青年期の発達段階と葛藤経験が統合的葛藤解決スキルに及ぼす影響
10
0
0
全文
(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第 6 5巻 第 2号 J o u r n a lo fHokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n( E d u c a t i o n ) Vo . l6 5,N O . 2. 平成 2 7年 2 月. 0 1 5 Fehruary,2. 青年期の発達段階と葛藤経験が統合的葛藤解決スキルに及ぼす影響 益子洋人. 北海道教育大学札幌校教育心理学研究室. TheE f f e c t so nt h eI n t e g r a t i n gC o n f l i c tR e s o l u t i o nS k i l l so f D e v e l o p m e n t a lS t a g eandC o n f l i c tE x p e r i e n c ei nA d o l e s c e n c e MASHIKOH i r o h i t o. D e p a r t r n e n to fE d u c a t i o n a lP s y c h o l o g y,SapporoC a r n p u s,HokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n. 概要 青年の統合的葛藤解決スキルの習得度を,発達段階,葛藤経験(きょうだいの有無を指標と する)の観点から検討し統合的葛藤解決スキルの習得を目指すプログラム開発のための知見 を得ることを目的とした。高校生 1 7 5名,大学生 1 5 8 名を分析対象とした。発達段階ときょうだ いの有無を独立変数,統合的葛藤解決スキル尺度の因子の平均得点を従属変数とする 2要因分 散分析を行った。その結果,①統合的葛藤解決スキルは発達段階より現在の交友関係の性質の 影響を受けやすいこと,②きょうだいのいる青年は「受容・共感」スキルを習得しにくいこと, ③きょうだいのいる青年は統合的葛藤解決スキルを内面化しやすいこと,④「統合的志向」ス キルは発達段階やきょうだいの有無の影響を受けないことが示唆された。青年の統合的葛藤解 決スキルを向上させる心理教育プログラムを開発する際の留意点が議論された。. Keywords 青年期,発達段階,葛藤経験,きょうだい,統合的葛藤解決スキル. 問題と目的. 藤方略の分類においてもっとも一般的に使用され るのは, Thomas& K ilmann( 1 9 7 4 )による二重関. 対人葛藤(in t e r p e r s o n a lc o n f l i c t ) は,「個人. 心モデルだとされる(大淵, 2 0 0 5 )。これは,葛藤. の行動,感情,思考の過程が,他者に妨害されて. の当事者が自分の願望充足を重視する程度,すな. いる状態」と定義され ( K e l l e y,1 9 8 7 ),対人葛藤. わち自己の利益への関心の強さを表す自己志向性. に直面した人が,それを解決するために試みる何. ( c o n c e r nf o rs e l f ) と,葛藤相手の願望充足を重. らかの行動は,対人葛藤方略と呼ばれている。 葛藤解決の研究者たちは,対人葛藤方略に対し て,さまざまな分類方法を提案してきた。対人葛. 視する程度,すなわち他者の利益への関心の強さ を表す他者志向性 ( c o n c e r nf o ro t h e r s ) の 2次 元から,葛藤方略を分類するものである。. 3 5.
(3) 益子洋人. 二重関心モデルに基づく分類として,たとえば. しかし,どのような要因が統合的葛藤解決スキ. Rahim& Bonama( 1 9 7 9 )では,①自己志向性と. ルの習得に関連するのかに関しては,充分な知見. 他者志向性がともに低い「回避J,②自己志向性. が得られているとは言いがたい。そこで本研究で. が高く,他者志向性が低い「支配 J,③逆に,他. は,統合的葛藤解決スキルを向上させると考えら. 者志向性が高く,自己志向性が低い「服従J,④. れるいくつかの要因について検討し基礎的資料. 両方が中程度に高い「妥協 J,⑤両方がともに高. を提示することで,統合的葛藤解決スキルの習得. い「統合」の 5タイプに分類している。また,大. を目指すプログラムを開発するための留意点を考. 2 0 0 3 )では,自分の立場を強く主張したり相手 淵(. 察することを目的とする。. を責めたりする「対決J,腕曲的なやり方で相手. 青年の統合的葛藤解決スキルの習得に関連する. の気持ちを変化させる「間接J,葛藤の表面化を. 要因として,第 1に,発達段階を取り上げる。統. 避ける「回避 J,話し合いによって相手と合意す. 合的葛藤解決スキルとは,他者との葛藤を統合的. ることを目指す「協調」の 4タイプに分類してい. に解決することに特化したソーシャルスキルだと. る 。. 捉えることができる。ソーシャルスキルは年齢が. このように,葛藤解決方略の分類は研究者に. 高くなるほど発達することが示唆されている(た. よってさまざまであるが,これらの分類には共通. とえば,菊池, 1 9 8 8 )。このことを青年に置き換. して「統合」や「協調」と呼ばれる,葛藤当事者. えるならば,年齢が高い青年ほど,対人葛藤を多. 双方の関心を満足させることを志向する方略が想. く経験しているため,そのよりよい解決方法であ. 定されている。これは葛藤解決のためにもっとも. る統合的葛藤解決スキルをも習得しているという. 有効であるとされている (Ohbuchi&Kitanaka,. 仮説を立てることができるだろう。ここでは,青. 1 9 9 1 ;大淵, 2 0 0 3 )。また,相手が親友であっても. 年の発達段階として特に高校生と大学生を取り上. 恋人であっても,葛藤後の関係性をポジティブに. げ,その比較を行うこととする。. 変化させる効果があることが示されている(古. 第 2に,生育歴における葛藤経験の多少に注目. 村・戸田, 2 0 0 8 )。更に,この方略を活用する人は,. し,その指標としてきょうだいの有無を取り上げ. 他者との関係性を損なうことなく本来感を高めら. ( 2 0 1 1 )は,きょうだい関係の特徴 る。森下・吉川 I. れる可能性があることも示唆されており(益子,. について複数の先行研究をレビューし,信頼や親. 2 0 1 3 ),葛藤解決や他者との関係性を改善するだ. 和とともに,対立が挙がることを報告している。. けでなく,本人の心理的適応感を促進するために. 2 0 0 6 )も,きょうだいのやりとりが支 また,磯崎 (. も有効であることがうかがわれる。. 持的・親和的なものばかりではなく,対立や葛藤. これらのことを踏まえて,益子 ( 2 0 1 3 )は,「日. を生じさせるものであり,そのことに意義がある. 常的な対人葛藤において個人が用いる,葛藤当事. と論じている。これらのことから,きょうだいの. 者双方がおたがいに納得・満足して葛藤を解決す. いる青年は,きょうだ、いのいない青年より,対人. るスキル J,すなわち,葛藤を統合的に解決する. 葛藤とその解決を多く経験していると考えられ. ためのスキルを,「統合的葛藤解決スキル」とし. る。また,和田 ( 1 9 9 4 )は,大学生を対象とした調. て定義した。すでに欧米では,このようなスキル. 査で,きょうだい数と友人関係を維持するスキル. の習得を目指した教育が着手されており,どのよ. の聞に有意な相関が見られたことを報告し,きょ. うなカリキュラムがその使用を促進するのか,検. うだいが多い青年は,きょうだいげんかを通して. 討が進んでいる(たとえば,. Seren& Ustun,. 他者と良好な関係を維持するためのスキルを獲得. 2 0 0 8 )。また,本邦でも,葛藤解決のスキルを学. してきたのだろうと考察している。以上のことか. ぶプログラムを学校へ導入することが提案され始. ら,きょうだいのいる青年は,きょうだいのいな. めている(栗原, 2 0 0 4 )。. い青年よりも,統合的葛藤解決スキルを習得して. 3 6.
(4) 青年期の発達段階と葛藤経験が統合的葛藤解決スキルに及ぼす影響. は,統合的葛藤解決スキルに対する交互作用が. いるという仮説を立てることができるだろう。. 見られるだろう。. なお,これに関連して,きょうだい関係とソー シャルスキルの関連を扱った先行研究はあるもの の,それらの多くはきょうだ、いのいる青年のみを. 方法. 対象としており(藤田, 1 9 9 8 ;岡崎・杉井, 2 0 0 4 ), きょうだ、いのいない青年を対象とした研究は少な. 調査協力者 関東地方の全日制 A高等学校の生徒と,私立 B,. い。このような観点からも,本研究においてきょ うだいの有無に注目することには一定の意義があ. C大学の学生を分析対象とした。全回答のうち,. ると考えられる。. 2つ以上の項目に回答していないものは無効とし. さらに,これらの要因の聞には,何らかの交互. た。有効回答率は 80.83%で,有効回答数は高校. 作用が見られる可能性がある。たとえば,きょう. 7 5名(男性 65名,女性 1 1 0名,平均年齢 16.07 生1. だいの葛藤を通して統合的葛藤解決スキルを習得. 士. した青年は,日常的な(たとえば,友人との)対. 平均年齢 19.09: t1 .00歳)となった。. 人葛藤においても統合的葛藤解決スキルを活用. 調査内容. し,よりよく葛藤を解決できる可能性が高いため,. ( 1 ) フェイスシート. . 9 0歳 入 大 学 生 1 5 8名(男性 6 1名,女性 9 7名 ,. 統合的葛藤解決スキルを洗練させていくと考えら. 性別,年齢,きょうだいの人数 ( 1あなたのきょ. れる。それに対して,統合的葛藤解決スキルを習. うだいは何人ですか? きょうだいのいない方. 得していない青年は,それをできないため,統合. は ,. 的葛藤解決スキルを成長させることが困難である. ( 2 ) 統 合 的 葛 藤 解 決 ス キ ル 尺 度 (Integrating. と考えられる。そして,このようなことが継続す. C o n f l i c tResolutionS k i l l sScale;ICRS-S). れば,成長に伴い,両者の統合的葛藤解決スキル. 益子 ( 2 0 1 3 )が作成した ICRS-Sを使用した。「丁. 0とご記入下さい J ) を尋ねた。. には差が生じるかもしれない。しかし,これまで. 寧な自己表現 J 1話し合おうとする意志 J 1受容・. の研究では,統合的葛藤解決スキルの習得に関す. 6項目で構成され, 共感J 1統合的志向」の 4因子 1. る要因同士の交互作用は未検討だ、った。そこで本. 一定の信頼性・妥当性が確認されている。先行研. 研究では,発達段階ときょうだいの有無の交互作. 究同様,「みなさんは,ふだんの生活の中で,他. 用も探索的に検討することにする。. 者との関係がうまくいかないと感じるときがない. 以上をまとめると,本研究の目的は,青年の統. でしょうか。たとえば,以下のような場合です。. 合的葛藤解決スキルの習得度を,発達段階,きょ. ①友達と意見が対立し,気まずくなっている。②. うだいの有無という観点から検討し統合的葛藤. 先輩の言うことに納得できない。③自分の希望と. 解決スキルを向上させる要因に関する基礎的な資. 親の希望が食い違っている。④先生に誤解されて. 料を提示して,心理教育プログラムを開発するた. いるようにおもう。⑤恋人が自分の事情を分かつ. めの際の留意点を考察することである。本研究の. てくれない。このようなとき,あなたはどのよう. 仮説は,以下の通りである。. なことを考え,どのような行動をとるでしょう か ? ご自分にもっともあてはまる番号に,. 仮説①:大学生は高校生よりも統合的葛藤解決ス キルを習 f 号しているだろう。 仮説②:きょうだいのいる青年はいない青年より も統合的葛藤解決スキルを習得しているだろ. つ 。 仮説③:発達段階ときょうだいの有無との聞に. つけてください」と教示し,. 0を. 5件法で回答を求め. た 。 質問項目を appendixに示す。 手続き 高校生に対しては,調査の手引きを作成し,学 校を通してクラス担任に実施・回収を依頼した。. 37.
(5) 益子洋人. 大学生に対しては,. T a b l e 1 学校別のきょうだいの有無(人数). 2つの講義で質問紙を配布し. て回答を求め,講義時間内に回収した。. きょうだい. いずれの調査も無記名で実施した。倫理的配慮. なし. として「完答の義務はないこと J i成績と無関係. 学校. であること J i調査後の用紙はシュレッダーにか けて破棄すること」をフェイスシートに記載し,. あり. 合計. 高校生. 1 8. 1 5 7. 1 7 5. 大学生. 2 5. 1 3 4. 1 5 9. 4 3. 2 9 1. 3 3 4. 合計. 高校生には調査時に担任から口頭で連絡してもら うように依頼した。大学生には実施時に口頭で伝 えた。. ICRS-Sの各因子の平均得点を従属変数とす. 数 ,. る 2要因分散分析を行った。 その結果,「丁寧な自己表現」では,発達段階. 結果. の主効果が有意傾向となり ( F ( l,3 3 0 )=2, 69, ρ<. 発達段階ときょうだいの有無のクロス集計. , 1 0 ),高校生の方が大学生よりも得点が高かった。. 発達段階ときょうだい数のクロス集計を行った。. また,交互作用が有意傾向となったため ( F ( l,. この結果を T a b l e1に示す。. 330)=2.74, ρ<.10),単純主効果の検定を行った. 発達段階ときょうだいの有無の 2要因分散分析. ところ,大学生において,きょうだいあり群はな. 最初に,きょうだい数(0人・ 1人・ 2人・ 3. し群よりも有意傾向で得点が高く. 1 , 1 5 7 ) (F(. ICRS-Sの各因子得点の. =2.74, ρ<.10),きょうだいなし群において,高. 平均得点を従属変数とする分散分析と,きょうだ. 校生は大学生よりも有意傾向で、得点が高かった. 人・ 4人)を独立変数,. いの有無を独立変数,. (F( 1 ,4 1 )=3. 1 8,ρ<. 1 0 )。. ICRS-Sの各因子得点の平. 「話し合おうとする意志」では,発達段階の主. 均得点を従属変数とする分散分析を行い,それら の結果を比較した。その結果,きょうだいの数を. 3 0 )=2.95, ρ<.10), 効果が有意傾向となり ( F ( l,3. 独立変数とした場合の結果と,きょうだいの有無. 高校生の方が大学生よりも得点が高かった。また,. を独立変数とした場合の結果に,大きな違いは見. 交互作用が有意傾向となったため ( F ( l,3 3 0 ). られなかった。そこで,以下の分析では,きょう. =3.84, ρ<.05),単純主効果の検定を行ったとこ. だいの有無による結果のみを検討することにした。. ろ,高校生において,きょうだ、いなし群はあり群. 発達段階ときょうだいの有無による ICRS-S得. よりも有意傾向で得点が高く. ( F ( 1,173)=2.95,. 点の違いを検討するために,発達段階(高校生・. ρ<.10),きょうだ、いなし群において,高校生は. 大学生)ときょうだいの有無(有・無)を独立変. 1 , 4 1 ) 大学生よりも有意に得点が高かった (F(. T a b l e2 学校別ときょうだいの有無による I C R S S得点の分散分析の結果 高校生 なし. あり. ( N = 1 8 ). M. 大学生. SD. なし. ( N = 1 5 7 ). M. SD. きょうだい 交互作用. あり. ( N = 2 5 ). M. 学校. SD. ( N = 1 3 4 ). M. F値. F値. F値. SD. 丁寧な自己表現. 3 . 6 8 0 . 7 6 3 . 5 5 0 . 7 6 3 . 2 2 0 . 8 8 3 . 5 6 0 . 9 4. 2 . 6 9す. s 0 . 5 6n.. 2 . 7 41. 話し合おうとする意志. 3 . 8 2 0 . 7 7 3. 47 0 . 8 2 3 . 0 8 l .0 4 3 . 5 2 l .6 1. 2 . 9 5す. s 0 . 0 5n.. 3 . 8 4 *. 受容・共感. 4 . 0 4 0 . 6 6 3 . 7 1 0 . 6 7 3. 44 l .1 2 3 . 2 3 l .2 5. 統合的志向. 3 . 7 8 0 . 6 8 3 . 6 9 0 . 7 2 3 . 8 7 0 . 8 1 3 . 8 1 0 . 6 8. t.ρ<. 1 0,*.ρ<. 0 5, 特*.ρ<. 0 1. 3 8. 1 1 . 0 9 * * * 2 . 8 2t s 0 . 8 3n.. s 0 . 3 7n.. s o . 1 5n. s 0 . 0 2n..
(6) 青年期の発達段階と葛藤経験が統合的葛藤解決スキルに及ぼす影響. =6.53.ρ<. 0 5 )。. やすいと考えられる。それに対して,大学生の場. 「受容・共感」では,発達段階の主効果が有意. 0 0 5 )ため, 合,交友関係を自己選択できる(井上, 2. ( F ( 1,3 3 0 ) = 1 1 . 0 9,ρ<. 0 0 1 ),高校生の方. 問題を抱えている交友関係を避け,別の交友関係. が大学生よりも得点が高かった。また,きょうだ. を構築できる見込みが強く,他者との間で意見を. となり. いの有無の主効果が有意傾向となり. ( F ( l,3 3 0 ). 調整する必要性が生じにくいと考えられる。この. = 2 . 8 2, ρ<. 1 0 ),なし群の方があり群よりも得点. ような理由から,「丁寧な自己表現」や「話し合. が高かった。. おうとする意志 J, i受容・共感」は高校生で高く. 「統合的志向」では,いずれの主効果,交互作 用も有意で、はなかった。 以上の結果を T a b l e2に示す。. なったのだろう。 これは,「丁寧な自己表現 J i話し合おうとする 意志 J i受容・共感」などのスキルが,菊池(19 8 8 ) が一般的なソーシャルスキルを挙げて示したよう. 考察. な,交友関係の経験を重ねれば自然に成長する性 質のものではなく,個人を取り巻く交友関係の特. ICRS-S得点が発達段階や. 徴によって変化するものであることを示唆してい. きょうだいの有無によってどのように異なるのか. ると考えられる。すなわち,これらのスキルは固. を検討し,青年の統合的葛藤解決スキルを高める. 定的・限定的な交友関係の中で生活している場合. ための方策を検討することであった。. には育まれやすいが,交友関係を自己選択できる. 本研究の目的は,. 発達段階ときょうだいの有無を独立変数,. 場合には衰えやすいのかもしれない。そのため,. ICRS-Sの各因子の平均得点を従属変数とした分. これらのスキルを育んだり維持させたりするため. 散分析では,因子によって異なる結果が得られた。. には,青年が固定的・限定的な交友関係に留まっ. すなわち,「丁寧な自己表現」と「話し合おうと. ているうちに,スキルを般化させる介入を行うこ. する意志」では,発達段階による差が見られ,高. とが必要だと考えられる。. 校生で得点が高くなった。また,きょうだいの有. また,きょうだいの有無の主効果が「受容・共. 無による差は見られず,要因聞の交互作用が見ら. 感」においてのみ見られ,きょうだいなし群の方. れた。「受容・共感」では,発達段階による差が. が高得点、になったのも,仮説と異なる結果であっ. 見られ,高校生で得点が高くなるとともに,きょ. た。これは森下・吉川 ( 2 0 1 1 ),磯崎 ( 2 0 0 6 ),和田. うだいの有無による差も見られ,きょうだ、いなし. ( 1 9 9 4 )が論じたような,きょうだいの対立を通し. 群で得点が高くなった。一方,交互作用は見られ. て葛藤解決のためのスキルが習得されるという効. なかった。そして,「統合的志向」では,いずれ. 果が,本研究では見られなかったことを示してい. の要因も有意とはならなかった。. る。上記の先行研究では,きょうだいの葛藤は何. 発達段階による主効果が「丁寧な自己表現 J i話. らかの解決に至ることが前提とされている。しか. し合おうとする意志 J i受容・共感」で見られ,. しそれらの中には統合的解決に至らない葛藤も. 高校生の方が高得点になったのは,仮説と異なる. あったことが推測される。そのため,きょうだい. 結果であった。これは,発達段階というより,そ. 葛藤が統合的葛藤解決スキルを学習するための. れぞれの学校の交友関係の特徴の違いが表れたと. きっかけにならず,その習得度におよぽす影響が. 解釈できるかもしれない。すなわち,高校生の場. 少なくなったのかもしれない。. 合,他者と採めたり対立したりしたときでも,交. これは,日常の対人関係を通して統合的葛藤解. 友関係が比較的限定されているため,問題を現在. 決スキルを高めるには,葛藤当事者が統合的葛藤. の関係性の中で解決しなければならない可能性が. 解決を経験できるように援助する必要があること. 高く,他者との聞で意見を調整する必要性が生じ. を示唆していると考えられる。統合的葛藤解決ス. 3 9.
(7) 益子洋人. キルの教育プログラムを開発する際は,受講者に. 藤を経験していると考えられる(たとえば,岡崎・. 統合的解決を体験させられるような構成を心がけ. 杉井, 2004など)。そのため,葛藤を統合的に解. る必要があるだろう。. 決して,よい結果を得た機会も多いと考えられる。. 他方,きょうだいあり群で「受容・共感」が低. そのため,きょうだ、いのいる青年はこのようなス. くなったことは, きょうだいカ王いると,カミえって. キルを内面化しやすくなり,現在の交友関係の性. きょうだい関係が競争的になる可能性があること. 質(すなわち,固定的・限定的か,自己選択しや. と関連しているのかもしれない。たとえば,高木・. すいか)の影響を受けにくいのかもしれない。対. 2 0 1 2 )は,きょうだいのいる幼 春日・福冨・佐藤 (. 照的に,きょうだいのいない青年はこれらのスキ. 児は,きょうだ、いのいない幼児より,保護者から. ルを内面化しにくく,現在の交友関係の性質の影. 負けず嫌いと評価されることが多いことを報告し. 響を受けやすいのかもしれない。. 2 0 0 9 )は,小中学生を対象と ている。また,相川 (. このことは,きょうだいのいない青年だけでは. してきょうだい構成とソーシャルスキルの関連を. なく,彼らと同様に,実際に葛藤を経験し,その. 調査しきょうだいが多いほど,他者を助けたり,. 解決方法を学ぶ機会の少ない青年にとっては,統. 頼みごとを聞いたりするスキルが低くなるとして. 合的葛藤解決スキルを習得するときに困難がある. いる。きょうだいがいる青年は,きょうだいがラ. ことを示唆していると考えられる。現在の子ども. イバルになるため,いない青年よりも自分の希望. は葛藤を経験する機会が減っているという指摘も. が通らないかもしれないという可能性を強く意識. ある(芳賀, 2 0 0 9 )。そのため,本研究におけるきょ. するのではないだろうか。そのため,自分の希望. うだいのいない青年「のような」青年は,これか. を主張することにとらわれ,相手に配慮し,相手. らも増加していくと考えられる。青年の統合的葛. の話を傾聴しようとする余裕がなくなるのかもし. 藤解決スキルを向上させるプログラムの重要性. れない。. は,今後,ますます高くなるといえるだろう。. このように考えると,競争的な関係の中で生活. そして,「統合的志向」でいずれの要因の主効. している青年にとって,「受容・共感」は習得困. 果も,また要因聞の交互作用も見られなかったの. 難なスキルである可能性がある。そのため,青年. は,仮説と異なる結果であった。これは,青年が. を対象に統合的葛藤解決スキルの習得を目的とす. 「統合的志向」を習得するにあたり,発達段階や. るプログラムを実施するときには,参加者の生活. きょうだいの有無という要因が関連しないことを. 環境が競争的な性質を帯びすぎていないかどうか. 示唆している。「統合的志向」因子は,葛藤解決. にも注意する必要があると思われる。. に対する考え方を問う項目で構成され,「対人葛. また,発達段階ときょうだいの有無の交互作用. 藤をどのように解決するのが望ましいと考える. が「丁寧な自己表現」と「話し合おうとする意志」. か」によって回答できる項目が並んでいる。その. で見られたことは,部分的に仮説を支持する結果. ため,年齢や対人葛藤経験による影響が少なかっ. であった。この結果は,これらのスキルでは,きょ. たのかもしれない。. うだいの有無によって,交友関係を選択できる可. このように考えるならば,このスキルの向上の. 能性の影響が異なることを示していると考えられ. ために必要なのは,直接的な葛藤経験というより. る。すなわち,きょうだ、いのいる青年は交友関係. は,統合的解決を達成することで望ましい結果が. を選択できるようになってもこれらのスキルは衰. 得られると予測できるようになることだと考えら. えにくいが,きょうだいのいない青年が交友関係. れる。統合的葛藤解決スキルを向上させるプログ. を選ナ尺できるようになると,これらのスキルが衰. ラムを開発するためには,「統合的志向」に基づ. えやすくなるのではないか。きょうだいのいる青. く解決がよりよい結果をもたらす可能性を提示で. 年は,きょうだいがいない青年よりも,多くの葛. きるようにしておく必要があるだろう。. 40.
(8) 青年期の発達段階と葛藤経験が統合的葛藤解決スキルに及ぼす影響. まとめと本研究の限界. 各発達段階の青年たちに特有の要因が存在してい たとしても,その要因を排除できていないことが. 本研究では,青年の統合的葛藤解決スキルを規. 挙げられる。したがって,青年の統合的葛藤解決. 定する要因として発達段階ときょうだいの有無に. スキルの変化を縦断的にも研究することが必要と. 注目し,それらの関連を検討した。その結果,①. なるだろう。. 統合的葛藤解決スキルは発達段階に応じて成長す. 第 3に,本研究で使用した指標を改善する必要. るのではなく,現在の交友関係の性質により変化. があると思われる。たとえば,本研究ではきょう. する可能性があること,②きょうだいのいる青年. だい数を葛藤経験の指標としているが,きょうだ. は「受容・共感」スキルを習得しにくいこと,③. いが多いことが必ずしも葛藤経験が多いとは限ら. きょうだ、いのいる青年は,いない青年よりも統合. ない。同様に,葛藤経験が多いことが必ずしも統. 的葛藤解決スキルを内面化できている可能性があ. 合的葛藤解決に至った経験が多いとも限らない。. ること,④「統合的志向」スキルは,年齢やきょ. 本研究では,これらの点を充分に検討することが. うだいの有無の影響を受けないことが示唆され. できなかった。今後の研究では,葛藤経験の質も. た。そして,以上の結果を踏まえて,青年の統合. 考慮して,統合的葛藤解決スキルの習得について. 的葛藤解決スキルの向上を目指す心理教育的プロ. 検討していく必要があるだろう。. グラムを構成するためには,①青年が固定的・限. 対人関係で活用されるスキルに対人関係の経験. 定的な交友関係にとどまっている聞に,スキルを. の多少が関連することを示唆する先行研究は存在. 般化させるような介入を行う必要性があること,. していたが,統合的葛藤解決スキルを取り上げた. ②青年が統合的葛藤解決を体験できるようなプロ. 研究は存在していなかった。本研究の意義は,統. グラム構成にする必要があること,③青年の生活. 合的葛藤解決スキルの向上に,発達段階と対人葛. 環境が競争的な性質を帯びすぎていないかどうか. 藤の経験がどのように関連するのかについて,. に注意する必要があること,④葛藤経験の少ない. 定の知見を提供したことであると思われる。. 青年に対して,特にプログラムが必要と考えられ ること,⑤「統合的志向」に基づく解決がよい結. 引用文献. 果をもたらす可能性を提示できるようにしておく 必要があることが議論された。 本研究の限界としては,第 1に,きょうだいの いない青年の協力者が少なかったため,この結果. 相川. 充 ( 2 0 1 0 ).きょうだい構成が子どものソーシャル. スキルの程度に与える影響東京学芸大学紀要総合 教育科学系, 6 1,9 1 1 0 5 . 藤田. 文 ( 1 9 9 8 ).青年期の友人関係における社会的スキ. を一般化するためには,更なる検討が必要である. ルーきょうだい関係との関連一. ことが挙げられる。少子化に伴って,きょうだい. 期大学研究紀要, 3 6,8 5 9 4 .. のいない青年は年を経るごとに増加していること がうかがわれるが,それでも,きょうだいのいる 青年の方が多く,それらの群ときょうだいのいな い青年の群を比較することには,困難が伴うかも しれない。しかし,本研究のきょうだいの有無が 対人葛藤経験の多少を表す指標の 1つであったこ とを鑑みれば,対人葛藤経験の多少とその性質を. 大分県立芸術文化短. 芳賀明子 ( 2 0 0 9 ).うまくケンカできない子どもが増えて い る ? 児童心理, 6 3,1 1 6 3 1 1 6 8 . 井上孝代 ( 2 0 0 5 ).あの人と和解する. 集英社新書. 2 0 0 6 ).小・中学生の二人きょうだい関係に 磯崎三喜年 ( 関する研究. 8, 国際基督教大学学報(教育研究), 4. 1 1 9 1 3 0 .. K e l l e y .H .H .( 19 8 7 ) .Towardataxonomyo fi n t e r p e r s o n a lc o n f l i c tp r o c e s s .I nS t u a r . tO .& Spacapan,S .( E d s . ), I n t eゆe r s o n a lP r o c e s s .( p p .1 2 2 1 4 7 ) .NewYo rk :S a g e. 直接的に問うことにより,この問題を解決できる. 菊池章夫 ( 1 9 8 8 ).思いやりを科学する. と思われる。. 2 0 0 8 ) . 親密な関係における対人 古村健太郎・戸田弘二 (. 第 2に,本研究は横断的研究であるため,仮に. 葛藤. 川島書庖. 8,1 8 5 1 9 5 . 北海道教育大学紀要(教育科学編入 5. 4 1.
(9) 益子洋人. 栗原. 久 ( 2 0 0 4 ).紛争の多発化と紛争解決スキルの育成 i共生」の実現のために. について. 信州大学教育学. 部紀要, 1 1 2,1 3 2 3 . 益子洋人 ( 2 0 1 3 ).大学生における統合的葛藤解決スキル と過剰適応との関連. 過剰適応を「関係維持・対立回. 避的行動」と「本来感」から捉えて一. 教育心理学研究,. 6 1,1 3 3 1 4 5 . 森下正康・吉川麻理 ( 2 0 1 1 ).女子大学生のきょうだい関 係と友人関係 影響一. 二人きょうだいの年齢差と年上年下の. 3 7 2 . 発達教育学研究(京都女子大学), 5,6. 大淵憲一. ( 2 0 0 3 ).対人葛藤の解決スキル 教育と医学,. 5 1,9 2 3 9 31 . 大測憲一 ( 2 0 0 5 ).対人葛藤における消極的解決方略新 しい対人葛藤スタイル尺度の開発に向けて一. 東北大. 5,7 8 9 2 . 学文学研究科研究年報, 5 Ohbuchi.K .& Kitanaka,T .( 1 9 9 1 ) .Effectivenesso f powers t r a t e g i e si ni n t e r p e r s o n a lc o n f l i c t samongt h e ]apaneses t u d e n t s :Ane x a m i n a t i o no fb i l a t e r a l i t yand. ournal01s o c i a lρs y c h o l o g y, d i r e c t n e s sd i m e n s i o n s .J 1 3 1 .7 9 1 8 0 5 . 同崎有理子・杉井潤子 ( 2 0 0 4 ).青年期のきょうだい関係 が社会的スキルおよび自尊感情に与える影響. 最も身. 近に感じるきょうだいとのダイアドな関係牲を分析単 位として. 奈良教育大学紀要人文・社会科学, 5 3,. 2 3 1 2 3 8 . Rahim,M.A.& Bonama.T .V .( 19 7 9 ) .Managingo r g a n i z a t i o n a lc o n f l i c t :A modelf o rd i a g n o s i sandi n t e r v e n t i o n .P司 ヅc h o l o g i c a lR e . ρo r t s ,4 4 .1 3 2 3 -1 3 4 4 . Seren,S .,& Ustun,B .( 2 0 0 8 ) .C o n f l i c tr e s o l u t i o ns k i l l so f n u r s i n gs t u d e n t si nproblem-basedcomparedt oc o n ventionalc u r r i c u l a .NurseEducationToday,2 8, 3 9 3 4 0 0 . 高木綾子・春日晃章・福冨恵介・佐藤裕子 ( 2 0 1 2 ).幼児 ) 頃・きょうだい構成からみた体力,生活習慣お の出生1. よび性格特性. 岐阜大学教育学部研究報告(自然科学),. 3 6,1 5 1 1 5 7 . Thomas, K . W. & Kilmann, R . H . ( 1 9 7 4 ) .. Thomas-Kilmannc o n l l i c tmodei n s t r u m e n t .Tuxedo. NY:X i c o m .. 和 田 実 ( 19 9 4 ).社会的スキルのこと 一也(編) 社会的スキルの心理学. 菊池章夫・堀毛. pp. 1 8 4 1 91.川島. 書庖. (札幌校特任准教授). 4 2. 謝辞 貴重な授業時間中に調査に協力してくださった 学生の皆さまと,調査の機会を与えてくださった 先生方に,心から感謝申し上げます。.
(10) 青年期の発達段階と葛藤経験が統合的葛藤解決スキルに及ぼす影響. Appendix 統合的葛藤解決スキル尺度 ( r C R S S )の項目. 丁寧な自己表現 うまくいかないと感じる問題について,自分の考えや気持ちをきちんと伝える 自分の考えや価値観を丁寧に説明する 相手の気持ちに配慮しつつ,自分の気持ちを率直に伝える 自分の気持ちを正直に話し,具体的にどうしてへほしいのかを伝える 話し合おうとする意志 相手と話し合うことを避けない 相手と話し合うことをあきらめない うまくいっていない点について,相手と話し合おうという姿勢を見せる おたがいに納得するまで話し合おうとする 受容・共感 相手の言うことを最初から否定せず,きちんと聞く 相手の話を聞くときには、自分の意見や気持ちはひとまずわきにおいて,その話に耳をかたむける 相手の話を中断せずに最後まで聞く おだやかな表情や姿勢,声のトーンで話すことができる 統合的志向 おたがいの希望や目標がかなうような,うまくいかない問題を解消する方法を考える 自分の希望だけでなく,相手の希望もかなうような解決策を考える 相手と自分は,納得のいく解決策を作り出すために,おたがいに協力していく関係だと思う 相手と自分,おたがいの気持ちに敏感になる. 4 3.
(11)
関連したドキュメント
「課題を解決し,目標達成のために自分たちで考
式目おいて「清十即ついぜん」は伝統的な流れの中にあり、その ㈲
○本時のねらい これまでの学習を基に、ユニットテーマについて話し合い、自分の考えをまとめる 学習活動 時間 主な発問、予想される生徒の姿
これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,
7.自助グループ
脱型時期などの違いが強度発現に大きな差を及ぼすと
遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば
職員参加の下、提供するサービスについて 自己評価は各自で取り組んだあと 定期的かつ継続的に自己点検(自己評価)