• 検索結果がありません。

成人労働者における口腔の健康状態と自己意識の関係

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "成人労働者における口腔の健康状態と自己意識の関係"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

緒 言

 2012 年に開始した健康日本 21(第二次)では,健康寿 命の延伸が中心課題となっており,これを実現するため の基本的方針の 1 つに,歯・口腔の健康が挙げられてい る1).歯の喪失の主な原因はう蝕と歯周病であり,これ らを予防することが健康寿命の延伸につながる.なかで も歯周病は,血管障害性疾患,早産・低体重児出産を引 き起こすなど,全身の健康に大きな影響を与えているこ とが明らかになっている2).現状では 40 ~ 60 歳代の約 半数以上が歯周病に罹患しており,年齢とともに有病率 は増加し,65 ~ 69 歳で最高値を示している3)  歯周病を予防するには,歯周病予防の有効成分が配 合された歯磨剤や洗口剤の利用が効果的である4-6).こ の歯磨きなどの行動は,個人のモチベーションや心理 的な要因と関係していることが明らかとなっている6-9) Dumitrescua ら8)は,歯磨き行動の頻度と心理特性との 関係を明らかにした先行研究を列挙した.そこで取りあ げられた心理特性には,self-esteem, self-efficacy, sense of coherence (SOC),不安,抑うつが含まれる.また,歯・ 口腔の健康に自己意識が関わるとも報告している.  自己意識とは,外界ではなく自分自身に向けられる意識 のことと定義される10).過去の報告によれば,自己意識は 歯磨きの頻度とは関連しないものの,自己申告による口 腔の健康状態に関連することが示されている8,11).自己意 識の評価は,これまで Fenigstein らの報告10)をもとに,

成人労働者における口腔の健康状態と自己意識の関係

Relationship between oral health status and self-consciousness in

adult workers

小倉 千幸,藤原 宏子

1)

,荒川 浩久

2)

,石黒 梓

3)

,合場 千佳子

OGURA Chisachi, Eda-FUJIWARA Hiroko, ARAKAWA Hirohisa, ISHIGURO Azusa and AIBA Chikako

調査研究 内 容 要 旨  自分自身に向けられる意識(自己意識)が,自己申告による口腔の健康状態に関係すると報告さ れている.そこで本研究では,成人を対象に客観的指標と主観的指標から口腔の健康状態を評価し, 自己意識との関係を検討することを目的とした.  歯科の講習会を受講し研究参加に同意した従業員 13 名の唾液潜血検査と自己申告による質問紙調 査を用いて,改訂版自己意識尺度(4 つの下位尺度:公私自己意識,外見への意識,私的自己意識, 行動スタイルへの意識)の分析を行った.  唾液潜血検査陰性群は,陽性群に比べて「行動スタイルへの意識」得点が有意に高かった.歯周 病非ハイリスク群はハイリスク群に比べ「公私自己意識」得点が有意に高かった.一方,「外見への 意識」は,唾液潜血検査と歯周病リスクの双方に関連性が認められなかった.「外見への意識」の質 問には,「他者の視点」に関する内容を一切含んでいない.また,歯の色と口臭に関する質問にも 「他者の視点」は含まれておらず,唾液潜血検査と歯周病リスクを指標にした 2 群間で有意な差が認 められなかった.  以上のことから,口腔内に出血が認められない人は,他者との関係において自己を意識する程度 が高い可能性が示唆された.  歯周病に関連する口腔健康指標により健康と判断された人は,他者との関係における自己意識の 得点が高い可能性が示唆された.今後,調査対象人数などを考慮して検証していく必要がある. キーワード 歯周病,唾液潜血検査,改訂版自己意識尺度   日本歯科大学東京短期大学 歯科衛生学科   The Nippon Dental University College at Tokyo,

Department of Dental Hygiene 1)人間総合科学大学

  University of Human Arts and Sciences 2)神奈川歯科大学

  Kanagawa Dental University 3)鶴見大学短期大学部歯科衛生科

  Department of Dental Hygiene, Tsurumi Junior College 受付日:2020 年 9 月 15 日 受理日:2020 年 11 月 4 日

(2)

菅原12)が独自に開発した日本語版の自己意識尺度(「私的 自己意識」 10 項目,「公的自己意識」 11 項目)が広く使用 されてきた13-15).しかし,その後,金子16)は,自己意識 の細分化を検討し,4 つの下位尺度に分けられる改訂版自 己意識尺度を開発し,信頼性,因子妥当性が高まった. 前述の Dumitrescua らの報告11)では,口腔内の健康状 態は主観的方法だけで評価されており,実際の口腔内の 情報を収集していない.このため,口腔内の客観的な健 康状態と自己意識の関係は不明瞭である.歯周病の客観 的指標としては,口腔内診査やレントゲン写真撮影など が挙げられるが,スクリーニング方法としては唾液検査 が有効であると報告されている17,18).さらに,歯周病の 主観的指標としては,質問紙調査によって口腔内の自覚 症状を把握することができる.しかし,日本での歯・口 腔と自己意識の調査は見当たらない.  そこで本研究では,成人を対象に客観的指標と主観的 指標から口腔の健康状態を評価し,改訂版自己意識尺度 を使用して,自己意識との関係を検討することを目的と した.

対象および方法

1.対象と調査時期  東京都某建築系の企業に勤務する従業員 300 名に,歯 科健康教育の担当者から歯科健康教育の案内メールを配 信して参加者を募った.参加を希望した 20 ~ 60 歳代の 従業員 21 名であった.調査は,2019 年 2 月 14 日に実施 した. 2.実施方法  某企業を訪問し,歯周病をテーマとした体験型の歯科 健康教育を 40 分間で実施した(表 1).唾液潜血検査は 歯科健康教育中に実施し,質問紙調査は歯科健康教育後 に実施した.  唾液潜血検査には,唾液潜血試験紙(商品名:ペリオ スクリーン サンスター,サンスター(株),大阪 以 下:試験紙)17)を用いた.  測定原理は,試験紙下端を測定試料に浸すことで,試 験紙下部に塗布されている抗ヒトヘモグロビン・モノク ロナール抗体結合金コロイドが溶解し,試料中のヘモグ ロビンと免疫複合体を形成する.この複合体は,試験紙 上部に固定化された抗ヒトヘモグロビン・モノクロナー ル抗体に捕捉され赤紫色に着色するというものである.  対象者には,3 mL の蒸留水で 10 秒間含漱させ,紙 コップに吐出させた.この測定試料に試験紙の下部を 5 分間浸し,唾液潜血試験紙の抗体固定化部を目視によっ て観察し,判定見本と比較した.抗体固定化部に赤紫色 のラインが認められた場合を陽性(+),赤紫色のライ ンが認められない場合を陰性(-)とした.試験紙には, あらかじめ無記名質問紙と同一の対象者番号をつけた.  対象者自身に唾液潜血検査の結果(陽性か陰性のいず れか)を明記させた.対象者自身による検査結果の評価 に誤りがないか確認するため,デジタルカメラ(canon PowerShot SX730 HS)で記録を残した.実施後,研究 者本人が記録写真と質問紙調査の検査結果に相違がない ことを確認した. 3.無記名質問紙調査  調査内容は以下のとおりである. 1)基本属性と喫煙状況  対象者の年齢,性別,現在の喫煙状況を調査した. 2)自己意識  自己意識尺度は,金子16)の改訂版自己意識尺度(以 下:自己意識尺度)は 29 項目を用いた.金子の対象は大 学生であるが,成人に近い年齢であることから因子項目 として採用した.これらは 4 つの下位尺度(公私自己意 識 10 項目,外見への意識 8 項目,私的自己意識 6 項目, 行動スタイルへの意識への意識 5 項目)から構成されて いる(表 2).回答方法は「あてはまる(5 点)」,「ややあ 項目(所要時間) 方法・ほか 歯科の2大疾患について (10分間) 講話 歯周病検査 (5分間) ぺリオクリーン®「サンスター」を用いた 唾液潜血検査の実施 補助清掃器具の効果的な使用方法 歯周病検査結果の説明 (計 20分間) 糸ようじの体験 検査の概要について全体に説明し, 結果は個人で確認 まとめ (かかりつけ歯科診療所をもつことの意義) (5分間) 講話 終了後に質問紙調査の実施 表 1 歯科健康教育のタイムスケジュール

(3)

てはまる(4 点)」,「どちらともいえない(3 点)」,「あま りあてはまらない(2 点)」,「あてはまらない(1 点)」の 5 段階評定であり,4 つの下位尺度それぞれの合計点を算 出した.また,4 つの下位尺度の得点の総和を自己意識 得点とした.自己意識得点の最高は 145 点,最低は 29 点 になり,得点が高いほど自己意識が高いと評価される. なお,外見への意識である「自分の顔立ちや目鼻立ちに は,あまり関心がない」,行動スタイルへの意識である 「人からの評価は,あまり意識しない」は,否定形の質問 であるため,点数の順序を逆にして集計した. 3)口腔内の自覚症状  質問項目は,口腔内の自覚症状18)である「歯を磨くと 表 2 改訂版自己意識尺度 あては 【公私自己意識】 まる ややあて どちらとも あまりあて あてはまはまる いえない はまらない らない 【外見への意識】 あては ややあて どちらとも あまりあて あてはま まる はまる いえない はまらない らない 【私的自己意識】 あては ややあて どちらとも あまりあて あてはま まる はまる いえない はまらない らない 【行動スタイルへの意識】 あては ややあて どちらとも あまりあて あてはま まる はまる いえない はまらない らない 自分の外見を意識する 自分の体型やスタイルを意識する 自分の容姿に気を配る 相手を不快にさせないような接し方を考える 初対面の人に対して,失礼がないように気をつかう 社会一般の常識に従って,行動しようとする 目上の人に対して,言葉づかいに気をつける 相手の気持ちを察して,それに沿おうとする 相手の意向も考慮しながら,物事を判断しようとする みっともない行動は,慎むように意識する 任される仕事に対して,責任を果たすことを意識する 相手の状況に配慮した振る舞い方を考える 人のプライバシーや権利を守ることを意識する 髪型を気にする 自分の理想の体形やスタイルについて考える 出かける前に,自分の服装を鏡で見る 自分に似合うオシャレを意識する 自分の顔立ちや目鼻立ちには,あまり関心がない 人から,自分がどのように思われているのか意識する 自分についての噂に関心がある 人からの評価は,あまり意識しない 自分の振る舞いが,人からどのように見られているか意識する 自分の言動について,何度も反省する 今ここでの感情の変化に注意を向ける 自分の行動特徴について,深く分析する 日ごろ,自分自身を理解しようと努めている 自分が認識する物事の本質や意味について,じっくり考える その時々の気持ちの動きを感じ取る 自分がどんな人間か,過去の行動を熟考する

(4)

歯ぐきから血がでることがありますか」,「歯ぐきが赤っ ぽい,または黒っぽいことがありますか」,「歯と歯の間 に食べ物がはさまることがありますか」,「歯がぐらぐら することがありますか」,「固いものが噛みにくいことが ありますか」の 5 項目で,回答方法は「ない」,「時々あ る」,「ある」の 3 段階とした. 4)歯科への関心  歯科への関心として「自分の歯の色」,「自分の口臭」, 「お口の中で気になることがあれば歯科へ受診する」の 3 項目である.回答方法は,「気になる」,「時々気になる」, 「気にならない」の 3 段階とした. 5)歯科保健行動  歯科保健行動として「歯を磨く頻度」,「清掃補助的清 掃器具の使用の有無」,「現在の歯科診療所への受診状況」 の 3 項目で,回答方法は「ある」,「時々ある」,「ない」 の 3 段階とした. 6)歯周病のスクリーニング  歯周病の可能性がある者をスクリーニングするために, 森田ら18)の唾液潜血検査による客観的指標と質問紙調査 による主観的指標を用いた.この方法に基づき,次の 8 つの条件のうち 4 つ以上に該当する者を歯周病ハイリス ク者とした:条件 1)唾液潜血検査の結果が陽性であっ た,2)歯ぐきから出血がある,3)歯ぐきの色が赤っぽ いまたは黒っぽい状態である,4)歯のぐらつきがある, 5)歯の間に食べ物が詰まる,6)固いものが噛みにくい 状態である,7)喫煙者,8)40 歳以上の方である. 4.倫理的配慮  無記名質問紙調査は,個人が特定されないよう ID 番 号によって厳重に管理した.唾液潜血検査は非侵襲的で 安全なものであり,精神的・身体的リスクはほとんどな いと考えられるが,十分な安全性を確保して実施した. また,本研究は,日本歯科大学東京短期大学倫理審査委 員会(東短倫- 236),人間総合科学大学(人間総合科 学大学倫理審査委員会承認番号第 602 号)の承認を得て 行った. 5.統計解析 1)唾液潜血検査と自己意識の関係  唾液潜血検査陽性群と陰性群において,歯ぐきからの 出血を単純集計した.唾液検査陽性群と陰性群に対する 自己意識尺度の 4 つの下位尺度の得点と,それらの自己 意識得点について,Mann-Whitney の U 検定により比較 した.歯科への関心の質問項目のうち,歯の色と口臭の それぞれについて,「気になる」を 3 点,「時々気になる」 を 2 点,「気にならない」を 1 点として,得点化した. この得点を用いて 2 群(陽性と陰性)間の差を Mann-Whitney の U 検定で分析した. 2)歯周病ハイリスクの有無と自己意識の関係  歯周病ハイリスク群に対する自己意識尺度 4 下位尺度 得点と自己意識得点について,Mann-Whitney の U 検定 により歯周病ハイリスク群と歯周病非ハイリスク群を比 較した.歯科への関心の質問項目のうち,歯の色と口臭 のそれぞれについて,「気になる」を 3 点,「時々気にな る」を 2 点,「気にならない」を 1 点として,得点化し た.この得点を用いて 2 群(ハイリスクと非ハイリスク) 間の差を Mann-Whitney の U 検定で分析した. 3)歯科への関心  歯科への関心の 3 項目に対して,自己意識尺度の 4 項目および自己意識得点を単純集計した.その後,歯 科への関心に対する自己意識尺度の 4 下位尺度につい て Kruskal-Wallis 検定で分析した.なお,「歯の色」で は,「気になる」,「時々気になる」の 2 群であったため, Mann-Whitney の U 検定で分析した. 4)補助的清掃用具との関係  補助的清掃用具に対する自己意識尺度 4 項目および自 己意識得点について Kruskal-Wallis 検定で分析した. 統 計 解 析 に は, 解 析 ソ フ ト SPSS Statistics 21( 日 本 IBM,東京)を用いた.有意水準は p < 0.05 とした.

結 果

1.基本属性  研究参加に同意の得られた 20 ~ 40 歳代 13 名(平均 32.1 ± 8.1 歳,男性 4 名:平均 35.0 ± 11.0 歳,女性 9 名: 30.8 ± 6.8 歳)を分析対象とした.喫煙状況は,喫煙者 2 名,非喫煙者 11 名であった. 2.自己意識得点  自己意識尺度の「公私自己意識」では,最高 50 点,最 低 40 点であり,平均値 45.9 点(中央値 47.0 点,以下同 様)であった.「外見への意識」では,最高 38 点,最低 23 点であり,平均値 31.5 点(32.0 点)であった.「私的 自己意識」では,最高 28 点,最低 12 点であり,平均値 20.2 点(19.0 点)であった.「行動スタイルへの意識」で は,最高 23 点,最低 15 点であり,平均値 19.7 点(20.0 点)であった.自己意識得点では,最高 131 点,最低 103 点であり,平均値 117.3 点(117.0 点)であった. 3.唾液潜血検査 1)質問紙調査との関係  唾液潜血検査では,陽性 7 名,陰性は 6 名であった. 唾液検査の結果と質問紙調査での歯ぐきからの出血の結

(5)

果を表に示す(表 3-1).唾液検査の結果と出血の自覚の 有無がほぼ一致していた. 2)自己意識との関係  唾液潜血検査と自己意識,ならびに歯の色・口臭への 関心との分析結果を,それぞれ表 3-2 と表 3-3 に示す.  自己意識尺度の「行動スタイルへの意識」得点は,唾 液潜血検査で陰性群のほうが,陽性群に比べ有意に高 かった(p < 0.05).他の 3 つの下位尺度(公私自己意 識,外見への意識,私的自己意識)および自己意識得点 については,陽性群と陰性群の間に有意な差は認められ なかった(表 3-2). 3)歯の色・口臭への関心との関係 歯の色と口臭に対して,唾液潜血検査の陽性群と陰性群 の間に有意な差は認められなかった(表 3-3). 4.歯周病リスク  歯周病のリスク状態と自己意識,ならびに歯の色・口 臭との分析結果を,それぞれ表 4-1 と表 4-2 に示す.  歯周病非ハイリスク群は,歯周病ハイリスク群に比べ て,「公私自己意識」得点が有意に高かった(p < 0.05). また,他の 3 つの下位尺度(外見への意識,私的自己意 識,行動スタイルへの意識)の自己意識得点については, 歯周病ハイリスク群,歯周病非ハイリスク群の間に有意 な差は認められなかった(表 4-1).  歯の色と口臭に関して,歯周病ハイリスク群と歯周病 非ハイリスク群の間に有意な差は認められなかった(表 4-2). 5.歯科への関心と改訂版自己意識尺度  歯科への関心の結果を表 5 に示す.歯科への関心 3 項 表 3-1 唾液潜血検査と質問紙調査との比較 あ る 時々ある な い 陽 性(7) 陰 性(6) 歯ぐきからの出血の有無 唾液潜血検査 表 3-2 唾液潜血検査と自己意識 *p<0.05,(平均±SEM) 45.1±1.5 30.7±1.8 21.9±1.3 18.4±0.8 117.4±4.0 46.8±1.1  陽 性(7)  陰 性(6) 32.3±2.2 18.3±1.9 21.2±0.7 117.2±4.3 * p値 外見 への意識 私的 自己意識 行動スタイル への意識 自己意識 得点 公私 自己意識 表 3-3 唾液潜血検査と歯の色・口臭への関心 歯の色 口 臭 歯の色と口臭 気になる 時々気になる 気にならない 気になる 時々気になる 気にならない 気になる 気にならない  陽 性(7)  陰 性(6) 表 4-1 歯周病リスク状態と自己意識 ハイリスク群(3) 43.3±1.9 28.7±3.8 20.0±1.5 22.0±2.1 121.0±6.6 46.7±1.1 非ハイリスク群(10) 32.3±1.4 20.3±1.5 20.2±0.6 124.0±2.5 p値 * *p<0.05,(平均±SEM) 自己意識 得点 公私 自己意識 外見 への意識 私的 自己意識 行動スタイル への意識 表 4-2 歯周病リスク状態と歯の色・口臭 ハイリスク群(3) 歯の色 口 臭 歯の色と口臭 気になる 時々気になる 気にならない 気になる 時々気になる 気にならない 気になる 気にならない 非ハイリスク群(10)

(6)

目について,自己意識尺度との関連性を検討した.  「歯の色」については,「気になる」群と「時々気にな る」群の 2 群間で,自己意識の 4 つの下位尺度および自 己意識得点のいずれにおいても有意な差は認められな かった.  「口臭」と「歯科への受診」については,「気になる」 群,「時々気になる」群,「気にならない」の 3 群間で, 自己意識の 4 つの下位尺度および自己意識得点のいずれ においても有意な差は認められなかった. 6.歯科保健行動  歯を磨く頻度は,13 名全員が毎日磨いていた.補助 的清掃用具の使用については,「ほぼ毎日使う」群 2 名, 「時々(週 1,2 回)使う」群 6 名,「使わない」群 5 名で あり,3 群間で比較した.自己意識尺度 4 下位尺度およ び自己意識得点では 3 群間でいずれにおいても有意な差 は認められなかった.現在の歯科診療所の受診状況では, 「1 カ月に 1 回以上」が 1 名,「2 ~ 3 カ月に 1 度程度」が 1 名,「半年に 1 回程度」が 2 名,「1 年に 1 回程度」が 3 名,「2 年に 1 回程度」が 1 名,「3 年に 1 回程度」が 2 名,「それ以下」が 3 名であった.

考 察

 本研究では,成人を対象に自己意識尺度と歯周病リス クの無記名質問紙調査を実施し,客観的指標として口腔 の健康状態を唾液潜血検査で評価し,自己意識との関係 を検討した.今回の対象について因子分析したが,対 象が少ないため因子は抽出できなかった.そのため,金 子16)の因子構造をそのまま使用した .  唾液潜血検査と自己意識では,唾液潜血検査で陰性群 のほうが,陽性群に比べて「行動スタイルへの意識」の 得点が有意に高かった.また,歯周病リスクと自己意識 では,歯周病非ハイリスク群は,歯周病ハイリスク群に 比べて「公私自己意識」の得点が有意に高かった.  今回の調査では,客観的指標として唾液潜血検査を採 用した.この検査によって,歯周病の症状の 1 つである 出血の有無を確認することができる.歯周病の初期症状 は,自覚しにくく,この検査は客観的指標として有効で ある.さらに,精度を高めた歯周病のスクリーニング方 法18),つまり,唾液潜血検査と質問紙調査の組み合わせ を用いることにより,歯周病である可能性の高い者を確 実に抽出できたと考える.  自己意識の下位尺度において,「行動スタイル」とは, 自分自身が他者からどのようにみられるかを気にする意 識のことである.「公私自己意識」では,相手を不快にさ せないような接し方を考える,初対面の人に対して,失 礼がないように気をつかうなど他者の立場に立ちながら 自らを省みようとする意識である.自己意識下位尺度に おける「外見への意識」は,自分の髪型や自分の体型や スタイルなど外見を気にすることである.唾液潜血検査 と歯周病リスクを指標にした 2 群間で有意な差が認めら れた「行動スタイルへの意識」と「公私自己意識」は, 共通して,質問文に「自分の言動について何度も反省す る」,「相手を不快にさせないような接し方を考える」な ど,他者の視点に関する内容を含んでいる.一方,唾液 潜血検査の有無と歯周病リスクの有無において,「外見へ の意識」では,有意な差は認められなかった.「外見への 意識」の質問には,「他者の視点」19)に関する内容を一 切含んでいない.また,歯の色と口臭を尋ねた質問にも 「他者の視点」は含まれておらず,唾液潜血検査と歯周病 リスクを指標にした 2 群間で有意な差が認められなかっ た.以上のことから,歯周病に関連する口腔健康指標は 自己意識である「行動スタイル」と「公私自己意識」と に有意差が認められたことから,健康な人は,他者との 関係において自己を意識する程度が高い可能性が示唆さ れた.今後,調査対象人数など調査対象を考慮して検証 していく必要であると考えている.  歯を磨く頻度は,13 名全員が毎日磨いていたことから 歯磨きの習慣であるセルフケアは定着していることがわ かった.また,歯科診療所の受診状況では,最低でも 1 年に 1 回以上歯科診療所へ 7 名が受診をしていることが わかった.半数の人は,セルフケアとプロフェッショナ ルケアで口腔の健康管理をしていることから,歯科への 意識があると考える.しかし,先行研究より歯磨き行動 と自己意識とは関係がないことが明らかとなっており, 表 5 歯科への関心   項 目 気になる (する) 時々気になる (たまに行く) 気にならない (行かない) 自分の歯の色 自分の口臭 お口の中で気になることがあれば, 歯科を受診する n=13

(7)

今回の調査対象者も同様の結果であった.  本研究の限界として,調査対象者が少人数であること が挙げられる.任意参加方式の歯科保健プログラムへの 参加に影響する要因は,性別や年齢階級にかかわらず職 種の影響が最も大きく,研究職で参加する者が多いこと が明らかになっている20).また,歯科健康教育などの イベントでは,歯科に興味のある者が参加する傾向があ る21).今回,調査協力の得られた企業は建築系の企業で あり,歯科健康教育をイベントとして就業時間内に実施 したことから,参加できる人数が制限されたことが考え られる.また,今回の調査対象者は,無作為抽出した者 ではなく希望者を募っているため,口腔保健に関して意 識の高い者に偏っていたことが考えられ,本調査を普遍 化して展開していくには,調査対象が十分な状態にある とはいえない.今後の目標は本調査の普遍化であるが, 職種,人数,抽出方法を考慮した集団を対象に,口腔の 健康状態を評価し,自己意識との関係を精査していく必 要がある.

結 論

 本研究では,成人を対象に客観的指標と主観的指標か ら口腔の健康状態の評価を明らかにするために,自己意 識尺度を使用して,自己意識との検討を行った結果,以 下の結論を得た.  歯周病に関連する口腔健康指標により健康と判断され た人は,他者との関係における自己意識の得点が高い可 能性が示唆された.今後,調査対象人数などを考慮して 検証していく必要がある.  本論文に関して,開示すべき利益相反状態はない. 謝 辞  本研究の調査にご協力くださいました東京都某企業の 担当者の方々に深く感謝いたします. 文 献 1) 厚生労働省:国民の健康の増進の総合的な推進を図るため の基本的な方針,https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/ kenkounippon21_01.pdf(2020 年 8 月 8 日アクセス) 2) 特定非営利活動法人 日本歯周病学会:歯周治療の指針 2015,医歯薬出版,東京,第 1 版,2016,8-17. 3) 一般社団法人 厚生労働統計協会:2019/2020 国民衛生の 動向,一般社団法人 厚生労働協会,東京,第 66 巻 9 号(第 1036 号),2019,132-133. 4) 申 基喆:最新歯科衛生士教本 歯周病学 第 2 版,医歯 薬出版,東京,第 2 版,2018,146-148. 5) 高坂利美,遠藤圭子,大川由一,水上美樹,犬飼順子ほか: 最新歯科衛生士教本 歯科予防処置論・歯科保健指導論,医 歯薬出版,東京,2018,205-210. 6)沼部幸博:歯周病学サイドリーダー第 4 版,(株)学健書院, 東京,第 4 版,2012,78-81. 7) 佐藤怜美,前田理沙,金子輝子,山崎純子,遠藤昌敏ほか: 歯周外科治療における口腔内清掃指導の有用性,滋賀県歯科 医師会雑誌,1:10-13,2013.

8) Alexandria L. Dumitrescua, Makoto Kawamura, Beatrice Dogaru, Cristian Dogaru: Investigating the Relationship between Self-reported Oral Health Status, Oral Health-related Behaviours and Self-Consciousness in Romania, Oral Health Prev Dent, 6(2): 95-103, 2008.

9) R Deinzer, D Hilpet, K Bach, M Schawacht, A Herforth: Effects of Academic Stress on Oral Hygiene – a potential link between stress and plaqueassociated disease? J Clin Periodontal, 28(5): 459-464, 2001.

10) Allan Fenigstein, Michael F, Scheier, and Arnold H. Buss: Public and private self–consciousness: Assessment and theory, J Consult Clin Psychol, 43: 522-527, 1975.

11) Alexandria L. Dumitrescua, M. kawamura, L. Zetu, S. Teslaru: Investigating the Relationship Among Self–Reported Oral Health Status, Oral Health-Related Behaviors,and Self-Consciousness in Romanian Dental Patients. J Periodon-tal, 80(3): 468-475, 2009. 12) 菅原健介:自意識尺度(self-consciousness scale)日本語版 作成の試み,心理学研究,55(3):184-188,1984. 13) 須賀知美,庄司正実:飲食店従業員の感情労働的行動と パーソナリティとの関連-セルフ・モニタリングおよび自己 意識との関連-:目白大学心理学研究,3:77-84,2007. 14) 山蔦圭輔:非評価的感情体験に基づく心理教育が公的自己 意識に及ぼす影響,日健教誌,19(1):48-56,2011. 15) 吉田明日美,髙田和子,藤井瑞恵,戸谷誠之:女性陸上 短距離選手における自意識と食事記録法によるエネルギー摂 取量の評価誤差との関連,日本栄養・食糧学会誌,66(2): 101-107,2013. 16) 金子智昭:大学生の自己意識に関する研究―自己意識尺度 の作成と心理的適応の関連性―,慶応義塾大学大学院社会学 研究科紀要,84:15-33,2017. 17) 大島光宏,藤川謙次,熊谷京一,出澤正隆,江澤眞恵ほか: 新しい唾液潜血試験紙法による歯周疾患のスクリーニングテ ストの有用性,日歯周誌,43(4):416-423,2001. 18) 森田十誉子,山崎洋治,湯之上志保,細久保和美,武儀 山みさきほか:唾液検査および質問紙調査を組み合わせた歯 周病スクリーニング法の有効性,日歯保存誌,55(4):255-264,2012. 19) 日道俊之,小山内秀和,後藤崇志,藤田弥世,河村悠太ほ か:日本語版対人反応性指標の作成,心理学研究,88(1): 61-71,2017. 20) 市橋 透 , 西埜植規秀 , 高田康二 , 武藤孝司:任意参加方 式の職域歯科保健活動への参加者と不参加者における口腔内 状態および保健行動の比較,口腔衛生学会誌,63(3):238-248,2013. 21) 森 智恵子:職域における定期歯科健診と事後措置に関す る評価,口腔病学会雑誌,69(2):162-170,2002. Corresponding author・著者への連絡先 小倉千幸 OGURA Chisachi 日本歯科大学東京短期大学歯科衛生学科 〒 102-0071 東京都千代田区富士見 2 - 3 - 16 TEL:03-3265-8815 FAX:03-3265-8928 E-Mail:[email protected]

参照

関連したドキュメント

式目おいて「清十即ついぜん」は伝統的な流れの中にあり、その ㈲

問題はとても簡単ですが、分からない 4人います。なお、呼び方は「~先生」.. 出席について =

最も偏相関が高い要因は年齢である。生活の 中で健康を大切とする意識は、 3 0 歳代までは強 くないが、 40 歳代になると強まり始め、

地震による自動停止等 福島第一原発の原子炉においては、地震発生時点で、1 号機から 3 号機まで は稼働中であり、4 号機から

されていない「裏マンガ」なるものがやり玉にあげられました。それ以来、同人誌などへ

はありますが、これまでの 40 人から 35

はい、あります。 ほとんど (ESL 以外) の授業は、カナダ人の生徒と一緒に受けることになりま

【こだわり】 ある わからない ない 留意点 道順にこだわる.