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アドホックネットワークが開く新しい世界(前編)

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Academic year: 2021

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(1)解説. アドホックネットワークが開く 新しい世界(前編). ●アドホックネットワークとは何か●  近年,無線 LAN ,Bluetooth をはじめとする短距離 無線技術が急速に発展してきており,特にここ 2 ,3 年 の無線 LAN(Wi-Fi)の普及,低価格化は目覚しい.無 線 LAN によって我々は,ケーブル配線の制約に煩わさ れることなく,家庭や職場の好きな場所でインターネッ トにアクセスすることができるようになった.また同じ 短距離無線の一種である Bluetooth を利用すれば,マウ スやキーボードを無線で PC と接続できるため,机上か らケーブル類を一切なくすことも可能となった.  アドホックネットワークとは,上記のような新しい無 線メディアの特長を最大限に利用して,単なるケーブル の代替手段を超えた,その場限りの即時的な(=アドホ ックな)無線通信網を構築するための技術である.アド ホックネットワークにおいてネットワークは局所的であ り,通信料金や加入手続きも必要なく,機器間同士が直 接,自律的に通信を行う.これによってたとえばデジカ メから無線でプリントアウトを行ったり,大規模な災害 現場で即時的な無線通信網を構成したり,ビルの中に小. ATR 適応コミュニケーション研究所. 小菅 昌克 [email protected]. 型の無線機を設置して温度やセキュリティの管理を配線 なしで行うなど,幅広い応用が期待できるようになる.  しかしながら短距離無線によるアドホックネットワー. ATR 適応コミュニケーション研究所. クを構築するには,まだ解決すべき課題は多い.その代. 板谷 聡子 [email protected]. 表例が「マルチホップ機能」と「アドホック機能」である.. アドホックネットワークとマルチホップ. ATR 適応コミュニケーション研究所.  マルチホップとは,短距離無線を搭載した各デバイ. Peter Davis [email protected]. スにデータの中継機能を持たせることで,バケツリレ ー式にデータの転送を繰り返し,電波の到達範囲外にあ. (株)スカイリー・ネットワークス. 梅田 英和 [email protected]. る遠くの端末との通信をも可能にする技術のことである (図 -1).  無線メディアの一般的な特性として,通信距離,消費 電力,通信スピードの 3 つは両立せず,いずれかを優先 しようとすると別のいずれかを犠牲にせざるを得ない.. 1052. 44 巻 10 号 情報処理 2003 年 10 月. −1−.

(2) アドレスの対応付けをどのように行うか  このような場合,IP ネットワークでは DHCP と DNS を利用するのが一般的である.しかしアドホックネッ トワークでは DHCP や DNS への到達性が必ずしも保証 されていない.またネットワークへの参加や離脱が頻 繁に発生するアドホックネットワークで従来型の名前解 設定なしにネットワーク構成 =アドホック. 決機構が有効に働くかどうかも検討が待たれるところで. リレー式に通信をつなぐ =マルチホップ. ある.  現状ではこれらの問題に対して ZeroConf や UPnP が 提案されている.前者の ZeroConf は Apple 社が採用し,. 図 -1 無線端末によるアドホックネットワーク. Apple 社の最新の PC にランデブーという名称で搭載さ れている.また Bluetooth という短距離無線の規格では, たとえば利用する周波数帯域を変えずに通信スピードを. 各無線モジュールにあらかじめ固有の BD アドレスと呼. 上げようとすれば,ビットエラー率を低く抑えるために. ばれる識別子を付与しておき,これを用いてアドホック. 通信距離は短くせざるを得ない.この際,同時に通信距. ネットワークを形成することで問題を解決する.またマ. 離を長いまま保とうとすれば消費電力を上げて高い出力. ルチホップ環境では,IP Auto Configuration などの仕. で電波を送出することになる.しかし出力の上限は電波. 組みが提案されているが,まだ検討が始まったばかりで. 法によって厳密に制約されており,簡単には上げること. あり,最終的な解決策は定まっていない.. ができない.そこで消費電力の低減と通信スピードの向.  このように,アドホックネットワークは,近年の新. 上を優先し,代わりに通信距離を短く抑える道を選択す. しい短距離無線メディアに着目して,マルチホップによ. る.そして短い通信距離の限界をマルチホップで克服し. る距離の延長と,アドホックによる即時的なネットワー. ようと考える.. ク構築の問題に取り組んでいる.アドホックネットワー.  マルチホップをサポートするアドホックネットワー. クにおいては末端のデバイス同士で自律的かつ局所的な. クでは,中継機能を持つ各端末として主に携帯電話や. 無線網を形成する.このため理論的には基地局設置コス. PC ,PDA ,専用機器が想定されている.そのため端末. トを限りなくゼロに近づけることができ,従来の設備投. 自体の移動やバッテリー切れなどによって,これまでデ. 資型通信事業モデルとは根本的に異なる無線通信サービ. ータを中継してくれていた端末が突然利用できなくなる. スを提供できる可能性を秘めているといえる.またアド. ことも予想される.その場合,可能な限り素早く別の中. ホックネットワークは,特定のアプリケーションに依存. 継ルートを形成する必要があるのだが,従来のインター. しない汎用的なネットワーク技術であるため,無線メデ. ネットにおける経路制御技術では,アドホックネットワ. ィアを選択的に組み合わせることでさまざまな応用が可. ークが想定するような激しいトポロジの変化に追随でき. 能である.有線の世界では一足先にインターネットが普. ない.そこで,より動的で迅速な経路制御技術の確立が. 及したが,無線の世界でもインターネット型のネットワ. 主な課題となってくる.アドホックネットワーク環境で. ークがようやく実用化されつつあるということに期待し. の経路制御についてはすでにさまざまな研究と提案がな. たい.. 1). されており, 主に MANET(Mobile Ad-hoc NETwork) WG が主体となって標準化作業が進められている.. ●標準化動向●  IETF の MANET(Mobile Ad-hoc Network)WG. 「アドホック」であることの難しさ  またアドホックネットワークは,その名前が示す通. にて,アドホックネットワークに関する標準化が進め. り,その場限りの即時的な(=アドホックな)ネットワ. られている.初期の段階では,数多くのルーティング. ークを構成し,端末間でのデータ通信を可能にする.し. 方式がドラフトとして提案され. かし, たとえばインターネットで用いられる IP(Internet. スの問題などが討論された.その後,コアプロトコル. Protocol)にアドホックネットワークを適用すると,以. と し て 4 つ の 方 式(AODV, DSR, OLSR, TBRPF) が. 下のような根本的な問題が発生する.. EXPERIMENTAL RFC と し て IESG(Internet Engi-. 1 .複数の端末の IP アドレスをいかにユニークに割り. neering Steering Group)に提出されている.今後は,. 振るか. 2),3). ,パフォーマン. セキュリティや輻輳制御についても取り組んでいくよう. 2 .IP アドレスをユニークに割り振ったとして,端末と. である.一方,IRTF の Ad hoc Network Scaling(ANS) IPSJ Magazine Vol.44 No.10 Oct. 2003. −2−. 1053.

(3) アドホックネットワーク向けルーティングプロトコル. � :送信元ノード S フラット型 テーブル駆動型 (プロアクティブ型). 階層型. オンデマンド型 (リアクティブ型). ���. ���. ����� �������. �※��. ����. ����. ����� ��� ・・・. ���. 位置情報補助型. ���� ������. ����. ���. � :��� (���������������) ノード M. ・・・. ���� ・・・. � M. �. � M. S�. ���� ��� ・・・. ハイブリッド型. ※�. 斜体太文字は����のコアプロトコル ※�. ���はハイブリッド型方式でもある. ��� 従来のフラッディング. ��������. 図 -2 アドホックネットワーク向けルーティングプロトコルの分類. ��� ���によるフラッディング. 図 -3 MPR によるフラッディングの効果. リサーチグループにて,大規模ネットワークへの適用へ. 全クラスの問題となるため,OLSR では最適性にはこだ. 向けてスケーラビリティの検討が開始された.. わらずに,効率的にある程度よい解を導くアルゴリズ ムが提案されている.また,ノード間で交換されるトポ. 分 類. ロジ情報は MPR セレクタ集合から構築されたものであ.  アドホックネットワーク向けルーティングは,大きく. り,実際のリンクよりも少ないリンクを用いることで,. はテーブル駆動型(プロアクティブ型)とオンデマンド. 交換するトポロジ情報量を削減できる.. 型(リアクティブ型),それらのハイブリッド型に分類. (b) TBRPF (Topology Broadcast Based on Reverse Path. される.また, その構造的特長から, フラット型,階層型, 4). Forwarding). 位置情報補助型といった分類もされており ,コアプロ.  TBRPF も LS 型のプロトコルであり,トポロジ情報. トコル群の各方式は,フラット型に属する(図 -2).. の配布に逆方向パス転送(Reverse Path Forwarding, RPF)のアイディアを用いている.TBRPF は隣接ノー. テーブル駆動型ルーティング. ド探索モジュールとルーティングモジュールの 2 つから.  各ノードがネットワーク内の他ノードと経路に関す. 構成される.隣接ノード探索モジュールでは,変更のあ. る情報(トポロジ情報)を定期的に交換し,あらかじめ. った隣接ノード情報のみを報告する差分 HELLO メッセ. 経路表を作成する方式である.DSDV, OLSR, TBRPF,. ージを周期的に送信する.この HELLO メッセージには. FSR などがある.経路構築の手法として,距離ベクト. 複数の種類が用意されており,安定した双方向リンクを. ル型(DV 型)やリンク状態型(LS 型)等が用いられ. 選び出す仕組みが備わっている.各ノードはすべての到. ており,DV 型は有線のルーティング方式である RIP で,. 達可能なノードへの最小ホップ経路を提供する,送信元. LS 型は OSPF で用いられている方式である.. 木(source tree)を計算する.隣接ノードへは,その. (a) OLSR (Optimized Link State Routing Protocol). 送信元木全体ではなく,その一部のみを隣接通知するこ.  LS 型のルーティング方式であり,周期的にトポロジ. とでオーバヘッドを削減している.トポロジ情報は周期. 情報をネットワーク内の他のノードと交換する.OLSR. 的だけでなくリンクに変更があった場合にも送信され,. の特徴は,トポロジ情報をネットワーク内の全ノードに. トポロジの変化にすばやく対応する.. 伝えるための「フラッディング(flooding) 」を効率よく 行うためのプロトコルである MPRs(multipoint relays). オンデマンド型ルーティング. にある..  オンデマンド型は,実際にデータ送信が発生した際に.  MPRs では,定期的に隣接ノード情報等を含むパケッ. 経路を構築することで,経路形成のオーバヘッドを軽減. トを送出し,結果,2 ホップ先までのノード情報を知る. させる方式である.反面,経路探索のために,データ送. ことができる.その情報から,すべての 2 ホップ先のノ. 信可能になるまでに少しの時間が必要となるが,経路の. ードにパケットを転送可能な最小数の隣接ノードの集. キャッシュを利用することでその欠点を補っている.. 合である,MPR 集合を決定する.この MPR 集合に含. (a) DSR (Dynamic Source Routing). まれるノードのみがトポロジ情報を転送することによっ.  DSR はその名前からも分かるようにソースルーティ. て,発生するトラフィック量を削減できる(図 -3).し. ング(始点経路制御)がその基本方式となっている.ソ. かしながら,最適な MPR 集合を見つけることは NP 完. ースルーティングとは,データを送出するノードにお. 1054. 44 巻 10 号 情報処理 2003 年 10 月. −3−.

(4) その他の方式 (a) ハイブリッド型 ノード�と通信したい. �.  ハイブリッド型はオンデマンド方式とテーブル駆動方. �. �. �. �. �. � �. � �. ��� 経路要求の伝播. 式を併用するもので,ZRP や DECENTRA がこれにあ. �. �. �. �. たる.ZRP ではゾーンという概念を導入し,ゾーン内. � ノード�は私です. ではプロアクティブ方式にて経路形成を行い,ゾーン外. �. �. のノードへはゾーンの境界にいる端末がオンデマンド方. �. 式で経路探索を行う. (b) 階層型. ��� 経路応答の返送.  ネットワークのサイズが増大した場合,制御パケット の増加等により,フラット型のルーティングでは,機能. 図 -4 オンデマンド方式での経路探索. しなくなることが考えられる.そこで,クラスタリング 等によってネットワークに階層を持たせることが検討さ いて終点までの経路を決定し,中継ノードがその経路に. れている.LANMAR や CGSR などがこれにあたる.. 従って順次終点までデータを転送する方式である.DSR. (c) 位置情報補助型. は 2 つのフェーズ,経路探索と経路維持から構成される..  各ノードが GPS 等の位置情報が検出可能な機器を有. 宛先への経路が存在しない場合には,経路要求パケット. している場合に,その位置情報を利用して経路形成を. をブロードキャストすることで経路探索を開始する.ル. 効率よく行うものであり,LAR, GPSR などがこれにあ. ート要求パケットを受信したノードは,宛先へのルート. たる.. をすでに知っているかを確認する.もし,知らないので. (d) 複数経路(マルチパス)型. あれば,自分のアドレスを経路要求パケットの経路レコ.  複数の経路を選択可能にするマルチパス方式も検討さ. ードへ付け加え, パケットを転送する (図 -4 (a) ) .ただし,. れている.複数経路を構築することで,経路探索回数の. 受信した経路要求パケットの経路レコードに,すでに自. 削減や,パケットの到達率の向上が期待できる.. 分のアドレスが存在する場合は,その経路要求パケット を破棄し,無駄な経路要求パケットを削減している.経. ●まとめ●. 路要求パケットが宛先ノード自身,もしくは,宛先への 有効な経路を経路キャッシュ内に持つ中間ノードに到達.  前編ではまずアドホックネットワークの概要を説明し. した場合に,経路応答パケットを生成し,経路レコード. た.アドホックネットワークにはマルチホップとアドホ. の情報を設定して,送信元へ送り返す(図 -4(b)).通. ックという 2 つの性質があり,それぞれに経路制御や名. 信リンクに致命的な問題が発生した際に,経路エラーパ. 前解決など固有の技術的課題があることを述べた.次に. ケットが生成され送信元へと返される.. 標準化動向として,IETF における MANET の取り組. (b) AODV (Ad Hoc On-Demand Distance Vector Routing). みを紹介した.MANET は主に無線 LAN を用いた IP.  AODV は,DSR とは異なり,ホップバイホップ経路. ネットワークを対象として,経路制御の問題を解決しよ. 制御手法を用いており,各ノードにおいて直接通信可能. うと試みており,その方式にはテーブル駆動型やオンデ. な次の転送先の経路を決定する.新しい送信先への経路. マンド型などいくつかの分類があることを述べた.次号. が必要になった場合に,送信元からルート要求メッセー. の後編では,アドホックネットワークの具体的な製品,. ジ(RREQ)が送信され,RREQ を受信したノードは,. 研究事例を紹介する.. その送信者である隣接ノードのアドレスをルートテーブ ルに記録して,逆経路を形成し,宛先ノード自身もしく. 前編参考文献 1)Mobile Ad-hoc Network(MANET), http://protean.itd.nrl.navy.mil/manet/manet_home.html 2)Perkins, C. E.: AD HOC NETWORKING, Addison Wesley(2001) . 3)Toh, C. K. 著 : 構造計画研究所訳 : アドホックモバイルワイヤレスネ ットワーク−プロトコルとシステム , 共立出版(2003). 4)Xiaoyan, H., Kaixin, X. and Mario, G.: Scalable Routing Protocols for Mobile Ad Hoc Networks, IEEE Network, pp.11-21(July 2002) .. は宛先ノードへの経路を保持するノードが受信するまで メッセージを転送する.次にそれらのノードは,経路応 答メッセージ(RREP)を送信元へと送信する.RREP は RREQ によって作成された逆経路をさかのぼって送信. (平成 15 年 7 月 29 日受付). され,その際に RREP を受信したノードが正方向の経路 を作成する.リンクの切断を検知したノードは,送信元 ノードへ経路エラーメッセージ(RERR)を送出し,そ れによって各ノードが経路の無効を知ることができる.. IPSJ Magazine Vol.44 No.10 Oct. 2003. −4−. 1055.

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参照

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