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戦後日本の人口動態分析

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Academic year: 2021

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(1)Title. 戦後日本の人口動態分析. Author(s). 亀畑, 義彦; 大嶋, 謙一. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 51(1): 79-89. Issue Date. 2000-09. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/692. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 1巻 第1号 北海道教育大学紀要 (人文科学・社会科学編) 第5. 平成 12 年 9 月. I l of Ho ー霊aido Uhi i夢 of Edu i i }ou ) VO i コ ddes al aISc ences l コ na ver s {Lロon 旧mma ld soc .I .51 , No. Sept ember ,2000. 戦後日本の人口動態分析. 亀. 畑. 義. 彦・大. 嶋. 謙. 一. 北海道教育大学旭川校社会学・経済学研究室, 北海道大学大学院経済学研究科博士課程. ion i ′uqalys is of the △40venQen 〕 ヒ . Postwar japan t of Populat L m Yoshihiko KA~ l観 。OS日m△んA l 観c 巳HATA, Ke 1 ‐. i fEducanon do Un kawa C2 i i汐 o i A s i ah ve s umpus Ho直a r W ▼ ; do Uh fEc l i i i iげ Doc t n cs Ho山 a ve r s o r s pr o n Fac皿け o ono モ リmmi. はじめに 急速な少子高齢化によってわが国は、 いままで見たこともない社会が出現するだろうといわれている。 所 得の伸びは小さくなり、 家族の空洞化が進み、 自立した個人として生きようとしても国民負担率3は上昇す る一方で、 それでも、 長くなっ た寿命を生きなければならない。 少子高齢化が進めば労働人口の減少と市場. 規模の縮小などを通じ、 経済成長へのマイナス効果や地域社会の活力低下が懸念されるなど将来の経済社会 に重要な影響を及ぼす。 本論で使用する 「人口動態」 という用語は厚生省の人口動態調査統計によっ ている。 それによれば 「我が 国の人口動態統計は、 市区町村長が作成する人口動態調査票に基づいて表章される。 すなわち、 出生・死亡・ 婚姻及び離婚については戸籍法による届書等から、 死産については死産の届出に関する規定による届書等か ら人口動態調査票が作成され、 これを集計した統計が人口動態統計である」4 。 本論は主として戦後の人口動態を分析するが、 このことから現在さかんに言われている 「少子高齢化社会」 の意味を洞察することを目的とする。 本論の構成は次のとおりである。 第1節で、 戦後の人口動態を出生率、 死亡率、 人口増加率、 高齢者比率などのデータを利用して現在のわが国の少子高齢化社会が、 人口増加の停 ・口増加の停止と高齢者比率の増加という現象を年齢 止と高齢者比率の増加であることを示す。 第2節で、 人 クラスに分けて戦後の趨勢を考察するとともに、 人口の平均年齢の推移と若年人口比率のデータを利用して、 より詳細に検討する。 第3節で、 わが国の長期人口動態を出生率と死亡率の比較によって考察する。 長期人 口動態には 「多産多死」 「多産少死」 「少産少死」 「少産定死」 の局面が見られることを指摘する。 第4節で、 戦後の人口増加と経済成長の関係を分析する。 特に人口増加率と一人当たりGDPとの関係を分析し、 その 結果、 人口増加率と一人当たりGDPの増加とが逆相関の関係にあることを指摘するとともに、 経済成長に 関する経験的事実を三点にわたっ て掲げる。 第5節では、 上記各節で指摘した 「少子化」 傾向を合計特殊出 生率の面から考察する。 ここでは1965年頃を境として、 出生率をそれ以前とそれ以後の3局面に区分できる ことを指摘する。 第6節は、 晩婚化現象に伴う出生率の低下を 「現代若者たちの結婚事情」 という調査結果をもと に考察す る。 ここでは未婚男女とも結婚希望年齢が調査を重ねるごとに上昇しているとともに予定子供数が減少傾向 79.

(3) . 亀畑. 義彦・大嶋. 謙一. にあることを指摘する。 第7節では特に少子化傾向に対する政府の施策として 「新エンゼルプラン」 の概要 を考察する。 そして最後の節では戦後の人口動態の特性、 すなわち 「少子高齢化」 が経済成長に伴う帰結で あることを考察し、 それを下支えする家族の問題が今後一層検討されなければならないことを指摘する。 1節. 少子高齢化社会. 「高齢化社会」 とは総人口に占める65歳以上人口数が総体的に増加する社会ということができる5 。 ただ 5歳以上の人口数の総人口に占める割合の増加 という現象だけに目を奪わ し、 ここで注意が必要なのは単に6 れないことである。 この現象が国民経済にどのような影響 を与えるかという洞察が必要である。 「少子高齢化社会」 が到来した要因は二つある。 以下のとおりである。 1) 出生率の低下 (注 48年 「優生保護法」 の制定) 2) 死亡率の低下 岡崎陽一氏は 「人口高齢化に直接的かつ即効的に影響するのは出生率の低下であり、 死亡率の低下は、 当 初、 低年齢人口の生存率を高めることにより、 むしろ人口構造を若年化する方向に働く。 しかし、 長期的に は死亡率低下は高齢人口を増加させ、 人口高齢化の原因になる。 この意味で死亡率低下のほうが複雑である」 と指 摘 してい る6 。. 図1. 普通出生率と死亡率 図1によれ ば、 普通出生率・死亡率ともに急激に低下したのは19 0年まで一時的に 5 5年である。 以降、 普通出生率は1960年から197 上昇するものの、 1975年以降ふただび低下傾向を示すよう になる。 他方、 死亡率は1955年までは低下するが、 1960年以降、 ほぼ安定 的に推移している。 そして1995年から若干の上昇傾向が見られる。. t. 図2に図示するように7 、 わが国は人口増加 がほとんど見られ ない状態で高齢者の比率が急激に上昇している。 この傾向が顕著 ‐ 1 0. 0 55 02 53 03 54 04 08 59 09 5 0 0 051 01 52 1 9 5 0 5 56 06 57 07 58 2 年 次. になったのは1970年から1975年以降である。 すなわち人口増加の 停止 (若い年齢階層の減少) と高齢者比率の増加ということが. 「少子高齢化社会」 の真の意味である。 図2は人口増加率 は1960年までに急激に低下し197 5年までは逓増傾 向がみられるものの1995年以降は安定傾向を示している。 他方、 高齢者比率は1970以降、 急激に増加してい おり19 95年以降は増加率が逓減する傾向を示している。 図2 人口増加率と高齢者比率. //. L. \. ′. /. \. /. 、. 〆\. \. 、、. \. 80. 〆 一. /. 、′. 〆. \、. ′. / / /.

(4) . . 戦後日本の人口動態分析. 2節. 人口の静止と高齢化. 現在、 日本で は人口増加率の低下と人口の高齢化 が同時に進んでいる。 図38に見るとおり0-14歳入口 比率が1970年に急激に減少している。 また、 15一64歳人口比率は1960年以降で低減傾向にある。 これに比較 5年以降逓増している。 そして、 この年齢層は1990年以降は上昇安定している。 して65歳以上人口比率は195 人口比率. 図3. \. \‘. //. /. \. ′′′ ′. 、. \J /. \、. \. \. ′. \、. \. /. \/. \. 、. ~ o 1 4 ~ 1 5 6 4. /. \. 6ず. /. /. この こと を別 の角 度 か ら眺 め たの が図 49で ある。. 図4. 人口の平均年齢推移と若年人口比率. ー. \. / / ′. \. 、. \. /. 一. .. ′. / //. 、. \、. /. \、. \. /. \. 5年以降は安定傾向が見られる。 また若年人口比率 人口の平均年齢は1950年以降一貫して上昇するが、 199 5年まではこの減少傾向も落ち着くように見え 5年から198 (0-14歳比率) は1950年以降、 急落するが、 196 50年代初頭に生まれた、 いわゆる団塊の世代の子供が出生適齢期に達し る。 この期間は戦後1940年代から19 たためである。 しかし若年人口比率は1985年以降減少し、 1995年からほぼ安定した低位傾向が続いている。 3節. 人口変動の法則 図5 4 0‐. 長期人口動態. 出 生 i h L i t r s v eb. 言 m-. h D t e a s. 』総勢= … …▲ 3 9 9 18 ‐年 ‐. 0 1 9 1. 大正. ’ 2 0. = 諮 縫お … … ” … r ・ 0 3. ・ 4 0. 2 5. ’ 5 0. 3 5. ’ 6 0. …$1=1 11-=も ち… … = 歯 …1 轍1 2 79 ’ 0 7. ’ 8 0. ・ 9 0. ’ ’ 9 5 9 7. 81.

(5) . 亀畑 義彦・大嶋 謙一. 近代経済成長期といわれる時代のはじまりにおいては出生率も死亡率も高い 「多産多死」 が支配する。 日 本では1900年から1920年がほぼこの時期にあたる。 次の局面に入ると、 まず死亡率が低下し出生率はあまり変わらないので人口増加率が加速する。 「多産少 死」 の局面である。 この結果、 人口の年齢構成は若年化する。 わが国の場合、 このような人口増加と若年化 は1920年から1 950年半ばころまでの時期におこっているが、 死亡率の低下は急激におこったのではなく、 ゆ るやかで連続的におこった。 第三の局面では出生率と死亡率がほぼ安定し人口増加率もほぼゼロに接近する 「少産少死」 という特徴を もつ局面が現れる。 日本で は1950年から19 75年までがこの局面にあたる。 そして人口の少子高齢化はこの局 面に現れる現象である。 人口動態の第四の局面は, 死亡率がほぼ安定しているの対して出生率が低下しつづ けている、 いわば 「少 産定死」 とでも呼ばれる現象である。 これは1980年以降に顕著な現象である。 以上のことを図5で見ること ができる。. 4節. 人口増加と経済成長. 一時期に経済成長が加速して出生率が上がると、 当分の間、 人口増加率は上がったままになる。 ところが 何かの事情で経済が長期不況になることがある。 そうなると経済にとっては相対的に人口が過剰となり、 失 0年代の初めから1940年代半ばころま 業の深刻化・貧富の格差の拡大などの問題が発生する。 わが国では190 では、 このような相対的過剰人口の問題が強く意識された時代だった。 人口増加率が1%前後に落ち着いたのは1955年以降1975年ころまでであるが、 この戦後の出生率の安定期 は総人口の増加、 経済の高度成長、 雇用者化、 日本型雇用慣行の普及, 郊外住宅地化, 核家族や専業主婦化 の進行、 高等教育の普遍化など社会が一定の方向へ急激に変化した時代であり、 わが国にとっては人口問題 1という条件にもめぐまれて農業社会から工業社会への移 を意識しないですむ時代であった。 若い人口構成1 行を完成させることができた。 一国の経済成長の発展には幸運が作用することがある。 わが国がかつての未曾有の経済成長を可能にした 条件に、 上記のような成長に有利な労働人口構成があったことは広く認められている。 すなわち 「かえって 1億人口は、 経済単位としてはきわめて適当なものなのである。 こうしたところへ、 一時的な要因さえ加わっ た。 戦後日本では、 兵士の帰還などで一時出生率が高まつたあと、 バース・コントロールなどで出生率が低 下した。 そのため、 養うべき幼児の数が減っ て、 しかも若年労働者が多数得られるという、 一時的ではある がたいへん有利なことがおこったのである。 この事情は、 日本が国民総生産の多くを投資に向けることがで きたひとつの重要な理由である。」 賜 75年の間の人口の平均年齢は20歳後半から30歳前半であり、 かつ、 普通出生率も15%から20 195 5年から19 %の範囲に収まるものであっ た。 図6 人口増加率と一人当たりGDPの成長. 1. \ \ 、. 、. \、. ′. \′. 82. \. \. \、\. 胴 馴胴.

(6) . 戦後日本の人口動態分析. 3に示した これによれば人口増加率の低下 は一 わが国の人口増加率と一人当たりGDPとの関係を図61 。 人当たりGDPの増加と相関関係にあるようである。 このことを確認するために回帰分析 を行った。 X軸は 一人当たりGDP増加 (対前年比) で、 Y軸は人口増加率である。 表1にその結果を示した。 推定どおりの 結果が求められた。 すなわち、 人口増加率の低下は一人当たりGDPの増加を押し上げる要因となっている。 表1. 人口増加率と一人当たりGDPの相関. Y 切片 Y. 評価値の標準誤差. R2乗. 22339155509465 1 ‐ 0 1 ‐78253871177951 0 829215573287151 . 10. 標本数 自由度. 8 000237745692638539 -0 .. X 係数. E 43667 00 5 X 係数の標準誤差 3 814679645 ‐ ‐. ここで、 人口増加と経済成長の関係について指摘おきたいのは次のことである。 かりに経済が成長するの をやめて一定水準で動かなくなっても、 人口がそのとき一定なら一人当たりGDPも一定となる。 また、 人 口が減少していれば一人当たりGDPは上昇するはずである。 以下は人口動態に関連した経済成長に関する 4 ただし これらの実証的検討は次稿以降の課題としたい いくつかの経験的事実を掲げたものである1 。 。 、 ① 経済成長率が高いときには経済全体に占める製造業のウエイ トが拡大し、 経済成長率が低くなると製 造業のウエイ トが小さくなるという産業構造の変化が見られるということである。 経済の中で製造業の ウエイ トが小さくなると経済成長率は低下せざるをえない。 かりに製造業と非製造業が以前と同じ率で 拡大をつづ けるとしても、 拡大のス ピー ドがよりはやい製造業のウエイ トが小さくなるだけで経済成長 率は低下する。 経済成長の前半期には貯蓄率が上昇し、 後半期にはそれが低下する傾向が見られる。 先に見た若年労 働者の増加とバース・コントロールによる出生率の低下は、 恐らく貯蓄率の上昇と関係し、 この貯蓄の. ②. 多くを投資に向けることが可能になっ たことを示唆する。 すなわち家計貯蓄率の上昇が国民貯蓄率の上 昇につながれ ばGDP に占める投資の割合も上昇する。 しかし家計貯蓄率はいつまでも上昇を続けるも のではない。 ある時期に頭打ちとなり、 そのあとは徐々に低下していく。 貯蓄率が低下する主な理由は 二つ考えられる。 ひとつは高齢化の進行による貯蓄の取り崩しであり、 他方は社会保障制度の整備によ 5 る 年 金 と 医療 の充実 で ある1 。. ③ 経済成長の初期には人口の増加 が加速するが、 経済の成熟とともに、 その増加率が低下し、 やがて人 6 口増加 が止まり減少傾向が見られる1 。 5節. 合計特殊出生率. わが国の 「少子高齢化」 現象は総人口の増加停止・減少・高齢化に向かっているということであって、 単 なる65歳以上の人口が増大したことではないのである。 「日本では、 戦前から戦後1955年頃まで年齢構成は、 概して、 安定しており、 総人口に占める高齢人口の割合は5%前後でほとんど変化がみられなかっ た」 とさ 7 れ る1 。. それでは総人口の増加停止・減少・高齢化の現象を解明するために何を視点とすればよいのだろうか。こ こでは先の岡崎陽一氏の指摘をヒントに 「少子化」 について考えてみたい。このことは出生率を資料とする ことが有益であるが、 本論では 「合計特殊出生率」 の変動に着目する。 8とは一人の女性が生涯に出産する子供の数のことであり 人口の再生( ここで 「合計特殊出生率」1 - r e 、 83.

(7) . 亀畑. 義彦・大嶋. 謙一. 1といわれる。 i t )に必要とされる数値は2 placement of p op通a on .. この数値は人口を増減なく一定の大きさ. に維持できる安定した状態を示すものである。 人口の 「純再生産率」 とは、 女性一人が生涯に産む女児の数 から死亡による 目減りの数を差 し引いたものであり、 これが1であれば同じサイズの人口が再生産されてい 1である。 日本で合計特殊出生率が2 1を下回ったのは1974年であっ く。 それに対応する合計特殊出生率が2 ‐ . た。 図7は1947年から1997年までの年次推移で出生率と合計特殊出生率を示したものである。 55年以降、 両出生率は急減に低下し、 その後、 逓減傾向が続いている。 1960年から1975 図7によれば、 19 年の間, 出生率は若干上昇するが、 これは先に見たように、 戦後の団塊世代の子供たちが出産適齢期を迎え たことに関係する。 しかし、 この増加傾向も197 5年以降、 出生率は低下し一時的な現象であったと見ること もできよう。 図7. 合計特殊出生率と普通出生率 「現在、 日本女性の合計特殊出生率は均 衡水準にあると見るべきであり、 今後労. (万人). 6 0 ・ 5 5 .. 働力人口が年率1%に近い率で低下して いく 中で、 女性 労働 はそ の不足 の 一部 を. 5 0 . 4 5 .. 埋 める た めの大 きな 役 割 を果 た す こと に. 4 0 ・ △. なる。 こ れ は女 性 にと っ て、 雇用 機 会や. 3 5馨 ・ 賃金がさらに上昇していくことを意味す 3 0殊 .. 2 5塑 る。 同時に、 これは子供の機会費用がま . 率 2 。 , 1 5 ・. 0 1 ・ 0 5 . 5 19 9 0 19 9 5 7 5 19 8 0 19 8 0 19 6 5 19 95 5 19 6 0 19 7 1950 1 次 年. o o ,. 9 すま す 上昇 してい く こと を意 味する」1 。 図 7 に 見 た よ う に、 わ が 国 の 出 生 率. (合計特殊出生率と普通出生率) は1965 年以 前 (「第 1期」) と1965年 か ら1980年 ま で (「第 2 期」)、 お よ び1980年 以 降. 「第3期」) の3局面に区分される。 す ( なわち、 第1期は急激な出生率の低下を 見た期間で、 第2期は若干、 出生率が回復し、 第3期は出生率が逓減する期間として考えることができる。 これらの各期についての社会経済状況を、 特に女性に視点を当てて考察してみよう。 団塊の世代に続く第1期の女性たちは、 まずもって 「新しい消費生活に対応しつつ賢明かつ合理的な家庭 0が期待された その結 管理者としての知識や能力を高め、 子 どもの健康を守り、 適切な教育を行うこと」2 。 1として家庭と職場での男女の性別役割分業を担うサラリーマンの妻としての専業 果 「内助の功つき労働」2 主婦化が見られた。 しかし専業主婦の生活はそれだけでは夢でありえなくなった。 子どもが小さい間はアパー トの一室で育児書を片手に一日中ひとりで乳幼児と向き合うことが主婦たちの孤独感・負担感を生み, 子ど もが学校へ行くようになると、 子どもの教育に関するいろいろな事柄が主婦たちの時間を奪うようになる。 0歳後半の主婦は役割を失い、 役割分業型家庭生活の中で主婦たちには漠然とした不満が生 子育て終了後の4 まれることになる。 第2期生まれの女性には、 なお一層、 専業主婦化が推奨された。 この時期、 政府は 「家事労働の正しい社 会的評価・妻の遺産相続分の引き上げの検討」 などの形で専業主婦の地位改善を検討する一方で、 「婦人の 就業と共働き家庭に対しては否定的な態度を示している。 家庭には社会福祉を支える家族のあり方が期待さ 2が この期生まれの女性たちにとっては結婚は夢や希望の感じられるものではなくなってきた。 れていた」2 、 豊かさを享受してきた、 この世代にとって 「豊かで居心地の良い結婚生活」 を確信できない結婚にはなかな 84.

(8) . . 戦後日本の人口動態分析. か踏み切れない。 この世代は 「結婚は個人の自由」 といいながら 「いずれは結婚したい」 という気持ちはあ るが、 結婚に対し積極的な夢や希望を見出せないまま自由気ままな未婚の今を楽しみ, 結婚を先送りするこ とで晩婚化が進んだ。 晩婚化が進んだ第3期生まれの世代は、 雇用者化が更に進み、 職場では家庭よりも仕事を優先させること を求める企業風土が維持されて、 夫の子育て支援は期待できなく、 また生活空間の郊外化の中で地域社会は 子育て支援の力に乏しく、 兄弟姉妹による子育ての相互支援機能も失われて負担が一人母親に集中する傾向 が一層進行した。 いわゆる 「二重責任・二重負担」 の問題である。 主婦に対するこれらの問題の発生は、 そ の負担増大の直接的な要因である子どもの数を減少させるという帰結をもたらす。 原田純考氏 は 「一般的に いって社会の富裕化と出生率の低下・少子化との間に一定の相関性があることは、 確認されてよいことのよ 3と指 摘 して い る う に思わ れる」2 。. この時期、 女性の労働力人口は増加するが、 その理由として橘木俊詔氏は 「第一に、 女性の高学歴化によっ て就業意識や経済的自立心が高まってきたこと、 第二に経済成長の恩恵を受けて市場賃金が高まったので、 外部労働の自動化や核家族化によって家事労働そのものの負担が軽減しているし、 それらを外部から購入す 4ことを指摘する る機会も増えてきた」2 。 6節. 晩婚・未婚の問題と子供の数の問題. 1) 晩婚現象 結婚しない女性が増えたのは、 女性が仕事を持つようになったことと密接に関連している。 所得がまっ たくなけれ ば、 いやでも男性に依存する生き方をせざるをえないが、 所得があるので待つことができる ようになっ た。 また、 結婚はしたいが、 結婚したあとの家事負担の重さや生活の苦しさ、 住宅事情の悪 さ が予 測 で き て しま う の で、 「そ れ より は独 身 でい た 方 がま し」 とい う こと にな っ て しま う の で ある。. 図8. 晩婚化現象. 鋤 綿. 図8は晩婚化の状態を表示したものであ る。 これによれば夫 (初婚) と妻 (初婚). 9 2. /. の 年齢 と も に1970年以 降上昇 して いる こ. 8 2. ソ. 一 ; く. 7 2. /. 6 5 2 2 平均婚姻 年齢. /. /. また表2は国立社会保障・人口問題研究. /. 1回出生動向基本調査・独 所による 「第1. 姿(全婚姻) l. イ÷ \J ン‘ - - -. と がわ かる。. 身者調査」 の1997年度の調査結果を表示 5 した も ので ある2 。. この結果によれば男女とも 「いずれは. 愛(初婚). 結婚する」 と回答した者の割合が逓減し ており 「理想の相手が見つ かるまで結婚 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 199 0 1995. 年. 次. しなくてもかまわない」 と回答した者の 割合が逓増している。 表3も同じ調査の 結果を表示したものである。 未婚者の平. 均希望結婚年齢を年齢階層ごとに過去の 調査と比較すると18歳から19歳を除いた、 すべての年齢層で希望結婚年齢が上昇しており、 未婚者の希 望自体が晩婚化傾向を示していることがわかる。. 85.

(9) . 亀畑 義彦・大嶋 謙一. 表2. 未婚男女の生涯の結婚についての考え 男子 1982. 1987. 1992. 1997. 95 .9. 91 .8. 90. 60 .4 37 .5. 52 .8 45 .5. 85 .9 48 .9. 2 .3. 4 .5. 4 .9. 6 .3. 1982. 1987. 1992. 1997. 94 .2. 92 .9 100. 90 .2 100. 89 .1 100. 44 .5 4 .6. 49 .6 5 .2. 56 .1. いず れ 結 婚. ある程度の年齢まで 理想の相手が見つかる 結婚しない. いずれ結婚 ある程度の年齢まで 理想の相手が見つかる 結婚しない. 表3. 4 .1. 50 .1. 4 .9. 年齢別にみた希望する結婚年齢. 男子. 7 現在年齢 198. 1992. 199 7. 18か ら19. 23 ・6. 20か ら24. 24 ・8 25 .8. 25か ら29. 24 .7 27 ・8. 24 ・2 25 .2 28 ・5. 28 ・7. 30か ら34. 32 ・6. 33 ・3. 33 ・5. 2) 子供の数の問題 公的年金制度の整備や保有資産の増加によって、 親が老後の生活を子供に依存しなくてもすむように なっ たという事情も重要である。 親は家族の形成という人生の満足を実現することも多い。 その満足と 比べて子育ての負担があまりに大きくなっ てしまったことが問題なのである。 日本の家計にとって最大 の負担となっているのは住宅の購入と子供の教育費である。 表4. 予定子供数 男子. 希望の子供数 隔。 撒 1希望の子供数. 1 9 9 71 7 1 9 9 2 9 8 ぃ9 8 2f1 1 1 2 .34. 2 .3 女子. 2 .23. 2 .17. 2 3 1 2 .13 .17 1 2 .29 1 2 .2. 一. 表4も先と同様の調査結果を表示 したものである。 これを見ると調査を重ねるごとに希望子供数が減 少 して き て いる こと がわ かる。. 「一生結婚するつもりはない」 と考える人が増 えたわけではない。 また、 結婚して子どもに恵まれた人も 理想としては二人目・三人目の子 どもを持ちたいという希望はあるのに、 実際には子どもが一人か二人 にとどまるという場合も多い。 今, 進行している少子化は必ずしも人々とが積極的 に希望した結果とは言えない面がある。 むしろ、 子育てと仕事の継続との両立が難しいな どのために、 子ども を持つことをやむを得ずあきらめる、 ある いは、 若い男女、 特に女性にとって結婚や育児に伴う負 担の重さが大きく意識される状況があるために 結婚自体をためらうといっ た, さまざまな葛藤を伴う選択の結果という面が大きいのではないだろうか。. 86.

(10) . 戦後日本の人口動態分析. 7節. 新エンゼル プラン. 「少子化」 対策として現在の政府の取り組みを掲げる。 政府は平成12年を初年度として平成16年までに重 6 以下のとおりである 点的に推進する 「少子化」 対策の具体的実施計画を策定している2 。 。 1) 保育サー ビス等子育て支援サービスの充実 必要なときに利用できる多様な保育サー ビスを整備する。 また、 在宅の乳幼児も含めた子育て支援を 充実する。 ① 低年齢児の受け入れの拡大. 平成16年68万人. 平成11年58万人. ② 多様な需要に応じる保育サー ビスの推進 ( a ) 延長保育の推進 休 日 保 育 の推 進. ◎. 平 成11年7000ヶ 所. 平 成16年10000ヶ 所. 平 成11年100ヶ 所. 平 成16年300ヶ 所. ( c ) 乳幼児健康支援 (一時預かりの推進) 病気回復期にある乳幼児の保育 平 成11年1600ヶ 所. 平 成16年2000ヶ 所. 平成11年1500ヶ所. 平成16年3000ヶ所. 化) 一 時 保 育 の推 進. 平 成11年1500ヶ 所. 平 成16年3000ヶ 所. c ( ) 放 課後 児 童ク ラ ブ の推 進. 平 成11年9000ヶ 所. 平 成16年11500ヶ 所. (心. ③. 多 機能 保 育所 の整 備. 在宅児も含めた子育て支援の推進. ( a ) 地域子育て支援センターの整備. 2) 仕事と子育ての両立のための雇用環境の整備 育児休業を取りやすく、 職場復帰をしやすい環境の整備 ( a ) 育児休業制度の充実. ①. 化 ) 育児休業給付の見直し ( c ) 事業主による育児休業取得者の円滑な職場復帰への支援の推進 ②. 子育てのための時間確保の推進等子育てしながら働き続けることのできる環境の整備. ( a ) フ レー フ レー ・ テ レフ オ ン事 業 の整 備. (子育てサー ビス等に関し電話等による相談・情報の提供) ) 事業主による子育て支援の推進 恥 ( ) 子育てのための時間確保の推進の検討 c (. 労働時間の短縮等の推進. ( e ) 子 どもの看護のための休暇制度の検討 ③. 出産・子育てのために退職した者に対する再就職の支援. { a ) 再就職希望登録者支援事業の整備 そ の他 と して、. 3) 働き方についての固定的な性別役割分業や職場優先の企業風土の是正 4) 母子保健医療体制の整備 ①. 総合周産期医療センターを中核とした周産期医療ネッ トワークの整備 平成11年10都道府県. 平成16年47都道府県. 平成11年24ヶ所. 平成16年47ヶ所. ② 小児救急医療支援の推進 ③. 不妊専門相談センターの整備. 5) 地域で子どもを育てる教育環境の整備 6) 子どもたちがのびのび育つ教育環境の重視 7) 教育に伴う経済的負担の軽減 87.

(11) . 亀畑 義彦・大嶋 謙一. 8) 住まいづくりやまちづくりによる子育ての支援 以上が 「少子化対策推進基本方針」 の具体的実施計画の概要である。 この計画で強調されているのは 「保 育サービス等子育て支援サービスの充実」 の中で、 ①多様な需要に応える保育サー ビスの推進、 および、 ② 在宅児も含めた子育て支援の推進、 と 「母子保健医療体制の整備」 などである。 しかし、 実施計画はあくまでも量的な整備目標を示したものであり、 いくら量的整備がなされてもサービ スの質の確保と向上がなされなければ意味をもたないことは指摘するまでもないことである。 少子高齢化の現実に直面するわが国において、 今後一層、 性別や年齢による固定的な区分をなくし、 個人 の尊厳を基本として, 女性や高齢者を含め, 全ての人々がその能力と個性を発揮して活躍できる男女共同参 画社会の実現が求められている。 企業においても旧来の仕組みの不合理となった部分を変革し, 多様な人材 が各自の家庭や地域社会での生活との両立のもとに生き生きと働くことを可能にしていくことが大切となる。 また、 子どもは次世代の社会を担う存在であり、 子育てについて男女が親として果たす役割を支援し, 子ど もが楽しくのびのびと成長してい けるように社会全体で支えていかなければならない。 日本的雇用慣行は男女の固定的な性別役割分業を前提とし、 職場優先の風土を助長しており中途退職後の 再就職を困難にしている。 賃金体系も年功・生活給的なものが中心となっている。 確かに1980年代において、 女性の雇用者は働く女性の70%近くになっているが、 そのうちの相当数がパートタイム労働者といわれる点 に注目しなければならない。 それは 「所得分配の観点からすると、 女性の雇用者数が増加していることは、 すなわち低賃金に甘んじている労働者の数が相当増加してきていることを意味する。 女性の賃金は男性のそ 7との指摘があり 更に生活給的な賃金体系の拡大を意味 れと比較して約5割から6割であるといわれる」2 、 することにもなりかねないからである。 日本的雇用慣行は、 これまで雇用の安定と労働者の熟練形成に大き く貢献してきた。 しかし、 他方で就業を継続する女性にとっては職場優先の企業風土の中で家庭の責任をほ とんどすべて配偶者にまかせている男性なみの働き方 が求められ, 家事・育児負担が重く、 家庭と仕事の両 立に困難を伴う結果となっている。 また、 結婚・出産を機に女性が退職した場合には再就職に困難が伴うこ とになる。 このように、 日本型雇用慣行のもとでは働く未婚女性にとっては結婚・出産で失うものが大とな り結婚をためらう度合いが強まる要因ともなっている。 また共働き夫婦にとっ ても理想とする数の子どもを 持ちにくい状況を招いている。 8. おわりにかえて 少子化の要因を生んでいる社会状況を掘り下げて考えてみれば、 出生率の低下は20世紀後半の経済成長の. 過程で進行した雇用者化、.居住空間の郊外化などは過去30年間にわたるわが国の経済成長がもたらした社会 変動のひとつの帰結であり、 いわば行き着くところまで行き着き、 生活や社会の形が画一的・固定的になり すぎた結果, 結婚や子育ての負担感が増えてきたところに根本的な原因があるのではなかろうか。 これからの 「少子高齢化社会」 問題を考える視点として 「少子化への対応を考える有識者会議」 では以下 8 の三点に留意を促している2 。 ① 結婚や出産は当事者の自由な選択に委ねられるものであり、 社会が個人に対して押し付けてはいけな し、。. ② 少子化が進めば労働力人口の減少と高齢者比率の上昇や市場規模の縮小な どを通じ, 経済成長へのマ イナス効果や地域社会の活力低下が懸念されるなど、 将来の国民に深刻な影響を及ぼす。 ③ 出生率上昇のためには女性が家庭に戻ればよいとするのは非現実的で、 男女共同参画社会の理念に反 するとともに、 労働力人口が減少に転じる見通しのなかで女性の就労機会を制限することは不適切・不 88.

(12) . 戦後日本の人口動態分析 合 理 で ある。. 「少子高齢化」 現象は経済成長に伴う 「豊かな都市化社会」 の実現、 それに伴う社会構造や就業構造の変 化、 制度的側面としての福祉国家の発展などに強く関係しているにちがいない。 そして旧来の家庭内での夫. 婦の性別役割分業が企業社会における男女の性別役割分業と一直線で結びつくことを通して専業主婦化と男 性の内助の功つきサラリーマン化という、 いわ ば効率的な分業形態が定着し、 核家族化の一般化を通じて経 済効率と競争を主旨とする企業社会の論理が家庭と個人の生活の中に浸透してきた。 この裏面として 「少子 化」 が進んだことは想像に難くない。 それは 「経済成長を支えるためにさまざまな負担を負わされてきた家 族‐なかんずく、 その家族の自助原則を支えてきた女性-の側が成長の結果としての “豊かな都市化社会” の 9と捉えることは大げさであろうか もとで無意識に行っている社会への反乱」2 。. 89.

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