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サービス戦略に関する基礎的考察

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サービス戦略に関する基礎的考察

別 府 俊 行

1.はじめに  近年のわが国のサービス経済化の進展は、改めて指摘するまでもあるまい。  広義のサービス業である第三次産業は、GDPに占める割合で72%(2002年)、就業者比率で 66%(2003年)と、一貫して拡大を続けているし、家計消費支出に占めるサービス支出も1970年 の27%から2003年には42%に上昇している1。  さらに重要なことは、製造業においても、単にモノを作っている製造部門だけでは、需要停 滞と国際競争の中で付加価値が確保しにくくなり、企画、研究開発、販売、アフターサービス といった業務が重視されるとともに、これらサービス部門が大きな収益源になりつつある。こ の前工程と後工程に位置するサービス部門の方が付加価値が高くなる現象を、付加価値曲線が U字型をしているためスマイル曲線などと呼んでいる。  経済活動の主体は企業と家計であるが、産業・社会の発展に伴い、両者に代行サービスの需 要が発生する。特に企業においては、購買→生産→販売→在庫・物流→経理・労務等々の多く の機能を果たさねばならないので、効率の点から他の機関に任せるという形で、広い意味での 企業向けサービス産業つまり第三次産業が形成され、経済のインフラとなってきた。  この第三次産業は、一般に製造業のように一箇所で大量生産・在庫することができず、顧客 が集まる各地の都市で事業を分散させることになる。そしてその分散した事業所や顧客を最適 化制御によって結び付けようとコンピュータが登場した。つまり第三次産業の進展は、情報化 社会、更にはそのソフト技術開発ニーズの増大に伴ったソフト化社会を同軸上に招来せしめ た。又第三次産業は多くの労働力を必要とし、その結果雇用の増えた女性の社会進出に伴っ て、食事・洗濯・教育などの家事労働を代行するサービス需要が発生し、飲食店・クリーニン グ店・教育産業などの個人向けサービス業が発展してきたのである。  しかし考えてみると、わが国第三次産業の多くは、第二次産業の技術革新、特に戦後1950~ 60年代の重化学工業化、1970~80年代の素材革命・情報革命などの度重なる近代的産業革命に よる労働生産性の向上に引っ張られる形で、表面的成長を遂げてきたに過ぎないのではないだ ろうか。金融・運輸などは手厚い政府の保護政策のもとで独占的・独善的な体質が染み付いて しまっているし、流通業などもリスクを負担しない体質が出来上がってしまって2、おいそれ 1 総務省統計局監修『統計で見る日本2005』(財)日本統計協会、2004年、P298 2 拙稿「中小小売戦略に関する基礎的考察」オイコノミカ33-3/4号,1999年

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とは体質改善できない。また飲食店、クリーニング店、理美容院などの狭義のサービス業も、 参入が容易なため競争激化→低収益・高廃業の構図からなかなか脱出できない。そのためわが 国サービス産業は、付加価値を大きく伸ばすことができず、低生産性で労働集約的な状況が当 然となり、就職先やわが国経済の牽引力という点から見ると問題も多く残っている。  さて本稿を執筆するに当たって、サービス・マネジメント論、サービス・マーケティング論 そしてサービス本質論、ホテル経営、飲食店経営等々の文献を渉猟したが、内容が多種多様で 広範に渉っていたり、“サービスとはこうあるべき”といった精神論が多かったりと、実践的 な理論・技法に関する内容が少ないように感じた。  このようにサービス経営についての研究がなかなか進展しない理由について、筆者は次のよ うに考える。  まず1つは、サービス概念自体が多義的で、サービス業といっても範囲があまりに広いた め、一括りに論を進めることができず、実践に有用な理論にまで到達できない。  2つ目は、だとすれば従来の経営学、マーケティング論を援用すればよく、あえてサービス 経営に絞った研究でなく、個別業種の経営として研究すればよい。  この後者については、モノとサービスは連続線上にあり、どちらの要素が多いか少ないかに 過ぎないというJ.M.Rathmellの理論3があるし、G.L.ShostackやSasserなどは、すべての製品は有 形のモノ部分と無形のサービス部分の結合体であり、その結合の仕方によってマーケティング 戦略も各々に決定されると考えた4。  これらモノとサービスの一元論的アプローチに対して、サービスをモノに付随したものでは なく、サービス独自の性質・機能があり、サービスそのものを研究対象にしようとした二元論 的アプローチもある。例えばC.H.Lovelockは、サービス特有の性質に基づいて、サービス・ マーケティングとオペレーション・マネジメントそして人的資源管理の統合を唱えている5。  本稿では、この二元論的アプローチを前提に、サービス業を特徴づけている独自の特性につ いて既往の理論を整理し、そこからもう一歩突っ込んだオリジナルな理論の展開を試みる。ま た本稿は著書の出版をにらんでいるので、表現はできるだけ平易にした。 2.サービス概念に関する予備知識  まず、議論を簡潔に進めるためにサービスについての定義から押さえておかねばなるまい。 サービスという言葉には、「あの店の店員はサービスが良い」という態度的サービス、「サービ ス精神をもって仕事をする」という精神的サービス、「お買い上げのお客にはこれをサービス します」という犠牲的サービス、「引越しサービスは当社に」という機能的サービスの4つの 意味で使われるが、ここでは、経済的な取引の対象となる機能的サービスのみに限定する6。

3 J.M.Rathmell ” What Is Meant by Service?” Journal of Marketing,Vol30,1966

4 G.L.Sostack “ Breaking Free from Product Marketing” Journal of Marketing,Vol41,1977 5 C.H.Lovelock “ Service Marketing” Prentice-Hall,2000

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 つまり経済学において伝統的に捉えられてきた「財とサービス」のサービス財のことで、強 いて定義づけるとすると、“顧客に何らかの効用をもたらす無形の財(活動)”ということにな ろう。  次に、サービス業の定義についても言及する。  冒頭で述べたサービス経済化では、第三次産業をサービス産業(広義のサービス業)と捉え ており、日本標準産業分類(2002年改訂)によると、G(電気・ガス供給業)からH(情報通信 業)、I(運輸業)、J(卸・小売業)、K(金融)、L(不動産)、M(飲食・宿泊業)、N(医療・福 祉)、O(教育)、P(複合サービス)、Q(その他のサービス)、R(公務)まで規定している7。  そして卸・小売業や電気・ガス、金融業などを除いた情報サービス業、飲食店、ホテル・旅 館、病院、理美容院、クリーニング店等を、無形財の割合が比較的大きい(狭義の)サービス 業と呼んでいる。ちなみに、この中で事業所数では飲食店、理美容院、クリーニング店が最も 多いが、従業者数では病院関係が最も多くなっている。 本稿の研究対象は後者の(狭義)サービス業となるのだが、何せ業種が広範にわたっているの で、あくまでも念頭に置くということで、とりあえず比較的共通した部分から抽出されるテー ゼ(仮説)を整理しておきたい。 【仮説1】サービス特性には、①無形性 ②不均質性 ③生産と消費の不可分性 ④非貯 蔵性 がある。 ①無形性  サービスは固定的なモノとは異なり、目に見えない行為であるため、購買前に見たり触れた り、商品テストをすることもできない。つまり事前にサービス品質を確かめようとすること は、一般に困難である。  そのため、できるだけサービスの品質が理解できるようパンフレットやビデオ等でVisual化 して、顧客に訴求する必要がある。 ②不均質性  人の行為であるサービスは、担当者によって品質のバラツキがある上、その日の調子によっ てもバラツキが発生するため、特に労働集約型のサービス業においては、サービス品質の均質 化が難しい。  そのため、サービスの工業化と言われるような仕事の標準化・マニュアル化を進めたり、各 人の体調等を配慮した気配りマネジメント、などが重要になってくる。 ③生産と消費の不可分性  形のあるモノは生産→輸送→販売→消費が時間的にも空間的にも分離されているが、多くの サービスは、まず販売され、その後生産と消費が同時同所で行われるため一過性となり、反復 使用や取替え、品質のチェックなどができない。つまりサービス生産のミス・欠陥があると、 7 総務省『前掲書』PP300-303

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顧客の信用は一気に失墜しやすい。  そのため、サービス提供の当事者(Contact Personnel)の対応が全てとなり、その適性や現 場での権限委譲、言葉づかい・マナー・臨機応変さ等の接客訓練、などが極めて重要となる。  サービス・マーケティング研究においても、このサービス提供者と顧客との接点であるサー ビス・エンカウンターの重要性が指摘されている。R.Norman8はサービス提供者と顧客との相 互作用を「真実の瞬間」と呼び、J.Carlson9の著書『真実の瞬間』では、スカンジナビア航空 を利用する客年間1000万人が1人平均5人の従業員と接触し、合計5000万回の1回の印象に よって航空会社へのサービス品質が評価されるとし、サービス業従業員に求められるvitalな 役割を強調している。 ④非貯蔵性  ③に関連して、サービスは生産と消費が同時同所で行われるため、在庫貯蔵・輸送ができな い、つまり作り置きが出来ないので、需要の変動に対応しにくい。  そのため、予約システムやオフシーズン、アイドルタイムの割引などで需要の平準化に向け た様々な工夫がなされている。 【仮説2】 サービスは、本質サービスと付帯サービスに分けられる。     一般にサービス商品が顧客に効用をもたらす時、3つのサービス機能を提供していると考え られる10。  1つは、本質サービス(結果品質ともいう)で、顧客が支払う代価に対して当然受け取ること ができると期待されるサービスである。例えば、ホテルの本質サービスは“安全な宿泊場所の 提供”であり、銀行のそれは“安全・確実・公平なカネの管理”であり、タクシーで言えば “安全・便利に目的地まで運んでくれること”である。  2つ目は、本質サービスに付随する副次的サービスで、付帯サービス(過程品質ともいう)と 呼んでおく。これは代価に対して必ずしも当然とは思わないが、あればそれなりに満足度が高 まるうれしいサービスである。例えば、ホテルでは豪華な、あるいはアットホームな雰囲気や コンシェルジェ サービス、モーニング コール、ケータリング サービス等々であり、航空会 社も美人のフライト・アテンダント、飲物・食事 音楽のサービス等でよりリッチなフライト を演出している。  3つ目は、非定常的なサービスで、かく乱要因が生じた時に状況適応的に対処する状況適応 サービスである。例えば、ホテルの火災や飛行機の故障といった不都合時に対処するものと、 顧客が特別扱いを要求した時の対処である。但しこれは常時求められるサービスではなく、非 常時でのサービス活動なので、通常のサービス・マネジメントの議論から少し横に置いておき

8 R.Norman” Service Management” Jhon Wiley&Sons Ltd.,1991

9 J.Carlson” Moment of Truth” 堤猶二訳『真実の瞬間』ダイヤモンド社, 1990年 10 近藤隆雄『サービス・マネジメント入門』生産性出版,1995年 pp35-45

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たい。  嶋口充輝教授によると、本質サービスは、顧客が本来の期待に対して購入するものであり、 そ の 実 績 評 価 が 最 低 許 容 水 準 以 下 の レ ベ ル で は、顧 客 満 足 は マ イ ナ ス と な っ て し ま い (dissatisfaction)、顧客は大きな不満とともに流出していくだろう。その一方で、付帯サービス については顧客の期待値はそれ程大きいとは考えられず、期待以上の実績評価があると顧客満 足に繋がりやすい。つまり、顧客満足を狙う企業は、何よりもまず不満を起こさないように最 低許容水準以上の本質サービスの充実を図り、その上で効率的に満足水準を高めるために付帯 サービスの充実、それもすべての充実は必要なくどれかのサービスの突出、に向けた資源配分 を計画すべきだ、という興味深い仮説が説かれる11。     【仮説3】 サービス品質(=顧客満足)=実績評価(便益の束)-事前期待(価格の関数)  サービス商品は有形財と異なり目に見えない。有形財は機能・形態が一定しており、それを 客観的に測定し、他の有形財と比較するのは可能であろう。対してサービス商品は、顧客の感 じや状況に応じて極めて主観的な判断が下される。このことは突き詰めれば、顧客の主観的な 満足度合でもってサービス商品の品質を判断しているといって過言ではない。  この顧客の心理的な満足度合については、購入しようとするサービス商品への事前期待と、 それを購入することによって得られたパーフォーマンス(実績)評価の差で感じるもの、と考え られる12。そして前者の事前期待というのは、価格、広告宣伝等の関数であると考えられる し、後者、実績評価については、サービスによって顧客が享受した便益の束に対する主観的な 評価であると考えることができる。  つまり顧客は、価格が高ければそれなりのサービスを期待し、それが期待はずれの場合は失 望することになり、結果他の店・企業に流出することになるであろう。反対に価格が安かった り、たまたま入った店で期待以上の良質なサービスを受けたならば、顧客はうれしくなり、満 足度合は高まり、また利用したいと心に誓うであろう。  我々は大学病院で1時間以上待たされても仕方がないと思うが、JR九州の度重なる、理由 のない列車遅延13には苛立ってくる。又高級リゾート・ホテルでの食事の不味さはクレームの 対象となるが、安いホテルでのそれは何となく勘弁できる。  要するに、サービスの品質は主観的な顧客満足で評価され、それは上式のようなギャップに よって発露される、という一つの考え方である。  そして以上から、次のサービス・マネジメントのポイント(仮説)が導かれる。 (1)顧客がサービス品質のマイナスを感じる“事前期待裏切りサービス”を回避するため、広 告・宣伝・セールストーク等は腹八分で抑えて、事前期待を必要以上に煽らない。 11 嶋口充輝『前掲書』 12 近藤隆雄『前掲書』pp56-63及び嶋口充輝『前掲書』pp74-78 13 東京、大阪の人は信じられないかも知れないが、私鉄との競合の少ないJR九州は、平気で列車が3~10分 遅れる。

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(2)同時に、サービス・パーフォーマンスのバラツキを抑え、何時でもサービス品質が安定し て良質であるという“サービス品質の均質化”は重要な課題である。  因みに、事前期待を上回るパーフォーマンスが実現できた時、従業員にも満足とやる気が生 まれ、組織が活性化すると考えられる。 (3)また近年、顧客とサービス提供者との差異が、事前期待の面(知識ギャップ、内部意思疎 通ギャップ)や事後評価の面(認識ギャップ)で発生していないかを確認するギャップ分析 という手法も開発されている14。 【仮説4】  以上は、サービス提供企業がサービス商品を生産し、それによって顧客満足を獲得し、自社 に収益をもたらすという因果関係を、サービス・プロフィトチェーンの概念を参考にしながら まとめてみた15。  サービス商品の多くは無形財とともに有形財が混合された状態で提供される。無形のサービ ス部分においては、サービス担当者のスキル(技能)とホスピタリティ(もてなし)によって顧客 への便益が形成されるが、このスキルとホスピタリティは、従業員教育と従業員満足に下支え され向上すると考えられ、そのバックヤードには社内サービス支援体制の存在がある。特に注 視すべきは、従業員の満足なしに顧客満足はあり得ない、ということ。ここまでをサービス提 供システムと呼んでおく。  一方顧客は、サービス商品を購入することで得られるであろう便益の束を価格との兼ね合い で比較・選択し、購入・使用した結果として顧客満足が形成される。そのためサービス提供企 業は、顧客ニーズに合致するような便益の束と価格等の組み合わせであるサービス・パッケー ジ16を販売することになる。 14 C.Lovelock『サービス・マーケティング原理』pp108-112 15 C.Lovelock『前掲書』p155及び青木章通「サービス業の管理会計の基本的な枠組み」三田商学研究p148より 16 サービス・パッケージとは、R.Normanによると「顧客に提供される一連の関連するアイテム」と定義されて いる。

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 そして顧客満足によってもたらされた顧客ロイヤリティがリピート購入を促し、新規顧客開 拓に比べはるかに安いマーケティング・コストで17売上が拡大して、企業の収益性に貢献する という因果関係が出来上がる。この部分をサービス評価システムと呼んでおく。  ここでのポイントは以下の通りである。 (1)顧客満足については、企業側の独りよがりな、楽観的な判断ではなく、できるだけ客観的 なモノサシで定期的に測定しておく必要がある。 (2)後半の、顧客満足から収益性に繋がる関係が一義的に、何時でも成り立つものではないこ とは、自明であろう。このような因果関係(プロフィット・チェーン)は、好循環サイクルが形 成された場合の体系仮説と捉える方が妥当である。  つまり、ここでマーケティングの問題が浮上してくるのである。サービスを顧客に訴求し売 上を実現するためのProduct Planningや価格、Promotion等を、サービス・パッケージ戦略とし てどのように展開すればよいかが、次の大きなテーマとなってくる。次節ではこの点について 深く考察してみる。 3.サービス・パッケージ戦略のモデル化 【仮説5】 顧客満足と収益性は戦略によって両立が可能となる。  さて、サービス提供者(Contact Personnel)が基本的に身に付けておくべき能力やサービス精 神、行動規範等については、多くの文献・事例研究で様々な言明がなされている。例えば、顧 客に対する理解力・気配り、知識・実行力をベースにした信頼・安心感、感じの良い外見、人 間的な誠実さ・清廉さ等々である18。  ここで最大公約数的に、“誠実・愚直なサービス”という姿勢で仮に括るとする。顧客の欲 求やニーズ、或いは感情等が含まれた事前期待に対して、顧客の立場に立って親身に聞き入 れ、顧客が納得するよう精一杯のサービスを行う。また出来なければ他に助力を求めるなどし て最大の努力をする。無形であるサービスは結果品質が見えにくいので、その過程において一 生懸命、愚直にサービスに励む姿勢を見せなければ顧客は安心できないし、企業の論理ではな い個人的な誠実さを示すことにより、顧客は好意的に感じ取り、信頼を寄せるであろうこと は、容易に推察せられるからである。  しかもこれは、日本人の多くが遺伝子的に保有しているホスピタリティとも言える。おそら く、わが国従業者の勤勉性や和を尊ぶ精神、比較的安定した雇用関係が、コツコツと仕事をす る余裕や顧客の喜びを優先する余裕を生み出し、このような愚直とも言える仕事の姿勢を定着 させてきたのではなかろうか。諸外国が日本のサービス(というよりホスピタリティ)を賞賛す る所以である。 17 例えばSzaboによると1/6で済むという報告がある。 18 ロン・ゼンケ『サービスのバイブル』ダイヤモンド社、田辺英蔵『サービスの法則』PHP等々より

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 ところが、このような姿勢によって顧客満足が向上するのは想像に難くないが、それが収益 性に連動しないケースが考えられる。 ①過剰なサービス提供による、コスト増加に伴った収益性低下と ②反対に収益性を重視してサービスの量と質を制限した結果としての機会損失発生や顧客満足 低下の発生である。  ①については、過剰なサービス提供を無制限で行うことを控えるため、提供するサービスの 範囲と価格について見積等で制限を設け、事前に顧客に了解してもらう。その上で顧客が過剰 なサービスを要求してきた場合には、顧客の事情とコスト等の影響も考慮しながら限定的に対 応するという判断も行うべきであろう。このような例外的な判断のため、サービス理念に基づ いた事前の規定と従業員教育が必要となる。 ②については、やはり企業の事情でサービス生産量が過小で、機会損失が発生している理由 を顧客に了解してもらうことで、一時的には対応し得るが、長期的には顧客も事前期待を持た ないようになり、需要が縮小してしまうであろう。ましてや顧客満足の低下となれば、クレー ムという意思表示から悪評の喧伝に繋がり、結果として、収益優先→機会損失発生・顧客満足 低下→悪評と顧客流出→値上げ等による収益回復→さらなる顧客流出→市場のshrink という、 かっての国鉄のような悪循環サイクルに陥ってしまう可能性が高い。  いずれにせよ、サービスの姿勢や生産量(→顧客満足)を説くだけではマネジメントとしは 不十分で、顧客満足が収益性に連動しない場面を予測することは難しくない。よって〔図-1〕 のようにサービス・パッケージ戦略、そしてサービス・イノベーション等の議論によって、効 果(顧客満足)と効率を両立させるマネジメントを考える必要があることがわかる。 図-1.顧客満足と収益性

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 そこで次に、サービス・パッケージ戦略について考えてみる。本稿ではこれを顧客が強く求 めるサービス機能と、それに対する価格という2つの視点から分析してみたい。  まず、サービス特性として、サービス商品(本質サービス)の品質の標準化が比較的進んだ分 野と進みにくい分野とがあると思う。  例えば、前者では、わが国のホテルや自動車・鉄道・航空等の運輸サービス、金融サービス などであろうが、そこでは本質サービスの不満・不安はそれ程大きくないので、雰囲気や親し みやすさ等の付帯サービスが差別化のポイントとなるであろう。  後者については、病院、理・美容院、教育・情報・コンサルティングのサービスなどであろ うが、そこでは顧客は本質サービスへの期待、というより不安が大きく、付帯サービスについ ては二の次と感じるであろう。よってスキル(技術)の向上と更なるその開発に努め、顧客が感 じる不安を解消していくことが、重要な差別化ポイントとなる。  次に、ターゲット客層或いは使用頻度から見て、高価格政策が打ち出せそうな場合と低価格 でなければならない場合とがある。  例えば、価格よりも中身を重視する顧客を相手にしたり、そう何度も利用しないサービスに ついては前者に当たる。そこでは価格の品質表示機能が働き、安いと不安なので高いものが選 択されるが、高価格なので事前期待も大きく、結果品質に満足できない時はクレームや最悪訴 訟問題にも発展する可能性がある。  反対に価格が安いとありがたいと思う日常サービスが後者に当たり、そこでは企業も可能な 限りコストを抑えながら、不満足を極力解消するメカニズムを考えていかねばならない。  この2つの軸から導き出されるサービス・パッケージの戦略optionは次頁の通りである。  まず、品質の標準化が進みにくいサービス分野で、使用頻度が低く、それ故高価格政策が可 能な場合(Ⅰ)はハイ・クオリティ戦略となり、ここでは本質サービスへの不安を解消すべく スキル(技術)の向上と品質の安定が欠かせない。特にサービス品質を高いレベルで安定化する ための管理手法は、我々が取り組まねばならない大きな課題であろう。そして同時に、そのス キルの高さをサポート情報によって裏付けし、訴求していくマーケティングを組み合わせてい くべきである。この戦略を、例えば雑誌に紹介されることにより客が集まる有名美容室型と名 付けたい。  主藤孝司[2004]は、レーザー光線で角膜を切る近視矯正手術であるレーシック手術では、 サービス品質(手術)の普及・標準化が進んでないため、不安の方が先立ち、いくら価格を安く しても需要は伸びないどころか、安すぎて不安だ、と警戒されてしまう、という顧客心理を説 明している19。これは一般の病院にも敷衍でき、診察・治療とそれに伴う苦痛など患者の大き な不安を払拭するため、プロとしての実績・丁寧な説明・医療ミスを防ぐ管理体制といった本 質サービスの質の高さこそ全てであると言って過言でない。そしてその品質の高さをサポート 情報によって訴求するマーケティングも必要とされる。 19 主藤孝司『一瞬でキャッシュを生む価格戦略プロジェクト』ダイヤモンド社

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図-2.サービスパッケージ戦略  次に、本質サービスの品質面の不安はそれ程感じないサービス分野で、高価格政策が採られ る場合(Ⅱ)はハイ・アメニティ戦略となり、雰囲気や娯楽性、高級感、従業員のサービスの 良さなどの付帯サービスを突出させ、口コミで話題になったり、サービス商品をVisual化した プロモーションで大々的に訴求するなど、人(質の良い従業員)と金(凝った施設)と時間(評判 と歴史)をふんだんに使ったマーケティングが必要とされる。この戦略を例えれば、魅力的な アトラクションだけでなく、ゴミひとつ落ちていない快適な施設と従業員の質の高いサービス で、ダントツの顧客満足を獲得しているディズニーランド型と名付けたい。  例えば、シンガポール航空は、大きく快適な機体とAV機器、美味しい食事とフリードリン クのサービス、そして民族衣装サロンケパヤに身を包んだスチュワーデスによる“高級ホテル 並みの温かいサービス”で、世界一サービスの良いエアラインとして不動の人気を得ている。  そして、本質サービスに重点を置き、低価格政策を採る場合(Ⅲ)は専門特化戦略、すなわ ち本質サービスのみに専門化・集中化し、他のサービスを省いて低価格を実現するやり方で、 ここではサービスの省略が顧客に不満を招くことなく低価格を可能にする旨、市場に納得して もらうよう提案型マーケティングが必要となる。この戦略をたとえて言うならば、まさに一晩 寝るためだけのカプセル・ホテル型と名付けたい。  例えば、サウスウエスト航空は、座席指定がない、機内食がない、ファーストクラスがない とないないづくしながら、格安の航空運賃と発着時間の正確さ、親切でユーモアのある従業員 で、高い顧客満足を実現し、アメリカ顧客満足度指標(ACSI)の航空輸送部門で最高のポイント

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を得ている。  最後に、付帯サービにも重点に置き、低価格政策を採る場合(Ⅳ)はサービスの工業化、つ まりサービス品質を一定のレベルに統一させるべく機械化・標準システム化・マニュアル化等 を図って、パート・アルバイトでも予定のサービス品質が出せる運営方式を構築する戦略とな る。この戦略をたとえて言うならば、まさに店長一人とアルバイトだけで効率の良い売上を作 り上げているマクドナルド型と名付けたい。  無論、これらの区分は曖昧かつ相対的なもので、実際にはこれらの戦略optionを組み合わせ て、サービス提供企業は差別化を進めている。特に中小サービス業は、低価格戦略を採るなら ばそれなりのサービス工業化に向けたシステムを構築することが前提で、一般的には本質サー ビスの品質を上げるとともに、地道な固定客づくりによりブランドを構築していくことを狙う べきであろう。  以上、顧客満足と収益性をにらんだ経営資源の配分を計画するサービス・パッケージ戦略に ついて考えてきたが、しかし模倣可能性という点から見ると、これらは必ずしも持続可能な、 強い戦略とは言い難い。  そもそもサービス業は、スケールメリットがあまり働かず、際限の無い価格競争に陥りやす い業種といえよう。料金の大部分が粗利益だという極めて粗利益率の高いビジネス故に、その 範囲内で値引きをする余地があるからである。  では、このサービス業の過当競争と泥沼的価格競争から脱するための手だてはあるのであろ うか。  筆者は3つあると考える。1つは、従来のサービス業界の常識を打ち破るような画期的な新 サービス商品を開発すること。これまで不透明であったサービス価格を明朗・格安にしたり (当然サービス工業化の仕組みを開発する)、驚くようなサービス・パーフォーマンスを見せた り、といった非連続的で革新的なサービス商品を創り出すことにより、それなりに市場地位を 築いている競合企業が同質化しずらくなるような状況に追い込む戦略(C.M.Christensenの言う 破壊的イノベーション)である。  2つ目は付随する戦略であるが、顧客との関係性を緊密化し、顧客に浮気をさせないように するブランド戦略。  3つ目も付随する戦略であるが、他社との連携により経営資源の補完・強化を図り、圧倒的 競争優位な状況を作り上げてしまおうとするネットワーク(提携)戦略である。  そしてこの3つの戦略を、ここではサービス・イノベーションとして〔図-1〕に取り込んだ。  例えば、引越しサービスにおいて、見積りと実際の追加料金を加えた請求額のズレが顧客の 不満のもとであったのを、アートコーポレーションやヤマト運輸は、「これ以上一切いただき ません」という明朗なパック料金を設定した20。 またNECフィールディング㈱は、トラブル時に顧客から電話の入るコールセンターに第一 線の優秀な技術者を多数配置し、多くの端末情報を駆使しながら的確・スピーディにトラブル 20 山田英夫『逆転の競争戦略』生産性出版 pp143-145

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を解消するだけでなく、トラブル予防処置も提案し、トラブル減少に伴う顧客満足とコスト削 減の同時実現を可能にしている21。 4.むすび  わが国のサービス経済化は、その労働集約性故に内外価格差の主因になっているとの批判は あるものの、今後とも着実に進展するだろうし、日本経済を支えていかねばならない運命にあ る。これは消費の面から見ると、利便性や生活の質が高まり、好ましいことであるが、経済・ 雇用の面から見ると、パート・アルバイト労働の需要ばかり増え、正社員として働くには魅力 の乏しい企業が少なくないし、雇用のミスマッチも起こりやすい。  しかし、病院や情報サービス業などは高度な知識・技能が必要とされるし、ディズニーラン ドのように、そこで働くことに誇りと生き甲斐を感じるような質の高い企業もある。サービス 業自体を産業として高度化するとともに、サービスの価値や値段を認め、サービス・スタッフ の労働条件を改善していかないと、わが国のサービス経済化の未来は暗い、と筆者は考えてい る。  そこで本稿では、サービス業が企業として成長・発展するため、顧客満足と収益性が共に伸 びるマネジメントをどのように計画すればよいかを考え、顧客の求めるサービス機能に合わせ て、業態戦略を構築するモデルに到達した。  つまり、顧客に提供する便益の束と価格の組み合わせであるサービス・パッケージ戦略につ いて4つに分け、それぞれⅠハイ・クオリティ戦略、Ⅱハイ・アメニティ戦略、Ⅲ専門特化戦 略、Ⅳサービス工業化といった業態戦略とそのマーケティング展開を示した。そしてこれを サービス・イノベーションにまで昇華すれば望ましいことも示唆した。  無論これは一つの仮説にすぎず、しかもあまり切れ味の良い分類でなかった。加えてサービ ス業では、サービス提供システムである人的マネジメントの部分(いわゆるインターナル・ マーケティング)も戦略(エクスターナル マーケティング)に伍して重要であると思われるが、 これも十分に言及できなかった。これらを今後の課題として、引き続きサービス・マネジメン トの研究を進めていきたいと思っている。 <参考文献>

J.M.Rathmell “ What Is Meant by Service?” Journal of Marketing,Vol30,1966

G.L.Sostack “ Breaking Free from Product Marketing” Journal of Marketing,Vol41,1977 J.Carlson ” Moment of Truth” 堤猶二訳『真実の瞬間』ダイヤモンド社, 1990年 R.Norman ” Service Management” Jhon Wiley&Sons Ltd.,1991

P.Kotler&Armstrong “ Principle of Marketing” 和田充夫・青井倫一訳『新版マーケティング原 理』ダイヤモンド社 1995年

C.Lovelock&L.Wright “ Priciple of Service Marketing and Management” 小宮路雅博監訳『サービ ス・マーケティング原理』白桃書房 2002年

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K.Albecht&R.Zemke “ Service America in the New Economy” 和田正春訳『サービス・マネジメ ント』ダイヤモンド社 2003年 浅井慶三郎・清水滋『サービス業のマーケティング』同文館 1985年 田村正紀『現代の市場戦略』日本経済新聞社 1989年 高橋秀雄『サービス業の戦略的マーケティング』中央経済社 1992年 嶋口充輝『顧客満足型マーケティングの構図』有斐閣 1994年 近藤隆雄『サービス・マネジメント入門』生産性出版1995年 浜野安宏『サービスの次元』ダイヤモンド社 1995年 山田英夫『逆転の競争戦略』生産性出版1995年 DHB編集部編『顧客サービスの競争優位戦略』ダイヤモンド社 1998年 近藤隆雄『サービス・マーケティング』生産性出版1999年 鈴木博・大庭禎一朗『基本ホテル経営教本』柴田書店 1999年 羽田昇史編著『サービス産業経営論』税務経理協会 2002年 浅井慶三郎『サービスとマーケティング』同文館 2003年 白井義男『サービス・マーケティングとマネジメント』同友館 2003年 嶋口充輝・内田和成編著『顧客ロイヤリティの時代』同文館 2004年 畠山芳雄『サービスの品質とは何か』日本能率協会 2004年 高橋安弘『サービス品質革命』ダイヤモンド社 2004年 服部勝人『ホスピタリティ・マネジメント入門』丸善 2004年 岸川善光編著『イノベーション要論』同文館 2004年 ロン・ゼンケ編 和田正春訳『サービスのバイブル』ダイヤモンド社 2004年

参照

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