Japan Advanced Institute of Science and Technology
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https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 科学技術人材の流動状況とその効果の関係 : 「科学技 術人材に関する調査」より(2) Author(s) 中務, 貴之; 齋藤, 経史 Citation 年次学術大会講演要旨集, 24: 774-777 Issue Date 2009-10-24Type Conference Paper Text version publisher
URL http://hdl.handle.net/10119/8741
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2G03
科学技術人材の流動状況とその効果の関係
―「科学技術人材に関する調査」より(2)―
○中務 貴之、齋藤 経史(文部科学省科学技術政策研究所) 1. はじめに 第 3 期科学技術基本計画においては、「活力ある研究環境を実現し、研究人材が優れた研究を行うた めに、研究者全体の流動性が高まることが必要である」としている。これを受け、任期制等の流動性促 進策が導入されたことにより、近年、人材の流動性が高まっていると言われているが、流動に関する客 観的な指標や流動性と研究成果の関係などについては定量データも少なく、必ずしも明らかになってい ない。 そこで文部科学省科学技術政策研究所では、科学技術人材の流動状況及び流動に伴う効果や研究組織 に与える影響などを把握するために「科学技術人材に関する調査1」を実施した。本調査は平成 20 年度 科学技術振興調整費により実施した「第 3 期科学技術基本計画のフォローアップに係る調査研究」にお ける 1 プロジェクトである。 2. 調査概要 本調査では、自然科学系の研究組織及び研究者を対象とし、組織における人材の状況や人材の採用等 の考え方・取組、研究者個人のキャリアパス等について調査を実施した。調査は 2008 年 11 月から 2009 年 1 月に実施した。博士課程を有する 243 大学、大学共同利用機関 11 機関、独立行政法人 28 機関、国 立試験研究機関 22 機関、公設試験場 355 機関、財団・社団法人 169 機関に機関及び組織(研究科、研 究センターなど)に対する調査票を配布するとともに、これらの機関に所属する研究者 15,250 名に研 究者個人に対して回答を依頼した。調査の種類、回答率を以下に記す。 【調査の種類】 • 調査Ⅰ(研究機関):研究機関(組織)における人材の現状および移動の状況把握 • 調査Ⅱ(研究組織長):人材の選考・採用、研究環境整備および処遇・評価に関する状況把握 • 調査Ⅲ(研究者個人):研究人材の博士課程や学位取得の状況およびキャリアパスの把握 【回答率】 • 調査Ⅰ(研究機関):回答数 1,050 組織(対象数 1,368 組織)回答率 76.8% • 調査Ⅱ(研究組織長):回答数 894 組織(対象数 1,461 機関)回答率 61.2% • 調査Ⅲ(研究者個人):回答数 9,369 名(対象数 15,250 名)回答率 61.4% 3. 調査結果 3.1. 研究人材の移動2状況 • 回答者全体では 1 度も移動したことがない研究者が約 40%を占めており、1 回以上移動経験がある 研究者が約 60%であった。現在の所属セクター別に見ると、独立行政法人・国立試験研究機関、公 設試験場、財団・社団法人の約半数は移動経験のない研究者であり、大学共同利用機関の研究者は 他のセクターよりも移動経験が多い研究者の割合が大きく、2 回以上の移動経験をもつ者が約 4 割 を占めている。(図 1 参照) • 長期的(10~20 年)にみると全体として移動度は高まっていることがわかる。年齢層別に見ると、特に若い 世代の転出率は1986~1990 年では約 0.035 であったが、2001~2006 年では約 0.065 にまで増加して 1 本調査は、①研究人材の流動性に関する調査、②研究組織における人材の多様性と人材確保に関する調査、③世界ク ラス人材の存在状況に関する調査、の3 調査にて構成されており、ここでは①および②の一部に関して報告する。当研究所成果報告のページ(http://www.nistep.go.jp/achiev/results01.html)NISTTEP Report No.123 を参照のこと。
2 本調査における移動とは、最終学位取得後本務として勤めた機関以降に、“研究者が研究本務者として機関を変えた”
いる。一方、45~54 歳の転出率は、1990 年から 1996 年にかけて減少傾向にあった。前述した若い年齢 層における転出率の増大と合わせて考えれば、転出のタイミングがより若い年齢にシフトしたことが推察さ れる。(図 2 参照) 39.4% 35.3% 33.9% 36.1% 25.3% 49.9% 56.7% 48.8% 35.0% 37.0% 36.7% 37.2% 34.3% 28.9% 26.2% 32.7% 14.9% 16.4% 16.9% 15.3% 25.3% 12.3% 9.4% 11.4% 6.4% 6.7% 6.8% 7.0% 7.1% 5.7% 4.5% 5.2% 3.3% 3.5% 4.2% 3.3% 7.1% 3.0% 2.3% 0.9% 1.0% 1.1% 1.5% 1.0% 1.0% 0.2% 0.9% 0.9% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 全体 ( N=9,010 ) 国立大学 ( N=3,452 ) 公立大学 ( N=472 ) 私立大学 ( N=2,872 ) 大学共同利用機関 ( N=99 ) 独法・国研 ( N=1,061 ) 公設試験場 ( N=843 ) 財団法人・社団法人 ( N=211 ) 現 所 属 機 関 0回 1回 2回 3回 4~5回 6回以上 図 1 回答者の移動経験数 在籍者延べ人数 4,867 在籍者延べ人数 8,104 在籍者延べ人数 10,870 在籍者延べ人数 14,276 在籍者延べ人数 202 在籍者延べ人数 1,383 在籍者延べ人数 4,966 在籍者延べ人数 8,406 在籍者延べ人数 20 在籍者延べ人数 25 在籍者延べ人数 207 在籍者延べ人数 1,383 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 1986年~1990年 1991年~1995年 1996年~2000年 2001年~2006年 転 出 率 ( 転 出 者 延 べ 人 数 / 在 籍 者 延 べ 人 数) 全体 年齢:35~44歳 年齢:45~54歳 年齢:55~64歳 図 2 年齢層別移動度(転出率)の推移 3.2. 移動の効果 ① 研究者の移動が研究組織に与えるメリット・デメリット • 研究組織長からみた研究者の移動に伴う研究組織にとってのメリットとしては、「新しい研究分野 を開拓できた」、「優れた人材を確保できた」が多い。特に国立大学(大規模)においてその割合が 高くなっている一方で、国立大学(大規模以外)は国立大学(大規模)と比較してその割合は低い。 なお、人材の獲得と同時に業績の振るわない人材の転出促進の効果については、本結果からはその 割合が人材や研究分野の獲得と比較して高くはない。(図 3 参照) • 一方、研究組織にとってのデメリットとしては、「優れた人材を失った」という回答が多く、国立 大学(大規模以外)で最も多い。いずれの機関でもこのデメリットの指摘は多いが、私立大学では やや低い。一方、「組織への帰属意識が希薄になった」点をデメリットとしてあげる割合は国立大 学(大規模、大規模以外)で高い。また、「教育の継続性が失われた」については公立大学がデメ リットとする割合が高く、「研究テーマの継続性が失われた」については独立行政法人・国立試験 研究機関の回答割合が高い。このように流動性のデメリットに関する回答は各組織のミッションの 違いを反映したものとなっている。(図 4 参照) 40.3% 52.4% 43.0% 40.5% 33.5% 35.6% 39.9% 51.5% 46.1% 28.6% 33.5% 30.3% 18.8% 15.5% 19.5% 14.3% 20.6% 19.7% 17.2% 24.3% 18.8% 7.1% 15.0% 22.7% 3.0% 4.9% 3.1% 4.8% 1.7% 6.8% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 大学 (N=506) 国立大学(大規 模) (N=103) 国立大学(大規 模以外) (N=128) 公立大学 (N=42) 私立大学 (N=233) 独法・国研 (N=132) 優れた人材を確保できた 新しい研究分野を開拓でき た 現在所属する研究人材のや る気を引き出せた 新しい文化を取り入れること ができた 業績が振るわない研究者の 転出が促進された(周囲に流 動化するポストができた 図 3 研究組織にとっての研究者移動に伴うメリット 28.1% 32.0% 35.9% 31.0% 21.5% 31.1% 19.2% 16.5% 18.0% 26.2% 19.7% 3.0% 18.6% 24.3% 21.9% 11.9% 15.5% 19.7% 12.5% 17.5% 15.6% 14.3% 8.2% 22.7% 11.1% 11.7% 7.8% 19.0% 11.2% 16.7% 2.8% 1.0% 3.1% 4.8% 3.0% 4.5% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 大学 (N=506) 国立大学(大規 模) (N=9) 国立大学(大規 模以外) (N=128) 公立大学 (N=42) 私立大学 (N=233) 独法・国研 (N=132) 優れた人材を失った 教育の継続性が失われた 研究人材の組織への帰属 意識が希薄になった 研究テーマの継続性が失 われた 長期の研究計画が設定し にくくなった 機関のノウハウが流出した 図 4 研究組織にとっての研究者移動に伴うデメリット
② 移動経験と論文生産性の関係 • 回答者の最近 3 年間の発表論文数を移動経験の 有無別に集計した結果からは、全体の傾向とし て日本語論文よりも英語論文が多く、すでに研 究者(自然科学系)の発表言語は英語が主流に なっていることが推察される。また、日本語論 文、英語論文ともに年齢層が上がるにつれて論 文数が多くなっている。(図 5 参照) • 移動経験の有無と論文生産の関連については、 日本語に関しては移動経験の有無でほとんど差 がなく、強い関連性は見られない。一方英語論 文に関しては、35~44 歳においてはほとんど差 がないといえるが、それ以外の 25~34 歳、45 ~54 歳、55~64 歳においては移動経験のある者 のほうが移動経験のない者より論文数が多くな っている。移動と論文生産の間の因果関係はこ の結果からは言えないが、全体としてみた際に、 移動した者の方が論文を多く発表する傾向にあるということは言える。(図 5 参照) 3.3. 海外本務経験の状況とその効果 • 回答者全体の 8.9%が海外で研究者としての本務 経験を有している。分野によって経験率は大き く異なり、医学分野が最も大きく 13.2%、次いで 理学分野が 12.1%である。工学分野(4.0%)、農学 分野(4.1%)は小さい。年齢層別には、34 歳以下 の海外本務経験率は 3~8%程度と他の年齢層と 比べて小さいが、35~44 歳ではその割合は倍程 度に増大している。理学分野では、35~44 歳の 海外経験割合が最も大きくなっている。これは 当該分野において若手の海外経験が増大してい ることを示唆するものである。(図 6 参照) • 過去 3 年間における研究上での海外との交流状 況を、海外本務経験の有無別に集計した結果か らは、明らかに全項目とも海外本務経験のある 研究者の方が海外との交流実施の割合が高いこ とがわかる。交流の内容を見ると、連絡・訪問 等が最も多く、海外本務経験のある研究者の約 7 割がこのような交流を行っている。特に海外本 務経験の有無で差が大きいのは「国際的な共同 研究」や「論文の共同執筆」であり、割合で 2 倍以上の差が生じている。(図 7 参照) • 最近 3 年間の発表論文数を海外での本務経験の 有無別に集計した結果からは、英語論文につい ては海外本務経験を有する研究者のほうが論文 数が多いことがわかる。特に国際共著(英語) については、本数は全体としてそれほど多くは ないものの、海外本務経験を有する研究者は経 験のない研究者の約 2 倍となっている。海外本 務経験は、上記の海外との交流においても経験 2.0 3.5 4.0 6.3 7.6 8.7 2.0 3.6 4.0 6.6 9.7 9.9 0 2 4 6 8 10 12 35‐44歳 ( N0=1,158, N1=1,903 ) 45‐54歳 ( N0=839, N1=1,666 ) 55‐64歳 ( N0=374, N1=835 ) 35‐44歳 ( N0=1,173, N1=1,920 ) 45‐54歳 ( N0=841, N1=1,681 ) 55‐64歳 ( N0=379, N1=832 ) 最 近 3 年 間 の 査 読 付 論 文 数 回答者の現在年齢 全分野 (移動経験なし) 全分野 (移動経験あり) 日本語論文 英語論文 図 5 移動の有無と最近 3 年間の論文発表数 4.9% 8.4% 2.6% 4.7% 4.7% 5.4% 10.6% 16.1% 4.6% 14.7% 3.5% 11.7% 10.1% 11.2% 3.6% 15.8% 3.6% 10.0% 8.5% 9.8% 5.4% 12.1% 6.8% 7.0% 5.9% 6.7% 2.3% 13.6% 0.0% 8.3% 8.9% 12.1% 4.0% 13.2% 4.1% 9.1% 0% 5% 10% 15% 20% 全体 ( N=9,369 ) 理学 ( N=1,740 ) 工学 ( N=2,268 ) 医学 ( N=3,016 ) 農学 ( N=1,053 ) 複合領域 ( N=845 ) ~34歳 35~44歳 45~54歳 55~64歳 65歳~ 全体 図 6 海外機関での本務経験の状況 50.5% 22.2% 23.2% 7.1% 6.2% 14.8% 70.8% 43.5% 50.2% 12.8% 14.7% 21.7% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 連絡、訪問(意見交換)等 の交流をした 国際的な 共同研究を行った 論文の共同執筆を 行った 客員として訪問し、 指導・助言を行った 部下の研究者を 派遣した 海外から研究者の 派遣を受け入れた 海外経験なし ( N=8,539) 海外経験あり ( N=830)
のない研究者と明らかに差が見られるなど、そ の後の研究活動に与える影響は大きいといえ る。(図 8 参照) 4. 結論 本調査の結果からは、①我が国の大学・公的機関 (民間企業以外)に所属する研究者の流動性は長期 的に見ると向上しており、特に若年層の流動性が増 加していること、②移動経験を有する研究者の論文 生産性が高いこと、③特に海外で本務経験を有する ことの効果は大きいこと、が明らかとなった。 流動性の向上に関しては、好ましい流動状況はど の程度か、どこまで流動性を向上させるべきかなど 様々な議論は今後も必要ではあるものの、流動と研 究組織の生産性の関係など議論に足りうる十分な 情報があるとは言えないのが現状である。今後この ような調査研究が進められることを祈る。 本調査は科学技術政策研究所で計画・設計・分析方針決定等を行い、実際の調査の発送やデータ収集・分析については (株)三菱総合研究所に業務委託した。本調査を遂行するにあたり、(株)三菱総合研究所 近藤隆主任研究員には多大な 尽力を頂いたことを申し添える。 ※補足:フォローアップ調査「科学技術人材に関する調査」における“①研究人材の流動性に関する調 査、②研究組織における人材の多様性と人材確保に関する調査”の概要を下図に示す。 研究組織に在籍者数等を尋ねるとともに研究組織長、研究者への調査を依頼し、計3種類の調査を実施 ◆研究者への調査 (ウェブ形式) 研究人材のキャリアパス、流動性、各キャリアにおける論文数の把握 • 博士課程を有する国公私立大学(248大学、674組織) • 独立行政法人(28機関) • 公設試験場(355機関) • 回答数7組織(対象数18組織) 自然科学系の研究組織 • 大学共同利用機関(11機関) • 国立試験研究機関(22機関) • 財団法人・社団法人(169機関) 日本国内の研究機関・研究組織に対する調査 ◆研究組織への調査 (エクセル形式) 人材の現状および移動の状況の定量的な把握 ◆研究組織長への調査 (ウェブ形式) 優秀な人材の獲得への取組、優れた研究者の判断基準などの把握 調査対象組織 回答数・回収率 • 研究組織への調査:回答数 1,050組織(対象数 1,368組織) • 研究組織長への調査:回答数 894組織(対象数 1,384組織) • 研究者への調査:回答数 9,369名(対象数 15,250名) 海外の有力研究組織に対する調査 ライフサイエンス、環境エネルギー、情報通信、ナノテク・材料、基礎融合分野の各分野から 機関形態(大学、公的機関)ごとにアメリカおよびヨーロッパから1つずつ18組織を抽出 回答数・回収率 回答率76.8% 回答率64.6% 回答率61.4% 回答率38.9% 調査対象組織 海外組織への調査(エクセル形式の調査票)人材の現状および組織長の意識の把握 研究人材の 流動性に関する調査 人材の多様性と 人材確保に関する調査 本報告 2.7 7.0 0.15 1.6 2.3 10.4 0.09 3.3 0 2 4 6 8 10 12 日本語 英語 国際共著(日本語) 国際共著(英語) 最 近 3 年 間 の 査 読 付 論 文 数 海外経験なし ( N=8,539 ) 海外経験あり ( N=830 ) (海外本務初年齢の平均31.7歳) 図 8 海外本務経験の有無と最近 3 年間の論文発表数数