極薄ポリイミドフィルムに形成したフレキシブル有機
EL
ディスプ
レイ
本村
玄一
†a)中嶋
宜樹
†中田
充
†武井
達哉
†山本
敏裕
†栗田泰市郎
†清水
直樹
†Flexible Organic Light Emitting Diode Display on an Ultra-Thin Polyimide Film
Genichi MOTOMURA
†a), Yoshiki NAKAJIMA
†, Mitsuru NAKATA
†, Tatsuya TAKEI
†,
Toshihiro YAMAMOTO
†, Taiichiro KURITA
†, and Naoki SHIMIDZU
†あらまし 極薄の透明ポリイミドフィルム上に酸化物TFT と有機 EL 素子を作製した.これを用いて,極薄 透明ポリイミドフィルムのフレキシブルディスプレイ用基板フィルムとしての適応性と湾曲耐性の評価を行った. 作製したTFT と有機 EL はガラス基板上に作製したものと同程度の高い特性を示した.湾曲耐性も高く,TFT 素子は曲率半径1 mm の湾曲状態でも移動度 10 cm2/Vs を維持することができた.これらの結果をふまえて, 透明ポリイミドフィルム基板上に緑色モノクロのフレキシブル有機EL ディスプレイを試作した.作製したディ スプレイは極めて薄く柔軟性に富んでおり,湾曲状態はもちろん,ディスプレイを巻き取った状態でも劣化する ことなく動画を表示することができた. キーワード フレキシブルディスプレイ,透明ポリイミドフィルム,酸化物TFT,有機 EL
1.
ま え が き
1. 1 フレキシブル有機ELディスプレイ 近年,次世代の薄型ディスプレイとして,フレキシ ブル有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ への期待が急速に高まっている.スマートフォンやタ ブレット端末の普及,高速・大容量の通信技術の発達 に伴い,いつでも・どこでも高画質の映像や情報コン テンツを楽しむことができる社会が実現してきている. プラスチックフィルムをベースにしたフレキシブル ディスプレイは,従来のガラスを用いたディスプレイ と比較して,桁違いに軽く薄い.また,落としても壊 れないなど耐衝撃性にも優れており,持ち運びが容易 な携帯型ディスプレイとして有望である.将来的には, 携帯用途だけでなく,スーパーハイビジョン[1]ディ スプレイなど迫力ある超大画面・高精細の臨場感あふ れる映像を家庭で楽しむためのシート型ディスプレイ への展開も期待されている(図1)[2]. †NHK放送技術研究所,東京都NHK Science & Technology Research Laboratories, 1–10–11 Kinuta, Setagaya-ku, Tokyo, 157–8510 Japan
a) E-mail: [email protected]
図 1 大画面シート型ディスプレイのイメージ
Fig. 1 Large size sheet type display.
フレキシブルディスプレイを実現するには,基材とな
るフィルム素材に加えて,有機EL等の表示デバイス,
酸化物トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor) 等の駆動デバイスといった要素技術を開発し,組み合 わせなければならない.有機ELは自発光型で高速応 答が可能,超薄型という特徴を有することから,高画 質な動画表示に適している[3].InGaZnO4(IGZO) に代表される酸化物半導体を用いたTFT [4]は,ス パッタ法を用いて比較的低い温度で形成することが可
能であり,アモルファスシリコンTFTよりも高い移 動度を得ることができるため,フレキシブルディスプ レイ駆動への応用が盛んに研究されている[5]. フレキシブルディスプレイは,湾曲状態での表示や 巻き取り状態での収納といった用途が期待されている ことから,高い湾曲耐性が要求される.有機TFTで は高い柔軟性も報告されている[6]が,酸化物TFTを 用いたディスプレイデバイスでは,どの程度の湾曲耐 性をもっているのか十分には分かっていない.デバイ スの湾曲耐性は,用いる基材から受ける影響が大きい と考えられる.今回,湾曲に対する基材の影響を小さ く抑えるために,極薄の透明ポリイミドフィルム基板 を用いて,酸化物TFTと有機EL素子の特性を評価 した.更に,極薄フィルム上に極めて柔軟性に富んだ フレキシブル有機ELディスプレイを試作し,動画表 示を確認することができたので報告する. 1. 2 フレキシブルディスプレイ用フィルム基板 フレキシブルディスプレイを作製するためには,柔 軟性を有する基板上にディスプレイデバイスを形成す る必要がある.柔軟性を有する基板材料には,金属 箔[7]や薄板ガラス[8],プラスチックフィルム[9]等が 候補として挙げられる.フレキシブル有機ELディス プレイにおいて,有機ELやTFTなどのデバイスは, 基板材料と比較して十分に薄いことから,ディスプレ イとしての柔軟性は基板材料の選択に大きく依存する. しかしながら,基板に金属箔を用いる場合は,導電性 への対策と表面の凹凸を平坦化する必要がある.薄板 ガラスの場合は,極めて割れやすいため取り扱いに工 夫が必要な上,柔軟性も限定的なものとなる.柔軟性, 軽量性,安全性等を考慮すると,現状ではプラスチッ クフィルムが最も有利である. プラスチックフィルム基板に求められる性能として は,フィルム表面の平坦性や作製プロセスでダメージ を受けない程度の耐熱性と耐溶剤性が挙げられる.更 に,有機デバイスの長寿命化のためには水蒸気透過率 や吸水性が低いこと,高精度パターニングを考慮する と熱膨張率が小さいことも必要とされる[10], [11].ま た,光を基板側から取り出すボトムエミッション構造 のディスプレイを作製する場合は,可視光領域の透明 性が必須となる. そして,プラスチックフィルム基板を用いてデバイ スを作製する上で重要なポイントになるのが,基板の ハンドリング方法である.フォトリソグラフィーによ る高精度なパターニング,真空プロセスや塗布プロセ スでの成膜,高温でのアニール等の工程を繰り返すこ とになるが,柔軟なフィルムでこれらの工程を精確に 行うことはガラス基板で作製する場合に比べて難し い.特に,フィルムが薄く柔軟になれば更に難易度は 上がる.そこで,ガラス等の支持基材にフィルムを固 定し,ハンドリングしやすい状態にした上でデバイス 作製を行い,完成後にフィルムを剥離するなどの方法 が取られている.この方法は,デバイス作製中はしっ かりと支持基材に固定されており,完成後はデバイス にダメージを与えることなく剥離することが求められ る.フィルムの固定方法や剥離方法の選択が必要であ るが,フィルム基板をガラスと同様に取り扱うことが 可能となる上に,ガラスに固定されることでフィルム の寸法安定性を高める効果も期待できるため有効な方 法であると考えられる.
2.
透明ポリイミドフィルム基板
2. 1 透明ポリイミドフィルム フィルム材料を選定する上で以下の点を考慮した. まず,ボトムエミッション構造の有機ELディスプレ イを想定していることから,可視光領域で十分な透明 性を有することが必要である.次に,作製に必要なプ ロセス温度に耐えられることが望ましいため,300◦C 程度の耐熱性を有し,更に熱膨張率が低いことが必要 である.フィルムの熱膨張率が大きい場合には,支持 基材であるガラスとの間にひずみが生じ,基板の湾曲 や意図せぬフィルムの剥離等の問題が生じる. また,今回は支持基材に固定したフィルムを得る方 法として,溶液状態のフィルム材料をガラス上に塗布・ 乾燥してフィルム化する方法を採用した.完成された 状態のフィルムを接着剤で支持基材に貼り合わせる方 法も考えられるが,フィルムの選定に加えて,高い耐 熱性をもった接着剤も必要になり,貼り合わせにも高 い技術が求められる.特に,柔軟性を意識して使用す るフィルムを薄くすると,フィルムの固定も難しくな る.一方,液状のフィルム材料を塗布してフィルム化 する場合は,成膜条件を調整することで思い通りの厚 さのフィルムを容易に得ることができる. 上記のポイントを考慮して,本研究では,表1に示 す特性を有する透明ポリイミドフィルム材料を使用し た.フィルム材料はジメチルアセトアミドに溶解した 状態になっており,スピンコート等の方法で塗布成膜 が可能である.成膜条件を調整すれば,10 μm以下 の極薄フィルムを得ることも可能である.塗布された表 1 本研究で用いた透明ポリイミドフィルム材料の特性 Table 1 Properties of transparant polyimide film.
ポリイミド材料は,300◦Cで1時間加熱しフィルム化 した. 2. 2 フィルム基板の剥離条件 支持基材に固定されたフィルム基板は,最終的に剥 離しなければならない.このとき,デバイスにダメー ジを与えることなく剥離することが求められる.今回 は,機械的に引き剥がす方法でフィルム剥離を行った. そのため,ダメージ無く剥離を行うためには,剥離強 度を低く抑えなければならない. 超音波洗浄を施した無アルカリガラス基板に透明 ポリイミドフィルムを成膜して剥離する場合,0.05∼ 0.1 N/cmの剥離強度を要し,サンプルごとのバラつ きも存在した.これは,デバイスにダメージを与える ことなく剥がすことができるギリギリの剥離強度であ り,クラックの発生しやすい部分や密着力の弱い層な どが存在すると,剥離を失敗することがあった.なお, ここで示す剥離強度は,フィルムの一辺をもち垂直方 向にゆっくりと引き上げて剥離したときに必要な力を 意味している. 軽い力で安定して剥離するために,ガラス表面に剥 離層を形成し,その上にポリイミドを成膜した.剥離 層としてスパッタにより50 nmのSiOxを形成したと きに,剥離強度が低下し,0.02 N/cm程度の力で安定 的に剥離することが可能となった.なお,剥離強度が 低下すると,作製プロセス中にフィルムが剥がれてし まう恐れがある.そこで,ガラス基板の外側5 mmは この剥離層を形成しないことで,フィルムの端を強め に固定し,意図せず剥れてしまうことがないようにし ている. 2. 3 下地層によるフィルム基板の湾曲状態の制御 フィルム基板上にデバイスを作製する場合,作製プ ロセスからの保護,水蒸気の遮断,平坦性の確保,光 学特性の制御などを目的とした下地層をフィルム上に 形成した上で行う.フィルム基板上に薄膜を形成する と,基板と薄膜の熱膨張率の違いや薄膜と基板の界面 でのひずみ等を原因としてフィルムが湾曲する.フィ 図 2 丸まった状態の TFT バックプレーン
Fig. 2 TFT backplane in rolled up condition.
図 3 下地層に応じて湾曲状態が変化するフィルム基板
Fig. 3 Curled film substrate depending on foundation layers. ルム基板が薄い場合,この影響はより顕著に現れ,下 地層が原因となって図2に示すようにフィルムが丸ま ることもある. 今回,SiOx膜とポリマーの積層構造を下地層として 使用してフィルム基板の湾曲を制御することを検討し た.図3に下地層の条件に応じてフィルム基板のカー ルの状態が変化する様子を示す.まず,透明ポリイミ ドフィルム単独の場合,フィルムはほとんどカールし ていない(a).次に,フィルム上にSiOx膜を100 nm 成膜したところ,成膜面側が凸となるようにカールし た(b).更に,このフィルム上にポリマーを2 μmコー ティングすると,今度は反対に成膜面側がわずかに凹 となるようにカールした(c).SiOxは,フィルム基板 に引張応力を生じさせており,ポリマーはフィルム基 板に圧縮応力を生じさせている.下地層の構成やポリ マー層の膜厚を適切に調整することで,これらの力を 相殺することができ,フィルム基板を平坦な状態に保 つことが可能となる.本研究では,フィルム基板上に SiOx (100 nm)/ポリマー(3 μm)/SiOx(100 nm)構 造の下地層を形成した.
図 4 作製した酸化物 TFT 素子と断面構造 Fig. 4 Photograph and cross-sectional view of
oxide-TFT.
図 5 剥離前後での伝達特性の比較
Fig. 5 Transfer characteristics of TFTs before and after peel-off.
3.
極薄フィルム基板上に形成したデバイス
3. 1 湾曲状態での酸化物TFT特性 厚さ7 μmの極薄透明ポリイミドフィルム上にフレ キシブル酸化物TFT素子を作製し,湾曲状態での特 性を評価した.図4に湾曲評価用に作製したTFTの 外観の様子と断面構造を示す.試作したTFT素子は ボトムゲート構造で,ゲート絶縁膜としてSiOxを用 いている. 半導体としてIGZO,電極としてAl,ゲート絶縁膜 としてSiOxを室温にてスパッタ成膜し,シャドウマ スクを用いてパターニングを行った.TFTのチャネル 長とチャネル幅は,それぞれ500 μmと80 μmであ る.最後に,130◦Cで加熱処理を施し,素子特性を安 定化させた後,支持基材から剥離した.TFT素子の 剥離前後での伝達特性の比較を図5に示す.剥離の際, 素子にひずみが生じ,素子特性に影響が出ることが懸 念されたが,伝達特性に顕著な相違は見られず,しき い値電圧,移動度ともに維持されることを確認できた. TFT素子の湾曲耐性評価は,まず,初期状態とし て,TFT素子を平坦な状態で固定し,特性評価を行っ 図 6 湾曲状態での TFT 伝達特性と移動度Fig. 6 Transfer characteristics and mobilities of TFTs while changing the bending radius.
た.次に,曲率半径の異なる円筒に巻き付けて,TFT 成膜面を凸とするように湾曲させた状態で同様の評価 を行った.このとき,湾曲方向は,チャネル長方向と 湾曲時の稜線方向が直行するようにした. 図6はTFT素子の湾曲状態を,平坦な状態から曲 率半径1 mmまで変化させたときの伝達特性の測定結 果と移動度を示したものである.曲率半径を変化させ ても,伝達特性の変化は小さく,移動度は10 cm2/Vs 程度の値が維持されることが分かった.このような高 い湾曲耐性が示されたのは,フィルム基板が極めて薄 く,湾曲状態においても基板のひずみが小さくなるこ とで,TFT素子へ影響が抑えられたためであると考 えられる.今後,更なる湾曲耐性の向上を図るには, より薄いフィルム基板を用いることや,柔軟性に富ん だ材料を適用することをなどが挙げられる. 3. 2 有機EL素子の発光特性 TFT素子と同様,厚さ7 μmの極薄透明ポリイミ ドフィルム上に有機EL素子を作製し,ガラス上の素 子との特性比較と湾曲評価を行った.有機EL素子を 形成する際には,下地層の形成条件が発光に影響する. 下地層を屈折率の異なる材料を積層して構成すると, 光取出し条件が変化するため,発光スペクトルが変化
したり,大きな視野角変化が現れる[10].本研究で使 用したSiOx/ポリマー/SiOx構造の下地層は,屈折率 が1.5に近い材料のみで構成することで,ガラス上に 直接作製した場合と光取出し条件の差が小さくなるよ うにしている. 有 機 EL 素 子 は ,透 明 陽 極 と し て イ ン ジ ウ ム 錫 酸 化 物(ITO),ホ ー ル 注 入 層 と し て poly(3,4-ethylenedioxythiophene)-polystyrene-sulfonate (PEDOT:PSS),ホ ー ル 輸 送 層 と し て N,N’-di-[(1- naphthyl)-N,N’-diphenyl]-1,1’-biphenyl)-4,4’-diamine (α-NPD),発光層兼電子輸送層として tris(8-quinolinolato) aluminum(Alq3),陰極としてLiF/Al
を用いた.図7は,湾曲状態で発光する有機EL素子 の様子とデバイス構造,フィルム基板とガラス基板に 作製した素子の印加電圧に対する電流密度と外部量子 効率を示している.フィルム上に作製した素子は,ガ ラス上のものと同様の良好な発光特性を示しており, 本研究で用いたフィルムは基板として適していること を示している.また,フィルム上の素子は柔軟性が高 く,曲率半径2 mmに湾曲させても,素子にダメージ 図 7 透明ポリイミドフィルム上に形成した有機 EL 素子
Fig. 7 OLEDs on the transparent PI film.
を生じることなく発光させることが可能であった.
4.
フレキシブル有機
EL
ディスプレイ
極薄フィルム基板を用いて作製したフレキシブル有 機ELディスプレイの仕様を表2に示す.表示部分の 大きさは対角5インチ,画素数は320 × 240(QVGA) である.緑色発光有機ELを画面全体に成膜した緑色 モノクロディスプレイであるが,一つの画素内に三つ のサブピクセルを作製しているため,有機ELの発光 層を塗り分ければカラー化にも対応可能な構造である. ディスプレイの厚みは,およそ20 μmであり,その 大部分はフィルム基板である.ディスプレイは剥離後 の取り扱い易さを考慮し,素子評価用サンプルよりも フィルムを厚めに形成した. 次に,フレキシブル有機ELディスプレイ作製プロ セスについて述べる.図8にフレキシブル有機EL ディスプレイの作製プロセスを示す. まず,支持基材となるガラス基板上に剥離層として SiOxを形成し,透明ポリイミド材料をスピンコート で塗布し,300◦Cで1時間の加熱処理を施しフィルム 化した.ポリイミドの膜厚は15 μmである.フィル ム基板上に,SiOxとポリマーを積層した下地層を形 成した. 次に,ゲート電極,ITO画素電極をそれぞれ成膜 し,フォトリソグラフィー技術を用いてパターニング した.続いて,ゲート絶縁膜としてSiOxをアルゴン と酸素の混合ガス(混合比1 : 1)雰囲気下でのDCパ ルススパッタ法によって200 nm成膜した. その後,CF4プラズマでゲート絶縁膜をエッチング することで画素電極上を開口し,ゲート電極へのビア ホールを形成した.ソース/ドレイン電極,IGZOを 成膜,パターニングしてTFTを形成した. 続いて,作製したTFTバックプレーン上に,厚さ 表 2 試作したフレキシブルディスプレイの仕様図 8 フレキシブル有機 EL ディスプレイの作製フロー Fig. 8 Schematic process flow of flexible display.
2 μmのポリマー保護層を形成した.この保護層は感 光性を有しており,露光・現像してITO画素電極上を 開口することで有機ELのバンク構造を作製すること が可能である.バンク形成後,200◦Cで加熱し保護層 を硬化した. その後,緑色有機ELを真空蒸着法で形成した.ホー ル注入層に酸化モリブデン,ホール輸送層にα-NPD, 発光層兼電子輸送層としてAlq3,陰極にはLiF/Alを 用いた.最後に,ガラス基板からディスプレイを剥離 した. 剥離は,やや強めに固定されている端部をカッター ナイフで切断し,剥離強度を抑えた領域を図9に示す ように,丁寧に手で引き剥がした.剥離強度を小さく 抑えたため,ディスプレイにダメージを与えることな 図 9 フレキシブル有機 EL ディスプレイの剥離
Fig. 9 Peeling off the flexible display.
図 10 湾曲状態で駆動している緑色モノクロフレキシブ
ル有機 EL ディスプレイ
Fig. 10 Photographo of the flexible green monochrome OLED display in bending condition.
く剥離することができた. 試作したフレキシブルディスプレイを駆動する様子 を図10に示す.60 Hzのフレーム周波数でアクティブ マトリックス駆動することにより,動画表示を確認す ることができた.パネルは極めて薄く柔軟性に富んで おり,湾曲状態はもちろん,ディスプレイを巻き取っ た状態でも劣化することなく動画を表示することがで きた.湾曲状態では,基板及びデバイスにひずみが生 じることとなる.同じ曲率半径で比較すると,このひ ずみは基板フィルムが薄くなるほど小さく抑えること ができる.基板フィルムを薄くして,湾曲によるひず みの影響を低下させれば,堅くて脆いと思われている 酸化物TFTや有機ELなどのディスプレイデバイス であっても破壊することなく大きく湾曲させることが 可能であることが分かった. 極薄透明ポリイミドフィルム上に形成したフレキシ ブル有機ELディスプレイについて述べたが,今回は デバイスの湾曲耐性を重視したため,有機ELディス プレイに必須とされる封止を施さずに評価した.ディ
スプレイの長寿命化を実現するためには,封止用のバ リアフィルムを貼り合せる必要があり,その分ディス プレイの厚みは増すこととなる.極薄で超柔軟かつ十 分な封止を施したフレキシブル有機ELディスプレイ はまだ実現できていない.今後は,更なる薄さと柔軟 性を追求するだけでなく,封止との両立やディスプレ イとしての扱いやすさを考慮することも重要である.
5.
む す び
柔軟なフレキシブルディスプレイの実現に向け,極 薄の透明ポリイミドフィルム上に酸化物TFTと有機 EL素子を作製した.これを用いて,極薄透明ポリイ ミドフィルムのフレキシブルディスプレイ用基板フィ ルムとしての適応性と湾曲耐性の評価を行った.これ らのフィルム上に作製したデバイスはガラス基板上に 作製したものと同様に高い特性を示した.湾曲耐性も 高く,TFT素子は曲率半径1 mmの湾曲状態でも移 動度10 cm2/Vsを維持することができた.これらの 結果をふまえて,透明ポリイミドフィルム基板上に緑 色モノクロのフレキシブル有機ELディスプレイを試 作した.作製したディスプレイは極めて薄く柔軟性に 富んでおり,湾曲状態はもちろん,ディスプレイを巻 き取った状態でも劣化することなく動画を表示するこ とができた.これにより,基板フィルムを薄くして, 湾曲によるひずみの影響を低下させれば,ディスプレ イデバイスは大きく湾曲させることが可能であり,柔 軟性に富んだ将来のフレキシブルディスプレイへの可 能性を見出すことができた.今後は,封止を施した上 での柔軟性の検証,極薄状態での取り扱い方法にも考 慮したディスプレイの実現を目指して研究開発を進め ていきたい. 謝辞 透明ポリイミド材料を提供して頂いた株式会 社カネカに感謝いたします. 文 献[1] T. Yamashita, H. Masuda, K. Masaoka, K. Ohmura, M. Emoto, Y. Nishida, and M. Sugawara, ““Super Hi-Vision” as next-generation television and its video parameters,” Inf. Disp, vol.28, no.12, pp.12–17, 2012.
[2] 時任静士,“フレキシブル有機 EL ディスプレーの研究動
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[3] 時任静士,安達千波矢,村田英幸,有機 EL ディスプレイ,
オーム社,2004.
[4] K. Nomura, H.Ohta, A.Takagi, T. Kamiya, M. Hirano, and H. Hosono, “Room-temperature fabrica-tion of transparent flexible thin-film transistors using amorphous oxide semiconductors,” Nature, vol.432,
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[5] M. Nakata, H. Sato, Y. Nakajima, Y. Fujisaki, T. Takei, T. Shimizu, M. Suzuki, H. Fukagawa, G. Motomura, T. Yamamoto, and H. Fujikake, “Low-temperature fabrication of flexible AMOLED dis-plays using oxide TFTs with polymer gate insula-tors,” SID Int. Symp. Dig. Tech. Pap. 42, pp.202–205, 2011.
[6] T. Sekitani, U. Zschieschang, H. Klauk, and T. Someya, “Flexible organic transistors and circuits with extreme bending stability,” Nature Materials, vol.9, pp.1015–1022, 2010.
[7] T. Chuang, M. Troccoli, P. Kuo, A. Jamshidi-Roudbari, M.K. Hatalis, I. Biaggio, and A.T. Voutsas, “Top-emitting 230 dots/in. active-matrix polymer light-emitting diode displays on flexible metal foil substrates,” Appl. Phys. Lett., vol.90, 15111, 2007.
[8] C. Kuo, Y. Chen, B. Chiou, J. Chiou, Y. Lee, and Y. Huang, “Ultra thin glass for flexible display,” Proc. IDW/AD’12, pp.1497–1499, 2012.
[9] Y. Nakajima, Y. Fujisaki, T. Takei, H. Sato, M. Nakata, M. Suzuki, H. Fukagawa, G. Motomura, T. Shimizu, Y. Isogai, K.Sugitani, T. Katoh, S. Tokito, T. Yamamoto, and H. Fujikake, “Low-temperature fabrication of 5-in. QVGA flexible AMOLED display driven by OTFTs using olefin polymer as the gate in-sulator,” J. Soc. Info. Display, vol.19/12, pp.861–866, 2011.
[10] J. Park, T. Kim, D. Stryakhilev, J. Lee, S. An, Y. Pyo, D. Lee, Y.G. Mo, D. Jin, and H.K. Chung, “Flexible full color organic light-emitting diode dis-play on polyimide plastic substrate driven by amor-phous indium gallium zinc oxide thin-film transis-tors,” Appl. Phys. Lett., vol.95, 013503, 2009. [11] C. Chien, C. Wu, Y. Tsai, Y. Kung, C. Lin, P.
Hsu, H. Hsieh, C. Wu, Y. Yeh, C. Leu, and T. Lee, “High-performance flexible a-IGZO TFTs adopting stacked electrodes and transparent polyimide-based nanocomposite substrates,” IEEE Trans. Electron Devices, vol.58, no.5, pp.1440–1446, 2011.
[12] S.M. Jeong, Y. Takanishi, K. Ishikawa, and H. Takezoe, “Flexible microcavity organic light-emitting diodes with wide-band organic distributed bragg re-flector,” Jpn. J. Appl. Phys., vol.45, pp.L737–L739, 2006.
(平成 25 年 7 月 1 日受付,9 月 26 日再受付, 26年 1 月 14 日公開)
本村 玄一 (正員) 2004慶應大学・理工卒.2006 同大大学 院修士課程了.同年 NHK 入局.松山放送 局を経て,2008 より同放送技術研究所に 勤務.現在,フレキシブル有機 EL ディス プレイの研究に従事. 中嶋 宜樹 2004東京農工大学大学院工学研究科博 士後期課程修了.同年 NHK 入局.放送技 術局を経て,2005 より放送技術研究所に勤 務.以来,有機 TFT や酸化物 TFT,フレ キシブル有機 EL ディスプレイの作製技術 及び駆動技術の研究に従事.博士(工学). 中田 充 (正員) 1999東京工業大学・工卒.2001 同大大 学院修士課程了.同年日本電気株式会社入 社.2010 NHK 入局.同放送技術研究所に 勤務.現在,酸化物 TFT 及びフレキシブ ル有機 EL ディスプレイの研究に従事.博 士(工学). 武井 達哉 1991千代田工科芸術専門学校工業専門 課程卒業.同年,NHK に入局.同放送技 術研究所にて,PDP,FED の研究を経て, 現在フレキシブル有機 EL ディスプレイの 研究に従事. 山本 敏裕 (正員) 1984大阪大学大学院修士課程修了.同 年,NHK 入局,1987 より同放送技術研究 所.プラズマディスプレイパネル,冷陰極 ディスプレイ,フレキシブルディスプレイ の研究に従事.現在,同所新機能デバイス 研究部主任研究員. 栗田泰市郎 (正員) 1980慶應義塾大学大学院修士課程修了. 同年 NHK 入局.1982 より同放送技術研 究所にて,テレビ方式・信号処理,高画質 表示システム,ディスプレイ動画表示画 質,フレキシブル表示デバイスに関する研 究等に従事.現在,新機能デバイス研究部 研究主幹.SID(Society for Information Display)Special Recognition Award,東京都技術振興功労表彰,映像情報メ ディア学会業績賞・フェロー.博士(工学). 清水 直樹 1980早稲田大学・理工卒.1982 同大大 学院修士課程了.同年 NHK 入局.同放送 技術研究所に勤務.現在,表示分野の研究 に従事.博士(工学).