山梨医科大学における小児心臓カテーテル治療の現状
川 田 康 介,駒 井 孝 行
1),杉 山 央
丹
哲 士,角 野 敏 恵,中 澤 眞 平
山梨医科大学小児科学教室,1)山梨医科大学救急部 要 旨:先天性心疾患に対するカテーテル治療は,バルーンを用いた弁や血管の拡大術,コイルを 用いた血管塞栓術などが行われている。小児領域では成人領域に比較してカテーテル治療はやや遅 れて導入されたが,現在では循環器疾患の診療上欠くことのできない分野になりつつある。今回, 山梨医科大学小児科で行われている心臓カテーテル治療の実施件数,種類,適応などについて後方 視的に検討し,当科における心臓カテーテル治療の役割について考察した。その結果,心臓カテー テル治療の適応および実施件数が年々増加傾向にあることがわかり,またステント留置術やカテー テル・アブレーションなど新しい治療法も導入されてきており,当科において心臓カテーテル治療 が重要な手技として浸透しつつあることが示された。以上,山梨医科大学小児科における心臓カテ ーテル治療の現状と展望について報告した。 キーワード 心臓カテーテル治療,バルーン形成術,コイル塞栓術,カテーテル・アブレーション, ステント Ⅰ.緒 言 小児循環器病学における心臓カテーテル治療 の進歩はめざましい。この方法は,心臓カテー テル手技を治療手段として用い,比較的少ない 侵襲で心臓手術に代わる治療効果をあげようと するものである1)。1966 年の Rashkind の新生 児期完全大血管転位に対するバルーン心房中隔 裂開術の開発2)に始まり,その後相次いで幾 多の手技が発表されたが,末梢性肺動脈狭窄や 大動脈縮窄術後狭窄に対するバルーン拡大術な どすでに確立された治療法も少なくない3,4)。 山梨医科大学小児科(以下,当科)においても, その適応および症例数は年々増加の一途をたど っているが,今回当科における心臓カテーテル 治療の現状と展望について検討したので報告す る。 Ⅱ.対象と方法 対象は 1985 年 7 月から 2000 年 12 月までの 間に当科で心臓カテーテル治療を施行された計 83 例(男児 44 例,女児 39 例)である。心臓カ テーテル治療施行時の年齢は生後 2 日から 15 歳(平均 2 歳 4 ヶ月)。同一患児に対してバル ーン拡大術を複数回試みた場合があり,心臓カ テーテル治療ののべ症例数は計 89 例である。 心臓カテーテル治療の種類は大きく,弁や血 管の狭窄性病変に対するバルーン拡大術,動脈 管開存症や体肺側副血管に対するコイル塞栓 術,さらに不整脈に対するカテーテル・アブレ ーションなどに分類することができる。今回, 対象症例を年度別推移,心臓カテーテル治療の 〒 409-3898 山梨県中巨摩郡玉穂町下河東 1110 受付: 2001 年 6 月 5 日 受理: 2001 年 1 月 23 日臨床研究
種類,バルーン拡大術の部位,バルーン法別に 分類し,その実施件数,適応,成功率,合併症 などについて後方視的に検討した。 Ⅲ.結 果 A.心臓カテーテル治療の年度別推移(図 1) 総心臓カテーテル検査数は年々増加してお り,最近の 4 年では年間 80 例以上に達してい る。それに伴って心臓カテーテル治療数も少し ずつであるが増加傾向にある。特に,1997 年 以降は年間 10 例以上心臓カテーテル治療が施 行されている。 B.心臓カテーテル治療の種類 当科で施行されている心臓カテーテル治療の 種類を示す(表 1)。血管や弁の狭窄性病変に 対するバルーン拡大術が 44 例(49 %),動脈 管開存症(PDA)や体肺側副血管に対するコイ ル 塞 栓 術が 11 例(12 %),心房中隔裂開術 (BAS)が 10 例(12 %)で,これらが全体の 73 %を占める。BAS が施行された 10 例の対象 疾患は,完全大血管転位が 7 例,肺動脈閉鎖が 2 例,Taussig-Bing 奇形が 1 例であった。その 他,学童期の薬剤抵抗性頻脈性不整脈に対して カテーテル・アブレーションも施行されてい る。小児科領域におけるカテーテル・アブレー ションは 2000 年度から導入されており,これ までに計 8 例(発作性上室性頻拍症: 4 例,心 室頻拍: 2 例,WPW 症候群: 2 例)施行され ている。1 例で焼灼不十分のため不整脈の再発 図 1.心臓カテーテル治療の推移 表 1.心臓力カテーテル治療の種類 種類 係数 バルーン拡大術 44 例 49 % コイル塞栓術 11 例 12 % 心房中核裂開術(BAS) 10 例 11 % その他 24 例 27 % 計 89 例
を生じたが,他の 7 例は成功している。 C.バルーン拡大術の部位 狭窄性病変に対するバルーン拡大術の適応基 準は,肺動脈狭窄に起因する高右室圧(右室収 縮期圧 60 mmHg 以上),狭窄部位前後の圧較 差 30 mmHg 以上,狭窄に起因すると思われる 症状がある場合,とした。 バルーン拡大術が施行された狭窄部位を,肺 動脈弁・肺動脈本幹・末梢肺動脈・肺静脈・ Blalock-Taussig(BT)短絡・大動脈縮窄症,に 分 類 し , 当 科 に お け る 集 計 を 示 す ( 表 2)。 Jatene 術後の狭窄を含む末梢肺動脈の狭窄が 15 例と多く全体の 34 %を占めている。Jatene 術後は主幹部から分岐部の狭窄が多く,Jatene 手術以外の症例は分岐部より末梢の狭窄が多か った。 バルーン拡大術成功の定義を,狭窄部径が拡 大前の径の 50 %以上増加しているか,または 圧較差が半分以下になったときとした場合,当 科における成功率は 65 %であった。 D.バルーン法 経皮的バルーン肺動脈拡大術においては,通 常のシングルバルーン法以外に,両側鼠径部か ら 2 本のカテーテルを挿入するダブルバルーン 法がある。ダブルバルーン法の対象は,弁輪径 の大きな症例や心不全合併例などである。ダブ ルバルーン法を施行するときのバルーンの選択 は,2 つのバルーンの半円周の和と接線を結ぶ 直線の 2 倍の和に相当した円周をもつもう 1 つ のバルーンを想定し,弁輪径と比較しバルーン を選択する。当科ではこれまでに,シングルバ ルーン法がのべ 32 例,ダブルバルーン法がの べ 8 例施行されている。ダブルバルーン法施行 例では,いずれの症例においても,動脈血酸素 飽和度の低下や徐脈を呈することなくカテーテ ル治療を行うことができた。 E.PDA コイル塞栓術の推移(図 2) PDA の最小内径が 5 mm 未満で,かつ合併心 奇形がないような PDA に対しては,現在コイ ル塞栓術を第一選択の治療法としている。当科 における PDA に対するコイル塞栓術は 1997 年 より行われており計 11 例施行された。2000 年 度も心臓カテーテル治療 26 例中の 6 例でおよ そ 4 分の 1 を占めた。合併症として 1 例に溶血 性貧血を認めた以外は,留置不能,有意な残存 短絡等はみられておらず,高い成功率を示して いる。 F.心臓カテーテル治療の合併症 心臓カテーテル治療に伴う合併症は,80 例 中 2 例(2.5 %)にみられた。1 例は肺動脈弁 バルーン拡大術時の右室穿孔であり緊急外科手 術が施行された。他の 1 例は PDA コイル塞栓 術後に出現した溶血性貧血である。本合併症は, 閉鎖栓周囲からの残存短絡のために機械的溶血 をきたすことで発症する。当科の症例では輸血 を要したものの経過中短絡が自然閉鎖すること で回復した。術後,高度の残存短絡のある症例 では,血算や LDH 値を確認することが必要で ある。 表 2.狭窄部位別のバルーン拡大術の例数 狭窄部位 症例数 (Jatene 術後) 肺動脈弁 9 例 (1 例) 20.5 % 肺動脈本幹 9 例 (8 例) 20.5 % 末梢肺動脈 15 例 (7 例) 34.0 % 肺静脈 6 例 14.0 % BT シャント 4 例 9.0 % 大動脈縮窄 1 例 2.0 % 計 44 例 (16 例)
Ⅳ.考 察 今回の調査で当科においても心臓カテーテル 治療が重要な手技として浸透しつつあることが 示された。心臓カテーテル治療の種類はおおむ ね他の施設と大差ない結果であるが,末梢性肺 動脈狭窄や大動脈縮窄術後狭窄に対するバルー ン形成術など比較的適応や手技が確立された分 野を中心に施行している。また少ないながら第 2 内科と共同でカテーテル・アブレーションを 施行している。不整脈に対する長期の薬物療法 には陰性変力作用・催不整脈作用・コンプライ アンスなどの問題があり,技術の向上に伴いカ テーテル・アブレーションの適応は拡大傾向に ある。 BAS は完全大血管転位に対する姑息的治療 法として導入された方法であるが,先天性心疾 患に対するカテーテル治療としては最も歴史の 古い手技である2)。当科においても,完全大血 管転位に対する第一段階の重要な治療として位 置づけられている。 血管や弁の狭窄性病変に対するバルーン拡大 術は,小児心臓カテーテル治療の中心をなすと 考えられ,今回の調査でも最も多くの割合を占 めた。適応や手技の面でかなり確立した部分は 多いが,ファロー四徴症の肺動脈弁拡大術,肺 動脈閉鎖の弁形成術など,その適応に課題を残 す疾患もある5,6)。ファロー四徴症に対する肺 動脈弁拡大術では,弁狭窄が解除されても弁下 狭窄が残存し肺血流量が必要なだけ増加しない 可能性が懸念されている。また,肺動脈閉鎖に おける弁形成術は,膜様肺動脈閉鎖であること や右室の大きさが十分であることなど,限定さ れた条件があり,かつ高度の手技を要する。こ れら 2 つの疾患における弁形成術は今後さらな る臨床的試行が必要と思われる。当科における 図 2.PDA コイル塞栓術の推移
バルーン拡大術の成功率は,これまでの報告と ほぼ異ならない。不成功の要因としては,バル ーンサイズが小さすぎたり,施行時期が遅れた りすることで,充分な内膜・中膜の断裂が得ら れないという理由が考えられる。この場合の対 策として,耐圧の高いバルーンカテーテルの使 用がある。ダブルバルーン法はシングルバルー ン法と異なり,肺動脈血流を完全に遮断しない ため,低血圧・徐脈・不整脈などの発生頻度が 少なく心不全例などに用いたい方法である7)。 また大口径のシースを挿入しなくてよいため乳 幼児の症例にも推奨される方法と考えられる。 しかし,本方法に要する人員は最低 3 ∼ 4 名が 必要であるという難点がある。 最近施行した注目すべき治療法としては,未 手術大動脈縮窄症(native CoA)に対するバル ーン縮窄拡大術がある。native CoA におけるバ ルーン拡大術では外科手術と比較して,再狭窄 や動脈瘤形成などの合併症が多いとされている が,当科の症例の場合初診時に重度の循環不全 を呈しており,開胸手術ではなくバルーン拡大 術を選択したことは適切な判断であったと考え られる。Shaddy ら8)は,36 例の native CoA に 対 し て prospective に randomized study を 行 い,バルーン拡大術と外科成績とを比較した。 それによると再狭窄および動脈瘤の頻度はバル ーン拡大術グループでは外科手術を行ったグル ープよりやや多い傾向があったが,その他の合 併症に関しては差がなく,バルーン拡大術は外 科手術に代わり得る治療法として充分受け入れ られるとしている。 今後当科において期待される心臓カテーテル 治 療 と し て は , Amplatzer septal occluder (AGA Corporation,Minnesota,U.S.A.)によ る心房中隔欠損閉鎖術,狭窄性病変に対するス テント留置術などがある9,10)。 近年,開心術による心房中隔欠損閉鎖術は殆 どの症例が無輸血手術で行われており,かつそ の安全性も極めて高い。しかし,術後の搬痕形 成や入院期間の問題など残された課題も少なく ない。その点,カテーテル治療による心房中隔 欠損閉鎖は患者にとって,身体的にも経済的に も大きな利点があると考えられる。現在,Am-platzer septal occluder が厚生労働省へ承認申 請中であるが,本法が承認されれば当科でも積 極的に導入したいと考えている。本方法により 心房中隔欠損症患者の約 7 割が適応になると予 想され,心房中隔欠損症患児にとって大きな福 音となると思われる。 ステント治療は,小児の対象は成人に比較し て相対的に少ないためメーカーも積極的に保険 の追加承認を得ようとしていないが,すでに成 人で使用されその有効性が実証されており,す みやかな承認が望まれる。我々も 2000 年 2 月 に心臓術後症例に緊急で使用し,術後早期にも 安全に施行することができた。現在,開発また は構想中の device として,形状記憶樹脂や体 内吸収性の物質等の非金属製のコイル,ステン トがあり,成長の問題がある小児でも使用でき る device が望まれている。また,複雑心奇形 に対しては外科手術と組み合わせることによ り,より安全で手術回数を少なくすることが可 能となる。当科でも右心バイパス術の前後で側 副血行路に対してコイル塞栓術を行い,術中人 工心肺中の cardiac return の減少,肺血圧の低 い値への維持,左右短絡の軽減という効果を期 待している11)。 今回の調査から,比較的少ない侵襲で効果が 得られる心臓カテーテル治療が,当科における 中心的治療法となりつつあることが示された が,心内修復前の症例で狭窄病変を解除したり 血管の発育を促したりする効果に関してはバル ーン拡大術は外科手術ほどの効果をもたないの で,適切に外科手術と組み合わせて治療を行う ことが重要であると考えられた。 心臓カテーテル治療の出現により,心臓カテ ーテル検査は診断的な役割から治療的な役割を 持つようになったといえる。この様な情勢の中 で我々がとるべき立場は,心臓カテーテル治療 に関する最新の知識と技術を持ちながら,常識 的でかつ科学的な裏付けのある適応基準を持つ ことではないかと考えられる。
文 献
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Rutten-berg HD, Jaffe RB, et al.: Comparison of angio-plasty and surgery for unoperated coarctation of the aorta. Circulation, 87: 793–799, 1993. 9) Thanopoulos BD, Laskari CV, Tsaousis GS:
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10) O’Laughlin MP, Perry SB, Lock JE, Mullins CE: Use of endovascular stents in congenital heart disease. Circulation, 83: 1923–1939, 1991. 11) Perry SB, Radtke W, Fellows KE, Keane JF, Lock
JE: Coil embolization to occlude aortopul-monary collateral vessels and shunts in patients with congenital heart disease. J Am Coll Cardiol,