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ポワティエ夏期音楽大学に参加して

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Academic year: 2021

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(1)

「ポワティエ夏期音楽大学に参加して」

Les cours d’ete de (1’ Universite musical) a Poitiers

瀧 野 澄 子

 ポワティエ夏期音楽大学は、これまでグルノーブル夏期音楽大学として、グルノーブル市 と、同市の公立音楽院協力のもとに開催されていたのが、今年度からフランス南西部のポワテ ィエ市に場所を移して開かれたものである。  ポワトウ地方の中心都市ポワティエは、パリから汽車で3時間、バスで4時間程の距離にあ って、ポワトウ風ロマネスク様式といわれる美しい教会があり、11世紀から12世紀頃の古い教 会や建物が多く、みごとな石造りの静かな街である。  これまで開講されていた科目は、フーガ、ピアノ、ヴァイオリン、チェロと、ピアノの特別 公開講座であったが、これに加えて、声楽と、ソルフェージュが、今年度より初めて開講され ることになったものである。  講習の期間は7月19日から8月6口までの3週間で、参回忌は実技レッスン、授業、特別 公開講座を受けることができ、 レッスン、授業、練習はポワティエ国立音楽院と、宿舎1a Maison dioc6saineの教室、練習室、礼拝堂と1a chapelle Henri−Wという壮大な教会の礼 拝堂を使って行われた。  レッスンの回数は、ヴァイオリン、チェロ、ピアノは原則として週2回。フーガ、声楽、ソ ルフェージュは月曜Uから土曜日まで、毎日授業、レッスンがある。  ピアノの特別公開講座は、7月19、20、21日の3日間集中的に、午後2時から6時まで、講 師VIADO PERLEMUTER先生(パリ国立音楽院名誉教授)によって行われた。それをピア ノ以外の受講生は全員聴講することができるシステムになっている。この他、受講生によるコ ンサートが7月20日から8月5日まで、毎夜la chapelle Henri−IVの礼拝堂に於て開かれ、 そのプログラムは、ポワティエ市の地方新聞の当日の朝刊に発表されて、演奏は一般市民に公 開され、多くの音楽愛好家が集まった。  7月19日(月)開講式に引き続いていよいよ、授業、レッスンが開始された。クラスは世界 各地からの参加者の混成クラスという国際ゼミナールの形式になっていて、私の受講したソル フェージュのクラスは、日本人とフランス人だけであった。  受講生全員が宿泊する寮、]aMaison diocesaineの食堂では、 フランス語、ドイツ語、ス ペイン語、日本語が飛び交い、韓国の人も一緒であったほど、国際色が豊かであった。       41

(2)

 ソルフェージュの講師は、パリ国立音楽院教授のEDITH LEJET先生という方であった。 生徒の年令に制限が加えられていなかったため、最年少が14才、日本人はみんな大学を卒業し た人達ばかりであったが、この秋、パリの国立音楽院へ入学する予定の学生・フランス人で地 方の音楽院を卒業して、あらためてソルフェージュの先生になるための国家試験を受ける目的 をもった人など、各自がそれぞれの目的をもって勉強していた。  ソルフェージュの授業・内容は、聴音(単旋律、複旋律、和音、和声、リズム)視唱(音 程、リズム、総合的旋律)暗譜(各種の音部記号)リズム(各種のリズム)楽典、等で、授業 時間は、朝9時30分から12時30分までの3時間があてられていた。  次に授業の様子、課題の一部をあげてみる。 8 旋律聴音の導入として 先ずそのLlの課題とする調の、短かいメロディー風の断片と思われるような音をピアノで、 極めて音楽的に、ピアニシモで弾いて、すぐ生徒に唱せる。初めは音名を並べてもよいし、 ラ唱でもよいが、必ず演奏されたリズムと音高をつけて歌わなければならない。 (1日例)一1

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:A,一一一 Le.1−lhY!一 口 旋律聴音  先生は主音名、Tonique Fa (へ調)というだけで、調子、拍子、小節数は教えてくれな  い。 こうした方法に慣れていない日本入は、不安になって思わず「mollですかdurです  か?」とか「何拍子ですか?」とか「小節数は?」等と質問する羽目になった。それに対し  て先生は、「それを聴きとるのが生徒の仕事である。」といって、この方法による音感教育の  第一義を教えられた。初めに与えられる音は、Tonique Faと示されながら、実はLa音  (A音)一ッだけで、主和音は弾かれなかった。だから生徒は一回目の通奏をしっかり詠い  て記憶しておかないと、調号も拍子記号も書くことができない。一回目は通奏、二度目から  2小節ずつJe reJoue. J’enchaine.といって弾き進む。又書きとっている間に何拍子に聞こ  えるか質問され、2拍子系か3拍子系か答えを求められる。終りまで書きとらせてから最後  に通奏を一回して、正解を板書される。勿論、曲の途中で先生は生徒の間を廻って、とてつ  もないまちがいをしている者にはそれを指摘したり、適切なアドバイスを与えたりはする  が、答え合せをするまでは、何も教えてくれない。  正解を示した後で、曲中のむつかしい箇所を説明したり、特に覚えさせたい特殊なリズムを  とり出して、再度聴かせたり、歌わせたりして、よく理解させる。       42

(3)

「ポワティエ夏期音楽大学に参加して」  曲の初めに拍子、調子を云わないやり方、主和音を与えずLa音(A音)一音だけを与え て始あるやり方は、このシステムの聴音(旋律、和声、和音、リズム)に共通のシステムで あることに気付いた。 このやり方では、絶対音感がついているものでも、相対音感になれているものでも、音に対 する感覚がしっかり身についているものでなければ、手も足も出ない状態であった。この聴 音で第一に感じたことは、音を与えてくれる先生が、誠に音楽的にピアノを弾いてくれるこ とであった。それはいかに短かい旋律であっても、あるいはブリーフとしかとれないよう な、短かい音のつながりであっても、それが生徒に確実に音楽として受け取られるような奏 法で弾かれたことである。一方生徒はその音楽の中から、リズムと調子を自然に受けとるこ とができるように私は感じた。  このクラスでの旋律聴音は、12小節から16小節と、私達のなれているものにくらべると長 く、必ず転調がいくつか入ってくるが、この転調にも工夫が凝らされている。私達のクラス は小節ごとに区切られた課題であったが、この他にフレージングを目的にした聴音もあると いうことであった。 (譜例)一2

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(4)

頭なしで、リズムだけ書いてもよい。フランスではリズム聴音は、いつも10小節で構成さ.れ るように決められているということだ。1音で弾くやり方もあるが、パリ国立音楽院ではこ の様に、2音又は3音を使って弾くシステムをとっているということであった。 全員が答え合せをして、正しく書き終るとその後で、生徒一人ずつ、2小節のリズムよみを させられる。 (譜例)一3 リズム聴音

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(5)

      「ポワティエ夏期音楽大学に参加して」 入れて教えていく。このあとには、長三和音、短三和音、減七の和音など、必ず和声の基礎 を含んで教えていくので、これは和音聴音でなく、和声聴音である。 この和声の課題を演奏するときに気付いた事だが、この場合もメロディー聴音と同様に、や わらかいハーモニーとして聴こえるようなソフトタッチで音を与えられたという印象がつよ く残っている。この点に関していうならば、日本の課題の与えられ方について、かなり考え させられる点があった。 (譜例)一5 En SoI

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①Doが中音になる調は何調か

@次に書かれた楽譜を、休符でうめなさい。(一小節になるように。)

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(6)

③次の楽譜は一小節である。 何拍子か

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「ポワティエ夏期音楽大学に参加して」

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リズムよみ 「ポワティエ夏期音楽大学に参加して」  音部記号のない楽譜を、音高をつけないで、メトロノームで指示されたテンポで、リズム を正しく音名でよむ。音部記号は先生が指示されるので、㈹の音部記号のよみ、の応用にも なる。またよむだけでなくて、各専攻の楽器でもすぐ演奏できるように、それ用の楽譜が用 意されていて、ピアノの人はピアノで、ヴァイオリンの人はヴァイオリンで弾く。 (譜例)一8   」 一一 60 ”Solfeje instrunietistes” Lecture rythnique parfee

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㈹ 音程の練習、視索  音程練習のときもCから始まるのでなく、この方法にはかなりの慣れを必要とした。ピア ノで初めにしa音(A音)を与えられるだけで、課題を歌わなければならない。譜例でわか るように、この音程の課題は、無調である。        49

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(11)

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(12)

  この他、短かいメロディーやカデンツを弾いて、「今のは何調の何終止であるか?」と、 調性と終止形の質問をされる。答えは必ずフランス語で、Cadance parfact(完:全終止) Cadance plagale(変格終止)Cadance rompue(偽終止)Cadance im parfact(不完全  終止)Demi Cadance (半終止)Cadance 6vitee(V→転調)と答えなければならない。 以上のことを順序は異るが、毎日ひと通りやらされる。先生は、この教育内容はフランスで は小学校の一年生からずっと同じ方法とをってきたと云われるが、ずいぶん課題が多く、私達 のクラスも、3時間では時間不足で、授業はいつも時間延長された。  授業に対する生徒の反応は、聴音、視唱、楽典に関しては、日本人が比較的よくできるとい われたが、日本のソルフユージュ教育の中で経験しなかったもの、日本のソルフェージュ教育 の中に組込まれていなかったものに出会うと、知識の中にあっても、それを音楽に応用すると なると苦しかった。とくに音部記号が変ると、とたんに読めないし、リズム聴音、リズムよみ など、なれるまでは大変な苦労を感じた。  私達は音符を、音高を知る手段としてしかよんでいなかったので、言葉、文字としてすぐに 読む力がない。 先生は「聴音などで、かなりむつかしい音をとることができるのに、こんな簡単な音部記号の よみができないのは不思議だ!」と云われたが、そうした教育を受けた経験がなかったこと は、その必要性をあらためて痛感さされた次第である。  リズムも日本の場合は、音高とリズムがいつも一緒であるため、音高に意識を奪われてリズ ムへの関心が、どうしてもうすくなってしまう傾向がある。  リズムの基礎パターンは旋律聴音や視唱、視奏の中で養わされ、覚えさされていくが、それ 以上進んだ、より広い応用として、リズム聴音、リズム読み、という課題を勉強する必要性を 再認識した。  言葉にリズムがあるのと同じく、音の流れは必ずリズムを伴う。音の流れをよみとると同時 に、リズムの動きがっかめないと、音楽として表現することはできない。特にリズムは頭で考 えて理解するだけでなく、身体で感じ、表現するものである。日常生活の中にもリズムはある し、人は誰でもリズム感覚はもっている。音楽の中でのリズムは、拍にのっていなければなら ない。この拍の中でのリズム表現は、音楽がすべて全身表現であるなかでも特に、身体反応を 必要とする、ということも考えさされた。  私達は中学校で、音楽の三要素は、リズム、メロディー、ハーモニーであると習った。とこ ろが、メロディーのみ重視されたり、ハーモニーだけの聴音で終ったりして、リズム聴音とい う種類の教育は、重視されていなかったと反省している。  リズムの勉強は、身体が充分に反応を示すまでやることが大切である、と切実に思い知らさ れた。音高のみにとらわれないで、拍の中でしっかりした身体反応が得られるまで、ソルフェ ージュ教育に於て、リズムの勉強が絶体に必要である。       52

(13)

「ポワティエ夏期音楽大学に参加して」  リズムについてもう一つ。ピアノの特別公鵬講座を聴講して、ペルル・ミュウテル先生の指 摘の中に、和音の扱い、フレーズ、指使い、ペダルの注意等と共に、tempoとリズムの注意 があった。先生が手拍子を打たれて、生徒にきびしくリズムを直されるのをきいて、これはソ ルフェージュの問題であると思った。  次にルジェ先生から、フランスに於るソルフェージュとソルフェージュ教育の現状について 伺うことができたので、その中のいくつかを書いてみる。  フランスでは文化大臣マルセル・フラルスキーが、地方へ音楽を進め人材を広くから集める ために、地方へ音楽院を沢山つくった。ポワテイエ国立音楽院も音楽とバレーの2ツのコース を持っているが、パリでは各区、各町ごとに公立の音楽院がある。この音楽院の先生になるに は、非常にむつかしい国家試験があって、それに合格しなければならない。  フランスでは、早い人は四才ぐらいから、普通は六才ぐらいから音楽の勉強を始めるが、各 音楽院では楽器(実技)を始める前に、必ず一年間ソルフェージュを習わなければ、原則とし て実技は始められない。  フランスの親達もソルフェージ、。を大変ややこしい、むつかしいものであると考えていて、 あまり子供達にやらせたがらないので、「ソルフェージュ」という言葉を「基礎教育」という ように変えようとしているが、中味は同じである。ソルフェージュは面白くないもの!と思わ れがちであるが、ソルフェージュの目的は、楽譜というものをどこまで音楽としてよみとり、 感じとる能力をつけるか、ということで、ソルフェージュそのものが目的ではなく、実際の音 楽、音譜に密着したものでなければ生きない。楽譜、に使われるすべての記号を知るには、耳 の訓練、リズムの訓練など、身体反応が必要である。これ等の訓練はなるべく子供のうちから 始めるのが望ましいと先生は話された。  1」本でもソルフェージュを、入学試験のためのものとか、入試課題にあることができるよう になるのが、ソルフェージュの目的であるかのように考えられたりすることが多い。これでは ソルフェージュのためのソルフェージュで、本来の目的を達成することはできない。勿論、入 学試験は専門家になるための大きな関門であり、その課題に対応する能力をもつことは大切で あるが、それがソルフェージュの目的ではない。 ソルフェージュとは、ルジェ先生のお話にもあるように、実際の音楽に密着したものであり、 すべて音楽するうえに生かされるものでなければならない。 父兄会からご援助をいただき、深く感謝いたします。 53

参照

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