学校教員の心肺蘇生法習得をどう進めるか
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(2) 北海道教育大学紀要(自然科学編)第 6 5巻 第 2号 J o u r n a lo fHokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n( N a t u r a lS c i e n c e s )Vo . l6 5,N O . 2. 平成 2 7年 2 月. February,2 0 1 5. 学校教員の心肺蘇生法習得をどう進めるか 羽賀持衛. 北海道教育大学保健管理センター. I s s u e si nP r a c t i c eo fCardionpulmonaryR e s u s c i t a t i o nf o rTeachers HAGAMasae H e a l t hA d r n i n i s t r a t i o 日 C e n t e r,HokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n. 概要 平成 25年度教員免許状更新講習において「救急救命処置」を受講した 128名を対象に,受講 後アンケートを実施し,学校教員に適した心肺蘇生法とそれを習得するうえでの課題について 考察した。心肺蘇生講習が毎年実施されている学校は,全体の 3割に満たないと推測された。 学校教員は非医療従事者であるが,学校現場における緊急事態に際しては,いわゆる一般市民 よりも高いレベルの対応が求められる立場にある。心肺蘇生を施す対象が小児期や思春期の児 童・生徒であることが想定されるため,教員は,胸骨圧迫だけでなく人工呼吸も含めた心肺蘇 生手技を習得すべきである。手技の習得には実技練習を繰り返すことが重要であるが,多忙の ために,心肺蘇生講習を受講できない,あるいは,企画・開催ができないという回答が,多く の受講者から寄せられた。多くの教員が心肺蘇生講習を受講できるようにするには,公的機関 による支援が必須である。. 1.はじめに 心肺蘇生を必要とする緊急事態は,学校現場に. I I . 対象と方法 筆者は,教員免許状更新講習において,平成 20. おいても起こり得る重大な有害事象であり,児. 年度から選択領域「救急救命処置」を開講してい. 童・生徒ならびに学校の安全を守る立場にある学. る。本講習は,オリエンテーションと休憩時間を. 校教員は,万が一の事態に備えて心肺蘇生の知識. 除き,修了試験を含めて正味 6時間で実施するよ. と技術を身に付けておく必要がある。しかし,学. うに規定されているが,筆者が担当する「救急救. 校教員が心肺蘇生法をどのようにして,また,ど. 命処置」では,そのうちの 1時間 20分を講義, 4. の程度まで習得すれば良いか,これを明確に定め. 時間 1 0分を実技練習に当てている。. た指針等はない。. 平成 25年度に受講した 128名を対象として,講 習修了後に無記名自記式のアンケート調査を実施. 1.
(3) 羽賀将衛. した。 1 2 8名全員から有効回答が得られ,その結. 医療従事者ではない一般市民が心肺蘇生を実行する場合, 何が 番難しいと思いますかっ. 果から,学校教員の心肺蘇生法習得のあり方およ AEDの使用. び課題について考察した。. 6 4 . 1も 9. 人工呼吸. 6 5 . 6も 9. 胸骨圧迫. i l l .結果. 人を呼び救急車の手配. とAEDの調達を依頼. 受講者の職場は,小学校 5 2名 ( 4 0 . 6 % ),中学. 1 0. 校2 4名 ( 1 8 . 8 % ),高等学校 3 0名 ( 2 3.4%),特別. 3名 ( 1 0 . 2 % ), 幼 稚 園 5名 支援学校・学級 1. 25.0%. 意識反応呼吸の確認. 2 0. 3 0. 4 0. 5 0. 6 0. 70%. ( n = 1 2 8 ). 図 2 心肺蘇生の手技に関する意識. ( 3 . 9 % ),大学・短大・その他 4名 ( 3 . 1 % )であっ た 。1 2 8 名のうち,養護教諭は 1 8 名( 1 4 . 1 % )であっ た 。. 「学校教員に心肺蘇生法を普及させるうえで, どのようなことが障壁になると考えるか。」との. 「職場において,心肺蘇生の知識や技術を学ぶ. 問いに対する自由記載による回答では,「多忙の. 機会はあるか。」との問いに対して,「ある」と回. ため講習等に参加する時間が取れないこと」に類. 答した者は7z名 ( 5 6 . 3 % ),1 知識の情報提供のみ」. するものが受講者の 4 3.8%からあり,その他,「心. が2 0名(15 . 6 % ),1 ない」が3 6名 ( 2 8 . 1 % )であっ. 肺蘇生に関する意識の低さ」が 2 6.6%, 1 講習等. た。「ある」と回答したうち,その頻度が「毎年」. の機会が少ないこと」が 1 1.7%, 1非医療従事者. 6名 ( 5 0 % )のみで, 12,3年に 1度」と 14, は3. が医行為を実行することへの不安」が8.6%, 1 練. 5年以上に 1度または不定期」がそれぞれ 1 8名. 習用人形などの用具が学校にないこと」が6.3%,. ( 2 5 % ) ずつであった(図 1。 ). 「心肺蘇生法の習得が教員に義務化されていない こと」が2.3%から挙げられた(表 1 。 ). あなたの職場で、心肺蘇生の知識や技術を学ぶ機会はありますか?. 表 1 心肺蘇生法の普及への課題に関する自由記載 学校教員に心血Ii麻生 i 去を普及させるうえで どのようなことが障壁になると考えますか? ・多忙のため講習等に参加する時間が取れないこと ・心肺蘇生に閃するぷ識の低さ ・講料等の機会が少ないこと ・0 1 1医療従事者が阪行為を実行することへの不安 ・練習川人形などの川具が学校にないこと ・心肺蘇生i よの利得が教員に義務化されていないこと. ( n 二 1 2 8 ) ( n 二 7 2 ). (n~128). 複数凶符あり. 図 1 講習等の機会および頻度. 「医療従事者ではない一般市民が心肺蘇生を行. 43.8% 26.6% 11.7% 8.6% 6.3% 2.3%. 「心停止が疑われる傷病者に心肺蘇生を開始す. なう場合,何が一番難しいと思うか。」との問いに,. 2 8名中 1 2 4 ることができるか。」との問いには, 1. 5つの選択肢(1.意識や反応および呼吸の確認,. 名 ( 9 6 . 9 % ) が「開始できる」と答えたが,「職. 2 .人を呼び救急車の手配と AEDの調達を依頼,. 場の同僚に心肺蘇生法を指導できるか。」との問. 3 . 胸骨圧迫, 4 . 人工呼吸, 5 . AEDの使用). いには,「指導できる」と答えた者は 9 6名 ( 7 5 . 0 % ). から 2つを選んで回答させたところ,. であった。. 1 . は受講. 者の 2 5.0%が選択し, 2 .は2 1 .1%,3 .は65.6%,. 4 . は64.1%, 5 . は20.3%であった(図 2。 ). 2.
(4) 学校教員の心肺蘇生法習得をどう進めるか. w .考 察. い知識と手技を習得することが理想であるが,筆 者が実施したアンケート調査の結果では,心肺蘇. 病院外での心停止においては,一般市民による. 生講習の機会がある職場は 6割に満たず,その中. 一次救命処置が救命率を向上させるうえで非常に. でも毎年実施されているのは半数にすぎない。す. 重要であることがすでに認識されている1.2)。心. なわち,教員を対象に心肺蘇生講習を毎年実施し. 停止は学校現場においても起こり得る事態である. ている職場は,全体の 3割にも満たないことにな. が,児童・生徒の命を救うためには,その場にい. る。同アンケートへの回答では,学校教員に心肺. る教員が迅速かつ適切に対処することが極めて重. 蘇生法を普及させるうえでの障壁として,講習等. 要である。. の機会が少ないことが挙げられたが,同時に「多. 日本臨床救急医学会は,平成 24年 4月,文部科. 忙のため講習等に参加する時間が取れないこと」. 学大臣に対して「学校での心肺蘇生教育の普及に. も多くの回答者から挙げられた。これらの回答か. 向けての提言」を行なった。その概要は, ( 1 ) 小 ・. 仏教員が心肺蘇生講習を受けたくても容易には. 中・高等学校における心肺蘇生教育の実施を推進. 受けられないという状況がうかがわれる。こうし. 2 )大学の教職課程において心肺蘇生指導プ する, (. た問題を解決するには,心肺蘇生に対する教員自. ログラムの必修化をはかり心肺蘇生を指導できる. 身の意識を高めることはもちろんのこと,教員の. 3 )全教職員の心肺蘇生講習受講 教員を養成する, (. 労働環境やわが国の教育環境などにも広く日を向. 4 ) 現職の教員を対象とした再研修 を必修化する, (. ける必要がある。. 5 )必要 において心肺蘇生法の指導法を検討する, (. 非医療従事者である一般市民が行なう心肺蘇生. な予算措置を検討する,というものであるが,こ. については,胸骨圧迫と口対日人工呼吸を組み合. の提言を受けての具体的な施策は,現時点ではま. わせた従来の方法よりも,胸骨圧迫のみのほうが. だ提示されていない。. 救命率が高いという報告 3,4)がある一方,溺水な. 言うまでもなく,学校教員は非医療従事者であ. ど心臓以外の原因 ( n o n c a r d i a co r i g i n ) による. る。しかし,その役割および責任の重さを考える. 心停止や,小児の心停止に対しては従来の方法が. と,学校現場における緊急時において教員には,. 効果的であるとの報告もある 5,6,7)。教員の場合,. いわゆる一般市民よりもさらに高いレベルの対応. 心肺蘇生を施す対象が小児期や思春期の児童・生. 3年に埼玉県にお をすることが求められる。平成 2. 徒である場合を想定しておかなければいけないこ. いて,長距離走の練習後に倒れた児童を担当教員. とから,胸骨圧迫だけでなく人工呼吸の手技も身. は「呼吸あり,脈あり」と判定したが,数分後に. に付けておくことが望ましいと考える。. 到着した救急隊により心肺停止が確認され,結果. 実際に心肺蘇生を実行するに当たり一番難しい. として当該児童が翌日に亡くなるという事例が起. こととして,胸骨圧迫と人工呼吸が多くの受講者. こった。この事例に対しては,医療従事者ではな. から挙げられたことは,これらの手技の重要性が. い学校の教員が心肺停止の正確な判定をすること. 認識されていることの現れと考えることができ. は難しいという意見と同時に,緊急時において教. る。医療従事者のような高いレベルの手技を習得. 員には医療従事者に準じた対応が求められるとい. することは難しいとしても,できるだけ多くの時. う声も上がった。好むと好まざるとに拘わらず,. 間を基本手技の練習に費やすことにより,心肺蘇. 教員に対しては後者のような社会の日が向けられ. 生を実行するうえでの不安をいくらかでも軽減さ. ているという事実を,教員自身は自覚しておくべ. せることができるのではないかと考える。筆者が. きであり,また,そのような対応ができるように. 教員免許状更新講習において開講している心肺蘇. 備えておくべきであると筆者は考えている。. 0 分を実技 生講習では,正味 6時間のうち 4時間 1. 全ての学校教員が,心肺蘇生講習を受け,正し. 練習の繰り返しに当て,手技の習得に重きを置い. 3.
(5) 羽賀将衛. ている(図 3)。教員の多忙な現状を考えると, 教員免許状更新講習以外でこのように長時間の講 習を聞くことは現実的ではないが,短時間の講習. 教員免許状更新講習シラパス 講千司. γ 1. 救急救命処世. t :. 講習のねらい. においても,できる限り多くの時間を実技練習の 繰り返しに当てることが重要である。. 一般の非│矢掛従事者による救 ,)救命処置の高義、特 l こ γ 4校におしミて救 民が巣たす役割について埋附するとともに、緊 '0ょの場面において一次 救命活動に参加 l できる心情えを持ち実際の T 技を宵得する。 8 時開分 ~9 時{川分 オリエンテーション 9 川(灼分へ 10日 ~.'20分 時心刷J蘇生、その他の救急処世(講表) 1 0 川2 0分へ 1 0 時加ノ f 休憩 1 0 川剖分へ 1 2日 分 次心刷J蘇生(実技練宵) 工胸廿 J L j 且(心臓マッサン) 宮口対口人て呼吸 1 成人に対する l 人法 C l'[~ ( 3サイクル) 人成人に対する l人法仁PR (5サイクル) 5 > J、見に対する l人法仁PR (5サイクル) 6成人に対する l人法仁PR (5サイクル) 1 2川 1 0分へ 1 3日 分 昼 食 休 憩 13 川 10 分へ 13 日 ~.'30 ノ f 次心刷J蘇生(実技練宵). n o. 手技に関する不安として,受講者の 25%が,「意 識・反応・呼吸の確認」が難しいと回答した。傷 病者の状態を正確に判定することは非医療従事者. [選択領域]. ( / ) 世 議 スケジュール. には難しいという意見は,前述の埼玉県における. n o. 成人に対する 1 人法 C l'[~リサイクル). 事例でも挙げられたが,その後に当該地域におい. . ¥EDを用いた心肺蘇生(実技紬宵) 休憩 1 5時 2 分 -15時5 分 一次心肺斜生 (1 こ J i i 汗何) 13 川剖分へ 15 日 ~.'20)} 15 川 20 分へ 15 日 ~.'30 ノ f. て作成された事故対応テキストである 'ASUKA. 15 時開分 ~16 時 20分修 f"g 止ロ4験(筆記ロ4験). モデル J8)では,「わからない」場合は直ちに心肺. 16 時間分 ~16 時 3 分. 事後,i!'何アンケート作成、連特亨項. 蘇生を開始するという手順を示しており,この課. 斗 H 持参 するもの. 受講票、筆宣用具(鉛筆を含む. 題に対する優れた解決策である。. その他連絡亨項. 講宵資料は当日に配布します 動きやすい服装および履物で参加して卜さい 妊娠中の hや身体の小山由なおの受講はお幼めいたしません. 手技そのものが適切にできるかという不安の他. 図 3 講習シラパス. に,もしも傷病者に後遺障害等が残ってしまった 場合への不安も,アンケートへの回答からうかが われた。わが国にはいわゆる「良きサマリア人の. 文献. 法」はないが,「善意に基づいて救命処置を施し た結果として傷病者に後遺障害等が生じたとして. 1 ) IwamiT,KawamuraT,HiraideA e ta l :E f f e c -. も,その責任を問われることはない。」というこ. t i v e n e s so fB y s t a n d e r I n i t i a t e dCardiac-OnlyResus. とが,広く一般に認識されるように,これからも 情報発信,啓発活動を続けて行くことが大切であ る 。 教員が心肺蘇生法を習得するための環境作りや 緊急時対応指針の作成においては,公的機関によ る主導あるいは支援が必須であると考えるが,そ. c i t a t i o nf o rP a t i e n t sWithO u t o f H o s p i t a lCardiac 9 0 0 2 9 0 7 .2 0 0 7 ArrestC i r c u l a t i o n1 1 6・ 2 i p p e r tFK,F o l l 王eFe ta l :A s s o c i a 2 )WissenbergM,L t i o no fN a t i o n a lI n i t i a t i v e st oImproveC a r d i a cA r r e s t 孔1 anagementWithRateso fBystanderI n t e r v e n t i o n. andP a t i e n t sS u r v i v a lA f t e rO u t o f H o s p i t a lC a r d i a c ArrestJAMA3 1 0 ;1 3 7 7 1 3 8 4,2 0 1 3 3) IwamiT,KitaharaT,KawamuraT e ta l :Chest. うした取り組みが実際になされている地域もあ. Compression-OnlyCardiopulmonaryR e s u s c i t a t i o n. り8),今後,全国に広まって行くことを切に望む。. f o rOut-of-HospitalCardiacArrestWithP u b l i c 0 1 2 AccessD e f i b r i l l a t i o n .C i r c u l a t i o n1 2 6 ;2 8 4 4 2 8 5 1,2 ta l :Chest 4)DumasF,ReaTD,FahrenbruchCe. v .結 語 教員が質の高い心肺蘇生法を習得するために, 実技練習の繰り返しに十分な時間を取った講習を. CompressionAloneCardiopulmonaryR e s u s c i t a t i o nI s AssociatedWithB e t t e rLong-TermS u r v i v a lComparedw i t hStandardCardiopulmonaryR e s u s c i t a t i o n . C i r c u l a t i o n1 2 7 ;4 3 5 4 4 , 12 0 1 3 5 ) KitamuraT,IwamiT,KawamuraT e ta l :Bystan. 企画・実施することが重要であるが,すべての学. d e r I n i t i o a t e dRescueB r e a t h i n gf o rO u t o f H o s p i t a l. 校教員がそうした講習を受けられるように,公的. C a r d i a cA r r e s to fN o n c a r d i a cO r i g i n .C i r c u l a t i o n1 2 2 ;. 機関による支援を確立させるべきである。. 2 9 3 2 9 9 .2 0 1 0 6 ) OgawaT,AkahaneM,KoikeSe ta l :Outcomeso f chestcompressiononlyCPRversusconventional CPRconductedbyl a yp e o p l ei np a t i e n t switho u to f h o s p i t a lc a r d i o p u l m o n a r ya r r e s tw i t n e s s e dbyb y s t a n -. 4.
(6) 学校教員の心肺蘇生法習得をどう進めるか. d e r s :nationwidepopulationbasedobservational s t u d y . BMJh t t p : / / d x . d o i . o r g / 1 0. 1 1 3 6 / b m j . c 7 1 0 6( P u b l i s h e d 2 7January2 0 1 1 ) 7) KitamuraT .IwamiT,KawamuraT e ta l :Conven t i o n a landc h e s t c o m p r e s s i o n o n l ycardiopulmonary r e s u s c i t a t i o nbybystandersf o rc h i l d r e nwhohave o u t o f h o s p i t a lcardiac a r r e s t s : aprospective, n a t i o n a l w i d e,p o p u l a t i o n b a s e dc o h o r ts t u d y .Lancet 0 1 0 3 7 5 :1 3 4 7 1 3 5 4,2 8) さいたま市教育委員会:平成 2 4年度版体育活動時等 における事故対応テキスト~. ASUKAモデル 平成 24. 年 9月3 0日. (保健管理センター教授). F. d.
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