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社会的思考力・判断力を高める社会科授業の進め方
橋本 正輝 1. はじめに 平成 23 年(2011 年)5 月に文部科学省から出さ れた「言語活動の充実に関する指導事例集(中学 校版)」では,「平成 20 年答申においては,思考 力・判断力・表現力等を育むためには,例えば, 次のような学習活動が重要であり,このような活 動を各教科等において行うことが不可欠である」 として,「①体験から感じ取ったことを表現する。 ②事実を正確に理解し伝達する。③概念・法則・ 意図などを解釈し,説明したり活用したりする。 ④情報を分析・評価し,論述する。⑤課題につい て,構想を立て実践し,評価・改善する。⑥互い の考えを伝え合い,自らの考えや集団の考えを発 展させる。」の6つの例が挙げられている。 特に「④情報を分析・評価し,論述する」では その事例として,「自然事象や社会的事象に関す る様々な情報や意見をグラフや図表などから読み 取ったり,これらを用いて分かりやすく表現した りする」,「自国や他国の歴史・文化・社会など について調べ,分析したことを論述する」とある。 社会科は内容を理解していくためには最低限度 の用語は必要であるが,1問1答式の知識では不 十分であり,知識を踏まえ,その知識を用いて資 料等を活用して論述していく力の育成が必要であ る。 学習指導要領にも,「言語活動」の充実が書か れていることもふまえ,自身も記述の学習を取り 入れてきた。しかし,解答の際,教師の模範解答 を示すのみで,生徒の解答に対して講評を行うこ とは少なかった。そのため,生徒にとって,記述 の問題も教師の模範解答を写すことで「知識」の ひとつとしてとらえ,覚える暗記項目の1つとな るため,応用の面では不十分である生徒も多かっ たといえる。 そのため,生徒が記述を行い教師の解答を聞く という方法ではなく,生徒それぞれが考えた論述 内容をグループや全体で交流をしていくことで, 一面的に自分の意見や考えをまとめがちになると ころを,交流の場で様々な意見や考察を聞くこと によって別視点からものごとをとらえる力を養っ ていくことで思考力・判断力を高めていけるので はないかと考え,今回の研究を進めた。 2.研究仮説 一人でまとめられる論述はそう多くない。他の 生徒とともに資料をまとめていき,論述を交流す ることで,資料や文章のまとめる力やとらえる視 点を高めることができるであろう。 3.研究方法 まずは記述のスキルを高めるために,「短文記述 →解答・解説」を繰り返すことでどのようにまと めていくのかを理解させていく。その際にまとめ ていく上での要点も示す。 次に,論述を行うにあたって,まずは資料の読み 取り,活用をしていくため,思考ツール(マトリ 本論の要旨 諸資料に基づいて自分の考えや意見をまとめていく力を身につけることは,社会的な思考力・判断力を 養っていく上において大切な力の1つである。論述を行う際に,一面的に自分の意見や考えをまとめがち になるところを,まとめた意見や考えを4人班からクラス全体と交流の場を設定し,様々な意見や考察を 聞くことによって別視点からものごとを捉える力を養っていくことで思考力・判断力を高める授業づくり を進めた。 今年度の研究ではまず,資料を読み取り,まとめて考える力を思考ツールの活用を通して高めていく取 り組みから始め,さらに,他者の意見や考えとの交流を通して,自分と異なる考えや意見を知り,自分の 意見や考えを振り返ることで,多面的・多角的に物事をとらえ,考え,判断する力を養っていくその場を 設けていった。 キーワード 思考ツール,ゆさぶり,社会的思考力・判断力ックス,+-マトリックス,Tチャートなど)を 用いて資料の内容を整理していくことをさせる。 その際,多くの視点が加わる利点から,グループ 活動を行っていく。整理した内容を文章化してい き,グループ内やクラス全体で交流をする。 さらに,他の生徒の論述を読むことで,別の視点 でのまとめ方が身につけられると考え,そのよう な場面を設定していく。 図1 研究テーマの構造図 4.実践事例 (1)「短文記述」課題 論述の力を伸ばしていくことを考えて「短文記 述」の課題を繰り返し設定してきた。内容として は用語の説明や資料読み取りを行わせるものを設 定した。1行程度の短文記述を繰り返し解くこと で,まずは要点をどのようにまとめていけばよい かを知り,数行の論述を行うための基礎的な力を つけていけるようにしていった。 ただ,授業内で時間を十分にとって行うことが 難しいため,授業内での課題の他に,単元ごとの 復習プリント(図2,図3)で短文記述問題を出 題し,解答・解説を進めていった。 図2 単元プリント「暑い地域のくらし」 図3 単元プリント「日本人のルーツと縄文時代」 (2)思考ツールの活用 1年生の地理分野「暑い地域のくらし」の単元 では,教科書の写真を比較して相違点や共通点を 調べていく学習活動を行った。その際,気づいた ことを羅列しているだけでは共通点が見つけにく く,相違点も把握しにくいためベン図(図4)を 活用し整理を行った。 図4 生徒がまとめたベン図 1年生の歴史分野「鎌倉幕府のおとろえ」の単 元では,徳政令が出された時の御家人と高利貸し の思いを比較しとらえていった。併せて,御家人 については出された直後としばらく経てからの思 いも考え整理させた。それぞれの思いが見比べや すくなるようTチャート(図5)を活用した。 図5 生徒がまとめたTチャート 資料 資料 資料 自分の考え、判断 考え、判断の交流 他者の考え、判断 新たな視点の考え、判断
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1年生の地理分野「身近なものからみたアジア」 の単元では,日本の東アジア・東南アジアからの 輸入品の変化をとらえていく学習活動を行った。 その際,マトリックスを活用することで,各国の 輸出品の変化と共通点をがとらえやすくなり,変 化についての記述がまとめやすくなった。(図6) 図6 マトリックスを活用した生徒のノート 読み取った資料や意見を文章化していく際に, 思考ツールを用いることで,その資料や意見が整 理され,要点を絞ってまとめやすくなった。 (3)資料読み取り 1年生の地理分野「乾燥した地域のくらし」の 単元では,まずはそれぞれが教科書の写真資料を 見て気づくことや分かることをノートへ書き出す 作業を行った。 その後,4人グループで意見の交流を行い,グ ループ出だされた意見を1枚の用紙にまとめさせ た。その際,4人が記入したもの,2~3人が記 入したもの,1人だけの意見と色分けをさせるこ とで何人の意見かが分かりやすくなるようにして いった。(図7) 最後にグループごとに意見の発表を行った。 図7 グループ交流のまとめ 思考ツールを活用することで資料を整理し,活 用していく力の向上をはかった。 その際,生徒一人が資料の整理を行う場合,1 つの視点で行うこととなり,読み取る資料もかた よりがちであるため,グループワークを取り入れ ることでそれぞれの意見を交流させ,その後全体 でも共有することを行った。 図8 「乾燥した地域のくらし」での生徒のノート 5.授業実践事例 (1)主題 「元の襲来と鎌倉幕府のおとろえ」 (2)単元設定の理由 日本は古代より東アジア世界から様々な影響を 受けて発展をしてきた。13世紀に入り東アジア ではモンゴル帝国の成立,高麗の元への服従,宋 の滅亡と大きな変化が起こり,日本にも影響を与 えた。その一つが鎌倉幕府のおとろえである。元 の襲来に至るまでの日本と元の関係と元の襲来後 に鎌倉幕府のとった御家人への対応を捉えること で東アジア世界の変化が日本に及ぼした影響を読 み取ることができる。 1年生は,歴史に関心を持って授業へ取り組む 生徒が多い。しかし,歴史的事象の知識は知識と して持ってはいるが,歴史を1つの流れとして変 化・違いをとらえ文章化できる生徒は少ない。そ のため,短文記述の課題を単元のプリントで取り 組むようにはしているが,正答の発表を待って記 入する生徒も見られ,論述する力が十分に育って いるとは言いがたい。 中学校学習指導要領では,各時代における変革 の特色を転換の様子をとらえる学習を通して考察 ・判断し,自分の言葉で表現する学習を行うとあ
る。 この単元では,東アジア世界との関係や元の襲来 後の御家人の思いを思考ツールを用いて整理する ことで,元の襲来が日本に及ぼした影響を捉え, 論述をさせたい。また,意見交流を行うことでそ の考えを深めさせたい。 (3)学習目標 13世紀の東アジア世界の変化が日本の政治・ 社会の変化に影響を与え,鎌倉幕府がおとろえる 一因となったことを元の襲来への幕府の対応に着 目して理解し,東アジア世界の変化が日本に与え た影響を自分の言葉で表現することができる。 (4)評価の評価基準 ①【社会的事象への関心・意欲・態度】 日本と東アジア世界とのつながりや及んだ影響 に対し関心を高め,意欲的に学習してようとし ている。 ②【社会的な思考・判断・表現】 元の襲来が日本の政治・社会に及ぼした影響に ついて幕府や御家人の立場に立って考察するこ とができている。 ③【資料活用の技能】 元の襲来が日本の政治・社会に及ぼした影響を 元の襲来に関する資料を活用し,思考ツールを 用いてまとめることができている。 ④【社会的事象についての知識・理解】 東アジア世界とのかかわりを背景に元の襲来の 影響と鎌倉幕府のおとろえについて理解してい る。 (5)単元の学習計画(全2時間 本時1/2) 第1時「元の襲来」(本時) 13世紀の東アジア世界の変化について理解 し,東アジアの国々との関係から元からの要求 を退けた理由を自分の言葉で表現することがで きる。 【評価基準②④】 第2時「鎌倉幕府のおとろえ」 元寇後の御家人の生活を徳政令が出された直 後と数年後の思いを考えることで幕府に対して 御家人の思いを考え,表現できる。 【評価基準①②③】 (6)論理的思考を促す具体的な方策(校内研究 と本時との関連) a.学習課題設定の工夫 ①学習者に関わるもの(判断)判 ・日本が元からの要求を退けた理由を判断さ せる。 ②社会科教材に関わるもの(学習課題) ・日本が元からの要求を退けた理由を自分の 言葉で表現させる。 ③指導方法に関わるもの(ゆさぶり)ゆ ・日本が元からの要求を退けた理由を自分の 言葉で表現させる中で,思考ツールを活用 したり,級友と意見を交流することで判断 のゆさぶりを促す。 b.思考ツール等の活用(思考ツール・ICT)ツ ・日本と東アジア世界との関係を可視化し, 論述する観点を整理するために思考ツール を活用する。 ・ICTを用いて資料の拡大提示をする。 図9 授業の様子
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(7)本時の学習過程 学習活動・内容 ○指導・◆評価・★思考・判断・表現を伸ばす方策(判 ゆ ツ ) 導 入 1.小学校時の学習内容を振り返る。 ツ★ICTで「蒙古襲来絵詞」を示す。 ○小学校で既習している元寇について整理させる。 展 開 ① 2.フビライからの手紙を読み,元の 要求を知る。 3.本時の課題を知る。 4.13世紀の東アジアの様子につい て理解する。 5.東アジアの国々と日本との関係に ついて思考ツールを用いてまとめる。 ○元の日本への要求を読み取らせる。 〇本時の課題を板書する。 ○13世紀の東アジアの様子について,内容を理解させる。 ◆【知識・理解】基準④:ノート ○机間支援を行い,記述を促す。 ツ★黒板にマトリックスを書き,生徒の意見を記す。 ○他者の意見はマトリックスに区別をつけてメモさせる。 展 開 ② 6.本時の課題について考察し,論述 する。 7.元の襲来について理解する。 判★思考ツールをもとに高麗や宋との関係と元との関係の違いを捉 え,元からの要求を退けた理由を判断させる。 ○机間支援を行い,記述を促す。 ○黒板に意見を記入させ,発表をさせる。 ○他者の意見はマトリックスに区別をつけてメモさせる。 ○自分の意見を黒板に記入させ,提示することでクラスでの意見の共 有を行う。 ゆ★級友の意見を聞くことで自分のまとめた論述について再度考え る機会を与える。 ◆【思考・判断・表現】基準②:ノートの記述内容 ○小学校での既習内容を基に内容を理解させる。 ま と め 8.次時の学習内容の予告を聞く。 ○次時は元寇後の日本の変化について学ぶことを伝える。 (8)成果と課題 今回の授業では,当時の日本と東アジア諸国と の関係を思考ツールで整理することと,鎌倉幕府 が元の要求を退けた理由について論述することを 課題に行った。 まず,思考ツールの活用については,「文章より も一目で分かった」,「マトリックスを使って分か りやすかった」,「比べやすかった」など前向きな 感想を答える生徒があった一方で,マトリックスを 活用し,資料をまとめてはいるものの,マトリック スが思考ツールであることを分からずに活用して いる生徒も見られた。この点について,教師側が生 徒に対して思考ツールについて説明をし,どのよう な場面でどのような思考ツールを活用していくか 手紙を受け取った幕府は何を考えて要求を退けたのだろう? 日 本 元 高 麗 宋
理解させていくことが大切であると感じた。 次に,「手紙を受け取った幕府は何を考えて要求 を退けたのだろう」という問いへの論述をそれぞれ に行った後,論述したものを数名に板書をさせた。 その時に板書を行った生徒が記入した論述は, といったものであった。 図10 「元の襲来」での生徒のノートの一部 生徒の感想にも級友から学んだこととして,「自 分とは全く違うことに気づいていて納得できた」, 「色々な方向から見ることで考え方がかわるのだ と思った」,「他の考え方がたくさんある」など, 交流を通して他の生徒の考え方に触れ,新しい視点 に気づいた生徒も見られた。また,「みんなと話し 合うことで自分の分からないところが分かった」と いう生徒もあった。 それぞれが論述したものを交流していくことで, 自分の視点とは違う視点の論述を知れたと感じる。 ただ,今回の視点が思考ツールでまとめたものに 偏らせてしまったところがあり,もう少し広くとら えさせる部分の工夫が不十分であったところは課 題であった。 5.まとめ 1年生では,短文記述や思考ツールを用いた資料 の整理から始め,徐々に積み重ねてきた。地理分野 の「世界の諸地域」では各州のまとめとして2行論 述を行っているが,多くの生徒が2行論述を行うこ とが可能となってきた。 しかし,交流を行う際,教師によって解説を加え て要点をとらえさせるため,生徒自身で,どのよう な視点があればよいかについての視点が十分に育 っているとは言いがたい。 今後,論述を進めていく上で,少人数グループ内 での交流からそれぞれの論述を交流し合い,どの視 点があると分かりやすいか,何について論述したの かなどを生徒間でとらえさせていく機会を設けて いき,論述する力を伸ばしていきたい。 参考文献 「言語活動の充実に関する指導事例集―思考力, 判断力,表現力等の育成に向けて 中学校版」,文 部科学省,平成23年5月 ・仲良くしていた高麗や宋が元に服従させられ ていたり,滅ぼさせられたりして腹が立って いたから。 ・元と交流した国を見て交流して良い印象より 悪い印象しかないから。 ・日本は宋などと仲よくしていたのにその宋な どをおさえる国と国交すると信らいを失うか ら。 ・自分たちだけで国をつくりたかったから。