基調講演 東アジア経済統合の深化に向けて (特集
国際シンポジウム 東アジア地域統合と日本 -- 国
家・市場・人の移動)
著者
Vikram Nehru
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
164
ページ
8-9
発行年
2009-05
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004753
アジ研ワールド・トレンド No.64(2009. 5)―
●
金
融
危
機
下
に
お
け
る「
統
合
」の
意
味
大 恐 慌 以 来 と な る 今 回 の 金 融 危 機 は 、 世 界 各 地 の 隅 々 ま で 広 が っ て い る 。 東 ア ジ ア で は 発 展 途 上 国 、 先 進 国 を 問 わ ず 、 全 て の 国 が 影 響 を 受 け て い る 。 我 々 は 、 こ の 金 融 危 機 下 に お い て 、 グ ロ ー バ ル 化 と い う 問 題 に 今 一 度 立 ち 返 る こ と が 重 要 で あ ろ う 。 今 回 の 金 融 危 機 で 明 ら か な よ う に 、 リ ス ク は ア メ リ カ と い う 震 源 地 か ら モ ン ゴ ル ま で 広 が っ て い く 。 特 に 東 ア ジ ア で 地 域 統 合 を 行 う こ と 、 つ ま り 経 済 的 に も 政 治 的 に も 、 社 会 的 に も 密 接 に つ な が る こ と が 、 グ ロ ー バ ル 化 の 中 で ど の よ う な 意 味 を 持 つ の か を 具 体 的 に 述 べ た い 。●「
経
済
統
合
」の
経
緯
ま ず 、 こ れ ま で ど う や っ て 実 質 的 な 統 合 が 進 ん で き た の か を 考 え て み よ う 。 東 ア ジ ア は 経 済 統 合 を 通 じ て 経 済 発 展 に 成 功 し 、 ラ テ ン ア メ リ カ や サ ブ サ ハ ラ よ り も 高 い 成 長 を 実 現 し て き た 。 私 は ミ ャ ン マ ー か ら 東 の 地 域 を 東 ア ジ ア と 呼 ん で い る が 、 こ の 二 〇 年 、 東 ア ジ ア の G D P 成 長 率 は 年 率 八 % だ っ た 。 域 内 貿 易 の 成 長 率 は 一 二 % で あ り 、 こ の 数 字 は 世 界 市 場 と の 貿 易 成 長 率 九 % を 上 回 る 。 域 内 貿 易 成 長 率 は 他 の 開 発 途 上 地 域 と 比 べ て も 大 き い 。 域 内 貿 易 比 率 は E U に 次 ぎ 、 N A F T A を 凌 ぐ も の で あ る 。 東 ア ジ ア の 全 て の 国 が 域 内 か ら の 輸 入 を 増 や し て い る 。 だ が 輸 出 は 別 で 、 グ ロ ー バ ル な 市 場 へ 輸 出 し て き た 。 域 内 貿 易 の 進 展 は 、 地 域 の 生 産 ネ ッ ト ワ ー ク 化 が 背 景 に あ る 。 生 産 ネ ッ ト ワ ー ク の 進 展 と い う 意 味 で 経 済 統 合 が 進 ん で き た 。 東 ア ジ ア 内 で 分 業 し 、 生 産 し て 、 ア メ リ カ 、 ヨ ー ロ ッ パ に 売 る 、 と い う 構 図 で あ る 。 こ れ ま で 日 本 が 先 行 し て 生 産 ネ ッ ト ワ ー ク を 構 築 し 、 東 ア ジ ア で の 貿 易 と 生 産 ネ ッ ト ワ ー ク を 牽 引 し て き た 。 今 で は 、 生 産 ネ ッ ト ワ ー ク の リ ー ダ ー の 役 割 は 中 国 が 受 け 継 い で い る 。 域 内 の 比 較 的 高 所 得 国 ( 中 国 、 香 港 、 フ ィ リ ピ ン 、 シ ン ガ ポ ー ル 、 イ ン ド ネ シ ア 、 タ イ 、 マ レ ー シ ア ) が 持 つ 全 輸 出 の 三 分 の 一 近 く が 中 国 向 け に な っ て い る 。 た だ し 、 低 所 得 国 ( ベ ト ナ ム 、 カ ン ボ ジ ア 、 ミ ャ ン マ ー 、 ラ オ ス ) で は そ う は 言 え ず 、 輸 出 先 の 多 く は ア メ リ カ 向 け 、 E U 向 け で あ る 。 域 内 貿 易 の 進 行 と と も に 、 産 業 内 貿 易 の 重 要 性 が 高 ま っ た 。 東 ア ジ ア 内 で は 、 産 業 内 貿 易 は 五 五 % か ら 七 八 % に 増 え て お り 、 東 ア ジ ア で の 産 業 内 貿 易 は 域 外 と 比 べ る と 非 常 に 重 要 で あ る こ と が 分 か る 。 な ぜ 産 業 内 貿 易 が 増 え て い る の だ ろ う か 。 そ れ は 、 地 域 の サ プ ラ イ チ ェ ー ン 、 つ ま り 密 な 生 産 ネ ッ ト ワ ー ク が 形 成 さ れ た か ら で あ る 。 低 賃 金 労 働 な ど 、 比 較 優 位 の あ る 地 域 に 投 資 が 行 わ れ 、 域 外 の 市 場 に 輸 出 が 行 わ れ て い る 。 世 界 銀 行 が 最 近 出 版 し た 世 界 開 発 報 告 で は 、 地 域 の 貿 易 協 定 に よ っ て 、 産 業 内 貿 易 が 進 み 、 こ れ が 原 動 力 と な っ て 、 生 産 ネ ッ ト ワ ー ク が 形 成 さ れ 、 規 模 の 経 済 が 発 生 す る 次 の 三 つ の メ カ ニ ズ ム に 注 目 し た 。 第 一 は 、 個 別 企 業 内 で 働 く 規 模 の 経 済 で あ る 。 第 二 は 、 ロ ー カ ル 化 、 つ ま り 隣 接 し て 立 地 す る 同 一 産 業 内 の 企 業 同 士 の 間 に 働 く 規 模 の 経 済 で あ る 。 最 後 に 、 都 市 化 の 経 済 が も た ら す 規 模 の 経 済 で あ る 。 異 な る 産 業 が 集 積 を 形 成 す る こ と で 、 都 市 化 の 経 済 が お こ る 。 東 ア ジ ア で は 、 こ の 都 市 化 の 経 済 が 地 域 の 比 較 優 位 を 強 め た 。 こ う し た 動 き を 主 導 し て き た 国 が 、 韓 国 、 中 国 、 そ し て 日 本基
調
講
演
東
ア
ジ
ア
経
済
統
合
の
深
化
に
向
け
て
ヴィクラム・ネルー
特
集
特
集
国際シンポジウム
東アジア地域統合と日本
―国家・市場・人の移動
9 ―アジ研ワールド・トレンド No.64(2009. 5) で あ る 。 日 本 は 数 十 年 前 か ら 外 国 直 接 投 資 ( 以 下 、 F D I ) を 通 じ て こ の 動 き を 先 導 し て き た 。 最 近 で は 中 国 か ら の F D I が 増 え て き て い る こ と が 目 立 つ 。 こ の 傾 向 は 東 ア ジ ア 域 内 の 統 合 の 流 れ を 更 に 強 化 す る も の で あ る 。 A S E A N 内 の F D I は 東 ア ジ ア か ら も た ら さ れ て お り 、 主 に 日 本 、 中 国 、 台 湾 、 韓 国 、 香 港 か ら 投 資 が な さ れ て い る 。 東 ア ジ ア 域 内 で こ う し た 生 産 面 の 統 合 が 進 ん で き た 、 と い っ て も 、 生 活 水 準 が 域 内 で 収 束 し て い る と い う こ と は な い 。 仮 に 統 合 が 進 ん で い る の で あ れ ば 、 結 果 と し て 一 人 あ た り G D P は 収 束 に 向 か う は ず で あ る が 、 E U と 異 な り 東 ア ジ ア で は そ う な っ て い な い 。