Title
沖縄におけるさとうきびの栽培型別収益性の分析
Author(s)
仲地, 宗俊
Citation
沖縄農業, 22(1・2): 41-51
Issue Date
1987-11
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/1245
Rights
沖縄農業研究会
沖縄におけるさとうきびの栽培型別収益'性の分析
仲地宗俊 (琉球大学農学部) S6shunNAKAcHI:AnAnalysisofprofitabilitybytypeofsugarcanecultvationinOkinawa いて株出しが急速に減少したのは,1975年頃から この地域で土壌病害虫が集中的に発生するように なり,株出しが出来なくなったためことが要因だ とされている)。また新植の増え方では,宮古, 八重山では夏植えが増加しているのに対し,沖縄 本島では春植えの増加が目立つ。ちなみに,1983 ~85年産平均のそれぞれの地域の栽培型構成は, 宮古,八重山では夏植え77:春植え5:株出し18 であるのに対し,沖縄本島では夏植え15:春植え 12:株出し73(1974以前の構成は夏植え11~15, 春植え4~6,株出し80~86であった)となって いる。 さとうきびの栽培型構成において,株出しが70 ~79%の割合を占めていた1960年代中期に,株出 しが夏植え,春植えに対して収益性のうえで圧倒 的な有利性をもっていたことは,かつて池原真一 が指摘したところである(「沖縄糖業論』1969. 4)が,株出しが減少しつつある今曰の段階では, それぞれの栽培型における収益性は,どのような 格差をもって存在しているのであろうか。 本稿では,今曰の段階におけるさとうきびの栽 培型間の収益性の格差の特徴を,1960年代との比 較において明らかにしようとするものである。こ の間のさとうきび生産の構造の変化,および今日 のさとうきびの栽培型の構成を検討するうえで- つの手がかりになるものと考える。 比較する時期は,株出しが一応の飽和点に達し 1.はじめに 沖縄のさとうきびの栽培型構成は1974年まで, 夏植え17~20%,春植え3~6%,株出し72~79 %と,株出しが圧倒的な割合を占めていたが,19 74年を境に大きく変化しつつある。すなわち,株 出しが1974年に79%に達したのをピークに75年か ら減少に転じ,代わって夏植えと春植えが増加し つつあるのである。 戦後,株出しが急増したのは1960年代の前半の 時期であるが,それは,当時,株出しが収益性の うえにおいて,夏植え,春植えに対して圧倒的な 有利性をもっていたことによるものであり,それ を技術的に可能ならしめたのは,戦後導入された さとうきびの新品種NCo310の優れた株出し適 応性であった。 しかしその後長期株出しも増え,土壌の物理性 の悪化,病害虫の発生,単収の停滞など,長期株 出しに起因するさとうきび栽培上の障害が次第に 表面化し,長期株出しの問題点も広く指摘される ようになってくる。 そして1975年以降株出しが減少に転じ,夏植え と春植えが増加してくるようになるのである。もっ とも,この間の栽培型構成の変化の程度と方向は 地域によって異なっており,宮古,八重山では株 出しの減少が急速に進んでいるのに対し,沖縄本 島では比較的緩やかである。(宮古,八重山にお沖縄農業第22巻第1.2併号(1987年) 42 栽培型に共通に作用すると考えられることから, 栽培型間の収益性の格差を問題とする場合は,大 きな支障はないと考えてよい。 次に,それぞれの栽培型の調査対象農家と母集 団(それぞれの栽培型の県全体の平均)との間の 誤差の問題を検討しておこう。 この点については,収益性を規定する要素のな かで,調査対象農家と県全体の平均について共通 に得られる唯一の項目である10a当たりの収量を, 比較することによって検討を行なうことにする。 それぞれの栽培型における調査対象農家の単収 と,県平均の単収を比較すると表1のようになる。 1964~66年では,春植えで調査対象農家の単収が, やや高めになっているが,夏植えと株出しではほ とんど差はない。調査対象農家は全農家をほぼ代 表しているとみてよい。1982~84年では,夏植え での格差は小さいものの,春植えと株出しでは調 査対象農家の単収がそれぞれ22%,16%程度高く なっている。すなわち,1982~84年の春植えと株 出しでは,それぞれの栽培型の県平均よりも単収 の高い農家が調査対象農家として選定されている ことになる。 た1964年から66年までの3カ年の平均と,最も新 しい生産費調査の数値が利用出来る1982年から84 年までの3カ年の平均とした。 2.復帰前と復帰後における生産費調査の連続性 の検討 ところで,1964~66年と1982~84年の間には, 本土復帰に伴う生産費調査機構の改編があり,さ らに,生産費費目の変更,調査対象農家の選定替 えがなされている。したがって,収益性の比較を 行なう前にこの間の生産費調査の継続」性の問題に ついて検討しておく必要がある。 まず生産費の費目については,この間,1971年 に費目の構成について若干の組み替え(費目の名 称変更,分離独立)がなされ,72年にはそれまで 生産費のなかに含まれていたさとうきび積込み費 が生産費から除外され,さらに76年には家族労働 費の評価基準が,それまでの農業臨時雇賃金から 農村雇用賃金に変更されるという変化が,生じて いる。したがって時系列分析の際には,この変化 に留意しなければならない。しかし,費目の約束 事項が変更されたことによる影響は,それぞれの 表1栽培型別生産費調査対象農家と全農家の単収(10a当たり)比較単位:ル9,% 夏植え春植え 株出し夏植え 春植え 株出し 資料1964~66年平均:池原真一『沖縄糖業統計』農林統計協会,1973. 1982~84年平均:農林水産省統計情報部『工芸農作物等の生産費』昭和57年産,58年産,59年産. 3.栽培型間の収益性の比較 1982~84年平均の栽培型別の収益性を示すと表 2のようになる。利潤については三つの栽培型と もマイナスであり,採算の目標になり得ていない。 所得と,家族労働報酬については投下家族労働時 間の問題があるので1曰当たり所得と,1日当た り家族労働報酬について,夏植えを'00として比
較すると,春植えでは1曰当たり、所得で49%,1
曰当たり家族労働報酬では45%の水準にあり,株 出しでは1曰当たり所得が1.2倍’1日当たり家 族労働報酬が1.3倍となっている。株出しは夏植 1964 戸~ 66年平均 夏植え 春植え 株出し 1982 痒~ 84年平均 夏植え 春植え 株出し 調査農家 全農家 調査農家/全農家 7,732 7,598 101.8 5,103 4,701 108.5 799 122 β40 661 8,318 8,117 102.4 6,718 5,530 121.5 8,285 7,157 115.7仲地:沖縄におけるさとうきびの栽培型別収益性の分析 43 えに対して1曰当たり所得で21%,1曰当たり家 族労働報酬で33%上回っており,春植えに対して は圧倒的な有利性をもっている。 表2栽培型別の収益性の比較(10a当たり) 夏植え春植え株出し夏植え春植え株出し 資料1964~66年平均:前掲『沖縄糖業統計」 1982~84年平均:前掲『工芸農作物等の生産費』 注1)夏植え()内は計算期間を1年とした場合の換算値である。 2)1982~84年平均の収益性は生産奨励金を含めた額である。 3)1964~66年平均の金額は1ドル=360円で換算した。 さらに株出しの粗収益から,先に指摘した株出 しの調査対象農家の単収と県平均の単収の誤差分 を差し引いて(調査対象農家の単収を基準にする とその較差は14%になる),株出しの1曰当たり 所得と,1日当たり家族労働報酬を計算すると, それぞれ5,772円,4,976円になる。さらにこれに 夏植えの栽培期間が1.5年であるという条件を加 えて,株出しの夏植えに対する1曰当たり所得と, 1曰当たり家族労働報酬の格差を計算すると,1 曰当たり所得では148%,1曰当たり家族労働報 酬では160%となる。株出しは夏植えに対して1 曰当たり所得で48%,1日当たり家族労働報酬で 60%上回っていることになる。 それでは,このようなそれぞれの栽培型の収益 性は,他の産業の賃金に対してはどのような水準 に位置するであろうか。この点をみるために,全 産業平均(農業を除く)の1曰当たり賃金(以下 全産業平均賃金と略する)に対するさとうきびの 栽培型別の1曰当たり家族労働報酬の水準を,そ の推移を含めてを示すと図lのようになる。 1964~66年平均 夏植え 春植え 株出し 1982~84年平均 夏植え 春植え 株出し 実 数(円) 利潤 所得 家族労働報酬 1日当たり所得 1日当たり 家族労働報酬 jJ』 仰犯Ⅶ帥皿冊 603556 753549 △△201く く 71 打組 48207 Ⅶ田別開Ⅲ 037 11 △ 8 3冊 00 99 81 二■●● 83 22 69 56 41 一口●● 11 △29,709 (△19,806) 115,714 (77,142) 93,041 (62,027) 5,844 4,695 623 011 984 658 064 1 △ 14 冊、 22 72561 師別冊M配 り7199 27276 132 △11 比較(夏植えⅡⅢ) 利潤 所得 家族労働報酬 1日当たり所得 1日当たり 家族労働報酬 1J 000000 ●●●●●● 000000 000000 111111 くく jj 350989 ●●●●●● 874005 585876 くく 123.6 (185.4) 159.6 (239.4) 187.4 243.0 jj 000000 ●●●●●● 000000 000000 111111 くく 9の0,32 ■●●●●● 652895 585744 くく 118.9 (178.4) 131.2 (196.8) 120.6 133.1
沖縄農業第22巻第1.2併号(1987年) 44 422.6 300 200 Ⅲ 全産業平均1 日当たり賃金 株出し 夏植え 春植え 100 19606570758084 図1全産業平均1日当たり賃金に対するさとうきび1日当たり家族労働報酬(栽培型別) 資料1)さとうきび1日当たり家族労働報酬1960~68年:前掲『沖縄糖業統計』 1969~73年:沖縄総合事務局『第3次沖縄農林水産統計年報』 1974~84年:前掲『工芸農作物等の生産費』各年版 2)全産業平均1日当たり賃金:琉球政府『琉球統計年鑑』第9回 琉球政府『沖縄統計年鑑』第13~15回 沖縄県『沖縄統計年鑑』第16~20回,第25回,第29回. 注1)全産業平均1日当たり賃金は次のように算出した。 1960~63年:「月平均給与額」÷25 1964~71年:「きまって支給する現金給与額」÷「平均実労働時数」×8 1972~84年:「きまって支給する給与」÷「所定内労働時間数」×8 2)全産業平均事業所の従業員規模は次のとおりである。 1960~63年:5人以上 1964~71年:20人以上 1972~84年:30人以上 1963年までは,さとうきびは全栽培型とも,全 産業平均賃金に対してかなり高い水準にあったが, 1963年から64年にかけてこの収益性は急落する。 株出しの場合はそれでもまだ全産業平均賃金を上 回る水準にあったが,夏植えと春植えはこの時期 に全産業平均賃金以下に転落する。そして1969年 になると,その株出しも全産業平均賃金を下回る ようになる。その後復帰の時期にかけてさらに変 動があるが,1980年以降の水準でみると,全産業 平均賃金に対して,株出しは60~70%,夏植えが 50%前後,春植えは20~30%の水準にとどまって いる。 もっともこの間,全産業平均賃金の対象となっ ている事業所の規模が時期によって異なっており, 特に,1972年以降は全産業平均賃金が従業員規模 30人以上の事業所の平均であることから,全産業
平均の賃金は実際よりは高めに出ていることが考
えられる。その点を考慮すると,株出しの場合の 1日当たり家族労働報酬は,図1が示しているよ りは全産業平均賃金に近い水準にあると考えられ仲地:沖縄におけるさとうきびの栽培型別収益性の分析 45 格差は,1964~66年の時点に比べて大きく縮小し ているのである(表2)。例えば,夏植えに対す る株出しの1曰当たり所得の水準は1964~66年の 187%から1982~84年には121%に低下しており, 1日当たり家族労働報酬は243%から133%に低下 しているのである。 1964~66年と1982~84年の両時点の比較だけで は,この格差の動きの長期的な傾向がつかめない ので,夏植えを100とした春植えと,株出しの1 曰当たり家族労働報酬の1960年以降の推移を示す と図2のようになる。 る。しかし,夏植えや,春植えの場合は全産業平 均賃金の水準にはなおかなりの隔たりがある。こ のことが沖縄本島のさとうきびの栽培型構成にお いて,株出しが73%を占めている経済的根拠であ ると考えられる。 このように今曰の段階でも,株出しは収益性の 面で夏植え,春植えを上回っているのであるが, しかしその格差を1964~66年と比べると,この間, それぞれの栽培型の収益性の格差に大きな変化が 生じていることが指摘し得る。すなわち,今日の に段階におけるさとうきびの栽培型間の収益性の 300 200 株出し 又植え(100) 100 が柚え 0 1960 65 70 75 80 84 図2栽培型別1日当たり家族労働報酬の比較(夏植え=100) 資料1960~68年:前掲『沖縄糖業統計』 1969~73年:前掲『第3次沖縄農林水産統計年報』 1974~84年:前掲「工芸農作物等の生産費』各年版 注1973年以降は生産奨励金を含む。 81年以降は30%程度の格差にとどまっている。 図2はこの格差の縮小が一時的なものでなく, 傾向的なものであり,したがって構造的なもので あることを示している。 それでは,夏植えと株出しの収益性の格差の縮 小はどのようにして生じたのであろうか。次にこ の点の検討に移ろう。 春植えについては,1961,62,63年のように夏 植えと肩を並べた時期もあったが,64年以降は常 に夏植えを大きく下回っている。 株出しは常に夏植えを上回ってはいるが,その 格差は1974年を境にして大きく変化している。す なわち,1973年までは,株出しは夏植えに対して は2倍以上(1971年には3倍以上)の格差を持っ ていたが,1974年以降はその格差は急速に縮まり,
沖縄農業第22巻第1.2併号(1987年) 46 4.栽培型間における収益性格差縮小の検討 1982~84年におけるさとうきびの栽培型間の収 益性の格差が,1964~66年の時期に比べて縮小し たことの原因を検討するために,収益性を規定す ろ要素である粗収益,第二次生産費,費用,家族 労働費,家族労働時間について栽培型間の比較を したのが,(表3)と(表4)である。 表3栽培型別の収益性および生産費の比較(10a当たり) 夏植え春植え株出し夏植え春植え株出し 資料1964~66年平均: 1982~84年平均: 注表2に同じ 前掲『沖縄糖業統計』 前掲『工芸農作物等の生産費』 1964 ~ 66年平均 夏植え 春植え 株出し 1982 ヘシ 84年平均 夏植え 春植え 株出し 実 数(円) 単収(kg) 粗収益 費用計 種苗費 肥料 賃借料および料金 農機具費 労働費 うち家族労働費 その他 第一次生産費 第二次生産費 Jj J』 2718229117268264 3259309856499332 7714343259184332 9F990991 9999999 73928371 6222814 4242 22 4253 くく くく 佃路〃田師開帥冊町船期妬 187157395875 583161 18139 23 21 33 422 067 643 999 673 32 42030123 67肥製別皿師W 2 4 74139 11 22 8,316
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546 030) 185,582 (123,721) 8,322 18,792 13,485 6,751 129,606 122,750 8,626 185 (123,582,721) 208,255 (138,836) 6,718 144,204 233,712 4,038 24,720 22,839 7,078 166,838 155,319 8,198 233,712 251,111 8,285 177,835 174,885 16,053 1,752 4,722 147,244 134,642 5,079 174,885 190,412 比 較(夏植えⅡ川) 単収 粗収益 費用計 ● 種苗費 肥料 賃借料および料金 農機具費 労働費 うち家族労働費 その他 第一次生産費 第二次生産費 jJ J』 0000000000000000 ●●●■■●●●●●●●■●⑪● nU、U〈UnU〈UnUバリnUnU〈UnUnvnUnU、)nU nU〈U〈U〈U〈UnVn〉〈UnUnUnUnUnU〈UnV〈U 1111111111111111 くく くく jJ J』 0994190336854105 ●●●●●●●●●●●●●●●● 6589939951349975 6697138368867171 1 1 11 くく くく jJ J』 47505 6677870569 筋冊沁弱肌一町5皿則船蛆開田閃別 1 くく くく JJ jJ 0000000000000000 ●●●●●●●●●●●●●●●● 0000000000000000 0000000000000000 1111111111111111 くく くく JJ jj 8719955487509969別別Ⅲ脳伽岨皿ⅢⅢ伽捌鮖妬冊別別
1111 くく くく jJ JJ 66424 4996692341 冊的側妬皿一筋血的咀的兇艸虹Ⅵ師 1 1 11 11 くく くく仲地:沖縄におけるさとうきびの栽培型別収益性の分析 47 まず粗収益についてみると(表3),1964~66 年では,春植えが34%,株出しで14%夏植えを下 回っていた。しかし1982~84年になると,夏植え に対する春植えの格差は19%に縮まり,株出しで はほとんど夏植えと同じ額になる。もっとも株出 しでは,生産費調査対象農家と県平均の単収の間 に16%の乖離があったことから,粗収益について も同程度の格差はあると考えられる。 それでは生産費はどうか(表3)。まず第二次 生産費について夏植えに対する水準をみると,春 植えでは1964~66年の77%から1982~84年には12 1%になり,株出しでは57%から91%になってい る。ここでも格差の縮小が急速に進んでいる。次 に費用計であるが,1964~66年には夏植えに対し て春植えは79%,株出しは55%の水準にすぎなかっ たが,1982~84年になると,春植えは126%,株出 しは94%の水準になる。春植えは夏植えの費用を 上回るようになり,株出しでもその差はわずか6 %にまで縮まっている。 費用のなかで最もウエイトが大きい労働費をみ ると,株出しは1964~66年には夏植えに対して65 %の水準にあったが,1982~84年には114%と, 夏植えを14%上回るようになる。春植えの対夏植 え比もこの間82%から129%になっている。1982 ~84年には春植え,株出しの方が労働費を多く投 下している結果になっているのである。労働費の 中心をなすのは家族労働費であるが,それは1964 ~66年には春植えが夏植えの84%,株出しが67% の水準にあったが,1982~84年になると,春植え で27%,株出しで10%程度夏植えを上回るように なる。
労働費の次にウエイトが大きいのは肥料費であ
る。ここでも格差はかなり縮まっている。1964~ 66年の株出しのlE料費は夏植えの58%にすぎなかっ たが,1982~86年には85%になる。また春植えで は夏植えの肥料費を大きく上回るようになる。 一方,株出しと,夏植え,春植えの間で差が大 きいのは種苗費,賃借料及び料金,農機具費であ る。種苗費については株出しでは要しない費用で あり,これはそのまま両者の格差となる。賃借料 及び料金については,株出しに対し,夏植えで7.7 倍,春植えでは13倍にもなっている。これは全費 目のなかで増加が最も大きい費目でもある。農機 具費は春植えで最も大きく,夏植えでは株出しに 対して30%程度多い額になっている。 その他の費目としては,農業薬剤費,光熱動力 費,水利費,建物及び土地改良設備費,畜力費, 諸材料費などがあり,これらの費目も株出しと, 夏植え,春植えの格差を生み出している要因であ るが,1982~84年におけるその格差は1964~66年 に比べて小さくなっている。 このように所得と家族労働報酬を規定する全て の費目で,栽培型間の格差の縮小,特に夏植えと 株出しの格差の縮小が進んできている。しかも粗 収益の格差の縮小を上回るかたちで生産費の格差 の縮小が進んでいるのである。 ちなみに,それぞれの費目の1964~66年から19 82~84年にかけての増加率をみると,粗収益では, 夏植え41倍,春植え5.0倍,株出し47倍であるの、 に対し,第二次生産費は,夏植え4.0倍,春植え6. 3倍,株出し6.5倍,費用計は夏植え4.4倍,春植え 6.9倍,株出し74倍,家族労働費は夏植え5.5倍, 春植え8.3倍,株出し9.1倍と伸びている。すなわ ち,夏植えと株出しの費用の格差の縮小は,基本 的には夏植えを上回る株出しの生産費の急増によっ てもたらされていることが分かる。特に株出しに おける家族労働費の伸びには著しいものがある。 そこでさらに問題を労働時間に移して,この間 の栽培型別10a当たり投下労働時間の変化をみる と表4のようになる。まず特徴的なことは夏植え における投下労働時間の大幅な減少である。その 減少は二つの方向,すなわち雇用労働時間の減少 と,家族労働時間の減少の方向で進んでいる。春 植えでも同じ方向での減少がみられるが,その減沖縄農業第22巻第1.2併号(1987年) 48 少率は夏植えに比べれば小さい。それに対して株この結果,1982~84年の家族グ 出しでは総労働時間でわずかに減少しているものでやや多くなっているものの,宴 の,家族労働時間はほとんど変化していない。ではほとんど同じになっている。 この結果,1982~84年の家族労働時間は春植え でやや多くなっているものの,夏植えと,株出し 表4栽培型別投下労働時間の推移(10a当たり)単位:時,% 資料1964~66年平均:前掲『沖縄糖業統計』 1982~84年平均:前掲『工芸農作物等の生産費』 時 300 200
民>△◇勺
二二三
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100 1961 65707580 図3さとうきび栽培型別投下労働時間の推移(10a当たり) 資料1961~68年:前掲『沖縄糖業統計』 1969~73年:前掲『第3次沖縄県農林水産統計年報』 1974~84年:前掲『工芸農産物等の生産費』 84 1964~66年平均 1982~84年平均 投下労働時間 実数 減少率 夏植 え 春植え 株出し 夏植 春櫃 え え 株出し 296.4 239.5 188.5 169.5 203.1 176.6 923 ●●● 256 41 うち家族労働時間 実数 減少率 夏植 春植  ̄ ’こ え 株出し 夏植 春植 え え 株出し 240.0 200.3 158.7 922 冊別冊 111 806 ●●● 381 3仲地:沖縄におけるさとうきびの栽培型別収益性の分析 49 おける家族労働時間の減少,これがl曰当たり所 得と1曰当たり家族労働報酬における,夏植えに 対する株出しの有利性を縮小させた要因である。 それではどのような作業において労働時間の減少 が生じているのであろうか。この点を総労働時間 についてみることにしよう(表5)。夏植えで特 に減少しているのは,追肥,中耕除草,培土など の作業である。すなわち,管理作業が大幅に省略 されているのである。これらの作業は株出しでも 減少はしているが,夏植えでは特に減少の度合い が大きい。 さらにその他の管理作業であるが,夏植えでは 1964~66年に比べて30%程度減少しているのに対 し,株出しでは58%も増加している。これは生産 費調査のなかでもその他としてまとめられていて, 詳細はつかめないが,一般的には剥葉が中心になっ ていると考えられる。株出しでは植付けに労働が かからない代わりに,剥葉に労力がかかっている のである。 また収穫作業でも夏植えではこの間34%減少し ているのに対し,株出しではその減少は19%にと どまっている。 夏植えと株出しの10a当たり投下労働時間の格 差の縮小は夏植えにおける追肥,中耕除草,培士 などの管理作業,収穫作業にかかる労働時間の減 少と,株出しにおけるその他の管理作業(剥葉) の増加がその要因となっている。夏植えの労働時 間の減少と,株出しにおける横ばい的傾向をどの ように評価するかは,なお技術的側面からの検討 が必要であり,ここでは指摘するにとどめるが, 少なくとも現在の株出しの収益水準は夏植えと同 程度の労働力と費用を投入することによって得ら れているものであることはいえよう。 さらに,この間の栽培型別の労働時間の推移を 時系列的に示すと図3のようになる。まず指摘し 得ることは,夏植えの長期的な減少の傾向と,春 植えの減少傾向から増加への転換,株出しの停滞 傾向である。1971年から72年にかけては,先に指 摘したように収穫時の積込み労働が収穫労働から 除外されるという調査費目の変更があり,したがっ てこの間の労働時間の減少には,調査費目の変更 による労働時間の減少が含まれていると考えられ る。この間の総労働時間の減少に対する収穫労働 時間の減少の寄与率は,夏植え13.3%,春植え44.5 %,株出し38.1%である。また夏植えの労働時間 の減少については,近年の夏植え比率の地域的変 化すなわち,さとうきびの作付面積が比較的大 きい宮古,八重山において夏植えが増加している こととの関連も問題となるところであるが,宮古, 八重山において夏植えが増加するのは1975年以降 であるのに対し,労働時間の減少はすでに72年頃 からみられ,このことからくる影響は,あっても それほどは大きくないと考えられる。したがって, 図3はこの間のそれぞれの栽培型の労働時間の推 移の実態をほぼ反映しているとみてよく,この図 から夏植えにおける労働時間の減少と,株出しに おける労働時間の停滞が長期的かつ傾向的である ことがいえる。 株出しにおいて,この間労働時間がほとんど変 化していないにもかかわらず,労働費が大幅に増 加しているのは,この間の労賃水準の急騰による ものである。夏植えは労働時間を減少させること によって,この間の労賃水準上昇の影響を比較的 小さくしているのに対し,株出しでは労働時間が 減っていないため,労賃の上昇分がそのまま労働 費の増加となっているのである。 株出しにおける費用の急速な増大と,夏植えに
沖縄農業第22巻第1.2併号(1987年) 50 表5作業別投下労働時間比較(10a当たり) 夏植え春植え株出し夏植え春植え株出し 資料1964~66年平均前掲『沖縄糖業統計』 1982~84年平均前掲『工芸農作物等の生産費』 5.まとめ 以上,本稿で明らかにしたことをまとめると次 のようになる。 1982~84年時点でのさとうきびの栽培型別の収 益性の格差を,夏植えを基準にしてみると,株出 しでは1曰当たり所得で21%,1日当たり家族労 働報酬で33%夏植えを上回り,春植えでは1日当 たり所得で51%,1日当たり家族労働報酬で55% 夏植えを下回っている。さらに,夏植えの栽培期 間が1.5年であることを条件にいれると,夏植え に対する格差は株出しで,1曰当たり所得で48%, 1曰当たり家族労働報酬で60%になり,春植えで は,1日当たり所得で26%,1曰当たり家族労働 報酬で32%下回ることになる。全産業平均賃金に 対しては株出しが60~70%の水準にあるのに対し て,夏植えでは50%,春植えは20~30%の水準に 1964 ヘヴ 66年平均 夏植え 春植え 株出し 1982~84年平均 夏植え 春植え 株出し 実 数(時) 計 耕起及び整地 基肥 整苗 定植 追肥 中耕除草 培土 防除 その他の管理 収穫 動力運転時間 』 46840333382 ●●●●●●●●● ● ● 67068975170 991 212243 21 1 く 5185077204 ● ●●●●●●● ● ● 9349160850 31 313129 2 5 9 48393 冊 1
l0llnn994
31 1 J 5058448367469 ●●●●●●●●●●●● ● 9320665342158 61 1 1 38 11 く 133876602157 ● ●■●●●■●●●● ● 342597333675 0 1 21 47 2 6 6 263829OllOlaaL2023
6 7 1 69 1 比 較 (夏植えⅡ伽) 計 耕地及び整地 基肥 整地 定植 追肥 中耕除草 培土 防除 その他の管理 収穫 動力運転時間 』 00 ●● 00 00 11 く 0 ● 0 0 1 00000000NⅡⅡNNNⅡⅡ’
11111111 j 80308853434 ●●P●●●●●● ● ■ 01158561529 82271092856 11 11 1 く J 64 C● 35 69 く 1 4 1 15658一一Ⅱ馳虹朋肌一
』 0000000000000 ●●●●■●●●●●●● ● 0000000000000 0000000000000 1111111111111 く 』 8705600065850 ●●●●●●●●●●●● ● 9927001728604 1778923781496 1112 111211 く 』 23 4 7327757仏朋一一9|肌仙肥Ⅱ肌Ⅱ詔
11 1 111 く仲地:沖縄におけるさとうきびの栽培型別収益性の分析 51 制約されている宮古,八重山では夏植えが主体と なっており,沖縄本島とその周辺離島では春植え +株出し,あるいは夏植え+株出しという組み合 わせをとっている。なかでも沖縄本島においては, 春植え+株出しの組み合わせが徐々に増加しつつ ある傾向にある。 これは現在のそれぞれの栽培型の収益水準のも とで,例えば,春植え+株出し(3回)と,夏植 え+株出し(2回)を比べると,春植え+株出し (3回)の所得が夏植え+株出し(2回)の所得 を上回る関係にあることによるものと考えられる。 しかし,両者の差を1年単位に換算するその差 は7%程度にすぎず,株出しにおける費用の増大 と夏植えにおける投下労働時間の減少,その結果 としての株出しと夏植えの収益性の格差の縮小と いう傾向に即して考えると,今後のさとうきびの 収益性改善の余地は,むしろ夏植え+株出し(2 回)の組み合わせに多く残されていると考えられ る。他作物との組み合わせの方向を含めて考える と,その可能性は一層大きくなろう。今後,技術 的側面を含めた検討が必要であると思われる。 すぎない。そのことが,今曰,さとうきびの栽培 型構成において株出しが過半を占める根拠となっ ている。 しかし,株出しは収益性において夏植え,春植 えに対して高い水準にあるとはいえ,その格差は 1960年代に比べると急速に縮小している。この格 差が縮小した要因は,株出しの費用が急増したこ とと,夏植えにおける10a当たり投下労働時間が 大幅に減少し,その結果として,夏植えと株出し の費用,10a当たり家族労働時間の格差が縮小し たことにある。特に1983年以降株出しと夏植えの 10a当たり投下労働時間が逆転しているのは注目 すべき変化である。 それでは,本稿で明らかにした1982~84年の段 階における,株出しと,夏植え,春植えの間にお ける収益性の格差と,1960年代と比べてそれが大 きく縮小してきているという時系列的傾向のもと で,今曰のさとうきびの栽培型の組み合わせはど のように位置づけられるであろうか。 そこで,改めて最近のさとうきびの栽培型の組 み合わせをみると,技術的要因によって株出しが