Title
問題解決アプローチの支援枠組みに関する考察 : 個人の
尊厳というソーシャルワークの視点から
Author(s)
玉木, 千賀子
Citation
沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty of
Humanities and Social Sciences(18): 91-98
Issue Date
2016-03-07
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/20449
〈研究ノート〉
問題解決アプローチの支援枠組みに関する考察
― 個人の尊厳というソーシャルワークの視点から ―
玉木 千賀子
要 約 本論は,個人を固有の存在として捉えるというソーシャルワークの価値(個人の尊 厳)に依拠したケアマネジメントのありかたを検討するための予備的研究である。ソー シャルワークのアプローチにおいて人を中心としたアプローチとして位置づけられる Perlman の問題解決アプローチの構造と支援過程を整理し,個人の尊厳に関係するソー シャルワークの概念に関連づけて考察をした。その結果,その人の成長を一義的な目 標に位置づける,問題解決力を涵養するための問題の部分化,リハーサル体験の反復, 情緒的・知的・身体的側面からの対処能力向上等,支援を必要とする人の尊厳に結び つくと考えられる視点を見い出すことができた。一方で,自己決定の考え方,日本の 文化的特徴の自己決定への影響,言語的コミュニケーションを用いることによる対象 の限定,問題解決の認識が乏しい場合等の本アプローチの適用上の検討課題が示唆さ れた。 キーワード:個人の尊厳,問題解決アプローチ,ソーシャルワーク,ケアマネジメント はじめに ソーシャルワークの根源的な価値として位置づけられる個人の尊厳1)とは,一人ひとりを固 有の存在として捉えることである。これを具現すれば,その人の意向が尊重された生活の実現 を図ること(日本社会福祉士会 2005)である。そのためには,ソーシャルワークによる支援を 必要とする人の生活への願いや,将来への展望を支援者の側が共有し,支援を必要とする人の 意向の実現に障害となる要因の除去・軽減,社会生活機能の促進を図るために社会資源の活用 をおこなう。この時に,人々の社会生活ニーズとそれを充足するための社会資源の媒介を中核 的な機能とした,ソーシャルワークの一方法であるケアマネジメントが求められる。 しかし日本では,介護保険制度や障害者自立支援法などの政策に導入されたことによって, システム志向のケアマネジメントが定着し,個別性への配慮や個人の意向を丁寧にとらえたケ アマネジメントがおこなわれていないと指摘されている(橋本 2000:24-26;橋本 2001:93-94;渡部 2003:7-8;都崎 2007:67-70;中野 2010:60-61;坂本 2013:16-17)。 本論では,個人の尊厳というソーシャルワークの価値を実現するケアマネジメントのありか たを検討するための予備的研究として,ソーシャルワーク理論において,人を中心としたソー シャルワークアプローチとして位置づけられている Perlman の問題解決アプローチの支援枠組沖縄大学人文学部紀要 第 18 号 2016 み・視点・方法等の整理をおこない,本研究への活用の可能性について考察する2)。 1.問題解決アプローチの特性 問題解決アプローチは 「人は生きているいかなる瞬間においても一個の全体(a whole)とし て存在する」(Perlman = 1966:7)という人間観のもと,人生のなかで当然のこととして遭 遇する問題への解決方法として Perlman によって生み出された。その関心の焦点は,利用者の 問題解決の促進とその過程をとおして利用者が成長することにある。 支援者は,利用者の成長を目ざして,援助関係を育て,利用者の感情・思考・行動能力を刺 激し,目標達成に取り組む機会を重ねることができるように方向づける。その根底にあるのは, 人は生まれてから死ぬまでたえず何らかの問題に取り組む存在であり,問題解決過程は,その 人生で遭遇する問題を解決するためのツールであるという認識(戸塚 2005:33)である。利用 者の支援は,現に持ち込まれた問題解決だけでなく,今後の生活において何らかの問題に直面 した場合に,利用者自ら問題に対処するための力を涵養するという二重の知覚に基づいている (Perlman = 1966:103-123)。 「自分の問題を主観的に読み取り,問題に悩んでいる人が,また同時に,自分自身の問題の解 決者とならなければならない。彼をとおして,彼とともに,彼の力を生かして,はじめて問題 を扱うことができる」(Perlman = 1985:132)と説明されるように,利用者を支援の中心に 据えた問題解決アプローチは,Perlman がその理論を提唱したのちにも,多くの研究者・実践 者によって理論的・実践的な知見が蓄積された。そして,今日のソーシャルワークの中心であ るジェネラリスト・ソーシャルワークの視座として位置づけられている(Turner and Jaco = 1999:236-247;戸塚 2005:34-36)。 2.問題解決アプローチの構造とそれに基づく支援の展開 図1および表1は Perlman( = 1966,= 1985; 松本 1962 ; 戸塚 2005)を参考に,問題解 決アプローチの構造とソーシャルワークの展開過程および支援による利用者の変化を表したも のである。 (1) 問題解決アプローチの構造 問題解決アプローチは,理論的基盤を学習理論,自我心理学,役割理論に置く。個人的要因 あるいは環境的要因によって生じる自我機能の低下や限界等によって,人々の社会生活に問題 状況が生じる場合がある。しかし人は,自我機能を高めようとする意志・能力をもつ存在であり, その力を発揮して支援者と共に問題に取り組み,解決方法を学習する。 社会生活上の問題は,その人固有の社会的役割に関連して生じる。その役割遂行こそ自我を 発揮できる機会であり,生きることそのものである。この役割遂行に焦点をあて,役割を担う ための動機づけ,能力,機会を提供することにより,問題に取り組む力(ワーカビリティ)を 促進し,対処能力(コンピテンス)の向上を図る。 支援過程においては,利用者を取り巻くシステムとの関係で問題を捉え(状況のなかの人), 問題を切り分け(部分化),利用者が解決を希望する課題あるいは解決可能な課題に対して,支 援機関および機関に所属する支援者が,その能力を発揮することのできる問題解決に取り組む。 それらの過程において支援者は,利用者が自らの力を信じて問題解決に取り組むことができ るよう,利用者の自我機能に働きかける。自我機能を利用者−支援者の関係性のなかで意識的に
沖縄大学人文学部紀要 第 18 号 2016
刺激することは,将来の問題に対処する力をも養い,問題を小さく切り分ける(部分化)こと によって,利用者は成功体験を重ね,対処能力を向上させることができる。これらをとおして, 動機づけ,機会,能力の各要素が交互に作用し,問題に取り組む力(ワーカビリティ)が高め られる。 ワーカビリティとは , 利用者が自身の問題と機関に対してもつ力動的な関係であり,「働き得 る能力」と「治療的影響に対する反応力」を意味する。これら利用者のワーカビリティは,情 緒的能力,知的能力,身体的能力の変化となって現れ,支援者の行動の道標になり,支援者に 対する予備的知識を与える (Perlman = 1966:225-226)。 情緒的能力は,感じる能力すなわち種々の感情を経験し,知り,耐える能力である。それは, 経験した感情の表現や統御をおこない,支援者の示す共感や関心を利用者が自らの感情に及ぼ すように用いることができる力のことをいう。情緒的能力の向上に対する支援の評価には,利 用者が自己の問題に取り組む努力の程度,問題を処理する能力の柔軟性,行動振舞にみられる 反応性等を用いる。 知的能力には社会的な知性の能力,すなわち問題を自分自身および他者との関係から複眼的 に捉える視点,自分自身および他者と交流する能力,それらの交流をとおして得られた感情や 思想を言語化して表現する能力,ひとつの考えまたは問題に取り組む集中力などが含まれる。 これら社会的な知性が発揮されることによって,いかにして状況に対処していくべきかという 判断が導かれる。 身体的能力とは,利用者が自らの問題に働きかけるために必要となる健康や体力の維持など, 肉体的エネルギーである。 このような,情緒的,知的,身体的能力の向上のための働きかけは,先述した,①「状況の なかの人」として利用者を捉える,②問題を部分化して取り組む,③機関のもつ機能を発揮する, ④自我機能の安定に主眼を置く,という4つの視点に基づき,各支援過程の機能と用いる技法 が特定される(図1)。 (2) 問題解決アプローチに基づくソーシャルワークの展開と利用者の変化 問題解決アプローチは,開始,アセスメント,プランニング,実行,評価・終結の過程に沿 って進められる。Perlman は,この支援過程の展開によってワーカビリティが促進され,利用 者は自らの能力の向上と対処機能を認識できるようになる(Perlman = 1966 :240-243)と述 べている。 特徴的なことは,利用者の問題解決に取り組む態勢づくりに主眼をおいた,各過程における 機能と技法の活用である。アセスメントでは,問題と環境との関係性,問題に対する感じ方や 強さ,能力発揮に関係する阻害要因の明確化,達成可能な目標設定など,問題を客観化してと らえ,それに取り組む力の涵養を意図していることがうかがわれる。また,実行の段階におけ るリハーサル体験の反復には,経験の重視と問題解決力の形成,それをとおした利用者の成長 という本アプローチの中心的な視点を確認することができる。これら綿密な枠組みのもと,カ ウンセリングの技法を用いて各過程に位置づけられている機能を果たすためには,利用者にも 相応の問題解決の力量が求められるといえる。 支援過程を通して得られる利用者の自我機能・対処能力の向上は,情緒的能力・知的能力・ 身体的能力の変化として現れる。
沖縄大学人文学部紀要 第 18 号 2016 情緒的安定とは,緊張が緩和され,感情表現が可能になるとともに,感情の変化を自覚しそ のコントロールができるようになることをさす。さらに,自らの問題や置かれている状況に対 する他者からの共感や関心の受け入れが柔軟になり,将来に対する肯定的な感情(希望や期待) をもつことができるようになる。 知的能力の向上とは,支援機関や支援者の役割を理解し,自分を取り巻く環境との関係性を 視野に入れて問題を理解するという問題に対する複眼的な視点が培われることである。具体的 には,自己との向き合いや他者との交流の促進,感情や思想の言語化,集中力の向上,社会資 源を有効に活用するためのスキルの発揮(選択・質問・確認・要望・反対等),将来の展望や生 活設計の形成等にあらわれる。 身体的には,活動を持続し,感情面への負の影響や他者との関わりの促進に耐えうることが できる体力が獲得される。 これらの能力を活用して利用者が自らの問題解決を図り,それによって,利用者の成長とい う問題解決アプローチの目標が達成される(表1)。 3.問題解決アプローチの考察 — 個人の尊厳というソーシャルワークの視点から Perlman(= 1966:164)は,「自己決定は自己責任をとることができる全ての人の権利であ り,その方向に向けて利用者を刺激することが問題解決過程の意図である」と述べている。こ のように,自己決定を人としての権利として位置づけるという基本的視点は,ソーシャルワー クの価値の実現を目ざすアプローチとして評価できる。しかし,その詳細については,留意し なければならない点がある。 1点目は,Perlman の考えが,自己決定と自己責任を一体のものとして捉えるという近代市 民社会の生活の自己責任原則に基づいていることがうかがわれる点である。ソーシャルワーク の利用者のなかには,知的障害や認知症の状態にある人など,個人的な要因によって自己決定 が困難な人々がいる。自己責任原則からみれば,そのような状況にある人は自己決定から排除 されるという可能性が生じることになり,個人の尊厳という視点からみれば,Perlman の考え には𪗱𪘚が生じてくる。 2点目は,人は純粋に自己決定ができる存在であるのか,という点である。日本の対人関係 の特徴をあらわす場合に,「空気をよむ」といった言葉が使われる。これは,集団の内部におい ては過剰なほど周りに気を遣ったり,同調的な行動が求められたりする(広井 2009:19)など, 自己主張を抑えるという対人関係の傾向のことである。徳川(1998:67)は,「お察し文化」と 表現し,周囲の状況を読み取り,そこに自分を合わせるという日本の文化的特徴を指摘している。 これらの指摘は,利用者を取り巻く環境的要因によって,自己決定に歪曲が生じる可能性があ ることを示唆している。この点に関連して空閑(2014:1-20)は,日本の生活のなかで培われ た文化や思考様式を踏まえたソーシャルワーク実践の重要性を指摘している。これらのことか ら,利用者の問題と取り巻くシステムとの関連性や利用者の能力発揮に関する阻害要因等を詳 細に捉え,問題に影響を与える環境要因を分析することが必要になると考えられる。 3点目は,問題解決アプローチの性格やマイクロカウンセリングの技法を用いることに馴染 みにくい利用者がいるという認識のもと,その対象を特定し,適用範囲の明確化を図るという 点である。問題解決アプローチの展開過程は,課題解決に対する意志をもち,言語的コミュニ ケーションが可能な場合においては,個人の潜在的な能力の発揮までも視野に入れた効果的な
支援方法であるといえる。しかし,ソーシャルワークの支援を必要とする人々の中には,言語 的コミュニケーションを用いることが苦手である,課題解決の意志をもちにくい,課題そのも のに対する認識が乏しいなど,問題解決アプローチの適用が難しいと考えられる人々がいる。 問題解決アプローチの適用範囲を明確にし,その範囲においては支援効果を高めるための活用 のしかたを精緻化することと併せて,適用が難しいとされる人々に対する支援のあり方を検討 することが必要になる。 これらのように,自己決定の考え方,日本の文化的特徴の自己決定への影響,言語的コミュ ニケーション能力や問題解決の認識に乏しい人に対するアプローチのあり方など更なる検討の 余地はあるものの,支援を必要とする人の態勢に寄り添い,この場限りではない問題解決力を 培うという視点,問題を部分化し経験を積み重ねることをとおして問題解決を図るというリハ ーサル体験の反復,情緒的・知的・身体的変化に区別して利用者のワーカビリティを捉えると いう考え方は,個人を尊重した生活の実現を図るというケアマネジメントのあり方を検討する 際の重要な手がかりになるといえるのではないか。 おわりに Perlman の問題解決アプローチの支援枠組みの整理を踏まえて,個人の尊厳というソーシャ ルワークの価値に照らし合わせて,活用の可能性と課題について考察をおこなった。本論では, ソーシャルワークの概括的な性質との比較に基づく考察に留まり,ケアマネジメントの特性を 踏まえたうえでの考察には至らなかった。したがって,次の段階においては,ケアマネジメン トの特性の分析をふまえて,問題解決アプローチの視点や方法の活用の可能性をみていく必要 がある。 注 1) ソーシャルワークの価値として位置づけられている個人の尊厳を,多様な人々・場面におい て具象化するためには,ソーシャルワークの価値を説いた Butrym(= 1986)や人間の尊厳 を擁護したカント哲学にその根源的な意味を問うことからはじめることが必要と考えられる が,この点についての考察は今後の課題とする。 2) 筆者の研究関心は,ソーシャルワークの一領域であるケアマネジメントの方法にあり,本論 文の知見をケアマネジメントに活用するためには,ソーシャルワークとケアマネジメントの 関係性や差違についての考察を含めることが必要である。しかし,問題解決アプローチ—ソー シャルワーク—ケアマネジメントという二重の構造を採ることによる論点の複雑化を考慮し, 本論においては,問題解決アプローチとソーシャルワークの関係に限定して考察をおこなう。 引用文献
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