要 旨 子宮広間膜異常裂孔ヘルニア 2例を経験した.【症例1】 51歳女性. 14歳時, 虫垂切除. 上腹部痛, 嘔気出 現し近医受診. 症状改善せず, 第 3病日に当院紹介受診. 腹部膨満し腹部全体に圧痛を認めたが反跳痛や筋性 防御なし. CT, USで拡張した小腸を認めたが腹水なし. イレウス管を挿入し 第 4病日に造影した. 右骨盤内 で小腸の完全閉塞を認め手術適応と判断した. 右の子宮広間膜に約 1.5cmの裂孔があり, 回腸が約 20cm陥 入, 壊死していた.小腸切除と裂孔閉鎖を行い,術後 15日目に退院. 【症例2】 53歳女性.開腹歴なし.朝か ら腹部違和感,気 不快あり.症状改善せず夕方当院受診.腹部全体の膨隆を認めたが自発痛,圧痛,嘔気なし. CT で拡張した小腸と軽度の腹水を認めた. 保存的に経過をみたが嘔吐を繰り返したため第 2病日に CT 再 検.小腸拡張の悪化,腹水増加を認めたため緊急手術を行った.左の子宮広間膜に約 2cmの裂孔を認めそこへ 回腸が約 5 cm陥入していた.用手的に整復し,裂孔閉鎖した.術後 9 日目に退院.(Kitakanto Med J 2008; 58:221∼227) キーワード:子宮広間膜裂孔, 内ヘルニア, イレウス は じ め に 内ヘルニアの中で子宮広間膜異常裂孔ヘルニアはまれ な疾患でありその報告の多くが術前診断されていない. しかし CT を retrospectiveに見直すと特徴的な所見が認 められていることが多い. 本疾患を疑うことができれば 術前診断でき, 早期診断につながると思われた. 当院で 経験した 2例を報告する. 症 例 症例1 患 者:50歳, 女性. 主 訴:嘔気, 腹痛. 咽頭痛. 既往歴:14歳虫垂炎, 虫垂切除術. 正常 1回. 家族歴:特記することなし. 現病歴:2003年 11月 16日朝から腹痛出現. 11月 17日 近医受診. 点滴をうけた. 11月 18日症状改善しないため 当院紹介受診. 来院時現症:身長 155.1㎝, 体重 46kg. 体温 37.9℃ 脈拍 87,整.BP134/70mmHg SatO2 96%.右下腹部に虫垂切除 後の手術痕を認めた. 腹部は全体に膨隆, 軟. 右下腹部を 中心に圧痛認めるも反跳痛はなかった. 入院時血液検査:炎症反応の上昇と腎機能の悪化を認め た. 炎症と強い脱水が起きていると思われた. (Table 1) 入院時腹部単純 X-p検査:臥位では拡張した小腸ガス を認めた. 骨盤部には腸管ガス像を認めなかった. 立位 で小腸ガス像に niveau形成を認めた. (Fig.1a, 1b) 1 群馬県富岡市富岡2073-1 富岡 合病院外科 2 群馬県富岡市富岡2073-1 富岡 合病院画像診療科 平成19年12月17日 受付 論文別刷請求先 〒370-2393 群馬県富岡市富岡2073-1 富岡 合病院外科 野田大地 Table 1 入院時血液生科学検査所見 WBC 2.86×10 mm RBC 5.7×10 mm Hb 16.4g/dl Htc 481% Plt 2.5×10 mm TP 8.1g/dl Alb 5.1g/dl BUN 39.1mg/dl Cr 1.3mg/dl Na 141mEq/l K 3.9mEq/l Cl 97mEq/l GOT 13IU/l GPT 8IU/l LDH 198IU/l ALP 354IU/l CPK 33IU/l T-Bil 1.7mg/dl Glu 160mg/dl
入院時腹部CT検査:拡張した小腸像を認めた. 子宮の 右側で小腸の集束像があり, その背側に限局した拡張し た小腸を認めた. 腹水は認めなかった. (Fig.2) この時点では CT で腹水がないこと, 腹痛がそれほど 強くないことからイレウスだが 扼はないと判断し, イ レウス管を挿入し保存的に治療を開始した. 第2病日血液検査:炎症反応は依然高値であったが, 腎 機能は改善傾向を認めた. (Table 2) 第2病日イレウス管造影:骨盤内の小腸で完全閉塞を認 めた. (Fig.3) 索状物による 扼性イレウスを疑い手術を決定した. 手術所見:臍下部横切開で開腹. 血性腹水貯留. 右子宮 広間膜に 1.5cm大の裂孔がありそこに回腸が腹側から背
Fig.1a The abdominal X-ray findings in the supine position on admission revealed dilated loops of the small intestine but no areas of intestinal gas in the pelvic region.
Fig. 2 CT scan findings on admission showed a dilated small intestine which tapered off to a point (arrow) on the right side of the uterus ( ) and demonstrated no ascites. Table 2 入院 2日目血液生科学検査所見 WBC 2.05×10 mm RBC 4.21×10 mm Hb 12.4g/dl Htc 36.3% Plt 1.64×10 mm TP 5.5g/dl Alb 3.2g/dl BUN 22.4mg/dl Cr 0.8mg/dl Na 138mEq/l K 3.3mEq/l Cl 102mEq/l GOT 9IU/l GPT 5IU/l LDH 155IU/l ALP 227IU/l CPK 26IU/l T-Bil 0.9mg/dl Glu 154mg/dl 検尿 蛋白 ≦15 糖 (−) ウ ロ ピ リ ノーゲン 0.1 潜血 (−) ケトン体 (−) ビリルビン (±) pH 7 比重 1.011
Fig. 3 Radiological enteroclysis. We injected contrast medium into the small intestine through a long tube. The ileum was found to be completely obstructed.
Fig. 1b Abdominal X-ray findings in the standing position on admission. A niveau formation was observed in the dilated loops of the small intestine.
切除標本: 扼されていた腸管が全層の壊死に陥ってい た. 壊死部 と 常部の境界は明瞭だった. (Fig.6a, 6b) 臨床経過:術後腸管麻痺が遷 したため術後 7日目より 5日間高圧酸素療法施行. 術後 13日目から経口摂取開 始. 術後 15日目に 退院となった. 症例2 症 例:52歳, 女性. 入院時腹部単純 X-p検査:臥位では主に腹部中央に拡 張した小腸ガスを認めた. (Fig.7a, 7b) 入院時腹部CT検査:拡張した小腸像を認めた. 子宮の 右側で小腸の集束像があり, その背側に限局した拡張し た小腸を認めた. 腹水は認めなかった.
Fig. 4 A schematic drawing of the surgical operation. The right broad ligament had a hiatus measuring 1.5cm in a diameter. The ileum measured 20cm in length and it entered the hiatus from the ventral side to the dorsal side. The ileum which passed through the hiatus demonstrated necrosis.
Fig. 5a The surgical findings before repositioning. The
ileum entered the hiatus in the right broad ligament. Fig. 5b The surgical findings after repositioning. The right broad ligament had a hiatus measuring 1.5cm in diameter. The uterus, broad ligament, and uterine appendages all demonstrated inflammation.
Table 3 入院時血液生化学検査所見 WBC 1.04×10 mm RBC 3.82×10 mm Hb 11.2g/dl Htc 32.8% Plt 2.35×10 mm TP 7.6g/dl Alb 4.3g/dl BUN 19.2mg/dl Cr 0.6mg/dl Na 138mEq/l K 3.8mEq/l Cl 103mEq/l GOT 27IU/l GPT 17IU/l LDH 191IU/l ALP 243IU/l CPK 83IU/l T-Bil 1.1mg/dl Glu 132mg/dl 検尿 蛋白 (−) 糖 (−) ウ ロ ピ リ ノーゲン 0.1 潜血 (−) ケトン体 (2+) ビリルビン (−) pH 7.5 比重 1.003
この時点では CT で腹水がないこと, 腹痛がそれほど 強くないことからイレウスだが 扼はないと判断し, イ レウス管を挿入し保存的に治療を開始した. 第2病日血液検査:炎症反応の異常は改善した. 検尿で ケトン体が強陽性だった. (Table 4) 第2病日腹部CT検査:拡張した小腸を認めた. 骨盤内, 子宮の左側で不自然に変形した小腸を認めた. 骨盤内に 腹水を認めた. (Fig.8) 索状物による 扼性イレウスを疑い手術を決定した. 手術所見:臍下部横切開にて開腹. 漿液性の腹水を多量 に認めた. 左子宮広間膜に約 2 cmの裂孔を認めそこへ 回腸が 5cm程度陥入していた. 用手的に小腸を整復し陥 入した小腸の障害は軽度なため, 小腸切除は行わなかっ
Fig. 6a The extirpated ileum (serosa side)left a strangulation mark.
Fig. 6b The extirpated ileum (mucosal side) showed that necrosis had spread to all layers of the ileum. An obvious boundary line is observed between the intact areas and necrosis areas.
Fig. 7a Abdominal X-ray findings in the supine position on admission revealed a dilated small intestine with gas.
Fig. 7b Abdominal X-ray findings in the standing position on admission. It revealed niveau formation in the dilated small intestine with gas. Table 4 入院 2日目血液生化学検査所見 WBC 8.6×10 mm RBC 3.92×10 mm Hb 11.1g/dl Htc 34% Plt 2.49×10 mm TP 7.0g/dl Alb 4.0g/dl BUN 15.8mg/dl Cr 0.6mg/dl Na 136mEq/l K 4.0mEq/l Cl 102mEq/l GOT 24IU/l GPT 16IU/l LDH 178IU/l ALP 222IU/l CPK 61IU/l T-Bil 1.1mg/dl Glu 97mg/dl 検尿 蛋白 ≦15 糖 (−) ウ ロ ピ リ ノーゲン 0.1 潜血 (−) ケトン体 (4+) ビリルビン (−) pH 7.5 比重 1.024
12%と報告している. 子宮広間膜裂孔ヘルニアは内ヘル ニアの 1.27%∼3.8%とまれな疾患で, 40歳∼60歳の女 性に多く発症する. 子宮広間膜の異常裂孔は通常の剖 検で約 0.5%に見られるとされている. 近年本邦で子宮 広間膜裂孔ヘルニアの報告は増加してきている (Fig. 10). 子宮広間膜裂孔の報告が増えている原因については 不明だが疾患自体が増加しているというよりは報告例が 増えたため認知度があがりさらに報告が増えた可能性も あるのではないかと えた. 子宮広間膜裂孔ヘルニアの成因としては①先天異常 ②妊娠, 手術など外力に伴う裂傷, ③骨盤内感染症によ る組織の癒着や歪み ④加齢による子宮広間膜の弾性低 下が指摘されている. 症例 1は虫垂炎手術後と 1回の出 産歴を認めた. また, 症例 2は開腹歴はないが 2回の出 産歴がある. しかし, いずれの症例も手術所見からは子 宮広間膜裂孔の原因を推測することはできなかった. 子宮広間膜裂孔ヘルニアは広間膜の前葉と後葉を貫通 する fenestra typeと前葉または後葉の裂 を通じて盲囊 を形成する pouch typeがあり, その多くが fenestra type と報告されている. 自験例は症例 1, 症例 2ともに fenes-tra typeだった. 本疾患は術前診断される頻度は低く, 多くがイレウス の診断で手術を行われている. しかし, 近年 CT 画像の 進歩とおそらくは症例の集積に伴う子宮広間膜裂孔ヘル ニアの認知度の上昇に伴い, 術前診断なされる症例が増 えてきている. 子宮広間膜裂孔ヘルニアの CT 上の特 徴としては①骨盤内の拡張した小腸ループ ②小腸ルー プによる子宮の腹側, あるいは片側への偏位 ③子宮近 傍に小腸,または腸間膜の集束像と言われている. 症 例 1, 症例 2ともに CT 検査を施行していたが術前確定 診断にはいたらなかった. Retrospectiveに CT 像を検討 するとこのような特徴的な所見を認めていた. 本疾患を 認識していれば術前診断が可能であったのではないかと 反省させられた. 治療に関しては脱出腸管の還納と異常裂孔の閉鎖であ るが陥入した腸管の壊死があれば切除, 再 を必要とす
admission demonstrated a dilated small intestine, the small intestine with an altered and unnatural form (arrow) on the left side of the uterus ( ) and ascites (◎) in the pelvic cavity.
Fig. 9a The surgical findings after repositioning. The left broad ligament had a hiatus measuring 2 cm in diame-ter.
Fig. 9b The surgical findings after repositioning. The ileum showed a slight strangulation mark. The ileum measured 5 cm in length and entered the hiatus from the ventral side to the dorsal side. The ileum passed through the hiatus but did not demonstrate necrosis.
る. 時期を逸せず, 外科的処置が施されれば予後は良好 である. 近年腹腔鏡による治療の報告も散見されるよう になった. 手術の時期については一般的な内ヘルニア, 扼性イ レウスと同じと えてよい. 診断がつけば全身状態を 慮しつつ, すみやかに手術を行う必要がある. 内ヘルニ アによる 扼性イレウスは急性腹症であり, 一般的に救 急外来を受診する可能性が高い. 適切な診断, 治療を迅 速に行うように心がけることは言うまでもないが特に適 切な手術時期を逸しないことが最も求められる. そのた め, 多忙な救急外来においては詳細な CT の読影のみに 頼るのではなく理学所見を含め, 合的に症例に応じた 緊急性の判断をすることも重要と える. 文 献
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