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農林漁業と財政投融資
傳 田 功1商題の所在
近年わが国においては農業にかかわる論議が台頭し,農産物価格制度をめぐ る諸閥題や,農産物の自由化問題など,とりわけ過保護農政への批判といった 視点からの議論が高められてきている。本年の経済白書が,「農業改革への期 待」(ee ll部第3章第4節〉にかなりのページをさいていることも,最近にみられ ぬことであり,日本農業をとりまく環境の変化を反映するものといえよう。 わが国の農業が,国境保護や価格支持,あるいは生産補助金などの手段を通 じ,長期にわたり保護政策の対象とされてきたことは周知の事実であり,近年 それが国内外において,さまざまな摩擦を生む要因となってきた。経済白書が 今後の展望として,「土地利用型農業の生産性向上」とともに,政府に頼らな い自立農業の育成につとめ,「財政に大きく依存することなく」「国民的に理解 の得られる価格形成を目指していく」ことを,基本的かつ重要な課題としてい るのも当然であり,時代の要請といわねばならない。 ところで農業改革を進めていくためには,農林漁業にかかわる諸般の制度的 仕組みやその機能について理解を深めておかねばならない。農業部門において はとりわけ制度と政策との関連が複雑であり,農業改革の推進のためには,そ の前提として制度改革への取組みが急務とされるからである。小論においては とくに農林漁業に対する財政補助の観点から,財政制度と政策との関連を取り 上げ,その構造と機能について考察してみたいと思う。 農業と財政との関連については,従来農業補助金の動向や食管会計の赤字補 填といった,一般会計からの支出,すなわち農業財政支出の観点から取り上げられることが多かった。しかし財政資金の配分という点においては,財政投融 資制度を通ずる資金供給もまた大きな役割を果していることを看過することが できない。昭和28年度に確立された財投制度は,いわゆる財政投融資計画によ り,予算と緊密な相互補完の関係を維持しつつ運用されてきており,農業部門 においてももとより例外ではなかった。農業部門では第2次大戦後財投の役割 が高められてくる過程で,農林漁業にかかわる重要施策の多くが,国庫補助金 と財投との組み合わせによって推進されてきた事実を重視しなければならない のである。 かつて東畑精一氏が,「農林省は補助金分配機関」と評されたように,農業 部門においては,第2次大戦前から予算に占める補助金のウエイトの大きいこ とが特色とされてきたが,大戦後,昭和28,29年頃より,経費節約の観点から 1) 「補助金から融資へ」が,一種合言葉のように主張されるようになってきた。 ところでこの場合の融資とは民間金融機関からの融資というよりは,いわゆる 制度資金への依存を意味していた。融資の主流をなすものは財投資金による融 資であり,あるいは国や地方自治体の助成による民間資金の活用であった。融 資においては国その他の公的機関の介入がなされており,しかもそれらは国の 補助事業と結びつくものが少くなかったのである。 2 農業財政支出と財政投融資 第2次大戦後の農政の推移をみると,その重点的課題は時期的に変化し,国 の財政事情とも相まって,財政補助の形態にも多くの変化がみられてきた。農 林関係予算(一般会計)の動向をみると,大戦後昭和30年代半ばごろまでは,食 糧増産といった時代の要請から,土地改良事業を主体とする農業基盤整備費の ウエイトが高く,農業保険費や食管会計繰入れ費等がこれにつぐ支出項目とな っていた。かような状況は昭和30年代後半期から急激な変化を示すこととなっ た。農林関係財政支出全体が膨脹するとともに,支出項目のうち食管会計繰入 1) 「補助から融資へ」の意義については,加藤譲『農業金融論』第14章に精しい記述 がなされている。
農林漁業と財政投融資 55 れ費の増大が顕著となり,昭和45∼47年度においては,国の一般歳出に占める 農林予算の割合は15%をこえて戦後のピークに達し,46年度の食糧管理費は, 農林予算の42.7%を占めるに至っている。いわゆる高度成長期に,農工間の所 得格差が拡大し,格差是正のために価格支持政策などを通ずる財政支出が膨脹 したことや,昭和36年に制定された農業基本法に基づく農業近代化政策の推進 が,予算の急激な増大をもたらす原因となっていた。そしてかような支出増を 1)支えたのは当時の税収の増大であった。 前述のような予算の動向は,農林関係の財政投融資制度の面にも反映されて いた。特別会計や公団など財投対象機関の増設や,農林漁業金融公庫の貸付資 金制度の増加などがそれである。農林関係財投機関の設立経過にみると,昭和 / (第1表)農林:水産関係予算の概要 (単位:億円,%) 60年度 61年度 62年度 一般会計予算総額囚 一 般 歳 出(B) 農林水産関係予算総額に) (1)公共事業関係費
(2)食糧管理費
食 管繰 入等
水田農業確立対策 (水田利用再編対策)(3)一般事業費
CIA
C/B 524, 996 (3. 7) 325, 854 (AO. O) 33, Oe8 (A4. 6) 14, 102 (A2. 2) 6, 953 (A14. 5) 4,561 (A15. 6) 2, 393 (A12. 3) 11, 593 (A3. 7)31
ρUO1
540, 886 (3. 0) 325, 842 (AO. O) 31, 429 (A4. 8) 13, 746 (A2. 5) 5, 962 (A14. 3) 3, 683 (A20. 3) 2, 324 (A2. 9) 11, 721 (Al. 9) 8ρO FOQり 541, OIO (o. o) 325, 834 (AO. O) 30, 286 (A3. 6) 13. 424 (A2. 3) 5, 406 (A9. 3) 3, 580 (Al. 6) 1, 826 (A21. 5) 11, 456 (A2. 3) 5. 6 9. 3 (注)()内は,対前年度増▲減率である。 (出所)農林公庫『公庫月報』1987年6.月号49頁による。 1) 本間正義「日本の農業財政支出の構造」(『農業経済研究』第58巻第4号所収)参照。28年4月の農林漁業金融公庫の創設にはじまり,30年に農地開発機械公団(昭 和49年農用地開発公団に吸収)および愛知用水公団(43年水資源開発公団に吸収)が 設立され,翌31年森林開発公団が設置されている。32年度から特定土地改良工 事特別会計が財投対象機関となった。40年に八郎潟新農村建設事業団(52年農 用地開発公団に吸収)が設立され,48年から国有林野事業特別会計が財投対象機 関となり,造林等投資的支出に限り財投資金の導入が行われることとなった。 さらに49年農用地開発公団が創設されている。この間融資機関としての農林公 庫も制度金融の中核として,農政の新事業増加とともに,貸付資金制度を拡充 し,融資額を増大せしめてきている。 第1次石油ショックのあと,国の財政事情の変化や,農業をめぐる環境変化 などにより,一般会計予算に占める農業予算のウェイトは次第に低下していく こととなった。第1表は最近の農林関係予算の概要を示すものである。昭和62 年度の農林水産関係予算は総理府等他門所管の関係予算を含め,総額で3兆 286億円,前年度に比し1,143億円(3.6%)の減少,また一般歳出に占める割合 は9.3%であり,過去最低であった昭和35年度の9.5%を下回る水準となってい う る。また予算の内訳をみると食糧管理費の大幅な減少によるシェア低下が著し く,既述のような昭和40年代半ばごろの状況に比し,50年代以後公共事業関係 費のウエイトが高まり,62年度予算では総額の44.3%を占めている。 農林関係の財投機関においても,昭和50年代に入ってから多くの問題が生じ てきている。財投見直し論議や官業改革論が提起され,農業補助金の整理・合 理化とともに,とくに農林公庫の役割分担などにつき多くの議論がかわされて きた。これらの問題については次回以下でとりあげたい。 第2表は昭和62年度の財投機関の資金計画を示すものである。表示の特別会 計や公団等は事業機関であり,資金運用部資金がこれら機関を通じ,主として 生産基盤の整備や経営構造の改善等のために投入されている。農林漁業金融公 庫は融資機関であり,資金運用部資金のほかに簡保資金を原資として融資を行 2) 農林公庫『公庫月報』1987年6月号47頁参照。
農林漁業と財政投融資 57 (第2衷)農林関係財政投融資資金計画(昭和62年度) (単位:億円)
機関名融陰鍵礫簡wak 1合訓自晶金靹考計
(特別会計) 国営土地改良事 業特別会計 国有林野事業特 別会計 (公 庫 等) 農林漁業金融公 庫 (公 団 等) 農用地開発公団 森林開発公団 合 計 21 9仰−⊥ 6ハ0 ρ0ρ0 9召− にU農U21 21
6ρ◎ 脅0己U21
β060 1,313 1, 173 2, 550 2,370 4, 093 4,431 166 156 183 173 8, 305 8, 30320
33チ
9臼∩︶ りσ8 Qu2 1, 313 1, 173 2, 550 2, 370 4, 425 4, 711 166 156 183 173 8, 637 8, 583 2, 615 2, 409 754 250 ﹁◎9 ∩ロー ρ08 350 360 421 405 4, 835 4, 243 3, 928 3, 582 3, 304 2, 620 5,120 5, 530 516 516 604 578 13, 472 12, 826 (出所)大蔵省編『財政金融統計月報』1987年4月号により作成。 っており,融資先の企業や個人が事業を行うことになる。これら機関を通ずる 財投資金も,国の公共事業との関連のもとに,、活用される割合が大きく,公共 財としての性格の強い対象において,いわゆる資本形成にかかわる資金として 使用されている。 昭和62年度予算による農林漁業関係の財政投融資計画額(使途別分類による) は9,078億円であり,うち農林公庫分が4,425億円で半分近くを占めている。62 年度の農林予算総額3兆286億円に対し,財投計画額は約30%であるが,一般 会計予算のなかには消費的経費が多く含まれており,農政の重点施策との関連 でみた場合,投資的経費との関連の深い財政投融資の機能はきわめて重要であ ると考えられる。 3 財投対象機関と事業内容 すでに述べたように,農林漁業にかかわる財投対象機関は,昭和30年代以後 漸次増加し,農林関係予算と密接な関係を維持しながら農政の推進に大きな役割を果たしてきた。これら機関ごとにその設立経過や事業内容について概要を 記し七おきたし?。なお最も重要な機能を果してきた農林漁業金融公庫について は次節において取り上げたい。 (1}国営土地改良事業特別会計 本会計の前身は昭和32年に設置された特定土地改良工事特別会計である。そ れまでの土地改良事業が総花的に推進され,非効率な面が多かったため,事業 の早期完成,資金調達の円滑化,工事の経済性確保等を目的に設けられたもの で,巨額の資金を要し,工事に相当期間を必要とする国営干拓事業や国営単寧 排水事業を対象とする特別会計であった。資金調達の円滑化のために,事業費 の一部,すなわち県および地元負担金に相当する額につき,財投資金の借入れ を行うことが可能とされていた。昭和36年の農業基本法の制定を機に,土地改 良事業も従来の食糧増産目的の馬脚排水事業から,農業構造改善事業のための 農地整備事業のウエイトが高められ,圃場整備,農道整備,畑地潅概,草地改 良等の新事業が加えられてきているが,本特別会計においても,昭和51年度か ら国営農用地開発事業やこれとあわせて行う区画整理事業等が加えられている。 昭和50年代に入り,わが国農業をめぐる環境変化や財政事情等により土地改良 事業が延伸する傾向がみられるようになり,とくに55年度以降予算の削減のた め事業量の伸び悩みが顕著となった。このため「国費の効率的な使用による事 2) 業量の確保を図り,事業の進度の促進及び制度の運用の効率化に資するため」 に,昭和61年度から特定土地改良事業特別会計を改組し,新たに国営土地改良 事業特別会計が置かれることとなった。これによりすべての国営土地改良事業 が本特別会計において経理されることになり,また財投資金については「現行 の借入金を財源とする特別会計制度を拡充して,原則としてすべての従来の一 般会計国営土地改良事業についても,その事業量のうち国が負担する部分以外 の部分(都道府県負担金)の1部(地元負担分を除いた部分)について.借入金を財 1)農林関係財投機関の概要については,財政調査会編『国の予算』(昭和61年度),大 蔵省編『財政金融統計月報』第420号及び第423号,関谷俊作『農林水産法』等を参照 した。 2) 財政調査会編,前掲書,175頁。
農林漁業と財政投融資 59 源として事業を実施する制度を導入し,財政投融資資金を活用した事業量の拡 ラ 大を図ることとした」のである。 これまでの国営土地改良事業には,一般会計事業と特別会計事業との2つの 方式があり,一般会計事業については国の負担60%,残り40%のうち都道府県 分が20%,受益農家が20%を負担するのが基本とされ,また特別会計事業につ いては国の負担60%以外のもの,すなわち都道府県負担分と受益者負担分につ いては財投資金の借入れを行ってきた。61年度の改革により,国営土地改良事 業の経理をすべて本特別会計にまとめ,一般会計事業のうち都道府県負担分に ついても財投から借入れる仕組みをつくり,都道府県負担相当分の事業量の拡 大を図ることとしたのである。 国営土地改良事業特別会計の最近の一般会計受入れ,および借入金(財投資 の 金)の状況をみると下記のとおりである。 昭和59年度(億円)60年度(億円)61年度(億円)62年度(億円) 一一ma会計受入れ 707 707 1,986 1,957 借入金(財投) 708 797 1, 173 1,313 一般会計受入れが61年度から急増するのは上記の事情によるものであるが, 財投からの借入金の増大は,財投資金をもって一般会計歳出に肩代りさせ,そ れによって事業量を確保していくためのものであり,財投利用の意味を象徴的 に示すものといえよう。 ② 国有林野事業特別会計 昭和22年に設置された特別会計である。国有林野事業は林産物の計画的・持 続的な供給や,国土保全等の森林のもつ公共的機能の発揮,農山村地域振興へ の寄与等を使命としており,事業経営に当たっては,事業能率の増進,経営の 合理化等の観点から,一般会計から独立した企業特別会計方式による特別会計 として維持されてきた。 国有林野事業は昭和40年代前半までは国産材供給の約3割を供給しつつ,自 3) 同上書,716頁。 4)5)6)7)大蔵省編『財政金融統計月報』第411号,423号による。
己資金で財務が維持され,利益の一部の一般会計繰入れが行われるなど,経営 成績は順調であった。その後伐採量の停滞,外材の輸入増加による価格の低下 とそれに基づく国産材のシュア低下,あるいは自然環境保全など公共的機能発 揮に対する国民的要講の増大等により,経営収支の悪化がもたらされることと なった。昭和48年度から,造林などの投資的経費に対し,収支均衡が達成され るまでの措置として,資金運用部資金の借入れが行われることとなった。また 53年には国有林野事業改善特別措置法が制定され,53年度より10年間の改善期 間に,事業施設費の∼部について,一般会計から国有林野事業特別会計の事業 勘定への繰入れを行う措置がなされている。 らう 本会計における最近の資金調達の内訳は下記のとおりである。 (区 分) 財政投融資 資金運用部資金借入金 自己資金等 一般会計より受入 事業収入等 合 計 昭和59年度(億円) 2, 270 2, 270 387
95
292 2, 657 60年度(億円) 2, 320 2, 320 24694
152 2, 566 61年度(億円) 2, 370 2, 370 25094
156 2, 620 昭和61年度についてみると,資金調達総額のうち,90%が財投資金に依存して いることがうかがわれる。 (3)農用地開発公団 昭和49年農用地開発公団法にもとづき設立された公団で,広範囲にわたる未 墾地等を利用し,農畜産物の濃密生産団地の建設のための,総合的,計画的な 農用地の開発,農業用施設の整備等を目的として設立されている。農地開発機 械公団などの事業を引きつぎ,とくに特定地域農業開発事業を拡充するための 事業を推進している。昭和61年度予算においては,農用地開発公団事業の事業 費総額は516億円で,うち広域農業開発事業192億円,畜産基地建設事業152億 円,事業外支出172億円となっていた。本公団も財投対象機関となっており, ラ 最近の資金調達の推移は以下のとおりである。農林漁業と財政投融資 61 (区 分) 財政投融資 資金運用部資金借入金 自己資金等 一般会計補助金 そ の 他 合 計 昭和59年度(億円) 188 188 370 277 93 558 60年度(億円) 195 195 ・ 333 242 91 528 61年度(億円) 156 156 360 225 135 516 一般会計からの補助金は,公共事業関係費のなかに含まれる農業基盤整備費か らの補助金である。 (4)森林開発公団 昭和31年森林開発公団法にもとづき設立された公団で,地勢等の地理的条件 が極めて悪く,かつ,豊富な森林資源の開発が十分に行われていない特定の地 域内の森林を,急速かつ計画的に開発するために必要な林道の開発,改良,森 林の造林等の事業を行い,林業生産の増大に資することを目的としている。熊 野川水系の流域,剣山周辺地域など,豊富な森林資源を有しながら,開発が行 われていない地域などでの林道の開設,改良事業や,水源をかん養するための 計画的な森林造成事業につとめてきた。61年度予算においては,事業費578億 円で,内訳は特定森林地域開発林道事業費56億円,大規模林業圏開発造林事業 費199億円,水源林造成事業費323億円となっている。 最近の資金調達の状況は次のとおりである。一般会計からの出資金や補助金 7) 等を合わせると国からの助成がきわめて大きいことがうかがわれる。 (区 分) 財政投融資 資金運用部資金借入金 自己資金等 一般会計出資金等 一般会計補助金 そ の 他 合 計 昭和59年度(億円) 171 171 370 159 133 78 541 60年度(億円) 179 179 383 173 123 87 562 61年度(億円) 173 173 405 188 120 97 578
この他に農林漁業に関係の深い特殊法人として水資源開発公団があげられる。 水資源の開発利用を促進するため,昭和37年設立され,愛知用水公団の事業等 を継承して現在に至っている。農業用水事業等を通じ農林部門にも関係がある がここでは省略しておきたい。 前述のような財投機関の事業が,農林漁業の発展に重要な役割を果たしてき たことは事実であるが,現状においては多くの問題をもつものが見出される。 わが国においては昭和30年代から40年代にかけて,公団や事業団が新設され財 投対象機関とされてきたが,近年における行革論議のなかでこれらの特殊法人 の整理合理化の必要性が,とくに第2臨調の審議などでとり上げられ,農林関 係の財投機関についても多くの意見が提示されてきた。加藤寛氏は『官業改革 論』(昭和59年刊)のなかで,特殊法人全般に対し,厳しい批判を提示している が,この中で,農用地開発公団や森林開発公団の実態を批判している。とくに 前者について,新規入植の農家に対する国庫補助や地方公共団体の負担の大き さ,あるいは有利な条件での長期年賦払いなどの実態にふれ,国の資金で個人 の財産の形成が行われることの不合理さを指摘している。同氏はさらに「日本 全国でこのような過保護的な開発事業に推し進めてゆくことが,わが国農業の 自立化にとって本当に良いことなのだろうか……そしてこのような方法で,本 ヨラ 当のわれわれは安い牛肉を食べることができるのであろうか。」と述べられて いる。かような疑問は恐らく国民の多くが共感するところであろう。 農用地開発公団や森林開発公団は,政府出資による特殊法人であり,事業を 効率的に行うために独立の機関として設置されている。しかし前記公団には出 資金の外に補給金が支出され,財投資金が導入されて事業資金として利用され ている。貝塚啓明氏はこの2公団にふれ,「これら公団の事業は,公共部門で 行われる必要があるとしても,果して公団という制度を利用するのがよいかど ラ うかは疑問」であるとし,採算がとりにくく経常的に補助金に頼らざるをえな いとすれば,むしろ特別会計で行った方がよく,公団については,独立採算性 8)加藤寛『官業改革論』38∼39頁。 9)貝塚啓明「公企業と財政」(岡野行秀・植草益編『日本の公企業』)所収166頁。
農林漁業と財政投融資 63 を前提とする企業活動に限定した方がよいのではないかとの提言を行っている。. 国有林野事業特別会計も,本来独立採算により企業的に運営することを目的 に設けられた特別会計である。本会計は国有林野事業勘定と治山勘定との2勘 定に区分され,両勘定とも一般会計からの繰入れが行われているが,国有林野 事業勘定においてはこの他に資金運用部からの借入金に大きく依存してきてい る。資金運用部資金はいわゆる有償的な資金であり,利子のふされた資金であ る。資金運用部からの借入金が,例えば60年度,61年度にそれぞれ2, 300億円 代にも達していることは,将来の返済を困難とするもので,財投の対象として 10) 妥当であるかどうかは疑問を残すものと言えよう。 4 公共事業関係費と財政投融資 農林予算のなかのいわゆる公共事業関係費には,農業基盤整備費,造林事業 費,林道事業費,漁港整備事業費などが含まれるが,これらの事業費は農林漁 業の発展のための基盤整備にかかわるものであり,このうちとくに農業基盤整 備費のウエイトが大きく,62年度予算では総額で8,505億円,農林関係公共事 業費の63%を占めている。国の公共事業関係費に占める割合も,40年代前半ま でおおむね13%前後で推移し,その後漸減傾向を示したものの,50年度以降上 昇傾向を示し,61年度予算では13,9%を占めている。以下農業基盤整備事業を 対象に,補助金や財投との関連を取り上げておきたい。 農業基盤整備事業は,(1)土地改良事業,②農地開発事業,(3)特定地域農業開 発事業に区分されている。第3表によりそれぞれの区分の事業内容および62年 度の各事業の予算規模をうかがうことができる。事業費の総額8,505億4900万 円で土地改良事業が全体の8割強に達し圧倒的に大きなウエイトを占めている。 土地改良事業は,主として用緋水路,ダム,農道等の新設又は改修工事及び 末端圃場条件の整備のための事業であるが,最近では水田農業確立に資するた めの基盤整備や,畑作振興のための事業等に重点がおかれている。 10)松田修『金融自由化の日本経済』86頁参照。
(第3表)農業基盤整備費の内訳(昭和62年度予算) (単位:百万円)
(1)土地改良事業
・駿隷臭事業特
2.補助かんがい排水 3.圃 場 整 備4.諸土地 改良
5.農 道 整 備6・捨土冷帯税
7. 畑地帯総合土地改良8。農村総合整備
9. 防災,保全,公害対策 10.水資源開発公団 11.そ の 他 713, 870 130, 371 60, 904 114, 482 77, 352 73,998 38, 158 42, 681 70, 245 69, 186 11, 293 25,200 (2)農用地開発事.業1.農地開発事業
・芸態無漏業
2 農地開発事業費補助 3 そ の 他2.草地開発事業
国営土地改良事業 1 特別会計へ繰入 2 草地開発事業費補助 3 そ の 他 (3)特定地域農業開発事業 ・・男宴詳契轟昊事業特2.農用地開発公団
3.そ の 他 109, 061 83, 173 54, 483 22, 266 6, 424 25, 887 3, 057 22, 329 502 27, 618 7, 720 19, 759 139 (出所)大蔵省編『財政金融統計月報』1987年4,月号73∼74頁により作成。 農用地開発事業は未墾地等を開発して農用地とし,農家の経営規模の拡大等 を図ることを目的とする事業であり,とくに畜産振興の基盤となる草地の造成 改良に重点がおかれている。特定地域農業開発事業は主として先に述べた農用 地開発公団によって行われるもので,広大な未墾地の開発と畜産経営に必要な 1) 施設整備とを一体的に行う事業とされている。 農業基盤整備事業に対しては,一般会計からの公共事業費としての支出以外 に財投からの支出が大きい。第4表は最:近における農業基盤整備事業費の動向 に示すものである。一般会計から9,000億円近い資金が公共事業関係費として 配分されるほか;表示の財投2機関からも資金供給がなされ,昭和61年度予算 では㈹,(B}を合せ1兆円に達している。さらに農林公庫からも本事業に対し 2,000億円前後の融資がなされている。 1)大蔵省編『財嚢金融統計月報』第420号73∼74頁参照。農林漁業と財政投融資 65
(第4表)農業基盤整備関係事業費
(単位:億円) 区州58鞭
59年度 60年度 61年度 農業基盤整備費 関係財政投融資 国営土地改良 事業特別会計 農用地開発公団 計囚 農業基盤整備費 (一般会計)(B) 合計囚+(B) 農林漁業金融公庫 670 201 871 9, OOO 9, 871 708 188 896 8, 919 9,815 797 195 992 8, 789 9, 781 1, 173 156 1, 329 8, 680 10, 009 2, 179 2, 039 2, 029 1, 972 (出所)財政調査会編『国の予算』昭和60年度および61年度により作成。但 し農林漁業金融公庫については同公庫資料による。 土地改良事業は,主として事業規模の大小を基準に国営,都道府県営,団体 営の各事業に区分され,経費の負担割合も異なっている。国の負担率ないし補 助率は,一般に団体営より県営,国営と受益面積が拡大するにつれ高くなり, また,事業の種類により若干の差異がある。国営潅概排:水事業の場合,国の負 担率は内地60%とされ,残りの40%を都道府県と受益農家が半分つつ負担して いる。都道府県営および団体営の事業については国の負担分が補助金として事 業主体に交付され,さらに事業主体は自己負担分を自ら調達することとなって 2) いる。 土地改良事業については補助金の外,巨額の財投資金が導入されている。後 述のように農林公庫の融資の多くがいわゆる補助残融資として貸出されており, その他の財投機関からも事業資金が支出されている。すでに述べてきたように, 国営土地改良事業特別会計は,昭和61年度より事業量の拡大を図るため,財投 資金の借入を増大させている。 2) 財政調査会編『国の予算』(昭和61年度)412頁参照。、わが国においてはすでに明治32年に耕地整理法が制定され,農用地の改良, 造成などの事業が進められてきたが,昭和24年新たに土地改良法が制定され, 土地改良事業に関する一元的制度が確立され,農業基盤整備事業は農業政策の 重要な対象とされてきた。また農林予算のなかでも最も重要な補助金の支出対 象となっている。土地改良事業に対する補助金支出が,農業生産力を高める上 で大きな役割を果たしてきたことは事実であるが,同時にそれは農業生産の展 開過程において,国や地方公共団体等の役割が如何に重大であったかを物語る ものであった。 “農は国の基。という言葉は,とくに第2次大戦前にしばしば耳にするとこ ろであったが,農業基盤整備事業への財政資金の供給状況などをみると,この 言葉は現在でもなお生きていると思わざるを得ない。生産基盤整備により労働 生産性を高め,農産物の内外価格差を縮少していくことはもとより重要である し,過疎地域の拡大を防ぐために,農道が整備され,農村総合整備事業が推進 されることも必要であるが,生活環境や住環境の面で問題の多い都市部の勤労 者の負担において,巨額の事業資金が投入され続けることに不満の声が高まる のも当然であろう。農地や林地のもつ国土への貢献は大きく,効率性の基準の みで判断されることはできないが,農用地のもつ幾多の価値を理解した上で, なおこの事業資金が,真に足腰の強い日本農業の確立のためにこそ,集中的か つ合理的に支出されていくことが必要であると思われる。 速水佑次郎氏は日本とECとについて,資本補助金の農業固定資本形成に対 ヨう する比率を,1977年について比較検討している。政府補助金は経常補助金と資 本補助金とに区分されるが,資本補助金は土地改良など資本形成に対する補助 金である。この計測によると,日本の35.4%に対し,フランスが10.1%,西ド イツが8.5%,イギリス16.1%とされ,EC平均10.9%に対し,わが国は3倍 を超えている事実を指摘している。同氏によれば,日本の資本補助金の大半を 占めるのは土地改良に関する経費であって,その水準がきわめて高い理由は, 3)速水佑次郎『農業経済論』174∼175頁参照。
農林漁業と財政投融資 67 畑作・畜産が中心の西欧農業に比べて,日本の稲作農業が,潅概・排水工事な どでより多くの投資を必要とすることと,小規模経営の多い日本農業において は,比較的小規模な土地改良事業でも多数の農家が影響を受け,いわゆる外部 性が発生するために,土地改良が公共財化しがちであったことをあげている。 土地改良事業に対する財政補助は,先述のように補助金以外に財政投融資もま た重要な役割を果たしているのであり,この点を加味ずると,土地改良事業に 対する保護の度合はさらに高まることとなるのである。 5 農業政策融資と農林公庫 農林関係の財投対象機関のなかで,農林漁業金融公庫は唯一の融資機関であ り,また融資活動を通じ農政との関連もきわめて深い機関である。先述のよう に62年度の農林部門への財投資金の配分額(使途別区分による)9,078億円のう ち,農林公庫に対しては資金運用部資金4,093億円,簡保資金332億円,合計 4,425億円が配分され,総額のほぼ半分を占めている。 農林漁業金融公庫は昭和28年4,月設立された政府金融機関であり,農林漁業 金融公庫法によれば「農林漁業者に対し,農林漁業の生産力の維持増進に必要 な長期かつ低利の資金で,農林中央金庫その他の一般の金融機関が融資するこ とを困難とするものを融資すること」を目的として設立されている。設立当初 は土地改良,造林,漁港整備など,基盤整備関係資金および共同利用施設資金 の貸付等,公共的な事業への融資が主であったが,その後「その時々の農林漁 業政策の要請に応じて融資制度の拡大が図られ,融資領域は次第に多面的とな ユラ ってきた」のである。農林予算が昭和30年代から40年代にかけて急膨脹し,価 格支持や構造調整の支出が増大してきたことは既述のとおりであるが,公庫の 融資活動においても農林予算の動向に対応し,昭和36年以降の基本法農政の展 開を背景に,構造改善事業の推進や,自立経営農家の育成等のための,長期投 資や大型投資を助成する貸付事業が拡大されることとなった。農業政策融資と 1) 日本銀行金融研究所編『新版・わが国の金融制度』414頁。
(第5表)農林公庫資金羽合付残高構成比 (単位:億円,%) 区 分 経営構造改善
基盤整備
一般施設
経営維持安定 58年 取 残 高 構成 比 15, 859 26, 298 2, 578 3,665 32. 8 54. 3 5. 3 7. 6 60年 度 残聴構成比
16, 589 29, 044 2, 638 3, 294 32. 2 56. 3 5. 1 6. 4 計 48, 400 100. 0 51, 565 100. 0 (出所)農林公庫資料により作成。 しては,後掲第6表に示されるように,財政資金を原資とする農林公庫資金や 農業改良資金の外に,系統資金など民間資金を原資としながら,利子補給など の形態での財政援助が斜なれる農業近代化資金,天災資金,畜産特別資金など が主要なものとしてあげられるが,農林公庫は現在においても政策融資の最も 重要な機関として位置づけられている。 第5表は最近における農林公庫の資金別学付残高の構成比を示すものである。 とくに重要な資金として基盤整備資金と経営構造改善資金とがあげられる。基 盤整備資金は土地改良,造林,漁港等の公共事業の補助金の残りの部分への融 資(補助残融資)が主要な内容をなしており,国の補助金政策と密接な関係をも つ資金である。昭和62年度貸付計画によると,基盤整備資金の貸付額は2,782 億円で,うち農業基盤整備資金が2,152億円で全体の77%を占めている。 経営構造改善資金には農林漁業構造改善事業推進資金,農地等取得資金,総 合施設資金など多くの資金が含まれているが,昭和62年度の貸付計画額では, 構造改善事業推進資金が600億円,農地等取得資金730億円,漁業経営再建整備 資金430億円,総合施設資金350億円等となっている。このうち総合施設資金は, 昭和43年度に設けられた資金で,自立経営をめざし経営規模の拡大を指向する 経営に対し融資されるもので,資金制度の総合性や貸付規模が大型であること から,いわゆる前向きの資金として注目されてきたもので,昭和61年度末の貸 付残高は4,282億円で,43年度以来融資を行ってきた農家数3万8000戸に達し農林漁業と財政投融資 69 2) ている。 農林公庫の原資は,設立時から40年度までは,国の出資金と財投資金によっ てきたが,41年度から国の財政事情等により,出資金に代えて一般会計から補 給金が投入されるようになうた。かような財政的支援のもとに,特定の政策目 的の推進に役立つ優遇的な貸付条件による政策金融が行われてきたのである。 貸付金利は公庫法により,貸付金利水準が決められているものと,その上限金 利が定められているものとがある。現在は3.5%から7.2%まで幅広く定めら「れ ており,60年度末現在で,3,与%が3分の1強,6,5%が2割強で両者で過半を 3) 占めていた。農林公庫の金利水準は政府金融機関のなかでも,日本輸出入銀行, 4) 住宅金融公庫と並んで最も低い部類に属している。
(第6表)制度資金別貸付残高の推移
(単位:億円,%) 区分1・・鞭・・鞭55年劇・・鞭坐込
農林公庫資金 農業近代化資金天災資金
農業改良資金 漁業近代化資金 そ の 他 10, 019 4, 120 232 293 258 20, 309 8, 817 184 598 1, 693 287 38, 811 13, 294 1, 040 906 3, 192 4, 762 51, 565 12, 549 634 1, 049 2, 597 5, 25201Qσ451
0701QU7
71
計 ・4,・9221・・,88862,・・5レa・4・・・… (注)1.貸付残高は年度末残高,ただし農業近代化資金,天災資金, 漁業近代化資金は12月末残高。 2.45年度の計欄には開拓者資金を含む。 3.農林公庫資金には,相擁,卸売市場近代化資金等を含む。 (出所)米沢潤一他編『図説・財政投融資』(昭和62年度版)54頁による。 第6表は制度資金の資金別貸付残高の推移を示すものであるが,貸付残高に 占める農林公庫資金のウエイトは大きく,とくに最近においてそのシェアが一 層高められてきている。公庫資金を中心とする制度資金はとくに農業投資の拡 2)農林公庫編『公庫月報』1987年6月号42頁参照。 3)米沢潤一他編『図説・財政投融資』(昭和62年度版)57∼58頁参照。 4)大内力編『金融自由化と農業金融』136頁参照。大の上で,補助金と並んで大きな役割を果たしてきた。昭和35年度の農業総投 資額は4,570億円であったが,その構成比をみると,政府補助金15%,制度融 資11%,その他74%であったが,昭和55年度には総投資額3兆8,730億円で, 政府補助金39%,制度資金22%,その他39%となっており,35年度に比し補助 金や制度資金のウェイトが著しく高められていることがうかがわれる。なお土 地改良投資については政府補助金のウエイトが高く,55年度の場合政府補助金 ら 80%が,借入金18%,生産者自己負担2%となっていた。 6 農林公庫融資の問題点 農林予算とともに財政投融資制度の存在が,農林漁業の維持,発展に大きな 役割を果たしてきたことは既述のとおりであるが,しかしかような財投制度が, 他面において多くの問題をかかえており,今後の重要な検討課題となっている。 幾多の問題点のうち農林公庫にかかわる問題について取り上げておきたい。 周知のように国の財投制度においても,近年財投対象機関である政府金融機 関と民間金融機関との競合問題が,いわゆる公的金融の肥大化との関連で多く の論議を呼んできた。農林漁業金融においても同様の問題が生じてきているが, それは系統金融機関と農林公庫との競合問題として取り上げられている。 『農林中金』(1984年8月号)所収の巻頭言で,当時の農林中金農業部長児玉 晃氏は,昭和50年代に入ってから,農林漁業をめぐる環境が厳しさをまし,農 業投資が停滞を続けるなかで,農業投資については補助金依存度が高められる とともに,農業投資にかかわる農業政策融資(制度資金)においては,農林公庫 資金が50年度の47.O%から,57年度に59.5%へとそのシェアを高めているのに 対し,系統資金を原資とする農業近代化資金が,50年度の49.6%から57年度の 37.0%へと大幅な後退を示してきた事実を指摘し,「40年代の高度成長期を経 て系統資金がその資金力を充実し,体制,機能の整備拡充を実現しつつある一 5)速水佑次郎『農業経済論』154∼155頁参照。 1)公的金融については,島村高嘉『わが国の金融体制』第1章第2節,林敏彦「金融 自由化と公的金融仲介」(館竜一郎他編『日本の金融(1)新しい見方』)所収,藪下史 郎・浅子和美編『日本経済と財政政策』第7章等を参照されたい。
農林漁業と財政投融資 71 方で,農林公庫は逐次業務範囲を拡大しつつ,系統資金との競合度合を強めて きたことは事実である」とし,とくに近代化資金と公庫資金との間に融資対象 の重複がみられ,これについて系統機間での批判が強いことを指摘している。 農業近代化資金は農業基本法の関連施策の一回目して昭和36年に設けられた 制度資金であり,系統資金を原資とし,これに国や地方自治体が利子補給を行 なうものであるが,系統の自主運営のもとに,農家の資本装備の高度化,経営 の近代化等のための中・短期の資金供給を行ってきており,農協事業などとも 密接な関係をもつ資金である。近代化資金の貸付残高は53年度末1兆2,196億 円であったが,56年度末に1兆3,475億円となり,その後停滞を続け,60年度 末には1兆2,549億円となっている。この間公庫資金の:貸付残高三業分)は, 53年度末の2兆2,853億円から,60年度末には3兆8,320億円に増大している。 上述のような競合はとくに公庫融資における個別経営資金,とりわけ総合施 設資金と,農業近代化資金との間に生じてきている。既述のように農林公庫の 創設当時は土地改良事業その他公共的な分解への融資が多かったのが,昭和30 年代後半期より農業構造改善事業の推進等により,公庫の貸付対象に次第に個 別経営にかかわるものが増加し,やがて系統資金との競合問題を顕在化させる こととなった。公庫融資と系統融資の間の分野区分は,「公庫融資が政策目的 の明確な中長期の機械設備資金,近代化資金を含む系統融資がそれ以外の分野 2) という形でなされてきた」のであるが,その後の競合問題は「農林公庫が優遇 度の高い融資をもって,次々と融資領域を拡大してきた結果として形成されヨう た」ものといいうるのである。 最近農村地域においては,農村総合整備事業のような公共事業的色彩の強い 事業が増加し,市町村を事業主体とする国庫補助の事業として実施されている。 関係地域の農家に対しては農協転貸で制度融資が行われており,かような動向 も制度金融の拡大をもたらす要因となっている。 わが国の農業金融の重要な特色として,農業あるいは農家部門から,資金が 2)3) 松島正博「官民区分論と農林公庫」(大内力編『金融自由化と農業金融』所収) 146頁。
より有利な運用対象を求めて農外に流出し,他方において政策的要請のもとに, 財政資金が農業部門に流入するという,いわゆる資金のすれ違い現象が長期に の わたり常態化してきている。かような状態はもとより好ましいことではない。 農林公庫融資が長期低利の優遇資金によって民間資金の運用領域を狭めること は,制度金融の本来の旨趣に反するものであり,公庫は民間金融に対する補完 機能に徹することが必要である。 農家の主要な金融ルートは,制度資金,系統資金,市中金融,個人金融等に 区分されるが,主要金融機関の農業・農村貸出金について,昭和60年度末貸出 残高の構成比をみると,農協系統金融機関が全体の74.0%,政府金融機関が 21.4%,残り4.6%が一般民間金融機関となっており,系統金融が圧倒的に高 いウエイトを占めている。しかし系統資金の用途については農業資金以外の生 活資金や農外事業資金の割合が大きく,農業の維持・発展にかかわる長期資金 については制度資金への依存度がきわめて大きい。系統金融は農協,信丁丁, 農林中金の三段階組織によって形成され,膨大な資金量をもつ系統組織として 確立されている。しかし農業をめぐる諸般の環境条件の変化により資金調達面, 運用面について大きな困難に当面している。金融自由化の波のなかで,系統金 融が理念として掲げる相互金融と,制度金融との間の資金のすれ違いを如何に して克服していくかが,農協組織全体にかかわる重要課題と考えられる。 最近における農林公庫にかかわる問題として,さらにこれら機関に対する利 子補給が著しく拡大してきたことがあげられる。農林関係ではとくに農林公庫 に対する利子補給の増大に関心が寄せられている。 わが国における政府金融機関は,財政投融資計画に基づき資金運用部資金や 簡保資金などを借入れ,それぞれ目的に対応する融資活動を行っているが,近 年一般会計からこれら財投機関への利子補給や出資金が著しく増大してきてい る。かような状況が生まれてきた要因として,最近における金融緩和,低利金 利時代への移行のなかで,長・中・短期金利が構造的に接近し,従来政策金融 4)加藤譲『農業金融論』227∼233頁参照。
農林漁業と財政投融資 73 が有していた貸出金三面での優位性が次第に低下し,それにより政策誘導効果 を期待することが困難となってきたことがあげられる。 財投機関が資金運用部等から借入れる金利と民間金融機関から借入れる場合 の金利(長期プライムレート)との格差は,昭和30年代前半の3%から次第に縮 少し,昭和52年以降は1%前後に縮少し,さらに最近では民間金融機関では短 期融資と長期融資との組み合せなどの形で,実質的に長期プライムレートより 下回る金利で融資を行なう場合も多くなり,政府金融機関の金利は市中金利よ りも割高となってきたa,である。資金運用部への預託金利は郵便貯金の預金者 や保険料の処出者などの利益を考慮し,他方で財投資金としての公共性や財投 機関の収支などを考慮して決定されねばならないのであるが,昭和50年代に入 り,政府金融機関では「資金コスト面では郵貯金利の高値硬直性,長期プライ 5) ムレートの一段の低下から,政府金融機関の利ザヤは一転大幅な逆ザヤ」に転 じてきたのである。第7表は,農林公庫の貸付金及び借入金の平均金利の推移 を示すものであるが,資金運用部等からの借入金利に比し,貸付金利が低くお さえられており,かような資金コストの高さをカバーするために,一般会計か らの利子補給がなされてきたのである。農林公庫の場合には,わが国農業をめ ぐる環境が厳しさを加え,農業投資の停滞がはっきりしてきており,この面か ら公庫に対する資金需 (第7表)農林公庫貸付金及び借入金の平均金利の推移 要が減ってきている。 (単位:%) このため,財投資金の 未消化率が高まり,不 用額が大きくなってき ているのである。 第8表は農林公庫補 給金の推移を示すもの であるが,近年におけ 昭和40年度 50 55 59 貸付金利
残高ベース
新規貸付ベース 借入金利残高ベース
新規貸付ベース 5. 24 4. 86 0り04﹁0 βU4U 5. 04 5. 01 5. 00 5. 07 5. 13 4. 95 6. 94 7. 10 7. 21 7. 81 8. 24 7. 10 (出所)財政調査会『国の予算:』(昭和61年度)989頁 により作成。 5) 高瀬恭介「郵貯問題と政府系金融機関」(『経済評論』1986年5月号)所収,13頁。(第8表)農林公庫補給金の推移
(単位:億円,%)}・・鞭55鞭56鞭57鞭58年度59鞭・・鞭61鞭
農林公庫補給金囚 (参考) 農林関係予算:{B} うち一般事業費{C} 農林関係補助金Φ〉 囚/{B) 囚/(C) 囚/(D) 251 862 910 1,232 1,302 1,350 1,398 1,343 21,768 35,840 36,925 37,010 36,068 34,597 33,008 31,429 6,634 11,672 12,229 12,358 12,178 12,043 11,953 11,721 9,437 22,258 23,149 23,260 22,915 21,727 20,861 20,365 1.2 2.4 2.5 3.3 3.6 3.9 4.2 4.6 3.8 7.4 7.4 10.0 10.7 11.2 11.7 12.2 2.7 3.9 3.9 5.3 5.7 6.2 6.7 ZO (出所)財政調査会編『国の予算』(昭和61年度)989頁による。 る同公庫に対する補給金は住宅金融公庫に対する補給金についで大きな金額と なっている。この補給金は一般会計から利子補給という形でなされる補助金で あり,第7表に示されるように,資金運用部や簡保資金からの借入金利に比し て,公庫の貸付金利はより低い金利で貸付けられており,このta bt)に金利面での 逆ザヤが生じ,この部分が利子補給によって埋められることとなる。すなわち 「政策的に特定の分野の貸付金利を特に低利に抑えるために一般会計かち補助 金を受けるということであり,独立採算制を守りえない政策的な部分が明示さ 6) れている」こととなるのである。島村高嘉氏によれば,住宅金融公庫や農林公 庫の政策融資にあっては,超優遇金利が適用されたケースも少からずあったと みられ,こうした低利融資を資金コストの面でバック・アップしたのが,政府 7) 補給金や産業投資特別会計の出資金であったとしている。産投会計は財投機関 の経営基盤の強化を図るためや,出資財源等に充てるために出資及び貸付を行 っており,61年度末現在の農林公庫への出資金残高は1,118億円となっている。 前掲第8表の参考欄に示される一般事業費は,農林水産予算の37.8%(62年 度予算)を占め,生産流通対策,農業構造改善,農業保険,農林漁業金融など にかかわる経費を含むものであるが,このうち農林漁業金融費は,本年度予算 6)貝塚啓明「公企業と財政」(岡野秀行・植草益編『日本の公企業』)所収114頁。 7) 島村高嘉,前掲書,66頁参照。では1,617億円が計上され, 一般事業費の14.1%を占めて いる。第9表は61年度予算の 農林漁業金融費ならびにその 内訳を示すものであるが,農 林公庫に対する補給金が圧倒 的に高い割合を占め,総額の 88%に達している。一般事業 費中に占める農林公庫補給金 の割合が近年10%代に達して いることは第8表に示される ところであるが,かような補 給金の増大が,一般事業費を ふくらませ,農林予算の圧迫 農林漁業と財政投融資 75 (第9表)農林漁業金融費 (昭和61年度予算) (単位:千円) 区
分 1金
額 (1濃林漁業指導監査経費 (2濃林漁業災害営農資金 利子補給補助等経費 (3農業信用基金協会出資 補助経費 (4)農業近代化資金利子補 給補助等経費 (5三業信用保険事業助成 経費 (6)農林漁業金融公庫に対 する補給金経費 合 計 12, 169 2, 237, 787 90, OOO 16, 399, 962 450, OOO 143, 432, OOO 162, 621, 918 (出所)財政調査会編『国の予算』(昭和61年 度)582∼583頁により作成。 要因となってきていることがうかがわれる。なお農林漁業金融費のなかの農業 近代化資金利子補給補助等経費は,既述のような系統資金等の民間資金を原資 とする農業近代化資金にかかわるもので,農協等融資機関の基準金利との差を, 国と都道府県とが2分目1つつ補給する仕組みとなっており,61年度予算では 国からの補給金等164億円が計上され,農林漁業金融費に占める割合は1割程 度となっている。 7 む す び 昭和61年11.月,農政審議会は「21世紀に向けての農政の基本方向」を答申し, わが国農業の今後の展望やこれにともなう農政のあり方について述べている。 とくに生産基盤に関しては,稲作をはじめとする土地利用型部門の農業構造の 改善を可能な限り加速することが基本的な課題とされ,これに焦点を合わせた 施策として,経営規模拡大のための担い手の育成,あるいは地域全体としての 生産性の向上を図るための効率的な生産システムの確立などがうたわれている。しかしかような方針は格別新規なものではなく,内容に若干の変化はあるもの の,すでに20年来取り上げられてきたものである。これまでの日本農業の現実 の経過を考えると,答申にいう「産業として自立しうる農家の確立」への道程 は,現実には極めて厳しいものと言わざるをえない。 日本農業をめぐる環境が,一一方においてかような目標に向けての農業改革を 急務としている以上,困難な課題に向けての真剣な対応が必要となる。小論に おいて取り上げてきた財投制度のあり方についても,農業改革の一環として重 要な検討課題とされねばならない。小論でふれてきた内容との関連で若干の問 題をあげておきたい。 財政投融資と農林漁業とのかかわりあいは古い歴史をもつものであり,農林 漁業の発展の上で重要な役割を果たしてきたことは事実であるが,現行の制度 には多くの問題が見受けられる。最初に指摘しうることは,農林漁業に関する 財投の制度およびその機能が複雑多岐にわたっており,その相互の機能につい ても重複がみられることである。制度融資に例をとると,農林公庫を中心に, 農業改良資金制度,農業近代化資金制度などがおかれており,さらに公庫など では極めて細分化された目的に対応するために多くの資金が設けられている。 農林公庫の場合,資金種類22種類,金利についても3.5%から7.2%まで幅広く 定められている。しかもこれら制度による融資活動は,国の財政支出とくに補 助金と関連するものが多く,その機能の効果について判断することは困難であ る。財投制度や財投機関の諸事業が,その時々の農業政策の重点施策との関連 において制度化され,しかも行政機構のタテ割り組織のなかで維持されてきた ことが,かような重複とそれにともなう非効率とを生む要因となってきたこと は明らかである。 農業補助金の総花性や非効率性についての批判は厳しく,整理・合理化が進 められてきているが,財投制度についても同様に,整理,統合,簡素化がはか られていくことが必要である。財投制度は資金の借り手にとってはもとよりで あるが,国民にとってもわかり易い制度であることが望まれる。巨額の財政資 金によって支えられている以上,それは当然の要請と言わねばならない。
農林漁業と財政投融資 77 農林漁業に対する財政面からの助成は,既述のように,補助金や財政投融資 を通じてきめ細かく実施されてきた。ところでかような行政的手毅を通じての 政府の介入は,一面において,農林漁業に対する官僚的支配の強化を意味する ものであった。補助金に対する批判の一つとして,中央官庁から地方自治体の 末端機構に至るまで,タテ割り行政組織を通じて,中央から地方へと資金が流 され,画一的な規制により,地方自治体や農家などが,創意工夫により新しい 展望をきり開いていく余地が狭められることが重要な問題として指摘されてき た。この点は財投資金についてもあてはまる。公庫資金の補助残融資に見られ るように,財投資金の運用もまた農政と関係を強くもつもので,前述のような 補助金の問題点を克服しうるものではない。近年補助金の削減,補助率の低下 がみられるようになったが,行政機関にとっては事業量の低下は自からの権限 を低下せしめるものであり,それをカバーするために,補助金に代えて財投資 金の活用がめだつようになってきた。財投制度の存在もまた官僚的支配を支え る上で重要な役割を果たしているのである。 前述のようにわが国においては,とりわけ農業部門において,保護主義的な 諸施策が推進されてきたのであるが,かような動向は行政機関と農家あるいは 農業団体などとの間に独自の対応関係を強化し,拡充させることとなった。農 家や農業団体の意識や行動のなかに,政府による規制を通じ,競争市場から保 護され,あるいは市場システムとは別の領域で,存続することを期待し,希求 する傾向を助長し,いわゆる「族議員」らの仲介的機能と相まって,農水省を 中心とする官僚機構ないし行政機構と農家や農業団体との間に,「相互補強型 り構造」を維持し強化させることとなった。かような構造を生み出す上で,補助 金政策や財政投融資の役割は重大であったといわねばならない。農業部門にお ける構造調整的な動きが進むなかで,補助金や財投制度の活用される対象は, 今後においても存在することは否定しえないが,それはあくまでも「政府に頼 らない自立農業の育成」のための過渡的な助成手段として利用されることが望 まれるのである。 1)竹内靖雄「日本の活路・脱く士農体制>」(『THIS IS』1987年8月号)所収参照。