製品改善設計における「機能の定義」方法の提案
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(2) 製品改善設計における「機能の定義」方法の提案 牧野 公一†1,澤口 学†2,大野 髙裕†3 多くの企業では,価値を(価値 V)=(機能 F)/(コスト C)と表す,Value Engineering(価値工学,以降「VE」と する.)を活用し,製品開発,既存製品や業務の改善,すなわち価値向上を行っている.VE は,製品や部品の持つ機 能や業務の機能を名詞と動詞を用いて「(名詞)を(動詞)する」と表現し,このように定義した機能を中心にした発 散思考と収束思考の繰り返しにより改善案を効率よく創出する方法である.しかし,VE を使いこなすには熟練が必要 で,特に機能を定義することが難しい,また改善案を創出しやすい「機能の定義」とはどのようなものかを教えること も難しいと言われている.本研究ではオントロジー工学で用いられる Function and Behavior Representative Language(以下 「FBRL」とする.)を応用した「機能の定義」方法(以下「FBRL 法」とする.)を更に改良した新 FBRL 法を用いた 製品改善設計時の「機能の定義」方法を提案する.今回,製品改善のための企業内 VE 研修において,「機能の定義」 の説明を,FBRL 法が開発される以前の「機能の定義」方法(以下「従来法」とする.)と新 FBRL 法で行い,理解度 テストとして名詞が正しく選択できるかどうかの検証を行った結果,新 FBRL 法は従来法に対し統計的有意差を持って 高得点となることを確認し,新 FBRL 法は機能の定義における名詞選択について理解が進むことが確認され,有効性を 実証できた.. キーワード:製品改善,value engineering,機能の定義,FBRL. VE では機能を「(名詞)を(動詞)する」と表現し, 目的と目的達成の程度を表す制約条件を含んだ概念として いる[1].機能に着目した管理技術には VEの他,Work Design 企業は競合環境にあり,製品競争力を高めるために常に 製品開発や改善を行う必要に駆られている.したがって, (以下,「WD」とする.),品質機能展開(Quality Function Deployment,以下,「QFD」とする.),品質工学などが 固有技術を高める必要性と合わせ,効率の良い開発や改善 ある. を行うために管理技術を用いることも重要である.こうし た中,管理技術の一つに,“機能本位思考”を重視してい WD とは理想システムの概念により,必要な機能を果た すもっとも簡単かつ効果的なシステムと方法を明確に示す るVEがある[1].VEは,使用者が求める製品を開発するこ ために行う,計画中ならびに現行のワーク・システムの体 とによる売り上げ増大,原価低減による限界利益の増大や 資源の有効活用による経営の効率向上等の為,近年では 系的な技法である[8].つまり,WD では各種業務をシステ ムとして捉え,そのシステムが果たそうとする目的を機能 サービス産業を含めた多くの企業で使われている[2]~[4]. と呼んでいる.WD において機能は名詞(目的語)と動詞 このVEには,VE実施手順と呼ばれる思考過程が用意され ており[1],そのステップの一つである「機能の定義」は実 で表現され,この機能を果たすための方法を演繹的に導く [9].理想的なシステムが必要とする機能を記述し,その機 施も教育も難しいことが解決すべき課題である[5],[6].本 研究では FBRL 法[7]をさらに改良した「機能の定義」方法, 能を基点として機能の達成方法を発想し,逐次制約条件を 付加しながらシステムを具体化していく技術である.した 新 FBRL 法を提案する.そして,既存製品の改善設計にお がって,既存業務や既存設計の機能を定義する手順は持っ ける,改善案を創出しやすい「機能の定義」とはどのよう な定義なのかを説明する際に新 FBRL 法を用いた場合,従 ていない. 来法よりも理解が得やすいことを企業内 VE 研修で得られ QFDとは顧客の声を技術的特性に変換し,設計の質を高 た理解度テスト結果で実証することを本研究の目的とする. める管理技術である[10].QFD は顧客の声,つまり顧客の 要求を機能で表現し,その機能表現は VEと同様である[11]. QFDは顧客が要求する機能から,品質展開,技術展開,生 2. 従 来 研 究 産技術展開,コスト展開,信頼性展開など,総合的品質機 能展開として進化している.しかし,既存設計の特性から †1 株式会社IHI 機能に逆変換するアプローチではない為,既存設計特性か †2 立命館大学 †3 ら機能を定義する手順は持っていない. 早稲田大学 受付:2020年3月 19日,再受付(3回) 品質工学は品質のばらつき,劣化などの品質問題が発生. 1. は じ め に. 受理:2020年12月 16日. Vol. 72 No. 1(2021). 47.
(3) しない設計を行うために,実験計画法から派生した技術で ある[12].技術開発,設計,生産準備の各段階において, システム選択とパラメーター設計に,使用者の求める機能 である目的機能と,その目的機能を達成するための自然の 原理である基本機能が用いられている[12].品質工学でい う機能は,例えばファン,サーモスタットと言った技術的 手段を指しており,基本機能はこれらの技術の入出力で表 現され,機能性評価は基本機能のノイズに対する安定性で ある.品質工学における機能は,VE のような名詞と動詞 および制約条件で表現されるものではないものの,設計者 がどのパラメーターに着目しているのかを把握することは VEの機能の定義において役立つ視点となる. また,設計においても機能は重要である.一例として公 理的設計を挙げる[13].ある製品を開発する場合,まず顧 客の要求があり,これを顧客領域の顧客属性とする.この 顧客属性を達成するために必要な機能を決め,機能領域の 要求機能とする.要求機能に具体的な材質や寸法などの情 報を与え,実体領域の設計解を作る.そして設計解を実体 化するため,製作順序,溶接条件等の情報がプロセス領域 の生産条件となる.この顧客属性,要求機能,設計解から 生産条件への思考の流れが設計プロセスである.しかし, 公理的設計には,製品開発の設計時に顧客属性から要求機 能をどのように作るのか,また既存製品改善の設計時に既 存設計解および生産条件に着目して要求機能を再定義する 手順はない.. 3. VE の概要 3.1 VE実施手順 管理技術である WD,QFD,品質工学や設計において機 能は重要であるが,機能を定義する手順に関する方法論に ついては研究の余地がある.一方,VEはVE実施手順と呼 ばれる思考プロセスを持っている[1].これは情報をステッ プ毎に加工していくことで製品やサービスの価値を向上さ 表 1 VE実施手順 基本ステップ. 詳細ステップ VE対象の情報収集. 機能定義. 機能の定義(本研究の対象) 機能の整理 機能別コスト分析. 機能評価. 機能の評価 対象分野の選定 アイデア発想. 代替案作成. 概略評価 具体化 詳細評価. 48. せようとするものである.さらに,VE 実施手順には機能 を定義するステップも存在し,そのステップ内には機能を 定義する手順も備えている.表 1 は既存の製品やサービス を改善するための VE 実施手順で,基本ステップと詳細ス テップを持つ. 製品改善活動において代替案を創出する為に VE 実施手 順を適用する理由は,適用しない場合と比較し,代替案の 価値が高くなることを期待するからで,代替案の基となる アイデアをいかに創出するかが重要である.VE 実施手順 では,「機能の定義」の言語部分を基にした発散思考,制 約条件を用いた評価を行う収束思考の繰り返しを行う. よって,この思考プロセス上,「機能の定義」が不可欠と なっている.本研究は,代替案の価値向上を左右する重要 なステップである「機能の定義」に着目する.なお,以降, 鍵括弧を付けた「機能の定義」は,VE 実施手順の詳細ス テップ「機能の定義」を指す. 3.2 「機能の定義」の課題 VE は多くの企業で幅広く製品やサービスの改善に用い られているものの,VE 実施手順を実際に製品改善活動へ 適用や教育を行う場合,機能定義や機能評価は製品への適 用,教育共に難しい.実務への適用に際しては機能別コス ト分析が難しい.教育においては,「機能の定義」方法を 従来法で,「モノの立場に立つ」や「抽象度を上げる」な どと説明しても理解が得られにくい[6].これは VE におけ る機能概念そのものが不明確であり,言語化するのが難し いからである[7].この説明や理解の困難さは VE における 機能概念が不明確であることや,「機能」を目的やはたら きと同義で使ってしまっていることの弊害である.ここで, 機能の記述例として,図 1 にフィラメントの目的,はたら き,実体の関係例を示す. 目的. 部屋を明るくする. はたらき. 光を出す. 実体. フィラメント. 対象を特定する. /('. 注意を促す. 裸火. 図 1 目的,はたらき,実体の関係例. 部屋を明るくするために白熱灯を使う場面におけるフィ ラメントの機能を考える.このとき目的は,「部屋を明る くする」であり,「機能」の意味が目的もはたらきも同義 であると,「光を出す」と「部屋を明るくする」のどちら もフィラメントの「機能の定義」として正しいはずである. しかし,電球の改善を行おうとする場合,フィラメントの 機能を「部屋を明るくする」と定義し,機能本位の発散思 考で改善アイデアを発想すると,アイデアが広範囲になり すぎ,肝心の電球の改善には何の役にも立たないアイデア. 日本経営工学会論文誌.
(4) が量産され,時間の浪費となる懸念がある.つまり,製品 コンセプトを作り出すような企画や開発段階においては, 既存製品にとらわれない広い発想が求められるが,電球の 改善時にはフィラメントの属性に限定した「機能の定義」 を行うことが求められる.また,「機能の定義」の対象が 警報の種類を特定するため LED を何らかの識別に用いる 場合,夜間に遠方に向かって注意を促すのに裸火を用いる 場合なども同様である.図 1 の例では,フィラメント, LEDに裸火はそれぞれの属性のうち,「光を出す」に着目 しており,その光を使うことで目的を達成している.. 定義」では,機能を定義しようとする人は,目標,振る舞 い,アウトプット,機能タイプを見つけていく過程におい て「機能の定義」における名詞と動詞を思いつくとされて おり,目標,振る舞い,アウトプット,機能タイプや定義 における名詞と動詞をどのように決定するのか具体的方法 には言及していない.. 4.2 改善案を創出しやすい「機能の定義」 VE の目的は活動対象の価値の向上である.VE では価値 概念を V(価値)=F(機能)/C(コスト)で表す.この 概念式において価値向上を行うには Fと Cのバランスを変 えるが,多くの改善設計においては,F を保ちながら C を 4. 新 FBRL法による「機能の定義」方法 下げるパターンが採用されており,本研究では,F を一定, C を下げることにより価値向上を行うための「機能の定義」 4.1 FBRL 法による「機能の定義」 方法を提案する. 管理技術や設計で機能は重要であるものの,「機能」と 図 1 の電球を改善設計する場合を例にとり,改善案を創 いう言葉に対する一般的な定義はない[14].これに対し, 出しやすい「機能の定義」とは何かを説明する.通常,電 機能の捉え方の一つとして,基本概念や概念間の関係をモ 球の設計者として行えることは,電球に関わる設計パラ デル化するオントロジー工学を応用した,機能を記述する メーターの変更に限定される.フィラメントの「機能の定 機能モデル表現言語(Function and Behavior Representation Lan義」結果を「部屋を明るくする」としてアイデアを発想し, guage,FBRL)がある[15].FBRL では機能を「目標のもと で振舞いを解釈した結果」としている.この FBRL は,設 電球の設計パラメーター以外の改善アイデアが出された場 合,設計者は関与できない為,そのアイデアは採用されな 計者の意図である機能概念をコンピューター上に実装する い.したがって,このようなアイデアは改善案につながら ための言語であり,VE の機能概念に見られるような曖昧 ない.一方,「光を出す」とした場合には,電球はフィラ さが排除されている.また,本研究の対象である「機能の メントを含んだ光を出すためのシステムであり,創出され 定義」は,既存設計に対する設計者の意図を明確に把握す ることであり,ここに FBRL を応用することは有効である. るアイデアは設計者が関与できる可能性が高まる.以上よ り,本研究では,改善案を創出しやすい「機能の定義」と そこで筆者らは,VE 実施手順で熟練を要するとされる は,「機能の定義」結果が改善対象製品の設計者が変更可 「機能の定義」に FBRL を応用し,熟練者ではなくともあ 能な設計パラメーターを示しているときである,とする. る一定のレベルで「機能の定義」を可能にする FBRL 法を 開発,提案した[7]. FBRL 法では「機能の定義」の対象部品や部位に対する 4.3 新 FBRL法 設計の思考を,表 2 に示すとおり,目標,振る舞い,アウ 「機能の定義」は,公理的設計では既存の DP,PV を観 トプット,機能タイプで表現し,これらを基にして,部品 察し,FR を定めることと同じである.VE とは実は設計が や部品群に対する「機能の定義」を「(名詞)を(動詞) 行っている思考と同様であると言える.従来法による「機 する」として記述する.しかし,FBRL 法による「機能の 能の定義」を困難にさせている原因の一つとして,製品の 設計がどのようになされているかに触れず,機能を定義す 表 2 FBRLの用語 ることにのみ着目していることが考えられる. 各用語. 用語の意味. 目標. 意図された望ましい状態. 振る舞い. 時間とともに変化する対象の状態遷移. アウトプット 振る舞いの何に着目するか 入力値に応じて,出力値を 達成 望ましい値にする機能 入力値と出力値を等しくす 機能タイプ 保持 る機能 入力値に関わらず,望まし 維持 い出力値にする機能 機能 目標のもとで振舞いを解釈した結果. Vol. 72 No. 1(2021). Output. Input 全体機能. 下位機能1. 下位機能2. 図 2 全体機能と下位機能. また,製品は,インプットをアウトプットに変換するシ ステムとされ,全体としての機能を達成するため,複数の 下位機能に分割することが可能である[16].全体機能と下. 49.
(5) 位機能の概念を図 2 に示す. FBRL は部品を入力と出力を持ったブラックボックスと 捉え,その入出力の関係から機能をモデル化している. FBRL 法は,このような設計の思考の流れ,全体機能と下 位機能概念を考慮することによって「機能の定義」を適切 に行えるようにしたものであった.しかしながら,FBRL 法は従来法の説明や理解の困難さを解決したものの,具体 的にどのように目標,振る舞いやアウトプットおよび名詞 と動詞を選択するかは,機能を定義する人任せになってい る.本研究では,「機能」を「目的の達成度合を制約条件 とし,使用する部品や部品群が持つ属性を名詞と動詞で表 現した概念」としたうえで,FBRL 法に各項目の選定指針 を追加,表 3 に示す選定指針及び図 3 に示すフローを新 FBRL 法として提案する.. Start. n=定義対象数. i=1. 部品名の記入. Yes. 機能をすぐに 思いつくか. No Step1:方式、機構の把握. 表 3 機能の定義ステップ(新 FBRL 法) ステップ Step1:方式,機構 の把握 Step2:目標の決定 Step3:インプッ ト,アウトプット の把握 Step4:インプッ ト,アウトプット の時間変化の把握 Step5:振る舞いの 決定 Step6:名詞の決定 Step7:機能タイプ の決定 Step8:動詞の決定 Step9:機能の定義 の確定. 選定指針 部品もしくは部品群を作動させ る方式,機構を把握する この方式,機構で何をどうした いのかを言語化し目標とする 作動に必要なインプット,アウ トプットを何らかの物理量とし て把握する インプット,アウトプットがど のように時間変化するかを把握 する インプット,アウトプットの時 間変化を言語化して振る舞いを 決定する アウトプットを機能の定義の名 詞部分として決定する 振る舞いからどの機能タイプか 決定する 名詞が示す対象の動きを表現す る動詞を決定する 名詞と動詞を組み合わせ,機能 の定義として確定する. 「機能の定義」の対象は部品もしくは部品群であり,改 善対象製品の規模や活動期間によって分割の程度が変わる が,分割方法については本研究の対象外であり,本研究で は定義対象は確定しているものとする. 図 3 のフローでは「機能の定義」の対象の数を任意の定 義対象数 i(i=1, 2, 3, ・・・, n)とする.「機能の定義」の 対象は機能を 1 個以上持ち,任意の「機能の定義」の数を j(j=1, 2, 3, ・・・, m)とする.この「機能の定義」の数は, Step3 で得られる着目するアウトプット数と同じである. なお,名詞と動詞は同数である.以上より,得られる i 番目の定義対象の j番目の「機能の定義」を Di,jと記述する. Step1 では,定義対象がどのような方式で作動するのか, また,どのような機構を持っているか把握する.. 50. Step2:目標の決定. Step3:インプット、アウトプットの把握. Step4:インプット、アウトプットの時間変化の把握. Step5:振る舞いの決定. m=アウトプット数. j=1. Step6:名詞の決定. Step7:機能タイプの決定. Step8:動詞の決定. Step9:機能の定義の確定. j=j+1. 機能の定義を記述 Di, j. No. j=m Yes. No. i=n. i=i+1. Yes End. 図 3 新 FBRL法による「機能の定義」フロー. 日本経営工学会論文誌.
(6) Step2 では,定義対象がどのような目標で,このような 方式や機構を取っているのかを言語化する.この時,定義 対象のみに着目するのではなく,関連する部品や部品群, また製品全体との関係性を考慮すると目標を言語化しやす い. Step3 では,インプットとアウトプットを物理量で把握 する.これは定義対象が持つ機械的,物理的特性を把握す ることである. Step4 では,インプット,アウトプットの時間変化を把 握する.この時,製品がどのような使われ方をするか,イ ンプット変化で,どのようにアウトプットが変化するかを 考慮するとよい. Step5 では,インプットとアウトプットの時間変化から 振る舞いを言語化する.この時,アウトプットが必要で, そのためのインプットがあると考え,アウトプットをイン プットで制御するイメージを持つと言語化しやすい. Step6から Step9は Step3で得られたアウトプット数,すな わち,「機能の定義」の数だけ繰り返す. Step6 では,アウトプットを「機能の定義」の名詞とす る. Step7 では,振る舞いを参考に機能タイプを達成,保持, 維持から選択する. Step8 では,名詞の示す対象の動きを表現する動詞を, 振る舞い,機能タイプを参考にしながら決定する.ただし、 達成,保持,維持から一つを選択する必要はない. Step9 では,名詞と動詞を組み合わせて「機能の定義」 を確定させる.. 機構とは,静止している物体以外のある物体に運動をお こさせたとき,他の物体がそれにつれて必ず一定の運動を するような組み合わせである[17].また,方式とは,機構 を作動させるための形式や手続きを含む考え方であるとす る.このモーターは自動走行台車を動かすために駆動輪に 直接接続されているとする. 方式:DCモーター 機構:駆動輪直結 Step2:目標の決定 把握した方式,機構を採用し,何をどうしたいのかを言 語化し定義対象の目標を決定する. 駆動輪に DC モーターが直結され,DC モーターが回転 することで駆動輪の軸を回転させている. 目標:軸を回転させる Step3:インプット,アウトプットの把握 定義対象に対するインプットとアウトプットを,何らか の物理量として把握する. DCモーターを作動させるためには電力,つまり電流×電 圧が必要で,回転数を電圧で制御しているものとする.駆 動輪には必要な回転数が設定されるため,駆動輪が回転す るのに必要なトルクも必要となる.このように,インプッ トとアウトプットを把握する際,何らかの物理量で把握す ることが新 FBRL 法で機能を定義する上で必要である.つ まり,インプットとアウトプットを把握することとは, モーターに対する設計的要求を把握することである. インプット:電圧 アウトプット:回転数,トルク(m=2、アウトプット数 が 2 個、すなわち機能の定義の数が 2 個となる) 4.4 新 FBRL法による「機能の定義」例 Step4:インプット,アウトプットの時間変化の把握 自動走行台車の模式図を図 4 に示す.図 4 中のモーター インプットとアウトプットがどのような時間的変化をす を例とし,新FBRL法を用いた「機能の定義」をStep1から るのか把握する. 9に従い説明する.(n=1,すなわち定義対象数が 1個の例) 例えば,このモーターが一定回転するものなのか,ある このモーターは,何らかの自動走行台車の駆動輪に直接 いは加減速を行うものなのかで求められる機能は異なる. 接続された DC モーターと仮定する.なお,制約条件につ 今回は定義対象を,自動走行台車の駆動輪に接続された いては固有技術にかかわるため,今回は省略する. モーターと仮定したので回転数制御もなされていると仮定 する.台車が必要な速度を出すため,モーターへのイン プットである電圧を上げるとアウトプットであるモーター 回転数も上昇する関係にあるとする. モーター インプット:回転数を上げるため電圧を上げる 回転数を下げるため電圧を下げる アウトプット:回転数,トルクが上下する Step5:振る舞いの決定 インプットとアウトプットの関係を言語化し振る舞いを 図 4 自動走行台車模式図 決定する. 新 FBRL法による「機能の定義」例 必要なアウトプットである回転数とトルクを得るため, Step1:方式,機構の把握 インプットの電圧を変化させている. 振る舞い:電圧で回転数が変化し,トルクも変化する 「機能の定義」の対象である,部品もしくは部品群が作 動するための機構や方式を把握する.. Vol. 72 No. 1(2021). 51.
(7) Step6(1):名詞の決定(j=1) アウトプットを名詞として決定する. 名詞:回転数 Step7(1):機能タイプの決定 振る舞いから,どの機能タイプであるか決定する. 今回はトルクと回転数に着目し,電圧を制御することで 必要な回転数,トルクを達成させている. 回転数に対する機能タイプ:達成 Step8(1):動詞の決定 設計者が着目しているのはモーターの回転数とその変化 であり,回転数を得るにはトルクが必要となっている. 回転数に対する動詞:変える Step9(1):機能の定義の確定 選択した名詞と動詞を組み合わせ,モーターの機能の定 義として決定する. 機能の定義:回転数を変える(モーターに対する 1 番目 の機能の定義,D1,1) Step6(2):名詞の決定(j=2) アウトプットを名詞として決定する. 名詞:トルク Step7(2):機能タイプの決定 今回はトルクと回転数に着目し,電圧を制御することで 必要な回転数,トルクを達成させている. トルクに対する機能タイプ:達成 Step8(2):動詞の決定 Step6(2)で名詞をトルクと回転数と決定した.今回のケー スでは,設計者が着目しているのはモーターの回転数とそ の変化であり,回転数を得るにはトルクが必要となってい る. トルクに対する動詞:発生する Step9(2):機能の定義の確定 選択した名詞と動詞を組み合わせ,モーターの機能の定 義として決定する. 機能の定義:トルクを発生する(モーターに対する 2 番 目の機能の定義,D1,2) 最終的に,モーターの機能の定義結果としては,「回転 数を変える(D1,1)」,「トルクを発生する(D1,2)」の二 つとなる. 新 FBRL 法による「機能の定義」を用いてアイデアを発 想した場合,運転データに照らして適切な仕様のモーター を選定する,制御基板の共通化など,現実的な案が多く発 想される可能性が高まる.. 換を行う,増幅を行う,供給を行う,というように「~を ~する」と書いてはあるものの間違って機能を定義してし まうことがある.これら間違った定義は,変換,増幅,供 給などの言葉が名詞として用いられており,目的語がない ため「機能の定義」としては成り立たない.このような場 合には,文字を変換する,信号を増幅する,冷却水を供給 する,というように名詞部分には目的語となりうる言葉を 選択する必要がある.新 FBRL 法は,設計の思考を正しく 把握することで,改善案を創出しやすい,すなわち,改善 対象製品の設計者が変更可能な設計パラメーターを表現す る「機能の定義」を行えるようにするものであり,適切な 名詞を選択することが可能である.このとき動詞は名詞で 示した対象の振る舞いを示すため,動詞を正しく選択する ためには,先に名詞を正しく選択することが必要である. 動詞選択は固有技術と関連する制約条件とも密接に関係し, そのうえ動詞の解釈は多義的である.一方,名詞は指し示 す対象を特定できる.よって今回,名詞を正しく捉えられ ているか,つまり,製品機能のアウトプットを適切に捉え ているかどうかで,「機能の定義」を理解しているかどう かの評価を行うこととした. 5.2 理解度テストの実施方法 本研究では,新 FBRL 法が,改善案を創出しやすい「機 能の定義」の理解促進に有効であることを,理解度テスト 結果より検証した.表 4 に理解度テストの実施方法を示す. 一回目の理解度テストは従来法の説明後,二回目は新 FBRL 法説明後に行い,テストの点数(11 点満点)を用い て仮説検定を行った.習熟効果の影響を低減するため,問 題を A,B 二種類用意し,受験者は二回のテストでそれぞ れ異なる問題を解いた.また,受験者の質による差を無く すため,受験者を二班に分けた.今回は製品の最上位の機 表 4 理解度テストの実施方法 項目 受験者 グループ分け 出題 問題 解答時間 受験者と出題組 合せ. 5. 検証と結果 5.1 データ取得の方針 VE 実施手順における「機能の定義」では,機能を 「(名詞)を(動詞)する」として記述する.この時,変. 52. 受験者数. 内容 VE の未経験者 受験者をほぼ同数の二班に分ける 製品の基本機能を選択する. (5 択問題) A,B 二種類(各 11 問) 10 分 一回目: 従来法による説明後に実施 二回目: 新 FBRL 法による説明後に実施 一班: 一回目 A 問題,二回目 B 問題 二班: 一回目 B 問題,二回目 A 問題 145 名. 日本経営工学会論文誌.
(8) 能を基本機能と呼ぶことにし,理解度テストでは,示され た製品の基本機能を 5 つの選択肢の中から 1 つを選択する 形式とした.表 5 に理解度テスト例を示す.この例では受 験者は電子レンジの基本機能を 5 つの選択肢から選択する. なお,この問題の正解は「マイクロ波を出す」である. 「食品を温める」,「温度を上げる」,「食材を調理する」 および「調理を容易にする」は,全て使用者の立場であり, 電子レンジという方式を選択した設計的な立場では,変更 可能な設計パラメーターとして着目しているのはマイクロ 波だからである. 表 5 理解度テスト例 部品名 選択肢 1 選択肢 2 選択肢 3 選択肢 4 選択肢 5. 電子レンジ 食品を温める マイクロ波を出す 温度を上げる 食材を調理する 調理を容易にする. 表 7 新 FBRL 法による説明前後の仮説検定 平均 μ. 説明前 4.634. 分散 σ. 8.178. 9.001. 観測数(回答者数). 145. 145. 自由度. 287. 帰無仮説 H0 対立仮説 H1. μA=μB μA≠μB. t. -3.005. P(T<=t) 両側 p. 0.003. t 境界値 両側 Ct5 t 境界値 両側 Ct1 検定(5%). 1.968 2.593. 5.669. |t|>Ct p<0.025 故に,H0 は棄却される |t|>Ct p<0.005 故に,H0 は棄却される テスト前後の平均が異な ると予想できる 新 FBRL 法による説明前 後で平均点に統計的有意 差が認められる. 検定(1%). 5.3 考察 理解度テストAと B間に平均点の差があるのか,ウェル チの検定を行った結果を表 6 に示す.. 説明後. 結論. 表 6 理解度テスト A,B の仮説検定 平均 μ. テスト A 4.945. 分散 σ. テスト B 5.359. 9.219. 8.412. 観測数(回答者数). 145. 145. 自由度. 287. 対立仮説 H1. μA=μB μA≠μB. t. -1.187. P(T<=t) 両側 p t 境界値 両側 Ct 検定(5%). 結論. 1.968 |t|<Ct p>0.025 故に,H0 は棄却されない テスト A,B の平均点が 異なるとは言えない. 有意差 5%で検定し,理解度テスト A,B の平均点は異 なるとは言えないことを確認した.よって,表 4 に示す実 施方法で従来法による説明と新 FBRL 法による説明の違い の検定に理解度テスト A,B の違いによる影響は入らない. 表 7 に新 FBRL 法による説明前後の平均点に対する仮説検 定結果を示す.有意差 5%で検定した結果,新 FBRL 法に よる説明後,本方法による検討で回答した場合,説明前後 の平均点に統計的有意な差が認められた.さらに有意差 1%で検定しても同様に統計的有意差が認められた.. Vol. 72 No. 1(2021). **. 0.236. 5.669. 6.000 5.000. 4.634. 4.000 平均点. 帰無仮説 H0. 名詞選択に関し,他の方法,選択問題のための偶然など, 新 FBRL 法を用いなくても正解となる可能があるものの, 一連の研修中の連続した従来法による説明後と新 FBRL 法 による説明後の検定結果であり,図 5 に示すとおり新 FBRL 法による説明後に理解度テストの平均点は上昇した と考えられる.. 3.000 2.000 1.000 0.000 前. 後 説明前後. 図5 新FBRL法による説明前後の平均点. 53.
(9) 6. 結論と今後の課題 本研究では,VE 実施手順における「機能の定義」にお いて,従来法にくらべ新 FBRL 法が名詞選択の理解促進に 有効であることを立証することができた.「機能の定義」 は名詞と動詞が一組になってなされ,かつ動詞は名詞で示 した対象の振る舞いを表すことから,新 FBRL 法で名詞を 正しく選択できることは動詞を正しく選択することにもつ ながる.つまり,製品改善設計時における「機能の定義」 には,今回提案する新 FBRL 法は従来法よりも有効である と言える.したがって,「機能の定義」の失敗や,「機能 の定義」の失敗に起因する VE 活動の失敗,作業の後戻り による無駄の可能性および,間違った設計を行ってしまう 危険性が新 FBRL 法により減ることが期待できる.また, 新 FBRL 法を用いた説明は根拠が明確であり,従来から指 摘されてきた「機能の定義」の説明における属人性を排除 することも可能となる.したがって,「機能の定義」の教 育や実践での慣れに必要な時間を短縮できると考えられる. 以上より,既存製品の改善を行う際,新 FBRL 法を活用す ることにより,企業内の設計,調達,製造など各部門にお ける活動が従来よりも効率的に行えるようになると期待さ れる.また,実務においてはワークシートやチェックシー トを用いた付帯業務の効率化やデータベース化による機能 分析業務の支援システム開発も検討したい. 本研究では「機能の定義」における動詞選択については 言及していない.よって,実務上必要となる動詞の選定方 法および正しく選定されているかの評価方法が求められる. さらに,本研究は既存製品の改善時の「機能の定義」方法 についてであったが,製品開発段階における「機能の定義」 は,参考とすべき既存製品やサービスがない為,顧客の要 求を機能に変換する手法も必要となる.また,VE 実施手 順の次のステップとなる「機能の整理」についても教育, 実践ともに難しいとされているので,「機能の整理」結果 である機能系統図の効果的な作成方法も今後は検討したい.. 謝. 辞. 今回実験に協力頂いた,株式会社 IHI 人事部人材開発グ ループ,技術開発本部技術研修所,ものづくり推進部,調 達企画本部調達エンジニアリング部,株式会社 IHI 回転機 械エンジアリング汎用機械統括センター圧縮機 BU 設計部 関係者に感謝する.. 参 考 文 献 [1]. [2]. [3]. [4]. [5]. [6]. [7]. [8] [9] [10] [11] [12] [13] [14] [15]. [16]. [17]. 54. 上野一郎(監修),土屋裕(編集),中神芳夫(編集), 田中雅康(編集):「VE ハンドブック」,日本バ リュー・エンジニアリング協会(2008) 澤口 学,“日本企業が抱えるモノづくりに関す る課題と今後の MOT 教育のあり方”,技術と経 済,512,pp. 48-57 (2009) 田中雅康,大槻晴海,谷 彰三,田中 潔:「日 本の主要企業における原価企画の現状と課題 (第 9 回)」,日本経営システム協会 (2017) 堀埜一成:“VE で組織を変える,業界を変え る”,バリュー・エンジニアリング,No. 305, pp. 2-8 (2019) 日本バリュー・エンジニアリング協会東日本支 部・VE 推進部会 VE 教育研究会編:「VE リー ダーのための実践事例集」,日本バリュー・エ ンジニアリング協会(2008) 牧野公一:“製品改善のための VE 実施手順適 用上の課題”,バリュー・エンジニアリング, No. 303,pp. 10-13 (2018) 牧野公一,澤口 学:“製品改善設計時に有効な 機能分析方法の研究”,日本経営システム学会 誌,Vol. 32,No. 2,pp. 137-147 (2015) G.ナドラー:「ワーク・デザイン」,建帛社 (1966) 五百井清右衛門,黒須誠治,平野雅章:「シス テム思考とシステム技術」,白桃書房 (1997) 大藤 正:「QFD」,日本規格協会 (2010) 赤尾洋二:「品質展開入門」,日科技連(1990) 立林和夫:「入門タグチメソッド」,日科技連 (2004) Num Pyo Suh (中尾征之,飯野謙次,畑村洋太郎 共訳):「公理的設計」,森北出版 (2004) 溝口理一郎:“人工知能とは(30)”,人工知能 学会誌,Vol. 28, No. 3,p. 486 (2013) 笹島宗彦,來村徳信,池田 満,溝口理一郎: “機能と振舞いのオントロジーに基づく機能モ デル表現言語 FBRL の開発”,人工知能学会誌, Vol. 11,No. 3,pp. 421-431 (1996) Pahl, G., Beitz, W., Feldhusen, J. and Grote, K.H.: Engineering Design, Third Edition,Springer,p. 130 (2007) 小川 潔,加藤 功:「機構学」,森北出版 (1983). 日本経営工学会論文誌.
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