May 2003,pp.155-159
内 科 シ リ ー ズ:
気 管 支 喘 息
金
廣
有
彦
は じ め に 近 年,欧 米,ア ジ ア の 各 国 に お い て 喘 息 の ガ イ ドラ イ ンが作 成 され,1995年 に は 「GINA(Global Initiative for Asthma):喘 息 管 理 国際 指 針 」1)が 発 表 され た.日 本 で は1993年 に 日本 ア レル ギ ー 学会 にお い て 「ア レル ギ ー疾 患 治 療 ガ イ ドラ イ ン」2)が 提 唱 され,2000年 に は 成 人 喘 息 に 関 す る 「喘 息 予 防 ・管 理 ガ イ ドラ イ ン 1998改 訂 版 」3)が,2002年 には 日本 小 児 ア レル ギ ー 学 会 か ら 「小 児 気 管 支 喘 息 治 療 ・管 理 ガ イ ドラ イ ン」4) が 発 行 さ れ,さ ら に 同 年,GINAの 改 訂 版 「GINA 2002:喘 息 管 理 国際 指 針2002」5)が 作 成 され た.本 稿 で は成 人 お よび 小 児 の 喘 息 ガ イ ドラ イ ン につ い て の 最 新 の 内 容 と留 意 す べ き事 項 を概 説 す る. 気 管 支 喘 息 の 定 義 喘 息 は気 道 の 炎 症 と種 々 の 程 度 の気 流 制 限 に よ り特 徴 づ け られ,発 作 性 の 呼 吸 困難,喘 鳴 お よび 咳嗽 を示 す. 気 流 制 限 は軽 度 の もの か ら致 死 的 な 高 度 の もの ま で存 在 し,自 然 に,ま た 治 療 に よ り少 な く と も部 分 的 には 可 逆 的 で あ る.気 道 炎 症 に は好 酸 球,T細 胞,肥 満 細 胞 な ど多 くの 炎 症 細 胞 が 関 与 し,気 道 粘 膜 上 皮 の剥 離 ・損 傷 が み られ る.長 期 罹 患 成 人 患 者 で は気 流 制 限 の 可 逆 性 の低 下 が み られ る傾 向 が あ り,し ば しば気 道 上 皮 基 底 膜 下 の 肥 厚 や 線 維 化 な どの 気 道 壁 の リモ デ リ ン グ を呈 す る.気 道 の炎 症,リ モ デ リ ング は気 道 過 敏 性 亢 進 の 原 因 と考 え られ てい る. 喘 息 の管 理 ・治療 の 目標 気 道 炎 症 の 原 因 お よ び 気 流 制 限 を惹 起 す る 因 子 の 回 避 ・除去,そ して薬 物 療 法 に よ る炎 症 の抑 制 と気 道 拡 張 に よ り,気 道 過 敏 性 と気 流 制 限 を軽 減 な い し寛 解 す る こ とが 目標 で あ る.す な わ ち 臨 床 的 に は発 作 の ない 状 態 を維 持 す る こ と(喘 息 の 長期 管 理)で あ るが,や む な く発 作 が 起 きれ ば可 及 的 速 や か に これ を寛 解 させ る こ と(急 性 増 悪 の管 理)が 当 面 の 治 療 目標 で あ り, そ の結 果 と して 喘 息 のQOLお よび予 後 を改 善 し,喘 息 死 を回 避 す る こ とが可 能 と な る.と くに小 児 気 管 支 喘 息 で は,学 校 を欠 席 し な い,(軽 い)ス ポ ー ツ を含 め 日常 生 活 を普 通 に行 え る な ど,喘 息 児 の 身 体 的,精 神 的,社 会 的成 長 を含 め た 健 や か な全 人 的 成 長 を可 能 と す る基 礎 を 医療 面 か ら提 供 す る こ とが 長 期 治 療 の 目標 と して 重 要 で あ る. 喘 息 の 長 期 管 理 慢性 の ア レル ギ ー性 気 道 炎症 の制御 を主 な 目的 として長 期 に わた り継 続 す る治 療 で あ る.最 近 で は治 療 内容 を, 該 当 す るス テ ップ よ り高 い と ころ に設 定 して治 療 を開始 し,治 療 の 目標 が 達成 され た ら,少 な くと も3ヵ 月 以上 の安 定 を確 認 した後 治療 内容 を減 ら してい く,い わゆ る ス テ ップダ ウ ン方 式 の治 療 計画 の有用 性 が提 唱 され て い る.表1に 成 人喘 息 長期 管 理 にお け る 日本 の段 階的 治療 ガ イ ドライ ン を示 す が,現 在 の とこ ろ吸 入 ス テ ロ イ ド薬 が最 も効 果 の高 い長期 管 理 薬 と考 え られ てお り,ス テ ッ プ1か らス テ ップ4に 至 る各 ステ ップで推奨 され てい る. また抗 ロイ コ トリエ ン薬 を 中心 と した種 々の抗 ア レル ギ ー 薬 が 選 択 肢 に あ げ られ てい る の が特 徴 で あ る .一 方 GINA 2002で は,ス テ ップ2以 上 で 吸入 ス テ ロイ ド薬 を 基本 と し,さ らにス テ ップ3以 上 で は これ に加 え て長 時 間作 用性 吸入 β2刺激 薬,抗 ロイ コ トリエ ン薬,徐 放 性テ オ フイ リン薬 の併 用が 推奨 されて い る(表2).ま た,昨 年小 児 喘 息 の治 療 ・管 理 ガ イ ドライ ンが,乳 児,幼 児, 年 長児 の3型 に分 け て発表 され たが,成 人喘 息 と同様 吸 入 ス テ ロ イ ド薬 の位 置付 けが 重視 され,早 期 導入 の指針 岡 山 大 学 医 学 部 附 属 病 院 第 二 内 科 論 文 請 求 先:岡 山 大 学 医 学 部 第 二 内 科 電 話:086-235-7227 FAX:086-232-8266 E-mail:[email protected]が示 され た(表3に 年 長児 の薬 物療 法 プ ラ ンを示 す).さ らに,近 年,喘 息児 にお け る心 身症 が 問題 に なって お り, これ に対 す る診 断 基準,心 理療 法 につ い て も記 載 され て い る. 急 性 増 悪(発 作)に 対 す る管理 喘 息 発 作 の重 症 度 は軽 症 な もの か ら致 死 的 な もの まで 様 々 で あ る.で き る だ け早 急 に喘 息 増 悪 の重 症 度 の 評 価 を行 い,段 階 的 治 療 を 開 始 す る必 要 が あ る が,初 期 治 療 で 効 果 の 認 め られ な い患 者,増 悪 が 急 速 に進行 す る患 者,喘 息 死 の リス ク が 高 い 患 者 につ い て は,さ ら に上 の ラ ン ク の重 症 度 と判 定 し,よ り慎 重 に対 応 す る こ とが重 要 で あ る. ガ イ ドラ イ ンの 留 意 点 1)喘 息 は慢 性 疾 患 で あ り,急 性 発 作 の み で は な い こ と を患 者 に十 分 理 解 させ る.そ の た め に は,ま ず 喘 息 の メ カ ニ ズ ム を説 明 し,そ れ に基 づ い た 治 療 の継 続 の 重 要 性 につ い て繰 り返 しイ ン フ ォー ム ド ・コ ン セ ン ト を行 う こ と に よ り,喘 息 管 理 に お け る 医 師 と患 者 間 の パ ー トナ ー シ ップ の確 立 に努 め る. 2)喘 息 の 危 険 因 子(個 体 因 子,環 境 因 子,発 作 増 悪 ・誘 発 因 子)と そ れ ら に対 す る対 応 を患 者 に説 明 す る.と く にハ ウス ダ ス ト ・ダニ や ペ ッ トな どの 抗 原 回 避 と感 染 予 防 の 重 要 性,運 動 や 薬 剤 に つ い て の 知 識 を 深 め る.ま た 医 師 も成 人 喘 息 の 約10%に 存 在 す る と考 え られ て い る アス ピ リ ン喘 息 の 有 無 を必 ず 確 認 し,非 ス テ ロ イ ド性 抗 炎 症 薬,コ ハ ク酸 エ ス テ ル型 ス テ ロ イ ド薬(ソ ル コー テ フ,サ ク シゾ ン,ソ ル ・メ ドロー ル な ど)等 に よ り誘 発 さ れ る重 篤 発 作 の 発 生 に は細 心 の 注 意 を払 う必 要 が あ る. 3)慢 性 喘 息 で は 自覚 症 状 と気 道 閉 塞 の 重 症 度 に ギ ャ ップ が あ る こ と を,ピ ー ク フロ ー モ ニ タ リ ング と喘 息 日誌 の 記 載 に よ り自覚 させ る.こ れ ら に よ り 自己管 理 の重 要 性 を十 分 認識 させ る と と も に,喘 息 増悪(発 作) に対 す る管 理 計 画 を作 成 し,発 作 時 の 家 庭 で の対 応 を ピー ク フ ロ ー値 と症状 に よ り患 者 ひ と りひ と りに具 体 的 に 指示 し,で きれ ば カ ー ドに記 載 し携 帯 させ る.喘 息 悪 化 の 過 小 評 価 は 喘 息 死 に つ な が る可 能 性 が あ る こ とを周 知 させ る. 4)長 期 罹 患 患 者 で は気 道 閉塞 の不 可 逆 性 変 化,す な わ ち気 道 の リモ デ リ ン グが お きる が,こ の予 防 に は発 症 早 期 よ り気 道 炎 症 を制 御 す る こ とが 非 常 に重 要 で あ る こ と を説 明 す る.現 在 の と ころ 吸 入 ス テ ロ イ ド薬 に よるearly intervention(早 期 治療 介 入)が リモ デ リ ン グ の予 防 に最 も多 くの エ ビ デ ンス が得 られ て い る.ま た 長 期 の 薬 物 療 法 で は 吸 入 ス テ ロ イ ド薬 を基 準 薬 と し,長 時 間作 用 性 β2刺激 薬(吸 入,貼 付),抗 ロ イ コ トリエ ン薬,徐 放 性 テ オ フ ィ リ ン薬 な ど吸 入 ス テ ロ イ ド薬 の減 量 効 果 が 認 め られ て い る薬 剤 を併 用 薬 と して 考 慮 し長 期 喘 息 管 理 計 画 を作 成 す る が,そ の 際 に画 一 的 な治 療 で は な く患 者 ひ と りひ と りの状 態 に合 わせ た テ イ ラー メ イ ド治 療 を実 施 す る必 要 が あ る. 5)短 時 間作 用 性 で も長 時 間作 用 性 で も β2刺激 薬 吸 入 の み に よ る治 療 は,一 時 的 な気 管 支 拡 張 効 果 の み で 抗 炎 症 効 果 が 欠 如 して い る た め,そ の頻 用 に よ り喘 息 死 につ なが る な ど喘 息 治 療 と して は適 切 で は な い こ と を患 者 に十 分 理 解 させ る. お わ り に ガ イ ドラ イ ンの 適 切 な使 用 は 喘 息 の 治 療 に有 用 で あ る が,そ れ を どの よ う に利 用 す る か は ま さ に医 師 の責 任 で あ る.す な わ ち ガ イ ドラ イ ンは一 定 の 治 療 を押 し付 け る もの で は な く,治 療 の選 択 を提 供 す る資 料 で あ る との認 識 が 重 要 で あ り,と くに抗 原,環 境,遺 伝 な ど 多 因 子 が 複 雑 に 関与 して い る喘 息 の 治 療 にお い て は, ガ イ ドラ イ ン を基 盤 に し,個 々 の患 者 の状 態 に合 わせ た きめ細 か い かつ 柔軟 な治療 を行 う こ とが 求 め られ る. 文 献
1) 牧 野 荘 平 監 修: Global Initiative for Asthma.Global
Strategy for Asthma Management and Prevention. NHLBI/WHO Workshop Report日 本 語 版. 「喘 息 管 理 の 国
際 指 針. 喘 息 管 理 ・ 予 防 の グ ロ ー バ ル ス ト ラ テ ジ ー. NHLBI/WHOワ ー ク シ ョ ッ プ レ ポ ー ト」. 国 際 医 学 出 版, 東 京 (1995) 2) 牧 野 荘 平 監 修: ア レ ル ギ ー 疾 患 治 療 ガ イ ド ラ イ ン. ラ イ フ サ イ エ ン ス, 東 京 (1993) 3) 牧 野 荘 平, 古 庄 巻 史, 宮 本 昭 正 監 修: 厚 生 省 免 疫 ・ ア レ ル ギ ー 研 究 班; 喘 息 予 防 ・管 理 ガ イ ド ラ イ ン1998改 訂 版. 協 和 企 画, 東 京 (2000) 4) 古 庄 巻 史, 西 間 三 馨 監 修: 日 本 小 児 ア レ ル ギ ー 学 会; 小 児 気 管 支 喘 息 治 療 ・管 理 ガ イ ド ラ イ ン2002. 協 和 企 画, 東 京 (2002)
5) 牧 野 荘 平, 大 田 健 監 修: Global Initiative for Asthma
Prevention. NHLBI/WHO Workshop Report日 本 語 版. 「喘
息 管 理 の 国 際 指 針2002. 喘 息 管 理 ・予 防 の グ ロ ー バ ル ス ト
ラ テ ジ ー. NHLBI/WHOワ ー ク シ ョ ッ プ レ ポ ー ト」. 協 和
一 懸
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即
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略
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曲
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表2 表3 小児気管支喘息の長期管理 に関する薬物療法 プラン(年 長児6歳 ∼15歳) *1 経 口 抗 ア レル ギ ー 薬:化 学 伝 達 物 質 遊 離 抑 制 薬,ヒ ス タ ミ ンH1拮 抗 薬,ロ イ コ トリ エ ン受 容 体 拮 抗 薬,Th2サ イ トカ イ ン 阻 害 薬 を含 む *2 DSCG吸 入 液 と 少 量 の β2刺 激 薬 吸 入 液 の 混 合 療 法 を行 う場 合 に は,β2刺 激 薬 吸 入 薬 は 咳 嗽,喘 鳴 な どの 症 状 が 改 善 した ら 中 止 す る * 3吸 入 ス テ ロ イ ド薬 の 力 価 はCFC-BDP換 算 と す る (文献4よ り)