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清水勝彦著 『戦略と実行 組織的コミュニケーションとは何か』(PDFファイル606KB)

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Academic year: 2021

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書 評

戦略と実行

組織的コミュニケーションとは何か

■ 清水 勝彦 著

■ 日経BP社

評 者

広島大学大学院社会科学研究科教授

井上 善海

1  特 徴

戦略論の研究では、1980年代、データを詳細に 分析することに重点が置かれた分析型戦略論の限 界が指摘され(戦略策定の集権化と現業部門の自 律性喪失により分析マヒ症候群(paralysis by analysis syndrome)に陥ったと批判された)、戦 略は分析的な手法を駆使して策定されるものでは なく、組織の中の人々の創造的活動によるものだ とされた。 これを契機に戦略と組織との関係についての議 論が高まり、行動の中から戦略を生み出す帰納的 な方法で不確実性をできるかぎり除去しようとす るプロセス型戦略論が台頭してきた。 その結果、戦略が組織的な相互作用の結果とし て生み出されるとする視点がしだいに明確とな り、戦略実行に注目が集まるようになった。 しかし、著者も指摘しているように、「戦略実 行について真正面から取り組んだ研究は経営学の 世界でも極めて限られているのが現状」である。 そのような中、本書では、戦略の実行段階に焦 点を当て、戦略実行上の問題点をさまざまな角度 から分析し、その解を組織におけるコミュニケー ションに求め、論が展開されている。 ただ、本書は、学術研究書というより、著者の 経歴(戦略コンサルタントからテキサス大学サン アントニオ校、そして現在は慶応ビジネススクー ル教授)からしてもわかるように、実践的な示唆 に富む内容となっている。 特に、大企業と比べて、階層が多段階でなく、構 造が複雑でない組織形態である中小企業の戦略実 行面においては、本書の組織的コミュニケーショ ンの提言がより効果を発揮するものと思われる。

2  構 成

本書は、大きく 4 つの部で構成されている。ま ず、第 1 部第 1 章で戦略実行の現状が述べられ、 それを受けて、第 2 部で戦略実行上の問題点の分 析が行われる。 第 2 章では戦略のコモディティ化が進む中で、 戦略(=トップ)、実行(=労働者)と区分けし てしまう誤解があることを指摘し、戦略実行の本 質は、「戦略の後工程ではなく、戦略の仮説を展 開すると同時に、戦略立案段階で明確にできな かったこと、予想できなかったこと、間違ってい たことをその実際の行動の中で知り、フィード バックを通じて戦略を練り上げるプロセス」であ ることが示される。 第 3 章では、戦略実行の失敗要因を 9 項目あげ、 それを構造化したうえで、それぞれの失敗に関す る分析が行われる。その結果、戦略実行失敗の構

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─ 94 ─ 日本政策金融公庫論集 第11号(2011年 5 月) 造的問題を、戦略実行に関する「誤った前提」と 「社内コミュニケーションの不足」からなる誤解、 納得感の欠如にあると結論付けられる。 第 3 部は、本書の核となる部分で、戦略実行に おける組織的コミュニケーションの役割とあり方 が示される。 第 4 章では、組織におけるコミュニケーション の目的を、「戦略の核となる目的について合意す る」「合意できない戦略施策についても、100%の 力を投入するための納得を培う」「実行の過程で 新しく発見された情報を戦略に反映させる」こと とし、単に論理的なメッセージや結論を伝えるだ けでなく、感情、気持ち、あるいは人間性までを 伝え、共有、共感を作り出す力であるとする。 第 5 章では、戦略実行におけるコミュニケー ションの役割を、「核」となる戦略目的を共有化し、 自社の戦略と外部の市場および競合の接点である 「実行」を通じ、新たな情報を汲み取り、自社で 共有し、戦略の完成度を上げる生命線であるとす る。 第 6 章では、組織のコミュニケーションでは、 抽象的な言葉を展開するだけでなく、より具体的 で、聞いた人がイメージを頭で描ける、物語のよ うに感情を移入できる具体性が必要と説く。 第 7 章では、戦略の共有化やコミュニケーショ ンに関する先行研究からの示唆が示されるが、ま だまだ今後の研究の余地があるという。 第 4 部は、組織の実行力向上に向けてと題し、 第 8 章では組織の実行力を測る10の質問が示さ れ、コミュニケーションの方法論が説かれる。第 9 章では、現在の日本企業の経営課題が示され、 戦略実行のためには「強い現場」が不可欠である とまとめる。

3  評 価

本書では、「戦略の実行で本当に難しいのは何 なのか」を問題意識として、現状把握から始め、 戦略実行失敗の問題点を構造的に分析し、課題を 組織におけるコミュニケーションにあると抽出、 コミュニケーションの目的・役割を明らかにしな がら方法論を導き出すという、極めて論理的な展 開がなされていることから、戦略論の知識が事前 になくとも一気に読み通すことができる。 また、実際の企業事例も随所に挿入され、理解 するのを助けてくれる。そして、一貫して説かれ るのは、組織のコミュニケーションは、単なる情 報交換ではなく、「意味」を共有することであり、 「価値観・気持ち」を伝えること、というメッセー ジである。 そもそも戦略の重要性が増してきたのは、企業 を取り巻く経営環境の変化が一段と激しくなり、 固定化された数値目標だけの経営計画では対応が 難しくなってきたからである。このため、戦略は、 ビジョンやコンセプトといった将来方向を指し示 す構想とならざるを得ないことから、その「意味」 や「価値観」を組織メンバーで共有することは最 重要課題となる。 さらに、企業規模が拡大すればするほど、意思 決定の統合、整合が困難となる。特に環境適応や 資源配分など企業活動全体に影響を及ぼすような 戦略的な意思決定の場ではなおさらのことであ る。意思決定をすばやく、的確に行うためにも戦 略の「意味」や「価値観」を共有しておかねばな らない。 そのようなことからも、戦略実行における組織 的コミュニケーションの重要性を説く本書は、戦 略にかかわる組織メンバーすべてに読んでもらい たい 1 冊である。 なお、本書は、既刊の『戦略の原点』と『経営 意思決定の原点』に続く三部作の完結編としてま とめられている。戦略や意思決定に関する著者の 考え方が示してあることから、これらと一緒に読 まれると、さらに理解が深まるものと思われる。

参照

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