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どうすれば民主主義は安定するのか? (特集 途上国政治研究の地平)

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どうすれば民主主義は安定するのか? (特集 途上

国政治研究の地平)

著者

川中 豪

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

190

ページ

4-7

発行年

2011-07

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004197

(2)

デ ー タ セ ッ ト が あ る。 制 体 制 の 三 つ に 分 け、 が 増 え た が、 そ の 後、 し て 減 少 傾 向 を 見 せ、 結果をめぐって暴力的な抗争が発 生する事例は数え切れない。民主 主義的手続で選出された政権を転 覆するクーデタも消滅したわけで はない。民主主義制度自体が、不 正によって機能しなかったり、操 作されたり、ということも珍しい 話ではない。西欧、北米の古い民 主主義に比べて、途上国の新しい 民主主義が不安定なのはなぜであ ろうか。そうした新しい民主主義 が安定化するにはどのような条件 が必要だろうか。

分裂

  民主化した国々の政治的安定の 議論は、それまで途上国政治研究 の中心的な関心だった民主化の議 論の延長に置かれている。民主化 の理論では、これまで二つの大き な流れがあった。ひとつは社会経 済的な構造の変化が重要だと考え るもの、もうひとつは権力エリー トの分裂に注目するものである。   社会経済的な構造の 変化が民主化を引き起 こすというのは、広く 一般に受け入れられて いる議論だろう。なか で 最 も 一 般 的 な の が、 経済発展するにつれて 増大した中間層が民主 化を進める、という説 明である。これは「近 代化論」 とも呼ばれる。 もっとも、中間層がな ぜ民主化を進めるのか については、価値観や 利益重視などいくつか の異なる説明の仕方が ある。ただ、いずれに しても、社会経済的な 構造の変化が民主化を もたらすという議論を前提とする と、民主主義の安定もその延長で 説 明 さ れ る こ と に な る。 つ ま り、 民主化を実現した社会経済的構造 の継続、すなわち、民主化を支え た中間層が民主化後も大きな政治 的影響力を持ち続けていれば、民 主主義が安定するという説明の仕 方である。中間層を中心とした市 民社会の存在と民主主義の安定を 結びつける議論もこうした了解か ら派生したと考えられる。中間層 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 ■民主主義 ■中間タイプ ■専制体制 2008 2006 2004 2002 2000 1998 1996 1994 1992 1990 1988 1986 1984 1982 1980 1978 1976 1974 1972 1970 1968 1966 1964 1962 1960 1958 1956 1954 1952 1950 1948 1946 図 政治体制別に見た国の数の推移(1946-2009) (注)専制体制(Polityスコア:−10∼−4)、中間タイプ(Polityスコア:−3∼3)、 民主主義(Polityスコア:4∼10)。 (出所)Polity IVをもとに筆者作成。

民主主義

安定

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の成長と経済発展には相関関係が あるので、経済発展と民主化の間 に相関関係が確認されれば近代化 論を証明できたことになると考え て、統計的な手法で検証を試みる 研究も少なくない。ただし、こう した検証では、経済的に発展した 国の民主主義が安定的だという理 解 は ほ ぼ 共 通 し て 見 ら れ る も の の、経済発展に従って民主化する かどうかについては議論が分かれ ている。   一方、エリート内の対立が民主 化 の 契 機 だ と 考 え る 流 れ も あ る。 専制的な政治体制を維持すべきと 考える強硬派と、野党と妥協して ある程度の政治的自由化はやむを 得ないと考える穏健派の対立が起 こると、結局、それが政治的自由 化を進め、さらには民主化につな が っ て い く と 考 え る 立 場 で あ る。 エリート中心の民主化の説明に基 づけば、民主主義の安定もエリー ト内の諸グループの行動によって 影 響 を 受 け る と い う こ と に な る。 そして、さらに、民主主義体制の もと、そうしたエリートの行動を 規定するものを探したとき、政治 制 度 に 関 心 が 向 け ら れ る こ と に なった。特に取り上げられたのが 政府の形態である。民主主義体制 が崩壊する事例のなかで、大統領 制が比較的多かったことから、民 主主義の安定には議院内閣制が望 ましいとする議論が生まれた。ま た、選挙制度を含めて、多数派と 小数派が固定され権力から常に除 外される政治制度(大統領制と小 選挙区制)より、小数派の影響力 を残す合意型の政治制度(議院内 閣制と比例代表制)のほうが政治 の安定に寄与するという議論も出 された。 多数派重視の政治制度は、 選挙の勝者が権力を独占する「勝 者総取り」の制度であり、それが 権力者と野党の対立を先鋭化させ て政治を不安定化させるというの である。

●均衡としての民主主義

  社会構造的な要因や、エリート の行動とそれを規定する政治制度 による議論は、説明のレベルとし てはマクロとミクロという違いが あるものの、民主化後に安定化し た国とそうならなかった国の事例 を観察し、そこで得た事実から抽 象化を行い理論を導き出したもの である。こうした経験的な事実か ら理論を編み出していく手法を 帰 き 納 のう 法 ほう と呼ぶ。帰納法で出された説 明は直感的な理解に馴染むし、実 際、社会構造的な説明、エリート の相互作用による説明はいずれも 妥当性の高いものだと思われる。   一方で、帰納的な方法は理論の 立て方が現実の後追いとなり、ロ ジックの切れという点ではやや甘 くなる傾向もある。社会構造やエ リート中心の説明に対して、より ロジックの一貫性を重視し、理論 を精緻化させる議論が近年出され るようになっている。それは、民 主 主 義 が 安 定 す る 状 態 を 均 衡 ( ゲ ー ム 理 論 で 言 う と こ ろ の ナ ッ シュ均衡) ととらえる理論である。 この理論は、誰もが当たり前と考 える前提から論理をつめていき理 論 を 作 り 挙 げ る 演 繹 的 な 方 法 に 従って作られている。   均衡とは、そもそも、その状況 から誰も離脱したいと思わない状 態を指す。誰も離脱したくないと 考えるのは、その状況から離れる とそこで得ている利得(利益)が 少 な く な る か ら で あ る。 「 民 主 主 義が均衡となっている」というこ とは、民主主義の手続、制度から 離脱してしまうと、そうした行為 を行った者が現状より低い利得し か得られなくなる、ということを 意味する。   有力な政治勢力が民主主義から 離 脱 し た い と 考 え る か ど う か は、 ゲーム理論に基づいて考えること ができる。ゲーム理論とは、そこ で行動する人や集団(これを一般 にプレーヤーと呼ぶ)が、相互の 関係のなかでどういった行動を取 るかを考える道具である。ゲーム の 基 礎 と な る の は、 プ レ ー ヤ ー、 戦略の選択肢、利得の構造の三つ である。実は、先に紹介した社会 経済構造やエリート主体の民主主 義の安定の理論は、このゲームの 三つの構成要素を明らかにする議 論 だ っ た と 考 え る こ と が で き る。 社会経済構造は、そもそも誰がプ レーヤーとなるかという問題に関 わり、さらには、それがどのよう な利得構造をプレーヤーたちに与 えるのか、ということを決めてい る。また、エリート主体の政治制 度に注目した議論は、プレーヤー を特定するとともに、そのプレー ヤーたちがどのような行動の選択 肢を持っているのかを明らかにす る。その意味で、均衡としての民 主主義というゲーム理論を援用し た理論化の試みは、これまでの議 論を統合し、より整理した形で理 論を提起しようとするものと見る こともできる。   均衡によって説明しようとする

どうすれば民主主義は安定するのか?

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ろ う と す る も の で あ 無 視 す る こ と が で き こ の と き 重 要 な の は、 維 持 が 難 し い、 と か、 来的には勝利する見込みが高いな ど、将来的に期待される利得も計 算に入れてプレーヤーは行動を決 定する。ゲームに関係するプレー ヤー同士の行動とそれに基づいて 得られる利得で制度遵守のメカニ ズ ム が 完 結 し て い る の で、 「 内 生 的」なメカニズムとなる。   内生的なメカニズムに支えられ た均衡として民主主義の安定をと らえる場合、その均衡を支える要 と し て 二 つ 重 視 さ れ る も の が あ る。 ひとつはコミットメント問題、 もうひとつは調整問題である。

●コミットメント問題の解決

  ある合意が成立したにもかかわ らず、合意成立後に当事者が一方 的 に そ の 合 意 を 破 る こ と が あ る。 こうした事後的な機会主義的行動 が「コミットメント問題」と呼ば れる。コミットメント問題が解決 されなければ、そもそも人々は合 意 を 形 成 す る の に 躊 躇 す る だ ろ う。どうすればこのコミットメン ト問題を解決できるのか。重要な のは、事後的な裏切り行為があっ た と き に 制 裁 を 課 す こ と が で き、 しかも、その制裁の実行可能性が 高いことである。そして、そうし た制裁を相手に対する脅威として 確保しながら、基本的に譲れない 事項については関係者の同意がな ければ変更できない、という仕組 みを作ることである。これを拒否 権の設定と呼ぶ。   民主主義制度は、拒否権を持つ プ レ ー ヤ ー を 増 や す こ と で あ る。 専制体制においては権力者が一方 的 に 政 策 を 決 定 す る こ と が で き る。 権 力 者 の 横 暴 な 行 動 に 対 し、 市民が蜂起して制裁を加え、妥協 を 引 き 出 す こ と が あ っ た と し て も、それは一時的なものとならざ るを得ない。制裁を受ける危機が 去れば、権力者が再び勝手な行動 を取る可能性は常に存在する。コ ミットメント問題により政治は常 に 不 安 定 な 状 態 と な る の で あ る。 これに対して、民主主義制度が導 入されると、権力者は議会や裁判 所などの同意がなければ行動でき ない仕掛けが仕組まれることにな る。議会や裁判所の拒否権が無視 された場合、市民が蜂起して権力 者に制裁を与えることが確実であ れば、権力者は拒否権に従い恣意 的な行為を控えることになるだろ う。また、 民主主義制度が進展し、 権力者が選挙によって選出される ようになれば、選出された権力者 が恣意的な行動を取った場合、再 選が難しくなって権力を失うとい う制裁を受ける。 民主主義制度が、 市民にとっては権力者のコミット メント問題を解決する保障となる し、権力者の側からみれば、あら かじめコミットメント問題を解決 する制度を確保することで市民の 信頼を獲得し、自らの権力を安定 させることができる。コミットメ ント問題解決によって安定した政 治を獲得すること自体が権力者と 市民双方の利得を引き上げること になり、どちらも民主主義制度か ら離脱しようと思わなくなる。こ うして民主主義制度が均衡として 成立すると説明されるのである。

●調整問題の解決

  コミットメント問題の解決が均 衡としての民主主義の基礎である とすると、つぎの重要な問題が浮 き上がってくる。そもそも権力者 が市民から制裁を受ける可能性が 低ければ、拒否権を他者に与える 必 要 が な い。 特 に、 問 題 な の は、 市民と呼ばれる人々が様々なタイ プの個人、集団によって構成され ていて、統一した行動を取るのが 難しいことである。権力者の恣意 的な行動が、市民のなかの特定の 集団に対してだけ不利益をもたら

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す 場 合、 直 接 不 利 益 を 被 ら な い 人々はわざわざ権力者に対抗する よ う な 行 動 に は 参 加 し な い だ ろ う。市民がバラバラで参加者が限 定され、市民の蜂起という制裁の 効 果 が 十 分 確 保 で き な い な ら ば、 結局、制裁を加える行動自体が発 生しない。これを市民間の「調整 問題」と呼ぶ。制裁が有効な効果 を 持 ち 民 主 主 義 が 維 持 さ れ る に は、権力者が特定の集団に対し侵 害行為を行った場合、直接に侵害 の 対 象 と な っ て い な い 人 々 で も、 将来的に別の形で自ら侵害を被る 可能性があると考えて、制裁行動 に参加するような条件が整う必要 がある。そのためには、将来的に 侵害行為がより広範に及ぶかどう かについて判断できる基準が共有 されていることが重要である。権 力 者 の 侵 害 が そ こ に 関 わ っ た 場 合、それが警報となり市民の協調 が生み出される、そのような基準 点 で あ る。 こ う し た 基 準 点 は フォーカル ・ ポイントと呼ばれる。 一 方、 権 力 者 の 側 に し て み れ ば、 このフォーカル・ポイントが明確 に存在していれば、そこを侵害す ることが危険であることを察知す ることになり、侵害行為を制限せ ざるを得なくなる。結果として民 主主義制度が安定化することにな る。このフォーカル・ポイントを 提供するのは、伝統的には、市民 の人権を保障した権利章典であっ た。近年の民主化においても、民 主化後の憲法がそうしたフォーカ ル・ポイントを提供しているかど うかが重要になる。新しい民主主 義において重要なフォーカル・ポ イントとなっているのが選挙であ る。 権 力 者 が 選 挙 を 実 施 し な い、 あるいは選挙によって敗北しなが ら も 権 力 の 座 か ら 降 り な い、 と いった行為は、市民間の調整問題 を解決して、制裁行為を引き起こ すきっかけとなる。 選挙はさらに、 社会において誰が多数の支持を受 けているのかについての情報を明 らかにし、権力者と市民それぞれ がとる行動がどのような結果をも たらすのかについての予測を容易 にする。   また、フォーカル・ポイントと は別に、市民間にいわゆる「社会 関 係 資 本 」( ソ ー シ ャ ル・ キ ャ ピ タル)があることが、民主主義の 安 定 に 重 要 だ と い う 議 論 も あ る。 社会関係資本とは市民間で協調す る規範・価値観を指すが、これが 調整問題を解決する効果を持つた めだと考えることができる。

新しい民主主義の安定のカギ   均衡としての民主主義を基本と して考えてみると、新しい民主主 義が不安定なのは、主要な政治勢 力が、 民主主義制度に従うよりも、 民主主義制度から離脱した行動を 取るほうが高い利得を得られると 計 算 し て い る た め と 理 解 で き る。 選挙に負けてもその結果を受け入 れず、示威行動などによって権力 を奪取しようとするのは、権力の 座にいるのといないのとで得られ る利得の差が極めて高いからだろ う。 「 政 治 の 賞 金 」 と 呼 ば れ る 権 力者の得る利得は、権力から派生 するレントが大きい政治システム の場合、 当然大きくなる。他にも、 選挙不正がはびこる場合、真の多 数派が誰かについて情報が歪めら れ、選挙敗者が本当は自分たちが 多数派であると考えて制度に従わ な い と い う こ と も あ ろ う。 ま た、 社会の亀裂が激しいとか、クライ アンタリズムによって市民が分断 され、調整問題を解決できない社 会においては、権力者の恣意的な 行為も拡大し、それが民主主義を 徐々に形骸化させていくことにな る。   コミットメント問題や調整問題 の解決を果たすような制度を確立 して均衡が生まれることが、新し い民主主義が安定するカギだとし ても、それはなかなか意図して作 れるわけではない。古い民主主義 が経験してきたように、新しい民 主主義においても、政治のゲーム が繰り返され、均衡として制度遵 守が選択されるプロセスを経るこ とが必要なのだろう。 ( か わ な か   た け し / ア ジ ア 経 済 研 究所   地域研究センター) 《参考文献》 ●  川 中   豪[ 二 〇 〇 九 ]「 新 興 民 主主義の安定をめぐる理論の展 開 」『 ア ジ ア 経 済 』 第 五 〇 巻 一 二号、五五―七五ページ。

どうすれば民主主義は安定するのか?

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