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<原著>自動尿量測定装置の細菌汚染の実態と次亜塩素酸ナトリウム製剤と複合型塩素系除菌・洗浄用製剤の2種のワイプを用いた清掃効果の比較 利用統計を見る

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(1)

自動尿量測定装置の細菌汚染の実態と

次亜塩素酸ナトリウム製剤と複合型塩素系除菌・

洗浄用製剤の 2 種のワイプを用いた清掃効果の比較

Examination of bacterial contamination of automatic urine volume measuring devices

-Comparison of the cleaning effect of sodium hypochlorite-impregnated wipes and

chlorine-based sterilization cleaning wipes

窪川 佳世

1)

,田辺 文憲

2)

KUBOKAWA Kayo, TANABE Fuminori

要 旨

病棟で使用中の自動尿量測定装置 2 種のタッチパネル,尿投入口,扉下部を対象に拭き取り検査を行い, 一般細菌,大腸菌,緑膿菌の汚染調査を実施した。その結果,扉下部には多数の大腸菌と緑膿菌が検出された。 また,次亜塩素酸ナトリウム含浸の清掃用ワイプまたは複合型塩素系除菌・洗浄剤含浸の清掃用ワイプのい ずれかを用いて調査対象箇所の清掃を実施し,ワイプに含浸される成分の違いによる清掃の有効性を清掃 1,3, 7 日後で比較した。タッチパネルの複合型塩素系除菌・洗浄剤含浸ワイプによる清掃 1 日後の一般細菌数は, 清掃前の検出菌数より有意に減少していた。それ以外では,2 種のワイプの清掃効果に有意差は認められなかっ たが,清掃前と比較し清掃後には検出細菌数が減少することが確認できた。自動尿量測定装置は自動洗浄の みでは不十分で,ワイプを用いた拭き取りなどの器械的な清掃を実施することが望ましいと考える。

The contamination of general bacteria, Escherichia coli, or Pseudomonas aeruginosa was investigated through wiping examination of touch panels, urine inlets, and the lower portions of the doors of two types of automatic urine volume measuring devices in use at hospital wards. The results showed that many colonies of E. coli and P. aeruginosa were detected on the lower part of the doors. The investigation sites were cleaned using cleaning wipes treated with either sodium hypochlorite or a combined chlorine-based sterilization/cleaning, and the effectiveness of the two cleaning methods was compared at 1, 3, and 7 days after cleaning. The number of general bacteria 1 day after cleaning with the combined chlorine-based disinfectant and detergent-treated wipes of the touch panel decreased significantly as compared with the number of bacteria detected before cleaning. Otherwise, there was no significant difference in the cleaning effect of the two types of wipes, but it was confirmed that the number of bacteria detected decreased after cleaning compared to before cleaning. The results indicate that the automatic urine volume measuring device does not sufficiently clean on its own, and it is desirable to perform mechanical cleaning using wipes.

キーワード 自動尿量測定装置 , 次亜塩素酸ナトリウム製剤 , 複合型塩素系除菌・洗浄用製剤 , 細菌汚染 Key…Words…: automatic urine volume measuring devices, sodium hypochlorite-impregnated wipe, chlorine-based

sterilization/cleaning wipe, bacterial contamination

受理日:2020 年 1 月 23 日

1) 山梨大学医学部附属病院看護部 / 感染制御部:Department of Infection control and Prevention, Nursing Department, University of Yamanashi Hospital

2) 山梨大学大学院総合研究部医学域看護学系:Division of Nursing Science, Faculty of Medicine, Graduate Faculty of Interdisciplinary Research, University of Yamanashi

(2)

Ⅰ.はじめに

感染防止対策における手指衛生の重要性とともに,近 年は環境の衛生管理も重要視されている。自動尿量測定 装置は以前より耐性菌の伝播リスクの一つとして指摘さ れている1)2) 。自動尿量測定装置は廃止することが望ま しく3),日本環境感染学会の「多剤耐性グラム陰性菌感 染制御のためのポジションペーパー」でも蓄尿は極力廃 止ないしは削減すべきであると述べられている4) 。しか し,診療において蓄尿検査・尿量測定を重要視している 診療科もあり,依然として自動尿量測定装置廃止には 至っていない。 日本の院内感染対策サーベイランス事業 JANIS の 2017 年 1 月〜 12 月院内感染対策サーベイランス全入院 患者部門における耐性菌新規感染症患者において,薬剤 耐性菌が分離された尿検体 1,036 検体のうち薬剤耐性緑 膿菌(multiple-drug-resistant Pseudomonas aeruginosa:

MDRP)は 39 検体(31.7%),カルバペネム耐性腸内細菌 科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae:CRE) は 88 検体(21.8%)であり MDRP,CRE が半数を占めて いる5)。よって,尿検体においてはグラム陽性菌,グラ ム陰性桿菌など種々の菌が検出される恐れがあり,自動 尿量測定装置においてもこれらの菌が検出される可能性 がある。 有瀬らの自動尿量測定装置の環境調査においても,メ タロ β ラクタマーゼ陽性の MDRP の検出や ESBL 産 生大腸菌が検出されたと報告されている3)。2017 年,A 病院自動尿量測定装置の扉下部からメタロ β ラクタ マーゼ耐性の薬剤耐性緑膿菌や MDRP が検出された。 抗生物質耐性菌,グラム陽性菌を伴った環境汚染の管理 には標準的な清掃・消毒手順に従うことが米国疾病管理 センター(Center for Disease Control and Prevention: CDC)の「感染制御のためのガイドライン 2003」において 勧告されている6)。自動尿量測定装置は多くの人が共同 で使用することから,尿を廃棄する際に自分の手が耐性 菌で汚染される可能性がある。自動尿量測定装置を介し た伝播を防止するためには,自動尿量測定装置の廃止が 望ましいが,撤去までの期間,院内伝播を防止するため には患者や医療従事者の手指衛生遵守とともに,自動尿 量測定装置の清掃管理が重要となる。 環境整備においては,抗微生物効果を有する様々な薬 液を含浸させたワイプ製剤が用いられている。CDC で は,汚染内容が不明な場合や多剤耐性菌による汚染の場 合には,米国環境保護局(U.S. Environmental Protection Agency:EPA)承認の消毒薬入り洗浄剤で清掃するこ とを勧告している6) 。河口らの多剤耐性緑膿菌と多剤耐 性アシネトバクターに対する 3 薬剤の殺菌作用およびそ の持続性について検討した研究では,薬剤塗布 24 時間 後に菌液を滴下した場合には,次亜塩素酸ナトリウム(以 下,NaOCl)および消毒用エタノール(以下,EtOH)では 殺菌作用は認められなかったものの,ペルオキソー硫酸 水素カリウム配合除菌・洗浄剤(以下,RST)では殺菌作 用が認められ,試験的条件下における RST の殺菌作用 の持続性が示されたと述べている7) 。ノンクリティカル 器 材 で あ る 自 動 尿 量 測 定 装 置 の 日 常 清 掃 に お い て, NaOCl を用いるべきか RST においても効果的であるか 根拠に乏しい現状がある。また,実際に臨床現場で使用 されている自動尿量測定装置を使用し,薬液を含浸させ たワイプ製剤による清掃試験の報告は少ない。 本研究では,自動尿量測定装置の乾燥表面及び湿潤環 境の一般細菌,緑膿菌,大腸菌の細菌汚染の実態を把握 するとともに,自動尿量測定装置の乾燥した環境(高頻 度接触面)と湿潤環境の清掃を,NaOCl 含浸ワイプと RST 含浸ワイプを用いて実施し,その清掃の有効性を 清掃 1,3,7 日後まで比較検討した。

Ⅱ.対象と方法

1.… 調査対象の自動尿量測定装置 A 病院で使用している自動尿量測定装置 A(装置 A) と自動尿量測定装置 B(装置 B)を対象とした。装置 A の細菌汚染調査部位は,ワイプを用いた清掃を行い,自 動洗浄が行われない高頻度接触面であるタッチパネル部 分(ア),ワイプを用いた清掃及び自動洗浄が行われ,尿 が直接投入される箇所であり,湿潤環境である尿投入口 (イ), 尿投入口扉開閉時に起点となる箇所で,尿による 汚染を受けやすいと考えられ,自動洗浄はされず,ワイ プを用いた清掃を行うことが可能である扉下部(ウ)とし た。装置 B では,ワイプを用いた清掃を行い,自動洗 浄が行われない高頻度接触面であるタッチパネル部分 (エ),ワイプを用いた清掃及び自動洗浄が行われ,尿が 直接投入される箇所であり,湿潤環境である尿投入口 (オ)とした。 2.… 清掃に使用する清掃用ワイプの薬品 本研究での「清掃前」とは,装置に付帯している洗浄液 (NaOCl2% 溶液)が装置 A,B の尿投入口に 1 時,9 時, 17 時に自動的に投入される自動洗浄のみが実施され, 病棟で通常行われているワイプを用いた清掃は一時的に 中止した状態を指す。「清掃後」とは,自動洗浄は実施さ れている状態で,研究者が決めた時間にワイプを用いて 一定の方法で清掃した後の状態を指す。使用した清掃用 ワイプは,市販品の NaOCl0.1w/v% 含浸のワイプ(ワイ プ A)と,ペルオキソー硫酸水素カリウムを主成分とす る複合型塩素系除菌・洗浄剤(ワイプ B)とした。

(3)

細菌採取液は 10 秒間,3 回攪拌し,綿棒より細菌を 溶出させた。一般細菌数測定用に普通寒天培地(日水), 大腸菌数測定用にデゾキシコレート培地(日水),緑膿菌 数測定のために NAC 寒天培地(日水)を用い,検体を 0.1ml ずつスプレッダーで塗り広げた。各培地を好気条 件下にて 37℃ 24 〜 48 時間培養し,発育したコロニー 数を目視またはコロニーカウンターで測定した。検体中 の全細菌数を算出し,単位面積当たりの細菌数(colony forming unit, CFU/cm2

)で示した。 5.… 分析方法 装置 A,B の各調査部位の一般細菌,大腸菌,緑膿菌 の検出細菌数について,エクセル統計(Version 3.0)を用 い,3 群間の差の検定は Kruskal-Wallis 検定と多重比較 (Scheffe)検定,2 群間の差の検定は Mann-Whitney の U検定を行った。有意水準は 5% 未満とした。 6.… 倫理的配慮 本研究計画の概要と目的および本研究の結果の公表に ついて,A 病院看護部長に文書にて説明し,承認を得 たのちに実施した。装置の清掃は研究者が実施し,細菌 培養は指導教員の指導を受けたうえで,消毒滅菌を徹底 し感染防止に努め実施した。

Ⅲ.結果

1.… 自動尿量測定装置の細菌汚染調査 1)… 装置 A の細菌汚染調査 清掃前の装置 A の各部位の単位面積当たりの一般細 菌,大腸菌,緑膿菌の検出菌数(CFU/cm2)を表 1 に示す。 タッチパネル(ア)における一般細菌の中央値は 0.1 で あった。大腸菌の検出は 0,緑膿菌の検出は中央値は 0 であった。扉下部(ウ)における一般細菌の中央値は 10809.2,大腸菌の中央値は 1689.2,緑膿菌の中央値は 1718.0 であった。 Kruskal-Wallis 検定と多重比較(Scheffe)検定を行った 結果,扉下部(ウ)の一般細菌数はタッチパネル(ア)の一 般細菌数より有意に多かった(p<0.05)。また,扉下部(ウ) の緑膿菌数はタッチパネル(ア)の緑膿菌数より有意に多 かった(p<0.05)。 3.… 清掃の方法 清掃の実施手順は下記のように行った。  1) 自動尿量測定装置の自動洗浄が 1 時,9 時,17 時 に行われるため薬液に不足がないか,定時に実施 されているか目視で確認した。  2) 含浸クロス中の塩素残存率は,調整液含浸後経時 的に低下することから8),ワイプ A は使用直前に 開封しワイプに薬液を浸して使用した。  3) ワイプ B は複合型塩素系除菌・洗浄剤 1 包(5g)を 水道水 500ml に溶解し,1w/v% 溶液に調整した。 環境清拭用ワイプを蓋付きポリプロビレン製容器 に挿入して,1 枚あたり 5ml 含浸させたものを使用 した。室温保存では徐々に有効塩素濃度が低下す る9)ことから,調整後 7 日以内の試薬を使用した。  4) ワイプ A,ワイプ B を用いたワイプによる清掃は, A 病院で独自に作成した清掃手順書に基づいて, 研究者が清掃実施日の 18 時に一度だけ清掃を実施 した。扉下部の清掃は 1 枚のワイプを 16 折にした 後,小さく丸め円柱状にしたものを 4 本準備し,左 端から右端へ一方向に1回,右端から左端へ1回 清掃を行い,これを 2 回繰り返した。タッチパネル, 尿投入口,装置の外壁においてもそれぞれ一方向 での清掃をワイプを変え 2 回実施した。 4.… 細菌の採取および細菌数の測定 1)… 細菌の採取 細菌数の調査は,清掃前および清掃後 1,3,7 日後に ア〜オの各部位より研究者が採取した。清掃前の採取は, 最も汚染されていると考えられる自動洗浄が行われる前 の 8 時に採取し,清掃後の調査は自動洗浄の清掃効果及 びワイプによる清掃の効果を評価するため,いずれも自 動洗浄終了後の 18 時に実施した。 装置 A のタッチパネル(ア)12×16cm2,投入口(イ) 16×11cm2,扉下部(ウ)1.5×13cm2,装置 B のタッチパ ネル(エ)13×20cm2,投入口(オ)7×17cm2を滅菌生食水 で湿らせた滅菌綿棒でタテ方向,ヨコ方向,左下斜め, 右下斜めの方向に直線的に一定の方法で拭き取り,滅菌 生食水 1 m L の入った滅菌済チューブに入れた。 2)… 細菌の培養 細菌の培養は看護学科健康科学実験室で実施した。 表 1 自動尿量測定装置 A の各部位の細菌汚染調査

部位 一般細菌(CFU/cm2 大腸菌(CFU/cm2 緑膿菌(CFU/cm2

最大値 最小値 中央値 最大値 最小値 中央値 最大値 最小値 中央値 タッチパネル(ア) 0.1 0 0.1 * 0 0 0 0.1 0 0 * 投入口(イ) 17.8 0 0.1 12.2 0 0.1 6.0 0 0.1 扉下部(ウ) 37364.1 810.3 10809.2 12307.7 484.1 1689.2 2615.4 572.3 1718.0 *p<0.05, n=4

(4)

あった(表 3-1)。 尿投入口(イ)のワイプ A による清掃 1 日後の一般細 菌数は 0.2,清掃 3 日後も 0.2,清掃 7 日後では 0.9 であっ た。ワイプ A による大腸菌数は清掃 1 日後,3 日後は 0, 清掃 7 日後は 2.2 であった。ワイプ A による緑膿菌数は 清掃 1 日後,3 日後は 0,清掃 7 日後は 1.9 であった。 ワイプ B による清掃 1 日目の一般細菌数は 0,清掃 3 日 後は 0.3,清掃 7 日後は 30.1 であった。ワイプ B による 大腸菌数は清掃 1 日後,3 日後は 0,清掃 7 日後は 11.1 であった。ワイプ B による緑膿菌数は清掃 1 日後,清 掃 3 日後は 0,清掃 7 日後は 1.8 であった(表 3-2)。 扉下部(ウ)のワイプ A による清掃 1 日後の一般細菌 数 は 2388.7, 清 掃 3 日 後 は 8307.4, 清 掃 7 日 後 は 19437.4 であった。ワイプ B による清掃 1 日後の一般細 菌 数 は 4594.9, 清 掃 3 日 後 は 11774.4, 清 掃 7 日 後 は 15806.7 であった(表 3-3)。 Mann-Whitney の U 検定による検定を行った結果, 装置 A のタッチパネル(ア)におけるワイプ B による清 掃 1 日後の一般細菌検出数は,清掃前の検出数より有意 に減少した(p<0.05)。一方,尿投入口のワイプ B によ 2)… 装置 B の細菌汚染調査 清掃前の装置 B の各部位の単位面積当たりの一般細 菌,大腸菌,緑膿菌の検出菌数(CFU/cm2)を表 2 に示す。 タッチパネル(エ)における一般細菌の中央値は 0,大腸 菌,緑膿菌の検出は見られなかった。尿投入口(オ)にお け る 一 般 細 菌 の 中 央 値 は 840.3, 大 腸 菌 の 中 央 値 は 180.7,緑膿菌の中央値は 4.2 であった。 装置 B においては検出菌数に有意差は認められなかっ た。 2.… 2 種の清掃用ワイプによる清掃効果の比較 同一研究者が同一の方法でワイプ A, B のいずれかを 用いて清掃を行った後の各部位の単位面積当たりの検出 菌数を中央値で示す。 1)… 装置 A における清掃効果の比較 装置 A のタッチパネル(ア)のワイプ A による清掃 1 日後の一般細菌数は 0.6,清掃 3 日後では 1.0,清掃 7 日 後では 1.1 であった。ワイプ B による清掃 1 日後の一般 細菌数は 0,清掃 3 日後では 0.1,清掃 7 日後では 0.1 で 表 2 自動尿量測定装置 B の各部位の細菌汚染調査

部位 一般細菌(CFU/cm2 大腸菌(CFU/cm2 緑膿菌(CFU/cm2

最大値 最小値 中央値 最大値 最小値 中央値 最大値 最小値 中央値 タッチパネル(エ) 0.3 0 0 0 0 0 0 0 0 投入口(オ) 4369.7 0 840.3 2285.7 0 180.7 445.4 0 4.2 n=4 表 3-1 2 種の清掃用ワイプを用いたタッチパネル(ア)の清掃後の細菌検出数 一般細菌 大腸菌 緑膿菌 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 ワイプ A 0.1 0.6 1.0 1.1 0 0 0 0 0 0 0 0 ワイプ B 0.1 0* 0.1 0.1 0 0 0 0 0 0 0 0 データは中央値で示した n=4 *:p<0.05(清掃前との比較) 表 3-2 2 種の清掃用ワイプを用いた尿投入口(イ)の清掃後の細菌検出数 一般細菌 大腸菌 緑膿菌 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 ワイプ A 0.1 0.2 0.2 0.9 0.1 0 0 2.2b 0.1 0 0 1.9d ワイプ B 0.1 0 0.3 30.1a 0.1 0 0 11.1c 0.1 0 0 1.8e データは中央値で示した n=4 a:p<0.05(清掃前との比較) b:p<0.05(ワイプA 1 日後との比較) c:p<0.05(ワイプB 1 日後との比較) d:p<0.05(ワイプA 1 日後との比較) e:p<0.05(ワイプB 1 日後との比較) 表 3-3 2 種の清掃用ワイプを用いた扉下部(ウ)の清掃後の細菌検出数 一般細菌 大腸菌 緑膿菌 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 ワイプ A 10809.2 2388.7 8307.4 19437.4 1689.2 570.3 2983.1 5193.3 1718.0 269.5 2746.4 12204.4 ワイプ B 10809.2 4594.9 11774.4 15806.7 1689.2 453.9 1369.2 3801.0 1718.0 512.8 5646.2 6282.1 データは中央値で示した n=4

(5)

自動尿量測定装置の尿投入口は 1 日 3 回自動洗浄が行 われているが,清掃による介入後,清掃 1,3,7 日後と 時間の経過とともに細菌数が増加していくことが推測さ れた。 自動尿量測定装置のタッチパネルは一般細菌による汚 染が認められた。また,時に緑膿菌による汚染も認めら れることが明らかとなった。緑膿菌などグラム陰性桿菌 は乾燥に弱いため,タッチパネルが乾燥していると検出 される可能性は低い。しかし,機器が汚染され湿潤的な 環境となった場合,栄養要求性が極めて低く,栄養素に なるものがほとんどない物品の環境表面でも生きること ができる緑膿菌がタッチパネル部においても検出された と推測される10)。一方,グラム陰性菌でも腸内細菌科 細菌である大腸菌は栄養要求性が高いため,タッチパネ ルでの検出が認められなかったと推測される。高頻度接 触面であるタッチパネル部分は最低 1 日 1 回以上定期的 な清掃が必要であるといえる6) 11) 。さらに,尿投入口, 扉下部はヒトの手が直接触れる箇所ではないが,一般細 菌や大腸菌,緑膿菌などによる汚染が顕著であった箇所 においても,自動洗浄のみではなく,用手による清掃が 最低 1 日 1 回程度実施されることが望ましいと考えられ る。また,環境整備を行う際は清掃担当者の適切な個人 防護具の着用と手指衛生を遵守するという基本的な対策 に加え,清掃方法を具体的に明記した手順に従って安全 に実施すること,及びその実施状況を確認する必要があ る6) 自動尿量測定装置 A のタッチパネルにおけるワイプ B による清掃 1 日後の一般細菌数は,清掃前の検出菌数 より有意に減少し,清掃の有効性が認められた。これは, 野島らの実験結果12)と同様に,RST はペルオキソー硫 酸水素カリウムおよびその他の複合成分が乾燥によって も効果を失わなかったためと考えられる。一方,ワイプ A に清掃効果がみられなかったのは,含浸している NaOCl は乾燥中の光に接触することにより薬剤が不活 化されたことも原因として考えられる。 尿投入口,扉下部においては,ワイプ A 及びワイプ る清掃 7 日後の一般細菌検出数は清掃前の一般細菌検出 数に比べ検出菌数が有意に多かった(p<0.05)。尿投入口 における大腸菌の検出菌数はワイプ A による清掃 1 日 後より 7 日後,およびワイプ B による清掃 1 日後より 7 日後の検出菌数が有意に多かった(p<0.05)。緑膿菌の検 出菌数はワイプ A による清掃 1 日後より 7 日後,およ びワイプ B による清掃 1 日後より 7 日後の検出数が有 意に多かった(p<0.05)。 2)… 装置 B における清掃効果の比較 装置 B のタッチパネル(エ)のワイプ A による清掃 1 日後,清掃 3 日後の一般細菌数は 0,清掃 7 日後では 0.1 であった。ワイプ B では清掃 1,3,7 日後において一 般細菌,大腸菌,緑膿菌の検出は認められなかった(表 4-1)。 尿投入口(オ)のワイプ A による清掃 1 日後の一般細 菌数は 14.6,清掃 3 日後は 18.0,清掃 7 日目は 19.7 であっ た。ワイプ B による一般細菌数は清掃 1 日後は 0,清掃 3 日後は 2.0,清掃 7 日後は 19.0 であった(表 4-2)。 装置 B は,2 種のワイプによる清掃前後の検出細菌数 に有意差はみられなかった。

Ⅳ.考察

今回の自動尿量測定装置の細菌汚染調査により,特に 扉下部において,多数の一般細菌,大腸菌,緑膿菌が検 出され,細菌汚染が生じていることが明らかとなった。 扉下部は扉が 30 度程度開くと 1.5×13cm2 の空間となっ ている。多量の尿を投入した場合,尿が扉下部の空間部 分にまで汚染が拡がっていることが考えられる。扉が完 全に開放される 90 度の角度では死角となる。自動洗浄 はされない箇所であり,清掃時には扉を 30 度程度で留 めなければならず,ワイプによる清掃も行いづらい構造 となっている。これらの結果より,扉下部は清掃不十分 となり,グラム陽性菌,グラム陰性桿菌など多種の菌体 が排除されず,交差し,多剤耐性菌発生のリスクとなる ことが推測される。 表 4-1 2 種の清掃用ワイプを用いたタッチパネル(エ)の清掃後の細菌検出数 一般細菌 大腸菌 緑膿菌 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 ワイプ A 0 0 0 0.1 0 0 0 0 0 0 0 0 ワイプ B 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 データは中央値で示した n=4 表 4-2 2 種の清掃用ワイプを用いた尿投入口(オ)の清掃後の細菌検出数 一般細菌 大腸菌 緑膿菌 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 清掃前 1 日後 3 日後 7 日後 ワイプ A 840.3 14.6 18.0 19.7 180.7 0.1 0.1 0.1 4.2 0 0 0 ワイプ B 840.3 0 2.0 19.0 180.7 0 0 0.8 4.2 0 0 0 データは中央値で示した n=4

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Ⅴ.本研究の限界

今回の研究では,臨床現場で実際に使用されている自 動尿量測定装置を対象としたため,患者の使用状況など の条件を統一することができず,普遍的な結果が得られ ているとはいえない。また,調査台数や回数も限られた ため,2 種のワイプの清掃効果の差を明確にすることは できなかった。今後の研究をすすめる際の課題としたい。

付記

本研究は山梨大学大学院修士課程看護学専攻学位論文 を加筆修正したものである。

謝辞

本研究は山梨大学看護学会研究助成金の交付を受けて 実施した。

利益相反

本研究における利益相反は存在しない。 参考文献

1) Sekiguchi J, Teruya K, Horii K, et al. (2007) Molecular epidemiology of outbreaks and containment of drug-resistant

参照

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