放射線治療におけるがん関連遺伝子の発現と照射効果予測
大
野
達
也
は じ め に 放射線治療でがん病巣の治癒を目指すには, 周囲 常 組織に対する侵襲性を低く保ちながら, 腫瘍を根絶させ るだけの線量を投与することが肝要である. しかし, 腫 瘍の放射線に対する感受性は様々であり, 同じ臓器発生, 同じ病理診断であっても照射効果が異なることが知られ ている. そこで, もし治療開始前または開始後早期のう ちに腫瘍の照射効果が予測できれば, 予定投与線量の修 正や併用療法の追加など, 治療の個別化に活かすことが できると えられる. また, 近年注目されている重粒子 線治療では, これまでの光子線治療 (エックス線やガン マ線) に比べてどのような利点を有するのか確認するこ とが重要な課題のひとつとなっている. 我々は, 基礎研究で得られた知見が実際の光子線治療 や重粒子線治療でもあてはまるか, 光子線治療と重粒子 線治療とでは照射効果にどのような違いが存在するの か, 治療開始後早期に予後を予測するマーカーの探索な どについて, 放射線治療を受けた子宮頚癌を対象に検討 を行ってきた. アポトーシス,腫瘍関連遺伝子, 増殖因子の発現と照射効果の関連 アポトーシスは遺伝子にプログラムされた自発的な細 胞死である. 放射線感受性の高い腫瘍では放射線誘発ア ポトーシスの頻度も多いことが知られており, 照射効果 との関連が注目されてきた.我々は,照射開始 1週 (9Gy/ 5 割) 後の生検組織におけるアポトーシス細胞の頻度 を TUNEL 法にて調べた. その結果, 治療前 0.22%に比 べて 9Gy照射後は 1.20%と有意にアポトーシス細胞の 頻度が上昇し, BAX 蛋白との相関が認められた. また, 重粒子線治療では, 治療前 0.12%に比べて 8.8-11.2GyE/ 4 割時点で 0.56%と増加したが, 光子線と比べて線質 の違いによる差は認められなかった. p53や p21遺伝子は細胞周期の調節やアポトーシスの 誘導に関わっていると えられている. 免疫染色による 治療前の腫瘍中 p53蛋白の発現は, 光子線治療群 7%, 重粒子線治療群 4%であり, p21蛋白は, 光子線治療群 9 %, 重粒子線治療群 12%といずれも線質差はなかった. 1週 (9Gy)後の p53蛋白の発現は,光子線治療群,重粒子 線治療群とも治療前より有意に増加し, 特に, 光子線治 療では, p53蛋白陰性群で有意に局所制御率が良好で あった. 一方, 重粒子線治療では p53蛋白発現と局所制 御の相関は認められなかった.Growth Fraction (GF) は腫瘍における cycling cellの 比率である. cycling cellの放射線感受性は G0期細胞よ り高く, 照射効果良好と えられている. そこで, cycling cellを同定する MIB-1抗体を用いて腫瘍中 GF を求め た所, 治療前や 9Gy時に GF が高い群では光子線治療に よる局所制御ならびに予後が良好であった. シスプラチ ン同時併用した腫瘍の 9Gy時 GF は放射線単独に比べ 有意に高く, 腫瘍の縮小が早期から生じることと関連が あるのではないかと えられた. 微小電極を用いた腫瘍内酸素濃度の測定と 照射効果の関連 腫瘍内の低酸素細胞の存在は, 放射線抵抗性の一因と えられている. 我々は, 腫瘍内酸素濃度をポーラログ ラフィー電極を用いて照射前と照射開始 1週後に測定 81 Kitakanto Med J 2006;56:81∼82 1 千葉県千葉市稲毛区 川4-9-1 放射線医学 合研究所重粒子医科学センター病院 平成17年11月1日 受付 論文別刷請求先 〒263-8555 千葉県千葉市稲毛区 川4-9-1 放射線医学 合研究所重粒子医科学センター病院 大野達也
し,予後との相関を検討した.その結果,光子線治療では, 治療前の酸素濃度が 20mmHg をこえる腫瘍の 3年局所 制御率 100%に対し, 20mmHg 以下の腫瘍群では 78%と 有意に予後不良であった. 照射開始 1週後には酸素濃度 が有意に上昇したが,酸素濃度が 20mmHg をこえる腫瘍 群の 3年局所制御率は 94%であったのに対し, 20mmHg 以下の腫瘍群は 43%と有意に予後不良であった. 一方, 重粒子線治療では照射開始 1週後には酸素濃度が上昇し たが, 治療前, 照射開始 1週後ともに酸素濃度の高低に よる局所制御の差は認められなかった. このことから, 光子線治療では低酸素腫瘍の存在が局所制御に関与して いるが, 重粒子線治療ではその影響が小さいことが明ら かとなった. 治療早期における予後の予測 治療前の腫瘍における c-erbB-2蛋白の発現は,放射線 治療後の傍大動脈リンパ節転移を予測するマーカーにな りうること, また, 放射線治療の 4週時や終了時点での 腫瘍マーカーSCC の変動が早期の予後予測に有用であ ることを報告した. 今 後 の 展 望 これまでの検討から, 基礎研究で得られた知見が実際 の治療にあてはまるのは限られた状況下であること, 光 子線で治療抵抗性を示す腫瘍の特徴を有していても, 重 粒子線治療ではその影響が小さいことが臨床検体におい て示されつつある.我々は,より系統的・網羅的に遺伝子 発現解析を行うことを目的として, マイクロアレイを用 いた腫瘍の遺伝子発現解析を開始している. 今後, 照射 開始後早期と治療前の発現を比較することで照射に応答 した遺伝子の全体像を把握し, 予後との関連を調べるこ とが必要であると えている. 謝 辞 本研究に対してご指導を賜りました, 群馬大学大学院 医学系研究科腫瘍放射線学 中野隆 教授, 群馬大学放 射線医学教室 新部英男前教授, 東京女子医科大学放射 線医学教室 三橋紀夫教授, 放射線医学 合研究所重粒 子医科学センター 井博彦センター長, ご協力頂きま した関係諸氏に深謝致します. 文 献
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