 続いて、「子どもの病気への対応」39 名(48.9%)、コミュニケーションスキル 33 名(38.8%) であった。日々の子どもへの対応スキルに関して悩んでいる保育者が数多くいることも分かっ た。 続いて、子どもへの健康の項目である「救急法(けが」23 名(27.1%)、「伝染病への対処」 19 名(22.4%)、「健康チェック(視診・触診)」15 名(17.6%)、と子どもの健康への対応が挙 がった。 次に、研修ニーズが低い項目の中には、「子どもの人権」13 名(15.3%)が含まれていた。 しかし、保育所保育指針第 1 章総則の1 保育所保育に関する基本原則 ⑴ 保育所の役割の 「ア. 児童福祉法(昭和 22 年法律第 164 号)第 39 条の規定に基づき、保育を必要とする子 どもの保育を行い、その健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設であり、入所 する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することに最もふさわしい生活の 場でなければならない」と明記されている。保育の現場で働く保育士が、保育を行ううえで重 要な「子どもを尊重する」ことや「子どもの人権擁護」についてあらためて意識を高め、自ら の保育を振り返る必要がある。自らが意識をせずに「子どもを置き去りにした保育」や「保育 者の都合ですすめる保育」、さらに、「一人ひとりの子どもの育ちや家庭環境を考慮しない関わ り」等を行っていないかの自己点検のためになど、より一層の保育者の質の向上を図る研修を 目指すのであれば研修ニーズは低いが、必要かつ重要な項目であると考える。 さらに、保育所は「ウ. 入所する子どもを保育するとともに、家庭や地域の様々な社会資源 との連携を図りながら、入所する子どもの保護者に対する支援及び地域の子育て家庭に対する 支援等を行う」と明記されている。養護と教育が一体となった保育について、論理的かつ具体
性をもって明示(言語化)し、その発信をもって、保護者や地域社会の保育に対する理解の深 まりを促進することが求められているが、研修のニーズは「小学校との連携」12名(14.1%)、 「医療機関との連携」8名(9.4%)と低かった。 一方で、家庭との連携については、「子育て支援」28 名(32.9)%、「食育(栄養管理)」28 名(32.9%)、「家庭への生活習慣指導」28 名(32.9)%は共に 3 分の 1 の保育者が家庭などと の連携について悩んでいることも分かった。直接、日々の保育にかかわる家庭の連携について 研修ニーズは高いが、「小学校との連携」「医療機関との連携」は、日々の保育には大きな影響 を及ぼすことが考えにくい項目は、ニーズは低いと考えられる。 (2)経験年数別の研修ニーズ 表2 より、「発達障害のある子どもへの対応」および、「子どもの病気への対応」については、 経験年数に関係なく、研修ニーズが高く1 位であった。 初任者グループ(22 名)の保育者の結果については、殆どの項目において他のグループより も研修ニーズに関する平均値が高く、研修の必要性を認識していると推測された。大学では知 識や技術を習得していると思っていたが、実際、目の前の子どもとどのように対応していくの か、また、保護者とはどのようにかかわっていくのかについては、どの項目も必要と感じてい た。この事は、保育者としての質の向上を目指してということで、意欲ある姿勢であると受け 止めることができる。しかし、2 位に「リラクゼーション」9 名(45%)が挙がり、3 位には「メ ンタルヘルス」8 名(40%)が挙がっていた。初任者は、頑張ろうとする意欲はあるが、しん どさを抱えて保育をしていることも分かった。しかし、「リラクゼーション」に関して、経験年 数が2 年以上の保育者の研修ニーズは、20%前後であり、他の研修項目ニーズと比較すると低 かった。経験のある保育者と経験の浅い保育者との精神的な負担の感じ方の違いがあることが 分かった。初任者に対する「心のケア」については、園全体で配慮して対処することが必要で あるといえよう。 次に、経験年数2 年から 5 年のグループ(22 名)の保育者の結果については、「発達障害の ある子どもへの対応」16 名(72.2%)、「子どもの病気への対応」15 名(68.2%)が上位であ る、「子育て支援」10 名(45.5)%が3位であった。すべての家庭が安心して子育てができ、 子どもたちが笑顔で成長していくために、平成27 年(2015 年)4 月から「子ども・子育て支 援新制度」がスタートしている。この制度では、子どもの年齢や親の就労状況などに応じた多 様な支援を用意し、必要とするすべての家庭が利用できるように支援の量の拡充を目指してい る。経験年数6 年以上のグループはさほど研修を希望していない研修項目であったが、経験の 浅い保育者グループは、これらの項目は研修ニーズの上位として回答されていたことから、経 験の浅い保育者にのしかかってきている項目であることが考えられた。 6 年から 10 年のグループ(22 名)の保育者の結果については、「発達障害のある子どもへの 対応」15 名(68.2%)、2 位に健康面である「子どもの病気への対応」「救急法(ケガ・人工呼 吸等)」「危機管理・危険予知」8 名(36.4%)であった。他の経験年数ではさほど必要とされて いなかったが項目であったが、子どもの心身の健康、安全・安心を守るのはどうしたよいのか。
特に犯罪から子どもを守るための術を習得したいという保育者がこの年齢では数多くいた。保 育の方法や内容が把握できるようになってくると、研修ニーズに違いが生じてきていた。 経験年数11 年以上グループ(21 名)の保育者の結果については、回答率の高い項目は、「発 達障害のある子どもへの対応」11 名(52.4%)、2 位が「家庭への生活習慣指導」8 名(38.1%)、 食育7 名(33.3%)であった。保育内容だけではなく、保護者支援を具体的にどのようにして いけばよいのかについて研修ニーズが高かった。 すべの保育者には、「発達障害のある子への対応」「子どもの病気への対応」を核として構成 し、初任者には知識や技術の他に保育者自身の精神衛生を保つための「リラクゼーション」「メ ンタルヘルス」の研修、2から5年は「子育て支援」の方法、6年から10年の保育者には、子ども が安全・安心で過ごすための方法、11年以上については、家庭との連携の方法ということが研 修ニーズであることが、今回の調査で明らかになった。 Ⅴ.まとめ 「保育者の資質の維持、向上」のためには保育者の経験年数に応じた研修を実施することが 求められているが、「発達障害のある子への対応」については、経験年数に関係なく、すべての 保育者が望んでいることも分かった。 質の高い保育を目指すためには、研修を体系化していくことが重要な課題であるといえる。 そのためには、研修意欲を高め、保育者が積極的に研修に取り組む研修体系を確立し、環境を つくる。また、外部研修で得た知識の根底にあるのは教育・保育を実践するのは何より現場の 保育者であるため、保育者は、自らの実践を客観的に振り返りながら、目標に向かって日々研 鑽に努めるはもとより、園長等の管理職は、保育者の努力や姿勢を認めつつ、園の体制をつく ることが求められるとしている。 秋田ら(2011)によると、特に運営に携わる設置者・園長などの教育歴が,高い質の保育を提 供しているかどうかを見極める指標になると報告している。子どもたちの成果に影響を与える のは保育者の資格そのものではなく,よりよい保育環境を作り出す保育者の能力であり,その 能力が成果の差を生むと指摘しているように,管理職の資質が園全体の資質にも少なからず関 係すると言える。 今後は、保育者のおかれている現状を踏まえた上で,保育者に求められる資質の向上にはど のようなものがあるのかを先行研究から明らかにし整理し、さらに考察を深めたうえで、保育 者に必要な研修内容と研修レベルを体系化(=保育者として身に付けるべき資質を獲得するた めのシステム)し、各園や地域の実情を考慮しつつ、階層ごとに求められる知識と技術を整理 し、その獲得のための具体的なカリキュラムを示していきたい。
文献 秋田喜代美・佐川早季子(2011)保育の質に関する縦断研究の展望,東京大学大学院教育学研究科紀要, 51,230. ベネッセ次世代育成研究所(2009)平成 21 年度文部科学省委託事業幼児教育の改善・充実調査研究認定 こども園における研修の実情と課題,https://berd.benesse.jp,最終閲覧日2020 年 4 月.文部科学省・ 厚生労働省・内閣府(2018)『幼稚園教育要領,保育所保育指針,幼保連携型認定こども園教育・保育 要領』,チャイルド本社. 厚生労働省(2018)『保育所保育指針解説書』,フレーベル館. 付記 本研究は、アジア子ども支援学会2019 年度研究大会(2019 年 8 月)において発表した報告をもとに加筆・ 修正を加えたものである。 あとがき 本研究は2 名の執筆者が共同して研究した成果であり,担当部分の抽出はできない。
表1 .保育者の研修ニーズ
希望者数 %
1 発達障害のある子への対応
53
62.4
2 子どもの病気への対応
39
45.9
3 コミュニケーションスキル
33
38.8
4 子育て支援
28
32.9
5 食育(栄養管理)
28
32.9
6 家庭への生活習慣指導
28
32.9
7 救急法(ケガ・人工呼吸等)
23
27.1
8 リラクゼーション
23
27.1
9 メンタルヘルス
22
25.9
10 子どもの虐待への対応
22
25.9
11 医療的ケアを要する子どもへの対応
20
23.5
12 危機管理・危険予知
20
23.5
13 保護者への健康・栄養指導
20
23.5
14 伝染病への対処
19
22.4
15 災害時の対応
18
21.2
16 健康チェック(視診・触診)
15
17.6
17 職員の健康維持
14
16.5
18 施設の衛生管理
14
16.5
19 安全指導
14
16.5
20 子どもへの健康教育
14
16.5
21 子どもの人権
13
15.3
22 子どもの疼痛
12
14.1
23 小学校との連携
12
14.1
24 医療機関との連携
8
9.4
25 薬品管理
7
8.2
26 その他
3
3.5
n
=85
質問項目(研修ニーズ)
表 2. 保育者 の経 験年数 別研修 ニーズ