無線通信による安価な
マンホール内水位検知システムの開発
正会員
歌谷
昌弘
(広島国際学院大学) 正会員永田 武
(広島工業大学) 非会員山﨑
勇
(㈱マウンテック) 非会員甲斐
健
(㈱デジコム)Development of a Low Cost Water Level Sensor for Manhole by Wireless Communication
Member Masahiro Utatani (Hiroshima Kokusai Gakuin University), Member Takeshi Nagata (Hiroshima Institute of Technology), Non-Member Isamu Yamazaki (Mountech Co.), Non-Member Ken Kai (Digicom Co.)
キーワード:無線通信静電容量式水位センサ高速道路マンホール通信障害浸水
In the manhole attached to the expressway, power cables and communication cables (optical fibers) are installed. These
cables are used to collect surveillance camera information and fire information. Since these cables are installed in the buried pipeline under the pavement, rainfall and groundwater flow into it due to deterioration of the buried pipeline and maintenance manhole. The purpose of this study is to develop an inexpensive system that measures the water level in the manhole and transmits the result wirelessly outside the manhole. For this purpose, we developed and evaluated multiple water level detectors and multiple measurement circuits. Based on the evaluation results, we have developed a water level sensor.
In order to verify the performance of the developed sensor, an experiment using a manhole in our campus was conducted. The experimental results show that the water level can be measured with stable communication within a radius of 8 m and height of 2 m from the center of the manhole.
1.はじめに 高速道路に併設されているマンホール内には,電力ケー ブルと通信ケーブル(光ファイバー)が設置されている。 これらのケーブルは,監視カメラの情報や火災情報等の収 集に使用されている。これらのケーブル類は舗装下の埋設 管路内に設置されているので,埋設管路やメンテナンス用 マンホールの経年劣化等が原因で降雨や地下水が流入する。 図1はマンホール内に水が浸入した状況を示す写真である。 浸入した水はケーブルの被覆を劣化させる原因となってい る。そのため埋設管路の浸水状態を定期的にチェックし排 水する必要がある。しかし,テロ等のリスクもあるため管 理が厳しく容易にマンホール内に入ることができない。 埋設管路のメンテナンス用のマンホールにデータロガー を設置し浸水状態を監視する製品(地中用無線データロガ ー)が販売されている。この製品(1)は,道路上で900MHz の 無線経由でマンホール内からデータロガーのデータを収集 できる。同様なものには,都市部の下水管内の水位を 400MHz~900MHz の無線で送信する製品(2)が多数のメーカ
論 文
投稿論文等テンプレート
図 高速道路マンホール内の浸水状況ーから販売されているが,高価なものが多い。 浸水の状況を調べる研究は,土木学会で盛んに研究が行 なわれている。文献(3)では,河川や貯水池等ののり面決壊 の前兆をとらえることを目的として,検査用のパイプ内の 水位を静電容量式のセンサで計測し2.4GHz の無線で結果 を送信するシステムを開発している。文献(4)では,浸水す る静電容量センサの劣化を考慮して,アース側の地面とセ ンサ側の電極間で構成されるコンデンサを計測に利用して いる。計測用のコンデンサを浸水させないので長期間メン テナンスフリーとなるのが特徴であるが,実際の環境下で の検証は行われていない。本論文で対象とする高速道路の 埋設管路に関する文献は見当たらない。一般に,高速道路 管理者がマンホール蓋を開け目視監視する場合には,通行 規制を含む諸手続きや,酸欠検知,重量物持ち上げに伴う 作業員や関連工具等を必要とする。しかし,高速道路管理 者がマンホールから1m 程度に近づき,マンホール蓋を開 けずに水位の情報を得ることができれば,上記の負担を軽 減する効果が多大である。 したがって,本研究の目的は,マンホール内の水位を計 測し,その結果を無線でマンホールの外に送信する安価な システムを開発することである。水位検知システムを試作 し,無線通信によりマンホール中心から約半径8m、高さ2m の範囲で水位の情報を受信することが可能であった。 2.高速道路のケーブル点検用マンホール 図2 にシステムの構成図を示す。ケーブル用の管路に浸 入した雨水や地下水は,管路を流れて点検用のマンホール に溜まる傾向がある。前述のようにこうした水が光ファイ バーケーブル等の被覆を劣化させてしまう。マンホールに 水位センサを配置することで,周囲の管路の異常を推定し, 点検の頻度を決定することができると考えられる。また水 位情報を安価な2.4GHz 帯の無線ユニット(Twelite(5)等)を 使用することで集めることができれば,コストの削減に役 立つ。 3.水位センサ 表1 のように,水位の検出方法にはいろいろな方式があ る。接触式は可動部があるため耐久性に難がある。非接触 式は可動部がないが,検出原理が複雑でコストがかかる。 本研究では,耐久性もあり安価であることから,接触式の 可動部がない静電容量式センサを水位の計測に使用する。 表 水位センサの分類
Table 1 Water level sensors
接触式 非接触式 可動部あり 可動部なし 可動部なし フロート式 パドル式 電極式 静電容量式 差圧式 超音波式 電波式 レーザー式 水位検出部 交換や取り扱いが容易で安価なセンサとするために,図 3 のような水位検出部を試作した。 センサ1 は,2 枚のアルミアングルをコンデンサの電極 として使用し,絶縁を施したものである。センサ2 は,矩 形アルミパイプ内に末端をシリコン系の接着剤で防水した AC コードを入れたものである。センサ 3 は,フラットケー ブの末端を同じく接着剤で防水し,2 本のコードで構成さ れるコンデンサを並列接続したものである。 センサ1, 2, 3 共に水位と静電容量の関係を調べた。その 結果,センサ1 は絶縁が難しく電極間に電流が流れてしま ったが,センサ2, 3 は,容量と水位の間に線形性が認めら れた。センサ2, 3 の 2 つが候補として挙がったが,通信ケ ーブルが交錯するので柔軟性のあるセンサの方が適してい るとの指摘をいただいたので,センサ3 の採用を決定した。 図 システム構成
Fig.2 System configuration
水位センサ 送信部 RaspberryPi 受信部 電池 '% 点検省力化システム マンホール 図 水位検出部
Fig.3 Water level detector
センサ3 フラットケーブル
センサ1 2枚のアルミアングル
計測回路 静電容量を利用した水位の計測には下記の3つの方式が 考えられる。本研究ではこの3 種類の計測回路を試作して 性能を評価した。 方式 充電電圧の変化から静電容量を推定する方式 この方式はコンデンサの充電や放電時の過渡応答を利用し てセンサ用コンデンサの容量を計測する方法である。本研 究では,図4 に示す様な充電電圧𝑉𝑉𝑠𝑠でt秒間,抵抗Rによっ て制限された電流でセンサ用コンデンサ𝐶𝐶𝑥𝑥を充電する回路 を試作した。コンデンサ𝐶𝐶𝑥𝑥が到達した電圧𝑉𝑉𝑐𝑐をマイコンの A/D コンバータで計測し,式(1)でコンデンサ𝐶𝐶𝑥𝑥の容量を計 算することができる。 𝐶𝐶𝑥𝑥 =𝑅𝑅×𝑙𝑙𝑙𝑙(𝑡𝑡𝑉𝑉𝑠𝑠 𝑉𝑉𝑠𝑠−𝑉𝑉𝑐𝑐) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1) しかし,3.1 で試作したセンサ 3 の静電容量が数百 pF 程 度であるため,充電時間を確保する必要から数MΩの抵抗 Rで充電電流を制限する必要があり,ノイズを拾いやすく なる欠点がある。 方式 5& 発信回路を利用した静電容量の推定方式 この方式は,RC 発振式のタイマーIC555 を利用する方法で ある。図5 に試作回路を示す。センサ用コンデンサ𝐶𝐶𝑥𝑥をRC 発振に使用することで,水位による容量変化を発振周波数 の変化として計測できる。静電容量𝐶𝐶𝑥𝑥は式(2)から,マイコ ンのイベントカウンタで計測した周波数fと抵抗𝑅𝑅𝑎𝑎と𝑅𝑅𝑏𝑏で 求めることができる。 𝐶𝐶𝑥𝑥 =(𝑅𝑅𝑎𝑎+2𝑅𝑅1.44𝑏𝑏)×𝑓𝑓 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2) 水位に対応した静電容量を数値で計算できるが,コンデ ンサの容量が安定しないため計測結果に誤差が生じた。 方式 矩形波電圧印加方式 この方式は,矩形波が 様々な周波数の正弦波で構成されていることを利用してい る。図6 にその計測回路を示す。計測回路は,8bit マイコン (pic12f1822),ハイパスフィルタ (HPF) ,無線通信ユニッ トTwelite-red で構成されている。図中の HPF の遮断周波数 𝑓𝑓𝑐𝑐は,式(3)で求めることができる。 𝑓𝑓𝑐𝑐=2𝜋𝜋𝑅𝑅𝐶𝐶1 𝑥𝑥 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3) 水位の上昇に伴ってコンデンサ𝐶𝐶𝑥𝑥の容量が大きくなると, 図7 に示すように𝑓𝑓𝑐𝑐が低周波側へ移動し𝑓𝑓𝑐𝑐′となる。したが って,𝑓𝑓𝑐𝑐′~𝑓𝑓 𝑐𝑐間の周波数成分が通過できるようになる。その 結果,図6 の平滑コンデンサC の充電電圧𝑉𝑉𝑐𝑐が上昇する。 このことは,𝐶𝐶𝑥𝑥の変化(水位の変化)を𝑉𝑉𝑐𝑐の変化として計 測できることを示している。𝑉𝑉𝑐𝑐は図の 8bit マイコン (pic12f1822)の A/D コンバータで計測する。この方式は, 図 充電電圧測定方式(方式 )
Fig.4 Charging voltage measurement method pic12f1822 DPort A/D R GND Vc Vs Cx 図 発振周波数計測方式(方式 )
Fig.5 Oscillation frequency measurement method 555 Ra Rb 発振パルス f pic12f1822 イベント カウンタ Cx 図 矩形波電圧印加方式(方式 )
Fig.6 Square wave voltage injection method pic12f1822 Twelite-red R 5kHz(duty50%) 100Ω 2V PWM A/D C HPF
C
x Vc 図 測定原理Fig.7 Measurement principle fc' fc
Cx増加:水位上昇
遮断周波数 f [Hz] 電圧 [V]
水位に応じた静電容量を計算で求めることはできないが, 図のようにHPF を通過した周波数成分を整流し,コンデン サ𝐶𝐶𝑥𝑥に充電した電圧を測定するため,方式2 に比べると測 定結果の変動が抑えられる長所を有している。入力する矩 形波の電圧が電源電圧の変動で影響を受けないように,チ ェナーダイオードのリミッターで2v になるようにし,計測 結果が長時間安定化するようにもしてある。また無線通信 にTwelite を使用することで,同一周波数帯内で識別 ID を 用いたグループ化や通信の暗号化が容易に実現できる。本 研究では,方式3 で水位を計測する。 水位センサの動作フロー 図8 に水位センサの動作フローを示す。水位センサは, 起動すると初期化の後に,256 s のスリープモードに入る。 その後2 s のウオームアップを行い,水位を A/D コンバー タで計測し結果を無線で送信する。256 s のスリープは,乾 電池で水位センサを長時間駆動させるためのもので,使用 した8bit マイコンのウオッチドッグタイマーの最大値であ る。このタイマーを用いてスリープすると省電力モードに 移行する。2 s のウオームアップを含めると,水位センサは およそ258 s 間隔で間欠動作する。2.4GHz 帯の電波は波長 が短く雨や霧の影響を受けにくくするために,データの送 信回数を多くしている。256 s のスリープ後の 2 s のウオー ムアップは,図6 の測定回路のコンデンサ C を充電するた めの時間である。この2 s が本センサの1 回の計測・通信に 要する消費電力に関係する部分である。装置の小型化と保 守性を高めるため,アルカリ単2電池を採用した。文献(7) に掲載のアルカリ単2電池の定電流連続放電特性を付図 1 に示す。図から1.2 v になるまでの 50 mA 連続放電時間が およそ100 h であることがわかる。本水位センサの1日の 作動時間は,2 s×(86400 s/258 s)=669.767≒670 s である。 データシートより,計測用マイコンの消費電流20 mA,無 線通信モジュールTwelite-red の送信時の消費電流 23.3 mA であるので,計測・通信時の消費電流合計を計算すると, 20 + 23.3 = 43.3 となり,約 50 mA と見積もることができる。 電池交換なしでの動作時間は,100 h/ (670/3600) = 537 day と なる。スリープ時の消費電流がμA オーダーであれば,約 1.5 年程度電池交換なしで動作可能である。 4.実験方法 通信試験用の実験装置と実験場所の写真をそれぞれ図9 と図10 に示す。図 10 のマンホールの下 35cm の位置に水 位センサを設置した。通信状態は,図9 の送信側Twelite と 受信側 Twelite が水位データを受信できるかどうかで計測 した。マンホールからの距離が通信に与える影響を調べる ために,受信側のTwelite は,図 11 のようにマンホール直 上ラインと1m,2m 離れた並行線上を 1m 間隔で±10m 移 動させつつ,アンテナの高さを0.5m 1.0m 1.5m 2.0m と変化 させた。計測点は21×4×3 = 252 点である。 図 計測フロー
Fig.8 Measuring flow Init Start Sleep 256s Warmup 2s Measure Transmit data 図 実験装置
Fig.9 Device used in the experiment
図 実験場所
5.実験結果 実験結果を図12 に示す。図の緑点は欠落なく通信可能な 状態,黄点は通信できるときできないときがある状態,赤 点は通信できない状態を示している。X=0 の軸より,X 軸 方向+側と-側を見たときに,最初に現れる欠落なく通信 可能な範囲のみ表2 に示す。 表 通信可能範囲(欠落なし)
Table 2 Communicable range
= 軸>P@ < >P@ < >P@ < >P@ ;>P@ ;>P@ ;>P@ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 波長が短いため鉄筋コンクリートや土砂・アスファルト の透過は困難であると推定していたが,マンホール上(Y = 0 m)の X 軸方向であれば,地上高 0.5m では -4 ~ 3 m, 1m では -6 ~ 3 m,1.5m では -7 ~ 5 m,2m では -7 ~ 8 m の位置において欠落のないデータの取得に成功した。 これらの電波は,密度の低い場所を透過してきたものと思 われる。これに対して,マンホールからY 軸方向へ1 ~ 2 m 離れた X = -2 ~ 2 m 地点の Z 軸 1 m 以上の結果はあま りよくない。地下に密度が高く電波の透過しにくいものが 埋まっているためだと思われる。 6.おわりに 本論文では,無線通信によるマンホール内の水位センサ 図 実験条件
Fig.11 Experimental conditions
2.0[m] 地面 マンホール :測定点 -9 ・・・ -10 -2 1.0[m] -1 0 1 2 9 10[m]9 2.0[m] 2.0[m] 1.0[m] 1.0[m] ・・・ 1.0[m] 1.0[m] x y z 図 実験結果
を開発した。静電容量式の水位センサを試作し,学内のマ ンホールを用いた実験を行った。その結果,マンホールの 中心から約半径8 m,高さ 2m 内では安定した通信状態で 水位の計測に成功した。本提案方式は無線通信方式でマン ホール内のデータを検出する一手法を示すものである。 本センサの利用方法としては,施設管理者が水位センサ を設置しているマンホールに受信機を近づけて,内部の水 位をチェックする方法と,地上に設置した受信機で収集し た水位情報をネットワーク経由で集める方法が考えられる。 今後の課題は,降雨が無線通信に与える影響の確認,水 位以外の情報(温度・湿度等)の計測機能の追加,実際の 高速道路マンホール内と地上との通信状態調査,収集した データの分析と利用方法の検討を進めることである。 (受付 年 月 日) 参考文献 (1) https://www.dyden.jp/cable/machinery/leicoupler_dlc/datalogger.html (accessed 2021-02) (2) https://www.hitachi-systems.com/sp/manhole/index.html (accessed 2021-02) (3) 堀俊和, 藤山哲雄, 樋口佳, 永江祐:「静電容量式水位計を用い た水位観測システムの開発」, 土木学会第 67 回年次学術講演会 (平成24 年9 月), pp.57-58(2012) (4) 林晃輔, 近藤亮磨, 小林亘, 岩井将行:「排水溝内での内水氾濫 検知に向けた静電容量センサの評価 」, FIT2017(第 16 回情報科 学技術フォーラム), Vol.4, pp.337-341(2017) (5) https://mono-wireless.com/jp/products/TWE-LITE/index.html (accessed 2021-02) (6) https://www.keyence.co.jp/ss/products/process/levelsensor/basics/ type.jsp (accessed 2021-02) (7) https://jpn.faq.panasonic.com/app/answers/detail/a_id/29060 (accessed 2021-02) 付録 付図 定電流連続放電特性(アルカリ単 電池) (受付 2020 年 1 月 3 日)
著者紹介 歌谷 昌弘 (正会員) 1967 年生。1993 年 3 月広島大学大学院工学研究科博士課程前 期修了。同年4 月博士課程後期進学。広島 国際学院大学教授,現在に至る。博士(工学)。 主として,電力系統解析支援インターフェ ース,電力システムの情報処理に関する研 究に従事。 永田 武 (正会員) 1954 年生。1980 年3 月広島大学大学院博士課程(前期)修了。同 年4 月(株)東芝入社,国内外の電力系統 制御用計算機システムの開発に従事。松江 工業高等専門学校講師を経て,広島工業大 学教授,現在に至る。特種情報処理技術者, 博士(工学)。電力システムの計画・運用・ 制御に関する研究に従事。 山﨑 勇 (非会員) 1948 年。1975 年3 月 大阪工業大学電気工学部卒。同年4 月㈱中 電工入社。情報通信インフラ構築,関連技術 開発に従事。技術士(電気・電子部門)。2017 年9 月㈱マウンテック設立,現在に至る。 甲斐 健 (非会員) 1974 年生。1992 年3 月宮崎県立延岡工業高校卒。同年4 月扶桑 工業㈱入社。2009 年9 月㈱デジコム設立, 現在に至る。