〈自由研究〉
小中合同の学校運営協議会で創る 境港版「奇跡の学校」
-コミュニティ・スクールの仕組みを学校課題解決のツールとして最大限活用する-八幡 明
はじめに コミュニティ・スクール(以下CS)導入率 100%の山口県において、地域から「奇跡の 学校」1と呼ばれる中学校がある。数十年荒れ続けた学校は地域から疎まれる存在でもあっ た。そんな学校がCSとなって 5 年。子どもたちのボランティア活動を中心に地域の方々の 支援や協力を得て生まれ変わった。皆が遠ざけていた中学校は、今、地域の憩いの場であり 文化の拠点として機能する。校内に普通に出入りする地域の方々。子どもたちと楽しそうに 談笑する姿はこの学校の日常である。小西・中村編著「奇跡の学校」(2019)で紹介されて いる学校では、「学校は地域のもの」2という考えが貫かれている。「学校は教職員のもの、 児童生徒のもの」と考えていた私には、この本で紹介されている学校全てが「奇跡の学校」 として目に映った。この本に紹介されているような学校、地域の方が自信をもって「おらが 学校」と呼べるそんな学校を境港市にも生み出したい、そのような思いを主題に込めている。 現任校は 2019 年 4 月 1 日付けで、2 年間の準備期間を経て中学校区の三校で小・中学校 合同(以下小中合同)の学校運営協議会を設置して、境港市内で初のCSとなった。市内で 初の取組となるCS。それも前例の少ない小中合同の学校運営協議会の設置ということで、 手探り状態での船出である感は否めない。解決しなければならない数々の困難も既に現れ ているが、CSとして走り出した以上CSという新しい仕組みを学校・家庭・地域を繋ぎ、 より活性化していくためのツールとして捉え、それを最大限に活用した学校改善のプラン を探っていきたい。 1 現任校(区)の概要と課題 (1)境港市の概要(市の概要と市の教育施策) 鳥取県の最西端に位置する境港市は、三方を海で囲まれた人口 3 万 4 千人の小さな市で ある。アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」の作者水木しげる氏の生まれ故郷であることから、「妖怪 に会えるまち」をキャッチフレーズにした「まちづくり」を行ってきており、近年は年間 200 万人を超える観光客が押し寄せる鳥取砂丘と並ぶ県の一大観光地となっている。また、境港 市は、カニをはじめとする新鮮な魚介類が豊富に水揚げされる日本有数の漁港としても名 高く、市は「さかなと鬼太郎のまち」として 2 つの強みを前面に押し出した広報宣伝活動を 行っている。しかし、近年観光客の増加と反比例して市の人口は減り続け、10 年間で 2 千 人以上も減少している。 境港市では、2017 年の地方教育行政の組織と運営に関する法律(地教行法)の改正によ り学校運営協議会の設置が努力義務化になったのを機に、学校運営協議会を設置して市内 の公立学校全校をCS化することに舵を切った。その際、既に市内の全公立学校を将来的に 小中一貫教育校化する構想があったため、その導入をスムーズに行う目的で地教行法改正 に伴い導入された「複数校で一つの学校運営協議会を設置できる」条項(47 条の 6)に則 り、小中合同で一つの学校運営協議会を立ち上げた。この点が境港市のCSの大きな特徴である。2019 年 4 月 1 日付で現任校を含む小学校 2 校、中学校 1 校のA中学校区 3 校が小中 合同の学校運営協議会を設置して境港市内で最初のCSとなった。2020 年度にB中学校区 が、2021 年度にC中学校区が、それぞれ順次小中合同の学校運営協議会を設置してCSに なり、3 年間で境港市内の公立小中学校全校がCSになる予定である。 (2)現任校(区)の概要 ①A中学校区の概要(小中連携を中心に) 現任校の属するA中学校区は市内中心部にあり、校区内に市役所や市民図書館、市民会館、 市民体育館をはじめとする公共施設が集中している文教地区である。また、観光名所である 水木しげるロードも校区内に有している。 前述の通り境港市のCSは、将来の小中一貫教育校化をにらみ、その導入をスムーズにす る目的で小中合同の学校運営協議会を設置している。そのため、小・中学校の足並みを揃え るために昨年度から「小・中学校教育連携ビジョン」を作成している。内容は、「境港市の めざす子ども像」、「A中学校区小・中学校のめざす子ども像」、「地域・家庭がめざす子ども の姿」、「各校の学校教育目標」、「校区連携の方針」の 5 項目である。特に重要なのは、「A 中学校区小・中学校のめざす子ども像」である。その中には「確かな学力を身につけ、地域・ 社会に役立とうとする子ども」、「人を大切にし、ふるさと境港を愛する子ども」、「健康な体 と強く豊かな心をもった子ども」という 3 つの姿を、A中学校区のめざす子ども像として描 いている。 ②現任校の現状 本校の強みとして三点を挙げる。まず一点目は、学校に協力的な地域風土である。学校支 援に協力的で、登下校の見守り活動や読み聞かせ活動に加え、昨年度からは放課後勉強会も 地域ボランティアの運営により毎日行っている。それ以外にも、4 年生の合唱指導や金管バ ンドの指導、茶道クラブや習字の指導、掃除の見守り活動など、多くの方が学校支援ボラン ティアとして子どもたちの学びに関わっている。2019 年 5 月 1 日現在で 35 名が現任校の学 校支援ボランティアとして登録されている。公民館をはじめ、家庭にも地域にも学校を支援 する風土が強く根付いていることは、現任校の大きな強みである。二点目は、地域連携に意 欲的に取り組む現校長の存在である。着任 5 年目となる校長が、様々なアイデアと取組で地 域と学校を繋いでいる。地域住民をたくさん学校に招くにあたり、学校の一日公開日に合わ せて校長室の古い写真や資料を展示する「校長室のお宝公開」や、地域の方に給食を食べて いただく「給食たべよう会」などを次々と企画運営している。もともと学校に協力的な地域 ではあるが、校長の手腕がなければ市内で一番と言われるほどの学校支援活動が生まれる ことはなかったであろう。地域と学校を意欲的に繋ぐ校長の存在は、現任校の大きな強みで ある。三点目は、児童の規範意識が高く総じて落ち着いていることである。また、明るく素 直で課題に対してまじめに取り組めることも本校児童の特徴である。結果として学力も高 く、今年度 6 年生の全国学力・学習状況調査の結果が県平均・全国平均共に上回り市内トッ プレベルであった。昨年度もほぼ良好な結果であった。学校全体が落ち着いており、家庭の 教育力も概して高いことが要因として考えられるが、昨年度から始まった地域による放課 後の学習支援活動が家庭学習の習慣化していなかった児童の学力を底支えしているとも考 えられる。 次に、現任校の弱みを五点挙げる。まず一番大きく懸念されるのは、地域連携に熱心に取 り組む校長が異動した場合、その後も継続的な地域連携が維持できるのかという問題であ
る。現任校の地域と連携した取組の多くは校長がアイデアを出し、主に一人で担ってきてい る。弱みの一点目は、地域連携が現状では校長プログラムになっている点である。二点目は、 現任校に限ったことではないが教職員のゆとりの無さである。ここ数年、現場には様々な新 しい施策が入ってきた。道徳の教科化や外国語活動の中学年への導入、高学年での外国語科 の導入である。若手はもちろんベテランでさえ教材研究が追い付かないゆとりの無さが常 態化している。三点目は、教職員のCSへの理解不足である。CS導入から半年以上経過し た 2019 年 12 月に、現任校でCSに関わるアンケートを実施した。その結果、CSへの理解 が不十分であると回答した教職員の割合が 47%に上った。佐藤(2018)3によると、CS指 定校でCSへの理解不足を自覚する教職員の割合は約 15%である。これと比較するとこの 数字は約 3 倍となる。四点目は、若手教員の急激な増加である。全国的な傾向であるが、団 塊の世代の大量退職により鳥取県でも若手教員の新採用や講師が増えている。現任校でも 20 代の若手教員が担任に占める割合が昨年度に比べ急増している。若手が増加することで 職場が活性化する等のプラス面もたくさん考えられるが、授業力や生徒指導力が未熟な若 手が急増していることも事実である。五点目は、特別な支援を必要とする児童の増加である。 現任校でも発達障がいに起因するとみられる児童の問題行動で、学級担任をはじめ多くの 教職員や関係機関が対応について協議する場面にインターンシップ期間中何度か遭遇した。 特別な支援が必要な児童の増加は、多くの業務負担が伴うという点で弱みとなろう。 (3)調査分析等における課題把握 ①A中学校区校長からの聞き取り インターンシップ期間中、A中学校区 3 校の校長にCSの方向性についてインタビュー 調査を行った。紙面の都合で詳細には触れられないが、校長ごとのCS観は様々であった。 境港市の方針として小中合同の学校運営協議会を設置しており、CSを今後さらに進めて いくためには、三人の学校経営者の意思統一を図る必要性を感じた。 ②CS導入前の職員アンケート分析 A中学校区にCSが導入される 1 カ月前の 2019 年 2 月末に、A中学校区 3 校の教職員を 対象に境港市教育委員会が実施した「CS導入に係る意識調査」を分析した。 肯定的な回答が寄せられた項目の内、特に小・中学校の教職員で意識に差が見られる項目 が 3 つある。「CSの導入によって特色ある学校づくりが進めやすくなると思う」、「CSの 導入によって教職員の意識改革が進むと思う」、「CSの導入は子どもたちの学力向上に効 果があると思う」の 3 項目である。いずれも小学校教職員の方が中学校教職員よりも肯定的 回答が多く、20 ポイント以上の差がある。 一方、否定的な回答が寄せられた項目を見ていくと、学校種を問わず最も多かったのは、 「CSの導入により管理職や教職員の負担が増えると思う」という項目である。小中ともに 8 割を超える教職員がCS化で負担が増えるだろうと予測している。それ以外に、否定的回 答の中で小中学校の教職員で意識の差が大きい項目を 3 つ挙げる。「CSが導入されても従 来の地域連携の取組と変わらないと思う」、「学校支援地域本部事業もあり新たにCSの導 入は必要ないと思う」、「現在も保護者・地域の声は十分に反映されているのでCSは特に必 要ないと思う」である。これらの項目では、いずれも中学校教職員の否定的回答が多く、20 ポイント以上の差がある。 これらのことから明らかになるのは、小学校は「学力向上、意識改革、学校の特色づくり」 においてCSの導入に効果があると考える割合が中学校よりも高く、中学校は「CSが導入
されても従来の取組と変わらないし、CSの導入自体も必要ない」と考えている割合が、小 学校よりもはるかに高いことである。この差は、学校支援活動が従来から登下校の見守り活 動や読み聞かせ活動として当たり前に入っている小学校文化と、目に見える学校支援活動 が入っていない中学校文化の差であると考えられる。また、CS化に際して小学校と中学校 両方の教職員が最も不安視しているのは、CS化に伴う業務負担増であることもわかった。 ③CS導入後の現任校職員アンケートの分析 CS導入から約 9 カ月が過ぎた 12 月に、現任校に於いて教職員意識調査を実施した。そ の結果ほぼ全ての教職員が「学校は地域との連携に前向きで、地域の支援が学校の教育水準 の向上に寄与しており、学校は積極的に情報発信を行っている」と捉えていることが明らか になった。また、学校支援ボランティアと積極的に挨拶を交わしたり、話しかけたりするこ とを心がけている教職員も 9 割近くいることがわかった。 一方、最も否定的回答が多かった項目は、「CS関係の講演会や熟議、児童も参加する行 事が休日や勤務時間外に行われる場合できるだけ参加してみたいと思いますか」である。肯 定的回答は項目中最低の 27%であり、否定的な回答が 73%を占めている。現任校の教職員 は日常的に多くの時間外勤務をこなしている中で、CSの行事とはいえ勤務時間外や休日 に拘束されることには大きな抵抗があることがわかった。また、「あなたは本校がCSにな ったことにより多忙感が増したと思いますか」の項目では増したという回答が 47%、増し ていないが 53%という拮抗した状態になった。CSの導入前に 8 割以上の教職員が心配し た負担増の状況には、必ずしもなっていないことがわかる。この結果は、佐藤(2018)4の 「CSの指定によって、管理職や担当教職員の約半数は勤務負担が増大したと認識されて いる。しかし、担当以外の教職員の勤務負担増はほとんどみられなかった。」との報告と合 致するものである。続いて「あなたは、A中校区CSの仕組みや国が導入を進める背景につ いてよく理解していると思いますか」の項目について肯定的回答が 54%にとどまり、否定 的回答が 46%にも上っている。CS指定校にいながら全国平均(CS指定校で 15%)の 3 倍近くもCSを理解していない教職員がいる現状は大きな課題である。 ④学校支援ボランティアからの聞き取り 現任校の放課後勉強会見守りボランティアに聞き取りを行った。話を伺った多くの方か ら「子どもたちと関わることで元気になる」という言葉や、「この活動は私の生きがいです」 という力強い言葉を聞いた。そして、学校が行っている放課後勉強会の取組を大変肯定的に 捉えておられた。子どもたちに学習の習慣をつけることができ、地域のボランティアも元気 になる Win-Win の関係が築かれているのが感じられ、これこそCSのめざすべき地域連携 の姿だと感じることができるインタビュー調査になった。 ⑤課題の整理 これまで述べてきたことを振り返ると、現任校(区)の学校運営上の課題は以下の 5 項目 と考える。 (ア)自校課題に迅速に対応できる組織づくり 境港市の場合、複数校(小中合同)で 1 つの学校運営協議会を設置している。また、実 働を担う地域学校協働本部も複数校で 1 つの本部であり、どちらも大きな組織である。組 織が大きすぎて、三者三様の各学校課題に対し迅速に対応しづらいことが課題である。 (イ)持続可能な地域連携の仕組みづくり 境港市内で一番多くの地域連携を進めている現任校であるが、これは地域連携に意欲
的な校長が進める校長プログラムの側面も否定できない。校長が変わっても現在の地域 連携が維持されるような仕組みづくりを行うことが課題である。 (ウ)教職員のCSへの理解促進 教職員アンケートの結果から、CS指定校になったのにもかかわらずCSについて理 解不足の教職員が約半数いることが明らかになっている。教職員にCSについての理解 を促進することが課題である。 (エ)ゆとりを生み出す働き方改革の推進 次から次へと新しい教育課題が現場に入りベテランも若手もゆとりがない状況である。 ゆとりがないからこそ、CSに指定されたことを契機に学校・家庭・地域が連携・協働し て行う働き方改革を推進していくことが課題である。 (オ)応援団を増やす仕組みづくり 現任校の課題の一つに、学校支援ボランティアの固定化・高齢化がある。様々な地域連 携の取組も始まり、登録ボランティアが増えている活動もあればボランティアの数が減 っている活動もある。持続可能な学校支援活動にしていくためには、更に学校の応援団を 掘り起こす仕組みづくりが課題である。 2 改善プランの具体的方策 (1)自校課題に迅速に対応できる組織づくり ①分会の設立 課題を解決するためにまず行うことは、小中合同の学校運営協議会の分会をつくること である。またこれを機に、現状は中学校区の 3 校で 1 つである地域学校協働本部の分会も 立ち上げたい。学校改善プランではあるが、このプランは学校独自に進められるものではな い。学校運営協議会の合意が必要であるし、学校運営協議会の指定を行う境港市教育委員会 との調整も必要である。しかし、2014 年コミュニティ・スクールの推進等に関する調査研 究協力者会議の「小中一貫教育を推進する上での学校運営協議会の在り方について(第一次 報告)」では、小中合同の学校運営協議会を設置するにおいては「柔軟な学校運営体制を可 能にしていくことが必要である」と述べられている他、「個別学校における課題に対しても 十分な協議情報の共有が図られるよう配慮することが重要である」とも述べられている。こ れらの点からも、各学校課題に迅速に対応できるように小中合同の学校運営協議会に小さ な組織である分会を位置づけることや、この場で各学校の教育課題に対応することは境港 市教育委員会からも、A中学校区学校運営協議会からも十分に理解が得られる提案である と考える。 続いて小さな組織である分会の機能を、大きな組織である小中合同の学校運営協議会に どう活かしていくかについて説明したい。 ②各校の強みを活かした取組の推進 複数校で一つの学校運営協議会をつくることに関しては、2017 年に地教行法の改正によ り認められてから 3 年目であり全国的に前例があまりない手探りの取組である。小学校に は地域の学校支援が多く入っているが、中学校にはその文化がない。そのため小・中学校が 足並みを揃えて地域との連携・協働に取り組もうとすれば、当然すり合わせに時間がかかっ てしまう。また、学校課題は三者三様である。それぞれが持っている地域資源も違えば、各 校の強みも、これから取り組もうとしているCSの方向性も違っている。
山口県の教育次長として県内公立小中学校の全てにCSを導入した小西(2018)5は、足 並みを揃えようとするあまりCSの取組が停滞する現状を憂い、「教育の質の向上に資する 取組は、躊躇すべきではない。すべてを整えるまで動けないというものではない。いいと思 うことはその一端からでもはじめて行くことだ。(中略)今の地域にとってできることはす ぐに取り組みたい。思い切って踏み出す勇気を持つことだ。」と述べている。小中合同の学 校運営協議会だからといって、この課題については中学校区全体で取り組もうという意識 が醸成されるまで待つのではなく、各校が学校運営協議会の分会で学校課題に対応しなが ら自校の強みを活かした活動を積極的に行っていくことが必要なのではないだろうか。 ③小中合同の学校運営協議会で成果と課題の共有 各校で強みを活かした地域連携に取り組み、成果や課題を得たら、それを小中合同の学校 運営協議会の場で情報共有する。広めたい取組に関しては、中学校区全体の地域連携カリキ ュラムへと位置付ける。地域連携カリキュラムが今後充実することで、めざす子ども像が実 現されていくと考えられる。このような循環が機能するようになって初めて、小中合同の学 校運営協議会を設置した意味があると思われる。このような取組みの積み重ねが、小さな組 織である分会を大きな組織である小中合同の学校運営協議会に活かしていくことに繋がっ ていくと考える。 (2)持続可能な地域連携の仕組みづくり 現任校の強みは地域連携が多く行われていることであるが、それは地域連携に熱心な校 長が豊富なアイデアと行動力で学校と地域をつないできた結果である。学校が行っている 地域連携プログラムのいくつかは校長プログラムであり、校長の異動と共に消えていく可 能性もある。「先生は風の人、地域は土の人」と言われるように、地域連携に熱心な教員が 異動すると連携が振出しに戻るというのはよく聞く話である。小西・當山(2018)6は、学 校カリキュラムを地域カリキュラムにする流れについて、「地域住民による肯定的な営みを 整理する」、「行事や教育課程の中に位置づけることを学校運営協議会に諮る」、「学校運営協 議会で承認を得ることを繰り返す」、「教員個人の技量に依拠した取組みでなく、人事異動に 左右されない持続可能な取組みとして受け継がれる」の4段階にまとめている。このような 流れで学校が主で行っているプログラムを、学校運営協議会 B 小学校分会のプログラムに することができれば、現任校にある多くの地域連携の取組みが、教員の人事異動に負けない 地域プログラムになると考えられる。 (3)教職員のCSへの理解促進 ①校内組織とCSの部会をリンクさせる 現任校教職員意識調査の結果から、CSの指定を受けている学校に勤めているにも関わ らず教職員がCSについて理解不足である現状が明らかになった。理解不足の背景として まず考えられるのは、普段の教育活動の中でCS組織との関連を感じる機会が少ないこと が挙げられる。そこでCS理解促進のための改善策として、A中学校区の教職員が所属して いる校内研究組織を学校運営協議会の専門部である 3 つの組織とリンクさせることを提案 する。(図 1) A中学校区学校運営協議会は専門部として 3 つの応援団を内包している。具体的には、学 習支援を主に担う「まなびの応援団」、学校安全と環境整備を主に担う「あんしん応援団」、 地域貢献と地域交流を主に担う「ふれあい応援団」である。現任校区には小学校と中学校の 全ての教職員が所属するA中校区人権教育推進協議会という研究組織があるが、CSの専
門部3部会とは何もリンクしていない。そのため、このA中校区人権教育推進協議会を改組 し、CSの専門部 3 部会(まなびの応援団、あんぜん応援団、ふれあい応援団)にリンクし た部会(まなび部会、あんぜん部会、ふれあい部会)としたい。日常的な校内組織をCSの 専門部とリンクさせることによって、学校の取組が学校運営協議会と連動し、CSへの所属 意 識 や 課 題 改 善 へ の 意 欲 が 高 ま る こ と が 期 待 で きる。同時に校務 分 掌 で 担 っ て い る 業 務 が C S に も 連 動 し て い る ため、新たに校務 分 掌 と 関 係 の な い C S 部 会 に 所 属 す る 場 合 と 比 べ て 業 務 の 効 率 化 と ス リ ム 化 も 可能になる。 ②学校運営協議会に教職員を関わらせる 次に理解不足の要因として、管理職やCS担当以外の一般教職員が学校運営協議会に関 わる機会がないことも挙げられる。佐藤(2016)7は、「教職員は、学校運営協議会に関与す ることを契機にして地域住民とかかわるようになり、その結果、学校の教育活動を全体的に 捉え、客観視できるようになることから、変容認識が高まるものと考えられる」と述べてい る。つまり、「教職員は学校運営協議会に関与することを契機に変容する」と言うのである。 しかし、実際には教職員の負担軽減を理由に学校運営協議会に関わるのは管理職とCS担 当のみというのが現任校の現状である。これでは他の教職員のCS理解促進は図れない。教 職員のCS理解を促進するためには、学校運営協議会及びそれに関わる場に教職員を関与 させることが必要である。教職員のことを考えれば、その会議や研修は勤務時間内に実施す ることが求められる。しかし、難しい場合や土日に参加させる必要があれば正規の業務とみ なし、割り振りの変更を平日に行うことが必要である。現任校教職員アンケート調査の結果、 時間外や休日に行われる学校運営協議会やそれに関わる場への参加意欲は 27%と低いが、 平日に勤務時間の割り振り変更が行われるのであれば参加意欲が 80%にまで高まることが わかった。学校運営協議会及びそれに関わる場に教職員を意図的・計画的に関与させること によって、CSへの理解促進を促すことが可能となる。 (4)ゆとりを生み出す働き方改革の推進 ①授業交換の導入 ゆとりを生み出す働き方改革の具体的なプランの一点目として、授業交換の導入を提案 する。小学校における教科担任制とともに働き方改革を進める取組として、近年「授業交換」 が注目され始めている。授業交換とは、主に同学年を組む担任同士が教科を重複して持ち合 い、隣のクラスでも授業を行う取組である。複数の教職員の目で学級の児童を見ていくこと ができるので、学級担任制の弊害と言われている学級王国をつくってしまう、あるいは学級 図1 CSの部会とリンクした新しい校内組織の図
崩壊が起こってしまうという問題点が解決され働き方改革にもつながる仕組みである。授 業交換のメリットとして、受け持ち教科が減るので教材研究の時間が減る(スリム化)。中 学校教員の様に同じ授業を複数回行うので授業改善が図れる(資質向上)。児童を複数教員 の目で見守れる(保護者との信頼関係)の 3 点が考えられる。 授業交換の持つ最も大きな効果は、担任が授業を開くことで「学級を開く」という意識改 革が進むことである。学級を開き複数の目で見る視点は、地域に学校を開く、地域とともに ある学校へ変わっていく意識改革の始まりでもある。 ②地域の力を教育課程に位置づける 児童の基礎学力を定着させる上で、大人の手がもっとあればと思った場面は数えきれな い。代表的な例は、小学校 2 年生が「かけ算九九」を覚える場面である。教員だけでは手が 回らない時こそ地域の教育力の出番である。地域の方に子どもたちの学びの質を高めるお 手伝いをしていただくのである。現任校には児童の登校に付き添い、学校の玄関まで毎朝子 どもたちを見守る登校ボランティアがおられる。この方々にお願いして朝の 15 分程度、2 年生の「かけ算九九チェック」を手伝ってもらってはどうだろうか。これには、「複数の場 で九九の暗唱を聞いてもらえるので、基礎基本の定着に繋がる」、「地域の方に『がんばった ね』などと声を掛けてもらえることで、児童の自己肯定感がアップする」、「学校や児童から 感謝されることで、地域ボランティアにとってのやりがいや誇りを創出できる」、「校内に地 域の方が入ってこられるという適度な緊張感で、授業の改善や生徒指導の改善が進む」の 4 点の効果が見込まれる。 地域の力が学校に入ると学力が向上することが、「平成 30 年度全国学力・学習状況調査報 告書―質問紙調査―」のクロス分析や、耳塚(2014)8らの先行研究により明らかになって いる。これまで学校は全てを担任一人で、あるいは学校だけで、児童の学びを自己完結させ ようとしてきた。しかし 2015 年の教育再生実行会議第六次提言では、学校に対して児童と 信頼できる地域の大人を繋ぐ役目も求められている。児童のためになる、地域のためになる、 学校も負担が減るのならば実行しない手はない。そんな意識改革こそが、学校の教職員に求 められているのではないだろうか。 ③地域とともに熟議で考える 学校運営協議会の熟議の場で「学校の働き方改革」をテーマに据えることも提案したい。 期待される効果としては、「学校の視点では思いつかなかったアイデアが出る可能性があ る」、「熟議の過程で、委員に教職員の現実を知ってもらえるだけでも働き甲斐のある職場へ 転換する」、「家庭や地域からなされた提案は学校としても実行しやすい」の三点が挙げられ る。学校運営協議会の熟議の場で、学校が抱える諸課題の解決に向け学校・家庭・地域が連 携・協働して取り組むことは、学校の働き方改革を進める新しい視点を生むと考えられる。 (5)応援団を増やす仕組みづくり ①CSルーム設置 校内に地域の方が自由に集える場所(以後CSルーム)を設置することを提案する。2015 年の教育再生実行会議第六次提言で、「学校は、人と人をつなぎ、様々な課題へ対応し、ま ちづくりの拠点としての役割を果たす」ことが期待されているが、2017 年に出された第十 次提言9では、さらに踏み込んで「乳幼児を子育て中の主婦や高齢者などの地域住民が、自 然と学校に集い、学校に通う子供たちや教師と交流できるよう、空き教室等を、例えばカフ ェ・スペースのような魅力的な空間に改修し、学校を地域住民の集いの『場』として整備・
活用する」ことまで提案されている。まさにCSルームの設置は国の方針と言ってよい。C Sルームの運営は地域の方自身でやっていただき、学校にも負担がかからないようにした い。CSルームの運営資金は、公民館祭やバザーなどで子どもたちと地域のボランティアが 一緒になって集めることも可能で、それも学校・家庭・地域が連携・協働する意義深い活動 になる事が期待される。 ②学校と地域住民が繋がる仕組みづくり 地域の方に学校へ興味を持ってもらい、足を運んでもらう仕組み(図 2)として、公民館 活動の一部を学校で行うことが考えられる。これに関しては、公民館長も前向きである。ま た、けん玉やコマ回し、竹馬や囲碁・将棋など、趣味や特技を休憩時間に子どもたちへ教え に来ていただくことも可能である。もちろん休憩まではCSルームに集って、地域の方同士、 会話に花を咲かせてもらってもいい。公民館祭では地域の方が制作された絵や習字、陶芸の 展示をたくさん見かけた。地域の芸術家の作品展示スペースを廊下に展開すれば作者の励 みにもなるし、児童の鑑賞の場にもなる。それをめあてに、久しぶりに学校に足を運ばれる 人もあるだろう。見返りなしで、ただ単に学校へお茶をしに来ていただくことも可能である。 そんな方が増えれば、クチコミで学校の応援団は増え、ボランティア不足や固定化に頭を悩 ます必要は無くな っていくだろう。 学校内で地域の人 を見かけることが 日常的になる日も 来 る か も し れ な い。そんな学校が 境港市に誕生すれ ば、それはもう「奇 跡の学校」の仲間 入りである。 おわりに 現在、子どもたちの多くが核家族家庭で育ち、おじいちゃん、おばあちゃんとは離れた環 境で過ごしている。将来、少子高齢化の進展により今以上にシニア世代との関わりが増える と予想される子どもたちは、社会に出るまでのどこでシニア世代との接点を持ち、人生の先 輩から多くの学びを得ることができるのだろうか。その出会いを可能にするのが、CSの導 入された学校ではないだろうか。シニア世代との繋がりだけでなく、中学生や高校生、大学 生など若い先輩世代、お父さんやお母さんと同じ保護者世代、地域に住む障害者、地域に住 む外国人等の多様な人々と子どもたちを出会わせることも、これからの学校が果たすべき 大切な役割であろう。多様な人々との出会いの中で行われる主体的・対話的で深い学びを通 して、子どもたちに予測困難な未来をたくましく生き抜く力を育むことができるのだと考 える。現任校がCSになる意味は、正にそこにあるのではないだろうか。 大きく変化した社会の中で、A中学校区のめざす子ども像に掲げた「確かな学力を身に付 け、地域社会に役立とうとする子ども」、「人を大切にし、ふるさと境港を愛する子ども」、 「健康な体と豊かな心を持った子ども」を、学校・家庭・地域で連携・協働して育んでいき 図2 学校に足を運んでもらう仕組み
たい。 コミュニティ・スクールのもつ地域創生の力を信じて、境港市に「奇跡の学校」を生み出 すべく教育実践に邁進していきたいと思う。 【注記】 1 小西哲也・中村正則編著『奇跡の学校―コミュニティ・スクールの可能性―』(風間書 房、2019)で紹介されている書名の由来にもなっているY県U市立K中学校のこと。か つての荒れた状態を知る地域住民から、立ち直った現在の学校の様子を見て「奇跡の学 校」と呼ばれている。 2 「学校は地域のもの」とは、小西哲也・中村正則編著「奇跡の学校」の「はじめに」の 冒頭で読者に投げかけられるメッセージ「学校は誰のものか?」に対する答えとして、 本の中や小西の講演でたびたび紹介されるコミュニティ・スクールを推進していくに あたってのキーワード。 3 佐藤晴雄編著『コミュニティ・スクールの全貌』、風間書房、p11、2018 参照 4 佐藤晴雄編著『コミュニティ・スクールの全貌』、風間書房、p200、2018 引用 5 小西哲也著『第 8 章 山口県教育委員会の取り組み―「設置率 100%」に向けた導入・ 拡充の経緯と成果及び課題―』佐藤晴雄編著『コミュニティ・スクールの全貌』 風間書房、p297―p298、2018 引用 6 小西哲也・當山清実「コミュニティ・スクールにおける学校支援のあり方に関する一考 察」兵庫教育大学研究紀要第 52 巻、p105、2018 参照 7 佐藤晴雄著『コミュニティ・スクール』、エイデル研究所、p100、2016 引用 8 文部科学省委託研究「平成 25 年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果 を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」(国立大学法人お茶の水女 子大学代表:耳塚寛明 )では、「地域には、ボランティアで学校を支援するなど、地域 の子供たちの教育に関わってくれる人が多い」と保護者が感じている学校の方が、子供 の学力が高い傾向が見られることが明らかになっている。 9 教育再生実行会議「自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子供を育む教育の実 現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上(第十次提言)」、p9、2017 引用