• 検索結果がありません。

京都「佰食屋」のビジネスモデルから 考える中小企業の生産性向上の可能性

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "京都「佰食屋」のビジネスモデルから 考える中小企業の生産性向上の可能性"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

京都「佰食屋」のビジネスモデルから

考える中小企業の生産性向上の可能性

Possi

bi

l

i

t

y

of

t

he

Product

i

vi

t

y

I

mprovement

of

SMEs

Thi

nki

ng

f

rom

Busi

ness

Model

of

Di

ni

ng

Room“Hyakushokuya”of

Kyot

o

小堺 光芳

KOZAKAIMitsuyoshi 要旨:少子高齢化社会による人口減少を迎え、その対策の一つに生産性の向上が挙げられる。だ が日本には中小企業が多く、またその生産性の向上に向けた改革の歩みは遅い。規模の拡大が困 難な時代を迎える中で京都の飲食店「佰食屋」のビジネスモデルは、今後の日本の新たな可能性 を切り開く可能性があると考え報告を行う。 キーワード:ビジネスモデル、生産性の向上、人口減少 1.はじめに  人口減少の始まった日本において、生産性の向上は急務であり時間的な余裕は少ない。本報告 では、人口減少によるGDPの減少を防ぐために、生産性の向上が不可欠であること、特に中小 企業における低生産性の改革は喫緊の課題であり、その重要性について述べる。さらになぜ日本 において中小企業の改革が進みにくいのか、その原因と解決方法を提案する。日本の中小企業の 生産性を改善し、さらに働き方の多様性をもたらす可能性のあるビジネスモデルに挑戦している、 京都の飲食店「佰食屋」に注目し、その可能性について論じる。

(2)

2.規模経済と生産性  人口の減少が続く日本において、経済力の維持・増加は社会の大きな課題である。世界に向け た日本の影響力を維持し、国民の安全を守るためにも経済力の低下は許されない。少子高齢化に よる経済力の低下を防ぐ手段には、移民の受け入れ、出産・育児環境の見直し、生産性の向上な どが必要である。だが移民の受け入れには社会保障含め課題は多く話し合いは不十分であり、出 産・育児は環境整備や効果を得られるまでに長い期間を必要とする。すると生産性の向上を進め ることは日本の経済力の維持・向上のための喫緊の課題であると考えられる。 2 1 生産性の向上がもたらす効果  GDPの三面等価の原則からGDPは国民所得でもあるため、GDPを人口で割った一人当たりの GDPは「ほぼ国民の平均所得を表す」1ため以下の計算式が成り立つ。 計算式1:GDP=国民の平均所得×人口  上記の式から、2013年より人口減少2を迎えた日本において「人口の減少」を「国民の平均所 得の増加」で補う必要があることがわかる。この生産性についてデービット・アトキンソンによ れば3「日本の人口はドイツの人口の約1.5倍です。ならば、普通に考えたら同じ先進国として GDPは1.5倍になっていなければおかしいのですが、現実は1.28倍しかありません……省略……た だ一つだけ、日本とドイツで歴然とした大きな差が開いていることがあります。それが『生産 性』です」と述べている。 .

(3)

 生産性のキーワードは「規模の経済」である。規模の経済を働かせることで、コスト4は減少 する。コストの減少は生産性の向上を意味する。企業の規模が大きくなるほど「規模の経済」が 働くことは、厚生労働省のデータからも読み取ることができる。以下の表1及び表2から企業の 規模が大きくなるに従い、所得・休日ともに増加していることがわかる。  生産性の向上は「単位時間当たりの生産量の増加」につながり、それは「少ない時間で同量の 仕事ができる」ことと同義である。このことから生産性の向上は「① 所得の増加」と「②休暇 の増加」の可能性を高めると言える。 GDPの「計算式1」における、人口の減少を補うだけの生産性の向上を達成することができれ ば、少子高齢化社会においてもGDPの維持・増加は期待できる。 表1 企業規模、性別賃金、対前年増減率及び企業規模間賃金格差の推移 労働者1人平均 取得率3) (%) 労働者1人平均 取得日数2) (日) 労働者1人平均 付与日数1) (日) 性・企業規模・産業・年 51.1 9.3 18.2  平成30年調査計 47.5 8.9 18.7      男 57.0 9.8 17.2      女 58.4 11.2 19.1 1,000人以上 47.6 8.6 18.0 300~999人 47.6 8.4 17.7 100~299人 44.3 7.7 17.5 30 ~ 99人 表2 労働者1人平均年次有給休暇の取得状況 出典:厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査の概況 第4−1表」より 出典:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査の概況 第5表」より一部抜粋

(4)

2 2 企業規模とリスクの知覚  企業が生産性を向上しようと改革を実行する際にはリスクが発生する。だがそのリスクに対し て、知覚される程度は企業の規模によって異なるだろう。  ジョセフ・スティグリッツ教授によれば5「米連邦準備制度理事会(FRB)の長期に及ぶゼロ 金利政策と債券購入策について、すでに大きかった国内の格差をさらに拡大したと主張してい る」、その中で「資本家とライフサイクルに合わせて貯蓄する人では、保有資産の構成が異なる。 このため、資本家が保有する資産へ特異的に恩恵を与える政策は、不均衡の拡大につながる」、 さらに「低・中所得層は主に確定利付資産に頼るが、高所得層は株式やリターンの高い高リスク 資産に投資する傾向がある」とも述べている。  低金利政策が富裕層に有利に働き、低・中所得層に不利に働く原因は、資産の大小に左右され、 資産の大きさに反比例してリスクは小さくなるはずである。なぜならば、富裕層と低・中所得層 では損失を出した場合、その損失額の資産における割合が異なり、また損失に対する回復力も異 なるためである。つまり「リスクに対する知覚の程度は、保有する資産・資源の大きさに左右さ れる」と考えられる。  個人だけでなく、企業においてもリスクの知覚は同じであるとすれば、企業規模に応じてリス クの知覚は異なり「企業の規模の大きさに反比例してリスクは小さくなる」はずである。 3.日本における中小企業と求められる改革  すでに述べた通り「企業の規模の大きさに反比例してリスクは小さくなる」のであれば、日本 における中小企業の現状を確認する必要がある。日本の中小企業数は全企業の99.7%(2016年)、 従業者数は全体の68.8%(2016年)も占めているにも関わらず、その付加価値額は全体の52.9%に 過ぎない。さらに小企業では全企業の84.97%(2016年)、従業者数は全体の22.3%(2016年)を 占めているが、付加価値額は全体の14.09%に過ぎない6。こうしたデータは先にも触れた通り、 中小企業の低生産性を表している。 3 1 求められる改革  日本における中小企業の低生産性とその企業数の割合は確認できたが、現状のままでは人口減 少に対抗することはできない。デービット・アトキンソンは7『その本当の原因』とは、『規模 . .

(5)

が小さすぎる中小企業が多すぎる』というものです。……省略……また最近では先進国の国別生 産性の違いというのも究極的には、その国の企業規模構成次第という分析もあります。……省略 ……従業員が増えれば、研修などの人材開発も行えますし、研究開発への投資もより可能となり ます。このように『企業の規模』が大きくなれば、それだけ生み出す付加価値も上がって生産性 が向上していくというわけです」と述べている。求められる改革を実現するためには、中小企業 の割合を下げかつ企業規模を拡大する必要がある。だが中小企業同士の合併や資本の追加投資を 行うといった改革へのインセンティブは正しく機能しているのだろうか。 3 2 改革のインセンティブ  中小企業の数を減らし、企業規模を拡大するべきであるとデービット・アトキンソンは述べて おり、そのためには日本における中小企業が規模を拡大するインセンティブをより強く働かせな ければならない。だが現状では規模を拡大しないインセンティブの方がより強く働いている。 デービット・アトキンソンによれば8、その理由は中小企業に対する優遇策にあり「その代表的 なものが(1)法人税率の軽減、(2)交際費の損金処理、(3)外形標準課税の軽減及び法人 事業税の減税、(4)少額減価償却資産、(5)繰越欠損金など」であるとし、「日本のミクロ 企業は、『成長するインセンティブ』よりも『成長しないインセンティブ』の方が上回ってし まったとも言える」と述べ9、日本の生産性の低さの原因としている。  これまでのことから日本における経済の生産性を高めるためには、全企業の99.7%を占める中 小企業には、その企業規模を拡大するという改革が求められる。だが、中小企業が規模を拡大す る際に、経営資源の乏しさからリスクは大きく知覚され、また実際のリスクも大きいため、改革 が進まないことが予想される。しかし日本の人口減少の速さから、改革を待つ時間的な余裕は少 ない。 4.リスクと新たなビジネスモデル  中小企業が規模を拡大するときそのリスクは大きく、意思決定は難しい。生産性の向上はすで に2-1で述べたが、これを整理すると「a.同時間でより多くの仕事ができる」(以下、「a」 と表記)と「b.少ない時間で同じ量の仕事ができる」(以下、「b」と表記)に分けられる。こ の「a」と「b」はともに生産性の向上である。だが、そのリスクは等しいのだろうか。 .

(6)

4 1 リスクの比較  生産性を向上させるときに、大きなリスクが伴うのは規模を拡大させるときの投資である。こ の投資を利益により回収できないときに廃業のリスクが高まる。先の2つを比べたとき「a」に よる生産性向上では、従業員や設備への投資が必要となることが多い。一方の「b」による生産 性向上では、「a」よりも、従業員や設備への投資をせずに目的を達成できる可能性が高い。ゆ えに「a」と「b」を比較したとき、投資面からのリスクは「a」の方が「b」よりも大きい。中 小企業が生産性を向上させるとき「a」よりも「b」を選択することで、リスクは低下する。  「b」を選択することは、売上高を増加させずに、目標に達成するまでの時間を短縮させるこ とである。それは生産性の向上であり、「b」を選択した中小企業が増えることも、日本のGDP の維持・増加に貢献するはずである。 4 2 佰食屋のビジネスモデル  「b」を追求した成功事例として京都の飲食店「国産ステーキ丼専門店 佰食屋」(以下、佰食 屋と表記)がある。この佰食屋について中村社長は10「ステーキ丼をはじめ、メニューは3つの み。『1日100食限定』で、売り切れたら店じまいです。おかげさまで、平日でも土日でも、た くさんのお客様にお越しいただいて、あっという間に売り切れです。よく、こんなことを言われ ます。『昼だけじゃなくて、夜も営業したらいいのに』『せっかくだから500食くらいつくればい いのに』。でも、1日で売るのは絶対に100食だけ、はじめからそう決めていたのです。」と述べ、 さらに「佰食屋の目標は、とてもシンプルです。本当においしいものを100食売り切って、早く 帰ろう。たったそれだけです。」11とも述べている。佰食屋は10坪14席、メニュー構成から客単価 は最低でも1000円12、定休日は水曜日のみ店舗12であることから、以下の計算式2を立て、坪月 商は25万円と推定した。 計算式2:坪月商(250,000円)=1,000円×100食×営業日25÷10坪  一般的に飲食店の坪月商の目安は通常店は10万円、繁盛店は30万円と言われることから、坪月 商の面からは佰食屋の繁盛店にわずかに及ばない。しかし100食限定で達成しており、また回転 率は「7.14」を超え、稼働率13はほぼ「100%」であることから、大繁盛店とも判断できる。 . .

(7)

計算式3:回転率(7.14)=100食÷14席  佰食屋には、100食という「制約」により以下の5つのメリット14が生まれた。  メリット1:「早く帰れる」退勤時間は夕方17時台  メリット2:「フードロスはほぼゼロ化」で経費削減  メリット3:「経営が究極に簡単になる」カギは圧倒的な商品力  メリット4:「どんな人も即戦力になる」やる気に溢れている人なんていらない  メリット5:「売上至上主義からの解放」よりやさしい働き方へ  佰食屋のビジネスモデルでは従業員の名目給与を増やすことは困難だが、忙しければ忙しいだ け早く帰宅できることは実質給与の増加である。このビジネスモデルは、単位時間あたりの生産 性が極めて高く、規模の拡大を抑えても生産性を向上させることができる可能性を示唆している。 4 3 新たなビジネスモデルの可能性  日本の99.7%を占める中小企業の生産性を高めることは急務である。だが経営資源の乏しい中 小企業にとって、規模の経済による生産性向上に伴う投資のリスクは強く知覚される。さらに優 遇策により、「成長するインセンティブ」よりも「成長しないインセンティブ」の方が上回って いると考えられる日本において、中小企業の生産性向上には困難が予想される。  だが生産性の向上にも2つあり、よりリスクの低い「b.少ない時間で同じ量の仕事ができ る」によって生産性を大きく向上させることができれば、日本のGDPの維持・増加に貢献するは ずである。佰食屋の挑戦は「新たなビジネスモデルの誕生」の可能性を感じさせる。  現在、佰食屋は「佰食屋1/2」15を展開し、新たな挑戦をしている。生産性向上と働き方の 多様性を同時にもたらす可能性がある佰食屋について、今後、より深く探求していきたい。 5.おわりに  本研究において佰食屋の挑戦は、よりリスクの低い生産性向上の方法と働き方の多様性をもた らす可能性を秘めていることがわかった。だが、飲食以外に適用できるのかは不明である。  今後、佰食屋の経営について従来の経済理論や経営理論でどのように説明できるのか、より深 く研究を試みたい。また佰食屋以外にも中小企業で行われているさまざまな生産性向上の実現方 .

(8)

法についても調査研究を進めていきたい。特に中小企業の中でも人手不足と言われている飲食店 業界の改革を中心に進める予定である。 注 1.三橋規宏、内田茂雄、池田吉紀、岡田任弘(1993)『ゼミナール日本経済入門』日本経済新聞社, p.119においてはGDPではなくGNPで説明しているが「ほぼ国民の平均所得を表す」ことはGDPに おいても同様であると考えた。 2.厚生労働省「統計白書 第1編 人口・世帯 第1章 人口 第1-3表」 3.デービット・アトキンソン(2019)『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国にな るか』講談社,pp.35-36. 4.コスト=時間とお金

5.THE WALL STREET JOURNAL.(Japanese)『FRBのゼロ金利政策は格差助長=スティグ リッツ氏』 6.中小企業庁(2019)『中小企業白書 平成30年版:令和時代の中小企業の活躍に向けて』「中小企業 白書・小規模企業白書について」,p.ⅻ. 7.デービット・アトキンソン,前掲書,pp.87-89. 8.デービット・アトキンソン,前掲書,p.117. 9.デービット・アトキンソン,前掲書,p.128. 10. 中村朱美(2019)『売り上げを、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』ライツ 社,p.20. 11. 中村朱美,前掲書,p.27. 12. 佰食屋のホームページ「佰食屋メニュー」構成より推測 13. 中村朱美,前掲書,p.65.「朝9時半から整理券の配布」から100%と推測 14. 中村朱美,前掲書,pp.72-73. 15. 中村朱美,前掲書,p.232.「1日50食なら、たった二人しかスタッフがいなくても、売り切るこ とができる」オペレーションの模索

(9)

参考文献 デービット・アトキンソン『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』講談 社,2019. 中小企業庁『中小企業白書 平成30年版:令和時代の中小企業の活躍に向けて』「中小企業白書・小規模 企業白書について」,2019. 中村朱美『売り上げを、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』ライツ社,2019. 三橋規宏、内田茂雄、池田吉紀、岡田任弘『ゼミナール日本経済入門』日本経済新聞社,1993. THE WALL STREET JOURNAL.(Japanese)『FRBのゼロ金利政策は格差助長=スティグリッツ

氏』https://jp.wsj.com/articles/SB11098407163782254164904581028874144587468,2019/12/12. 厚生労働省「統計白書 第1編 人口・世帯 第1章 人口 第1-3表」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/youran/indexyk_1_1.html,2019/12/9.

厚生労働省「企業規模、性別賃金、対前年増減率及び企業規模間賃金格差の推移 第4-1表」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2018/dl/13.pdf#search=%27 %E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81+%E8%A6%8F%E6%A8%A 1+%E7%B5%A6%E4%B8%8E%27,2019/12/12.

厚生労働省「平成 30 年就労条件総合調査の概況 第5表」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/dl/gaikyou.pdf#search=%27 %E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81+%E8%A6%8F%E6%A8%A 1+%E6%9C%89%E7%B5%A6%27,2019/11/4.

参照

関連したドキュメント

にしたいか考える機会が設けられているものである。 「②とさっ子タウン」 (小学校 4 年 生~中学校 3 年生) 、 「④なごや★こども City」 (小学校 5 年生~高校 3 年生)

バックスイングの小さい ことはミートの不安がある からで初心者の時には小さ い。その構えもスマッシュ

線遷移をおこすだけでなく、中性子を一つ放出する場合がある。この中性子が遅発中性子で ある。励起状態の Kr-87

「必要性を感じない」も大企業と比べ 4.8 ポイント高い。中小企業からは、 「事業のほぼ 7 割が下

CSR 先進中小企業 

上であることの確認書 1式 必須 ○ 中小企業等の所有が二分の一以上であることを確認 する様式です。. 所有等割合計算書

RE100とは、The Climate Groupと CDPが主催する、企業が事業で使用する 電力の再生可能エネルギー100%化にコ

 今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ