民法817条の7について : 特別養子縁組の成立要件
としての「要保護性」と「特別の必要性」
著者
田中 通裕
雑誌名
法と政治
巻
68
号
2
ページ
343(489)-377(523)
発行年
2017-08-30
URL
http://hdl.handle.net/10236/00026027
第Ⅰ章 はじめに 特別養子制度は, 昭和62 (1987) 年の民法の一部改正により新設され た。 民法典第4編第3章第2節に第5款 「特別養子」 (817条の2∼817条 の11) が追加され, それまでの養子縁組 (以下, 「普通養子縁組」 という) に並んで, 実方血族との親族関係が断絶する新たな縁組の形態が登場する こととなった。 特別養子縁組の成立要件は, この制度の理念・目的, 縁組成立後の効果 と関連して, 普通養子縁組のそれに比して厳格である。 民法は, 特別養子 縁組の成立要件として, 養親の夫婦共同縁組 (817条の3), 養親となる 者の年齢 (817条の4), 養子となる者の年齢 (817条の5), 父母の同意 (817条の6), 子の利益のための特別の必要性 (817条の7), 監護の状況 (817条の8) を規定している。 これらのなかでも, 解釈論上の問題点を 含み, 裁判例も比較的数多く公表されているのが, 「父母による養子とな る者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある」 (以下, 「前段要件」 という) 場合において, 「子の利益のために特に必要 がある」 (以下, 「後段要件」 という) と認めるときに, これを成立させる と規定する民法817条の7 (以下, 「本条」 と略す) の要件である。 本条 論 説
民法817条の7について
特別養子縁組の成立要件としての
「要保護性」 と 「特別の必要性」
田
中
通
裕
については, 一般には, 「前段要件」 において, 特別養子縁組の対象とな る子に 「要保護性」 があることが要求されるとともに (この前段要件は 「要保護要件」 と呼ばれることもある), 「後段要件」 では, 特別養子縁組 が子の利益のために特に必要であること, すなわち 「特別の必要性」 が要 求されていると説明される。 しかしながら, 本条には, 「監護が著しく困難又は不適当」, 「その他特 別の事情」, 「子の利益のために特に必要がある」 というような抽象的文言 が含まれており, その内容を明確に把握することは容易ではない。 また, 前段要件と後段要件との関連も定かではない。 本条は, まさに 「よくわか らない条文 (1) 」 なのである。 本稿は, 本条のもつ意義と問題点を明らかにすることを目的とする。 ま ずは, 特別養子制度の創設までの経緯 (Ⅱ章) を振り返った後に, 民法 817条の7の構造をめぐる学説の整理 (Ⅲ章) と裁判例の分析 (Ⅳ章) を 行い, 筆者の思うところを述べてみたい。 特別養子制度の創設から30年が経過した。 しかし, その申立件数は年々 減少し, 近年, 若干の増加傾向がみられるものの, 全体としてみれば創設 以来減少傾向にあるといえる (2) 。 特別養子制度は転機を迎え, 普通養子制度 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (1) 中川良延=寺戸由紀子 「特別養子制度実施1年をかえりみて」 新しい 家族16号38頁 [中川良延] (1990年)。 (2) 「司法統計年報」 によれば, 昭和63 (1988) 年における 「特別養子縁 組の成立及びその離縁に関する処分」 事件の新受件数は, 3201件であった ―制度創設当時においては, 「制度の新設を待ち望んでいて申立てに及ん だ事例や, 普通養子からの転換養子の事例が多数含まれていた」 (清水節 判例先例親族法Ⅱ (日本加除出版, 1995年) 461頁) と思われる―。 そ の後, 平成元 (1989) 年1287件, 同2 (1990) 年999件, 同3 (1991) 年 852件, 同4 (1992) 年700件と年々減少していった。 さらに, 平成10 (1998) 年から同16 (2004) 年までは400件台になり, その後, 同17 (2005) 年, 同18 (2006) 年, 同20 (2008) 年には300件台にまで落ち込んだ。 し
を含め養子法全体を再検討すべき時期が到来しているようにも思われる (3) 。 本稿における本条をめぐる議論の整理と分析が, 特別養子制度の今後のあ るべき姿を探るための議論, さらには今後の立法論にとって多少なりとも 意味をもてば幸いである。 第Ⅱ章 特別養子制度の創設までの経緯 (一) 実方との親族関係を断絶する新しい養子制度 (特別養子制度) を 導入すべきかどうかの検討は, すでに昭和30年代の初めに 「法制審議会 民法部会身分法小委員会」 によって行われた。 本小委員会の検討の結果は, 昭和34 (1959) 年に 「仮決定及び留保事項」 として公表されたが, 特別 養子に関しては, 「仮決定」 には至らず, 次のような 「留保事項」 にとど まった。 「第27 通常の養子のほかに, おおむね次のような内容の 特別養子 の制度を設けることの可否について, なお検討する。 (イ) 特別養子となるべき者は一定の年齢に達しない幼児に限る。 (ロ) 特別養子はすべての関係において養親の実子として取り扱うものと し, 戸籍上も実子として記載する。 (ハ) 養親の側からの離縁を認めない。 」 論 説 かし, 平成21 (2009) 年には400件台に回復し, その後も, 同24 (2012) 年508件, 同25 (2013) 年596件, 同26 (2014) 年625件と増加傾向がみら れる。 (3) 養子法改正へ向けた最近の議論については, 中田裕康編 家族法改正 (有斐閣, 2010年) 参照。 また, 養子縁組あっせん法制定への動きもみら れる。 この点については, 奥田=高倉=遠山=鈴木=野田 養子縁組あっ せん (日本加除出版, 2012年) 参照。
(二) その後, 特別養子制度をめぐる議論はいったん下火になったが, やがて昭和48 (1973) 年のいわゆる 「実子あっせん事件」 を契機として, 改めて特別養子制度の立法化の議論が活発化することになった。 昭和57 年 (1982年) に, 「法制審議会民法部会身分法小委員会」 は, 養子制度の 全面見直しのための検討を開始する (4) 。 そして, 昭和60 (1985) 年11月に は, その審議結果の大綱を取りまとめた 「養子制度の改正に関する中間試 案」 が公表され, 各界からの意見が求められた。 さらにその後, 養子制度 の大幅な改正をその主な内容とする 「民法等の一部を改正する法律案」 が 作成され, 国会に提出された。 衆議院においては昭和62 (1987) 年8月27 日に, 参議院においては同年9月18日に, いずれも全会一致で可決され, 翌63 (1988) 年1月1日から施行されることになった。 ここに, 特別養 子制度が創設されることになったのである (5) 。 (三) 上の 「中間試案」 においては, その第一 (「特別養子制度の新設 について」) の二 (「特別養子の要件」) の2に 「要保護要件」 という項目 がみられ, そこでは, 「制限をせず, 家庭裁判所の判断に委ねるものとす る」 とされていた。 これは, 「特別養子を父母による監護養育を受けられ ない要保護児童に限定する必要はないとするもの」 であり, 多数意見に従っ たと説明される。 これには, 「特別養子は, 父母による監護養育が不能又 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (4) 養子制度の見直しの背景には, ①わが国の養子制度に存在する問題点 (成年養子や夫婦養子など), ②社会情勢の変化 (子どもの数の減少, 養子 についての考え方の変化), ③諸外国の立法動向などがあったことが指摘 される。 中川高男 第二の自然―特別養子の光芒 (一粒社, 1986年) 2 頁, 加藤一郎 「養子制度の改正問題と外国法」 ジュリ782号14頁 (1983年)。 (5) 永井紀昭 「我が国における特別養子論の変遷」 細川清=海老原良宗編 家族法と戸籍―その現在及び将来― (テイハン, 1986年) 177頁以下は, 「中間試案」 までの特別養子をめぐる議論を整理・概観する。
は著しく困難である者に限るものとする」 という 「別案」 があり, この別 案は 「特別養子の年齢要件を緩和するが, 要保護児童に限定するという意 見によったものである (6) 」 と説明されている (7) 。 なお, 「年齢要件」 について は, 「中間試案」 では, 特別養子は縁組の申立て当時, 「6歳未満の者に限 る」 (ただし, 6歳に達する前から養親となる者により継続して監護養育 を受けていた者については, 6歳に達した後もなお一定の期間内は縁組の 申立てをすることができる) とされていたが, 「12歳未満の者に限る」 と する 「別案」 もあった。 その後の議論によって, 結局は, 「中間試案」 における 「要保護要件」 についての 「別案」 に基づいて現行民法817条の7が成立することになる (文言は若干異なる)。 しかし, 多数意見でなかったこの 「別案」 が採用さ れることになった (また, この 「別案」 は年齢要件を緩和する前提として 提案されたようにも思えるが, 年齢要件は緩和されなかった) 理由・経緯, ないしはその間の議論状況は必ずしも明らかではない。 (四) (1) この点について, 石川稔教授は, 次のように記述している。 論 説 (6) 「養子制度の改正に関する中間試案示さる」 戸時333号13頁 (1985年)。 (7) 「中間試案」 に至る前には, 幾つかの試案 (私案) が提示されていた。 たとえば, 中川高男教授は, 自らの 「新特別養子法私案」 において, 特別 養子となる子を 「15歳未満の子に限る」 とした上で, 「捨て子, みなしご, 嫡出でない子, 人工授精子など」 に制限する必要はないとする (中川・前 掲注(4)220頁)。 これに対し, 米倉明教授は, 特別養子を 「未成年者であっ て, 棄児, 孤児, 非嫡出子のいずれかであり, かつ, 自己との間に親族関 係のない者を養親とする者」 とする (米倉明 「特別養子制度についての覚 書」 ケ研198号12頁 (1983年))。 米倉教授は, その後の論稿では, 特別養 子の対象となる子を12歳未満に限定する (「特別養子と戸籍」 戸籍500号9 頁 (1985年))。
「普通養子に関する未成年養子縁組許可との違いを明らかにしておかな いと, 審判の統一性が保てないおそれがあるという意見や, 児童相談所は 要保護児童を扱うことになっており, 児童相談所が養子縁組の斡旋をする 場合には, 要保護性を必要とするという意見が出され, 要保護要件を規定 すべきかどうか, 規定するとしてもどの程度に規定すべきかについて, 特 別養子のイメージともかかわり, 相当議論された。 実は, 本条の要保護要 件をどの程度に規定するかは, 主に連れ子養子をどの程度に認めるかをめ ぐって論議されたのである。 連れ子養子を特別養子とすることを容易にす ると, 事件数が増え, かつ離婚した非監護親の同意を必要とすることから, 離婚紛争が蒸しかえされるおそれがあるという裁判所側の意見もあって, 最終的には要保護性をかなり強く打ち出す形で決着をみた (8) 」。 (2) また, 最高裁判所事務総局家庭局は, 「要保護要件」 が設けられ ることになったのは, 次の4つの理由からであることを指摘する。 「①縁組の成立により実親子関係が断絶するという強力な効果を伴う制 度であり, 特に, 養子となる者の年齢が原則として6歳未満であることか ら, 子の意思と無関係に身分関係が変動するという点が考慮されたためで ある。 すなわち, このような形で親子関係を断絶させるにはそれだけの理 由がある場合に限るべきであり, 実父母に相当な監護が期待できる場合は, 子も実父母に監護されるのが基本的に望ましいから, 結局, 断絶を認める のは実父母による監護が困難又は不適当な場合に限るのが相当である。 ② 普通養子との区別を明確にするというような配慮がある。 ③連れ子養子に 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (8) 石川稔 「改正養子法 (案) の解説 (上) ―特別養子制度の概要」 法学 教室81号86頁 (1987年)。 島津一郎=久貴忠彦 新・判例コンメンタール 民法12 (三省堂, 1992年) 393頁 [中川高男] も参照。
関する配慮がある。 ④児童相談所の関与を基礎づけるということがある (9) 。」 (3) さらには, 細川清氏 [当時の立案作業の担当者 (担当参事官)] は, 要保護要件が必要とされた理由について, 以下のように解説する。 ① 「本条前段は, 父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不 適当であることその他特別の事情がある場合 であることを特別養子縁組 の成立要件としている。 これは, 特別養子縁組の特有の効果, 特に実親子 関係の断絶の効果に相応しい事情がある場合に特別養子縁組の成立を限定 する趣旨であり, 子に一定の要保護性が有ることを成立要件としたもので ある。 即ち, 実父母が子を適切に監護することができるときは, 子の養育 をこれに委ねることが, 自然であり, 子の利益に合致する。 従って, 特別 養子縁組により従前の親子関係を断絶するには, これを必要とする特別の 事情がなければならない。 本条前段は, 右の趣旨を明らかにするとともに, 親子関係の断絶を必要とする事情を具体的に規定したのである (10) 。」 ② 「配偶者の連れ子につき特別養子縁組を無制限に認めることは, 問題 が大である。 何故なら, 改正前の未成年者を対象とする養子縁組の実状を 見ると, その約七五パーセントが配偶者の子を養子とするものであるが, このように多数の連れ子養子縁組がされるのは, 婚姻により配偶者の連れ 子と同居することとなるので, 婚姻に付随して安易に縁組がされること, 連れ子のある婚姻の相手方の愛情を繋ぎとめるために縁組がされること等 論 説 (9) 最高裁判所事務総局家庭局 「昭和62年度 高等裁判所管内別家事事件 担当裁判官合同概要」 家月40巻7号44頁 (1988年) 参照。 (10) 細川清 改正養子法の解説―昭和62年民法等一部改正法の解説― (法曹会, 1993年) 98頁。
の動機があるからである。 このような実状に鑑みると, 無制限に配偶者の 連れ子との特別養子縁組を許容することとすると, 子の利益よりも夫婦の 利益を重視した縁組が多数申し立てられるおそれがあり, 実務的に対応が 困難になる。 また, 普通養子縁組であれば, 右のような動機による縁組で あっても, 離婚の際には容易に協議離縁をすることができるので不都合が 生じないが, 特別養子縁組においては実親と養親が離婚しても離縁をする ことができないので, 後に紛争が生じるおそれがある。 さらに, 離婚の後, 子を連れて再婚した場合には, 特別養子縁組につき親権者でない実親につ いても同意が必要であることから, 離婚時の子を巡る紛争が再燃するおそ れがある (11) 。」 第Ⅲ章 民法817条の7の構造をめぐる学説の整理 (一) 民法817条の7によれば, 特別養子縁組が成立するためには, 「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその 他特別の事情がある」 こと (前段要件=要保護要件), および 「子の利益 のために特に必要がある」 こと (後段要件) が要求されている。 後段要件 については, 「中間試案」 では, 「要保護要件」 とは別の項目, すなわち, その第一 (「特別養子制度の新設について」) の四 (「特別養子縁組の方式・ 手続」) の6 (「審判の判断基準」) において, 「家庭裁判所は, 特別養子と なる者の利益のため特に必要があると認めるときは, 縁組の審判をするも のとする」 とされていたものが, 民法817条の7の成立時に 「要保護要件」 と合体されることになったと考えられる。 まず, 明らかにする必要があるのは, この 「前段要件」 と 「後段要件」 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (11) 細川・前掲注(10)104頁。
がどのような関係にあるのかである。 細川清氏の解説によれば, この点に ついては, 次のように考えられている。 「 子の利益のため特に必要がある とは, 児童の健全な育成ないしそ の福祉の向上のために特に必要があるとの趣旨である。 この要件が満たさ れるには, 養親との間に新たに実親子関係と同様の強固な親子関係が設定 されることにより, 養子となる者の監護, 養育の状況が将来にわたり永続 的に確実に向上することがあきらかであること, 及び実方の父母との間の 親子関係の終了が養子となる者の利益となることを要する。」 「 父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であること その他特別の事情がある場合 との要件は, 実方の父母との親子関係の終 了が子の利益に合致する場合をより具体化したものである。 父母による監 護が著しく困難である場合とは, 実方の父母に養子となる者の監護, 養育 の意思があっても, 貧困, 正常な家庭がないこと等により, 客観的にみて 子の適切な監護が期待できないことを意味し, 父母による監護が著しく不 適当とは, 実方の父母が一応養子となる者を監護しているが, 子を虐待し, あるいは通常子の養育に必要な措置をほとんど採っていない等子の監護方 法が適切を欠く程度が高いことを意味する。 その他特別の事情とは, 右に 準ずる事情がある場合をいう。 具体的にどのような場合がこれに該当する かは, 実親子関係の終了が子の福祉に合致するかどうかを基準にして判断 すべきこととなる (12) 。」 この見解では, 「前段要件」 と 「後段要件」 の関係は次のようにとらえ 論 説 (12) 細川清 「養子法の改正―民法及び家事審判法の改正の解説―」 法務省 民事局内法務研究会編 改正養子法と戸籍実務 (テイハン, 1987年) 55 頁。
られている。 「後段要件」 が要求するのは, () 強固な親子関係が設定さ れることにより監護・養育状況が確実に向上すること, () 親子関係の 終了が子の利益となることであり, 「前段要件」 は 「後段要件」 () を 「具体化」 したものである。 したがって, 「後段要件」 は 「前段要件」 と多 くの部分で重複することになり, 実際には, 「前段要件」 を充たせば, ほ とんどのケースで 「後段要件」 も充たされることになろう。 この立場では, 本条の要件は, 基本的には 「後段要件」, すなわち 「子の利益のため特に 必要がある」 ことのみであるともいえよう。 その他, 学説を概観すると, 「要保護要件の存在とその養親の特別養子 とすることが, その子の利益のために特に必要であるとの二つの要件が充 足されなければならない (13) 」, 「前段で子が要保護状態にあることを必要とし ており, さらに, 後段で特別養子縁組が子の利益のために特に必要なもの でなければならないとしている。 二段の要件が設定されており……」, 「子 の要保護性の存在と特別養子縁組が積極的な子の福祉 (利益) の促進にな るという二つの要件が満たされなければ, 特別養子縁組の成立にはつなが らない (14) 」 など, 「前段要件」 と 「後段要件」 の二つの要件が必要とされる ことは説明されるが, 両者の関係は必ずしも明確にはされていない。 もっ とも, そのそれぞれについては, 学説によって次のように説明されている。 「前段要件」 (要保護要件) が 「主として子と父母との間に存する事情 に関するもの」 であるのに対し, 「後段要件」 は 「特別養子縁組の成立が 子に及ぼす影響を問題とする (15) 」 ものである, ないしは 「後段要件」 は 「主 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (13) 島津=久貴・前掲注(8)393頁 [中川高男]。 (14) 能見善久=加藤新太郎 論点体系 判例民法9 親族 (第一法規, 2009年) 341頁 [鈴木博人]。 (15) 中川善之助=山畠正男編 新版 注釈民法 (24) (有斐閣, 1994年)
として養親側の事情および養親と養子となる子の適合性 (マッチング) を 意味する (16) 」 ものである。 また, 「両者の区別にこだわる必要もないのであ ろう」 としながら, 「前段は子の養育監護の環境改善の必要性を指し, そ の実現の手段としての実父母との断絶の必要性は後段の要件を構成するも のと考える」, 「その際, 一般論としては, 特別養子縁組による監護状況の 改善の程度とともに, 実父母に対する養育援護や普通養子縁組では保護を 充足できないということの判断も必要であろう (17) 」 ととらえる見解もみられ る。 (二) 「前段要件」 は, 「父母による養子となる者の監護が著しく困難又 は不適当であること」 に続けて, 「その他特別の事情がある場合において」 と規定するが, 「その他特別の事情がある場合」 とはどのような場合をい うのであろうか。 この点について基本的には, 次の二つの見解が存在する。 前者 [(A) 説] が, 「その他特別の事情」 を 「監護が著しく困難又は不適 当」 に 「準ずる」 要保護要件であるとするのに対して, 後者 [(B) 説] はそれに準ずるものには限定されないとする。 (A) 説 「これは前段の 監護が著しく困難又は不適当 には必ずしも 入らないが, それと同等もしくはそれに準ずる要保護要件があって, 親子 関係の断絶を伴う特別養子縁組の立法趣旨に適合する場合をいうと解する。 すなわち, この後段も要保護要件であって, 養親側の事情たとえば氏や祭 論 説 624頁 [大森政輔]。 両要件に上述したような関連性を認める細川説も, 後 段要件は 「本条前段が子と実方の父母との関係に着目した要件であるのに 対して, 主として養親との縁組が子に与える影響に着目して定められた要 件である」 と解説する。 前掲注(10)105頁。 (16) 島津=久貴・前掲注(8)394頁 [中川高男]。 (17) 床谷文雄 「判批」 判タ949号79頁 (1997年)。
祀や家業の承継の必要といった事情はこれに入ら」 ない (18) 。 (B) 説 「 監護の著しい困難又は不適当 は, 特別養子縁組を成立さ せ, 父母およびその血族との間の親族関係を原則として終了させることが 相当である 特別の事情 の例示であり, 特別の事情はこれにとどまらな い。 その他の 特別の事情 とは, 父母による監護の著しい困難又は不 適当 に 準ずる との法文上の限定はないから, これにとどまらず, そ れ以外の事情であって, 特別養子縁組を成立させ, 父母およびその血族と の間の親族関係を原則として終了させることが子の利益のために相当であ ると考えられる事情である (19) 。」 この点が具体的に問題となる主な事例は, 配偶者の連れ子との特別養子 縁組 (「連れ子」 養子) のケースである。 民法が 「連れ子」 養子の可能性 を否定していないことは, 817条の3第2項, 817条の9ただし書から明 らかである。 しかし, 「連れ子」 養子の場合には, 父母の一方が引き続き 監護養育を行うことになるから, 父母による 「監護が著しく困難又は不適 当」 であるとはいえないことになる。 しかしながら, 上掲の (B) 説ではこの点につき, 上述した見解を踏ま え, 連れ子の場合でも, 「法律上実親と全く同様の立場に立って共同して 養育に当たることの方が一般的には望ましいと考えられる。 そこで, 配偶 者の連れ子を特別養子とすることは, 特にそれに反する事情のない限り, 特別養子縁組を成立させるべき 特別の事情 がある場合に該当すると解 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (18) 島津=久貴・前掲注(8)394頁 [中川高男]。 細川・前掲注(12)55頁も, その他特別の事情がある場合を, 監護が著しく困難又は不適当な場合に準 ずる事情がある場合としている。 (19) 中川=山畠・前掲注(15)621頁 [大森政輔]。
される (20) 」 とする。 もっとも, この立場でも, 養親と実親が離婚する場合に 問題が生ずるため (21) , 夫婦の安定性をより慎重に考慮すべきであることを強 調する。 その上で, 「連れ子の特別養子が相当とされる場合を典型的に示 せば, 非嫡出子である連れ子をその親及びその配偶者が共同で特別養子 とする場合 または 嫡出子である連れ子を実親の配偶者が特別養子とす る場合であって, 夫婦の絆が強く夫婦関係が安定しており, 破綻の具体的 虞れがないと認められるとき (22) 」 であるとする。 一方, 上掲の (A) 説では, 「連れ子」 養子の場合には, 「 監護が著し く困難又は不適当 な場合は少ないであろうから, この要件が歯止めになっ て認められない (23) 」 ことになる。 しかし, (A) 説でも, それだけの理由で 絶対に無理ではなく, この場合でも特別養子にしたほうが適切な場合があ るとされる。 そして, その例として, 子が夫婦の一方の嫡出子であるケー スについては, 実父母の一方が 「子の利益を害するような具体的行為をし ている場合, その者が親としての義務を著しく怠っている場合 (24) 」 が挙げら れる。 また, 非嫡出子のケースについては, 「特別養子縁組によって子の 利益が向上することが明らかであるから」, 「特に生父から認知されていな い子を連れて婚姻した母とその夫が特別養子とする場合には」, 原則とし て 「特別の事情」 があると解して差し支えがないとされている (25) 。 論 説 (20) 中川=山畠・前掲注(15)622頁 [大森政輔]。 (21) Ⅱ章(四)(3)②参照。 このような見解には反論もみられる [中川=山 畠・前掲注(15)622頁 [大森政輔], 山本正憲 「判批」 民商104巻1号146頁 (1991年) など]。 (22) 中川=山畠・前掲注(15)622頁 [大森政輔]。 (23) 島津=久貴・前掲注(8)397頁 [中川高男]。 (24) 細川・前掲注(12)102頁。 島津=久貴・前掲注(8)398頁 [中川高男] は, 「実親の不当な干渉や妨害あるいは実親が危害を加えたり, 金銭を強 要する」 場合を挙げる。 (25) 細川・前掲注(12)102頁。
この (A) 説と (B) 説の違いは, 前者の立場では原則として 「特別の 事情」 の存在が否定されるが, 例外的にその存在が肯定されるのに対し, 後者の立場ではそれが原則として肯定され, 例外的には否定されるところ にある。 しかし, 非嫡出子 (とくに未認知の非嫡出子) の場合には, いず れの立場でも 「特別の事情」 の存在が肯定されることになる。 実際に差異 が現れるのは, 嫡出子の場合であり, 実父母の一方に上述のような一定の 行為 (または不作為) があることを要求する (A) 説からは, (B) 説の ように 「夫婦の絆が強く夫婦関係が安定しており, 破綻の具体的虞れがな いと認められるとき」 に特別養子縁組の成立を認めてよいとする見解は, 「立法論としては傾聴に値するが, 改正法の解釈としては採ることができ ない」 との批判 (26) を受けることになる。 第Ⅳ章 裁判例の分析 (一) 次に, 民法817条の7の要件が問題となる裁判例を分析の対象とす る。 特別養子縁組の形態は, 「連れ子養子型」, すでに普通養子としている 子をその養親が特別養子に転換する, いわゆる 「転換養子型」, (上の2つ の形態も, 広い意味では親族を養子にするものではあるが, それ以外の) 親族を特別養子とする 「親族養子型」, さらにはそれらのいずれにも属し ない形態 (以下, 「純粋型」 という) に分類される (最近では, 人工生殖 によって出生した子の特別養子縁組をめぐる問題も生起している)。 本稿では, 「純粋型」, 「連れ子養子型」 (「連れ子養子型」 かつ 「転換養 子型」 ―以下, 「連れ子・転換型」 という―のケースも含む) および 「親 族養子型, その他の形態」 の各々をこの順序で検討する (27) 。 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (26) 細川・前掲注(12)102頁。 (27) 本稿ではその対象から除外した 「転換養子型」 は, 基本的には本条の 要件を充足せず, 特別養子縁組は否定されよう。 しかし, 特別養子制度の
(二) 「純粋型」 (1) この類型の公表裁判例は極めて少ない。 (渉外特別養子を別にす れば) 次の①②がそれに該当する (いずれも肯定例)。 ①札幌家審昭63・ 3・18家月40・7・185は, 次のような事例である。 事件本人である子は棄 児 (母は出産の2日後に病院に無断で出奔し行方をくらます―父親が誰で あるかも全く知れていない) であり, 父母が不明であるので, 「父母によ る監護が全く不可能」 であるとされ, 「このような状態におかれている事 件本人の利益のため, 即ちその健全な育成と福祉の向上を図るためには」, 申立人と事件本人との間に 「実親子関係と同様の強固な親子関係を設定す ることによって, 同人に安定した家庭と身分を保証することが特に必要で あると判断」 する [父母が不明であるので父母の同意は不要とする]。 ま た, ②福岡高決平 3・12・27家月45・6・62は, 「実母Yは, 前夫と離婚し, 前夫との間の2子B・Cを養育していたが, 妻子あるDとの間に事件本人 Aを出産した。 Dは認知を拒絶した。 YはAを児童相談所を通じて里子に 出すことを希望し, 乳児院に預けた。 Yは前夫の連帯保証人となっていた ため借金取りに困り, 姉を頼ってCを伴って転居し, 姉の夫の会社に勤め させてもらっているが, 仕事が不規則でCは姉に面倒をみてもらっている」 といった事案で, 「実母であるYによるAの監護は著しく困難であって養 子となるAには要保護性があり, 養親となる X1X2にその適格に欠けると 論 説 施行前に普通養子がなされた場合には, 普通養子縁組の当時, 特別養子を 相当とする事情があったとしてもそれを選択できなかったのであるから配 慮を要するとの観点から, 転換を可能とする余地が生じた。 裁判例にも, 転換を認めるものが散見される (例えば, 東京家八王子支審昭63・8・12 家月41・3・177は, 「普通養子縁組時及び成立審判時のいずれの時点にお いても要保護性が認められる」 として転換の申立てを認容する。 横浜家審 昭63・3・11家月40・7・181, 名古屋高決平元・10・17家月42・2・181な ども認容事例である)。
ころはなく, また, 養親となる X1X2と養子となるべきAとの適合性につ いても格別の問題はない」 として特別養子縁組を成立させるのが相当とす る (28) 。 (2) 裁判例①が本条 「前段要件」 を充たすことは間違いないし, ②に ついても肯定されよう。 しかし, 実際には限界事例も少なくないであろう。 この点をめぐっては, 家事事件担当裁判官による (法施行前の) 議論が興 味深い。 ここでは, 裁判官が本条の要件を充足するか否かの判断に迷う, 微妙なケースとして, () 「未婚の母から出生した子の場合」, () 「実 父母には既に多数の子があり, 養子となる者を養育するには経済的に困難 である場合」, () 「親が凶悪な犯罪を犯したため, これによる悪影響か ら子を守るために特別養子にしたい場合」, () 「強姦によって生まれた 子の場合」, () 「実父母による監護と相対的に比較して, 養親によって 与えられる監護養育環境が格段に優れている場合」 などが挙げられ, 検討 がなされている (29) 。 () については, 家裁の裁判官の見解は分かれるが, 最高裁家庭局は, 「未婚の母から出生し, 父が認知していないという一事」 だけでは本条の 要件を充たさない, 「母親の職業, 収入, 家庭構成, 父親による認知, 養 育料支払いの可能性, 母の婚姻の可能性等の状況を総合的に, 親子関係を 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (28) 本決定は, 民法817条の6ただし書後段に該当するとして, (同意を撤 回した) 実母の同意なく特別養子縁組を成立させた初めてのケースとして の意義をももつ。 (29) 特別養子制度の新設を含む改正法の施行前の昭和62 (1987) 年11月お よび12月に, 全国の家事事件担当裁判官によってなされた 「特別養子縁組 の成立審判の要件及び効果をめぐる問題点」 などについての協議には, 想 定される種々の事例についての議論がみられる。 本稿に掲げた () ∼ () の事例は, そこで議論の対象となった設例である。 詳しくは, 最高 裁判所事務総局家庭局 「昭和62年度 高等裁判所管内別家事事件担当裁判 官合同概要」 家月40巻7号1頁 (1988年) 参照。
断絶させるのが適用であるかどうかを判断することになろう (30) 」 などと述べ る。 () 以下についても, 家裁の裁判官の見解は分かれるが, 最高裁家 庭局は, 「子どもが大勢いる」, 「父が犯罪者である」, 「強姦によって生ま れた」 といった事情のみで要保護要件を肯定することができないとしなが らも, 「経済的困難の程度によっては」 (), 「長期の受刑で監護養育でき ないような場合は」 (), 「自分の子として愛情が持てず放置していると いうような事情が付け加わってくるとすれば」 (), 要保護要件に該当す ることがあるとする (31) 。 () に関しては, 最高裁家庭局によれば, 「実父母 と養父母の監護能力等の事情を相対的に比較し, 後者が前者を格段に上回っ ていれば, 特別養子縁組の成立を認めるという立場は, 突き詰めれば要保 護要件を不要とする考え方にも連なるものであり, 特別養子制度の基本理 念と相いれない (32) 」 ことになる (33) 。 (3) 「純粋型」 では, 本条の要件である 「前段要件」 および 「後段要 件」 の該当性の判断においては, とくに前者の判断に重点が置かれること になるように思われる。 父母による 「監護が著しく困難又は不適当」 であ り, 「前段要件」 が充たされるということになれば, 原則として 「後段要 件」 も充たされることになろう。 公表裁判例でも, 「前段要件」 と 「後段 要件」 は明確に区別され判断されてはいるが, 「後段要件」 については, 論 説 (30) 最高裁判所事務総局家庭局・前掲注(29)68頁。 (31) () については, 最高裁判所事務総局家庭局・前掲注(29)46頁, 59 頁, () については, 同72頁, () については, 同60頁。 (32) 最高裁判所事務総局家庭局・前掲注(29)56頁。 (33) 学説には, 本条の 「監護が著しく困難又は不適当」 な例として, 「父 母の双方または一方の生死不分明・死亡, 懐胎・出生の事情 (未婚・非婚・ 離別・離婚, 強姦, 不貞, 捨て子), 父母の養育意思の欠如, 経済的困窮, 精神的・肉体的・性的虐待, 放置, 服役, 不治の病, 悪疾の伝染病, 身体 的欠陥, アル中, 覚せい剤常用, 環境劣悪等」 を挙げるものがある。 島津 =久貴・前掲注(8)394頁 [中川高男]。
養親と養子となる子の 「適合性」 (裁判例②) や 「養子に安定した家庭と 身分を保証すること」 (裁判例①) が「子の利益のために特に必要である」 ことの根拠とされているにすぎない。 (三) 「連れ子養子型」 (1) 「連れ子養子型」 も, 「連れ子・転換型」 を除けば, 公表された裁 判例は少ない。 この類型の否定例としては, ③徳島家平元・11・17家月 42・5・92, 認容例としては, ④東京高決平 8・11・20家月49・5・78があ る。 母の再婚相手との特別養子縁組の事案である裁判例③は, 実父は 「子 の養育に無関心であってこれを母1人に押しつけ, 現在は行方不明の状態 に」 あるが, 「子の養育に対し悪らつな干渉や妨害をすることもないので ある」 から本条の要件を充足しないとして, 申立てを却下する。 これに対 して, 裁判例④は, 申立人夫婦の一方の非嫡出子に関する特別養子縁組の 事案 (実母A女はB男およびC男と同時期に肉体関係をもったが, Cと婚 姻し, 子はCの嫡出子と推定された。 しかし, 血液検査の結果, Bの子と 判明し, Cが嫡出否認の訴えを提起し認容判決が確定。 その後, Bが認知 したが, やがてBは死亡した。 AC夫婦が特別養子縁組を申し立てた) に つき, 「民法817条の7にいう特別の事情とは, 特別養子縁組を成立させ, 父母らとの親族関係を原則として終了させることが子の利益のために特に 必要とされる事情をいい, 父母による監護が著しく困難又は不適当な場合 やこれに準ずる場合に限られない」 とした上, 「特異な出生の状況とその 前後におけるCらの行動」 を子が知ることは 「その健全育成にとって有害 であり」, 「その事実を秘匿すべきであって」, そのためにBとの親子関係 を断絶することが必要であると判断して, 「特別の事情」 を認め, 原審判 を取り消して申立てを認容している。 (2) 「連れ子・転換型」 については, 裁判例は比較的多くみられる。 こ 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て
の類型の否定例としては, ⑤名古屋高決昭63・12・9 家月41・1・121, ⑥ 大阪高決昭63・11・10家月41・3・172, ⑦大阪高決昭63・11・18家月41・ 3・174, ⑧名古屋家審平元・8・23家月42・5・29がある。 これらは妻の 嫡出子 (⑦のみ非嫡出子―実父による認知あり) を普通養子としている夫 との特別養子縁組の事案であり, いずれの裁判例も, 子は養父と実母のも とで健全に育成されているのであり要保護要件が認められないとして, 特 別養子縁組の成立を拒否している。 これに対して, 肯定例としては, ⑨宮崎家審平 2・11・30家月43・10・ 35, ⑩名古屋高決平15・11・14家月56・5・143の二つがみられる。 裁判 例⑨は, 妻の非嫡出子 (実父の認知なし) を普通養子としている夫との特 別養子縁組の事案において, 「 その他特別の事情がある場合 との要件に 該当するかが専ら問題となるが, 右要件は, 特別養子縁組制度の趣旨から すると, 縁組を成立させることによって養子となるべき者に養親の嫡出子 たる身分を取得させるのみならず, 実親との親子関係を断絶させることが 子の利益に合致するかどうかを基準として判断すべきであると解せられる ところ, いわゆる連れ子を養子とする場合において, 養子となる者が非嫡 出子であり, しかも未認知である場合には, 特別養子縁組によって当該子 に嫡出子たる身分を取得させ, 生理上の父との未然的な法律関係を終局的 に断絶させて身分関係の安定をはかることは, 子の利益を向上させること が明らかであるというべきであるから, 上記特別の事情がある場合に当た る」 と判示する。 裁判例⑩は, 妻の非嫡出子 (実父の認知なし) を普通養 子としている夫との特別養子縁組の事案 (実母B女は, 前夫C男との婚姻 中にD男の子である事件本人Aを懐胎し, 出産した。 Aの出生前にBはC と離婚し, CとAの親子関係不存在確認の裁判が確定した。 BはE男と婚 姻し, AはEの普通養子となったが, さらに特別養子への転換が申し立て られた) において, 民法817条の7に規定する 「 特別の事情がある場合 論 説
には, 監護の著しい困難又は不適当な場合又はそれに準ずる場合にとどま らず, 特別養子縁組により新たな養親子関係を成立させ, 父母及びその血 族との親族関係を終了させることが子の利益のため特に必要と判断される 事情のある場合も含むものと解するのが相当で」 あるとした上, 子は血縁 上の父Dから 「認知されておらず, Dは実親としての義務を全く怠り, A の養育にも無関心で, 将来ともに放置したままの状態であることが容易に 推認される。 そして, Aが, これら特異で複雑な出生の事情ないし親子関 係の事情を戸籍の記載等から知り, その生育過程において, 自らの責任に よらない精神的苦痛や負担等を背負っていくことが予測される。 そうする と, 上記認定事実から明らかである, B・EとAとの良好な親子関係をそ のまま特別養親子関係として成立させ, Bとの非嫡出子としての親子関係 を断絶させることが, 子の健全な育成に寄与し, その福祉及び利益の実現 のため特に必要であると判断される」 として, 原審判を取り消し, 特別養 子縁組の成立を認めた。 (3) 「連れ子養子型」 (「連れ子・転換型」 を含む (34) ) については, 次のよ うな指摘ができよう。 (a) 上掲の特別養子縁組の成立を否定する5つの公表裁判例の事案は, 1例 (裁判例⑦) を除き, すべて特別養子となる者が妻の嫡出子であるの に対し, 3つの肯定例ではすべて妻の非嫡出子 (裁判例④以外は未認知) である。 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (34) ⑨⑩は形式的には 「連れ子・転換型」 のケースであり, いずれも改正 法施行後に普通養子縁組がなされているが, ⑨審判は, すでになされてい る普通養子縁組を 「過渡的な措置としてされたもの」 とし, ⑩決定は, 「当初から特別養子縁組を成立させることができるのに, 普通養子を選択 しておきながら, その後に特別養子縁組成立を申し立てるような事案とは 異なる」 もので, すでに普通養子縁組がなされていたことがこの判断を左 右しないとする。
(b) この形態の特別養子縁組においては, 「父母による養子となる者の 監護が著しく困難又は不適当」 であるとはいえないので, 「その他特別の 事情」 があるかどうかが問題となる。 この点につき, 特別養子縁組の成立 を否定する公表裁判例では, 「その他特別の事情」 の存在が否定されるこ とになる。 裁判例③は, 「悪らつな干渉や妨害」 がないから, 本条の要件 を充足しないとする (逆にいえば, そのような事情があれば, 「特別の事 情」 の存在が肯定されることになるのであろう)。 裁判例⑤では 「実父は すでに死亡している」, 裁判例⑧では 「実父が恐喝未遂罪で服役中」 とい う事情があるが, 「特別の事情」 の存在は否定されている (後者は, 「父が 事件本人に働きかけるとの危惧については具体的な根拠がない」 とする)。 これらの否定例は, 前掲した [Ⅲ (二)] 学説のうち (A) 説と軌を同じ くすると考えられる。 もっとも, (A) 説に立っても, 前述のように, (嫡 出子の場合でも) 実父母の一方が 「親としての義務を著しく怠っている場 合」 には特別養子縁組の成立が肯定されうるのであるから, 裁判例③はよ り厳格である。 いずれにせよ, 子が嫡出子である場合は, 特別養子縁組成 立のための判例のハードルはかなり高いといわざるをえない。 (c) これらの否定例に対し, 肯定例では, 「その他特別の事情」 の存在が 肯定される。 ここでは, 「特別の事情」 を 「実親との親子関係を断絶する ことが子の利益のために特に必要とされる事情」 とし (ないしは, その該 当性の判断基準を 「実親との親子関係を断絶することが子の利益に合致す るかどうか」 に求め), 父母による 「監護が著しく困難又は不適当」 な場 合やそれに準ずる場合に限らないとする (この点については, 前掲した [Ⅲ (二)] 学説のうち (B) 説と軌を同じくする)。 具体的にどのような事情が, 「実親との親子関係を断絶することが子の 利益のために特に必要とされる事情」 に該当するのかについては, 「特異 な出生の状況などを子が知ることはその健全育成にとって有害である」 論 説
(裁判例④), 子が 「特異で複雑な出生の事情ないし親子関係の事情を戸籍 の記載等から知り」, 精神的苦痛や負担等を負うこと (裁判例⑩) が挙げ られている。 裁判例⑨では, 子が未認知の非嫡出子であること自体が (嫡 出子たる身分を取得させ, 生理上の父との未然的な法律関係を終局的に断 絶させて身分関係の安定をはかることにより子の利益を向上させるとの意 味で) 「特別の事情」 に該当すると判断されている。 (d) 「連れ子養子型」 (「連れ子・転換型」 を含む) では 「純粋型」 とは 異なり, 特別養子縁組の成立を認める場合に, 裁判官は, 「前段要件」 と 「後段要件」 を明確に区別して判断をしてはいない。 そこでは, 「特別の事 情」 を実親との親子関係を断絶することが 「子の利益のために特に必要と・・・・・・・・・・・・ される事情」 (傍点筆者) ととらえるため, 「前段要件」 の 「特別の事情」 と 「後段要件」 の 「子の利益のために特に必要がある」 との要件が渾然一 体となって判断されることになるのである。 実親との親子関係の断絶が子 の利益のために必要か否か (ないしは子の利益に合致するか否か) という 「後段要件」 に重点が置かれた判断がなされ, それが充足されれば, 「前段 要件」 の 「特別の事情」 に該当すると判断しているといもいえる。 否定例 の多くも, 要保護性の存否, すなわち 「特別の事情」 の存否を実親との親 子関係の断絶が子の利益のため必要か否かにかからしめているように思わ れる (四) 「親族養子型, その他の形態」 (1) 「親族養子型」 に属する裁判例としては, ⑪東京家八王子支審平 2・2・28家月42・8・77, ⑫大阪高決平 2・4・9 家月42・10・57がある。 いずれも特別養子縁組の成立を否定する。 裁判例⑪は, 実母が死亡して実 父による養育が困難となったことから, 実母の兄夫婦が特別養子縁組を申 し立てた事案において, 「本件のように, 実方の両親と養親となろうとす 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て
る夫婦との間に親族関係があるような場合には, 実方の父母及びその血族 との親族関係を終了させても, 養親を通じて実方の父母との親族関係はな お残存するのであり, 完全な断絶が果たされるものではない。 このような 点を考えれば, 本児につき実方との親族関係を断絶することは, かえって 実方との関係で複雑な人間関係を生じることにもなり, 本児が将来自分の 出生をめぐる真実を知ったような場合を想定すれば, 逆に情緒的に不安定 になる要因を孕むものともなりかねない。 それでもなお実方との関係を断 絶するのが本児の利益になるといえるのは, 本児の父が, 本児の法律上の 親であることを主張して, 養親によるその監護・養育を著しく阻害する行 動に出るおそれがあるとか, 本児を虐待していたものであって, そこから 断絶しなければ本児と養親との関係を育てていくうえでの障害になるなど, 本児の父の本児の法律上の父としての存在自体が, 本児の今後の養育にとっ て有害であるような特別の事情が存する場合に限られるものというべきで ある」 と述べて, 特別養子縁組の成立を否定している。 裁判例⑫は, 未婚 の長女が出産した子を監護養育している夫婦が特別養子縁組を申し立てた 事案で, 実母との 「法律上の親子関係を敢えて断絶させることにより得ら れるものが多いとは認めがたい」, 実父との関係においても, 子とは 「没 交渉であって, その生育過程に何らの干渉もしていない」 ので, 「法律上 の親子関係を敢えて断絶させることがことさら望ましい」 との事情もなく, 特別養子縁組を成立させることが 「子の利益のために特に必要がある」 と 認めることができないと結論づけている。 これらの事例では, 後段要件の 「子の利益のために特に必要」 かを中心 に判断が行われ, その判断基準は実親子関係の切断の必要性に求められて いるといえよう。 「親族養子型」 では, 裁判例⑪が指摘するように, 実父 母およびその血族との親族関係を断絶しても養親を通じて実父母との親族 関係が残るので, 断絶が完全ではないという点が, 成立を阻むマイナス要 論 説
因となる。 しかし, 特別養子縁組では実親との関係が断絶するがゆえにそ の成立を慎重にしなければならないとの要請があるとするなら, 「親族養 子型」 では断絶が完全ではないため厳格さが緩和されてもよいとも考えら れる (35) 。 なお, 近時の裁判例⑬大阪高決平27・9・17判タ1423・189は, 認知さ れていない婚外子を, 実母の母と従姉妹の関係にある女性とその夫が特別 養子としようとする事案において, 原審判が本条の要件を欠いているとし て申立てを却下したのに対し, 実母は 「経済的に余裕はなく, 祖母等にも 経済的な余裕がない」 などとして, 「実母が未成年者を監護することは著 しく困難であると認められる」 と判断した上, 原審判を取り消し, 特別養 子縁組の成立を認めた。 この事案は, 「親族養子型」 であるにしても, 裁 判例⑪⑫と比較すれば遠い親族であり, 裁判例⑪が指摘するような, 親族 養子であることからくるマイナス要因は軽視できよう。 そのため, 「純粋 型」 に近い判断が可能であり, 裁判例⑬においては 「前段要件」 に重点を 置いた判断がなされているといえよう。 (2) ところで, 近年, 代理懐胎により出生した子についての特別養子 縁組の成立を認めた⑭神戸家姫路支審平20・12・26家月61・10・72が現 れ, 注目を浴びた。 本件は, 卵子および精子を提供した夫婦 (夫A・妻B) が, 卵子提供者の母 (E) の代理懐胎・出産により出生した子について特 別養子縁組を申し立てた事案である。 女性が自己以外の女性に自己の卵子 を用いた生殖補助医療により子を懐胎し出生することを依頼し, 子が出生 した場合においても, 「出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母」 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (35) 山本正憲 「特別養子縁組の要件としての 要保護性 の判断例三件」 民商104巻1号148頁 (1991年) は, 「実方親族関係断絶に対する懸念は, 一般の特別養子の場合に比べてより少なくて済むのでは無かろうか」 と述 べる。
と解する最高裁決定 (最決平19・3・23民集61・2・619) に従えば, Eが 実母となり, 子をEの子であるBおよびその夫の特別養子とするのである から, 「親族養子型」 の特徴をももつともいえる。 本審判は, 「申立人ら夫 婦は, 事件本人の血縁上の親であり, 事件本人を責任を持って監護養育し ていく真摯な意向を示していること, 他方, E及びD夫婦は, 申立人ら夫 婦が事件本人を責任を持って育てるべきであると考えており, 事件本人を 自身らの子として監護養育していく意向はなく, かかるE及びD夫婦に事 件本人の監護養育を委ねることは, その監護が著しく困難又は不適当であ ることその他特別の事情があると認められるから, 事件本人を申立人ら夫 婦の特別養子とすることが, その利益のために特に必要があるというべき である」 と述べ, 特別養子縁組の成立を肯定している (36) 。 ここでは, E・D夫婦には子を 「監護養育していく意向はなく」, 彼ら に子の監護養育を委ねることは 「その監護が著しく困難又は不適当である ことその他特別の事情がある」 (前段要件) ことになるから, 子をA・B 夫婦の特別養子とすることが 「その利益のために特に必要がある」 (後段 要件) と結論づけられている。 筆者も特別養子縁組の成立を肯定する結論 を認めるにやぶさかではないが, この結論を導く理由づけには疑問を払拭 できない。 本事案において, 子の監護が 「著しく困難又は不適当」 である とするのは, 立法担当者の見解 (37) やこれまでの裁判例からは大きく逸脱して 論 説 (36) そもそもこのような代理懐胎・出産が許されるのかどうかの問題があ るが, その問題と生まれてきた子の法的親子関係の成否の問題とは必然的 には連動しない。 本審判は, そのような観点から, 「出生した子の福祉を 中心に検討するのが相当」 であり, また, 前掲した平成19年の最高裁決定 の補足意見においても, 事案によっては 「特別養子縁組を成立させる余地 がある旨が指摘されている」 と述べる。 (37) 細川清氏によれば (前掲注(12)55頁参照), 「監護が著しく困難」 かど うかは客観的に判断されるべきであり, 「不適当」 とは, 虐待, あるいは
いるといわざるをえないのではなかろうか。 それでは, 「その他特別の事 情がある」 ということになるのか。 「その他特別の事情」 については, 前 述のように二つの見解 ([(A) 説] と [(B) 説]) があるが, [(B) 説] に立つとしても, 特別養子縁組を成立させることが子の利益のためである と考えられる事情でなければならない。 どのような意味で本件特別養子縁 組が子の利益のためになるのかの説明が必要となろうが, 本審判ではそれ が十分にはなされているとは思えない。 「親族養子型」 のもつ上述したよ うな否定的要素はどのように克服されたのであろうか (38) 。 なお, 裁判例⑮神戸家審平24・3・2 家月65・6・112は, 性同一性障害 により男性への性別の変更が認められた者とその妻が, (妻が第三者から 精子の提供を受け出産した) 子を夫婦の特別養子とすることを認めている (39) 。 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て 「通常子の養育に必要な措置をほとんど採っていない等子の監護方法が適 切を欠く程度が高いこと」 を意味するとされる。 なお, 最高裁判所事務総局家庭局の見解によれば (家月41巻8号20頁以 下), 「要保護要件と父母の養育意思の問題」 について, 「本来要保護要件 の充足性は, 客観的に判断すべき」 であるとするとともに, 「兄夫婦に養 子にやるつもりで出産したような場合」 につき, 「特別養子縁組は, この ような目的で親子関係を形成することを容認するものではないと解される し, また, 本ケースの場合は, 「子の福祉のため」 というよりは 「兄夫婦 のため」 を意図したもので, 子の福祉のための必要性の点からも問題であ り, 消極に解さざるを得ない」 とされている。 (38) 早野俊明 「代理懐胎・出産により出生した子の特別養子縁組」 白鴎大 学法科大学院紀要4号109頁以下 (2010年) は, 本審判につき, 「民法817 条の7の要保護性を充足しているとはいえず, 特別養子縁組の成立を認め るべきではなかった事案である」 とする。 早野教授は, 「監護が著しく困 難な場合に当たるとはいえず」, 「著しく不適当である場合に当たるといえ るかは疑問がないわけではない」 と述べる。 また, 本審判とこれまでの公 表判例との 「整合性」 の問題をも指摘する。 (39) 本審判は, 「事件本人と精子提供者との親子関係を断絶させることが 相当であるといえるだけの特別の事情があり, 事件本人の利益のために特
第Ⅴ章 結語―まとめと若干の考察― 以上の検討を踏まえ, 一定の整理を行うとともに, 民法817条の7の要 件について筆者の思うところを述べてみたい。 さらには, 若干の立法論 (40) に も言及したい。 (一) 本稿第Ⅱ章でみたように, 民法817条の7の 「要保護要件」 が設け られた理由・根拠については幾つかの点が指摘されている。 そのうちの主 要な一つは, 特別養子縁組は実親子関係を断絶させるため, そのような効 果に相応しい事情があることが必要とされたという点である。 しかし, 実 父母による 「監護が著しく困難又は不適当」 であることが, どのような意 論 説 に必要であると認められる」 として本条の要件を充足すると結論づけてい る。 もっとも, 本件の特別養子縁組の申立ては, 子が夫の実子 (嫡出子) とならないことが前提となっているが, 性同一性障害によって男性への性 別の変更の審判を受けた夫を AID 出生子の法律上の父とすることを認め た平成25年12月20日の最高裁決定により, 現在では, 嫡出子としての出生 届が受理されることになっている。 なお, 棚村政行 「性同一性障害により 性別変更をした夫婦の間での AID 出生子と特別養子縁組」 私法リマーク ス49号59頁 (2014年) は, 「特別養子縁組は, GID の夫の実子と認められ ない場合の代替的な手段であり, 安易な転用や利用は慎むべきであろう」 と述べる。 (40) 本条の立法論については, 養子法全体の今後の方向性を明らかにした うえ, 他の規定とも関連づけて考察することが望ましいこともちろんであ るが, 本稿はその点につき不十分であり今後の課題としたい。 他の規定との関連についていえば, 本条は, 例えば, 養子となる者の年 齢に関する817条の5の立法動向と関連するであろう。 また, 本条と父母 の同意に関する817条の6ただし書の関係に検討される点が残されている との指摘もある [窪田充見 家族法 第2版 (有斐閣, 2013年) 262頁以 下]。 原田綾子 「特別養子縁組の要件としての父母の同意―親の意思と子 の利益の調整に関する一考察―」 棚村政行=小川富之編 家族法の理論と 実務 (中川淳先生傘寿記念論集) (日本加除出版, 2011年) 291頁以下に も, 多くの重要な指摘がなされている。
味で親子関係の断絶という効果に相応しいのかは必ずしも明らかではない。 第Ⅱ章 (四) (3) ①では, 監護の困難・不適当が 「親子関係の断絶を必 要とする」 具体的事情であるとされるが, 実父母による監護が困難・不適 当であることが親子関係の断絶までを必要とするわけではない。 この要保 護要件は, 親子関係の断絶という強力な効果を伴う特別養子縁組を安易に 成立させないとの政策的判断のもとに導入されたものと思われる。 客観的 な事情から子の適切な監護が期待できないことを要件にすることによって, 「実親のエゴ (子を作っておいて, 育てるのは面倒だから特別養子に出す) を容認する (41) 」 ことへの歯止めの役割が期待されたのであろう。 立法当時の 特別養子制度導入に対する強い反対論への反論ないしは配慮という側面も 否定できない。 その他, 前述のように, 「児童相談所の関与を基礎づける」 ことも 「要 保護要件」 の根拠とされた。 「中間試案」 の段階では, 児童相談所におけ る斡旋手続の前置が提案されてはいたが, この提案は, 結局, 採用される ところとはならなかったのである (42) 。 普通養子との区別の明確化, 「連れ子」 養子の制限という目的も, 本条によってなされるべきかなど疑問であり, 根拠としては強固なものとは思えない。 (二) (1) 「純粋型」 では, 「前段要件」, 「後段要件」 のうち, とくに前 者の判断に重点が置かれる。 公表裁判例でも, そのような傾向がみられた。 もっとも, 公表裁判例は極めて少なく, しかも, 前掲の裁判例①②はいず 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (41) 特別養子制度新設の際にこのような反対論があったことについては, 米倉明 「特別養子制度の理念」 米倉明=細川清編 民法等の改正と特別養 子制度 (日本加除出版, 1988年) 248頁参照。 (42) 中川良延 「日本の養子縁組斡旋制度の概要」 湯沢擁彦編著 要保護児 童養子斡旋の国際比較 (日本加除出版, 2007年) 25頁, 奥田=高倉=鈴 木=野田・前掲注(3)3頁。
れも 「前段要件」 に該当することが明らかなケースである。 ここでは, 「前段要件」 が充足されれば, 養親に養親としての適格性ないしは養子と の適合性がある限り, 「後段要件」 も充足されることになる。 (2) 立法論として, 「純粋型」 に本条の 「前段要件」 および 「後段要件」 が必要であろうか。 まずは, 「前段要件」 について。 「前段要件」 = 「要保護要件」 が設けら れた理由・根拠については, 本章 (一) でみたように, 不明確である, な いしは特別養子縁組に必然的な要件ではないといわざるをえない。 この要 件は, 親子関係の断絶という強力な効果を伴う特別養子縁組を安易に成立 させないとの政策的判断のもとに (ないしは反対論への配慮として) 導入 されたものであろう。 この要件は, 当初, 裁判所によってかなり厳格に解釈されてきた。 この ことは, 前述の最高裁家庭局の見解からも明らかである。 しかし, その後, 公表された裁判例がないため必ずしも明確ではないが, 近年, 緩和されて きているような印象がなくはない。 新しい養子制度が 「特別」 養子制度と命名されたことは, これまでの養 子制度 (普通養子制度) が原則的・一般的形態であるのに対して, その効 力および要件が例外的ないしは特殊であることを意味している。 しかし, 実親との関係を断絶し, 「養親子関係の心理的安定を確保する」, 「親子と しての一体感を強化する (43) 」 ことを理念とする特別養子縁組は, むしろ未成 年養子縁組の理念型であるともいえ, この形態を原則とする (ないしは, 未成年養子縁組をその形態に一元化する) ことも考えられる。 そうなれば, 「前段要件」 の必要性は弱まる, ないしは不要となることにもなろう。 いずれにせよ, 「前段要件」 の必要性については, 再検討の余地がある。 論 説 (43) 米倉・前掲注(41)231頁。
もともと, 制度導入の際の 「養子制度の改正に関する中間試案」 では, 多 数意見は 「要保護児童に限定する必要はない」 とするものであったのであ る (前述)。 この要件がなくなれば, 「実親のエゴを容認する」 ことになる との批判が予想されるが, 子を自ら育てる意思のない者に子の養育を強制 するよりも特別養子として養親に養育してもらうほうが子のためであると もいえる。 「後段要件」 についてはどうであろうか。 特別養子縁組が 「子の利益の ため」 にのみ用いられるべきことはもちろんのことである。 しかし, 現行 規定のように, 「特に必要がある」 とまでいうべき必要があるのかは疑問 である。 「純粋型」 における 「後段要件」 の現実の機能からみても, 過重 な要件であるように思われる (44) 。 (3) ところで, 「監護が著しく困難」 という要件に関して, 「父母による 養育支援の制度を充実させることが先決であり, 未婚の母からの子の引き 離しに利用」 させないために, この部分を 「父母による養育監護が不能又 は著しく不適当であること」 に改めるとの立法提案もなされている (45) 。 父母 による養育に対する支援体制を強化・充実させることが先決である点につ いては筆者も思いを同じくするが, それを理由に 「前段要件」 をより厳格 化することには議論の余地があろう (支援するから養子に出すなと強制す ることになりかねない)。 (三) (1) 「連れ子養子型」 (「連れ子・転換型」 を含む) の裁判例では, 「前段要件」 については 「特別の事情」 が存在するかどうかが問題となり, 民 法 八 一 七 条 の 七 に つ い て (44) 近年の立法論では, 「特に」 を削除することで, 成立の基準を緩和す る提言がなされている。 中田・前掲注(3)92頁 [床谷文雄]。 (45) 床谷文雄 「特別養子制度20年:子どもの幸せを求めて―提言 (報告の まとめをかねて) ―」 家族<社会と法>25号111頁 (2009年)。
その点の判断が 「後段要件」 の 「子の利益のために特に必要がある」 との 要件と渾然一体となって判断されることになる。 すなわち, 判断の中心は, 実親との親子関係の断絶が子の利益のために必要か否か (ないしは子の利 益に合致するか否か) である。 「連れ子養子型」 においては, 裁判例の多 くが特別養子縁組の成立を否定するが, 肯定例もみられる。 肯定例では, 実親との親子関係の断絶が子の利益のために必要とされる具体的な事情と して, 「特異な出生の状況などを子が知ることはその健全育成にとって有 害である」 (裁判例④), 子が 「特異で複雑な出生の事情ないし親子関係の 事情を戸籍の記載等から知り」, 精神的苦痛や負担等を負うこと (裁判例 ⑩) などが挙げられている。 しかし, これらが実親との親子関係の断絶を 特に必要ならしめる事情であるかについては, 疑問なしとはしえない。 子 が戸籍を見る機会は余りないであろうし, 年少者はそれを見ても分らない。 年長者であっても, それをみて複雑な出生の事情を知ることができるとも 思えない。 子が年長になれば, むしろ真実告知が望まれるのである。 真実 を隠すために特別養子制度を用いるのは, 制度の本来の趣旨ではないとい わざるをえない。 (2) 「連れ子養子型」 をめぐる学説については, 要件を厳格にとらえる (A) 説とより柔軟にとらえる (B) 説の対立があるが, 民法817条の7 の立法理由の一つが連れ子養子を制限するところにあったことからは, 解 釈論としては (A) 説が一般的には支持されているように思われる。 ところで, 前述したように, 両説に実際上の差異が現れるのは嫡出子の 場合である。 (A) 説でも, 実父母の一方 (子を連れて婚姻しない方) が 「子の利益を害するような具体的行為をしている場合, その者が親として の義務を著しく怠っている場合」 は特別養子縁組も可能であるとされてい る。 実父母の一方に 「悪らつな干渉や妨害」 がないから本条の要件を充足 しないとする裁判例もある (裁判例③)。 しかし, 「干渉や妨害」 をする実 論 説