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書評 島内 武 著『小さな101 物語 知っていたよ』

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Academic year: 2021

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書評

島内 武 著『小さな 101 物語 知っていたよ』

Review of “I knew 101 short stories” by Takeshi Shimauchi

矢野 正

Tadashi YANO

要旨(Abstract) 本書は,長年にわたって大阪市立の小学校で校長先生を勤められ,理科教育を専門とされている,島内武先生が 執筆した全 101 話にわたる短編物語である。島内武氏は,本文だけでなく,イラスト・絵・写真にもたいへん造詣 が深く,繊細なタッチで描かれてあり,細部にわたって優れたセンスをお持ちであって,このほど読者の心に響く 『小さな 101 物語 知っていたよ(東京図書出版)』を発表された。 ここには,心触れ合う物語,家族を思う物語,青春の物語,不思議な世界の物語,子どもの世界の物語,動物の 物語などなど,見開き1p ごとに原稿用紙一枚分(約 400 文字)の心温まる物語の世界を見事に花開かせ,広く世 に問うている。その中身は,先生の優しいお人柄がふんだんに滲む内容となっている。 また,先にも述べたように島内武氏は,理科教育がご専門であり,文科省の科研費補助金を受けて,幼児向きの 「むし図鑑」を開発中でもあられる。WEB 上で「むしあそび図鑑・島内武」で検索すると,ギャラリー「奈良女子 大学附属幼稚園園庭のむしあそび図鑑」がヒットする。何百という昆虫等を扱っており,これからも見直し,新た な知見を加えたり,表記等を改善していかれるそうであり,幼児教育や環境教育,理科教育に携わる先生方の参考 になれば,たいへん幸いである。 キーワード: 短編物語,虫図鑑,理科教育

Key words:Short stories, Insect illustrations, Science education

Ⅰ.はじめに 前書きには,このようにある。「原稿用紙 1 枚,ゆっくり朗読して 1 分。その原稿用紙 1 枚に込めた,小さくもささ やかな物語集である。物語の本筋に至る話や,物語のその後の話,行間の情景,登場人物の表情・思い,交わされる 会話などは,読者のみなさんに委ねたいと思います。それぞれの物語の外にある細部を,読者の皆さんに,想像・創 造していただければ大変うれしいことです。そして,この物語集の中の1つの物語でも,皆さんの心にぽつんと残る ものがあれば幸いです。」とある。 このように非常に謙虚かつ繊細な文章で構成されてあり,島内先生のお優しい人柄が表れているものになっている。 島内先生とは日本教育心理学会のシンポジウムで偶然に出会い,居住地も大阪府の茨木市でお近くであると分かり意 気投合し,さらに大阪教育大学の大先輩でもあったことから,その後も研究同志・仲間として,「保育と環境(嵯峨野 書院)」「改訂版 保育と環境(嵯峨野書院)」などでもお世話になり,常にご指導を仰ぎながら,現在に至っている。 Ⅱ.本書の内容 127

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本書の内容を,少しレビューしたい。すべての短編が原稿用紙 1 枚分,つまり見開き 2p で構成されており,短い物 語と繊細かつ丁寧なイラストのタッチで,全 101 編にわたって構成されている。したがって,小さな年齢の子どもで も読むことが可能である。幼稚園児や小学校の低学年などには,担任の先生が読み聞かせするのにも最適な分量とな っている。 収録されている題名(タイトル)を以下,列挙しておく。 「知っていたよ」「サツマイモ」「お花見」「撫で撫で」「おきらめることより」「小鳥のさえずり」「たぬき会議」「シ ョール」「ゴンスケ」「ぼくは強い子」「うどん屋で」「たんぽぽ」「トマトの歌」「知り合いということで」「手さぐり」 「月明かりの下で」「にらめっこ」「絵画窃盗犯」「口げんか」「天使」「矢切の渡し」「今は死ねない」「桃の実」「母の 心」「ひとみ先生」「家宝」「もしも」「保健室前で」「いらっしゃい!」「光るあんパン」「タロとミーヤ」「約束」「敗者 の家族」「タイムトラベラー」「泣き虫」「カボチャのサラダ」「ケヤキの下で」「ただいま」「海外旅行」「嘘じゃなかっ た」「鬼っこ岩」「喪主」「後悔」「笑い地蔵」「ラブレター」「雨の日」「不動明王」「ひまわり」「朗読」「もういいよ」 「横浜で」「黒ひげ先生」「笹飾り」「トゲトゲ」「幸せになるために出会う」「霊の話」「お父さんだけだったの」「ノン ブレム社」「はくちょう座アルビレオ」「写真に向かって」「裏と表」「ままこのしりぬぐい」「眠り地蔵さま」「人のふ り見て我がふり直せ」「定期演奏会」「友だちやもん」「虹」「子犬のクロ」「抹茶碗」「さくらんぼ」「図鑑と違う」「幽 霊」「星明りの動物園」「化粧」「将棋」「行ったらあかん」「別れ」「夢の中の夢」「結婚記念日」「極楽で」「つもり貯金」 「イチョウの葉」「自転車」「プレゼント」「水神様」「最期」「シンバル奏者」「今年こそ」「銀河の衝突」「神様のご利 益」「一枚の写真」「美術館警備員」「善さんの杖」「嫁ぐ日に」「先生の話」「父への手紙」「思い出のアルバム」「転校 のあいさつ」「雪に舞う」「卒業晴れ着」「風と小鳥の音楽会」である。 このように,題名(タイトル)を見るだけでも,とても興味が湧いてくるお話ばかりで,頭の下がる思いである。 「特別活動」の学級会活動のような HR の束の間の時間に,毎日1つお話を聞かせたり,特別の教科「道徳」で教材と して扱うにふさわしい題材としても,幼児・初等教育の分野でたいへん利用が可能だったりするのではないかと,教 育現場への示唆をふんだんに含んでいると考えられる。 なお1つだけ,最初のタイトルにもなっている「知っていたよ」を筆者なりに解釈してみたい。この「知っていた よ」では,子どもたちが,父が早く亡くなってからの,母の苦労をねぎらう「強さやたくましさ,そして優しさ」が, 色濃く綴られている物語である。「お母さん,懸命に私たちを今まで育ててくれてありがとう。私,二十歳だよ。」と 締めくくられ,ランドセルの挿絵がそっと添えられている。暖かな家庭生活や環境の情景が浮かんでくるものとなっ ている。 ほかにも 1 つ 1 つにコメントすることは割愛するが,どれも読者の心に響く内容ばかりであり,島内先生の歩んで こられた教育者としての愛情や情熱というものが凝縮されており,人生そのものの生き様が存分に伝わってくるもの ばかりである。 なお,昨年の京都での日展の彫刻作品のギャラリートークでは,日本芸術院会員の彫刻家の方が,作品解説の中で 「敗者の家族」を大勢の人々を前に読み上げられたそうである。 さらに交野市の方で,目の不自由な方々のためにボランティアグループが本書『小さな 101 物語』を朗読して,CD を制作されてもいる。大変素晴らしいご貢献であると考える。 Ⅲ.おわりに 128 矢 野  正

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以上,本書の内容を少しだけ紹介してきたが,島内武氏は,昭和 20 年生まれであられ,大阪教育大学で学ばれ,そ して大阪市立の小学校に長年ご勤務され,大阪市教育委員会指導主事,管理主事などを経て,3 つの小学校の校長先 生を歴任,それぞれに教育に尽力されてこられた。その後は,大阪成蹊短期大学教授(主に,理科教育),大阪教育大 学非常勤講師,私立桃の里幼稚園園長を歴任され,現在は,日本教育公務員弘済会公募の教育論文の全編審査委員で もあられる。また,大阪教育大学同窓会天遊会会長,大阪教育大学教員同窓会「天遊」会長など多くの役職・委員を 務めながら,教員の研修活動などにもさらに邁進されておられる。そんな中での本書であり,出版元での在庫がほぼ なくなりつつあるそうで,現在は続編に向けてこつこつと執筆活動を継続されていらっしゃる。令和 2 年 4 月現在, おおよそ 50 編ほどは仕上がっているとのことである。ただ,発行まではまだ遠い道のりであると,覚悟されていらっ しゃる様子をうかがうことができた。もともと 300 字で一作を考えられていたものの,やはり思いが伝えにくく 400 字で著すことになった。それでも,思い・心情・情景を伝えるのは難しいもので,それだけに1つ1つの言葉を吟味 され,まさに「俳句」をつくるようなイメージだそうである。 さて,書評の本題に戻ろう。短編の物語はどれもたいへん読みやすく,すべてにわたって繊細なタッチでイラスト も描かれており,特別の教科「道徳」などでもよく用いられる教材に適しているものと考えられる。この度,素晴ら しいご高著が世に送り出されたことに,心から敬意を表したいと思う。島内武先生のようなしっかりと前を向いた教 師としての姿を拝見するにつけ,巨匠の背中にぜひとも続いてみたいと,心新たにしているところである。 関連論文 「幼児期に虫と遊ぶことの教育的意義と保育教材開発:園庭のむしあそび図鑑の取り組みから」藤崎亜由子,島内武, 飯島貴子,麻生武,亀山秀郎,藤崎憲治, 昆虫と自然, 55(1),pp.28-32,2020 年 関連発表 「園庭に生息する身近な虫に対する保育者の認識」藤崎亜由子,麻生武,島内武,亀山秀郎,日本保育学会第 73 回大会 (於:奈良教育大学),2020 年 (書誌情報:東京図書出版,平成 28 年 11 月 29 日初版発行,A5 判, 全 208 頁,ハードカバー,税別 1,400 円,ISBN 978-4-86641-022-7) 129 書評 島内武著『小さな101物語 知っていたよ』

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