Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
「自分で守る健康社会」を目指して
Author(s)
鄭, 雄一
Journal
歯科学報, 118(5): 462-462
URL
http://hdl.handle.net/10130/4745
Right
Description
462 学 会 講 演 抄 録
講 演 抄 録
招 待 講 演
「自分で守る健康社会」を目指して
東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻・医学系研究科疾患生命工学センター教授
東京大学センター・オブ・イノベーション(
COI
)「自分で守る健康社会」拠点研究リーダー・副機構長
鄭
雄一
本邦の国民皆保険制度のおかげで,平均寿命は飛躍的に伸び,世界トップを常に争っている。その一方で,
この優れた制度に対する過度の依存を生むことになり,結果として多くの人が「病気になったら病院に行けば
よい」「若者が高齢者を支えるべき」と考えている。しかし,少子高齢化の進展により,向こう50年間,高齢
者の人口
,
はほとんど変わらないまま,総人口は3分の2近くまで減少すると予測され,従来の考え方には持続
可能性がない。
あるべき将来を考えたとき,我々は「自分の健康は自分で守る」,「高齢者も若者とともに社会を支える」と
いうマインドセットの一大転換をする必要がある。この将来ビジョンの実現のために大学ができることは,
OECD の中でも突出して多い入院日数と外来通院回数を半減し,家庭で健康に過ごす時間を延ばすための科
学技術を生み出すことである。センター・オブ・イノベーションではこのようなコンセプトのもとに研究開発
を行っており,特に,最先端の医工学による日帰り治療,ICT を駆使した重症化予防,ビッグデータに基づ
く健康リスク予測と行動変容促進,に取り組んでいる。
研究室においても,このような大きな流れを踏まえつつ,再生医学/組織工学の研究開発を行なっている。
医学部においては,骨軟骨の発生生物学に基盤をおきつつ,多能性幹細胞から,効率よくしかも低コストで骨
芽細胞へと分化を誘導するプロトコルに取り組んでおり,動物由来成分を含まない完全合成培地と低分子化合
物を組み合わせた三次元培養方法を開発している。このプロトコルは,再生医療に有用なだけでなく,創薬の
基盤となることが期待されている。工学部においては,足場素材の研究に重点をおき,リン酸カルシウムを三
次元プリンターで欠損・変形に適合するように造形した人工骨や,荷重部分でのサポートを行う新デザインチ
タンメッシュプレートの開発に成功している。また,ソフトマターとして新規ハイドロゲルの開発にも取り組
んでおり,新たな分子デザインに基づいて,自由に物性を制御できるテトラゲルとそこから派生する様々なハ
イドロゲルの開発に成功している。これらの科学技術を統合して,局所での再生を誘導する次世代のインプラ
ントデバイスの研究を進めており,骨軟骨疾患,特に頭蓋顎顔面領域における日帰り手術に貢献することを目
指している。
≪プロフィール≫ 1998年 ハーバード大学医学部講師,助教授
2001年 東京大学に戻る
2007年 東京大学大学院工学研究科バイオエンジニアリ
ング専攻教授
2016年 東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学セン
ター教授を兼務
<主な著書>
・「東大教授が挑む AI に『善悪の判断』を教 え る 方
<略 歴> 法」扶桑社新書(2018)
1964年 新宿区戸山生まれ ・「東大理系教授が考える道徳のメカニズム」KK ベス
1989年 東京大学医学部医学科卒業 トセラーズ(2013)
1989年 東京大学附属病院内科研修医及び医員 ・「[図解]骨博士 が 教 え る『老 い な い 体』の つ く り
1993年 東京大学大学院医学系研究科入学 方」WAC(2011)
1995年 米国マサチューセッツ総合病院へ留学
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