水再生スマートグリッドによる水資源の保全
中 島 淳
1. はじめに 2. 集中システムと分散システム 2.1 下水道と浄化槽 2.2 水道と井戸 2.3 多様な分散システム 2.4 上下水道システム 3. サテライトシステム 3.1 サテライト型水再生再利用システム 3.2 サテライト型水供給システム 4. 水再生スマートグリッド 4.1 生活雑排水の再生再利用 4.2 水再生再利用のグリッド 4.3 スマートグリッド 5. おわりに1. はじめに
水資源の保全とは、水の健全な循環システムの保全である。循環にはいくばくかの時間(回 転時間)がかかるものだが、酵素反応の獲得によって遺伝子伝達のための寿命をかせぐことが 可能になり、しかし同時にその時間かせぎが必要になった地球上の生物たちには、いくばくか の時間がその持続可能性(サステイナビリティ)の条件となっている。 水の循環システムには何重ものサイズがあるものの、ここではヒトの都市生活に身近なタイ ムスケールを考える。そのタイムスケールに限っては、ヒトは紀元前より懸命に闘い、水資源 の確保にいっていの成果を得てきた。しかしながら、未曽有の人口増加とそれが引き起こした 気候変動に直面している 21 世紀の宇宙船地球号では、新たな水資源水循環の認識が必須と なっている。水再生再利用である。 本論文では、都市の新たな水資源として取り組まねばならない水再生再利用について、その論 文
ひとつのフィジビリティとしての水再生スマートグリッドを取り上げた。その説明のために、 集中システムと分散システム、あるいはサテライトシステムの概念を、水の流れを水路とグ リッドに対応させて論じた。より明快な水再生スマートグリッドへの理解(あるいは批判)が 得られることが、小論の目的である。
2. 集中システムと分散システム
2.1 下水道と浄化槽 我が国の都市部における下水道は、家庭での水使用によって生じる生活排水を管渠によって 下水処理場に集め、そこで処理をして公共用水域に排出している。この下水道は排水を管渠で 集中させて処理することから、集中処理システムといわれる。他方、個別の住宅やマンション のようなビル、あるいは小規模な住宅団地や集落ごとに排水を処理するシステムは分散処理シ ステムと呼ばれ、我が国では浄化槽がその代表的なものである。 集中処理システムと分散処理システムを、グラフ例示すると図 1 のとおりで、黒丸で示した ノードは、上から排水の発生源、処理施設、放流先を示している。このノードは、複数の水路 (ノードを連結する実線)の連結点(グリッド)ともいえ、そこで水量や水質が変化する(変 換される)ことが特徴である。 例えば、pH、SS、BOD、窒素、リンなどの水質指標 qi からなる水質のベクトル(q1, q2, q3 …)に水量 q0を加味した水量水質ベクトル Q=(q0, q1, q2, q3…)を考えると、生活排水の発生 源では、Q(水道水)から Q(生活排水)に水量水質ベクトルが変換される。この水量水質を 変換させる行列演算子を水量水質変換行列 M とすれば、 M(使用)Q(水道水)=Q(生活排水) 同様に 図 1 分散処理システムの浄化槽(左)と集中処理システムの下水道(右) 家庭での水使用 (水道水から生活排水 がつくられる) 施設での処理 (原水は処理され 処理水となる) 公共用水域への放流 (処理水は環境水へと還元される)M(処理)Q(原水)=Q(処理水) さらに M(放流)Q(処理水)=Q(環境水) と記述できる。 2.2 水道と井戸 同様に上水道についてみると、集中水供給システムとしての水道と分散水供給システムとし ての家庭用井戸があげられる。これらもグラフ例示すると図 2 のようになり、浄水場での水処 理で明らかなように、グリッドにおける水量水質変換がみられる。ここでは、水量水質 Q(原 水)から水量水質 Q(浄水)に、水量水質変換行列 M(浄水)によって変換されるといえる。 M(浄水)Q(原水)=Q(水道水) 我が国の多くの浄水場では、凝集沈殿・急速砂ろ過方式が用いられているが、旧来からの緩 速砂ろ過方式の浄水場や、最近の膜ろ過方式の浄水場もみられる。膜分離技術の発展は、浄水 場の水量水質変換方式に、大きな変化を及ぼしつつある。 浄水場では同時に消毒工程が含まれるが、我が国では塩素を用いた消毒技術が用いられてい る。塩素が有する残留性を持たないが、あるいは持たない点を長所ともして、紫外線消毒が代 替の候補とされている。紫外線消毒は、電気エネルギーの供給で性能を制御可能な点が、その 大きな特徴である。 2.3 多様な分散システム 我が国から離れて経済発展途上国に目を向ければ、より多様な分散水利用システムをみるこ とができる。バングラデシュのクルナ市郊外では、水浴、洗濯、食器洗浄に生活用溜池水を用 図 2 分散水供給システムの井戸(左)と集中水供給システムの水道(右) 家庭での水使用 浄水場 家庭での井戸汲み上げ(取水) 取水 家庭での水使用
いている(図 3)。汚水の混入がある溜池は、この生活用の溜池とは区分されている。他方、 飲用には井戸水を用いるが、その砒素汚染が大きな課題として継続している。 スマトラ島のカユアグン地方では、クメリン川の岸辺に浮かせた多数の筏(公共水場)の上 で、人々は直接河川水を用いて洗濯および食器洗浄をしている。同じ筏の端には周囲を簡単に 囲んだトイレがあり、糞便も直接河川に放流されている(図 4)。 ジャワ島のマラガンジャ地方では、水質の悪い原水に対しては、独自の生物処理も試みなが ら、湧水をコミュニティ単位導水し、各戸にパイプ配水している(図 5)。 このような多様な分散システムを、我が国の水道、下水道といった集中システムと比較する と、水利用別に異なる水供給(水利用)方法を有することが特色といえる。 溜池や河川水の直接使用においても、水量水質の変化が生じよう。それらは、グラフ表示で は図 6 のように 1 点のノードに過ぎないが、そこでも水量水質変換行列 M(水浴)を考える ことができる。 M(水浴)Q(使用前溜池水)=Q(使用後溜池水) ただし、この M はもちろん水処理ではなく、水使用による汚染を表している。また、人為 図 3 生活用溜池(クルナ市郊外) 図 4 公共水場(スマトラ島クメリン川) 図 5 コミュニティ水道(ジャワ島) 図 6 溜池や河川水の直接使用 溜池での水浴 河川での洗濯
的な処理ではなく溜池内の自然浄化を考えれば、以下の水量水質変換行列 M(自然浄化)も 考慮することができる。 M(自然浄化)Q(浄化前溜池水)=Q(浄化後溜池水) 2.4 上下水道システム 図 1、図 2、図 6 を比較すれば、我が国の上下水道システムは、もともと環境水を直接使用 していた図 6 のノードの上下 2 方向に、取水-導水-浄水-配水の経路と、排水-処理-放流 の経路が付加されたものである(図 7)ということができる。
3. サテライトシステム
3.1 サテライト型水再生再利用システム 処理場に到達するまでの下水道のある点において、流下する下水の一部を分取し、処理(再 生)をして何かの用途に利用(再利用)する方法が、サテライト型水再生再利用1)である(図 8)。この水再生が行われるグリッドでは、水量水質が変換される。 M(水再生)Q(下水)=Q(再生水) 再生水は再利用の用途に応じた水量水質が求められるが、家庭での水利用のように、飲用目 図 7 環境水の直接使用に対して上下水道システムが付加された 家庭での 水使用 浄水場 取水 配水 導水 処理場 放流 排水的までは要求されないのが普通である。かといって、直接再利用されない通常の下水処理水よ りは、高度な水質(低濃度)が求められる。農業利用や景観目的であれば、腐敗性有機物の一 定の低減と、衛生的な取り扱いが重視をされよう。池沼での藻類増殖を抑制するには、栄養塩 除去も求められる。 我が国のビル中水(下水再利用)では、生物処理後に砂ろ過が用いられていたが、最近は膜 分離活性汚泥法(MBR)の利用など、膜分離技術の適用の方向にある。膜分離技術がサテラ イト型水再生に適している理由としては、再生水が高度であることと、下水の総量と比較して 再生水量が少量であるので、小規模な施設で再生が可能であることがあげられる。すなわち、 サテライト型水再生再利用は、必要な水量だけを必要な程度に再生するシステムといえる。 再利用水が土壌還元されれば、図 9 の(左)のようなグラフであるが、再利用後の水が環境 水域に放流されたり、元の下水管に再流入されたりする場合も考えられる(図 9 の(中)、 (右))。水再利用によっても、水量水質の変換が行われる。 M(再利用)Q(再生水)=Q(再利用排水) 3.2 サテライト型水供給システム 途上国においては水道事業がすすめられ、家庭への蛇口給水が可能になったものの、飲用に 図 8 サテライト型水再生再利用 水再生 再利用 処理場 水使用 サテライト型 図 9 再利用水の土壌還元(左)、環境水への放流(中)、下水管への再流入 再利用 再利用 再利用 放流 再流入 処理場 処理場 処理場 水使用 水使用 水使用 水再生 水再生 水再生
適した水質が供給できない場合がある。こうした場合に、湧水などを水源とする飲用可能な水 を、水道管ではなくタンクローリー車による運搬や、ボトルウォーターの運搬で供給(購買) している事例は多々みられる(図 10、図 11)。 インドネシアのウェー島では、水道管で供給される水道水を精密ろ過膜でろ過し、紫外線消 毒をした後に、ボトルウォーターとして販売する商店が開店し、好調なビジネスを展開してい る(図 12)。 ラオスのビエンチャン市の水道公社は、自ら浄水した水道水を原水として、さらに膜ろ過を して紫外線またはオゾン消毒をしてからボトルに詰め、販売をしている(図 13)。 これらの水の流れは、水道管ではない運搬手段(点線で表記)で使用場所まで供給されてい るものの、水道水の一部を分取し高度浄水をして供給していることから、サテライト型水供給 システムと呼ぶことが可能であろう(図 14)。ここでも、膜分離技術が用いられ、また必要な 水量だけを高度に浄水するシステムであることは、サテライト型水再生再利用と類似してい る。サテライト型水供給システムでも、水量水質の変換が行われる。 図 10 タンクローリー車による水運搬 図 11 ボトルウォーターの輸送など(点線) 浄水場 湧水 など 家庭での水使用 取水 ボトル 詰め 車両輸送 飲用水 図 12 水道水を処理して販売(ウェー島) 図 13 公社が高度浄水して販売 (ビエンチャン)
M(高度浄水)Q(水道水)=Q(飲用水)
4. 水再生スマートグリッド
4.1 生活雑排水の再生再利用 家庭での水使用から排出される生活排水は、トイレから排出されるトイレ排水(し尿および 便器洗浄水)と、その他の生活雑排水に分けて論じられる。図 15 の ( 左 ) は、バンコク北部の バーンケーンにあるアパートの排水経路だが、トイレ排水だけがセプティックタンク(腐敗 槽)で処理されるが、雑排水は未処理で水路から運河に放流されている2)。このようなパター ンは、下水道未整備の途上国の都市部はもちろん、我が国でもみなし浄化槽(し尿単独処理浄 化槽)使用の家庭でみられる。ここでのトイレ排水処理用のセプティックタンクでも、水量水 質の変換が行われる。 M(セプティックタンク)Q(トイレ排水)=Q(処理水) バーンケーンでの研究では、雑排水だけを集めて、その一部あるいは全量を再生して再利用 することを検討したが、その例が図 15 の(右)であり、水量水質の変換は以下のようである。 M(雑排水再生)Q(雑排水)= Q(再生水) ただし、実際の実験では、洗濯排水と洗面・シャワーだけを集めて、タイ製の浄化槽(接触 爆気方式)を用いて再生実験を行った(図 16)。 4.2 水再生再利用のグリッド これまでに、多数の水量水質変換グリッドをみてきたが、サテライト型のグリッドや、雑排 水再生グリッドにおいては、水質だけでなく水量の変換が行われることがわかる。また、これ 図 14 サテライト型水供給システム 浄水場 膜ろ過 消毒 家庭での水使用 ボトル 詰め 車両輸送 飲用水までに示した水量水質変換行列は、基本的には平均的な原水の水量水質ベクトルに対して、平 均的な処理水水量水質ベクトルを与える平均的な変換行列として示してきた。 しかしながら、原水の水量および水質は刻々と時間変動をしているし、再利用に必要な水量 にも時間変動が存在する。場合によっては必要な再生水の水質も時間変動する。こうして、排 水の処理から再生再利用への変化することに伴い、再利用側からよりスマートな水量水質変換 が求められることになる。こうした水再生のスマートな変換システムを、水再生スマートグ リッドとよぶこととする。 4.3 スマートグリッド 水使用後のグリッドで水再生がスマートに行われるためには、その時点での使用水の水量水 質ベクトルと再生水の水量水質ベクトルから、図 17 のようにリアルタイムで水再生の水量水 質変換行列を設定して変換を実行する必要がある。そのためには、図 18 に事例を示したよう に、Q(使用水)と Q(再生水)の現状を瞬時に算定するための計測装置とモデルによる計算 プログラムが必要であり、さらに現状の Q(使用水)と Q(再生水)に対して、目的とする Q(再生水)を得るために必要な M(水再生)を算定するモデルの計算プログラムが求められ 図 15 アパートの排水経路(左)と雑排水再生の適用(右) 図 16 タイ製の浄化槽による雑排水再利用実験 台所 洗濯機 洗面・シャワー トイレ 台所 洗濯機 洗面・シャワー トイレ セプティック タンク セプティック タンク 雑排水再生 再利用 放流 放流
る。そして、最後に M(水再生)を実現するグリッドにおける再生装置の運転条件が決めら れ、それに対応した適切な制御が行われなければならない。こうした水再生スマートグリッド は、水量水質変換の最適解を提供することにより、新たな水資源確保に貢献するシステムとし て、大きな活躍が期待されると考える。
5. おわりに
「なにも、スマートにやる必要はないのでは?」、「どこが、スマートなのか?」と、お叱り を受けることを承知で、「水再生スマートグリッド」とあえて呼ばせていただいた。スマート とは言うまでもなく、比較形の「スマーター」であり、つねに時代によって塗り替えられるべ きイノベーションの形容詞に過ぎない。 しかし、地域電気エネルギーの有効利用を目的とするスマートグリッドという用語をあえて 借用するには、水が電気と同じ流れの性格を有すると同時に、使われたのちにエントロピーの 増加に加えて、水分子と夾雑物の混合体の「排水」が生産される事実を、いかに克服するかと いう命題があった。使用後に排水という実体が残存することは、電気のスマートグリッドと 図 17 Q(使用水)と Q(再生水)からの M( 再生水 ) の設定 図 18 水再生スマートグリッドでの M(水再生)決定プロセス事例 水使用 水再生 再利用 放流 Q(使用水) M(水再生) Q(再生水) M(水再生)Q(使用水)=Q(再生水) 必要とされる 水量水質変換の決定 M(水再生)=(mij(t)) 再利用の状況 原水の水量水質ベクトル Q(使用水)=(q0(t), qj(t)) 必要とされる再生水の水量水質ベクトル Q(再生水)=(q0(t), qi(t)) 水使用の状況 水量水質の計測 モデルによる算定 水量水質の計測 再生装置の運転条件違って、常にお釣りが出てきてしまう困った事態といえる。
水再生再利用は、そのお釣りを利用して財を稼ごうというたくらみである。このたくらみが どんな場所でもペイするとは考えないが、ある時期ある地域ではうまく働き、確実に水資源を サポートすることを願いながら研究を続ける所存である。
参考文献
1 )Asano T. et al.: “Water Reuse: Issues, Technology, and Applications”, McGraw Hill, 2007(大垣他訳 「水再生利用学」、技報堂 2010)
2 )Supattra Jiawkok, Suda Ittisupornrat, Chittima Charudacha & Jun Nakajima: The potential for decentralized reclamation and reuse of household greywater in peri-urban areas of Bangkok, Water and Environment Journal, Vol. 27 229–237, 2013