氏 名 津久井 雄也 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医 学 ) 学 位 記 番 号 医工博4甲 第227号 学 位 授 与 年 月 日 平成30年3月23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 先進医療科学専攻
学 位 論 文 題 名 DICKKOPF-4 GENE EXPRESSION IS AN IMPORTANT BIOMARKER PREDICTING THE SURVIVAL IN COLORECTAL CANCER
(DICKKOPF-4 遺伝子発現は大腸癌の生存を予測する重要なバイオ マーカーである) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 齋藤 正夫 委 員 教 授 飯島 裕幸 委 員 講 師 荻原 雅和
学位論文内容の要旨
【 研 究 の 目 的 】 Wnt シ グ ナ ル は 発 生 、 発 癌 に お い て 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。 DKK4(DICKKOPF-4)は Wnt /β-カテニン活 性 化 を阻 害 するリポタンパク質 受 容 体 関 連 タンパク 質 5/6(LRP5 / 6)に結 合 することによって Wnt タンパク質 のアンタゴニストとして作 用 することで 知 ら れてい る。我 々は大 腸 癌 の 発 癌 メ カニ ズ ム を明 ら か にす るため 、大 腸 癌 と正 常 粘 膜 との 遺 伝 子 発 現 の違 いを検 討 し、大 腸 癌 において DKK4 が高 発 現 していることを明 らかにしてきた。また、 その機 序 が Wnt /β-カテニン経 路 の活 性 化 が DKK4 の発 現 を誘 導 するためであることを明 らかに してきた。その後 、in vitro 試 験 で DKK4 の発 現 が大 腸 癌 の化 学 療 法 に対 する抵 抗 性 に関 与 していると報 告 された。しかし、これまでに DKK4 発 現 と臨 床 背 景 や予 後 あるいは Dkk4 高 発 現 大 腸 癌 における遺 伝 子 変 異 プロファイルとの関 連 は明 らかにされていない。 【方 法 】DKK4 の発 現 を FFPE(ホルマリン固 定 パラフィン包 埋 )検 体 で評 価 するために、新 鮮 凍 結 標 本 の Dkk-4 の mRNA の発 現 量 と免 疫 染 色 による Dkk-4 のタンパク発 現 量 の関 連 を 検 討 した。34 検 体 (17 例 の大 腸 癌 腫 瘍 組 織 と対 になった正 常 組 織 )の mRNA 発 現 量 と 免 疫 染 色 による Dkk-4 タンパク発 現 量 の関 連 を検 討 した。次 に DKK4 の発 現 と臨 床 病 理 学 的 な特 徴 の関 連 を明 らかにするために、大 腸 癌 122 例 の Dkk4 免 染 強 度 と臨 床 病 理 学 的 な 特 徴 を検 討 した。そして DKK4 の発 現 と遺 伝 子 変 異 プロファイルの関 連 を検 討 するために、大 腸 癌 40 例 の 50 の癌 関 連 遺 伝 子 変 異 を次 世 代 シークエンサーを用 いて検 索 し、免 染 強 度 との関 連 を検 討 した。 【結 果 】Dkk-4 の mRNA の発 現 量 と免 疫 染 色 による Dkk-4 タンパク発 現 量 の関 連 の検 討 で は、Dkk-4 の mRNA 発 現 量 と免 疫 染 色 の強 度 は関 連 していた (p=0.035)。臨 床 背 景 因 子 との関 連 の検 討 では Dkk-4 の免 疫 染 色 が強 く染 まる症 例 は遠 隔 転 移 を有 する症 例 が多 く (p=0.012)、分 化 型 腺 癌 が多 かった (p=0.032)。生 存 期 間 の解 析 では Dkk-4 が強 く染 まる症 例 の生 存 期 間 が短 かった (p=0.001)。遠 隔 転 移 を有 する大 腸 癌 症 例 に絞 った解 析 で も Dkk-4 が強 く染 まる症 例 は生 存 期 間 が短 かった (p=0.013)。Dkk-4 の免 疫 染 色 と遺 伝 子 変 異 の関 連 の検 討 では Wnt シグナルが活 性 化 するような変 異 (APC,CTNNB1, FBXW7) があることと Dkk-4 の免 疫 染 色 が強 く染 まることが関 連 していた (p=0.030)。 【考 察 】ヒト癌 で は、Dkk4 の高 発 現 が 、卵 巣 癌 、膵 臓 癌 お よび腎 臓 癌 におい て報 告 されている。 また DKK4 高 発 現 と無 再 発 生 存 との関 連 が卵 巣 癌 において報 告 されている。大 腸 癌 では、過 去 に少 数 の患 者 で Dkk-4 mRNA の発 現 が増 加 していることが示 されているが、今 回 免 疫 染 色 によるタンパク解 析 によって、より大 きなコホートで高 い DKK4 発 現 を確 認 した。さらに、我 々は、本 研 究 において DKK4 の発 現 に関 連 する大 腸 癌 の臨 床 病 理 学 的 特 徴 を検 討 し、明 らかにした。 Wnt /βカテニンシグナル伝 達 は、結 腸 直 腸 癌 の発 生 における主 要 な経 路 であり、癌 組 織 内 の APC、CTNNB1、TCF7L2 または FBXW7 タンパク質 などの経 路 分 子 の体 細 胞 突 然 変 異 によ って活 性 化 される。この研 究 では、APC、CTNNB1 および FBXW7 遺 伝 子 の変 異 を有 す大 腸 癌 組 織 における Dkk-4 タンパク質 発 現 の相 関 を見 出 した。 【結 論 】DKK4 の発 現 増 加 は組 織 型 が分 化 型 腺 癌 であること、遠 隔 転 移 を有 すること、生 存 が 不 良 であること、Wnt シグナルに関 連 する遺 伝 子 変 異 を有 することに関 連 していた。DKK4 は予 後 予 測 の ため の バ イ オ マー カ ー とし て有 用 で あ る可 能 性 が あ り、 新 た な治 療 標 的 に なる可 能 性 が ある。
論文審査結果の要旨
申請者らの先行研究で、大腸癌でDkk-4 の発現が mRNA レベルで上昇していることを見いだし、 本研究では免疫組織学的解析などを行い、Dkk-4 の発現と臨床経過等との関連性を臨床病理学的 に検討した。 病理組織標本からマイクロダイセクションによりmRNA を抽出、qRT-PCR 法を施行した結果、 Dkk-4mRNA 発現では健常部に比較し腫瘍部では有意に高いことが判明した。免疫組織学的解析 では、染色強度を4 段階に分け、まずその染色強度と mRNA 発現が正の相関することを確認し た後、overall survial、非転移症例、リンパ節転移症例、遠隔転移症例などの survial rate を Kaplan-Meier 法にて検討した。その結果、overall survival ならびに N1/N2 と M1 症例では Dkk-4 の発現レベルと、survaival rate が逆相関を示めした。しかしながら、Dkk-4 と発現は T(I/II)と T(III/IV)の間ならびに、N0 と N1/N2 の間では有意な相関性を認めなかったが、M0 と M1 の間と、 分化型(Tub1/Tub2)とその他(Por/Muc/others)の間では、有意な差を認めた。また、Wnt シグナル系 の分子の mutation を次世代シークエンサーにて明らかにした。本研究から、申請者は Wnt シグ ナル系との関連性が示唆されている分化型の大腸癌では Dkk-4 が大腸癌患者の予後を評価する マーカー分子となる可能性を示した。 本研究発表における審査委員からの質問、ならびに発表者の返答内容を以下に示す。 (1) Dkk-4 の発現制御機構に関し、Wnt シグナル以外に何が考えられるか (返答)現時点ではわからないが、今後検討したい。しかし、Dkk-4 の下流シグナルに興味を持っており、そちらを優先的に検討したいと思っている。 (2) Dkk-4 の発現は M0 と M1 の間では有意な差を認めているが、浸潤(T)やリンパ節転移(N)で は、有意な差が無い。これをどのように説明するのか? (返答)ご指摘の通りすこし不思議な結果であった。Dkk-4 の発現は浸潤(T)やリンパ節転移 (N)では統計学上有意な差はないが、傾向はみられており、Dkk-4 が腫瘍の悪性度高めていると いう考察を支持する結果だと考えている。遠隔転移(M)で有意差を認めることから、Dkk-4 の発 現は血行性転移に最も影響を与えていると考えている。 (3) Dkk1から4までファミリー分子があるが、なぜ Dkk-4 に着目したのか (返答)Dkk-1 を調べた限りでは、有意な変化は認めらなかった。しかし、Dkk-4 の発現が有 意に高い症例が1 例あったため、本研究では統計学的に検討した (4) Dkk-4 が遠隔転移や抗がん剤耐性を獲得する分子メカニズムについて (返答)MAPK や JNK を考えているが、現時点ではわからない。現在 clisper の系でノックア ウト細胞を作製しているので、RNA シークエンスなどの手法をもちい、Dkk-4 の下流シグナル 分子を検討する予定である。
(5) 論文の table 1 で Dkk-4 weak と strong の間の 2 群間検定で OR が記載されているがここでは Chi-squared test の結果を示すべきではないか
(返答)オッズ比、95%信頼区間も併記していますが、有意差検定(P 値)は Chi-squared test で行っています。
(6) 論文の table 2 では overall survival に関連する臨床要因をコックス回帰で検討しているが、
ベースラインにおいて遠隔転移 M1 やリンパ節転移 N1/2 の症例の予後が不良なのは当然な ので、これらを除いた対象、すなわち N0/M0 の症例での臨床因子を検討すれば、予後不良 の腫瘍の病理学的特性を明らかにできるのではないか? (返答)N が小さくなるが、今後検討してみたい。 (7) Wnt シグナル分子の mutation を検討しているが、本当にアミノ酸に置換が起きているのか (返答)たとえば、K-ras の場合、mutation が 12 番目のアミノ酸相当部にあることは確認して いるが、どのようにアミノ酸が変化しているまでは確認していない。ただし、様々な塩基の変化 を確認している。 (8) 高分化型の癌では Dkk-4 が高発現しているが、低分化・未分化癌では発現が低い。これはど のように考えるのか (返答)大腸癌の場合、高分化型は発がん過程にWnt シグナルが深く関与していることがわ かっている。そこで、主に高分化型の症例を中心に解析を行った、実際、低分化型の症例数が少 なかったので、今後検討したい。