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Title
Expression of RANKL and OPG mRNAs in rat
periodontal ligament cells following mechanical
stress and co-culture with rat dental pulp cells in
vitro
Author(s)
安村, 敏彦
Journal
歯科学報, 116(1): 70-71
URL
http://hdl.handle.net/10130/3941
Right
論 文 内 容 の 要 旨 1.研 究 目 的
歯根吸収は歯科矯正治療中に起きる偶発症である。また無髄歯と比較し有髄歯は歯根吸収を高く発現する事 が報告され,歯髄の存在が歯根吸収に影響を及ぼしている可能性が示唆されている。歯根吸収には破骨細胞が 関与しており,その分化制御には Receptor activator of nuclear factor-κB ligand(RANKL)や osteoprotegerin (OPG)が関与することが知られている。歯根膜からの RANKL/OPG 発現については多く報告されているが歯 髄が歯根膜の RANKL/OPG 発現に対してどのような影響を及ぼすのかはまだ検討されていない。本研究では ラット歯根膜(PDL)細胞にメカニカルストレスを与えた後にラット歯髄(DP)細胞と共培養する事で産生され る RANKL/OPG mRNA について,分子生物学的な検討を行った。 2.研 究 方 法 5週齢の Sprague-Dawley 系,雄性ラットの上顎切歯より歯根膜と歯髄組織を採取し通法に従って培養した のち第5,6継代目の細胞を実験に用いた。PDL 細胞にメカニカルストレスとして4800rpm/20分の遠心力を 与え,6ウェルプレートにて培養した。DP 細胞は0.4μm 孔の膜を有したセルカルチャーインサートにて培養
し,共培養方法はそれらを組み合わせた double chamber method にて行った。実験群(EXP 群)はメカニカル ストレスを与えた PDL 細胞に DP 細胞を共培養したものとした。PDL 細胞にメカニカルストレスを与えず培 養した群(CONTⅠ群),PDL 細胞にメカニカルストレスを与えてえずに DP 細胞を共培養した群(CONTⅡ 群),PDL 細胞にメカニカルストレスを与え培養した群(CONTⅢ群)の計3群を対照群とした。1,3日後に 通法に従い PDLC より mRNA を抽出し,定量 RT-PCR にて RANKL/OPG mRNA の発現量を検索した。ま た1,3日後に PDL 細胞をホルマリンにて固定し,免疫組織化学染色を行い,RANKL 発現を共焦点レー ザー顕微鏡にて観察した。統計処理は Kruskall-Wallis H-testを行い post hoc test として Mann-Whitney U-test with Bonferroni correction を行った。
3.研究成績および考察
PDL 細胞の RANKL mRNA 発現量では1,3日後ともに EXP 群は対照群と比べ著しく高い値を示し有意
差を認めた(p<0.05)。CONTⅡ群は CONTⅠ,CONTⅢ群と比較して3日後に高い値を示し有意差を認めた 氏 名(本 籍) やす むら とし ひこ
安
村
敏
彦
(茨城県) 学 位 の 種 類 博 士(歯 学) 学 位 記 番 号 第 2009 号(甲第1250号) 学 位 授 与 の 日 付 平成25年3月31日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当学 位 論 文 題 目 Expression of RANKL and OPG mRNAs in rat periodontal ligament cells following mechanical stress and co-culture with rat dental pulp cellsin vitro
掲 載 雑 誌 名 Clinical Dentistry and Research 第38巻 3号 3−11頁
2014年 論 文 審 査 委 員 (主査) 田 雅和教授 (副査) 井上 孝教授 末石 研二教授 齋藤 淳教授 東 俊文教授 歯科学報 Vol.116,No.1(2016) 70 ― 70 ―
(p<0.05)。免疫組織化学染色では PDL 細胞は EXP 群の3日後において RANKL の発現が強い傾向を示し た。OPG mRNA の発現量では1日後では CONTⅠ,CONTⅢ群は CONTⅡ,EXP 群よりも高い値を示し,
有意差が得られた(p<0.05)。しかし,3日後では有意差は得られなかった。DP 細胞が存在する事で PDL 細
胞の RANKL mRNA 発現が増加し OPG mRNA 発現が抑制され,メ カ ニ カ ル ス ト レ ス に よ っ て RANKL mRNA 発現量はさらに増加することが示唆された。
4.結 論
メ カ ニ カ ル ス ト レ ス を 受 け た PDL 細 胞 は,DP 細 胞 の 存 在 下 で RANKL mRNA 発 現 が 増 加 し,OPG mRNA 発現は抑制されたことで破骨細胞の分化が促進されることが示唆された。
論 文 審 査 の 要 旨
本論文では無髄歯と比較し有髄歯は歯根吸収を高く発現するという臨床報告により,歯髄の存在が歯根吸収 に影響を及ぼしている可能性があるという仮説を設定した。その仮説を証明するために in vitro にてラット歯 根膜(PDL)細胞にメカニカルストレスを与えた後にラット歯髄(DP)細胞と共培養する事で産生される Recep-tor activaRecep-tor of nuclear facRecep-tor-κB ligand(RANKL)と osteoprotegerin(OPG)の mRNA 発現について,分子生 物学的な検討を行った。これらの結果よりメカニカルストレスを受けた PDL 細胞は,DP 細胞の影響によっ て RANKL mRNA発現が増加し,OPG mRNA 発現は抑制され破骨細胞が分化・活性化する事によって歯根 吸収が促進する可能性を示唆している。 本論文審査は平成25年2月21日に行われ,まず安村敏彦大学院生より論文概要が提示された後,各審査委員 より本論文に対して1)実験デザインと実際の根尖部の状態について,2)実験に使用した遠心力は臨床では 何に相当するのか,3)培養 DP,PDL 細胞の形質について,4)歯根吸収に関わる他の因子について,5) 可溶性物質についてなどについて質疑が行われた。これらの内容について,1)実際の根尖部で DP 細胞と PDL 細胞の間に結合組織があり接触することはない。本実験でも DP 細胞と PDL 細胞は直接接しておらず臨 床状態を模している。2)臨床では急速拡大装置とほぼ同等の力である。3)本実験で用いた第5・6継代の DP,PDL 細胞の形質は維持されている。4)M-CSF,IL-1や IL-17などのサイトカイン,プロスタグランジ ンなど多くの因子が関与している。5)可溶性物質については本実験では検索しなかったがこれからが関与し ている事が考えられるため,今後調査していく必要がある,と概ね妥当な回答が得られた。その他に表題や本 文中の表現,材料および方法の記載に対する補足,付図の修正,考察の追加等,修正すべき点が指摘さて訂正 が行われた。 その結果,本研究で得られた知見は今後の歯学の進歩,発展に寄与するところ大であり,学位授与に値する ものと判定した。 歯科学報 Vol.116,No.1(2016) 71 ― 71 ―